ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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いよいよ終わりが近いですね。
本来はここでミラージュ施設侵入が入るのですが、このお話では調整されています。
ゲームだとシールドと大型砲台をせっせと抜けていくミッションですね。
今日はマシンガンと投擲銃とミサイルです。

右腕部武装:CWG-MG-500(500発マシンガン)
左腕部武装:KWG-HZL50(投擲銃)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:CWEM-R20(4発発射連動ミサイル)

頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLM-MX/066

ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-X/WS-3
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-S/STAB(被弾時反動軽減)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)


エネルギー炉防衛

『レイヤードはもう終わりが見えてるのよ。どうしてそれが分からないの?』

 

『管理者が全てなの、この世界は』

 

『この世界に、あなたは不要なのよ』

 

『この世界に、あなたは不要なのよ』

 

『この世界に、あなたは不要なのよ』

「……うるせぇっ!!」

 

頭に響く声に、ソラは目を覚ました。

――いつもの見慣れた天井だ。

窓の外には、同じく見慣れた人工の夜空。

今日は天体照明も見えない。一面灰色の雲だ。

 

「はぁっ、はぁっ……くそっ」

 

誰に向けたでもない悪態が、思わず口から漏れる。

もう見飽きた夢を、また見ていた。

ミラージュの偽りの依頼を受けて、マグナ遺跡でリップハンター達と戦った時の夢。

あの戦闘がずっと、ソラの脳裏に引っかかっていた。

リップハンターもファンファーレも、既にこの世にいない。

ソラを陥れようとしたミラージュの企みは失敗に終わり、その本社は特攻兵器によって消えてなくなった。

デュミナスが言っていた奴らの各地での小細工も、尻すぼみに消えていくことだろう。

それで済んだ話なのだ。

だというのに、ソラの頭の中では、あの日の戦闘が延々と繰り返されていた。

 

「依頼がないせいだ、こんな風になるのは。企業が全部ぶっ潰れやがったから……」

 

台所まで行き、コップに注いだ水道水を喉へ流し込む。

今は真夜中だ。

だがこの瞬間にも、管理者の実働部隊によって虐げられている人はいるだろう。

しかしそれが分かっていても、ソラは傭兵だ。

依頼を請け負って遂行するのが生業の、グローバルコーテックスに登録された傭兵だ。

勝手に戦地まで飛んで行って、好き勝手に実働部隊を相手に暴れるわけにもいかない。

磨き上げてきた力が、築き上げてきた実績が、今こうして依頼を待っている間は何の役にも立たないのだ。

 

「依頼があれば、な……」

 

誰かの依頼がなければ、自分は戦場に出ることもできない。

そのことを無力に感じるのは、初めてだった。

戦場に出たいのだろうか、自分は。

誰かを救う、誰かのために役に立つ。

自分は決してそんなことを考えて生きるタイプの人間ではない。

それでも戦場に出て、管理者の部隊を相手に戦いたいのだろうか。

とはいえ、誰が今の自分に戦闘を依頼するというのだろう。

レイヤードの騒乱を先導してきた三大企業にもう、力はない。

あとは、ユニオンだけだ。

そして、情勢を見守り続けるユニオンがついに動く時。

それはきっと、このレイヤードにとっての正念場になるだろう。

もう後がない、正念場に。

 

ソラは寝室に戻った。

すぐには寝付けず、天井をベッドに寝転んだままぼんやりと見つめる。

 

マグナ遺跡の戦い、そしてミラージュ本社の陥落。

あれから瞬く間に2週間が過ぎた。

この2週間で、またレイヤードには多くの異変があった。

 

第一に、三大企業全ての本社が壊滅したことにより、あらゆるセクションの機能が本格的に麻痺したこと。

第二に、企業系メディアが活動を停止し、市民が正確な情報を入手できなくなったこと。

第三に、管理者の実働部隊がレイヤード中の主要施設の破壊を、あらかた完了したこと。

 

そして。

その現状を把握し、未だ活動を継続している組織が、独立した情報網と戦力を持つグローバルコーテックスと、"AI研究所"職員フレデリカ・クリーデンスを擁するユニオンのみになったこと。

