ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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大型兵器戦です。エビだかザリガニだか。
参加人数を盛り過ぎたので、敵の性能も大幅に変更されています。ご了承ください。
本ミッションは登場機体がとにかく多いので、改めて記載します。

◆前衛部隊
A-1エース(アルカディア)
C-1ソラ(ストレイクロウ)
E-5ビルバオ(グリーンウィッチ)
D-5サバーバンキング(ガスト)

◆中衛部隊
A-3ロイヤルミスト(カイザー)
B-1グランドチーフ(ヘルハンマー)
C-4OX(パルテノン)
D-3パイソン(ガントレット)
E-6スパルタン(テンペスト)

◆後衛部隊
A-2BB(タイラント)
C-2トルーパー(ヴァイパー)
D-4アップルボーイ(エスペランザ)
E-1ゲド(ゲルニカ)


巨大兵器撃破・3

《レイヴン、ゲートが完全に破壊されました!大型兵器が303内部に侵入してきます!》

 

《本命のご登場か……カイザー、中衛部隊の攻撃準備は?》

《問題ねえよアルカディア。準備運動も済んだ。さっさと来やがれ。……タイラント!》

《分かっている。後衛は全機散開。戦況次第で中衛に合流させるぞ》

 

ソラはAランカー達の通信が、あまり耳に入らなかった。

ストレイクロウの足元を潜水したまますり抜けていく巨大な機影に、意識を奪われていたからだ。

 

「なんだ、こいつは……!?」

 

大型兵器はゆっくりとゲート周辺の広場を抜け、ビル街に入っていく。

前衛隊長機のアルカディアはビルを飛び移りながら、ストレイクロウを筆頭とする3機のフロートAC達は水上を滑りながら、そのすぐ後方に続いた。

中衛部隊もまた、攻撃に適した高度を持つビルへと移動して、一斉攻撃の準備を整える。

もう周囲を固めるMT部隊はいない。あとは、大型兵器に集中すればいいだけの状況だった。

しかし、敵は銃口を向け続けているACの群れなどまるで意に介さずに水中を進み続ける。

その影はやがて、地下水に呑まれていくビル群の眩しい灯りに照らされた。

赤い。

夜の黒い水面に不釣り合いな、鮮血のような赤さだ。

そして、あたかも水中を羽ばたこうとしているかのような、羽にも似た大型ユニットが2基。

羽を生やした赤い魚。そう形容するのが正しいだろうか。

いずれにせよそれは、既存の機動兵器の枠組みを超越した存在だった。

 

「魚型の兵器、か……」

《ちげーよボウズ。こりゃ"エビ"だ》

「えび?スパルタンの旦那、こいつを知ってるのか?」

《超高級だから俺も一回しか食ったことねえがな……尻尾の部分がなかなかウマ……》

《レイヴン、コーテックスによる大型兵器の予測侵攻ルートを送信します!》

 

ACのサブモニターへ表示されたマップデータ上に、十数本のラインが浮き出る。

しかし。

 

《え、エスペランザです!これってつまり、どこを守れば……?》

《……管制室、ACゲルニカだ。もっとルートを絞ってくれ。これほど広範囲ではカバーできんぞ》

《こちらヴァイパー。先ほど確認したが、地下水の流入に耐えきれずに一部の建物は損壊して押し流されたはずだ。それは計算に入っているのか?》

《水位の上昇が緩やかになってきているぞ。最後まで足場に出来そうなビルのスポットもほしいが……出来るか管制室?》

《おいAランカーサマ!中衛の攻撃許可はまだかよ!?奴さん、もうすぐ射程に入るぜ!》

 

共有チャンネルから、次々にレイヴン達の声が上がる。

レインと個別のチャンネルが繋がっているソラの通信機に、管制室の動揺が伝わってきた。

 

「レイン、今どうなってるんだ?」

《……はい。コーテックス管制室のルート予測は、平常時の都市管制システムのマップデータを参考にしています。つまり……》

「水没都市では役に立たない、か」

《…………申し訳ありません、このような時に。足場に使えるビルのデータはすぐにまとめさせます》

 

