ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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キサラギ掃討作戦です。ゲーム本編とは依頼内容が変わります。
今回はバズーカと投擲銃装備です。
フレーバー程度ですので、武器以外は一切気にしなくても大丈夫です。

右腕部武装:CWG-BZ-50(50発バズーカ)
左腕部武装:KWG-HZL50(投擲銃)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:CWEM-R20(4発発射連動ミサイル)

頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:CLM-03-SRVT

ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)


キサラギ掃討阻止・1

「うむぅ、ついにキサラギ失陥か……まさか本社が直接襲われるとはの……」

 

昨晩依頼から帰還したストレイクロウの足元を、整備班が忙しく往来するACガレージ。

メカニックチーフを務める髭もじゃの老人アンドレイは、いつになく真剣な声で唸りながら備え付け端末を睨みつけていた。

 

「キサラギの管轄セクション……特に都市区は大パニックだろうな。今ごろ各支社の窓口に市民が殺到してるだろうよ」

 

ソラはアンドレイの隣でパイプ椅子に座ったまま、携帯端末からパーツカタログを確認していた。

ページをめくってはキサラギ製の主だったパーツを表示させ、片っ端から購入ボタンをタップする。

しかし。

 

「……ダメだ。やっぱりどれも購入不可能。当然か、本社が直接やられたんだから」

「三大企業の中でもキサラギは比較的歴史が浅い。MTやACパーツの独自路線、そして手段を選ばん工作活動で急速に伸びてきた企業じゃ。ミラージュやクレストよりも、本社への依存度が大きいのよ」

「前にチーフが言ってた通り、パーツの複数買いを始めていて正解だったな。ベテランの勘のおかげだ」

「結果的にはな。しかし流石のワシも、まさか企業の本社がやられてパーツが買えなくなるなど、つゆほども予想しとらんかったわ」

 

ソラとアンドレイはガレージの端に吊るされたAC用の火器を眺めた。

左腕部兵装の投擲銃"HZL50"だ。

愛機ストレイクロウが普段使いしているキサラギ製のパーツはこれくらいしかない。

だが、2丁拳銃においてACの火力を支える重要な武装だ。

溜まりつつあった資金を使い、複数個をあらかじめ購入していたが、どうやら無駄にはならずに済みそうだった。

 

「俺が使ってるパーツは、あの投擲銃以外ほぼミラージュとクレスト製だ。……チーフは今後、この2社についても同じことが起きると思うか?」

「どうだかのう。ミラージュとクレストの物流は、キサラギほど中央集権的ではない。だが、同じような事態がもし起きれば、分からなくなるな。本社機能がいきなり失陥するなど、未曾有も未曾有じゃからな」

「……それもそうだな」

 

ソラはアンドレイと席を入れ替わり、備え付け端末を叩いた。

キサラギ本社の壊滅を主に報道しているのは、いずれの企業にも属さない独立系の小規模メディア達だ。

肝心のキサラギ系の報道はというと、本社の状況には触れず、コールセンターへの誘導と支社における配給品の提供、そして各種市民サービスの規模縮小と打ち切りを伝えるニュースがひたすら繰り返されている。

それはもはや報道の体をなしていない。壊れたラジオのように、同じ内容を機械音声が何度も垂れ流しているだけだ。

 

「企業がやられるってのは、こういうことか……」

「代表が行方不明になった割に、末端の動きはしっかりとしとるな。最低限生活に必要なインフラと流通の維持のみにマンパワーを絞れば、支社の裁量でもある程度はやっていけるんだろう。ある程度は、な」

「……この機に乗じてミラージュとクレストがキサラギの管轄区を奪い取る可能性は?」

「ないな。それどころじゃなかろう。管理者の部隊はレイヤード全土で満遍なく暴れとるからな。奪い取っても維持する余力がないわい。まあ、生き残ってる支社や工場にちょっかいをかける程度じゃないか?もう少し現状が落ち着かんことにはな……」

 

ソラは適当に報道のチャンネルを切り替えていった。

ミラージュ系もクレスト系も第一に報じているのは、市民サービスの縮小についてだ。

最近頻発している実働部隊の襲撃行為は兵器産業のみならず、レイヤード市民の日常生活への影響も計り知れないものがあった。

地下世界最大の企業であるミラージュすら、多数の生産施設や管轄居住区に大打撃を負い、企業活動の停滞を余儀なくされている。

キサラギは本社が壊滅し、支社がぎりぎりのところで市民への応急対応をしているのが現状だ。

そして、クレストにあっては、先日の水浄化施設の壊滅による、都市区への生活用水供給の大幅低下。

 

