ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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ゲーム本編とだいぶミッション内容が変わっています。
ゲームではファナティックと協働するミッションです。
すぐキレるファナティックが見れる楽しいミッションでした。

AC6のプレイデモ公開されたけどめっちゃブレードが使いやすそうになってて感動しました。
あと多分旋回がすごい速い?というかなんか旋回の仕様が相当カジュアルになってそうな予感がします。


右腕部武装:MWG-XCB/75(75発レーザーライフル)
左腕部武装:KWG-HZL50(投擲銃)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:MWEM-R/24(2発発射連動ミサイル)

頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLM-MX/066

ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)、SP/E++(EN武器威力上昇)


都市侵攻部隊排除

「お疲れ様です、レイヴン」

「悪いな、レイン。わざわざテスト場まで来させて」

 

テスト場のハンガーに固定された中量二脚AC"ストレイクロウ"。

コアから引き出されたコクピットブロックより降りたソラに、専属オペレーターのレイン・マイヤーズがドリンクを差し出してきた。

レインはいつも通りに輝くような金髪を結い上げ、シワ1つないスーツをお堅そうに着こなしている。

しかし、その怜悧な目元には、若干ながら疲労の色が滲んでいた。

 

「コーテックス新体制は、やっぱり大変か」

「……ええ。大幅な人事異動がありましたし、通常時なら管理者が処理していた業務プロセスをほぼ人力でこなしていますから。レイヴンの補佐官である私達も、ある程度の雑務の振り分けが追加されています」

「チーフもしょっちゅう本社に出かけてるもんな。お疲れ様」

「あなた達レイヴンほどではありませんよ。戦場は管理者の実働部隊の登場で、より過酷になっているはずです」

「んぐ、んぐ……まあ、そうだな。このテスト場にも、滅多に来なくなったしな」

 

栄養剤のたっぷり入ったドリンクを一息に飲み干し、ソラは口を拭った。

ハンガーの通路から見下ろすガレージでは、見慣れた顔の整備班が数人行き来している。

新しいパーツを買わなくなったのもあるが、それ以上に体力の温存の観点から、ソラは最近ACの機動テストをしなくなっていた。

訓練と実戦では、あまりに感覚が乖離しているからである。

動かない的や決まった動作しかしないMT相手に模擬弾を撃った所で、管理者の高性能MT部隊との戦闘の役には立たないのだ。

今日このテスト場で愛機を1時間ほど漫然と振り回し、ソラはそれを再認識していた。

集中力や五感を研ぎ澄ませ、戦場の雰囲気を反芻するならむしろ、ただコクピットシートに座って深呼吸でもしていた方が良い。

それは他のレイヴンも同じなのか、いつもは複数が埋まっているテスト場併設のガレージ群はもぬけの殻で、ソラしか来ていなかった。

とはいえ今日、ソラが久しぶりにテスト場へACを持ってきたのは訓練ではなく、また別の目的があったからだ。

 

「ちょうどいい時間だ!みんな、ちょっと休憩にしよう!昼飯でも食っててくれ!」

 

ソラは声を張り、各部のチェックを行っていた整備班にストップをかけた。

時刻はちょうど昼飯時。随伴させてきた数人のメカニック達は肩や首を回しながらACから離れていき、持参していた昼食を広げ始める。

ハンガー周辺には、ソラとレインの2人だけになった。

ソラが改めて自身の専属補佐官に目配せすると、彼女はこくりと頷き、持参していた鞄からファイルを1冊取り出した。

 

「……これを。調査に手間取って、申し訳ありません」

「あれからまだ3日だ。仕事が早くて助かる」

 

手渡されたファイルを開き、1ページ目にソラは視線を落とした。

眼鏡をかけた妙齢の女性の顔写真と、その略歴が記載されていた。

 

「あなたにメールを寄越し、ユニオン副官を名乗った女性"フレデリカ・クリーデンス"……市井のネットワークや各種報道記録、そしてコーテックスのデータベースから収集できた同姓同名の人物は、3名です」

「3名……多いのか少ないのか。クリーデンスってのは、聞き慣れないファミリーネームだが」

「1人目はもっとも容易にヒットする人物で、ミラージュ管轄のダーレン・カレッジに所属する文化人類学の客員教授である"フレデリカ・クリーデンス"となります」

「文化人類学?」

「論文をいくつか執筆していますが、主にレイヤードの富裕層や名家に受け継がれてきた旧時代の文献から、人類が地上にいた頃の文化を分析する研究をしていたようです」

「へぇ……地上の文化か。面白そうだな」

 

ソラは呟きながら、レインの調べ上げた資料をぱらぱらとめくった。

グラン採掘所での防衛作戦から帰還後、ソラはキサラギ代表に渡されたメールアドレスを使って、ユニオン副官を名乗る人物とコンタクトしていた。

それが、"フレデリカ・クリーデンス"。

彼女は、ミラージュが管理者へのアクセスプログラムを極秘裏に開発しているとソラに告げ、協力を促してきた。

何故そんなことを知っているのか?

