ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

53 / 69
クレスト本社防衛編です。前後編です。
今回はレーザーライフルとブレードとロケット装備です。
フレーバー程度ですので、武器以外は一切気にしなくても大丈夫です。

右腕部武装:MWG-XCB/75(75発レーザーライフル)
左腕部武装:CLB-LS-2551(緑ブレード)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:MWR-M/45(45発中型ロケット)

頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLM-MX/066

ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA77
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)、SP/E++(EN武器威力上昇)


管理者部隊迎撃・1

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:スパルタン

TITLE:クレストについて

 

相当まずいな。

クレストはかなり焦ってる。

 

奴らの本社防衛依頼を受けたのは、今日で4度目だ。

別に本当に攻撃を受けたわけでもないのに、実質ただの哨戒任務を繰り返し依頼してきやがる。

 

林檎少年とか他の知り合いのレイヴン達も、ひっきりなしに本社の防衛に駆り出されてる状況だ。

クレストは管理者が怖くて怖くて仕方がないらしい。

 

まあ、それも仕方ねえだろうな。

キサラギ本社が実働部隊にやられて落ちた前例があるんだから。

 

長年の勘だ。

クレスト製のパーツで、目をつけてる物があったら今の内に買っとけ。

 

もうクレストは長くねえぞ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:アップルボーイ

TITLE:お元気ですか?

 

ソラさん、お久しぶりです。同期のアップルボーイです。

お元気ですか?

 

僕の方は最近、クレスト本社があるセクション422の防衛依頼をよく受けます。

といっても、何か襲撃があるわけでもなくて、作戦中はよく僚機のスパルタンさんと話をしています。

スパルタンさんはさすが歴戦の傭兵という感じで、色々なことを知っていて博識ぶりにいつも驚かされています。

 

そのスパルタンさんですが、「そろそろクレストは終わりだ」と言っていました。

実際のところ、どうなんでしょうか?

 

確かに、今のクレストの過剰な警戒の仕方は危ういものを感じます。

でも、本社の防衛戦力増強はミラージュも行っていて、僕はそちらからも防衛依頼(実際はただの見回りでしたけど)を受けたことがあります。

スパルタンさん曰く、本格的に守りに入り始めるのは後がない証拠だそうですが、その理屈だとミラージュもまずいってことですよね?

 

レイヤードはもう、管理者の部隊の襲撃で無茶苦茶です。

僕自身、産業区でも都市区でも彼らの暴走による被害を直に目の当たりにしてますし、力及ばず撤退したことだって何度もありました。

一体、いつになったらこの状況は終わるんでしょうか?

管理者の部隊って、戦力が途切れることはないんでしょうか?

先行きが全然見えなくて、このまま攻撃がいつまでも続いたらと、すごく不安に思ってしまいます。

 

それと、気になることがもう1つあります。

 

独立系の報道で見ましたけど、一般市民の間で急速に管理者信仰が強まっているそうなんです。

この一連の襲撃は管理者が増長した人類を裁くために行っているものだって、人類は甘んじてそれを受け入れるべきだって、そう主張するカルト団体も勢力を強めているみたいです。

 

僕は正直言って、そういう極端な意見は信じていません。

だって、管理者は人工のAIシステムなんでしょう?

人類の役に立つために、人類によって作られたはずじゃないですか。

本物の神様みたいに信仰して裁きを受けるなんて考えは、どこか間違っている気がします。

それに、もし本当にそうなら、僕達レイヴンや企業の兵士達が必死に頑張っているのは無駄ってことになるじゃないですか。

だとしたら、悲しすぎます。

もう既に大勢の人が死んでいるのに、それを受け入れろだなんて、死んでいった人達にも失礼ですよ。

 

ソラさんは、どう思いますか?