「……昨日の浄化施設の一件は、残念じゃったな」

「俺達が帰還した直後を狙われたんだ。どうしようもなかった」

「まったくだの。あんな襲撃の仕方をされれば、どんなレイヴンでも対応のしようがあるまい」

「まさか高性能MT25機が丸々囮だったなんてな。あれの相手だけでも、相当消耗してた。仮にもしあの後、本命の登場まで俺達があそこで待ち構えていられたとしても、結果は大して変わらなかったろうよ」

「アンタが死ななかっただけマシだった、というところかな」

「……やりきれねえがな。結局都市区への悪影響は甚大だ」

 

メカニックチーフの言う通りだった。

防衛作戦が終了して帰還した直後を襲撃してくるなんてやり方をしてくるならば、実質実働部隊に抗する手段はない。

元々、連中がどこから沸いてきているのか、どれほどの総戦力を抱えているのかも不明なのだ。

となればまさに絶望的な防戦を、企業もコーテックスも強いられ続けることになる。

そしてそれがいつまで続くかも分からない。

だが、レイヴン達がいつまで持ちこたえられるかは、決まっている。

ソラは携帯端末を弄り、レイヴンの開示情報を確認した。

 

「……あと、30人ちょっとか」

 

ソラがレイヴン試験に合格した当時、レイヴンは50人はいたはずだ。

レイヴンは戦死すれば、新たな適性者が選抜されて補充されるため、本来はそのくらいの人数が常時いるはずなのだ。

だが、停電と同時期に起こった生態系異常による正体不明生物への対処。

クレストとユニオン・キサラギを巡る大規模戦闘の連続。

現状の管理者の部隊との度重なる各地の争乱。

それらの事象が連続して起きた故か、開示情報を調べて出てくるレイヴンは30人強しかいなかった。

そして、管理者者命令によってレイヴン試験が停止されたため、これ以上レイヴンが増えることはない。

 

さらに、実力的にいえばEランク、Dランクのレイヴンは、先日のアスターのように管理者の部隊との戦闘で死亡する可能性が高い。

Cランク以上でも、敵の物量や状況次第では戦死のリスクは大きいだろう。

レイヴンの数は即ち、人類が運用できるアーマードコアの数と同義だ。

通常兵器だけでは管理者の高性能MTと満足に渡り合えない以上、レイヴンとアーマードコアはこれまで以上に重要な戦力とされるのが目に見えていた。

そしてそれは、状況の打開のために積極的に投入せざるをえない戦力でもある。

その数が、残り30と少し。有限にもほどがあった。

レイヴンが死に絶え、企業が窒息して人類の牙が折れるのが先か、管理者の暴走が止まるのが先か。

この非常事態の先を見通せば、どうしてもそういう話になってくるのだ。

もしこのままレイヴンが消耗して数が減っていっても実働部隊の暴挙が続き、人類の存続に必要な施設が破壊されていくとすれば――

 

「……あまり気負いすぎるなよ。お前さんは来た依頼をこなす、それだけ考えてればええんだ」

「ありがとう、チーフ。分かってるさ。分かってるけど、な……」

「……ええーい!なんかこう、心躍るようなニュースはないんか!面白いバラエティもやっとらん!どのチャンネルも辛気臭い内容ばかり流しよってからに!」

 

白髭を大げさにもじゃくり、チーフがでたらめに備え付け端末を叩き始めた。

どこかコミカルなその仕草に、ソラは笑みをこぼした。

オペレーターといい、メカニックといい、自分は少なくとも周囲の人物には恵まれている。

それを感じるだけでも、気持ちの沈みは和らいだ。

 

「……お、クレストの広報チャンネルが。…………はぁ~~、バッカじゃなぁ。ユニオンがどうのキサラギの関与がどうのと騒ぐ段階はとうに過ぎとろうに……」

 

アンドレイが目をつけたのは、クレスト系の報道の1つだった。

報道内容は、この期に及んでなおキサラギがユニオン残党を匿っていると喧伝するものだ。

 

「……グラン採掘所に、キサラギ本社防衛部隊の残党が集結を開始。同じく先の掃討作戦で打撃を負ったユニオンと合流すると見られる。地下世界の混乱の発端となった非合法組織を未だに支援する同社の姿勢はもはや擁護のしようもなく、秩序を乱すこの逸脱行為に対してクレストは再び掃討作戦を……」