何故既に自分達を切り捨てたミラージュへの協力を、ユニオンが求めるのか?

頭に浮かんだ疑問をメールで問うても、返答はなかった。

だから、レインに調査を依頼したのだ。

明かす必要のない自身の名前をわざわざ明かした以上、そこには何かしらの意図があるとソラは直感していた。

 

そして、こういったことを話すのに最も適しているとソラが考えたのが、テスト場の整備ハンガーだった。

これだけ開けた閉鎖空間の中で2人で顔を突き合わせて話せば、たとえ誰であっても、神の如き管理者といえども、盗聴も盗撮もそう簡単に出来はしないだろう。

それほどに今回のことは最大限に警戒して話すべきだと、傭兵の勘が告げていた。

単純にユニオンの内部事情の詮索という以上に、何か触れてはいけないものに触れているのではという感覚が、ソラにはあった。

 

「ユニオンの発祥は、元々は一部の教養層からとも噂されています。こういうアカデミックな人物が深く関わっている線は、なくはないでしょう」

「なるほどな……ん、せっかく論文を添付してくれてるけど、内容が難しすぎる。俺はどうもこの手の学問とは縁がないし」

「そうですね……とりあえずこの人物が、おそらくレイヤードで最も広く知られた"フレデリカ・クリーデンス"になります」

「研究室のアドレスがあるな。コンタクト取れるのか?」

「それが……ダーレン・カレッジの所在地であるセクション312ダーレンシティは、先日管理者の部隊によって襲撃を受け、都市機能を消失しています。カレッジも破壊され、関係者の生死や所在は不明です。この人物が隣接セクションに避難している可能性はありますが」

「……いや、そもそもこの前のメールでは、本人はグラン採掘所から脱出したような書き方だった。今さら研究室に連絡しても無意味だろう」

「はい。それで、2人目についてですが」

 

ソラは難解な長文で埋め尽くされた研究論文を一気にすっ飛ばし、フセンの貼られたページを開いた。

次の人物のページには、顔写真がなかった。

代わりにネットメディアの記事の切り抜きが綴じてある。

 

「2人目の"フレデリカ・クリーデンス"は、キサラギ第32支社の支社長です」

「キサラギの支社……」

「第32支社は、第二層環境制御区にある電力・酸素供給システムのメンテナンスを行っていた会社です。そこの支社長が、この名を持っていました」

「分かっているのは……肩書きだけか」

「ご存知の通り環境制御区は、レイヤードの維持管理に直接影響する、地下世界の大動脈です。先のユニオンのデータバンク侵入作戦より前には、直接的な争乱が起こったことはありませんでした。ですからこの支社がコーテックスへ依頼を行った記録もなく、また基幹システムのメンテナンスという機密性の高い業務内容から、込み入った内部事情はコーテックスでも分かりません」

「本社は落ちたけど、この支社はまだ稼働しているのか?」

「連日の報道の通りです。キサラギは本社機能は失陥しても、支社は最低限の業務や市民サービスを継続しています。代表の死亡が確認されていない以上、今後も何らかの形で存続はしていくでしょう」

「確かに。あの代表のことだ。潜伏はしつつも指示は出してそうだしな……この記事は、どこで手に入れたんだ?」

「キサラギ系メディアのホームページログです。この第32支社は数年前に一度だけ、富裕層が通うハイスクールの見学を特例的に受け入れたことがあったようで、支社長のコメントが掲載されていました。2人目の"フレデリカ・クリーデンス"に関する情報は、それが全てになります」

 

綴じられている当時のメディアの記事は何の変哲もない、支社長から学生への歓迎コメントと業務内容についてのインタビュー文章だ。

電力と酸素という、地下世界の重要インフラを支えていることの矜持について簡潔に語られている。

 

「キサラギの支社長、ね。この報道の裏取りは?」

「当時のニュースを様々な媒体で調べましたが、これに関連したものはありませんでした。ただ、こういうホームページだけでなされる小規模報道というものは、どのメディアでも珍しくはありません。キサラギ系ということもあり、現在は機能不全でメディアに確認を取ることも不可能です。支社長のプロフィールも、テロを警戒して滅多に表に出されないのが通例です。よって、この記事にどれほどのエビデンスがあるのかは不明となります」