企業の残党達はひたすら息を潜め、来たるべき再起のために先の見えない雌伏に入っていた。

しかし、その雌伏は本当に報われるのだろうか・

意味があることなのだろうか。

 

人類に残された時間は、もう――

レイヤードに住む誰しもが、そんなことを考え始めていることだろう。

そしてそれは、ソラ自身も例外ではなかった。

 

 

『血まみれの天井に、怯えるといいわ』

 

 

リップハンターの言葉がまたも脳裏をよぎり、ソラは天井を見つめるのをやめて横を向いた。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

我々ユニオンより、レイヴンに緊急の依頼を頼みたい。

未登録AC1機を含む管理者の実働部隊が、第四層エネルギー生成区を中央動力施設"C-001-E"に向けて進軍している。

 

目的はおそらく、"C-001-E"の破壊だろう。

この動力施設は、レイヤード全域にエネルギーを供給する生成区の基幹施設だ。

破壊されれば第四層の動力施設の大半が連鎖的な機能停止を起こし、間違いなく壊滅的な被害が発生する。

攻撃は必ず阻止しなければならない。

 

今回出現した実働部隊は比較的少数だが、その進軍速度は驚異的だ。

本来それを食い止めるべき三大企業は、もはや頼りにならない。

今となっては、君達だけが頼りだ。

 

時間がない。

一刻も早く敵部隊を撃破してくれ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

《レイヴン、もうすぐ作戦領域に到達します》

「了解。レイン、今状況はどうなってる?」

《管理者の実働部隊は侵攻ルート上の施設群を破壊しつつ、既に中央動力施設の目前まで迫っています。各企業の残党に動きは無し。ユニオンからは、動力施設及び敵部隊についてのデータ提供がありました》

「まあ、例によって俺達がやる以外にない、か。それにしても、ついにユニオンが動き出すとはな。いや、ようやくか。……アルカディア、準備は?」

 

第四層エネルギー生成区の上空を飛ぶ、戦略輸送機のハンガーの中。

ソラは愛機ストレイクロウのコクピットで計器の最終調整を行いつつ、同乗している相方に声をかけた。

問題ない、とすぐに通信が返ってくる。

今回の僚機はこれ以上を望むべくもないトップランカー、A-1"エース"の"アルカディア"だ。

 

《ユニオンからの情報によれば、敵部隊はコーテックス未登録の四脚ACが率いる超高性能MT20機。機種はスクータムとカバルリー……侵攻ペースを考えれば、施設への侵入を阻止できるかどうかは微妙なところだろう》

「ああ。まずはACからか?」

《管理者が使役する未登録ACの性能は私も以前に戦場で体感している。……決着はつかなかったがな。こちらも2機がかりとはいえ、多数のMTの介入を受けながら排除するのは困難だ。優先すべきは高出力レーザーを持つカバルリーだな》

「分かった」

《"C-001-E"は特殊なエネルギーシールドによって守られるレイヤードで最も堅牢な施設。セキュリティシステムも完全に独立しているはずだ。さすがに取り巻きを失ったAC1機では易々と制圧できん、と思いたい。思いたいが……》

「……が?」

《敵は管理者の直属だ。我々の常識では計りきれないと思った方がいい》

 

トップランカーの言葉に、ソラは重々しく了解と返した。

輸送機のカメラが捉える遠方の映像が、ソラのACのモニターに転送されてくる。

中央動力施設の周辺では青白いレーザー光や赤い爆炎が瞬き、煙がいくつも上がっていた。

 

「……なぁ、エース。こんな時だけど、聞いていいか?」

《どうした?》

「開示情報から、ワルキューレの名前が消えていた。その下のノクターンも。……あんたがやったのか?」

《……ああ、ワルキューレは私がやった。ミラージュの仕組んだ戦場でのことだ。ノクターンの方は、土壇場で撤退したはずだがな。セクション301には戻っていないらしい》

 

状況が差し迫っている。

もうじき戦場に下りる時間だ。

こんな時にする話ではない。

そう分かっていながらも、ソラの口からは言葉が続けて漏れた。

 

