ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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ゲーム本編ではロードも挟む、長丁場で好きなミッションです。
なので、本作でも長くなりました。すいません。

今回はバズーカとブレード装備です。
フレーバー程度ですので、武器以外は一切気にしなくても大丈夫です。

右腕部武装:CWG-BZ-50(50発バズーカ)
左腕部武装:CLB-LS-2551(緑ブレード)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:MWEM-R/24(2発発射連動ミサイル)

頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLM-MX/066

ジェネレーター:MGP-VE905
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)


クレスト施設制圧

第一層第二都市区セクション301、ソラの専用住居に併設された専用ACガレージ。

ハンガーに固定されたAC"ストレイクロウ"の足元には十数人の整備班が集まり、事の様子を固唾を呑んで見守っていた。

 

「よし、よし……ええぞ。やってみろ!」

 

白髭をもじゃもじゃと生やしたメカニックチーフのアンドレイがハンガー通路の端末の前で声をあげ、コクピットシートに座るソラを促した。

了解、と返事をしてソラは各計器を操作していく。

まず最初にモニターの電源を入れてオペレーティングシステムを起動し、続いてFCSを、さらにジェネレータとラジエータを稼働させた。

火が入ったACがブゥーンと低く四肢のモーターを唸らせ、ハンガーの中で出撃が待ちきれないとばかりに微細に揺れ始める。

頭部パーツ"02-TIE"のカメラアイにも、赤い光が力強く宿った。

ACが呼吸するかのような慣れ親しんだ振動が、シートのクッションを通じてソラ自身に伝わってくる。

モニター上には、AP、EN残量、レーダー、外気温、武器の残弾が表示され、特に過不足はない。

ハンガーから解放されたACが、重々しく数歩進んだ。

ソラはさらにコンソールを叩き、機体の状態を待機モードから切り替える。

 

《メインシステム、戦闘モード起動します》

 

頭部AIがいつも通りに機械音声を発し、モニター上にロックサイトが浮かび上がる。

ロックサイトは今は何物も捉えてはいないが、まるで通り過ぎる獲物を待つかのようにピピ、ピピピとFCSが索敵音を時折鳴らしていた。

 

――いつも通りだ。

至極いつも通りに、ストレイクロウはスムーズに起動を完了していた。

 

「よっしゃ、成功じゃー!」

 

端末のモニターにかじりついていたアンドレイが何度も手を叩いて喜びの声を上げる。

ガレージの隅で待機していたメカニック達も喝采しながら互いに握手し、肩や背を叩き合って労苦をねぎらった。

ここ数日昼夜を徹して続いた大作業が、ついに実を結んだのだった。

 

「よし、問題なし。皆、お疲れ様!……といっても、コクピットに座ってる限りじゃ、全然何かが変わったって実感ないんだけど」

「当たり前じゃ。変わってたまるか。そのために繊細な調整を繰り返したんじゃからな」

 

ACをハンガーに戻してコクピットシートから出てきたソラに、アンドレイが鼻を鳴らして腕を組み、自慢げにふんぞり返った。

皺くちゃの目元はいつもより窪み、隈が浮かんで老体の疲労を感じさせる。

ハンガー下に集まった整備班の面々も喜んだのは束の間、すぐに肩を落として長く大きなため息を吐いている。

無理もない。連日徹夜だったのだ。

おそらくソラのガレージだけでなく、どのレイヴンのガレージでも同じようなことになっているだろう。

 

グローバルコーテックス本社から通達を受け、各レイヴンとその整備班はここ数日、ひたすらアーマードコアのシステム調整に明け暮れていたのだ。

その通達とは、管理者とACとのシステムコネクションを全面的にシャットアウトすること。

従来、ACは戦闘ログをリアルタイムで管理者に送信し、そのデータベースに蓄積させて、レイヤードの紛争の把握に役立てるという機能を有していた。

だが、最近各地で始まった管理者の高性能MT部隊の暴走以降、その機能は内外から大きく危険視された。

 

――管理者に戦場でのレイヴンの活動状況を知られ、後出しで部隊を派遣されるのではないか、と。

 

事実、危惧された通りの事例が何度も相次ぎ、レイヴンが管理者の部隊を制圧して撤退した直後に後詰めの部隊が現れて攻撃を再開するという現象が各地で見られた。

ソラ自身も、アビア湾でのクレストの水浄化施設を巡った戦いで撤退直後の追撃を経験している。

管理者の部隊の出現は法則性がなく突発的で、人類は満足な防衛行動を取ることができずにいた。

おそらく管理者が保有している各セクションの機密通路を使って侵攻してきているのだろうという予測はされていたが、それがどこにどう繋がっているのか、把握している者は当の管理者以外誰もいないのだ。

だからこそ、企業もグローバルコーテックスも自分達に出来る限りの対応をするしかなかった。

企業にあっては、通常戦力による市街地や重要施設周辺の警備強化。

コーテックスにあっては、今回実施されたACのインターフェースの再構築である。

作業は本社が決定した後、依頼遂行に支障をきたさないよう、まさに各自の突貫で行われた。

 

本社の技術者が独立システムの雛型を構築し、現場の整備班が不眠不休でACに実装したこの試みが、管理者の攻勢にどの程度通用するかは分からない。

だが、何も策を講じないよりはマシだろうという一心で、レイヴンやメカニック達は依頼の隙間を縫うようにして必死に取り組んでいた。

ソラのガレージではそれが今日この朝、ようやく完成したのだった。

 

「ふぃー……まったく、本社のエンジニア共の杜撰なことよ。ACが精密機械で、複雑なプログラムの集合体だということをまるで考慮しとらん。ただ管理者に繋がるパスだけを片っ端から切り飛ばせばええと思っとるんだからの。それじゃメインシステムに支障が出るとミーティングで口をすっぱくしてやったのに、そのまま現場にぶん投げおってからに。おかげでワシらがどれだけ苦労したことか……」

「突貫だったんだし、仕方ないだろ。いずれにせよ、こんな素早くよくやってくれたよ。一応、午後にはテスト場で動かしてくるけど、いいよな?」

「おう、ガンガンやっとくれ。戦場で致命的なエラーを吐くよりはずっとええ」

「……これで管理者の後出し攻撃にはある程度対応できるかな」

「うーーーむ。ま、無理じゃな」

 