「ギリギリまでユニオンを匿っていたキサラギを思えば、この繋がりも確かに臭くはあるな……。支社に連絡は……取っても無意味か」

「ええ、定型文章のメッセージが返信されてくるだけです。当然ではあります。キサラギ本社の消失もあって、支社は現状を維持するので精一杯でしょうから」

「3人目は?」

「……それが」

 

レインが言葉を詰まらせ、形の良い眉をひそめた。

ソラは首を傾げ、次のフセンが貼ってあるページを開く。

ここまでの2人のような、調査内容を端的にまとめた見やすいページではない。

ページを隅から隅まで真っ黒に埋め尽くすようなプログラムのソースコードが、数十ページに渡ってそのまま印刷されていた。

 

「なんだこれ?」

「"フレデリカ・クリーデンス"という名に関するグローバルコーテックスのデータベースの検索結果です」

「変なエラーを吐くってことか?」

「この表示自体は正常です。懸念されていた管理者の検閲や閲覧制限も、現在は特に見受けられませんでした。……コーテックスのデータベースは外部からの不正アクセスを弾くために、検索結果をこういった大量の暗号文書で出力します。そのほとんどが意味のない文字列で、一定以上の権限を持った者にしか解析できず、実際の内容はかなりコンパクトなのですが……」

「レインの権限じゃ解析できないとか?」

「いえ、私達レイヴンの専属補佐官にはかなり上位の権限があるので、解析はできました。ですが、この膨大な内容に記されているのは、一文だけなのです」

「一文だけ?」

「"AI研究所職員"。この一文が意味もなく、不自然に延々と繰り返されています」

「"AI研究所"……?」

 

レインに告げられた言葉を、ソラは舌の上で転がした。

 

「まあ、表現からなんとなくどういうものかは予想はつくが……レイン、この単語で思い当たる特定の施設は?」

「……これだけではどうにも。何に関連したAIなのかがまず不鮮明ですので。該当しそうな施設をとりあえずリストアップしましたが……」

「うーん……」

 

ソースコードの後のページには、"AI研究所"という単語に関連すると思われる施設の概要が、レインによって数十か所調べ上げられていた。

そのほとんどは三大企業に関連して、主にMTやガードメカ、作業メカ、セキュリティシステム等のAI制御を研究していると思わしき施設だ。

だが、どれも似たり寄ったりなものであり、かつレイヤード中に点在していることから、この混乱の最中に一から調べ上げていくことはほぼ不可能に思われた。

 

「管理者の部隊の攻撃を受けたセクションに存在する研究施設も、複数あります。残念ながら、これ以上の調査は……」

「……いや、レインはよくやってくれたよ。とりあえずユニオンの副官"フレデリカ・クリーデンス"と思しき奴は3人いて、1人は文化人類学者、1人はキサラギの支社長、1人はAI研究所職員。いずれも細かな足取りは掴めず、直接的なコンタクトも不可能。今はこれだけ頭に入っていればいい」

「教養層、企業の支社長、いずれも地下組織ユニオンの副官としてはありえるプロフィールです。……個人的には、最後の"AI研究所職員"が気になるところですが。コーテックスのデータベースが、短い一文だけを繰り返し出力するなどという反応は、初めて見ました」

「確かに気になるな。だけど、どこのAI研究所か分からない以上はな。今のところの詮索は、ここまでにするしかないか。まあ、何かあればまた向こうから連絡してくるだろ。……それに」

「それに?」

「まだ、考えるべきことがある」

「……ミラージュの、管理者へのアクセスプログラムですか」

 

ソラは頷き、携帯端末をポケットから取り出して、改めてフレデリカからのメールを見た。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あなたに、ミラージュへの協力をお願いします。

ミラージュは管理者に直接アクセスするためのプログラムを極秘開発しています。

彼らにはいずれ、あなたの力が必要になるでしょう。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

メールには、そう書いてあった。

突拍子もない話だ。

管理者の部隊に各地でいいようにされていて、防戦一方と報道されているミラージュが、起死回生の一手を講じているというのだから。

だが、ソラにとっては思い当たる節がないわけでもなかった。

 

「レイン、アビア湾の流氷に大型船舶が座礁した一件を覚えてるか?」

「レイヴンが特殊傭兵"デュミナス"と協働した"オストリカ"の探索任務ですね」

「あの時ミラージュは、機密カプセルの回収について相当切羽詰まった様子を依頼文から見せていた。デュミナスの奴もそれを感じていたのか、あの時回収したカプセルが何か重大な物だと確信していた感じだった。確かに思い返せば、自然区にどデカい船舶を浮かべてその船底でこっそり研究する必要があるブツなんて、怪しすぎる話だったが」