「やっとる場合か。ただでさえ戦力が削られていっとる状況にあって、もしまた作戦中に管理者の部隊が乱入してきたら、とかワシでも思いつくがの」

「停電やセクション封鎖から続く現状の混乱は、ユニオンに原因がある。クレストがずっと主張してきたことだ。今さらやめられないんだろ。あわよくば、キサラギにトドメを刺せるかもしれないしな」

「馬鹿な。キサラギにトドメを刺したら、キサラギ管轄のセクションはどうなる?支社の機能までもが止まればそれこそ、市民はそのまま野垂れ死に確定じゃ。どれだけの数が死ぬか想像もできんぞ」

「…………」

「クレストは現実が見えとらん。今はユニオンなんてどうでもよかろう。今は暴れ回っとる連中にどう立ち向かうかを考えるべきじゃ」

 

アンドレイの言うことはもっともだった。

だが、それでもクレストがユニオン撲滅に動くのは何故か。

ずっとずっと、クレストはレイヤードの異常事態はユニオンに原因があると主張し続けてきた。

それはもしかすると、一種の願いというか、希望的観測なのかもしれない。

ユニオンさえ滅ぼせば、管理者が全てを許してくれるかもしれない、と。

生贄を差し出せば、暴れ狂う地下世界の神が怒りの矛を収めてくれるかもしれない、と。

だが、ソラにはそうは思えなかった。

ユニオンが消えてそれで全てが収まる気が、まったくしないのだ。

それはなぜだろうか。

 

「チーフ、これは独り言なんだけど」

「…………」

「際限なく沸いてくる管理者の部隊に対処していって、頑張って迎撃して、ぶっ倒して、それでも結局攻撃を止められなくてって。そんなことがいつまで続くんだろうな」

「…………」

「実働部隊の戦力が尽きるまで?管理者の機嫌が直るまで?管理者の機嫌が直ったら、またレイヤードは平和になるのか?企業やコーテックスや市民は立ち直れるのか?それとも、もう管理者はこのまま……」

 

ソラは小さく息を吐いた。

 

 

「俺達人間は管理者無しじゃ、生きられないのかな」

 

 

瞬間、アンドレイが今まで見せたことのない表情でソラを見た。

それはまるで、親とはぐれて不安に怯える迷子のような顔だった。

その揺れる眼差しと食いしばった歯の意味するところが、ソラには痛いほどよく分かった。

 

だが。

 

"脱管理者"――今になってユニオンの思想が、ソラの頭の中にそれなりの形を持って浮かぶようになっていた。

 

 

………

……

 

 

「依頼が複数同時にだって?」

《はい。ミラージュからは、キサラギの主要工場の襲撃。クレストからは、キサラギ掃討への参加。キサラギからは、クレストの掃討部隊の迎撃がそれぞれ依頼されています》

「参ったな……」

 

ソラは携帯端末でレインと話しながら専用住居を出て、併設されているブリーフィングルームへと入った。

端末の電源を入れ、送られてきた依頼を全て確認する。

 

「全部、実働部隊とは無関係の企業間抗争か。本当に飽きないな。こんな時でもこれかよ」

《……キサラギが本社機能を失った直後です。ミラージュもクレストも見逃さずにしかけてきましたね。特にクレストは、ユニオンとキサラギを同時に叩ける好機だと思っているでしょうから》

「ユニオンを、な……」

 

クレストの依頼メッセージはやはり、ユニオンの狂った暴挙とそれを支援するキサラギに終止符を打つと息巻いていた。

一方でミラージュはあくまで冷徹に、キサラギの混乱につけ入るという言い回しだ。

しかし、ソラの目を一番引いたのはキサラギのメッセージだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

グラン採掘所最奥に集結した、我が社とユニオンの勢力の防衛を依頼したい。

知っての通り我々キサラギは先日、本社を管理者の部隊によって壊滅させられ、既に企業としての力の大半を失いつつある。

この採掘所の死守は、我が社の存続のために必要不可欠だ。

ユニオンにとっても、これ以上打撃を受ければ後がない現状がある。

 

そこで、レイヴンには採掘所内の特定ルートにて待機し、クレストの掃討部隊の主力を迎撃してもらいたい。

クレストも先の特殊実験区での大規模戦闘や、連日の管理者の部隊への対応でかなり疲弊しているだろう。

投入される戦力は、精鋭部隊とレイヴン数名程度だと予想している。

こちらも本社の精鋭に加え、信頼に足るレイヴンをもう1人雇っている。

上手く協働して、なんとかこの攻勢を凌いでほしい。

 

この戦いを持ちこたえ、我々キサラギは企業として再起を図る。

ここで大人しく潰えるつもりは、決してない。

そのためにも、優秀なレイヴンである君の力を貸してほしい。

 