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:ワルキューレ

TITLE:全レイヴンに伝達

 

こちらは、B-3ランカー"ワルキューレ"です。

A-1ランカー"エース"及びA-3ランカー"ロイヤルミスト"の要請により、全レイヴンへこのメールを送っています。

 

用件は2つ。

 

1つ目は、パーツの購入について。

情勢の悪化によって企業からのパーツ入手が今後難しくなっていく可能性があります。

手持ちの資金と相談しつつ、今後必要となるパーツ及び常用しているパーツについては、計画的な買い溜めを推奨します。

また、弾薬費及び機体修理費の負担軽減について、Aランカー3名がコーテックス上層部と交渉する予定です。

 

2つ目は、企業との専属契約について。

最近、クレストが一部の下位ランクレイヴンに対して、専属契約を強引に要求した事例を確認しています。

信条に即した依頼の取捨選択は勿論自由ですが、レイヴンはあくまでグローバルコーテックスに依頼を斡旋されて活動する傭兵であることを忘れないように。

専属契約が判明した場合は、コーテックスからの支援が打ち切られ、レイヴン登録が抹消される可能性がありますので、注意してください。

 

地下世界の騒乱において、私達レイヴンはまぎれもなく当事者であり、人類にとっての最高戦力でもあります。

その自覚を持ち、傭兵活動を続けていきましょう。

高く飛ぶために。

 

以上。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

グローバルコーテックス本社近くのテスト場。

ACが十全に戦闘機動を取れるほどの規模で建造された屋内実験場はしかし、管理者の部隊が暴走し始めて以降、利用者が激減していた。

そこに併設されたガレージにACが1機、テストを終えて帰還する。

新しく購入した大型ロケット"HECTO"を装備した、ソラのAC"ストレイクロウ"であった。

 

「レイヴン、お疲れさまです」

「ああ、悪いなレイン。本社の仕事が忙しいだろうに」

 

コクピットシートからハンガー通路に移ったソラは、出迎えてくれた専属オペレーターのレインに手をあげた。

レインは目を閉じて軽く会釈し、垂れた金色の前髪を自然な動作で耳の上にかき上げる。

何気ない仕草ですら絵になるのだから美人は得だとソラは思いながら、手渡されたファイルを早速開いた。

内容は調査を依頼していた、管理者直属の特務機関"AI研究所"についてだ。

 

「すいません。結論から言いますが、ユニオン副官フレデリカ・クリーデンスの所属しているという"AI研究所"については、何も分かりませんでした」

「……やっぱりか」

「ええ。そもそも彼女の言う通り、その組織がコーテックスよりも上位の権限を有しているのならば、私のような一職員の調査では……」

「いいよ。駄目元だったんだ。実際のところ、本当に存在しているかも怪しいしな。あの女が嘘を並べていた可能性だって、大いにある」

「ですが、ユニオンの一連の高度な暗躍は、企業やコーテックスよりも大きな力を有している者が支援していないと、不可能な物が多かったように思います」

「まあな。だからこそ、調査を頼んだんだが……」

 

ソラはそこで言葉を切って、ファイルをペラペラとめくっていった。

レインの調査はとても精密だった。

コーテックスの関係機関のピックアップから始まり、レイヤード中の大規模施設及び研究所の情報収集、特殊実験区や環境制御区など特殊な区画における不自然な空白部分まで、レイヤードにおいてきな臭いと思われる箇所は片っ端から網羅していた。

この分厚いファイル1つとっても、彼女の優秀さと真面目さ、そしてソラの要請に真摯に応えようとしたことがよく分かる。

だからこそ、"AI研究所"についてこれ以上探りを入れることは不可能だろうと、ソラは改めて思った。

レイヴンの専属補佐官には、グローバルコーテックスの中でも上位の権限が与えられている。

その力をもってすら、フレデリカ・クリーデンスという女の素性を確かめることはできないのだ。

あとはソラ自身が、彼女の言葉の数々を信じるかどうか。

それだけだった。

 

「レイン。管理者の管理プログラムを補佐する特務機関なんてものが本当にあったとして、発生する問題は何だと思う?」

「……レイヤードにおいて企業を遥かに越える権力を一部の人間が握っていること、でしょうか。もしもそれが真実ならば、地下世界の管理体制そのものの根底が崩れます。絶対の存在であるはずの管理者の頭脳に、ある程度干渉できる人間がいるなんて……」

「じゃあ逆に、もしそんな機関がなかった場合の問題は?」

「ユニオン副官を名乗る女性"フレデリカ・クリーデンス"の素性と技術の根拠が一切不明になること、ですね。"AI研究所"の存在が虚偽だとした場合、実際に彼女がユニオンや企業にもたらしたと主張する恩恵がどうやって生み出されたのかが謎になります」

「だよな。彼女の連絡先はもともと、キサラギ代表が直接俺に手渡したものだ。少なくとも企業とのコネクションは本物だった。そして現実としてユニオンが起こしてきたあれこれを考えるならば一定、フレデリカの力とその背景には真実味がある……とすれば」