「では、ユニオンの言う管理者へのアクセスプログラムは実在すると?」

「……少なくともユニオン副官を名乗る例の女はそう思っているらしい。だけど……」

 

協力をお願いしますと言われても、ソラはあくまで傭兵だ。

急に送られてきたメールを信じて依頼されてもいない案件に首を突っ込むほど、世話焼きでも頭足らずでもない。

そもそも、どういう形で自分の力を求められるのかすら分からないわけだから、ミラージュが声をかけてこない限りは動きようがなかった。

 

「……データバンク侵入の一件以来、ユニオンはミラージュから切り捨てられていたはずです。なぜ、この女性はミラージュの機密事項を?」

「聞いてみたんだけど、返答無しだ。まあ、ユニオンの連中に特殊なコネクションがあるのは薄々感じてたし、この前のキサラギ代表の反応からしてそれはやっぱりそうなんだろうけど……」

 

ソラはファイルをレインに返し、ハンガーの手すりに置いてあった空の紙コップをくしゃくしゃと握りつぶした。

管理者のACをついに撃破し、キサラギの代表と言葉を交わした末にコンタクトした、謎の女性。

その人物がもたらした、ミラージュの管理者へのアクセスプログラムという極秘情報。

一介のレイヴン――依頼を受けてこなすだけの傭兵である自分が関わるにしては、話が妙に大きくなりすぎている感があった。

メールを寄越してきた謎の女性に対して探偵まがいのことをオペーレーターにやらせるのだって、本来はおかしな話だ。

 

「悪いな、レイン」

「え?」

「変なこと調べさせただろ。もしこれが危ない橋だっていうなら、俺は相方のあんたを不当に巻き込んでいることになる。嫌なら嫌だって言ってくれれば……」

「……いえ。私も、知りたがりなんです。各地の被害について、レイヤード中の騒乱について、出来る限りのことを調べずにはいられません。自分が今出来ることをしていないと、不安が大きくなって、押し潰されそうで」

 

レインはそう語り、調査ファイルをぎゅっと胸に抱きしめた。

 

「レイヴンに聞かされた"フレデリカ・クリーデンス"についてもおそらく、依頼されなくても勝手に調べていたと思います。ですから、お気になさらずに」

「……分かった、気にしない。…………はぁー、なんかここ最近面倒なことばっかり抱え込んでる気がするな。色んな奴らに色んな話されてよ。それで考えても仕方ないことばっかりが増えていって、でも考えずにはいられなくって。なんでなんだろうな」

「お疲れですか?」

「疲れる。本当に押し潰されそうな、嫌な気分になったこともあった。だけど、何だろうな。今は不思議と、面倒だと思っているなりに向き合えている気がする」

「……それはきっと、あなたがレイヴンとして高く飛んでいるからですよ」

「そうかな?」

「ええ。ユニオンの存亡に関わったり、キサラギの代表と直接話されたり、ユニオン副官を名乗る女性とコンタクトしたり、ミラージュの極秘事項を知らされたり。それも結局は全て、目の前の依頼を真摯に遂行していった結果でしょう?」

「…………」

「Aランカーの方々も、コーテックス上層部に意見を求められる機会が増えているようです。きっと"高く飛ぶ"とはそういうことなんでしょう。ただの傭兵の枠組みを超えて、世界の有り様と向き合っていく。あなたが、立派なレイヴンである証拠ですよ」

 

ソラは鼻をすすり、ガレージの天井を見上げた。

遠くから、整備班が笑う声が響いてくる。

ぐぎゅーっと、腹の虫が鳴った。

 

「レイン」

「はい」

「昼飯、一緒に食わないか。もちろん、俺のおごりだ」

「ふふっ、そうですね。少し足を伸ばして、本社に行きましょうか。デザートが充実したお店がいいですね」

「おっしゃ、行くか」

 

目を細めて柔らかく微笑む専属補佐官に見惚れそうになりながら、ソラは照れ隠しに身体を伸ばした。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

我々ミラージュ最大の研究施設であるレヒト研究所に対し、クレストの大部隊が侵攻を開始した。

第四層エネルギー生成区内の都市への攻撃は完全な逸脱行為であり、決して許される行いではない。

しかしながら既に近隣セクションの壊滅は時間の問題であり、レヒト研究所はじきに集中攻撃を受けかねない。

至急現地へ向かい、これを迎え撃ってもらいたい。

 