なお、君個人に対して、ユニオンの指導者から言伝を預かっている。

作戦終了後に、それについても話をしたい。

 

依頼の受諾を待っている。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

《これはキサラギ社からの依頼ですね。作戦領域は第三層産業区セクション554のグラン採掘所。成功報酬は80,000Cとなっています。予測戦力は、クレストの精鋭部隊とAC複数です》

「ユニオンの指導者からメッセージ?レイン、何か補足は?」

《いえ、この件については何も……そもそも、こういう個人的な伝達事項を依頼文に載せること自体があまり例のないことですが》

 

ソラは腕を組み、頭をひねった。

キサラギはまさに存亡の瀬戸際だ。

正体不明生物の一件で最精鋭と協働し、ユニオンとも複数回手を組んだ経験のあるソラを、何としても戦力として確保したいという想いがあるのだろう。

それがこういう関心を引くようなメッセージの書き方をさせたのか。

そして、もしこの内容が本当だとして、ユニオンの指導者がソラに何の用件があるというのか。

 

だが、いずれにせよキサラギにもユニオンにもこのまま消えてほしくはないという気持ちがソラの中にはあった。

アンドレイが言っていたように、ここでキサラギが完全に潰れれば、間接的にレイヤードにどれだけの被害が出るのか分かったものではないのだ。

キサラギ製のパーツだって、恒久的に手に入らなくなる可能性がある。

 

そして、ユニオンだ。

これまでの戦いで手を貸してきた以上、その努力が全て無駄になるのは惜しい。

現状を打破しようとあがいている彼らにまだ存続していてほしいとは、ソラも強く思っているのだ。

少なくとも消える前に、自分の今までの協力に値するだけの成果を何か示してほしかった。

となればやはり、言伝とやらの内容が気になるところである。

 

「キサラギの依頼を受ける。グラン採掘所の防衛だ。レイン、手配を」

《分かりました。……ユニオンは一体、レイヴンに何を伝えるつもりでしょうか?》

「さあな。気を引くためのフカシじゃないことを祈ろう」

 

ソラはレインに応じながら、目を閉じた。

嫌な感覚が身体を包み込んでいた。

それは"何か"に見られているような、じんわりとした圧迫感だ。

この感覚を味わうのは、もう一度や二度のことではない。

ゆっくりと目を開いて、ブリーフィングルームの天井を睨みつけた。

その天井の上、遥か上には偽物の空がある。

そう思うと、"何か"の視線が重みを増す気がした。

その"何か"が何なのか、本当は分かっていた。

だが、あえて深く考えなかった。

どうせ、これから向かう戦場にもそれの手先がやってくるのだ。

ソラは根拠もなく、確信していた。

無意識に震える手を、ぎゅっと握りしめた。

 

 

………

……

 

 

作戦領域に指定されたグラン採掘所は、これまでミラージュとキサラギの間で熾烈な奪い合いが繰り広げられてきた場所だった。

ソラ自身、新人レイヴンだった頃からその紛争に複数回加担している。

キサラギの作業員を作業現場から追い出したり、かと思えば今は亡きデルタ1達キサラギ特殊部隊の脱出を支援したり、ミラージュの誘引作戦にリップハンターやファンファーレと参加したり。

当然ソラが関与していない戦いも、採掘所では今まで何度も起きてきたことだろう。

貴重な資源であるレアメタル鉱を採取できる現場は、企業にとって喉から手が出るほど欲しい場所なのだ。

結局、企業間の長きに渡る争奪戦はキサラギの大胆な奇策によって決着し、グラン採掘所はキサラギ管轄となった。

 

そして今。

この重要拠点にはキサラギの本社勢力がユニオン残党と共に身を寄せ、クレストの掃討部隊がそれを撃滅しようと麓の連絡路を包囲していた。

 

《コードキー入力。ゲートを開放します。レイヴン、ここをマップデータの通りに進めば、キサラギの指定した合流ポイントです》

「了解……鉱山への侵入路はとっくに調べ尽くされたと思ってたが、まさかまだ秘密のルートがあったなんてな」

《ああ。近隣のセクション連絡路と直結する抜け道とは、考えたものだ》

 

