ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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久しぶりの更新になってすいません。
かなりゲーム本編と乖離したミッション内容になっています。
前話で話を盛り過ぎたせいです。

今回はバズーカ、ブレード、大型ロケット装備のフロートです。
ついに月光が登場します。

右腕部武装:CWG-BZ-50(50発バズーカ)
左腕部武装:MLB-MOONLIGHT(高出力ブレード)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWR-HECTO(18発大型ロケット)

頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLR-SS/REM

ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:脚部に内蔵
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)


巨大兵器撃破・2

《……娘が世話になったらしいな》

 

着信を受けた専用端末から、落ち着いた中年男性の声がソラの耳へと流れ込んできた。

通話相手は、先ほどグローバルコーテックス本社の中央講堂で作戦会議に同席したレイヴン、C-2ランカー"トルーパー"だった。

 

「娘……ああ。確かあんた、レジーナの親父さんだったか」

 

ソラはかつて送られてきたメールを思い返していた。

レイヤードがまだどうにか日常を保っていた頃、あるいは管理者の異常がじわじわと表出し始める頃のことだったろうか。

レジーナが受けるレイヴン試験の妨害を阻止したことを、トルーパーに感謝された覚えがあった。

もう、1年ほど前のはずだ。

その後めでたくレイヴンになったレジーナは父親とこのセクション301で再会し、なぜか暴力沙汰を起こしてグローバルコーテックスから警告を受けた――この一件はそんな珍妙な顛末だったのを覚えている。

度重なるレイヤードの騒乱のせいで、わずか1年前の出来事がすっかり昔のことのように思えてしまう。

 

《俺が何かしてやろうとすると、娘はすぐに反発してきてな。まあ、半ば置き去りにするようにレイヴンになったんだ。それも、仕方のないことかもしれないが》

「年頃の娘ってそんなもんじゃないのか?よく分かんねえけど」

《……そうだな。そんなもん、というだけで終わっていればよかったものを。まさかレイヴンに選ばれるとは》

 

ソラは活発で騒々しい後輩の赤毛の少女を思い浮かべた。

確かなセンスを発揮し、傭兵として着実に実績を積んでいたレジーナ。

そんな彼女も管理者の猛威の前にあえなく敗れ去り、今は大人しく病室のベッドの上で窓の外を眺めるばかりだ。

 

《それでも、今日まで生き伸びてくれてよかった》

「……まだ分かんねえぞ。あの大型兵器の侵攻を食い止めなけりゃ、このセクション301だってじきに危ないんだぜ」

《ああ、分かっている。そのために、手を挙げたんだ》

 

携帯端末の向こう側のレイヴンの声は、どっしりと落ち着いていた。

声を聞くだけでも分かる。トルーパーというレイヴンは歴戦と呼ぶに相応しい男だ。

 

「……どうして俺にこんな電話を?」

《本当はもっと早くに君と話をするべきだった。娘は……レジーナは君によく懐いているようだ。もし俺に何かあった時は……》

「やめてくれ。俺とあいつは傭兵の間柄でしかない。たまたま敵対せずにつるんできただけだ。戦場で出会っていれば、殺し合ってた程度の関係だ」

《…………》

「レジーナは……しょっちゅうバカ親父バカ親父言ってたよ。だからこれからも、バカ親父って呼ばせてやれよ」

《……すまんな。この忙しい時に、情けない話に時間を取らせた。手前勝手だが、忘れてくれ》

「分かってるよ。……コーテックスの大一番だ。頼りにしてるぜ、C-2ランカー」

《了解だ、C-1ランカー。戦場で会おう》

 

話を終え、ソラは通路の上から眼下の光景を見下ろした。

専用住居に併設されたガレージ、そのハンガーに固定された愛機"ストレイクロウ"の前を、見慣れた顔の整備士達が忙しなく行き交っている。

 

「よぉし、最終調整だぞ!気合入れてけ野郎共っ!!ミスったら死ぬと思えよ!!」

 

メカニックチーフのしわがれた怒鳴り声に対して、そこら中で野太い声が応じた。

深夜の緊急事態であってもいつも通り準備は万端、頼りになる裏方達であった。

出撃直前にソラがこうして気負わずリラックスしていられるのも、彼らの日々の尽力のおかげだ。

 

「…………。ん、もしもし。レインか?」

《レイヴン、出撃準備中にすいません。管理者の実働部隊が先ほど、セクション306に到達しました。侵攻速度は若干ながら低下。ですが、都市の水没は止まりません。実働部隊の到達に合わせて、地下水を貯蔵している機密ブロックのゲートが順次開放されています。……このままですとやはり作戦領域は、セクション303になる予定です》