クレストは本気だ。

管理者の部隊が各地で蹂躙を繰り返している現状にあって、それらの対処を放置してまで多数の部隊を投入してきており、どうやら研究所の完全破壊を狙っているらしい。

 

だが、レイヤードの趨勢はまさに佳境にある。

詳細はまだ明かせないが、我々の試みも、今まさに実を結ぼうとしているところだ。

レヒト研究所の陥落は、なんとしても避けなければならない。

 

ミラージュは今回の防衛に対して、自社派閥の最有力レイヴン達を派遣する。

協力して防衛作戦にあたってくれ。

 

報酬は歩合制だ。敵の撃破数に応じて可能な限りの額を支払おう

敵レイヴンを撃破した場合は当然、追加報酬を支払う。

 

頼んだぞ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

「……本当にミラージュが声をかけてくるとはな。それもこんなすぐに」

 

ソラはコーテックスの双発式戦略輸送機の格納庫、小さく揺れるストレイクロウのコクピットの中で独りごちた。

 

レイヤードの第四層エネルギー生成区。

ミラージュ最大の研究施設"レヒト研究所"が置かれている場所だ。

エネルギー生成区はレイヤードの最下層に位置し、各層の計画的な稼働を支えるための大量のエネルギー炉と、関連する重要施設が集中している。

当然、第二層環境制御区と同じく、地下世界における重要度の観点から経済戦争の外に置かれて然るべき階層であり、特に破壊された場合の復旧の困難さ故に、紛争行為は暗黙のタブーどころか明確に逸脱行為に指定されているほどの、最重要区画である。

環境制御区がレイヤードの大動脈であるならば、このエネルギー生成区はレイヤードの心臓と言ってもいい。

 

だが、今はもうそんなことは関係ないとばかりに、輸送機のカメラが捉える眼下の映像は、荒れに荒れていた。

レヒト研究所の職員が暮らしていると思しきベッドタウンは幾筋も立ちのぼる黒煙に呑まれ、砲声が轟き、火線がしつこく瞬いていた。

 

「もう始まってるぞ。到着が遅かったのか?」

《ミラージュ管制室より通信です。レヒト研究所はまだ健在です。インターピッド、ルージュは既にE地区へ降りています。ストレイクロウ、ザインはこのままN地区に降下。直ちにAC"ダブルトリガー"及び新型飛行MT部隊を撃破しろとのことです》

「"ダブルトリガー"……トラファルガーか。手ごわい相手だ。それに飛行MT……レインがブリーフィングで言ってた奴だな。ザイン、敵の分担だが……」

《そんなことはどうでもいい》

「何?」

 

輸送機の狭い格納庫、ストレイクロウの後方で陣取る赤いAC"ザイン"が複眼のカメラアイを輝かせ、身じろいだ。

B-4ランカーの腕利きであるノクターンが駆る、接近戦特化型機体だ。

 

《お前、サイプレスを……テン・コマンドメンツを仕留めたな》

「……?」

《その前はシャドーエッジのクラッシュボーン。ミダスのセミラチス。アリーナでフィクサーのアインハンダーを倒したのも知っている》

「急になんだよ。さっきまでずっと黙りこくってたくせに」

《答えろ。テン・コマンドメンツをやったのか?》

「……仕留めてはいない。管理者のACの横槍で、あいつが自滅しただけだ」

《なるほど。じゃあ管理者のACを潰したのか。それは確かに楽しめそうだ》

「何が」

 

突然。

"ザイン"が左腕の超高出力レーザーブレードから、青白い刃を発振させた。

そしてそのまま緩慢に、無造作に斬りかかってくる。

ソラは大慌てで機体ごとザインに体当たりし、振り抜かれようとした左腕を食い止めた。

空飛ぶ輸送機の格納庫がズズンと一瞬、バランスを崩して揺れた。

 

「気狂いかてめえは!僚機だぞ俺は!」

《……こちらルージュ、物騒な通信が聞こえたわ。ザイン、あなた何をやってるの?》

《……そうだった。すまん、まだだったな。つい、欲しがってしまった》

「?何言ってやがる……」

《離れろストレイクロウ。出撃だろう?》

「そっちからしかけてきといて、てめえな……」

《こちらインターピッドだ。今回の作戦ではミラージュの全軍指揮を取る。現在、本機はルージュと共にE-5ザ・サン、E-1ファイアフライと交戦開始。ストレイクロウ、N地区のC-3ダブルトリガーはお前が止めろ。今回のクレストの最高戦力はそいつだ。ザインは飛行MT部隊の相手をしろ。こいつらは素早いだけで脆い。散弾でも叩き落とせる》