ACがようやく通過できるほどの狭く荒れた通路をブースタを小刻みに吹かして走行しながら、ソラは協働相手のレイヴンと通信を交わした。

淡緑の逆関節AC"インソムニア"を駆るD-3ランカー"クライゼン"だ。

クライゼンはぐねぐねとした複雑な隠し道をマップデータ頼りに進むストレイクロウの背後に付かず離れず、適切な距離を保って巧みに追走してくる。

窮地にあるキサラギがこの局面で頼りにするだけはあり、確かにランク以上の実力を感じさせた。

作戦開始前にレインから聞いた情報によれば、クライゼンは現在最低限しか活動していない、半ば引退したレイヴンであるらしい。

かつてはとあるレイヴンとバディを組み、現場重視の傭兵として上位ランカーにも匹敵する評価を得ていたという。

 

「……インソムニア。あんたキサラギとは長いのか?」

《急にどうした?》

「いや、キサラギが信頼に足るレイヴンだってあんたを褒めてたから」

《……連中がまだよちよち歩きの新興企業だった頃に、色々と面倒ごとをな。こんな時勢で今さらまた頼られるとは、思っていなかったが》

「キサラギが新興企業だった頃?……いつからACに乗ってるんだ」

《言うな。もう老兵の部類だ、俺も。……まあ、BBよりは若い、とだけ言っておこう》

「……そうか。すごいんだな、あんた」

《そろそろ合流地点だ。集中しろよ、ゴールデンルーキー》

 

2機のACが狭い通路を進んだ先には、開けた空間があった。

見慣れた重機や大型クレーンが立ち並ぶ、グラン採掘所の作業現場だ。

出迎えたのは、十数機の四脚型高機動MT"クアドルペッド"。

いずれも正体不明生物駆除作戦で見かけた、特務仕様の大型機体だった。

かつてソラと共に戦ったキサラギの最精鋭"デルタ1"はこの機体を同社の虎の子だと言っていたが、それがこれだけの数投入されているのは、まさに正念場を思わせた。

 

《来たな。協力に感謝するぞ、レイヴン達。……クライゼン、アンタとまた同じ戦場で戦えるとはな。長生きはするもんだ》

 

通信を繋いできたのは、十字のラインマーキングが施された隊長機である。

貫禄のあるしわがれた声は、過去の栄光を懐かしむような色を帯びていた。

 

《本社お抱えの精鋭部隊"スキュラ"共か。昔話をしに来たわけじゃない。早く始めるぞ》

《そうだな。最新のマップデータを送る。差し替えてくれ》

 

精鋭部隊"スキュラ"の隊長機から送信されてきたマップデータが、ソラの眼前のコクピットモニターに大きく表示される。

網の目のように複雑なそのデータ図が依頼受諾時に送られてきたものと違うのは、連絡路が片っ端から潰されている点だった。

 

《クレストの襲来に先んじて、我々は鉱山内部に通じる侵入ルートを徹底的に破壊した。×印のついているルートは全て崩落し、今回の戦闘では使い物にならない》

「×印のルートはって……ほぼ全てじゃないか」

《そうだ。生かしているのは3つだけ。それも道中に小細工を大量にしかけてある。クレストの侵攻経路はこれ以外にない。連中も今ごろそれに気づき、部隊を再編制している頃だろう》

「待てよ。逆にこのルートを外から破壊されたら危険じゃないか?」

《心配はいらない。グラン採掘所は今回のような事態に備え、かなりの期間を費やして要塞化を施してきた、我々キサラギの最終拠点だ。レイヴンに提供しているルートデータも、今回の作戦に関係する場所以外は省いてある》

「……なるほど。道理でミラージュが戦力を大量投入してもここを奪えなかったわけだ。だけど、この他にも秘密のルートがあるならどうして正面のルートをわざわざ3つ生かしているんだ?全部潰せば、クレストはそれで諦めて帰るんじゃないのか?」

《目に見えている侵入ルートを全て潰せば、他にも抜け道があると教えるようなものだ。クレストに鉱山の周囲を探られるのは、それだけでリスクになる。それをさせないためにもルートをあえて限定して侵攻させ、完膚なきまでに撃退して戦力を削ぐ。そうすれば、管理者の部隊の襲撃が相次いでいる中で長期間採掘所攻略にこだわるのは、奴らも避けるだろう。短期決戦に仕向けるのも、狙いの1つだ》

《まあ、キサラギの企み癖は今に始まったことじゃない。ならばレイヴンとしてはシンプルに考えるだけだ。ここに集ったメンバーで協働し、3つのルートでクレストを撃退すればいい。そうだな?》

 

クライゼンの問いかけに、キサラギの精鋭部隊長は短く、その通りだと答えた。

 