 

専属オペレーターのレインの声は、普段より遥かに深刻そうで、重苦しいものだった。

迎撃に失敗すれば、大型兵器がこのセクション301に到達し、全てが地下水に沈むのだ。

緊張して当然の状況だった。

 

「303……クレストの協力は得られそうなのか?」

《はい。まだ最低限の機能を残していたクレスト支社より、都市管制システムの操作権限の委譲を何とか受けました。かなり強硬な交渉となりましたが……現在、オペレーションシステムのマッチング作業中です》

 

セクション303か、とソラは口の中で自分の言葉を転がした。

そこはソラが初めて、レイヴンの依頼を受けて出撃した場所だった。

都市部の再開発によって閉鎖が決定した、クレストの兵器開発工場を巡った戦いだった覚えがある。

結局、管理者が決定したあの再開発事業はどこまで遂行されたのだろうか。

あの頃は、まさか都市が管理者の手によって丸ごと水没する事態になるとは、クレストも予想していなかっただろう。

 

《レイヴン、それともう1つ報告が。先ほど水没したセクション307において高層建築に避難していた地下組織"ユニオン"の構成員を名乗る者より、大型兵器の情報が提供されました》

「ユニオンから?大型兵器の情報とは?」

《はい。携帯端末へ転送します》

 

ソラは通話を切らずに、レインから送られてきた動画データを開いた。

か細い非常照明しか残っていない、深夜の水没都市が映っている。

じっと映像を見つめていると、ビルを呑み込んでいる黒い水面が俄かに激しくスパークし、大量の水蒸気を噴き上げながら巨体が姿を現した。

そして四方に無造作に放たれる火球、激しく揺れる画面――動画はそこで終わった。

 

「大型兵器がビル街を攻撃したのか?」

《そのようです。ミラージュ支社の偵察部隊も、同様の発光現象を各セクションで遠方から確認していたようですが、随伴の高機動MTの妨害によって詳細な状況が把握できず、照明弾の類によるものだと推測されていました。今回ユニオン構成員の撮影した映像が最も距離が近く、鮮明なデータになります》

「……映像最後の火球はグレネードキャノンだろうが、スパークしたのは何だ?」

《それが……》

「おそらく、防御スクリーンじゃな」

 

ソラとレインの通話にぬっと割って入ってきたメカニックチーフのアンドレイが、白髭をしごきながら呟いた。

どうやらストレイクロウの調整作業が完了したらしい。

ベテランの整備士はそのままソラの手から携帯端末を奪い取り、端末を傾けては映像データを様々な角度から睨みつける。

 

「……間違いないわい。ヘタクソなレイヴンのせいでACが水中にドボンした時と、よく似た発光じゃ」

「ちょっと待てよチーフ。それじゃ、こいつは……」

《コーテックス本社も同様の見解です。大型兵器は、浮上時に防御スクリーンを展開する機能を有しています》

 

防御スクリーンは、本来アーマードコアのみに許された堅牢極まる防御機能だ。

高出力ジェネレータによって生み出されるそれは、被弾によるダメージを許容範囲までシャットアウトする無敵の盾となる。

 

「防御スクリーンはACをレイヤード最強の機動兵器たらしめるものじゃが……まさかこんな大型兵器にも転用できるとはのう。流石は管理者サマと言わざるをえんな。どんなイカれた出力のジェネレータ積んどるんだか」

「感心してる場合かよ」

《事前のブリーフィングで決定された作戦プランの修正が必要かもしれません。今、各レイヴンに同様のデータが転送されていますが……》

 

水中を侵攻する大型兵器の撃破方法。

レイヴンが非常招集された本社中央講堂での作戦会議において、最も紛糾した話題だった。

ACはフロート脚部によって水上を走行することこそ可能なものの、水中の敵に対する攻撃手段を持たない。

何故ならば、地下世界における巨大な水場であるアビア湾が、これまで企業の経済戦争の舞台となってこなかったためである。

アビア湾にある施設といえば、破壊すればレイヤード全体に大きな損害を生む各企業の水浄化施設と、富裕層のリゾート地のみ。

奪い合うよりも、貴重な水源となる共同所有物として最低限の折衝で管理する方が合理的だったのだ。

 