 

ソラはハンガーの手すりに背中を預け、ガレージの高い天井を見上げながら、専用住居で携帯端末越しに行った彼女との問答を思い出した。

 

「……"フェーズ4"。狂った管理者の起こす次のアクション。現実的にはそれが問題になってくる」

「今以上に、状況が悪化するということですか?」

「少なくともあの女はそう仄めかしてた。けど、具体的に何が起こるのかまでは……いや……」

 

ピー、ピー。

 

携帯端末の着信音が鳴った。

ソラの物ではない。レインの端末である。

 

「…………レイヴン、依頼です」

「どこから?」

「クレスト社です。本社の防衛を依頼したい、と」

「……ユニオンのデータバンク襲撃以降、俺はなんだかんだでずっとクレストの邪魔をしてきた立場だ。そんな俺に、本社を?」

「最近のクレストはもうなりふり構っていません。とにかく声をかけられるレイヴンを交替で本社の防衛に呼び出しています。今まで要所で対立してきたとはいえ、あなたは今やレイヴンとしては上位の実力者です。それだけ、管理者の部隊の襲撃が怖いのでしょうね」

「……そうか。クレストの連中、あれだけ熱心に管理者を拝んでたのにな」

 

ソラはスパルタンやアップルボーイが先日寄越してきたメールを思い出した。

スパルタンは、クレストはもう終わりだと直感していた。

アップルボーイは、ミラージュも危ういのではないかと心配していた。

キサラギが倒れ、フレデリカ・クリーデンスが"フェーズ4"の到来を告げた今、これ以上事態が悪化するとすればそれは――

 

クレストかミラージュの陥落。

それしか思いつかなかった。

 

「……レイン、1つ聞いていいか?」

「ええ。何か?」

「昨日、ワルキューレがAランカーの要請で全レイヴンに送ったメールの件だ。コーテックス本社も把握してるんだろ?ああいう内容は本来、本社が出すものじゃないのか?どうしてレイヴンが主導を?」

「……先日のことです。経歴の浅い下位ランクのレイヴンが数名、登録の抹消をコーテックスに要求してきました。うち1名は企業と専属契約を結ぶため、残りは傭兵活動の継続困難を主張していました」

「それって……」

「専属契約の件は、本人への厳重注意と企業への抗議という形で未然に阻止されています。継続困難の主張についても、今レイヴンをやめれば逆に自衛手段を失うだけだということで納得させました。……ですがこの件の本質は、レイヴンですら現状に耐えかねている者が出始めている、ということです。ですからA-1ランカー"エース"の提案で、全レイヴンにあのメールが送られました。コーテックス社内でも、上層部から同様の通達がされています」

「レイヴンにもコーテックス職員にも、限界が来ている感じか?」

「……はい。独立系メディアが報道していたカルト団体の件は、ご存じですか?この現状は管理者の裁きであるとする声は、予想以上に広がり始めています。私達のセクション301は未だ目立った被害は受けていませんが、それでもコーテックスにはレイヤード中の凄惨な被害情報が集まります。だから、飛躍したような終末論も少しずつ広がって……いえ、違いますね。実際に広がっているのは、管理者の圧倒的な力に対する無力感、というべきでしょうか」

 

レインは俯き、ハンガーの手すりにそっと手を置いた。

その横顔は、かなり疲弊して見えた。

それもそうだろう。

普段の業務やソラの依頼した調査をこなす中で、彼女はレイヤード中の惨状と向き合っているはずなのだ。

ソラはかける言葉も見つからず、ただ手持ち無沙汰に手に持ったファイルを見つめた。

 

「……レイヴン、クレストが本社防衛に異常に固執し始めているのには、おそらく理由があります」

「理由?」

「直近の実働部隊の出現データを整理すると、見えてくるのです。クレスト本社――セクション422に向けてじわじわと、管理者の部隊の出現が集束しつつあります。先日の環境制御区の動力施設群壊滅事件以降、明らかにそういう傾向が現れてきています」

「……本当なのか?」

「はい。コーテックスが気づく傾向に、当事者のクレストが気づかないはずはありません」

 

ソラは何気なく、ハンガーに固定された愛機に目をやった。

そして続けて、その周辺に待機している専任の整備班達にも。

彼らは一様に、疲れきった顔をしていた。おそらくACの整備による疲れではない。

もっと精神的な疲れが、その落ちた肩には滲んでいた。

 