「ワルキューレは……どんな最後だった?」

《彼女は味方が全て落ちようとも逃げようとも、私に向かってきた。私を、ACのライフルで狙い続けた》

 

エースはそれだけを言って、詳しく語ることはしなかった。

だが、クレスト本社やレイヴンの共同墓地でワルキューレと言葉を交わしたソラにはそれだけで十分だった。

彼女は最後まで、レイヴンであり続けたのだ。

一度羽を折ろうとも、最後まで高みを目指して飛び続けたのだ。

 

「トップランカー、あんたはよく言ってたよな。高く飛ぼうって。"高く飛ぶ"ってどういうことなんだ?レイヴンが飛んでった先には何があると思う?」

《今さらな疑問だな。君はもう、レイヴンとして十分な高みに至っているはずだが。それは、自分なりの答えを得た上でのことではないのか?》

 

ソラは鼻を擦った。

 

「……それが、よく分からねえんだよな。色んな奴らと戦って、知り合って話もして、その上で俺も自分なりの目標みたいなものを持ってやってきたとは思ってる。だけど、この前ミラージュのくだらない依頼を終えて、改めて思ったんだ。このまま戦い続けた先には、何があるんだろうって。俺の目指すものは、本当にこの先にあるんだろうかって。もしかしたらあの女の、リップハンターの言う通り――」

《目指すもの、か。その答えは、容易には見つからないのかもしれないな》

 

目標の部隊まで、距離1500。

カバルリーのレーザーキャノンの超長射程を考慮すれば、もう出撃しなければならない距離だ。

しかしオペレーターのレインは、ソラ達の会話を遮ろうとはしなかった。

 

《……それでも》

 

エースが、レイヴンのトップランカーが言う。

 

 

《それでも、戦わなければならない。何があろうが、誰に何と言われようが、私達は己の信念の為に戦って、戦って生きなければならない。それが、"高く飛ぶ"ということだ。目指すものは人によって違うかもしれない。だが、答えはいつだって、飛び続けた先にある。私はそう信じている》

 

 

エースの高潔で愚直な物言いにソラは何となく顔が熱くなって、生返事をして通信を切った。

レイヴンは協働するばかりではない。

むしろ平常時であれば、命を奪い合う敵同士になる方が多い間柄だ。

エースとだって、管理者が狂わないままにソラが実績を積み重ねていけば、いずれは相対したかもしれない。

だとしても。

 

「……ありがとう」

 

ソラは独り言を、ぽつりと呟いた。

いつか娯楽施設で話をしたファナティックのことを思い出す。

"意思"と"力"、レイヴンがレイヴンである証。

そう語った彼女はもういない。しかし受けとった物は、確かにソラの胸にある。

エースもまた、これまでの多くを背負って今ここに立っているのだろうか。

 

《アルカディア、出撃する!輸送機はすぐに旋回行動に移れ!カバルリーのレーザーに当たるなよ!》

「ストレイクロウもだ!出るぞ!」

 

2羽の渡り鴉が、偽物の空に舞った。

オーバードブーストを吹かして接近すると、すぐさまカバルリーの迎撃砲火が空を裂いて飛来する。

とはいえ、機械的な射撃に今さらたじろぐレイヴン達ではない。

激しい弾幕の中を巧みにくぐり抜け、煙を噴き上げる施設群に降り立った。

施設の破壊を行っていたMT部隊の群れが一斉にストレイクロウとアルカディアに向かってくる。

未登録ACの姿はない。

 

《レイヴン!カバルリー12、スクータム8です!》

「敵ACはもう中央動力施設に侵入したのか?」

《手筈通りだ。まずはカバルリーからやる。ついてこれるか?》

「当然!」

 

最初に突っ込んできたのはスクータムだ。

バズーカの3点バースト射撃が夥しく殺到し、しかし虚しく地面に着弾して爆ぜる。

跳躍して逃れた2機のACは、時速300㎞超で猛然と突っ込んでくる重装MT部隊をそのまま飛び越した。

 

《右をやれ!私は左だ!》

 