そのため、機動兵器において水中攻撃が可能なのは、アビア湾のある自然区沿岸部に少数配備された"シーゴブリン"と呼ばれる稀少な水中用MTに限られていた。

とはいえ、そのMTを確保し、ACの武装に流用する時間もノウハウも、グローバルコーテックスにはなかった。

結局、大型兵器がACを迎撃するために水上に姿を現したところを一気に叩くという、ある種の希望的観測を前提とした作戦プランしかないと、結論づけられた。

唯一の判断材料のシーゴブリンがそうであるように、レイヤードにおける水中兵器の開発は甚だ未成熟であり、潜水時間には当然シビアな限界があると予想されたためである。

だが、その潜水時間の限界によって生じる隙すら、大型兵器は防御スクリーンで埋めることが可能であるというのだ。

ソラは眉間に皺をよせ、唇を噛みしめた。

これで一気に戦闘は難しいものになる。

 

「まあこの映像についてレイヴンに意見を求めたところで、冴えた解決策は出まい。じゃがこれは……ACにとってはむしろチャンスじゃないか?」

「……潜水時間には限りがあるっていう水中兵器の常識が、この大型兵器にもきっちり適用されるからか」

「そうじゃ。しかもご丁寧に、水上に姿を現すタイミングまで教えてくれるわけだしの。あとは、お前さん達の腕の見せ所ってわけよ。なあに、複数のACが束になってバカスカ撃ちまくれば、いかに大型兵器のスクリーンが硬かろうとどうにかなるわい」

《……しかし、敵の戦力は未知数です》

「分かっとる。だがな、オペ子ちゃん。やるべき時にきっちりやるのが、レイヴンの仕事というもんじゃ。のう?」

 

アンドレイはそう言って、ニカっとソラに笑いかけた。

屈託のない、しわくちゃの笑みだ。

ソラは老人に笑顔を返し、携帯端末の向こう側の専属オペレーターに、何とかするさと伝えた。

 

《……分かりました。私からの情報共有は以上です。既に輸送機の手配は完了しています。レイヴンには本社管制室の準備ができ次第、出撃していただきますので、あと少しだけ待機をお願いします》

「了解。レイン、踏ん張ろうぜ」

《……はい。ありがとうございます》

 

通話の終わり際、レインの声が少しだけ和らいだ。

 

「……ふぅ。それにしても、えらいことになったのう。本当に」

 

アンドレイが笑みを崩し、肩を落として大きくため息を吐いた。

 

「キサラギ、クレストと立て続けに潰されてきたんだ。コーテックスだけ平穏無事ってわけには行かなかったな、やっぱり」

「まあ、な。しかし、何だってこんなことをするんじゃ、管理者サマは」

「知るかよ。管理者にメールでも送って聞いてみりゃどうだ」

「もうやったわい。休憩中のお前さんの端末をこっそり拝借して、管理者からのメールに返信してみたことがある」

「やったのかよ……いつだよ爺さん。俺の端末勝手につつくなよ。ACで踏み潰すぞ」

「当然のように、無反応じゃった。子の心親知らずという奴かの」

「ちょっと違うんじゃねえかな」

「はぁ……まったく世も末じゃ」

 

アンドレイは頭をかきながらハンガーに固定されたストレイクロウに視線を向けた。

ストレイクロウは今回、フロート脚部"SS/REM"とバズーカ"BZ-50"を装備している。肩には大型ロケットの"HECTO"だ。

そしてもう一つ、左腕には超高出力レーザーブレード"MOONLIGHT"が新たに装備されていた。

これは本作戦の遂行にあたってコーテックス本社から運び込まれてきた大量の配給パーツに混ざっていたもので、本来ならばミラージュが一部のレイヴンに対して特注生産するパーツだ。

どういう経緯でコーテックスがこれを取得してこのタイミングでソラに供与できたのかは不明だが、ACの持ちうる武装としては最高峰の攻撃性能を誇ることは明白であり、この土壇場でも使い慣れた装備に混ぜて運用するだけの価値がある品だとソラは考えていた。

これらの装備を駆使して随伴のMT部隊を素早く蹴散らし、余力があれば水面に浮上してきた大型兵器への集中攻撃にも加わること。

それが、ソラに与えられた今回の作戦の役割だった。

 

「……つくづく悲しいわい」

「チーフ?」

「ワシらコーテックス職員は、管理者に選ばれてここにおる。それがある種の……誇りじゃった」

「…………」

「だというのに、このままいけば夜明け頃にはこの301は水没しておるとよ。他ならぬ、管理者の手で。なんとまぁ、理不尽なことだ」

 