「……ブリーフィングルームに行こう、レイン」

「では、クレストの依頼を?」

「受ける。"フェーズ4"だか何だか知らないが、乗り越えてやる。レイヴンの底力、見せてやるよ」

「……はい」

 

ソラの言葉に、レインは力無く微笑んだ。

その表情は虚勢の笑顔ではなく、思わずこぼれ落ちたような、自然な笑顔だった。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

セクション422の防衛を依頼します。

 

ご存知の通り、同セクションは我がクレストが本社及び多くの重要施設を置く場所であり、ここが被害を受ければ、我々はまさに致命的なダメージを受けます。

クレスト存続のために、セクション422だけは他の全てを差し置いてでも守らなければなりません。

 

他のレイヴンと協働して市街地に広く展開し、管理者の部隊が現れればこれを速やかに排除してください。

 

我々も可能な限りの兵力をこのセクションに集め、警備を行っていますが、連日の実働部隊の各地襲撃やユニオン・他企業との抗争によって精鋭部隊の大半を失っており、管理者の超高性能MT部隊の前には心もとない戦力しか残っていません。

レイヴンの駆るACこそが、現状最大の戦力であると言わざるを得ない状況です。

 

貴方と我が社は、ユニオン・キサラギの殲滅やミラージュのアクセスプログラムを巡って対立を繰り返してきました。

しかし、その実力のほどは、よく理解しています。

 

報酬は可能な限りを約束します。

我々に、力を貸してください。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

第二層環境制御区セクション422。

クレストの御膝元として知られるセクションは、ひどく混沌としていた。

 

《スポット14地点、異常ありませんね。レイヴン、次はスポット15へ移動してください。そこで最後です》

「了解」

 

上空を無数のヘリと戦闘機が飛び交い、高層ビルが立ち並ぶ市街地の舗装路は多種多様なMT部隊が全て埋め尽くさんとばかりにひしめき合っている。

どこかで何か不審な動きがあれば、度を超えた一斉砲火が襲いかかるのは幼子でも想像できるほどの物量だった。

 

「レイン、ルート上に大きめのビルがある。乗り越えてたらチャージングしそうだ。少し迂回するぞ」

《分かりました》

 

ソラが今まで見て来た中でも、図抜けて大規模な高層ビル群は全て防弾シャッターを下ろして不気味な有様を晒している。

中でも特に威容を誇るのは、クレスト本社ビルだ。

通常のビルが十数本束になったような分厚さを持つ巨大な八角柱型の社屋は、セクション天井の人工気象システムをかすめるほどに高々とそびえ立ち、防弾シャッターが張り巡らされた壁面のそこかしこから図太い砲塔を大量に突き出させており、まるで肥え太ったハリネズミがセクション全体を見下ろしているかのような凄まじい威圧感があった。

 

「……デケぇなぁ」

 

もはや頂上付近が霞んですらいるほどの超高層建築を、通りがかったすぐ傍のビルの屋上から見上げながら、ソラはポツリと呟いた。

今ストレイクロウが降り立っているこのビルですら、ACの機動戦闘に耐えうるほどの広さの屋上を備える、そこらのセクションにあれば図抜けたサイズの建築物だ。

だが、それすら「ちっぽけである」と断言できるほどに、クレストの本社は大きく、分厚く、超然として高かった。

地下世界レイヤードに長年覇を唱えてきた二大企業、その片割れの本体ともなればこれほどのものになるのかと、ソラは唸らざるをえなかった。

まさに、"クレスト"という企業の力と歴史の象徴。

この建物は人類の最終戦争の到来を予見して建てられた最後の砦であると言われても納得してしまいそうなほどに、馬鹿げた仰々しさの塊だった。

 

「……こちらストレイクロウ。S地区のスポットを一周した。特に異常はなし」

《レッドアイだ。E-1地区クリア》

《えー、E-2地区のエコーヘッドだが……何も問題は起きていない。このまま任務を続行する》

《こちらエキドナです!W-1地区異常なしっ!2周目行きます!》

《こちらフレア、ACダイナモです。W-2地区、ちょっと哨戒が遅れています……ヘリが多過ぎて、目が疲れるわ》

《グナー了解。N地区も特に問題なしよ。各機、適度に休憩しつつ哨戒を継続してください。クレスト管制室には隊長の私から報告するから》

 