了解、とだけ返してソラは前方を進む大型兵器を睨みつけた。

赤い機影は、迎撃側の混乱など素知らぬ顔で悠然と水中を侵攻している。

もうじき都市の中央部、302に通じるセクションゲートへと続く大通りだ。

幸か不幸か、ここまで深く入り込まれればもはやルート予測も何もあったものではない。

 

《チッ……おい、中衛はもうしかけるぞ!前衛部隊、支援寄越せ!》

《こちらアルカディア!前衛中衛は攻撃開始!水中でも構うな!とにかく動きを止めるんだ!》

 

ドンッ。

 

口火を切ったトップランカーのグレネードに続き、前衛4機、後衛5機のACが大型兵器を取り囲み、一斉に砲撃を開始する。

マシンガン、バズーカ、ショットガン、パルスライフル、投擲銃、ミサイル。

水中の敵に対してどれほど有効かなど誰も気にせず、目標の敵機めがけて散々に火線が降り注いだ。

地上の通常兵器ならば破片すら残さず消し飛ぶ量の弾幕が水面を叩き続け、爆炎と水柱を夥しく発生させる。

しかし、残弾を気にしたのか、あるいはリロードの隙間か、分厚い弾幕が不意に途切れた。

大型兵器は、その場に動きを止めていた。

 

《先輩……やったんすかね?》

 

サバーバンキングがソラに呼びかけた瞬間。

水中から勢いよく何かが放たれた。

連続して、何度も。

煙を吐いて、無数の飛翔体がビルより高く舞い上がる。

 

「っ!垂直ミサイ……違うっ!!」

 

ソラの生存本能が警鐘を鳴らし、ストレイクロウを全速後退させる。

飛翔体が一斉に爆散し、暗い天井から破壊の鉄槍が降り注いだ。

 

《きゃああああっ!》

《うわああっ!!》

 

細く小さな槍の雨が、ストレイクロウの鼻先をかすめて水面を激しく刺し貫いていく。

何とか躱せた。

しかし、多くのレイヴンはそうではなかったらしい。

コクピットモニターの端に表示されている各機のAPが軒並み少しずつ減少している。

大型兵器の近くを追跡しており、槍の雨のほぼ中心にいたグリーンウィッチとガストは特に深刻だ。

APにはまだ若干の余裕があるものの、頭部や腕部が被弾によってスパークしている。

 

《い、一体どうして……!?APはまだあるのに……まさか、防御スクリーンを貫かれた!?》

「ビルバオ、分析は後にしろ!……っ、フロートは下がれ!」

 

悪寒に従って発せられたソラの言葉、その直後。

水面が激しく発光し、水蒸気が噴き上がった。

大型兵器の真っ赤な装甲が、水上に現出する。

 

《出やがったぞ!撃ちまくれっ!!》

 

気炎を上げたロイヤルミストを制するように、大型兵器の尾から再び飛翔体が大量に放たれる。

しかしその攻撃は、2つの群れを作っていた。

1つは、先ほどと同じように上空へと打ち上がる鉄槍の雨。

もう1つは――

 

《えっ!?ちょ、待てって……!?》

 

低空を浮遊する大型の自律砲台複数機が、不意打ちのハイレーザーでガストを焼き尽くした。

断末魔すらなく沈黙し、そのまま水中に没するソラの後輩。

続けて手負いのグリーンウィッチを追おうとしたそれらを、ソラはバズーカで叩き落とした。

 

《あ、ありがとうございます、ソラさん!》

「その損傷じゃ戦闘続行は無理だ!ビルバオは離脱しろ!」

《……!すいません、そういたします……!》

「他は!?」

 

上空で爆散した徹甲槍の雨は、ビルの屋上に陣取る中衛部隊に襲いかかっていた。

中衛はB-1ヘルハンマー、D-3ガントレット、E-6テンペストと、3機もタンクACを抱えている。

当然大きく被害を受けたのは、彼らだった。

 