アンドレイは、いつになく真剣な眼差しでACを見つめ続けていた。

この老人はグローバルコーテックスに所属して数十年だと、かつて言っていたはずだ。

まだ1年と少ししかセクション301に住んでいないソラとは、この現状に対する感情の重さは桁違いだろう。

 

「見てみぃ、若造」

 

アンドレイは身に着けていた作業用手袋を外し、ソラに手のひらを向けてきた。

皺くちゃの大きな手には無数のマメの痕があり、取れなくなったオイルの黒ずみが沁みついている。

 

「何機ものACを、戦場に送ってきた手だ。いくつもマメを潰した。何度も火傷した。爪は生えてきてもすぐグズグズになる。疲労で握力が死んで、工具や端末を握れなくなることなどしょっちゅうじゃ。指がもげそうになって、高度医療に高い金を払ったこともある」

「…………」

「ワシだけ特別なんじゃないぞ。整備士は皆、老いも若きも同じような手をしておる。……何が言いたいか、分かるか?」

 

老練の整備士は傷だらけの手で、通路の手すりを力強く握りしめた。

 

「朝には水に呑まれて、命を失っておるかもしれん。そんな非常事態でもワシらメカニックは、このボロボロの両手でACを整備することしか出来ん。当然じゃ。そのために、ここにおるんだからな。このガレージこそが、ワシらの戦場じゃ。ワシらだけじゃない。同じようにグローバルコーテックスの誰もが、今この難局を乗り越えるために懸命に自分の戦場で戦っておる」

「……ああ」

「機体はいつも通り……いや、いつも以上に万全にした。あとはお前さん次第よ。お前さんはお前さんの戦場で、今回もしっかりキメてこい。命は……預けたぞ」

 

ソラは、ガレージの天井を見上げた。

いつも思っていることだ。

自分はつくづく、周囲の人間に恵まれている。

 

「任せろ」

 

やることは決まっていた。

高く飛ぶ。困難を乗り越えて、少しでも高く。

背中を押してくれる人達に、報いるためにも。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:ビルバオ

TITLE:お願いがあります

 

ソラさん、いよいよ実働部隊の迎撃作戦が始まりますね。

 

レイヤードにおいて不可逆的に深刻化しつつあった環境問題の最終的解決として人類の削減を図ろうとする管理者様の意図については、私達も理解しています。

ですが、管理者様は忘れているのです。

我々人類もまた、地下世界の環境の一部であるということを。

それを忘れてしまっては、環境保護という崇高な行いは決して成り立たないのです。

 

人類と自然の正しい調和こそが、環境保護団体"グリーンウィッチ"の理想です。

私と三度同じ戦場に立ったソラさんならば、きっと分かってくれると確信しています。

 

その上で、ソラさんに私からお願いがあります。

もしもこれからの戦いで私が力尽き、志半ばで倒れたその時は、団体の代表としてグリーンウィッチの後事をあなたに託したいのです。

 

ソラさんへの信頼の証として、AC用左腕武装パーツ"MOONLIGHT"を先んじてガレージにお送りしています。

これは以前にミラージュの重役様から私達に寄贈いただいた特注品です。

 

私のお願いに応えていただけるのでしたら、この素晴らしい武装を是非とも戦場でお役立てください。

グリーンウィッチとレイヤードの輝かしい未来を、よろしくお願いいたしますね。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

午前4時。

 

高高度のセクションゲートから、輸送ヘリの編隊が続々と第一層第二都市区セクション303へ突入した。

決戦場に選ばれたのは、セクション304へと通じる地上ゲートの間際に作られた、古めかしい大都市だ。

かなりの数の高層建築が立ち並ぶその都市には、未明にも関わらずまだそれなりの火が灯っていた。

 

「……避難が完了してるわけ、ないか」

 

ソラは輸送ヘリに吊るされた愛機のコクピットの中で、眼下を映したモニターを見つめて呟いた。

目抜き通りのそこかしこには、まるで無秩序な人だかりがある。

深夜の緊急放送を聞いてパニック状態になった市民が、目ぼしい高層ビルに殺到しているのだ。

あと数分の内に、地下水に呑まれるというのに。

 

《……レイヴン。隣接するセクション304の9割が水没したとの報告が。さらに、大型兵器がセクションゲートへと向かい始めたようです。これまでのセクションと同様に、304でも大型兵器の浮上と攻撃行動を確認。……しかし、303市民の避難はまだ》

「誰のせいでもない。それに、俺達がこの局面を乗り越えれば各セクションの生存者を救助できる可能性も出てくる。それよりもレイン、今は作戦に集中だ。ACの投下ポイントまで、あと600だな?」