《クレストの戦力は偵察で分かっている。精鋭MT部隊約20機と、自社派閥のランカーACが2機だ。これ以上の戦力投入はおそらくない。グラン採掘所は我々の城だ。雑兵を送り込んでも大量にしかけられたトラップの餌食になると、連中も理解しているだろう》

「ACは2機だけか。思ったより少ないな」

《前回のユニオン掃討作戦の失敗から立ち直りきれてないのに加え、管理者の部隊の襲撃は今この時も続いているからな。それでも投入されているのは、クレスト寄りとしてはほぼ最高ランクのレイヴンだ》

《1人は分かりきっている。B-5サイプレス……"テン・コマンドメンツ"だろう。……もう1人は?》

《……C-2ストリートエネミーの"スタティック・マン"だ、クライゼン》

《…………そうか》

 

クライゼンの息をひん呑むような呻きが、通信機から伝わってきた。

 

「スタティック・マンか……確かに今まで何度も聞いた名前だ。MT部隊の相手はあんたらキサラギの精鋭がするってことでいいんだな?」

《ああ、そのつもりだ。後はACの分担だが……》

《……スタティック・マンの相手は、俺だ。ストレイクロウ、お前は……》

「了解した。テン・コマンドメンツは俺がやる。キャリアはともかく、レイヴンのランクは今のあんたより俺の方が上だからな。それに奴には1回勝ってる。今度こそ仕留めてやるさ」

《……すまんな、すまん》

 

先ほどまでの歴戦の貫禄が嘘のように、クライゼンはぼそぼそと小声で謝った。

後ろめたさと諦観を伴ったような声音だった。

スタティック・マンのレイヴンであるストリートエネミーと、過去に何かがあったのだろうか。

だが、ソラがそれを問いただすより先にクライゼンは態度を切り替え、キサラギの隊長と細かな迎撃プランの打ち合わせに取り組み始めた。

一瞬見せた脆さが嘘のように、毅然とした傭兵の在り方に戻っていた。

だから、ソラもあえて何も聞かずに打ち合わせに加わった。

長く戦場にあって、そして今は半ば引退していたというのは、それだけ多くのしがらみを背負ってきたが故なのだろう。

それは仕方のないことだ。命のやり取りの場にまで引きずらなければ、誰にも責められる謂れはない。

 

《ストレイクロウ、君の担当ルート上には、連絡橋がある。鉱山内の深い縦穴をまたぐ橋だ。ACからすれば少々手狭かもしれないが、迎撃には最適な場所だ。落ちないように気を付けてくれ》

「逆にそこに敵を落とせば、あっという間に決着がつけられるな。やってやる」

《気負うなよ。防衛戦は、撃破しなくても撃退すれば勝ちだ》

《……レイヴン達、よろしく頼んだぞ。キサラギの命運が、この戦いにかかっている。必ず勝利を!》

 

作戦行動が始まった。

特務仕様のクアドルペッド達が四脚を滑らせ、正面のゲートから坑道に飛び出していく。

最後に残った隊長機も、2機のACにまるで頭を下げるように身じろぎした後、ゲートに向かい始めた。

 

《……担当するACを退けたら、そのままMT部隊の支援だ。スキュラが抜かれれば、キサラギには後がないからな。テン・コマンドメンツが相手とはいえ、AC戦の手助けをしてやる余裕はないぞ。分かっているな、ルーキー》

「分かってるよ。手助けが出来ないのはお互いさまだ。あと俺はルーキーじゃない。もうC-1まで来たんだぞ」

《だが、まだ若い。だからルーキーはルーキーだ。まだまだ、高く飛ぶんだろう?》

「……ああ、そのつもりだ」

《やるぞ。死ぬなよ》

「そっちも」

 

ソラはクライゼンのインソムニアと別れ、担当するルートへと続くゲートをくぐった。

ストレイクロウのブースタが、普段より力強く炎を噴き出しているようだった。

老兵の言葉が、ACの背中を押してくれていた。

 

 

………

……

 

 

《インソムニア、スタティック・マンと交戦を開始。……悪く思うなよ、ストリートエネミー》

《レイヴン、こちらも来ました!》

 

クライゼンとレイン、2人の緊張した声が、通信機からコクピット内に響く。

ストレイクロウがバズーカと投擲銃を向けたその先で、ゲートが轟音と共に吹き飛んだ。

黒々とした爆煙がもうもうと湧き立ち、ソラの待ち構える連絡橋にまで一気に広がってくる。

少しの間を置き、ガードメカと思しき残骸が乱暴に投げ捨てられて、ストレイクロウの足元に転がった。

薄らいでいく煙の奥に、フロート型ACのシルエットが浮かび上がる。

 