 

ミラージュの最高戦力と目されるレイヴンD-1"リップハンター"とB-2"ファンファーレ"が通信で仲裁してくる。

ソラは抑え込んでいた赤いACからゆっくりと距離を取り、いつでも発砲できるように両腕のレーザーライフルと投擲銃を構えた。

レインが通信を入れてきて降下のタイミングを告げ、輸送機のハッチが開放される。

 

「……次斬りかかってきたら、僚機だろうが関係ない。風穴空けるぞ」

「心配するな。もうやらん。だが」

「…………」

「いずれ戦場で相対したら、その時は真っ二つにしてやる」

 

オーバードブーストを起動し、複眼をぎらつかせながらザインは輸送機から飛び立っていった。

あまりにも理不尽で好戦的な僚機に釈然としない思いを抱えたまま、ソラも輸送機から飛び降りた。

 

ビル街に降り立つより先に、迎撃の青いMTが数機空中を突っ込んできた。

ブリーフィングの事前報告にあったクレストの可変型MT"ブルーオスプリー"だ。

空中では巡航形態を取りライフルを、地上では逆関節形態で接地してレーザーキャノンを放つ、空陸両用の最新鋭機である。

ストレイクロウのレーダー表示に映るだけでも10機近い数がいる。

戦場全体では、数十機に上るだろう。

管理者の実働部隊の猛威を無視して最新型をこれだけの数投入してくるあたり、クレストのレヒト研究所攻撃にかける想いが伝わってくるようだった。

やはりユニオン副官のしていたアクセスプログラムの話は本当で、その開発はここで行われているというところだろうか。

 

「っ」

 

ソラが一瞬戦場の埒外に思考を飛ばした隙を縫って、飛びかかってきたブルーオスプリー達がライフルを撃ち放つ。

確かに新型なだけあり、MTながらに戦闘機並の飛行速度が確保されていて、基本性能の高さが伺えた。

だが、所詮は図体の大きなMTだ。それに、管理者の高性能MT部隊と比べれば、惰弱もいいところだった。

空中で四方からのライフルを躱しきったソラは、ビルの屋上に着地すると同時に飛翔し、旋回する青い敵MTと高度を合わせて試作型レーザーライフルを放った。

可変型の飛行MTというコンセプトはやはり装甲に難があるのか、高出力レーザーの直撃を受けると真っ二つにへし折れて爆散し、そのままビルの外壁に突っ込んで炎上する。

2機、3機、4機とビルを飛び移りながら立て続けに落としたところで、下方から援護射撃の散弾が飛んできた。

 

《ストレイクロウ、雑魚と遊ぶな。ダブルトリガーがだいぶ先行してるぞ。研究所の敷地に入れるなと、ファンファーレのお達しだ》

「お前が来るのを待ってたんだよ、ザイン。ここは任せるぞ」

《……管理者とやり合っている最中に、こんなお遊びみたいな新型と、Cランカー風情を頼みに決戦とはな。クレストもいい加減限界らしい》

 

吐き捨てるようなノクターンの通信を聞き流しながら、ソラは操縦桿横のレバーを引き上げてオーバードブーストを起動した。

南方のレヒト研究所めがけて、N地区の戦場を一気に加速する。

レーダーで探すまでもなかった。

一際激しく部隊が交戦している箇所に、標的はいた。

 

《……来たか。出来れば、ファンファーレの阿呆を仕留めてやりたかったがな》

 

カバルリーを3機まとめて爆散させ、怯えて下がろうとしたスクータムとモアの混成部隊を一瞬で蜂の巣にして、敵ACがドズンとビル街の大通りを揺らして着地した。

右腕にはショットガン、左腕には拡散投擲銃、肩には3連ロケットとバランスよく重装備を整えた、漆黒の重量二脚型だ。

 

「悪いな。俺で満足してくれ」

《ああ、そうしよう……アリーナの返礼と依頼の達成。両方狙うぞ、俺は》

「できるもんかよ。ここで死んでもらう」

《言ってくれるな。それでこそ、乗り越え甲斐がある……!》

 