《……はい。都市管制システムの掌握は完了しています。緊急時の上位操作権限により、各建造物の非常電源及び監視カメラが全て起動されます》

 

気持ちを切り替えたレインの通信から数十秒後、街並みが一斉に輝きを放ち始めた。

煌々とした照明の数々が夜の暗闇を追いやり、一気にソラの視界を開けさせる。

 

《ACを投下します》

「了解。……アルカディアへ。こちらストレイクロウ。指定ポイントに到着した」

 

ヘリから切り離された黒いACが重力に逆らうことなく、市街地のビル群の中に呑まれていく。

ストレイクロウはフロート脚部の浮遊機能によって大通りの中央へ滑らかに降り立ち、機体各部の投光器を起動しつつ、前方を頭部カメラで見つめた。

ACの出現に慌てた避難中の市民達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うのを、ソラはあえて意識の外に追いやる。

コンソールを操作して市民の悲鳴を拾う傍受機能を弱め、事前にインストールされたマップデータをサブモニターへ映した。

マップ上に赤くスポットされているのは、水没した304から続くセクションゲートだ。

ソラがゆっくりと操縦桿を傾けてフットペダルを踏みしめると、慣れ親しんだ愛機がスポット地点めがけて動き始めた。

 

《こちらアルカディアだ。現在、都市部に異常はないようだ。前衛各機、打ち合わせ通りにセクションゲート手前の広場で合流しよう。移動中に戦場の地形を把握しておくようにな》

 

トップランカーのACから通信が帰ってくる。

ソラが大通りを進んでいると、モニター上部のレーダーに3つの反応があった。

いずれも本作戦において前衛を担当する、友軍のACである。

 

事前の作戦会議で、出撃する13機のACは3班に分けられた。

 

セクションゲート付近で侵入してきた敵MT部隊を素早く先制攻撃する、前衛部隊4機。

A-1エースのAC"アルカディア"。

C-1ソラのAC"ストレイクロウ"。

E-5ビルバオのAC"グリーンウィッチ"。

D-5サバーバンキングのAC"ガスト"。

 

市街地中心部で大型兵器の対処を行う、中衛部隊5機。

A-3ロイヤルミストのAC"カイザー"。

B-1グランドチーフのAC"ヘルハンマー"。

C-4OXのAC"パルテノン"。

D-3パイソンのAC"ガントレット"。

E-6スパルタンのAC"テンペスト"。

 

そして、302へのセクションゲート手前で状況に応じて行動する、後衛部隊4機。

A-2BBのAC"タイラント"。

C-2トルーパーのAC"ヴァイパー"。

D-4アップルボーイのAC"エスペランザ"。

E-1ゲドのAC"ゲルニカ"。

 

前衛はA-1のエースが、中衛はA-3のロイヤルミストが、後衛はA-2のBBが、それぞれ指揮することが決まっていた。

 

《ソラさん……始まりますね、決戦が》

 

ソラが合流地点の広場に着くと、一足先に到着していたビルバオがソラに通信を繋いできた。

 

「ビルバオ……」

《そのレーザーブレード、よくお似合いですね……うふふ》

「……違うからな?別にお前の組織を引き継ぐ気はないからな?このブレードはコーテックスからの補給品だと思って装備してきただけで……ていうかだいたいお前ら何なんだよ。何でミラージュの特注品なんて大層なもんを……ていうか違うわ、作戦に集中しろ作戦に」

《まあ……うふふ》

 

含みのあるビルバオの声にソラは少し狼狽えたが、レーダー上を高速で近づいてくる反応を見て、すぐに集中を取り戻した。

オーバードブーストで急接近してきたのは、ソラのストレイクロウと似たカラーリングの黒いAC、トップランカーのAC"アルカディア"だった。

 

《すまない、遅れたな》

「こっちも到着したばかりだ。まだ敵も現れてない。……ガストは?」

《ソラさん、来ましたよ》

《っとと、すんません先輩達!この街微妙に複雑で……》

 

少々軽薄そうな声音と共に、D-5サバーバンキングのフロートACガストも合流地点にやってきた。

中央講堂で少し話をしたが、レジーナの同期らしいこのレイヴンは年齢も彼女と同じくらいで、まだ幼さが抜けきっていなかった。

レイヴン試験妨害を阻止したソラのことを知っていたらしく、レジーナのようにソラを先輩と呼ぶ、人懐っこい少年だった。

フロートAC乗りがまとめて前衛に集められたのは、MT部隊の迎撃が一段落したらそのまま素早く中衛に合流し、大型兵器相手の火力支援に加わるためである。

 