ソラの何気ない呟きを、熟練のメカニックは鼻をほじりながら一刀両断した。

2人が会話するハンガーの下では整備班達が自身の業務に戻って、忙しなく往来している。

 

「この数日これだけ整備班全員で骨を折っといて、こんな興醒めなこと言うのも何じゃがな」

「はっきり言うな、チーフ……」

「ここだけの話よ。本社はまるでACが管理者のスパイになっとるみたいな口ぶりだったがな。そもそも、このレイヤードにどれだけの"管理者の目"があると思っとる?ACの戦闘ログごときの盗み見を防いだとて、根本的解決にはならんよ。たとえば、ほれ」

 

老人の指差した先には、開け放たれたガレージの正面ゲートがあった。

外の景色は例によって、見慣れた淡い曇り空だ。

 

「お空の人工気象システム。あれだって、"管理者の目"じゃろう。何の監視装置も備わってないわけがない」

「…………」

「各企業の施設にしたってそうじゃ。ACはどこまで行っても単体の戦闘兵器じゃから比較的容易く管理者から切り離せたが、軍事基地や研究所、管理施設なんかはそうはいかん。何かしらのデータを常に管理者に献上し、その見返りとしてシステムの補助を受けておるはずよ。コーテックス本社ビルがまさにそうであるようにな。管理者からの干渉を切り離そうと思えば、全てを一から設計し直すレベルの労力がいるわい。まあ、この偽物の空の下で人間が動いてる限り、"管理者の目"からは逃れられんってことだの」

「……そうか」

「まあ気を落とすでないわい。今回のシステム再構築で、AC同士の連携機能も復活させとる。集団戦闘の際は、効力を発揮するはずじゃ」

 

アンドレイの言う連携機能とは、作戦中に僚機のAPを表示する機能のことだった。

本来、ACに最初から備わっていたはずのこの機能は、過去にいくつかの大規模紛争で悪辣なスパイ行為に利用された結果、管理者の判断で削除されていた。

それを今回のシステム再構築に伴い、コーテックスが復活させたのだ。

 

連携機能はレイヴン及びその専属補佐官間で合意があった場合のみ使用可能となり、緊急時の切断もできるようになっている。

利用するネットワークは、コーテックスが管理者によらずに独自に開発したものだ。

これもまた、ここ最近のメカニック達の作業負担を増加させる原因となっていた。

しかし、管理者の実働部隊に抗するために今後は複数のレイヴンによる協働が増えていくだろうと予測したコーテックス上層部が、機能の復活を強く求めたのである。

大規模戦闘をいくつも経験したソラとしては、その上層部の判断はありがたいものだった。

 

「……いつまで続くんだろうな、実働部隊の攻撃は」

「さぁ。管理者に聞くしかないわ」

「聞けたら胸倉掴んで聞いてやるのに」

「わはは。管理者に胸倉があるわけないじゃろが」

「ははは、はは…………ん……?」

 

その時だった。

ソラは笑うアンドレイの後ろで、工具がカタカタと震えるのを見た。

 

「チーフ、ちょっと。……揺れてないか」

「……んんっ!?何じゃ、地殻変動か?おわっ」

 

 

ゴゴゴ、ゴゴ、ズズン、ゴゴゴ……

 

 

チーフが転げそうになって手すりを掴み、片手で白髪頭を保護する。

ソラも通路から落ちないよう、足を踏ん張って手すりに身をもたれ、その場にこらえた。

そうしているとより強まった震動がハンガーを揺らし、ガレージ全体をも揺らし始めた。

ソラの眼下で整備班達も驚きの表情を浮かべ、しゃがみ込んでいる。

乱雑に積まれていた部品類が音を立てて崩れ、床にバラバラ散乱した。

ハンガーに固定されたACがひっくり返るような大きな揺れではない。

だが確かに、レイヤードは揺れていた。

地響きを立てて、何度も、何度も揺れて、やがて、次第に収まっていった。

 

「何だったんだ?今の揺れは……」

「報道じゃ、報道!はよ行くぞ!」

「あ、ああ……」

 

ガレージの隅に置かれた備え付け端末の元に、その場の全員が集まる。

ソラは整備班に後ろから覗き込まれながらも、端末を操作して各地の報道を確認していった。

キサラギ系の報道は、本社失陥のせいでやはり機能していない。

ミラージュ系の報道は、先ほどの揺れには気づいていたが、事態の詳細はまだ把握していなかった。

情報を発信していたのは、クレスト系の報道だった。

剣呑な警告音と共に画面が真っ赤に染まり、物騒な太い黒文字でメッセージが流されている。

 

《緊急事態発生。緊急事態発生。セクション連絡路を開放します。セクション540系住民はすぐに誘導に従い、避難行動を始めてください。緊急事態発生、緊急事態発生。セクション連絡路を開放します。セクション540系住民はすぐに誘導に従い、避難行動を始めてください》

 

「……緊急事態?」

「何の緊急事態じゃ?詳細は分からんのか?」

 

ソラは何度かチャンネルを変えた。

だがどの報道も、真っ赤な画面でセクション540系住民の避難を促すのみで、その詳細は報道していなかった。

現地の様子も分からない。

セクション540系といえばクレスト管轄の都市区で、大勢の中流市民が居住する区画だ。

旧式化した第三層第一都市区の復興を掲げたクレストが近年特に力を入れて再開発していた地区で、企業間紛争や管理者の攻撃にもあまり晒されていない、比較的恵まれたセクション群である。

 

「……このクレストの慌てようは地殻変動じゃない、のか?一体何が」

 

訝しむソラのポケットで、携帯端末が鳴った。

専属オペレーターのレインからだった。

 

《レイヴン、無事ですか?》

「大丈夫だ。レインは?」

《私も問題ありません。それより、緊急事態が起こったようです。第二層環境制御区で、クレスト管轄の動力施設群が一斉に暴走。大爆発が相次ぎ、大量の放射性物質が下層の第一都市区に流出したと、コーテックスに一報が》

「放射性物質が流出……!?」

 