《クソったれ!!コンテナミサイルが1つ持ってかれたぞおい!》

《ガントレットもマシンガンを潰された!武装がやられたらどうしようもない!タンク以外は少しでも弾幕の分厚い場所から遠ざかってくれ!》

《ヘルハンマー、頭部小破……!守勢に回っている場合じゃないな……各隊長機!ここは攻め続けるしかないぞ!》

《こちらタイラント……ヘルハンマーの言う通りだ。戦力を温存せずに大火力で一気に決着をつけた方がいい。後衛部隊も全機攻撃に加わる》

 

たった二度の攻撃でAC部隊は圧倒され、攻撃能力を削られてしまっていた。

トップランカーのエースが呻くような声で再度の総攻撃を告げる。

後衛部隊からの補充要員のおかげで先ほど以上の分厚さを形成した弾幕が、水面に浮かぶ赤い怪魚に襲いかかった。

 

「この手応え……やっぱり防御スクリーンか!」

 

適度な距離から敵に大型ロケットを撃ち込むソラ。

いくら大型兵器といえど、装甲自体の防御力はたかが知れているはずである。

複数のACに撃たれて火を噴かないその強度は、まぎれもなくACと同じ防御スクリーンによるものだった。

だが、防御スクリーンとて無敵ではない。

こうして攻撃を加え続ければ、やがては。

そう戦場の誰しもが思ったはずだった。

 

 

大型兵器が、水面から離れた。

 

 

《え?》

 

誰かの声が、通信機からぽつりと漏れ出た。

ACより遥かに大きな図体が水滴を撒き散らしながら、両翼のブースタを爆発させて、空へと駆け上がる。

信じられない異様に、レイヴンは皆、息を止めて見惚れていた。

白い噴射炎は天使の羽の如く、ビルの灯りに照らされた胴体は、暗い夜空に赤々と映えて。

高々と舞い上がった赤い天使は空中にしばし留まり、ゆっくりと旋回する。

罰すべき相手を探すかのように。

やがてそれは、降下を始めた。

ビルの上の、ACめがけて。

 

ゴッ。

 

中衛部隊の1機、C-4ランカーACのパルテノンが上空から敵の突進を受け、逃れることもできずに、そのまま諸共に水中へ引きずり込まれた。

 

《ぐわあああぁぁっ!!》

 

耳をつんざくような絶叫と共に、たちまちパルテノンのAPが0になり、水面が破裂。

パルテノンを構成していたはずの金属片が、浮かび上がってきた。

 

《パルテノンの機体反応が消失……しました。お、おそらく水中で何らかの攻撃を受けたようです》

《す、すごい……ACを一瞬で……》

 

アップルボーイが軽率にも、敵を称賛するような声を上げる。

しかし誰も、それを咎める余裕はなかった。

 

《切り替えろ!次の攻撃でしとめるぞ!》

《AC複数に殴られて無傷なわけはねえ!顔出したところを叩き潰してやれ!》

 

エースとロイヤルミストが、AC部隊の士気を上げようと檄を飛ばす。

だが、共有チャンネルから聞こえてくるレイヴン達の応答は皆、上ずったものだった。

戦場で一定の無敵が保証されているはずのACが、槍で容易く防御スクリーンを抜かれ、突進攻撃で瞬殺されるのである。

圧倒的な格上との死闘。それはACを駆るレイヴン達が感じたことのない種類の恐怖と言えた。

そうして三度、水中から飛翔体が放たれた。

何らかの仕掛けで防御スクリーンを貫通する、細かな鉄槍の雨だ。

水上を軽快に滑るソラのフロートACは速やかに範囲外へ逃げることが出来たが、ビルの屋上で構えるAC部隊は、逃げ場のないどしゃ降りに削られていく。

それは、上位ランカー達であっても例外ではない。

 

《くそっ……!早く水面に上がってこい!早く!!》

 