アルカディアのスナイパーライフルが合図のようにカバルリーを1機射抜く。

再び撃ち放たれたレーザーキャノンの束を躱し、ソラは右前方のカバルリーの群れにオーバードブーストで突っ込んだ。

残像が生じるほどの勢いで激しく左右に踊って、FCSの予測を攪乱し始めるフロート部隊。

だがソラは構わずそのど真ん中に割り込み、1機を体当たりで吹き飛ばして仕留めた。

 

「もう飽きてんだよ、お前らの相手は!」

 

距離を取ろうと下がる敵部隊に向け、マシンガンをあえてマニュアル照準で放つ。

薙ぎ払うような乱射に引っかかり、2機が転げて沈黙。

重装MTならばある程度は凌げる攻撃も、機動力に特化した脆いフロートMTでは容易く致命傷となるのだ。

ソラは追撃を目論むも、旋回して追いついてきたスクータム部隊が圧力をかけてきた。

大口径砲弾が雨のように降り注ぎ、カバルリー排除の邪魔をする。

しかしすぐさま横合いからグレネードランチャーの火球が放たれ、敵の一斉射撃を乱した。

 

《遅いぞ。スクータムは私が引き受ける》

 

いつの間に。

ソラが驚く間もなく、アルカディアがすれ違うようにしてスクータムの群れに勇ましく向かっていく。

僅かな間でカバルリーは、トップランカーによってその数を大きく減らしていた。

ソラに任されたのは、残り3機。

僚機の完璧な仕事ぶりに、ソラの中で闘争心が燃え上がる。

チャージを終えた超高出力レーザーキャノンが、またもストレイクロウめがけて一斉に火を噴いた。

だが、当たらない。

 

「失せろ!」

 

ACの投擲銃から発射された榴弾が、レーザーの反動で一瞬静止したカバルリーを吹き飛ばす。

最後の2機が砲身に稲妻を迸らせ、高速で突進してきた。

零距離射撃か。血の通わないAIなどに負けるものか。

ストレイクロウは地面を投擲銃で撃った。

コンクリート片を撒き散らして発生した爆風が敵の目をくらませ、足を鈍らせる。

突進の勢いが弱まった隙をついてソラがマシンガンを撃ち鳴らせば、2機のカバルリーは回避が間に合わずまとめてスクラップと化した。

 

「待たせたな、アルカディア」

《随分とスロースターターだな、ストレイクロウ。あとは仕上げだ》

 

生き残った5機のスクータムが後退して距離を稼ぎつつ、バーストバズーカでレイヴン達を狙う。

そこからは一方的だった。

いくら管理者の実働部隊が企業のMTとは一線を画す性能を誇るとしても、レイヤード有数の手練れ2人の相手にはならない。

マシンガンとチェインガンに装甲を引き裂かれ、その場に横たわって沈黙するのみだった。

 

《レイヴン、ユニオンより通信です。未登録ACが中央動力施設の内部に侵入。エネルギーシールドを含むセキュリティシステムが順次解除されているとのことです》

「やっぱり素通りかよ」

《当然だろう。管理者はレイヤードにおける最上位権限を持っているからな。その気になりさえすれば、セキュリティに阻まれるわけがない。……急ぐぞ》

「了解」

 

ソラとエースは解放されたメインゲートから動力施設の内部に入った。

レインが送信してきたマップデータを確認しつつ、進行する。

施設には第四層全域に動力を供給する大型エネルギー炉が2基と、超大型エネルギー炉が1基あるようだった。

それぞれの炉を繋ぐ通路にはシールド発生装置と固定砲台が無数に設置されており、侵入者を撃退する仕組みになっているらしい。

しかし、既にそれらのセキュリティは停止していた。

 

《手前2つの大型炉は、最後の超大型炉を補助しているようだ。最悪、2つ目までの破壊は許容できる》

「それでも、レイヤードには大きな被害が出るんだろ?」

《……間違いないな。何はともあれ、手早く始末して被害は最小に抑えるべきだろう》

「トップランカーとの2対1だ。余裕さ」

 

2人のレイヴンはセキュリティの切れた通路を素通りして、大型エネルギー炉のある開けた空間へと出る。

炉の前にはACが静かに佇んでいた。

それも、2機。

四脚型とタンク型だ。

 