思わず声を上げたソラの後ろで、整備班達がざわつき始める。

アンドレイがソラと入れ替わりに席に座り、小規模な独立系メディアの報道を確認し始めた。

一部のメディアが、高層ビルの一室から現地の都市部の様子を撮影していた。

人工気象システムが停止し、無骨な構造を晒す天井板の下で、大勢の市民がパニックを起こした蟻のようにセクション連絡路に向かって逃げ惑っている。

さらに、報道カメラにはもうもうと沸き立つ煙と青白いレーザーの火線が映り込んだ。

ズズン、と音を立ててビルがへし折れ、隣のビルへともたれかかるように倒れ込んでいく。

どうやら管理者の部隊が、時を同じくして現れたらしい。

 

「地獄絵図じゃな。540系といえばクレストお気に入りの新興住宅地があったろうに……急に何がどうなっとるんじゃ」

「環境制御区の動力施設群が片っ端から吹っ飛んだってよ。さっき揺れたのはそういうことか。んで、それに乗じて、実働部隊お得意の無差別攻撃かよ。レイン、どうなるんだ?」

《……緊急事態ですが、あくまでクレスト管轄のセクションで起きていることです。クレストが然るべきレイヴンを雇用して、対処するものかと》

「環境制御区が吹き飛んだと言ったな?まずいぞ、各都市区に対する電力や酸素供給にも大きく支障をきたすやもしれん。流出した放射性物質だって、処理には莫大な金、時間、人員がいる。キサラギ管轄と同様に、クレスト管轄セクションも洒落にならん事態になるぞ……」

 

アンドレイがそわそわと落ち着かなさそうに爪を噛んだ。

 

「……動力施設をやったのは、実働部隊か?」

《コーテックスには緊急報告があったのみで、詳細は不明です。ですが管理者の監視下で厳密に運用されている環境制御区で、これほどのヒューマンエラーが起こることはありえません。つまり……》

「これも管理者の仕業、か。まさか環境制御区にまで攻撃するとはな。レイヤードをどうする気なんだよ……」

 

やがて、独立系メディアの報道を行っていた現地リポーターがあまりの悲惨な事態に錯乱したように、大声で喚き始めた。

リポーターは管理者に対して暴言を吐き、かと思えばすぐさま怯えたかのように無礼の許しを乞い、まるで報道の体を為していない狂乱を、カメラに向かって演じ始めた。

アンドレイは聞くに堪えんとぼやき、端末の音声を切った。

 

「レイン、クレストはどこまで対処できると思う?」

《……被害規模に関わらず、動力施設の復旧作業には管理者の支援が必要不可欠でしょう。環境制御区の重要施設はそのほとんどが、管理者の設計図提供によって成り立っていますから》

 

重たい沈黙がその場を支配した。

整備班達は皆唇を噛みしめ、沈痛な表情を浮かべて俯いている。

停電やセクション閉鎖、市街地や施設への襲撃の報道は確かに今まで何度もされてきた。

だが、今回の衝撃はその比ではなかった。

レイヤードの大動脈たる環境制御区で起こったことなのだ。

 

別のセクションで、遠い場所で起こったことだと、今までのように割りきって終わる問題ではない。

誰もが改めて実感していた。

管理者はどこまでも無差別に攻撃をしかけ始めている。

だからこの異常はいずれ、自分たちの身に降りかかることかもしれないのだ、と。

今はまだ、たまたま無事なだけだとも言えるのだ、と。

管理者の気まぐれ一つで、生命も財産も全てが奪われる。

コーテックス職員だろうが関係ない。

そんな未来が来ないとは、誰にも言えなかった。

 

「人類の何がそんなに気に食わないんじゃ……何をそんなに怒っとる……早く元の管理者サマに戻ってくれ……」

 

アンドレイは端末の前で頭を垂れ、すがるように言葉を絞り出した。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

我々はついに、管理者への直接アクセスを可能にするプログラムを完成させた。

これがあれば、現在の異常事態を解消することが可能なはずだ。

 

だが、先日このプログラムの存在をかぎつけたクレストによってレヒト中央研究所が破壊され、アクセスプログラムの実行が不可能となってしまった。

 

プログラムそのものは襲撃直前に完成していたため、戦闘の混乱に乗じて運び出すことで守り抜いたが、研究所の修復を待っている余裕はない。

レヒト研究所と同レベルの設備を備えた施設を所有しているのは、我々以外にはクレストのみだ。

 

そこで、クレストの先進的実験施設であるリツデン情報管理施設を襲撃し、奪取を図る。

ついては、レイヴンに協力を求めたい。

 

B-2ランカー"ファンファーレ"の指揮の下、全ての周辺基地及び防衛部隊を無力化して欲しい。

クレストは先の環境制御区の事件によって管理者の直接攻撃を恐れ、本社に部隊を集結させ始めており、大規模な戦力投入は不可能だろう。

しかし、我々に利用されることを危惧して施設を自爆させる可能性は少なくない。

敵に余計な判断を下す時間を与えないよう、攻撃は可能な限り迅速に行うようにしてくれ。

 

防衛部隊撃破後は特殊工作傭兵がセキュリティ掌握を行い、然る後に丸裸となった施設をミラージュの本隊が制圧する算段だ。

 

では、頼んだぞ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

「なんだこれは……!?」

 

作戦領域である第一層特殊実験区セクション637に突入したコーテックスの双発式戦略輸送機。

その積載カメラが捉えた戦場の様子は、ソラが今まで見たことがないものだった。

空から猛烈な勢いで降りしきる"それ"は、かつて密林のユニオン防衛戦で目にした"雨"にも似ていて、しかしより白く、まるで大粒の粉のようなものだ。

 

「レイン、どうなってる?空から何が降ってるんだ?」

《これは確か……"雪"と言われる自然現象です。"雨"が氷の粒になったものです。通常の気象ではありませんから、本来は"雨"のように管理者の厳密なスケジュールで実施されるはず……おそらく、人工気象システムの暴走によるものかと》

「ブリーフィングではこんな情報はなかったろ」

《……ミラージュ本隊より通信です。……"雪"は30分前に突如発生。MT部隊は視界不良な上に、レーダー機器やFCSに支障が出ていて満足な作戦行動が取れないそうです》