焦れたD-3ランカーのパイソンが喚いた。

上空からの槍は、パイソンのタンクACガントレットでは回避困難なのだ。

二脚や四脚ならば機動力で雨の激しい範囲から逃れることはできても、タンク型の場合は甘んじて受け止めることしかできない。

防御スクリーンを貫通する攻撃は、機体の各部を少しずつズタズタに切り裂きながら、搭乗者の神経すらも削り取る。

そして、レイヴン達が満足に立て直せぬ間にまたも、飛翔体が上空に打ち上げられた。

じわじわと忍び寄る死の気配。

その恐怖に負けないようにしたのか、パイソンはオーバードブーストで大きく雨の外に逃げようとした。

だが、それは失敗だった。

 

「落ちるぞ!ブースタを吹かせ!」

 

上空で起きた悲劇を目の当たりにして、ソラはコクピットモニターに向けて思わず叫んだ。

運悪く空中で槍に大型ブースタを撃ち抜かれたガントレットが失速し、隣のビルに届かず落下を始めたのである。

受け止めてやれる者など誰もいない。

猛牛の如き赤いタンクACはそのまま水面に叩きつけられ、沈み、絶叫して、APが消し飛んだ。

 

《が、ガントレットの機体反応消失……》

 

レインの呆然とした報告が、ソラの耳に入る。

OXのパルテノンも、パイソンのガントレットも、ソラが一度はアリーナで相対した強敵である。

その彼らが、まるで為す術なく散ったのだ。

そのあっけなさは、レイヤード最強の戦力たるレイヴンの死に様ではなかった。

いや、レイヤード最強の戦力という定義そのものが間違っていたのか。

そう感じるほどに、大型兵器は強大だった。

 

《パイソンの野郎、あっさりやられやがって!ばっきゃろーっ!!》

《す、スパルタンさん落ち着きましょう。そうだ、落ち着いて、何とかしないと……ソラさん、まだ無事ですよね?》

「AP見りゃ分かるだろ、エスペランザ。攻撃はビルの上の奴らに対してが中心だ。俺はまだ余裕がある……だが、いよいよマズいぞ」

 

ソラはアップルボーイに応答しながら、各機のAPを確認する。

全員が何かしらのダメージを負っている。

比較的損害が軽微なのは、ソラとAランカーの3人だけだった。

 

《ケッ、これで3機撃墜に1機離脱か。そろそろ頭使わねえとまずいな……おいどうする、トップランカー》

《攻撃のタイミングはあるんだ、カイザー。水面への浮上に、上空での滞空。上空からの突進に巻き込まれて水没すればACでも即死だが、もしもビルの上で受け止めきれれば……大きなチャンスになる》

《ならば、決まりだ。突進をあえて受ける。頑丈で重い、腕利きの囮役がな》

 

またも発射された徹甲槍の雨を範囲外に逃げてやり過ごしながら、Aランカーの3人が素早く対策を練って、レイヴン達に共有した。

B-1グランドチーフのACヘルハンマーと、ソラの恩師スパルタンのACテンペストがオーバードブーストで動き出す。

さらに後衛のACタイラントとヴァイパーがそれに続き、即席の囮部隊を結成した。

4機のACは一際分厚く高いビルの屋上によじ登り、「その時」を待ち構え始めた。

 

《ストレイクロウ、私達前衛部隊の出番だ。何としても再び、水上に奴を引きずり出す!》

「了解だアルカディア!」

 

ソラのストレイクロウは、エースのアルカディアと共に、水中の赤い影へと近づいた。

大型兵器は接近を拒むかのように、今度は大型自律砲台を撃ち上げてくる。

だが、鈍いハイレーザーに被弾する2機ではない。

容易く躱して撃ち落とし、水中の敵を煽るように執拗に砲撃を加えた。

アルカディアはチェインガンで、ストレイクロウはバズーカで。

どちらも水面下にダメージが通る攻撃ではない。

しかしながら、挑発するような2機の攻撃はやがて功を奏し、再び大型兵器が浮上してきた。

防御スクリーンの展開で水面が発光し、非常照明の照らす大通りを、さらに明るく輝かせる。

 