ソラのストレイクロウを含めて計6機ものACの通信が、グローバルコーテックス専用の緊急チャンネルに次々と入ってくる。

緊急チャンネルは本来、レイヤード全体の秩序に関わるほどの特別な緊急事態に遭遇した場合に限り、使用が許されるものだ。

管理者の張り巡らせている通信ネットワークを利用するもので、どんな場所であっても混線や電波妨害を無視して鮮明な通信ができる。

通常であれば使用は許されず、もし使用が発覚すればコーテックス本社から物々しい警告メールが飛んでくるような非常用回線であったが、今回の作戦においてはコーテックス直々に使用が許可されていた。

それには、単純に大規模部隊の通信網との混線を防止する以外の、特別な理由があった。

 

《こちらダイナモ。……ねぇ、本当に管理者の部隊が来たら、この緊急チャンネルが機能しなくなるの?》

《マジよ。あたしらユニオン防衛戦に参加した時に実際に体験してるもん。ね、ファナ先輩》

《ファナ先輩……まあ、エキドナの言う通りではあるが。もっと確実な根拠としては、コーテックスが各地で管理者の部隊と交戦した特定ACの戦闘ログから解析した結果だ。一部の高ランクレイヴンがこの緊急チャンネルを普段から常用していて、実働部隊とかち合った時に限って通信が乱れる例が何度もあったらしい。だから、逆に考えればこの緊急チャンネルは実働部隊に対する索敵に使える。……そうだな、グナー?》

《……そうよ。まあ、その一部の高ランクレイヴンってロイヤルミストのバカのことなんだけど。まったく、この前の全レイヴンへのメールといい、今回の依頼の押し付けといい、あいつって私のこと召使いか何かだと……》

《あー、分かった。しかし、実際に管理者の部隊が現れて、緊急チャンネルが使えなくなったら、その時はどうする?クレストのチャンネルと混線したら、まともな連携は取れないぞ》

《クレストがAC部隊用に他から完全に切り離されたチャンネルを1つ新設してるわ。それに繋ぎ直します。通信精度は落ちるけど、無いよりはマシよ》

「まあ、空振りに終わる可能性もあるんだろうけどな」

《んん、それだ》

 

ソラの発言に、AC"エコーヘッド"のE-6ランクレイヴン"ウェイクアップ"が乗っかってきた。

やたら神経質そうな口調で喋る男だった。

 

《えー、俺としては本音を言えば……空振りに終わってほしくは、ある。ただの哨戒任務で終わってくれれば、と》

《……私も同意。お金だけ貰ってさようならでいいわ》

《ちょっ!何それ、やる気なさすぎでしょ!エコーヘッド、ダイナモ、あんたらそれでもレイヴンなの!?》

 

AC"エキドナ"のレイヴンにしてソラの後輩"レジーナ"が年頃の少女らしい高音を裏返して通信機で叫んだ。

 

《管理者が攻めて来たらボッコボコのギッタギタにしてやる、くらい言ったらどうよ!クレスト本社のバカみたいな過剰戦力のバックアップだってあるのよ!》

《エキドナさん、あなたが有望なレイヴンなのは私もアリーナを見てたから分かるわよ?だけどね、管理者のMT部隊の強さだって知ってるでしょう?本気でこのセクションを攻め落とすつもりで管理者が来るなら、通常戦力なんて何のアテにもならないのよ》

《む、むむむ……!》

《んん、ダイナモの言う通りだ。現にキサラギの本社だって、たった一晩で落ちてる。あの時もレイヴンが複数名投入されたが、全員戦死した。管理者が本気なら、クレストが頭数を揃えたって同じことだ。だから、あー……まあ、何事もなく終わって帰還するのが一番、だろう》

《…………》

《何よこの敗北主義者どもは!!ワルキューレさん!何とか言ってやってよ!》

《……エキドナ、静かにして。作戦行動中よ》

《ひどっ、一刀両断!?》

《はぁ……グナーより各機へ。お喋りはそこそこにして哨戒に集中するように。特にクレストから提供されたスポットデータの地点、実働部隊が突破してくる可能性が高い場所よ。そこを何度もくまなく巡回すること》

《ぐぬぬ……》

 

ソラはうるさい通信機の音量を少し落としながら、次のスポットデータの地点を目指した。

高層ビル群の屋上から屋上へとブースタを吹かして次々に飛び移り、眼下に待機しているクレストのMT部隊の様子を時折確認しては、事前に決められた哨戒ルートを回っていく。