「だろうな……ファンファーレ!こちらストレイクロウ!どうするんだ、降りるのか?」

 

ソラは通信機越しに、本作戦の指揮官に問いただす。

一拍の間の後、B-2ランカーは落ち着き払った声で返答してきた。

 

《作戦は続行だ》

「レーダーもFCSも正常に作動しないんだぞ」

《だからこそだ。特殊実験区といえど、"雪"が観測されることは滅多にない。当然、この特異な状況下での戦闘に対応する装備やマニュアルはクレストも有していないだろう。奇襲には最適だ》

「後詰めの本隊が動けないのにか?」

《AC3機と特殊工作傭兵で片づける。ミラージュ本隊は"デュミナス"を向かわせろ。インターピッド、ストレイクロウは輸送機から発進。オーバードブーストで周辺基地を強襲する。ルージュは空中で待機だ。掃討後に施設に突入してもらう》

《ルージュ了解。2人にお任せするわ》

「……無茶させてくれるな」

《お前ももうひとかどのレイヴンだろう。無茶など、今までいくらでもしてきたはずだ》

 

ファンファーレの物言いは挑発的だったが、生粋の冷静な声音がその言葉に説得力を与えていた。

それはBランカー上位にまで駆け上がり、ミラージュから絶大な信頼を得るまでになった男の自信の表れであり、そしてソラの実力を一定買っている証明でもあった。

 

「……まあ、ここまで来て帰るわけにもいかないな。レイン、"雪"への対応について、メカニックチーフにACの調整事項を確認してくれ」

《了解しました》

「よし……ストレイクロウ、出るぞ!」

 

輸送機からブースタを吹かし、黒いACが白い空に舞った。

舞い散る"雪"を防御スクリーンで蒸発させながら、巨体が勢い良く大地に降り立つ。

ストレイクロウが着地した途端、サブモニターに脚部の異常が表示された。

うっすらと堆積した氷の絨毯のせいで、ブレーキング性能が低下しているらしい。

ソラが軽くフットペダルを倒してACを歩かせてみると、確かに足が流されるような挙動の軽さを感じた。

だが、戦えないほどではない。

 

《インターピッド降下。……ストレイクロウ、最優先目標は情報管理施設周辺に5つある基地のレーダー設備だ。ミラージュの偵察によるスポットを共有する。手早くやるぞ》

「了解……っ!」

 

レーダー上に5つのスポットが表示された。

レイン曰く、座標データで転送してきたとのことで、おそらくこの悪天候でも位置情報は正確だろう。

一番近いスポットめがけ、ソラは操縦桿横のレバーを引き上げて、オーバードブーストを起動した。

叩きつけるような白い氷粒の中を、ACが猛烈な勢いで突き進んでいく。

モニターには"雪"が舞う様子しか映っていない。

ロックサイトの中でFCSのロックオン表示が誤作動して暴れ、雪中戦闘の困難さを予感させた。

 

「……見つけた!」

 

"雪"の彼方に一瞬、通信アンテナと思しき巨大な影がちらついた。

フットペダルを踏み込み、さらに加速して距離を詰めていく。

すぐに影はくっきりとした形を伴い、モニターの中心にデカデカと表示された。

迎撃は、ない。

 

「まずは1つ!」

 

オーバードブーストを停止し、慣性で地面を大きく滑りながらストレイクロウは右腕のバズーカを持ち上げた。

レーダー設備に砲口を向け、マニュアル照準で射撃を撃ち込む。

何の装甲も持たないそれは2発の大口径砲弾の直撃で木っ端微塵に吹き飛び、鉄骨を撒き散らしながら音を立てて崩れた。

 

《なんだ、アンテナが……!?》

《敵襲、敵襲だ!》

《管制室、周辺基地に増援を!》

 

ACの頭部COMが敵の混乱する様を傍受する。

やがて、基地の奥から計10機ほどのスクータムとエピオルニスがのろのろと向かってきた。

通常なら十全にロックできる距離でも、降り注ぐ"雪"の中では上手くいかない。

それどころかFCSはやはり狂ったようにロックを乱し、MTではなく"雪"の大粒を捉えたり端のガレージを捉えたりと、まったく正常に作動していない。

レーダーもだ。10機ほどの敵を、20機近い数に誤認している。

 

「ちっ……!」

 

ソラは素早くロックサイトを非表示にし、ブースタ全開で敵MT部隊に突っ込んだ。

突然の強襲に慌てたMT達は、バズーカやガトリングを必死に撃ち鳴らすも、FCSの異常もあってかまるで射線が定まらない。

先頭のスクータムめがけて、ソラは機体ごと体当たりした。

MTの正面装甲を脚部"MX/066"の膝装甲の突起で串刺しにして沈黙させ、同時にバズーカのマニュアル射撃ですぐ真横のスクータムの顔面を吹き飛ばす。

さらに怯えて下がろうとしたエピオルニスに追いすがって、レーザーブレードで両断した。

一瞬で3機を屠ったACの乱暴な攻撃に、クレストのMT部隊は明らかに浮足立った。

重要施設とはいえ、元々僻地の特殊実験区勤務の部隊だ。実戦経験など皆無なのだろう。

怯えたように叫びながら、がむしゃらに射撃を繰り返すだけの粗末な反撃しかしてこない。

ソラはあっという間に、基地の守備隊を制圧した。

念のために管制塔も吹き飛ばし、近隣基地への情報共有を食い止める。

 

《レイヴン、メカニックチーフに確認が取れました。簡単な調整で、FCSの異常だけでも解消できるそうです》

「すぐ弄る。手順を頼む」

《はい》

 

ソラはレインの指示通りにコンソールを叩き、FCSの設定を変更した。

オートロックの感度を低下させ、識別タイプを熱量感知のみに変更し、余計な捕捉機能は切断していく。

FCSの異常は収まり、必死に"雪"の粒をロックオンしようと暴れていたロックマーカーが正常に戻る。

 

「よし、次だ」

 