《くたばり損ない共が。こんな洞穴にコソコソ隠れてまで、管理者の裁きを逃れようとはな》

 

通信機のスピーカーから嘲笑の声が溢れ出す。

 

《見苦しい》

「キサラギもユニオンも、あんたにだけは言われたくないだろうよ」

 

かつて雨降る戦場で取り逃がした管理者の信奉者。

侵攻してきたクレストの尖兵たるその上位ランカーに向けて、ソラは毒を吐いた。

 

「くたばり損ないはあんたの方だ、テン・コマンドメンツ」

《あの"雨"が、管理者の導きが、俺を生かした。今日この日の為……そしてこれからやってくる、選ばれた者だけが生き残る新時代の為にな。裁きの時は近い。だがその前にお前は俺の手で、このレイヤードから消し去ってやる》

 

赤いフロートが肩のチェインガンを起こし、その長大な砲身をストレイクロウに突きつける。

 

「何度やっても、結果は同じだ」

《ふん。口先の切れ味だけは、トップランカー気取りか?》

 

不毛な舌戦をやめ、ソラは何の予告も無しに両手のトリガーを引いた。

バズーカ砲弾と投擲榴弾が砲声を轟かせ、不遜な獲物へと襲いかかる。

当然のように躱したテン・コマンドメンツは、そのまま連絡橋のかかる縦穴を、ブースタで上昇していく。

数瞬の間を空け、チェインガンが徹甲弾を撃ち下ろし始めた。

 

「もう見飽きてんだよ、その手品は!」

 

熟達の技量による空中からの連射を、ソラは橋の上で不規則に飛び跳ねるようにやり過ごしつつ、高火力の2丁拳銃で反撃する。

AC同士がなんとか戦闘できるほどの広さがあるとはいえ、戦場は上下に長い縦穴と連絡橋だ。

リスクを取って空中から攻めてくる敵は、一度橋の下に落とせばそれだけで仕留められる。

撃ち落とせばいいだけだ。フロートの高機動も、滞空状態では活かしきれない。

ソラはACを細かく前後左右に振り回しながら、ひたすらにトリガーを引き続けた。

やがて、砲撃と被弾の反動を殺しきれなくなったテン・コマンドメンツがよろよろと高度を下げ、なんとか橋の上に着地した。

絶好の攻め時。ソラはフットペダルを踏み込み、ブースタを全開にして大きく機体を前進させた。

 

「ジャングルとは訳が違うぞ、観念しろ!」

《クソガキが!俺の力をまだ分かっていないようだな!》

 

張りついて旋回戦をしかけようとしたソラの動きに対し、テン・コマンドメンツはオーバードブーストを起動した。

猛烈な加速でストレイクロウの脇をすり抜け、そのまま連絡橋の奥へと突き進んでいく。

橋の突破を許しては中量二脚ではフロートに追いつけない。

ソラは180度旋回し、急いでオーバードブーストで敵を追った。

だがその眼前で敵ACは突如急制動をかけ、一気に後退。

再びすれ違うようにして、わざとソラに追い抜かせた。

結果、ストレイクロウは無防備な背中を、敵のチェインガンの前にまんまと晒してしまった。

 

《死ね》

 

後方から吹き荒れる弾幕が、防御スクリーンをゴリゴリと削っていく。

ソラは歯を強く食いしばり、ACの脚を橋の外へと投げ出させた。

なんとか橋板の下をくぐり抜けつつ旋回し、敵機の背後を取るためだ。

しかしレーダーでその動きを看破したテン・コマンドメンツは、橋上に浮上してきたソラを、銃口を向けて待ち構えていた。

 

「……っ!」

《さっきまでの威勢はどうした、Cランカー!》

 

テン・コマンドメンツのレイヴン"サイプレス"の実力とセンスは、やはり本物だ。

ユニオン防衛では不安定極まりなかった地上付近でのチェインガン連射を今回はそつなくこなし、それでいて地の利をソラから巧みに奪い去って苛烈に攻め立ててくる。

ソラもバズーカと投擲銃を必死に撃ち返すも、横幅が強く限定される橋の上での回避能力は、フロートに軍配が上がる。

左右にスライドするような高速のブースト移動を連発しつつ、ひたすらチェインガンの瞬間火力を押し付けてくる動きが、とてつもなく強い。

ミサイルを束ねて撃つ余裕すらない。

熾烈な射撃戦で、APがあっという間に7000を下回る。

どれだけ器用に飛び跳ねても、この狭い戦場でチェインガンを回避しきるのは不可能に近かった。

 

