ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
「この速度で最低出力クラスなのか?」
ソラがレイヴンになって2日目の朝は、テスト場でACを乗り回し、ガレージでメカニックと対話することから始まった。
「初期配備ACのブースターは"UN1"つってな。AC開発の黎明期に作られた骨董品じゃ。当然、出力も燃費も劣悪よ」
「……それでも、スクータムよりよっぽど速度が出るし、燃費もいいし、機敏だ」
「お前さん、元MT乗りなんだってのう?先入観がある分、ACの機動性に慣れるのには苦労するかもなぁ」
ソラは本社近くのテスト場からガレージに帰還した後、コクピットシートに座ったまま、メカニックチーフと話した。
何の目標設定もない開けた空間でACを動かしただけだったが、やはりその速度には舌を巻いた。
ただの歩行で重装MTのブーストと同等の機動力、ブースターを吹かせば1秒足らずで時速280km前後に達する。
これで、中量二脚型ACとしては最低限の機動性能だと言うのだ。
ACが最強の機動兵器と言われる理由が、実感としてよく分かった。
「ACを戦場で見かけたのは、味方として1度だけだったがな。喧嘩しなくて、よかったよ」
「速度に馴染めないのなら、思いきってタンク型にするのも全然ありじゃ。今の脚部を売却すれば、安いタンクパーツくらいなら買える」
「……いや。いくつか依頼をこなすまでは、この二脚構成のままだ。一番基本的なACも扱えないようじゃ、先が思いやられるだろ?」
「そうかいそうかい。まあ、せいぜい悪戦苦闘するこった。わっはっは」
メカニックチーフのアンドレイはしわくちゃ顔を歪めて笑い、伸び散らかした自身の白髭をわしゃわしゃとしごいた。
コーテックスの整備士としてはかなりのベテランらしい。
ACのパーツに関する知識も豊富で、各部位の説明も分かりやすくしてくれた。
整備士にありがちな職人気質というわけでもなく物腰もフランクで、整備に関しては頼れる味方になりそうだった。
それにどことなく、MT乗り時代の先輩であるスパルタンに雰囲気が似ていて、接しやすい。
「それで、チーフ。初日からさっそく無茶を頼みたいんだが」
「おう、なんじゃ?パーツを買う金なら貸さんぞ。レイヴンなら手前で稼ぐんじゃな」
「違うよ。操縦系を、スクータムに似せられないか?」
「ほう……」
アンドレイが興味深そうに唸った。
先日の試験と先ほどのテストでACを動かして、ソラが一番気になったのは、やはり機動性と操縦性だ。
スクータムに乗っていた頃との違和感は、この2点が一番大きい。
これらさえクリアできれば、MT時代の経験がある程度は活かせそうだった。
「計器や操縦桿の配置を変えてくれとは言わない。ただ、少しでもスクータムに操作が近くなれば……」
「簡単なこった。システムをアサインモードに切り替えてみい。それで機器や操縦系の操作方法をある程度調節できる」
「へえ、できるのか……ダメ元のつもりだったが」
「お前さんみたいなこと言うレイヴンは結構おるわい。当然、対応できる仕様になってる。管理者サマも気が利くわな」
ソラはアンドレイの言う通りに、コンソールを操作した。
モニター上にコクピットを再現した3D映像が表示され、各部の操作方法を調節できるようになった。
流石に操縦桿の位置までは変えられないものの、相当の融通が利くようだ。
「……チーフは、ここで長いのか?」
「見りゃ分かるじゃろ、このご立派な白髭をよ。コーテックスでAC弄って、酒かっくらって数十年よ」
「このセクション301に住んでるのか?」
「当たり前じゃ。あの丘の上のデカい本社ビルがそのままワシらの家よ」
「あれが?」
「うむ。コーテックスの職員は基本的にあそこに住んどる。無駄にデカくて高層建築してるわけじゃないぞ。あらゆる施設が入っとるんじゃ、あのビルは。映画館や呑み屋だってある」
「……レイヴンほどじゃないが、コーテックス職員もやっぱり良い暮らししてるんだな。まあ、市民の噂になるくらいだからな」
「そうは言うがの、ワシもわけえ頃はしこたま苦労したもんよ。ミラージュのお膝元でバリバリやってな。キャリア重ねて、管理者サマのご指名獲得よ」
アンドレイは誇らしげに白髭を手櫛で梳いた。
感慨深げに唸り、胸を張ってにんまりと微笑む。
「メカニックも、管理者が選ぶのか?」
「ワシらだけじゃないぞ?美人揃いのオペも単なる事務員も、コーテックス職員は皆、管理者が直々に選んどる。基準は……そうじゃな、とびきり有能なことだろうの。ワシみたく」
「へえ、そりゃ頼りになるな。じゃあ俺も、管理者から見てとびきり有能だったってことか」
「さあのう?お前さんの前にここを使ってたレイヴンは、すぐ死んだ。3回目の出撃でベテランのレイヴンとかち合って、終了よ。その前の奴はそこそこ長いことやっとったが、大規模作戦で無茶して逝っちまった」
「……そうかよ」
「お前さんは、どうだろうな?」
「心配しなくても、すぐ死ぬ気はねえよ。チーフの方が先にぽっくり逝くかもな」
「わはは。言うのう。レイヴンはそうでなくちゃの」