レーダー上のスポット表示が1つ消えている。

ファンファーレが別の基地を潰したらしい。

ソラは再びオーバードブーストを起動し、"雪"を蹴散らしながら次の目標へと向かった。

半ば凍り付いた小河を飛び越え、2つ目の基地に接近する。

レーダー設備の影を視認するより先に、赤いプラズマがストレイクロウの肩を掠めた。

間違いない。フロート型MT"カバルリー"の砲撃だ。

この視界不良な悪天候の中で、ACより先にこちらを捕捉しているらしい。

つまりこの突発的な異常気象に素早く対応できた、少しは出来る指揮官がいるということである。

 

「だが悪いけど、同じことだ」

 

比較的正確にACを狙い撃ってくるプラズマを高出力ブースタでかいくぐりつつ、ソラはレーダー設備に最接近した。

巨大なアンテナをバズーカで爆破し、次いでわらわらと囲んでくるカバルリー達と対峙する。

カバルリー部隊は一定の距離を置きながら左右に機体を揺らしつつ、不規則にプラズマを撃ち放ってきた。

砲撃を躱した直後にさらに追撃が放たれ、なかなか息をつく暇もなく回避行動を強いられる。

フロート型MTの高機動と高火力、そして数の利を活かした、有効な戦い方だ。

だがそれは所詮、教科書通りの優秀さだった。

管理者の高性能MT部隊と幾度もやり合ってきたソラにとっては、少々手がかかる程度でしかない。

 

「っ!」

 

オーバードブーストで無理やり包囲を突破し、基地内部に侵入する。

真っ先に狙ったのは、そびえ立つ管制塔だ。

ストレイクロウはガラス張りの司令室めがけて飛翔し、レーザーブレードで薙ぎ払った。

司令室は容易く溶断され、中にいた人間達は一瞬で蒸発してこの世から消え去る。

 

《し、司令!!》

《クソっ、レイヴンめ!》

 

指揮官を直接狙った速攻に遅れて反応したMT達が、隊列を乱してACを追ってくる。

やはり、指揮を取っていた男が優秀なだけだったらしい。

先ほどまで整った動きを見せていたMT部隊は統制を失い、射撃も雑になり、何機かは喚きながら真っ直ぐ突っ込んできている。

もう、敵ではなかった。

ものの数分とかからず、ソラは2つ目の基地を制圧し終えた。

 

「こちらストレイクロウ、周辺基地を2つ落としたぞ」

《インターピッド了解、こちらも2つ目を潰したところだ。あと1つだな。……ストレイクロウ、ルージュ及びデュミナスと共にリツデン情報管理施設に突入しろ》

「俺も?」

《……施設の中にも守備隊がいるだろう。1機より2機でやった方が効率がいい》

《ルージュは了解したわ。ストレイクロウ、疲れてるなら私1人でもいいけれど?》

「……余裕だよ。デュミナスは?」

《安全なルートを侵攻中だ。そのまま施設の正面でお前達と合流させる。インターピッドは最後の周辺基地に向かう。施設の位置はスポットを参考にしろ。……ルージュ、判断は任せる》

《…………了解》

 

通信がぶつりと切られ、ソラは息を吐いた。

B-2ランカー"ファンファーレ"は確かにミラージュの最高戦力に相応しい、優秀なレイヴンに違いなかった。

だが、ソラにとっては妙に肩が凝る相手でもあった。

怜悧さの中に人間味が垣間見えるレインとも違う、どこまでも事務的で冷徹な口調があまり好きでないのかもしれない。

そんなことを思いながら、ソラはまたオーバードブーストを吹かす。

"雪"の残滓ですっかり白く染まった大地を駆け抜けながら、目標のリツデン情報管理施設へと向かった。

 

《やぁ、久しぶりだね。ストレイクロウ》

 

先行したリップハンターのAC"ルージュ"によって、施設周辺の防衛部隊は既に制圧されていた。

遅れて参じたソラを出迎えたのは、白銀色のカバルリー。

何度か戦場で協働した特殊工作傭兵"デュミナス"だ。

 

「デュミナスか、待たせたな」

《アビア湾の座礁船の一件、やっぱりこういうことだったようだね。管理者へのアクセスプログラムだなんて……そんな畏れ多い物をよく作るよ、ミラージュは》

「だけどこれが成功すれば、レイヤードの混乱も終わりだろ?」

《……ああ。成功すれば、ね。まあ、成功しても……だろうけど》

「?」

 

デュミナスの含みある言い方にソラが口を開こうとした時、ルージュの通信が割り込んできた。

 

《ストレイクロウ、施設の侵入口は2つよ。丘陵を挟んだ北側にもう1つ入口があるみたい》

「正面突破か裏口かってことか?コードキーは?」

《内通者からある程度のデータ提供は受けている。両方とも、私が何とかするよ》

《……ストレイクロウは正面から行って。デュミナスは私と一緒に裏口から》

《マップデータはあるのかい?》

《ないわよ。それを何とかするのがあなたの仕事でしょ?特殊工作傭兵さん》

《……言うね、彼女。私としては、出来れば護衛は君の方がいいんだけど》

「リップハンターの実力はMT乗りなら知ってるだろ。……大一番だ、頼むぞ」

《…………そうだね、善処するさ》

 

デュミナスのカバルリーが施設正面のゲートに接近し、アクセスを開始した。

1分と経たずに、ゲートは開いた。

 

「さすがだな」

《……ストレイクロウ、戦闘ログを確認しておいてほしい》

「?」

 

デュミナスが促す通りに、ソラはコンソールを叩いて戦闘ログを確認した。

レインやファンファーレ、リップハンターとのやり取りに混じって、デュミナスから電文が送信されていた。

 

 

《ミラージュ ニハ キヲツケロ》

 

 

「……!?」

《じゃあ、正面は任せたよ》

「……っ、え、ああ。了解」

 

カバルリーは白い丘を滑り、反対側の裏口へと向かっていった。

ソラは少し考え込んだ後、ストレイクロウを動かし、施設のメインゲートから内部へと入っていった。

先日コーテックスが復活させた僚機のAP表示機能の使用は、求められなかった。

 

………

……

 

 