《さて……各機分かっていると思うが、このセクションゲート付近での先制攻撃はあくまで、大型兵器に随伴するMTの数を減らすことが目的だ。……まあ、気楽にいこう》

《はい、お任せくださいエースさん》

《いや、気楽にって言いますけど、相手はあの実働部隊なんでしょ?それでもしんどい相手っすよ……》

「ガスト、無理する必要はないぞ。手に余ると思ったら後ろに逃がせ」

《えっ。だけど先輩、それじゃ……》

《ストレイクロウの言う通りだ。今回の戦闘は13機もACが参加するんだ。撃ち漏らしても、他の誰かが処理する。後ろを信用しろ》

《本命は大型兵器の撃破、ですものね。MT部隊にはセクションゲートの突破能力はないでしょうから、後回しでもいいわけですね》

《……うっす。了解です。あれ、ビルバオさんって俺の後輩っすよね?なんか妙に落ち着いててすげ……》

 

少し不安げなサバーバンキングを励ました直後のことだった。

304から続くセクションゲートが、ガン、ガンとつんざくような金属音を轟かせ始めた。

前衛班に、俄かに緊張が走る。

 

《き、来たんすか!?》

「……来たな。アルカディア、じきに地下水の流入が始まるはずだ。二脚はビルの上に」

《分かっているさ。……前衛各機、敵部隊の出鼻を挫いて一気に主導権を握るぞ。…………こちらアルカディア!AC全機へ伝達!これより作戦を開始する!!打ち合わせ通り、今後の通信はこのチャンネルでAC全機が共有する!管制室、敵部隊の動きを常に捕捉するようにな!》

 

トップランカーが号令し、ブースターを吹かして狙撃に適したビルの屋上へと向かう。

同時にオペレーターの補佐によって通信機が全レイヴンの共有チャンネルへと繋がり、モニターの左上部に僚機全員のAPが表示された。

ソラを筆頭とした3機のフロートACは同士撃ちを防ぐためにそれぞれ距離を取り、実働部隊のゲート突破を待ち構える。

 

ガン、ガン、ガン。ガン、ガン、ガン。

 

セクションゲートを攻撃する轟音が機械的に響き続ける。

それは何十回目のことだったろうか。

ひたすら続いていた不愉快な金属音が突如ぴたりと止み、セクション303を不気味な静寂が包んだ。

そして。

 

 

ドゴッ。

 

 

分厚い城門を、鋭い金属の大槍がぶち抜いた。

突き穿たれたゲートから、セクション304を満たしていた地下水が怒涛の勢いで流れ込んでくる。

さらに都市全体が地響きで震え、やがて大通りから水柱が続々と、半端なビルよりも高く噴き上がった。

そして駄目押しとばかりに、セクションの壁面からも滝の如く大量の水が流入し始める。

予想通り実働部隊の侵攻開始と合わせて、管理者管轄の機密ブロックのゲートが全て開放されたのだった。

 

《……おいおい、地獄かよこりゃ》

《はっ、ならちょうどいいな。管理者の狗共をまとめて蹴落としてやれ》

 

通信チャンネルで真っ先にぼやいたのは、ソラの恩師スパルタンだ。

ロイヤルミストが好戦的に笑い、サバーバンキングを含む何人かのレイヴンがおお、と勇ましく吠えた。

操縦桿を握るソラの手にも、力が入る。

 

《……これが管理者様の力なのですね》

 

ビルバオが小さく呟いた。

セクション303の都市部は、前衛が敵の侵入を待ち構える数分の間に一面水浸しになった。

レインからの報告。セクションのあらゆる方角、あらゆる箇所から流入する水量が膨大過ぎるせいで、市街地の各所で大渦が発生しているという。

ストレイクロウがフロート脚部でなければ、脚部が浸かってとっくに身動きが取れなくなっていただろう。

フロート以外のACは皆、ビルの屋上で待機しているはずだ。

市民は、どれほどの数がこの激流に呑まれたか分からない。

だが、無辜の犠牲者達に想いを馳せる暇もなく、ついに敵対者がゲートの奥からその姿を現した。

 

「……!?」

 

報告で聞いていた通りだが、実働部隊の出現は極めて奇妙なものだった。

水面に、無数の卵状の金属塊が浮かんできたのだ。

 

《攻撃開始!!》

 