アンドレイと他愛もない会話をしながら、ソラはスクータムの操作系を思い出して、各操作方法を弄っていく。
戦場に出れば、"待った"は無しだ。このガレージの中で少しでも、自分のACを使いやすくする必要があった。
「そうじゃレイヴン。肝心なことをまだ聞いとらんな」
「なんだよ?」
「この機体のお名前じゃ。もう決めたか?格好のつく奴をよ」
「…………」
コンソールを叩きつつ、ソラは答えた。
「"ストレイクロウ"」
「……迷い烏?縁起でもねえ名前じゃな。それに"クロウ"ってのは……」
「いいだろ、別に。詮索はよしてくれ。もう決めたんだ」
「まあ……ACの名前なんて何でもいいがの」
自分で聞いておいてこの白髭の爺は、何ということを言うのだろうか。
ソラは少しむっとしたが、それ以上の応酬はしなかった。
「……よし、弄り終えた。これでもう1回、テストに出る。いいよな?」
「おう、気が済むまでやってくれ。戦場で後悔しないようにな。それに……」
「それに?」
「テストはタダだし、付随する細かな整備代や弾薬費もコーテックス負担じゃからな。ワシらは整備報酬が貰えるが」
「……なるほど。じゃあテストすればするだけ、俺もあんたらメカニックも丸儲けか」
「わはは。100回でも200回でもテストに出てくれてええぞ。ワシらの稼ぎのためにな」
「テストなんかで管理者に目をつけられるのはごめんだ。今日はあと1、2回でやめるよ」
「わはは。わっはっは」
老メカニックの豪快な笑い声につられて、ソラも思わず笑った。
機械弄りは、元々嫌いではない。MT乗りになる前、孤児院を飛び出して工場に潜り込んだ頃からそうだった。
ACを弄るのも楽しいものだと、ソラは思った。
………
……
…
ソラがレイヴンになって4日目。
携帯端末に、着信があった。
以前の住居からの引っ越し作業がひと段落し、住居のリビングでACのパーツカタログを眺めている時だった。
相手は、専属オペレーターのレイン・マイヤーズだ。
《レイヴン、メッセージが届いています》
「依頼か?」
《はい。クレスト社からです》
ソラは住居とガレージの間に設置されているブリーフィングルームへ向かった。
レインと通信を繋いだまま、依頼のメッセージを再生する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
老朽化のため、すでに閉鎖されることが決定している兵器開発工場を、閉鎖に反対する職員たちが強引に占拠し、立てこもっています。
どうやら以前から計画されていたものらしく、工場で使用されていた作業用メカに武装を施し、抵抗を続けています。
こちらの説得にも、応じる様子はありません。
不法占拠者の排除を依頼します。
全機撃破してください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「工場職員の反乱、その鎮圧作戦、か……」
《作戦区域は第一層第二都市区、セクション303です。成功報酬は11,000C。予想戦力は武装した作業メカ数機。職員の武装蜂起ならば、おそらく戦闘用MTはいないでしょう》
「わざわざACを雇うような状況じゃないと思うがな。クレスト自前の治安維持部隊で、どうとでもなるだろ」
《同感ですが、他の工場で同様の事態を招かないための威圧も兼ねているものかと》
「……俺も、MT乗りの前は工場で働いていた。その工場は、もう閉鎖されてるがな」
《…………》
ソラの言葉にレインがしばし押し黙った。
もう数年前の話だ。ソラは中等教育もまともに受けず、クレストの兵器開発工場に潜り込んで働いていた。
生活費の稼ぎからMTの基礎的な操作、傭兵業のためのコネクションまで、今のソラの全てはその工場で培ったものだった。
《……依頼の受諾は、全面的にレイヴンに委ねられます。コーテックスは一切の干渉をしません。今回は拒否しても》
「いいや、依頼は受ける」
《よろしいのですか?》
「まだ依頼を選り好みできる身分じゃない。今は来た依頼を、確実にこなすのが最優先だ。これが初めての依頼でこの程度の内容なら、なおさらだ」
《……分かりました。依頼の受諾を、クレスト社に伝えます》
携帯端末の向こうで、レインが小さく息を吐いた気がした。
「作戦の段取りはどうするんだ?」
《細かな打ち合わせへの参加は必要ありません。輸送機の手配も含め、私が全て執り行います。レイヴンはこのままガレージで待機してください。出撃時間が決まり次第、連絡します》
「了解した」
《特記事項がある場合は、できるだけ早く伝達します。ACの装備に反映する必要があるでしょうから》
「分かったよ」
そんな金はまだないがな、と軽口を言おうとして思い直した。
少しだけ、自分の声が震えている。レインもだった。
初めての依頼に、お互いに緊張しているらしい。
「レイン」
《……はい》
「俺のレイヴンとしての初任務だ。よろしく頼む」
《……分かりました。こちらこそ。レイヴン》
通信を終え、ソラはガレージのアンドレイの元へと向かった。
足取りは少しだけ、重かった。