「2機?四脚ACが1機じゃなかったのか?」

《タンクの方は施設内部の機密ブロックから出撃したんだろう。ここはレイヤードの急所だ。最初から管理者のACが配備されていても不思議じゃない。だが……》

 

ソラの頭の中に疑念が湧き起こる。

施設に最初からACが配備されているのであれば、それを使って手早く破壊活動を行えばいい話だ。

わざわざ人類の目を引くようにエネルギー生成区を進撃する必要はない。

言い淀んだエースも、同じことに思い当たったのだろう。

だが、それ以上を考える猶予は消え失せた。

管理者のAC達が、それぞれ武器を構えたからだ。

 

「トップランカー、どっちを取る?」

《タンクを貰う》

 

ブン、とアルカディアのレーザーブレードが一瞬閃く。

それが開戦の合図だった。

四脚の武器腕レーザーとタンクの武器腕マシンガンが、銃口を輝かせた。

レイヴン達は咄嗟に飛び退り、反撃に向けてロックサイトを睨みつける。

しかし。

 

「待て、何だその……!?」

 

四脚の武器腕が唸るのと同時に、肩のパルスキャノンと大型ロケットも連射された。

通常のACではありえない、全携行火器の同時使用だ。

形成される弾幕は非常に分厚く、回避以外の行動を強く拒む。

エースが相対するタンク型も同じようだった。

武器腕マシンガンと両肩のチェインガンを同時に起こし、とめどない攻撃を繰り出している。

 

《っ、……だが機動性はさほどではないぞ!反撃あるのみだ!》

「おおっ!」

 

トップランカーの発破に勇気づけられ、ソラは集中力を高める。

確かに先ほどから四脚もタンクも、これまで戦ってきた管理者ACほどの鋭い機動は見せず、ある程度常識的な速度で動きながら火器を連射してくるばかりだ。

とはいえ、立ち回りの良さは上位ランカーと比べても遜色のないレベルである。

射撃も正確で、集中を切らせば一気に持っていかれそうな威圧感を発していた。

それでもソラは何とか弾幕の隙を縫うように動き回り、マシンガンと投擲銃の火力を効果的に差し込んでいく。

敵のリロードのタイミングを見計らって、ミサイル弾幕でも圧力をかけていった。

不意にタンクACが目標を変えて攻撃をしかけてきても、アルカディアの的確なインターセプトがそれを阻んでくれる。

四脚の行動については、ソラが全て対応した。

僚機への横槍を防ぎつつ、少しでもエネルギー炉に近寄る素振りを見せたならば接近してプレッシャーをかけ、それをさせない。

 

《いけるぞ……!焦らず追い詰めていけ!》

 

アルカディアがオーバードブーストの機動性を駆使し、果敢にタンクの弾幕を抜けてブレードで切り込んで、素早く下がる。

ソラもエースも少しずつ敵ACの攻撃の激しさに順応し始めていた。

攻撃の物量に慣れさえすれば、これまでの管理者ACと比べてもイージーな部類だ。

火事場を任された2人のレイヴンは、何とか余力を残していた。

互いにAPは6000近くある。

このまま集中を切らさず、互いをフォローし合いながらじりじりとAPを削り取っていけばいい。

そう思ったのも束の間、敵ACのコアからイクシードオービットが分離した。

 

「!?やめろっ、何やってるてめえら!」

 

こちらを狙う通常火器の斉射とは別に自律砲台のオービットが、大型エネルギー炉に激しい砲撃を浴びせかける。

 

《レイヴン!第一エネルギー炉にダメージが蓄積しています!熱量増加中!このままでは爆発します!》

「分かってる!クソが!」

 

ソラは両手の火器を目いっぱい撃ち続けながら、強引に四脚の弾幕の中を猛進した。

敵ACが跳躍して逃げようとするところに、オーバードブーストで無理やり体当たりして、空中で組みつく。

だが、最接近しても一気に致命傷を与える手段がない。

仕方なしにマシンガンをコアに突きつけて、全力でトリガーを引き絞る。

 