リツデン情報管理施設地下の、大きく開けた空間。

広大な空間の壁面にはかなり大型の精密機械が大量に埋め込まれ、何やら怪しげな発光を繰り返している。

データを集積管理している、サーバールームか何かだろうか。

そんな重要度の高そうな室内で、ソラはコクピットモニターを睨みつけ、操縦桿を握る指に力を込めていた。

 

《テン・コマンドメンツもダブルトリガーも。やったのは貴方らしいわね、ストレイクロウ》

「…………」

《ファナティックが目をかけるだけあるわ。ふふっ、戦う時を楽しみにしていたの》

「……そりゃどうも」

 

ストレイクロウが相対する白い軽量二脚ACから、妙齢の女性と思しき美しい声音の通信が入る。

そしてもう1機、白いACの後方から橙色のタンク型ACが姿を現した。

 

《まあ、袋のネズミって奴だ。2対1だが、悪く思うなよ。これも依頼だ》

 

クレストの雇った迎撃の待ち伏せ――ではなかった。

ソラが行き止まりと思しきこの空間に到達した後で、これまで通ってきたゲートから2機のACが現れたのだ。

つまり、追跡されていたということになる。

 

《データ照合完了……C-4ランカーAC"ネージュ"、D-7ランカーAC"カストール"です、レイヴン》

「クレストの差し金か?よく間に合ったな」

《……ええ、間に合ってよかったわ。じゃあ、悪いけれど》

 

白い二脚AC"ネージュ"が、肩のミサイルユニットと連動ミサイルを起こした。

 

《死んで》

 

歌うような美声が発した、死の宣告。

ネージュが放った5発ものミサイルが、噴射炎を吐きながらストレイクロウに向かってくる。

ソラはフットペダルを踏み締め、ACを跳躍させてミサイルの束を躱した。

そこに殺到する、徹甲弾の激しい連射。

"カストール"が右腕に持つ、対ACライフルだ。

機体をスウェーさせつつ弾幕をやり過ごし、ソラは素早く部屋の壁際まで後退した。

 

「ここはサーバールームか何かだろ?クレストにとっても重要な施設のはずだ!そんな無神経に撃ちまくっていいのかよ!」

《クライアントからは、特に何も言われてないわ》

《ああ。"消せ"とだけしか、な》

 

クライアント。クライアントか。

先ほどのデュミナスの意味深な電文。

ソラの脳裏に、嫌な予感が過る。

だが、その予感に向き合うよりも先に、2機のACは猛攻をしかけてきた。

AC2機分の弾幕ともなれば、余計なことを考える暇などなかった。

 

「こちらストレイクロウだ!ルージュ!AC2機と交戦中だ!」

《こちらルージュ。現在、デュミナスがシステム掌握作業中。……裏口側にもMT部隊がいたわ。悪いけれど、援護には行ってあげられないから》

「……っ、インターピッド!」

《インターピッドだ。クレストの増援と交戦している。突入班は施設の制圧を急げ。なお、不用意に設備を破壊するなよ。目標はあくまで基地の奪取だ》

「そうかよ、クソがっ!」

 

どこ吹く風の通信を返してきた僚機達に唾を吐き、ソラは操縦桿を滅茶苦茶に振り回す。

軽量二脚のネージュが前衛、タンク型のカストールが後衛のシンプルな攻勢だ。

ネージュは軽量の機動性を活かして空中を飛び回りつつハンドガンをばら撒き、カストールがその後ろから対ACライフルで狙い撃ってくる。

施設の損壊などまるで考慮しないような2機の苛烈な攻撃は、ソラの神経とストレイクロウのAPをガリガリと削っていく。

AC2機と連戦したことはあった。

だが、AC2機と同時にやり合うのはこれが初めてだった。

普段ならば躱せるような射撃でも、タイミングをずらしながら二重で撃たれれば厳しい。

それに今回のストレイクロウの装備はバズーカとブレード、そしてミサイルだ。

バズーカとミサイルでは、もし射撃が外れて壁面に命中すれば、設備にダメージを与えてしまう。

いっそのこと、生き残ることだけを考えて、気にせず撃つか。

いや、それでミラージュのアクセスプログラムが使えなくなれば、元も子もない。

躊躇するソラに構わず、ネージュがまたもミサイルを撃ち放ってきた。

マルチロックによって矢継ぎ早に放たれる誘導弾を、ソラは本能と経験で躱す。

外れたミサイルが後方に着弾、部屋中の精密機器が次々に爆散していく。

さらに、カストールがライフルを下ろし、肩のパルスキャノンに切り替えた。

連射性能に優れた光弾が、レイヴンの力量故か、さほど射線が定まらずに降り注いでくる。

これもまた、無神経に設備を破壊していった。

 

「……ぐっ、っ、かはっ!!」

 

ソラは切羽詰まって荒く息を吐き、目を見開いた。

そして頭をすぐに冷やし、考え方を改める。

自分がろくに反撃せずとも、敵AC2機は攻撃の手を緩めない。

施設の損壊など気にせずに、ひたすら撃ち込んでくる。

ならば、躊躇するだけ無駄だ。

いや、もっといい方法があるじゃないか。

攻撃を、外さなければいい。

全て、敵機に命中させればいい。

それで設備の破壊は防げる。窮地も脱せられる。

敵ACの速やかな撃破に、全神経を注ぐのだ。

 

《っ!?》

 

やると決めてからの、ソラの動きは素早かった。

前衛を務めるネージュにオーバードブーストで突撃し、迎撃のブレードを掻い潜って、逆にブレードを一閃する。

そしてその勢いのまま、中量脚部"MX/066"の尖った膝装甲で蹴りを見舞った。

空中で連撃を受けたネージュは安定性を失い、体勢を崩して地上へと落下する。

 

《粘るな!》

 

カストールのレイヴンが吠え、イクシードオービットを射出して、パルスとレーザーの嵐を放った。

だが、狙った先にはもうストレイクロウはいなかった。

オーバードブーストで敵のロックオンをすり抜けるようにして回り込み、側面からバズーカで牽制した後、ブレードを見舞った。

高出力型のレーザー刃もさすがに一撃だけではACの致命傷とはならないが、何度も振るえば話は別だ。

パルスキャノンとイクシードオービットが銃口を向けるよりも早く、3度の斬撃を見舞い、カストールの旋回完了に合わせてソラは素早く離脱した。

ミサイル弾幕の置き土産と一緒に。

 