《出てきたぞ、カイザー!》

《ぶっ殺せ!!》

 

またも多数の砲弾が敵めがけて殺到した。

三度目の正直がついに戦果を上げるかと誰もが歯を食いしばる中、現れた大型兵器は被弾をものともせず、再び羽のブースタで大仰に飛翔を始める。

 

《各機砲撃中止!囮部隊に任せるんだ!……これで終わらせる!》

 

ビル街の上空で先ほどと同様に滞空を始めた赤い天使に対して、タイラントの指揮の下、4機のACが火力をぶつける。

それを受けて天使の矛先が、まんまと囮に向いた。

タイラントとヴァイパーがその場を離脱した直後、再び降下が始まる。

 

《へっ。逃げてもいいぜ、B-1》

《Eランカーを置いてか?馬鹿を言うな》

 

軽口を叩き合うタンクAC2機がオーバードブースト及び通常ブースタを同時に起動、最大推力で大型兵器と真っ向からぶつかり合った。

もちこたえたのは一瞬。

しかし、その一瞬の間に、敵は巨大な爆炎に包まれた。

ヘルハンマーの大型ミサイルと、テンペストのコンテナミサイルがそれぞれ撃ち放たれ、零距離で炸裂したのだ。

夜空を明からせる大爆発によって大型兵器は突進の勢いを削がれ、ブースタの噴射も途切れ、装甲をギャリギャリと擦りながら、ビルの屋上に横たわった。

それはわずかな間だったかもしれない。

だが、歴戦の強者達は千載一遇の好機を見逃さなかった。

ある者はフットペダルを踏み込み、ある者は両手のトリガーを引き絞り、そしてある者は大きく弾き飛ばされながら喝采を上げた。

もはや前衛も中衛も後衛もない。

渡り鴉の群れが、獲物に殺到した。

 

勝った。

 

誰もがそう思った。

 

まばゆい閃光が、それを否定するまでは。

 

 

ズアッ。

 

 

ビルの屋上で、光が爆ぜた。

水上からエース達の総攻撃を見上げていたソラにとっては、見覚えがある光だった。

かつて下水溝で相対した、大蜘蛛が放っていた大熱波。

掴みかけた勝利を否定し、嘲笑う、悪魔の輝き。

複数のビルが光の渦に呑まれ、たちまちに蒸発した。

ソラの視線が反射的に、僚機のAP表示に向かう。

 

アルカディア、タイラント、カイザーはいずれもAP1000以下。

ヴァイパー、ゲルニカはAP0。

突進を受け止めたヘルハンマーとテンペストもまた、瀕死の状態で既に水没している。

何とか無事と言えたのは、控えめな気性ゆえに突撃しなかったアップルボーイのエスペランザと、水上に待機していたソラのストレイクロウだけだった。

 

《……っ、ヴァイパー及びゲルニカの反応消失!各機の被害……甚大です!》

 

レインの通信に少し遅れるように、光が収まっていく。

ソラはビルを消し飛ばしたまばゆい残光を見上げながら、歯を食いしばった。

ヴァイパーに乗るトルーパーとは、作戦開始前にレジーナの話をした。

ゲルニカに乗るゲドとは、これまで何度も協働した仲だ。

腕利きの傭兵達が何人も何人も、理不尽な力の前に消えていく。

ソラの胸の内にあるのは、悲しみより怒りだった。

 

「くそっ、くそが……ただの、無人兵器の分際で……」

 

赤い天使は、消滅したビルの上に陣取り、装甲表面の防御スクリーンを激しく明滅させながら、ブースタを噴射して滞空していた。

羽型のユニットから白い噴射炎の火の粉が飛び散る様は、荘厳ですらあった。

しかし、どれほどの威容を誇ろうとも、ソラにとってやはりこの大型兵器は実働部隊のAC達と同じだった。

無機質で、人間を一方的に滅ぼそうとする、血の通わぬ兵器。

神たる管理者の使徒に相応しい、おぞましい化物。

高く飛ぼうともがく自分を阻む、排除すべき障害。

ソラの目には、そう映っていた。

 