「くっ、俺もブレードを持ってきてれば!」

 

激しい振動と轟音の中で、ソラは後悔の言葉を口にした。

拘束は結局、長くはもたなかった。

管理者ACは通常のACよりあらゆる出力で勝るのだ。

ストレイクロウはあっという間に振りほどかれて地に叩き落とされ、空中からレーザーとパルスの連射を返された。

そうこうしている内にも、敵のイクシードオービットはエネルギー炉に向けて砲撃を繰り返し続けている。

エースも同じ苦境にあるようだ。

何とかタンクAC本体は釘付けにできていても、炉を攻撃する自律砲台にまでは対処しきれていない。

 

《炉心が崩壊します!レイヴン、一時退避してください!》

 

レインからの警告に歯を食いしばり、ソラはエネルギー炉から大きく距離を取る。

炉はまばゆく禍々しく光輝き、施設全体を揺らすほどの莫大な閃光と爆風と熱波を放って、消滅した。

コクピットが大きく揺れ、シートベルトの締め付けがソラの上半身を軋ませた。

 

《そんな、これではレイヤードのエネルギー供給が……》

《まだだ、まだ炉はあと2つある!集中を保て、ストレイクロウ!》

「あぁ……!」

 

ソラとエースはすぐさまオーバードブーストのレバーを引き上げた。

向かうのは次の大型エネルギー炉に続く通路だ。

既に通路の入り口には、敵のタンクACが陣取っている。

四脚の姿は見えない。もう先に進んでいるのか。

管理者の実働部隊は炉心の大爆発の最中でも、迅速に最善手を打っていた。

 

《タンクは無視だ。飛び越えて四脚を追う!》

 

エースの指示に応じてソラがフットペダルを踏み込むと、オーバードブーストの高度がグンと上がった。

眼下ではタンクACが全武装をひたすら撃ちまくってくるが、この速度ならばかすったところで致命傷にはならない。

アルカディアとストレイクロウはタンクの頭上を通り過ぎ、通路に入った。

奥には、次のエネルギー炉に向かう四脚の背中が見える。

やはり機動性は、これまでの管理者ACに比べて劣るようだ。

 

「捉えた!このまま2人で一気に……!?」

 

異変が起きた。

通路のそこかしこから、固定砲台の群れが姿を現したのだ。

ラインレーザーの乱射と、それに紛れてハイレーザーがストレイクロウを的確に狙ってくる。

突如沸いた強烈な圧力に、ソラは反射的にオーバードブーストを切り、回避機動に入った。

結果、構わず直進したエースのみが通路の先に先行することとなってしまう。

そして見計らったように出口付近に発生したエネルギーシールドが、2人のレイヴンを完全に分断した。

 

「やられた……!アルカディア!」

《問題はない!四脚は私が仕留める!お前はタンクをやれ!》

 

後方から追いついてきたタンクが武器腕マシンガンと両肩のチェインガンをまとめて乱射してくる。

さらに大量の固定砲台の迎撃網。

通路は狭く、行く手はエネルギーシールドに阻まれ、回避機動も取りづらい。

必死に反撃を試みるも、圧倒的な攻撃の密度差に、ストレイクロウのAPが瞬く間に溶けていく。

 

「場所が悪すぎるっ……く、そぉっ!」

 

どれだけ集中して操縦桿を操っても、回避できる弾幕の量には限りがある。

特に厄介なのは、連射力と集弾性を両立するチェインガンだ。

それが2門とあっては――

進退窮まり、ソラはオーバードブーストを使って通路を一気に逆走した。

再びタンクの頭上を通り抜け、最初のエネルギー炉があった部屋に戻る。

ここでなら十全な回避ができ、なんとか互角の勝負ができると思ったからだ。

だが、それが致命的なミスだった。

 

《レイヴン、シールドが!?》

 

レインが声を裏返した。

通路の入口にまでエネルギーシールドが発生したのだ。

完全に孤立し、ソラは自分の判断の甘さを後悔した。

 