単調な任務だ。これを繰り返していれば通常の数倍近い額の報酬が貰えるのだというのだから、エコーヘッドやダイナモが後ろ向きになるのもある程度は理解できる。

だが、ソラの胸中は不穏に高鳴るばかりだった。

人工気象システムが映し出す偽物の空は、珍しくも快晴。

雲が少なく、青色のど真ん中で人工太陽が眩しく輝いている。

その空の下を忙しく飛び交う、ヘリと戦闘機の群れ。

航空部隊にぶつからないようにストレイクロウが飛び移ったビルの屋上にはちょうど、最新型空戦MTブルーオプスリーの小隊が待機していた。

頭部COMが「異常なしです」と呟くクレストのMTパイロットの声を拾う。

 

「……スポット3、通過。レイン、クレストの待機部隊とかち合った。ルートを一部修正してくれ」

《了解です》

 

レジーナの言う通り、通常ならば過剰戦力にもほどがある防衛網だった。

ここまで分厚い陣容に突っ込んでくるのは、仮に地下世界最大勢力のミラージュといえど絶対に御免被るだろう。

だが、だからこそ。

ソラはコクピットモニターのロックサイトを睨みつけ、レーダー表示をしきりに確認しながら、粛々と哨戒行動を繰り返した。

 

《……先輩、ちょっと》

 

ぶすっとした声のレジーナが通信機でソラに呼びかけてくる。

無視しようかとも思ったが、緊急チャンネルの異常に素早く気づくためには出来るだけ常時使用していた方が都合がいい。

なんだ、と短く聞き返した。

 

《レイヤードってここ最近やたらとドタバタしてるわよね?》

「そうだな」

《あたしも先輩もファナ先輩もワルキューレさんも、皆してユニオンにあんだけがっつり協力したのに、今度はクレストに呼ばれて本社防衛なんてしてるし、なんか変な気分》

「……傭兵ってそんなもんだろ」

《んでさ。あたし、メディアの報道とか企業のメールとか見ててずーーっと疑問なんだけどさ》

「何が」

《管理者って、何でこんなことしてるのかな》

「……は?」

 

少女の急な問いかけに、ソラは思わず頓狂な声をあげた。

 

《レイヴンになる前、学校で同じことしか言わないバカ教師に何度も言われたわ。管理者って超スゴいAIシステムで、レイヤードの全てを網羅してて、人類の生きる地下世界を適正に管理するために存在するって》

「…………」

《そんな超スゴいAIが、何で人類を攻撃するわけ?》

「何でって……それは。……何か異常を起こしたから、だろ」

《本当に?》

「お前、何が言いたいんだ?」

《いや、だって。おかしくない?》

「そうだよ、前にユニオンも言ってたろ。管理者は暴走しておかしくなっちまったから」

《バグって1回やらかした、なら分かるけど。ずっと人類を攻撃し続けてるの、変じゃない?》

「はぁ?何言ってんだ……」

《だからさ、超スゴいAIがずっとバグっておかしいままなのって、よく考えたら変でしょ。こんな大きな地下世界を丸ごと管理するような複雑なAIなら普通、自分で自分のバグや間違った行為に気付いて見直す補助システムくらいあるんじゃないの?本当は……》

「分かんねえな。さっさと結論を言えよ」

 

苛立ちながら、ソラは通信機に唾を飛ばした。

 

 

《管理者って本当は、何もおかしくなってないんじゃない?暴走なんてしてないんじゃない?》

 

 

目をしばたたかせた。

噛みしめていた顎が自然と開いた。

操縦桿を握る指から、力が抜けた。

ソラはACを次のスポットに向かわせるのも忘れて、通信機を見つめていた。

 

《……ずいぶんと面白いことを話しているな。エキドナ、ストレイクロウ》

《あ、ファナ先輩はどう思う?》

《私も毎日ずっと考えていた。どうして管理者はこんなことをしているのか。こんなことをして何になるのか。本当に狂ったのか、それとも……とな》

《うんうん、それでそれで?》

《1つだけ気づいた。管理者は人類全てに無差別攻撃をかけているようでいて、あからさまに攻撃や干渉を避けている……いやむしろ放置していると言ってもいい場所が一か所ある》