「っ、舐めやがって……」

 

頭が熱い。耳鳴りがする。

多くのレイヴンを退けた強敵を前にして、操縦桿を握る指先に力が満ち満ちていく。

これまで、多くの理不尽を乗り越えてきた。

だから、簡単なことだ。

今回だって、乗り越えればいいだけだ。

ソラの思考は、耳鳴りの中で鋭く研ぎ澄まされていった。

 

《……ラさん!ソラさん!!エースさんの通信聞こえなかったんですか!?一度撤退して、立て直さないと!》

「ああ。お前は退けよ、アップルボーイ。後は俺がやる」

《!?何を言って……》

《撤退すべきです、レイヴン!現在、コーテックスが残る全レイヴンに緊急出撃要請を行っています。それで何とか戦力が集まりさえすれば……》

「間に合わねえし、集まらねえよ。この場に来なかった奴らが、もっと切羽詰まった状況で来るわけねえだろ」

《で、でもあの敵は普通じゃないですよ!》

《防御スクリーンの影響で、目標にどれだけのダメージが通っているかも把握できません!そのような状況で……!》

「アップルボーイ、レイン、止めないでくれよ。ここまで追い詰めたんだ。あれだけバカスカ撃ちまくって、効いてないわけがない。あと一歩で終わるかもしれない。それに、ここで逃げてセクション301が沈んだら、死んでいった奴らが虚しすぎるだろ」

 

ソラは通信機の電源を落とした。

これで僚機のレイヴン達の声も、オペレーターの声も、一切の雑音が入ることはない。

静かだった。ACの振動と駆動音だけが、伝わってくる。

感情的になっているのは分かっていた。

撃破されたレイヴンは皆、知己だ。

それが間違いなく影響している。

だが、もっと深いところで、これを乗り越えられないようではとレイヴンの本能が叫んでいた。

AP残り5500。

バズーカ残弾15。大型ロケットは8。

レーダー上に残存していた味方の光点は、範囲外へと消えていった。

滞空する敵に対して、フロートACがたった1機でやれることは、ごく限られている。

 

ソラは荒く息を吐き、サブモニターのマップデータに視線をやった。

管制室がピックアップした、充分な足場を持つ未水没のビルがスポットされている。

どうやら水位の上昇は止まったようだ。

残っているビルは、もう僅かしかない。

セクション303は、死んだも同然だ。

ここで食い止めなければ、隣の302も、コーテックス本社のある301も、こうなってしまう。

 

――やらせるか。

 

ソラは歯を食いしばり、操縦桿横の赤いレバーを引いた。

ストレイクロウの頭部カメラが大型兵器を見据え、コアからせり上がった大型ブースタが唸る。

猛烈な急加速が、強敵めがけてソラの身体を暗い偽物の空へと運んでいった。

 

「行くぞ……俺が相手だ!!」

 

バズーカが吠え、大口径砲弾が大型兵器の羽型ユニットにぶち当たる。

敵は多少揺れただけで特に支障もなさそうに、羽をストレイクロウに向けてきた。

これまで見せなかった行動。

だが羽の下部から砲塔が露出した瞬間、ソラは操縦桿を思いきり横に捻った。

紅蓮の火球が両翼から放たれ、ストレイクロウの後方のビルに直撃して大爆発を起こした。

かなり強力なグレネードキャノンだ。

この戦いでは今まで使っていなかったが、ユニオンの映像で事前に確認していた武装である。

 

「っ、まだまだぁ!」

 

空中をオーバードブーストの推力で大きく横にスライドするストレイクロウは、細身のビルの上に降り立った。

再びトリガーを引き絞り、バズーカで何度も砲撃を加える。

的が大きすぎて、FCSの精密捕捉を待つ必要もない。

砲撃の合間にソラは、上空に伸びる白い噴煙を視認した。

もう一度オーバードブーストを起動し、今度はより高く、大型兵器により近いビルにまで高速飛行していく。

直前まで陣取っていたビルは、徹甲槍の雨を受けてたちまち穴だらけになってしまった。

 