「アルカディア!そっちはどうなってる!?」

《優勢だ……!何とかな!》

「締め出しを食らっちまった!援護に行けない!」

《……!心配はいらん、どうとでもできる!》

 

通信機の先で、トップランカーが吼える。

それが薄氷の上の虚勢であることは、ストレイクロウのモニター上部に表示された僚機のAP表示で見て取れた。

アルカディアの残りAP4500。

 

《レイン!シールドを解除できないか!?》

「コーテックスではどうにも……!ユニオンに確認を取っています!少し待ってください!」

《くそっ、急いでくれ!フレデリカはどうしてる!?あいつなら……》

 

ソラが慌てふためき、オペレーターに怒鳴っている最中。

シールドを隔てた向こう側でタンクACが通路の奥に進み始めていた。

出口側のシールドが解除されるのが、ソラの位置からでも分かった。

 

「アルカディア、タンクが抜けちまう!一旦逃げろ!」

《いや……行く手にもシールドだ。だが、何とかしてみせる……!》

 

ソラは機体をシールドに衝突させた。

特殊な電磁場が形成されているのか、強い反発が生じ、ACが仰け反らされてしまう。

APもたった一度の接触で大きく削られていた。

強行突破は、できそうにない。

やがてシールドのその先――通路の奥、2つ目のエネルギー炉がある部屋で3機のACが入り混じって戦闘するのが垣間見えた。

アルカディアはよく耐えていた。

管理者の使徒相手の2対1で、常軌を逸した火力を誇るAC2機を相手に、長々とAPを維持し続けていた。

レーダー表示の上でめまぐるしく3つの光点が立ち回るのが、特に緑色の僚機が激しく縦横無尽に動き回るのが、呆然とモニターを見つめるソラにも分かった。

しかし、人間の集中力と対応力には限界がある。

アルカディアのAPが、大きく削れ始めた。

 

残りAP3500。

2500。

1500。

1000。

赤い光点が1つ減った。

700。

500。

300。

 

《ストレ……四脚は、……倒し……あと、は……》

 

砂嵐のような音に混じって、レイヴンの今際の息遣いが聞こえてくる。

 

《高く……よ、り、高く……》

 

それがレイヤード最高の戦士の、最後の言葉だった。

通路の奥で、激しい爆発が起きる。

残るは、最後の超大型エネルギー炉のみ。

生き残った敵のタンクは奥には進まず、大炎上する炉の前で泰然と待ち構えていた。

先に邪魔者を片づけるつもりなのだろう、獰猛な殺気を滾らせるソラがシールドの檻から解き放たれるのを、じっと待っていた。

 

《……ユニオンがシールドの解除に成功!レイヴン急いでください!最後のエネルギー炉が破壊される前に!》

 

レインが言い終わるより前に、ソラはオーバードブーストを起動する。

そのまま通常ブースタも吹かし、一本の矢となった迷い烏が細長い通路を激烈な速度で駆け抜けていく。

管理者ACが全火器をこちらに向け、激しい連射を開始した。

ソラは通路を抜けると同時に推進を休め、慣性に従って床を削りながら回避行動を取る。

モニターの端に、物言わぬ僚機の残骸を見た。

だが、それも一瞬だけだ。

弔いは、敵の屍をもってすればいい。

マシンガンと投擲銃、ストレイクロウの両腕の武装が唸りを上げ始める。

 

「おぉぉっ!」

 

ソラは猛りながらも相手の射撃を何とか凌ぎつつこちらの射撃を通せる距離を探り、撃ち合おうとした。

一方、敵ACは夥しい量の火線を形成しながらも、ストレイクロウから距離を置き始めていた。

臆したわけではない。

双方の武器構成を鑑みた場合、最長射程を誇るチェインガンが有効に機能する距離を作るべきだと考えたのだろう。

さらにこれまでエネルギー炉の破壊のみに用いていたイクシードオービットも展開し、こちらの武装の射程に入るのを強く拒む。

流石は管理者のACとしか形容できない最適な行動だ。

しかし、そんな理詰めの攻撃にそのまま黙ってやられるソラではなかった。

ならばと煮えたぎるような殺意を力に変え、オーバードブーストを轟かせる。

 