《えっ、どこそれ》

《セクション301。私達レイヴンの暮らす場所だ。ご丁寧に、グローバルコーテックスを人間主導の組織にしてくれてな》

「……どういうことだ、レッドアイ?何が言いたい?」

《エキドナ……いや、レジーナの着眼点は間違っていないかもしれない。管理者は何らかの明確な目的があってこの混乱を引き起こしている、ということだ》

 

ソラは思考を停止した。

頭が回らない。

周囲より少し高めの高層ビルの屋上にACを制止させ、じっと通信機を見ていた。

いや、実際には通信機を見ていたわけではなかった。

ぼんやりとした目に映っていたのは、あの日ユニオン副官の着信を受けた、携帯端末だった。

AI研究所の、フレデリカ・クリーデンス。

彼女が観測したという、フェーズ1。

ルグレン研究所の、フェース2移行。

ユニオン防衛戦の、フェーズ3移行。

そして次は、フェーズ4が始まる。

管理者へのアクセスプログラムを試みたミラージュは言った。

管理者は常に自己のプログラムを改修し続けている。

何かが、頭の中で繋がりそうだった。

だけど、上手く繋がらない。

 

「……っ」

 

ソラは苛立ちまぎれに、自分の側頭を拳で数度殴りつけた。

頭が痛い。だが、少しだけ思考が動き始める。

次は、フェーズ4。

今まで管理者が起こしたあらゆる事件は、何かの段階を踏むためのもの?

何の?

何らかの計画?プログラム?

管理者は狂った。

ユニオンはかつて、コーテックス本社の一室でそう宣言した。

ソラ自身、最初は半信半疑ながらいつの間にか、管理者が狂ったことを――少なくとも何らかの異常をきたしたことを前提に物事を考えていた。

だが、本当は管理者は狂っていないとすれば?

フェーズ1などと言い始めた時から管理者はずっと変わらず正常に作動していて、その結果が次のフェーズ4なのだとすれば?

だとしたら、これは――

 

《お、おい……全機、東の空を見ろ!何だあれは……!?》

 

E-2地区のエコーヘッドからの通信に、弾かれたようにソラは視線を上げた。

東の空の、青く染まった人工気象システム。

その一部に、ポツ、ポツと黒い点が浮かび上がっていく。

黒い点は見る見る内に増え始めた。

やがて点は帯となり、分厚く左右に広がっていった。

 

《……う、ウソでしょ?わた、私はただ報酬が良いから受けただけで……ああ、あぁあ……!》

 

W-2地区担当のダイナモの怯えた声にソラはぐるりと周囲を見渡して、息を呑んだ。

東の空から現れた黒い帯は、いつの間にか西、南、北の全方角から同様に発生し始めていた。

ストレイクロウの頭部COMが自動的に望遠機能を働かせ、黒い帯を拡大する。

映っていたのは――極めて簡素な作りの飛行メカだった。

ただ、大型ミサイルめいた外見をしているだけの。

 

《あれはまさか……"エクスファー"!?特攻兵器だわ!AC全……、……囲の……隊と……っ!?っ、まずい、チャンネ…………えて!早く!!》

 

緊急チャンネルが乱れ始める。

同時に、空の黒い帯は幾筋もの線を市街地に向けて伸ばし出した。

コクピットモニター上部のレーダーに敵性反応が大量に表示されていき、あっという間に表示しきれなくなって、エラーを吐いて固まった。

 

ズガ。ズガガ。ドン。ドン。ドンッ。

 

誰かが最初に発砲し、それにつられて戦闘ヘリも、戦闘機も、MT部隊も、次々に砲撃を始めた。

ライフル、ガトリング、バズーカ、ロケット、ミサイル、パルス。

あらゆる火器が偽物の空に向けて、夥しい弾幕を放つ。

だが、まるで足りなかった。

黒い特攻兵器の"雨"は迎撃の隙間を縫って次から次へと降り注ぎ。

 

《レイヴン!クレスト本社から緊急通信です!》

 

セクション422を、爆炎で染めていった。

 

 

 




続きます。このミッションの登場レイヴンをまとめておきます。

B-3ワルキューレ(グナー)
C-1ソラ(ストレイクロウ)
C-3ファナティック(レッドアイ)
D-2レジーナ(エキドナ)
D-5フレア(ダイナモ)
E-6ウェイクアップ(エコーヘッド)

これまでの話で死亡したレイヴンが多いため、ランク設定は必ずしもゲーム本編と同じではありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。