「…………!」

 

次のビルへとフロート脚部を乗せた瞬間、ソラは大型兵器からの"視線"めいたものを感じた。

大型兵器は完全にソラに注意を向けたらしく、尾の部分から自律砲台を複数切り離していく。

だが、それらの自律砲台は接近してこず、大型兵器の周辺に滞空した。

守りを固めるかのような敵の挙動は、先ほどまでとは明らかに異なるものだ。

防御スクリーンの明滅も、いっこうに収まる気配がない。

相手もかなり消耗しているのだろうか。

 

「ビビってるなよ……デカい図体して!」

 

武装を大型ロケットに切り替え、敵の胴体の中心に数発浴びせつつ、ソラは視線を左右に走らせた。

――思った通りだ。ここからさらに斜め右前方の大きなビルに飛び乗れば、一息つきつつブレードで斬り込める間合いに入る。

こちらの部隊をまとめて薙ぎ払ったあの大熱波も、今の疲弊具合ならば容易く連打もできまい。

まだチャンスはある。

 

ドウンッ。

 

そこまで思考したところに敵の大火力攻撃が再度放たれる。

巨大な火球を、ソラはフロートの内蔵ブースタを全開にしてビルから飛び降りるように躱し、予め起こしてあったオーバードブーストで一気に上昇した。

次の目標、足場となる右前方のビルへ。

 

「っっ!?」

 

だが敵大型兵器は、ソラの狙いを察知していた。

グレネードを目隠しにして、自律砲台の群れを目標のビルの上に移動させていたのだ。

迎撃のハイレーザーがばら撒かれ、圧力をかけてくる。

ビルの周囲を旋回して弾幕を避けたソラが、舌打ちしつつもバズーカで砲台を片づけようとした瞬間。

 

コクピットモニターに映っていたバズーカが、上空からの槍の雨に貫かれて爆散した。

 

ソラの思考が一瞬止まり、すぐさま最高速で動き出す。

グレネードから自律砲台、そして徹甲槍に繋がる緻密な連続攻撃だ。

残る武装はロケット3発とレーザーブレード。

空中で槍を浴び続ければ、オーバードブーストが破損する恐れがある。

今は逃げるしかない。

いや、再度近づこうとしてもこの連続攻撃で防がれるならば?

フロート脚部はそもそも空中戦に向いていない。

接近するチャンスはもうないかもしれない。

今は、少しでもダメージを与えなければ。

勝てない。攻撃しなければ。

勝てない。勝てない――

 

「……クソがぁぁっ!!」

 

降り注ぐ槍を何とか無理やり突破したストレイクロウは、そのまま残りのロケットを撃ち尽くしながら大型兵器に直接迫った。

迎撃のグレネードを躱して高出力ブレードを発振し、頭部と思しき部位に横合いから斬りかかる。

明滅する防御スクリーンに青白いレーザー刃が干渉し、激しく稲妻を飛び散らせた。

やぶれかぶれだった。

これで落ちてくれと願っての突撃だった。

下がりそうになる高度をブースタで無理やり維持しながら、ジェネレータのもつ限りレーザーブレードを当て続ける。

大熱波を放つ隙もあるまい。

防御スクリーンを一瞬でも解除すれば、頭部を"MOONLIGHT"が斬り潰すのだ。

それを分かっているのか、大型兵器は不用意な迎撃はせずにずっと耐え続ける姿勢を見せた。

 

ズガガガガ。バチバチ。ガガガ。

 

斬撃をしかけて、何秒経っただろうか。

5秒か。まだ3秒か。

EN容量がレッドゾーンに入る――入った。

今すぐ攻撃をやめなければチャージングで防御スクリーンが消え去る。

そうなれば死ぬだけだ。

だが諦めきれなかった。

あと1秒こらえれば勝てるかもしれない。

あと1秒。いや0.1秒でも長く――

 