奇怪な光景に惑わされることなく、アルカディアがビルの上よりスナイパーライフルを発砲。

一撃で卵の1つを撃ち貫いたのを合図に、残る前衛部隊も攻撃を開始した。

ストレイクロウのバズーカが、グリーンウィッチのパルスライフルが、ガストのENショットガンと投擲銃が、分厚い弾幕を形成し、次々に浮上してくる敵機を破壊していく。

しかし。

 

《レイヴン!敵の反応、まだ増えます!》

《ちょっ、数多過ぎだろ!》

 

実働部隊の物量は、想定以上だった。

50を優に越える卵が水面に浮かび、4機のACの攻撃も虚しく、一斉に"孵化"し始める。

丸みを帯びた表面装甲がガチャガチャと複雑で高度な変形を行い、ほんの数秒の内に形を大きく変えていった。

卵の姿から、フロート型高機動MT"カバルリー"へと。

生まれたカバルリー達はすぐさま、目についたソラ達前衛フロート部隊へ攻撃を開始した。

あっという間に密度を増していく分厚い放火の前に、ACは皆卵を狙い撃つ暇もなく、回避行動を余儀なくされる。

ソラはそれでも何とか回避の合間に砲撃して敵を叩き落としていたが、低ランクのビルバオとサバーバンキングはそれも叶わず、必死に逃げ惑うのみとなった。

 

《8機のMTが広場を突破!中衛部隊が迎撃に回ります!》

「ちっ……グリーンウィッチ!ガスト!一旦下がれ!」

《で、ですがソラさん!》

「よく見ろ!こいつらは雑魚だ!冷静に対処できる数だけ相手にすればいい!」

 

真っ直ぐ突っ込んできたカバルリーをバズーカで容易く破壊しつつ、ソラは僚機の撤退を促した。

報復のプラズマキャノンが複数機から乱射され、コクピットモニターに赤い閃光が何度も瞬く。

だがブースタを一気に吹かして大きく動いたストレイクロウは激しい弾幕を上手くやりすごし、返す刀でMT部隊を的確に撃ち落としていった。

どうやら事前に観測された以上の数の敵がいるようだが、幸いだったのはその質だ。

管理者直属の実働部隊にしては、今回の敵MTは性能が高いとは言えなかった。

ソラの体感では、企業が運用する通常のカバルリーと同程度の機動性と火力しかない。

おそらく、潜航機能と変形機能を持たせたせいで大幅に基本性能が低下しているのだろう。

それでも企業MT並の性能を担保しているのは流石に管理者の実働部隊であるが、今のソラにとってはさほど脅威ではなかった。

それにこの決戦に志願するような意識の高いレイヴンにとっては当然、カバルリー程度は冷静になれば数が揃っていようとどうにでもなる相手だ。

だからこそ、浮足立った者達は一度落ち着く必要があった。

 

《ストレイクロウ、やるぞ!》

「アルカディア?水上戦闘だぞ!」

 

大人しく一時後退したグリーンウィッチとガストの代わりに、エースのACアルカディアが最前線に躍り出てくる。

自分よりも前に出たトップランカーのACを見て、ソラは一瞬泡を食った。

二脚型ACが水上戦をやるなど、あまりにも無謀なのだ。

もしも被弾して安定性を失えば、そのまま水中に没してしまう。

下がれ、と言おうとするより先にアルカディアがチェインガンを起こした。

そして驚くことにそのまま空中で、徹甲弾による射撃を開始する。

 

「あれはテン・コマンドメンツと同じ……!?」

 

エースの戦法はあまりにも鮮烈だった。

敵MT部隊のプラズマキャノンの嵐を、通常ブースタとオーバードブーストを駆使して舞うように躱しながら、チェインガンを撃ち鳴らす。

それも、トリガーを引きっ放すような雑な乱射ではない。

狙いすましたような精密射撃が徹甲弾の1発ごとに1機、着実に敵を捉えていくのだ。

さらに被弾でバランスを崩したカバルリーの上に飛び乗り、一瞬ジェネレーターを休めて武器を切り替え、再び空へ舞い上がると同時に今度は軽量型グレネードランチャーの爆風で密集していた数機をまとめて吹き飛ばした。

二脚にも関わらず、空中で複数種の高火力な肩武器を使い分けるその技量はまさに、トップランカーに相応しいものである。

 

「やるな……流石はA-1!」

 

ソラは思わず感嘆の息を吐き、しかし見惚れないように自身も眼前の脅威に集中することにした。

意識のギアを1つ上げ、バズーカのトリガーを引く。

大口径砲弾がカバルリーの胴体を的確に抉って爆散させ、さらに反撃の弾幕をオーバードブーストで横滑りにまとめて回避しつつ、追いすがってきた敵機のうち、先頭のフロート機構をマニュアル照準で狙い撃った。