《さっさと死に腐れ!》

「死ぬのはてめえだ、イカレ野郎!」

 

暴言に暴言で返しつつも頭を冷やし、ソラは集中力を高める。

機動性と連射力は敵に分があっても、こちらも攻撃を当てられていないわけではない。

元々、フロート型の方がAPは低いのだ。

それに地上付近でのチェインガンの運用は空中のそれよりも遥かに繊細だ。

砲弾を当てれば、とりあえずは射撃の手を鈍らせることができる。

連射をまともに貰わないように集中して射線を見切り、ロックサイトに捉えた相手に確実に砲撃を命中させる。それしかない。

オーバードブーストでの強襲も張りついての旋回戦も、テン・コマンドメンツほどの実力者には何度も通用するまい。

失敗して先ほどのような隙を晒せば、ダメージレースで致命的に不利になる。

有効な打開策も思い浮かばない以上、この泥沼の削り合いに競り勝つほかなかった。

深い縦穴に砲撃の轟音が滅茶苦茶に反響し、連絡橋が流れ弾で何度も振動した。

モニター上部に表示されたAPが、5500を切った。

その時だった。

 

ズドンッ。

 

《!?》

「!?」

 

焼け焦げたゲートの奥から火球が高速で飛来して、テン・コマンドメンツの背中に直撃した。

撃ち合いが止まり、2人のレイヴンの思考回路がスパークする。

 

――クレストの裏切り?そんなはずはない。最重要戦力である俺を切り捨てるわけがない。

――インソムニアが合流してきた?いや違う。もしそうならば、採掘所の奥から来るはずだ。

 

――ならば。まさか。

 

その"答え"は、すぐに姿を現した。

それは、アーマードコア。

かつてソラがルグレン研究所で戦った、そして先日キサラギの本社を襲った、あの未登録機体だ。

出撃前の予感は、やはり現実のものとなったのだ。

 

《レイヴン、キサラギ精鋭部隊より通信です!管理者のMT部隊がクレストの後方から突如出現!無差別攻撃を開始!!》

 

レインの通信に合わせて、再度グレネードランチャーの火球が放たれた。

ストレイクロウもテン・コマンドメンツも、咄嗟に橋上から飛翔して離脱する。

次に通信機から聞こえてきたのは、狂ったような笑い声だった。

 

《来たぞ、来たぞ!裁きの時だ!管理者の力を思い知れ、不届き者共……っ!!?》

 

吼える赤いフロートの周りに自律砲台が複数放たれ、全方位からレーザーを乱射し始めた。

 

《な、なぜだ管理者!?俺は貴方に選ばれ……こ、こんな、待ってくれぇっ!!》

 

さらにレーザーライフルとイクシードオービットの火線が殺到した。

テン・コマンドメンツは言葉にならない絶叫を撒き散らしながら吹き飛び、鉱山の縦穴の奥深くへと墜ちていった。

 

《……こちらインソムニアだ。ストリートエネミーは、殺した。……スキュラ達の援護に向かう》

《レイヴン!一度撤退し、インソムニアやキサラギと合流を!》

「こいつに追われながら?……無理だな」

 

珍しく切羽詰まった様子のレインにそう返し、ソラは自分の頬を殴りつけた。

鉄の味がじわりと口内に広がり、状況の急変で沸騰しかけていた脳を一気に冷却する。

敵ACが一歩、また一歩とブースタも吹かさず、まるで威圧するかのように橋の上を歩み寄ってくる。

ルグレン研究所の戦いでは、レイヴン3人がかりで刺し違えた相手だ。

だが、今はソラ1人。

だが、あの時とは違う。

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

幼き日の、呪いの言葉が蘇り、鼓膜を確かに震わせた。

しかしそれすら、今のソラにとってはレイヴンとしての"意思"と"力"を産む源だ。

ここまで必死に飛んできた。これからも、高く飛ぶのだ。いつか、本物の空に辿り着くまで。

こんな所で、薄暗い洞穴で、いや、偽物の空の下で、ただ虚しく死んで終わるつもりなどない。

 

AP、残り5300。

ソラは目の前の敵を見据えて、気を吐いた。

 

「……来いよ。あの時とは違うぜ」

 

管理者のACが、肩のオービットキャノンをゆっくりと、展開した――

 

 

 




テン・コマンドメンツは今回で退場になります。
キャラ付けの脚色が大きい本作ですが、彼については特に意識的に極端なキャラにしていました。
彼がどうなったかはサイレントラインをプレイすると分かります。
3系でも特にストーリー性があって好きなキャラでした。
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