気迫の籠った通信と真逆に、ダブルトリガーは後ろに跳んだ。

こっそり後方から挟み撃ちしようとしていたらしい味方のカバルリーが狼狽えてビルの壁面にぶつかり、動きを止める。

ダブルトリガーはその無様なMTの上に勢いよく着地してコクピットを踏み潰し、それと同時に脚部を大きく動かした。

蹴り飛ばされたカバルリーがひしゃげてストレイクロウに突っ込んできて、ソラは思わず意識を奪われる。

仕方なく味方機をレーザーでぶち抜き排除するも、爆煙で前方の視界が塞がった。

レーダーに視線を走らせる。味方機を表す緑色の光点が1つ2つと消え、赤い点が遠ざかっていく。

 

「逃がすか!」

 

ソラは跳躍してオーバードブーストを起動。

MTの残骸の上を飛行しながら、空中から一気にダブルトリガーを追った。

オーバードブーストも積んでいない重量機では当然、中量二脚型の猛追から逃げ切ることはできない。

すぐに次の迎撃部隊と交戦しているダブルトリガーをストレイクロウは捕捉し、レーザーライフルと投擲銃を見舞った。

だが、敵ACは撃ち返してこない。巧みにミラージュのMT部隊を次々に防壁代わりに使い、自身の被弾を抑えた後、先ほどのように再び蹴り飛ばしてきた。

軽量型MTのカバルリーやモアならば、高出力な重量級ACの蹴りで容易く宙を舞う。

管理者の部隊相手に消耗しきったミラージュ軍の練度では、ダブルトリガーの思惑と技巧に為す術もなく翻弄され、利用されるばかりだ。

ダブルトリガーは自身がしとめた、あるいはストレイクロウからの弾除けに使ったMTを、まるでサッカーボールのように次々に蹴り出してくる。

味方の識別信号を吐いたままのそれは避けるにも撃ち抜くにも若干のタイムラグが発生し、その度にダブルトリガーは距離を稼いでN地区のメインストリートを南下していった。

ほとんど被弾らしい被弾もせぬままにMT部隊を排除し、ソラの追撃をやり過ごし、目標の研究所へと向かっていくのだ。

啖呵を切った上でソラから素早く逃げていくのも、最終的にレヒト研究所内での戦闘を見越しているためだろう。

研究所の敷地内で対AC戦にもつれこませれば、ソラの攻撃と逃走を大きく制限した上で自分は自由に立ち回ることができる。

感嘆すべき力量と状況判断である。

所詮、自分より下位のランカーだという慢心がソラの中にはあった。

アリーナで一度下した相手だという想いもあった。

だが、戦場での応酬は別物だとばかりにトラファルガーの手腕は冴えに冴えていた。

それが、ソラの闘争本能に火をつけた。レイヴンとして燃え上がらせた。

 

「ならよぉ!」

 

オーバードブースト全開。

レヒト研究所へと南下するダブルトリガーを追いかけ、追い越して、さらに大通りを進んだ。

莫大な慣性に引っ張られながらも急ブレーキと急旋回をかけ、180度振り返る。

こちらが追っているから容易に倒せないのだ。

逆に、進路を塞いで無理やり追い越さざるをえない状況にしてやればいい。

 

《ふん、甘いぞ!》

 

2機のACの間から慌てて逃げようとしたモアを3連ロケットでガラクタに変え、爆発に紛れてダブルトリガーがビル街の横路地に入る。

だが、モニター上のレーダー表示にその機影はしっかりと映っていた。

ストレイクロウはブースタを吹かしつつもビルの外壁を蹴ってさらに勢いをつけて一気に上昇。動きを把握する。

ダブルトリガーは路地を西方に2つ過ぎた所から別の大通りに出て、再び目標の研究所を目指そうとしている。

ソラはもう一度、オーバードブーストを使った。

敵が入った大通りに先回りするため――ではなく、さらにそこから一歩敵の上を行くために。

トラファルガーはやはり、ストレイクロウの急加速をレーダーで確認して、すぐさま進路を切り返してきた。

慣性とエネルギー消費でオーバードブーストは連続使用できず、長距離を移動すれば、その分追いつきづらくなる。

そんなことは、ソラも分かっていた。

分かった上で、使ったのだ。

 

「っっぁっ!!」

 

コア内蔵の高出力ブースタ点火中に一気に高度を落とし、ビルの外壁へと突っ込む。

中量二脚がグギャギギと火花と悲鳴を上げながらも、ビルを強引に蹴り返した。

その勢いに任せ、オーバードブーストの軌道を急変更、こちらの動きを予測しつつ進行方向を翻していたダブルトリガーの目と鼻の先に無理やり着地した。

 

《……くははっ。やってくれるな、ストレイクロウ!》

 

狭い路地の、その真ん中だった。

撃ち合うほかない場所だった。

ダブルトリガーは両腕の火器を持ち上げ、イクシードオービットを起動した。

 