《畜生、なんだこいつっ……急に動きが!》

《そう来なくちゃね……!C-1ランカー!》

 

立ち直ったネージュがハンドガンを連射しながら空中を突進してきた。

狙いは見えていた。ソラはバズーカの連射で食い止めながら、それでも突っ込んでくる敵の接近を待ち受ける。

赤いレーザー刃が発振され、ストレイクロウの頭部向けて振りかぶられる。

振り下ろされた敵の左腕を、ソラはバズーカの砲身で殴りつけて無理やり弾いていなし、お返しの斬撃をくらわせた。

 

《……っ、ふふふっ、やるじゃない、若造が……!》

 

歌うようだったネージュのレイヴンの語気が獰猛に変化し、昂奮したように笑った。

ミサイルの爆煙から現れたカストールがパルスキャノンを撃ちっぱなす。

ストレイクロウは空中に飛翔して不規則に上下に揺れ動き、捕捉を躱しながら旋回して、またカストールに向けてブースタを吹かした。

めくら撃ちされるライフルを掻い潜り、正面装甲をレーザーブレードで薙ぎ払う。

カストールが動きを止めたのは一瞬だった。

タンク型ACの安定性を活用し、そのまま橙色の敵機はブレードで反撃の突きを放つ。

これもまた、ソラはバズーカの砲身で左腕を払いのけることでやり過ごし、ブレードを振るってコアを再び薙いだ後、素早く離脱した。

 

《……ぐ、くそったれこの野郎!2対1だぞ!?》

《怖気ないでカストール!そいつはさっきから動きっぱなしよ!もうじきエネルギーが切れる!》

 

鋭いネージュの指摘に、ソラは冷静にEN残量を確認した。

レッドゾーンギリギリ。レーザーブレードを1回振れば、チャージングはすぐ目の前だ。

空中を飛び回ることも出来ない。

ストレイクロウは大人しく着地して、脚部を走らせてはバズーカで弾幕を張り始めた。

狙うのは、Dランクのカストールだ。

レイヴンとしての力量も判断力もネージュに劣るため、中距離からでもバズーカを当てやすい。

バズーカの直撃を何度も受けながら、敵タンク型ACはパルスキャノンとイクシードオービットを垂れ流してくる。

だが、やはり狙いが甘い。地上でブースタを使わずとも、跳躍と走行である程度は凌げてしまう。

応酬の内にカストールの防御スクリーンが時折ショートし始め、レイヴンの切羽詰まった呻きが通信に漏れ始める。

しかし、僚機が削り尽くされていくのを黙って見過ごすネージュではなかった。

 

《そこまでよ!》

 

ハンドガンの正確な射撃が、ストレイクロウの攻撃を逐一妨げる。

手練れのC-4ランカーは、もうブレードの間合いには近寄ってこない。

連射力とストッピングパワーに優れたハンドガンで、火力の分厚いカストールの援護をしようという腹だろう。

カストールさえ生かせば、数の利で押し勝てると踏んだのだ。

間違っていなかった。

だがソラの集中力は、かつてグラン採掘所で管理者のACとやり合った時同様、極限に達しようとしていた。

 

「行くぞ……!」

 

EN残量セーフティ。オーバードブースト起動。

カストールに頭部カメラを向ける。

ハンドガンの連射が止んだ。マルチロックがかけられている。

だがもう遅かった。

降り注ぐミサイルの雨をすり抜けながらストレイクロウは飛ぶようにして、カストールへと突っ込んだ。

 

《おあああぁっ!!》

 

乾坤一擲。カストールはレーザーブレードを最大出力で発振し、ブースタ全開で突きを放ってきた。

まぐれか火事場の力か、コアを正確に狙った必殺の一撃。

だが届かなかった。

微細にブースタの噴射方向を調整したストレイクロウは突きを間一髪で躱し、代わりに膝装甲の突起を敵のコアめがけて叩き込んだ。

 

ドギャッ。

 

凄まじい勢いで衝突した防御スクリーン同士が一瞬スパークし、APが有り余っていたストレイクロウが競り勝って、カストールのコアがひしゃげて吹き飛んだ。

黒煙を噴き上げる橙色のタンク型ACは、もう項垂れたままピクリとも動かない。

 

《見事ね……》

 

ネージュのレイヴンが呟き、ふわりとストレイクロウの前に着地した。

ハンドガンとミサイルユニットをパージし、レーザーブレードで斬りかかってくる。

ソラはブレードの薙ぎ払いを跳んで躱し、お返しに空中から斬り下ろした。

ネージュの防御スクリーンもまた、ショートし始める。

だが、ネージュはそれでもブレードを振り続けた。

ソラもまた、その勝負に付き合った。

何度目かのブレードが直撃した時。

ネージュはとうとうレーザー刃の高熱に耐えきれなくなり、コアを溶断されて爆散した。

 

《こちらルージュ。ストレイクロウ、生きてるの?》

「生きてるよ。おかげさまでな」

《……それは良かったわ。施設の掌握は完了よ。作戦は終了ね》

「デュミナスはどうしてる?」

《無事だよ。何とかね。なかなかハードな作業だったけど、貴重な体験が出来た》

「……………」

《……君も、無事で何より》

「……ああ」

《ルージュよりインターピッドへ。施設の制圧は成功。……今回はこれで終わりにしましょう》

《……インターピッド了解。後はミラージュの技術者達の仕事だ。速やかに撤退するぞ》

 

リップハンターとファンファーレは、何事も無かったかのように飄々と通信を返してきた。

デュミナスも無事だったようだ。

ソラは戦いの中で研ぎ澄まされきった"感覚"に身を委ねながら、息を吸っては吐いてを繰り返した。

 

《レイヴン……あの、先ほど襲ってきた2機のACですが……》

「作戦は終了だ、レイン。今はそれでいい。このままちゃんと家に帰してくれるなら、な」

 

深刻そうに言うレインに、ソラは目を閉じて言葉を返した。

本当は、考えるべきことがあるのかもしれない。

この後施設を出た先で、何かが起こるかもしれない。

 