《レイヴン!?》

 

固唾を呑んで見守っていたレインが思わず声をあげるような、無謀とも言える戦法。

めくら撃ちしたミサイルを煙幕代わりに用いて、ソラは最接近距離にまで機体を近づけた。

尋常ならざる速度域のまま、ストレイクロウが敵ACの胴体向けて痛烈な蹴りを見舞う。

タンク脚部の安定性能は抜群だ。ただ蹴っただけでひっくり返ることはない。

とはいえ、ACほどの巨体が時速700kmを超える速度で蹴りつければその衝撃は大口径砲弾よりも大きく響く。

防御スクリーン同士が干渉して迸り、脚部に異常が発生するも敵のコアは大きく仰け反って、射撃の嵐が止まった。

その隙に最大火力を叩きつける。ミサイルと投擲銃の連打だ。

そして敵が体勢を立て直すかというところで、迷い烏は再び矢と化した。

 

ドギャァッ。

 

再度ブースト全開で蹴りつけて怯ませる。

怯めば、また最大火力を押し付ける。

敵が復帰する前に、もう一度蹴る。

三度目の蹴りを放った直後、相次ぐ大衝撃にAIが異常をきたしたのか最大級の防衛本能なのか、タンクACは全火器をめくらに四方八方へ放ち始めた。

滅茶苦茶な弾幕が広範囲に吹き荒れ、だが圧力は確実に弱まる。

まともにこちらを捉えているのはイクシードオービットだけだ。

ストレイクロウも各部の動作異常を告げるアラートを響かせ始めた。

エネルギーはレッドゾーン。

いや、もはや関係ない。チャンスは今しかない。

ミサイルユニット、マルチロック。最後の突撃。

 

「くたばれぇっ!!」

 

敵ACに正面から体当たりしながら、ソラはトドメのミサイルを放った。

8発ものミサイルが連続して突き刺さり、そして。

 

ごうごうと燃え盛るエネルギー炉のすぐ傍で、決着を告げる大爆発が起こった。

エースと連戦したタンクは、元々こちらに比べてAPをすり減らしていたのだろう。

捨て身の強引な猛攻を前にあえなく吹き飛んで、木っ端微塵になった。

 

《敵AC撃破!レイヴン、超大型エネルギー炉の防衛は成功です!》

「はぁ、はぁ……やった、やったぞ……エース……」

 

物言わぬ僚機の残骸の前に、ストレイクロウが各部を軋ませながら膝を折った。

AP残り1100。怒りに任せた、綱渡りの戦いだった。

最後にタンクACの挙動が狂わなければ、やられていたのは自分だったかもしれない。

やった、やったと声に出しながらもソラを包むのは、強敵に打ち勝った達成感ではなかった。

戦友を失った喪失感と、依頼を十全にはこなせなかったという無力感。

結局、中央動力施設はその機能を大きく失ってしまった。

今回の影響はじきに、レイヤード全土で出ることだろう。

それによってまた多くの人が死ぬことになるのは明白だ。

しかし、管理者の攻撃は、まだ続く。

ソラの本能がそう告げていた。

次はどこだ。何がやられる。誰が死ぬ。

 

「違う……!今はこれでいい、いいんだ……守り抜いたんだ、俺達は……!」

 

それでも、それでも何とか最後のエネルギー炉は守った。

最後の一線は、エースと自分が守り抜いた。

そう思うしかなかった。

 

『レイヤードはもう終わりが見えてるのよ。どうしてそれが分からないの?』

 

マグナ遺跡で蹴落とした、あの女の言葉が蘇る。

ソラは苛立ちを抑えきれずにサブモニターを殴りつけた。

 

「ちくしょう……いつまで続くんだよ、こんな戦いが……!ちくしょう……ちくしょうっっ!!」

 

天を仰ぎ、叫ぶ。

視線の先には、コクピットの天井があった。

 

すぐ間近の、天井が。

 

 

 




エースはゲーム本編だと死なないし、そもそもミッション中に登場しません。勝手に死なせたので、ファンの方には申し訳ありません。

ノクターンは一応出番ある予定です。忘れてないよ。
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