「勝負だ、ダブルトリガー!!」

 

ソラは吠え、両手に握った操縦桿のトリガーを引き絞った。

地面のコンクリートがめくれ上がり、ビルのガラスは割れ飛び、援護に駆け付けたミラージュとクレストのMT達はもののついでに蹴散らされた。

C-1ランカーとC-3ランカーの真っ向勝負は誰の介入も許さぬまま続き、そして。

 

 

《……いい腕になったな、レイヴン》

 

 

C-3ランカーの賞賛の声と共に決着がついた。

 

《……こちらザイン。ダブルトリガーをやったのか?》

「ああ、やった。そっちは?」

《クレストの青い新型はあらかた排除した。E地区のレイヴンやMTも順当にインターピッドとルージュが片づけたらしい》

「終わったな、俺達の勝ちか」

《いや、痛み分け……むしろ負けだな》

「何だと?」

 

ノクターンの通信が切れると同時に、ミラージュ部隊の指揮を取っていたファンファーレから通信が入った。

 

《こちらインターピッド。AC全機及びMT部隊はレヒト研究所周辺から即刻退避しろ。その上で、マップデータにスポットする地点から距離を取れ。撤退作業は順次E地区から行う》

「は、撤退?どういうことだよ」

《クレストが超大型ミサイルを持ち出してきた。例の逸脱兵器だ。迎撃行動を見せれば、即刻市街地で爆破すると通達した上でな》

「何だって……!?」

 

ファンファーレの口ぶりからして、特殊実験区のユニオン防衛作戦で使用された代物だろうとソラは思い当たった。

5年前のアヴァロンヒルの戦争ではレイヤードの天井板すら吹き飛ばした、管理者から逸脱行為に指定された禁止兵器である。

それをまたもクレストが持ち出してきたというのだ。

スポットされた場所はソラとノクターンがいるN地区の最北端、セクション連絡路の辺りだった。

 

「ダブルトリガーの素早い南下はこいつを察知させないための陽動か……。俺達が存在に気付いていれば」

《いや、同じことだ。至近で破壊すれば、ACといえど防御スクリーンごと消し飛びかねん。新型MTやAC部隊相手に消耗していればなおさらな。仮に市街地で爆破されても、余波を受ければ残存部隊も研究所もただでは済まないだろう。セクション内部に運び込まれた時点で、この戦闘はクレストの勝ちだった》

「どうするんだ」

《どうもしない。レヒト研究所及びこのセクションは放棄して、ミラージュは全軍撤退だ。クレストも壊滅的被害を受けていて余力がない。所詮は苦肉の策だ。研究所を消し飛ばせば、それで満足して帰るだろう》

「……ファンファーレ。あんたミラージュの最高戦力なんだろ?それでいいのかよ」

《……それでいい。ストレイクロウ、次の任務を待て》

 

どこまでも冷静で、無感情なまでに事務的に喋るB-2ランカーの言葉には、しかしながら何かしらの"含み"があった。

次の任務を待て。

次。このアクセスプログラムを巡った戦いには"次"があるのだと、言外に語っていた。

 

「……分かった。撤退する」

《ザインもだ。E地区で合流する》

《ルージュも撤退するわ。逸脱行為を連発するなんて、秩序秩序とうるさかったクレストも堕ちたものね。…………それよりストレイクロウ、ちょっといいかしら?》

「なんだよ?」

《あなたAPいくつ残ってる?》

「?……5500だけど」

《……へぇ。この戦場でトラファルガーを相手に、ね》

「??」

 

リップハンターは通信機の向こうで声を低めた。

ソラはそれが何を意味するのか分からないまま、レインに機体の回収を促した。

 

4機のACを回収したコーテックスの輸送機が戦場を飛び立った後。

巨大な光の柱が、レヒト研究所を消し去った。

超大型ミサイルによって発生した大爆発はその衝撃波で輸送機をガタガタと揺らし、ソラに言いようのない敗北感を植え付けた。

 

防げたかもしれない。

ユニオン防衛戦の時は、防げたのだ。

クレストがまたこんな暴挙に出ると、分かっていれば。

自分がダブルトリガーに気を取られていなければ。

管理者に繋がるアクセスプログラムを研究していた施設を、破壊されずに済んだかもしれない。

 

だが、考えても詮なきことだった。

 

今はファンファーレの言葉の通り、いつあるとも知れぬ"次"を待つしかなかった。

 

 

 




作中だと扱い悪いですがブルーオスプリーはゲーム本編だと超強いです。
というか飛んでるくせに硬いです。しかも速い。素敵です。
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