しかし今は、ミラージュの管理者へのアクセスが成功するのを、素直に願うことにした。

それでレイヤードが、管理者が、正常に戻るのならば。

 

だが、もしも。万が一、ここで。

ソラは目を開き、APを確認した。

残りAP4000。

 

《……ねえ、ストレイクロウ。よく2対1を切り抜けたわね。さすが、と言うべきかしら》

「まあな。そうは言っても、CランカーとDランカーだ。相手が大したことなかったんだよ」

《……そうかしら。それだけとは、思えないけれど?あなたは何か"普通じゃない"。そんな気がするわ》

「どうかな。もしもアンタとファンファーレの2人がかりなら、さすがに死んでたさ。なあ、リップハンターさんよ」

《……何が言いたいの?》

 

通信機の向こう側で、リップハンターが声を低めた。

 

「別に。……それよりリップハンター、1つ聞かせてくれよ。以前、クレストのガルナット軍事工場を襲った帰りだ。あんた輸送機で言ったよな」

《…………》

「"ミラージュはどうしてユニオンを切ったと思う?"ってよ。どうしてなんだ?」

《変な男ね。そんなこと、今さら聞いてどうするの?》

「必死にあれこれ考えたけど、俺には結局分からなかったよ。あんたには、分かるんだろ?」

《……ええ。何となくね》

「じゃあ、ちょうどいい機会だから教えてくれよ。キサラギの壊滅でユニオンはもうお終いみたいなもんだし、ミラージュがこのまま管理者にアクセスできれば、レイヤードはミラージュの天下だろ?俺も、今後の身の振り方を真剣に考えなくちゃな」

《……そう。なら、教えてあげる》

 

そう言ってリップハンターは、苛立ったように息を吸い込んだ。

苛立ったようにと感じたのは、ソラの思い込みかもしれない。

だが少なくとも何か暗い感情が、彼女の発言を後ろから押しているように感じられた。

 

 

《必死に高く飛んでも、どれだけ高く飛んでも、レイヤードの空の先には天井板しかない。この地下世界には、地下世界の神様が決めた、人間の限界がある。それが分からない人達だけが、いつまでも無駄なことをしている。そういうことよ》

 

 

ソラは返事を返さずに、そのまま通信を切った。

戦場で協働し始めてから薄々と、ずっと思っていたことの、確信を得た気分だった。

この女は――リップハンターは好きになれない。

 

あの日、初めて登校した学校で、教壇の上で喋っていた教師と同じなのだ。

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

そう告げた教師と、同じなのだ。

どうしてあの言葉をずっと覚えていたのか、どうしてあの教師をクソだと思ったのか、今何となくソラは分かった気がした。

 

ただ空への憧憬を汚されたからだけではない。

幼い頃の夢を無感情に奪われたからだけではない。

 

きっとあの、全てを諦めて悟ったような口ぶりが、心底嫌いだったからだ。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:ミラージュ代表

TITLE:アクセス不能

 

レイヴン"ソラ"、度重なる我が社への協力に対して、ミラージュ代表として改めて礼を言う。

ファンファーレ、リップハンター両名から、お前の評価は聞いている。

 

現在、我がミラージュは制圧したリツデン情報管理施設より、管理者へのアクセスを試みている。

しかし、状況は芳しくない。

 

どうやら管理者は常に自己のプログラムを改修し続けており、これを掌握するには管理者の情報処理速度を超える必要があるらしい。

技術者連中は、大量の機材と人材をかき集めて時間をかければ掌握は不可能ではないと話しているが、もはや我が社にそこまでの余力はない。

 

管理者の実働部隊の暴走はいっこうに収まらず、工場や研究施設のみならず、市民の居住区までもが次々と破壊されている。

MT部隊やレイヴンを投入しても、奴らの予測不能な攻勢の前では、焼け石に水をかける程度でしかないというのが現状だ。

 

旧キサラギ管轄セクションは、ろくな支援や監督も行き渡らずに半ば無法地帯と化しており、その恐慌と暴動は他の都市部にも広まりつつある。

それに加えて、先日の環境制御区における動力施設群の消失だ。

一部の区画では既に電力・酸素供給が停止し始めたという情報もあり、クレスト管轄セクションの多くも直に、惨状を呈することになるだろう。

 

ミラージュの支配領域においても、悪影響がまるで抑えきれなくなってきている。

人材も兵器も資源も、理不尽な速度で削られていく一方なのだ。

 

もはや、地下世界"レイヤード"の維持そのものが困難になりつつあると言っていいのかもしれない。

 

レイヴン、我々はどうすればいい。

我々は、管理者を怒らせてしまったのだろうか。

だとすれば一体どこで、間違えてしまったのだろうか。

一体どうすれば、管理者は鎮まるのだろうか。

 

管理者は我々を拒絶するばかりで、何も答えてはくれない。

だがそれでも、我々は呼びかけ続けるしかないのだ。

 

人類には、管理者が必要なのだから。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:フレデリカ・クリーデンス

TITLE:直接連絡

 

レイヴン、アクセスプログラムの件は残念でした。

地下世界最大の企業ですら及ばなかった以上、人類が管理者に抗する術はいよいよなくなりつつあると言わざるをえません。

 

つきましては、一度直接連絡を取れないでしょうか。

 

レイヤードの現状について、ユニオン副官としてあなたと話がしたいと思っています。

 

連絡は、こちらからあなたの携帯端末に行います。

日時を指定してください。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

人工太陽がセクション301の西端に沈む頃。

ソラは神妙な顔でリビングのソファに腰かけ、眼前の机に置いた携帯端末をじっと見つめていた。

 

約束の時刻まで、あと30秒。

あと20秒。

10秒。

5秒。

 

ピー。ピー。

 

「……もしもし」

《初めまして、レイヴン"ソラ"。改めてご挨拶を。私はユニオン副官、フレデリカ・クリーデンスと申します》

 

奇妙な違和感を覚えた。

ソラは黙りこくって口をもごつかせながらその違和感の正体を探り、やがて何となく思った。

 

どこかで聞いたことのある声だ、と。

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