 

 

 

 

しかし、勝利は訪れなかった。

 

レーザーブレードが無情にもかき消えたのだ。

コクピット中にアラートが鳴り響いて、機体の自由落下が始まる。

大型兵器が静かに身じろぎして、力尽きたストレイクロウを弾き飛ばした。

 

「……嘘だろ」

 

グレネードキャノンが、こちらに向いていた。

APは残っていても、チャージングによって防御スクリーンがダウンしている。

大火力を受け止める余力は、ない。

 

届かなかった。

負けた。

負けたのか。

ソラは事実を受け止めきれずに、操縦桿を握りしめて、向けられた砲口を呆然と見つめていた。

そして、グレネードが唸りを上げて。

ACの脇をすり抜けていった。

 

「!?」

 

大型兵器の羽にミサイル弾幕がぶち当たったのである。

続けてグレネードが数発飛来し、これも命中した。

援軍。

違う、戻ってきたのだった。

撤退したはずのAランカー3人とアップルボーイが、戦闘領域まで戻ってきたのだ。

ソラが重力に引かれて水上まで落ちていく中、激しい火器の応酬が上空で行われ始めた。

 

「皆、どうして……」

 

水面に降りたソラのストレイクロウの前に、緑色のフロートACが物言わず滑り寄ってくる。

やることは決まっていた。

ソラは己の頬を拳でぶん殴り、通信機の電源を入れた。

 

 

「ビルバオ!パルスライフルを貸してくれ!」

 

 

ジェネレータの回復を待ち、ストレイクロウは再びオーバードブーストで空へと舞った。

レイヴン達が敵対者と激しく撃ち合う空に、地下世界の偽物の空に。

ソラの復活を察知した天使が視線を向けてくる。

そして、降下し始めた。

空中からの突進攻撃だ。

ストレイクロウを轢き潰し、そのまま水中へと逃げるつもりなのだ。

 

「勝負だ化物ぉ!!」

 

足しになるかも分からないパルスライフルを撃ちっ放し、ソラは吠え猛った。

大型兵器がストレイクロウめがけ、真っ直ぐに突っ込んでくる。

ぶつかる。

ぶつかれば、そのまま死だ。

だがソラの心に迷いはなかった。

左腕の操縦桿を操り、高出力ブレード"MOONLIGHT"を発振させる。

そして迫る巨体を真っ直ぐ見つめて、フットペダルを僅かに強く、踏み込んだ。

 

「あああぁあぁっ!!!」

 

突進を紙一重で躱し、すれ違いざまに大型兵器の頭部から尻尾までを、ブレードで思いきり斬り裂く。

防御スクリーンが弾けて失せ、真紅の装甲にレーザー刃がついに届いた。

両断された大型兵器は水しぶきを盛大に跳ね上げながら、水中へと消えていった。

そして、二度と浮き上がってこなかった。

槍の雨も、自律砲台の群れも、グレネードキャノンも。

赤い天使の猛威は二度と、レイヴン達を脅かさなかった。

 

 

人工太陽が東に上った時。

セクション301とグローバルコーテックス本社はいつものように、地下世界の静かな夜明けを迎えていた。

 

平穏に、無事に。

 

 

 




ゲーム本編だと案外ステージが狭いし離れたら攻撃が痛いしで、とにかく突っ込んで鼻先を火炎放射器で炙る感じになるミッションです。
別に飛びませんし、ミサイルも普通の垂直ミサイルです。
本作でこうなったのは、話の流れで参加レイヴンを増やしすぎたのでバランスを取るためです。
かなり反省しています。

今回の顛末は、今後の話にも影響していく予定です。
次回は年明け以降になります。

◆死亡者
C-2トルーパー(ヴァイパー)
C-4OX(パルテノン)
D-3パイソン(ガントレット)
D-5サバーバンキング(ガスト)
E-1ゲド(ゲルニカ)
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