一瞬で失速した先頭を数機の後続が躱せず、そのまま激突してもつれた所に大型ロケットを砲撃、敵をまとめて吹き飛ばした。

ソラは攻撃の手を緩めなかった。水位の上がり続ける水上をフロートで縦横無尽に滑り、今度は高出力ブレード"MOONLIGHT"を展開してすれ違いざまにカバルリーの胴体を薙いでいく。

エースも同様だ。スナイパーライフルで砲身を潰して無力化したカバルリーの群れを即席の足場代わりにして、次から次へとライフルやブレードを振るい、敵の数を減らし続ける。

アルカディアとストレイクロウ――2機の上位ランカーACの働きはMT部隊を一気に押し返し、そこに冷静さを取り戻して合流してきたグリーンウィッチとガストが加わって、形勢は逆転した。

 

《卵だ!浮上してくる卵を狙え!カバルリーになった敵は後回しでいい!》

 

ジェネレーターを休めるために一旦ビルへと戻ったエースが指示を飛ばす。

ソラ達フロート部隊は射撃やブレードで、広場に次から次へと沸いてくる敵MTを、"孵化"する前に撃破し続けた。

何割かは市街地の中央へと逃がしたが、ロイヤルミストが率いる中衛部隊が危なげなく処理する様子が通信で逐一報告されてくる。

浮上してくる敵MTの数は目に見えて減っていき、やがて途絶えた。

 

《よし、終わり!へへっ……ソラ先輩、これもしかしてこのまま行くんですかね?あとは大型兵器だけだし、思ったよりも楽勝じゃ……》

 

調子に乗った声色で、サバーバンキングがソラに呼びかけてくる。

まだこれからだぞと応じつつ、ソラもこっそりと一息ついた。

後方を振り返ると、いつの間にか都市部はもう大半が水没し、残るは一部の高層建築のみとなっていた。

どれほどの莫大な水量が流し込まれれば、こんなことになるのだろう。

たったの十数分で、1つのセクションがこの有様なのだ。

管理者が人類を滅ぼすなど、赤子の手をひねるよりも容易いことなのかもしれない。

 

《これが本当に、管理者様の望みなのでしょうか?》

「……ビルバオ」

 

気づかぬ内に、ビルバオのACグリーンウィッチがストレイクロウの傍へとやってきていた。

そのAPは残り5000。遠くで佇んでいるガストも同程度だ。

激しい前哨戦の中で、よく粘ったと言えるだろう。

ソラとビルバオ、2人のACが肩を並べ、水中に沈みゆく大都市を頭部カメラで見つめ続ける。

都市管制システムにより強制的に非常照明を稼働させられている眩しい建造物の数々が物も言わずに地下水の中に消えていくのは、あまりに非現実的で異様な光景だった。

 

《こうして現地で惨状を目の当たりにして、改めて感じました。これは決して、自然環境の保護が目的というわけではありません。水浄化施設が襲われた時よりも遥かに悪意に満ちた、ただの蹂躙……に思えます。あるいは、この世界そのものを捨て去ろうとしているかのような》

「……そうだな」

《……私達人類は管理者様の庇護の下、地下世界で数百年を生きてきました。その時間は、AIシステムを自分達にとっての神であると認識するのに充分な時間でした》

「…………」

《だからこそ、私はまだ信じられないのです。それほど長い間人類を見守り、自然を正しく育み続けてきた管理者様が、今になってレイヤードを滅ぼそうとしていることが。一体何故でしょうか?何のために、このような恐ろしいことを……?》

 

ビルバオの言葉は真摯なものだった。

これまでの常軌を逸した環境狂いとはまた違う想いが、ソラには確かに感じられた。

ソラが関わってきた人々と同様にビルバオもまた、管理者の行動に何らかの裏があると思っているのだろうか。

誰も彼もが、管理者の行動に違和感を覚えている。

その感覚は、もっと掘り下げていくべきものだ。

ソラがビルバオに言葉を返そうとした――その時だった。

 

セクションゲート付近の水面が、大爆発を起こして水しぶきを撒き散らした。

 

《レイヴン、ゲートが完全に破壊されました!大型兵器が303内部に侵入してきます!》

 

本命の仰々しい登場に、ソラは自身の体温がグンと跳ね上がるのを感じていた。




巨大兵器撃破・3に続きます。
もう書き終わっているので明日の夜にあげます。
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