ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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機動兵器侵攻阻止・2は明日更新予定です。


機動兵器侵攻阻止・1

「コーテックス上層部がユニオンと会談?」

 

第四層エネルギー生成区から帰還した、翌日のことだった。

思うところあって久しぶりにACのテスト場に出てきていたソラの元に、専属補佐官のレインが直に訪れてきていた。

ストレイクロウを固定したハンガーの通路で、人を遠ざけて2人だけで話をする。

 

「ええ、レイヴンが中央動力施設の防衛を終えた直後のことです。閉鎖済みセクション302に潜伏していたユニオンの指導者からコンタクトがありました」

「ああ、そういやあいつら隣にいるんだったな……」

「ご存知でしたか?」

「ん、あー……まあな」

 

首を傾げる相方に対して、ソラは曖昧に返答した。

マグナ遺跡におけるミラージュの偽の依頼――管理者の攻撃依頼を受けるかどうかについて、ソラがフレデリカの意見を聞いたことはレインにも話していなかった。

専属補佐官である彼女には話してよかったかもしれないが、なんとなくそうする気にならなかったのだ。

 

「……それで、私を含む上位ランカーの専属補佐官には、ユニオンとの会談の内容がある程度伝えられています」

「どんな話をしたんだ?」

「一連の管理者の異常行動の総括と今後の展望について、です」

 

レインが形の良い眉をひそめ、手元の分厚いファイルを開いた。

 

「ユニオンはかなり以前から管理者の異常を察知し、広範囲の情報収集を行っていたようですが、その成果を改めてコーテックスに提供したいという申し出があったのです」

「データバンク侵入依頼を受けた時のブリーフィングみたいな内容か」

「はい。彼らによってまとめられた被害規模は、コーテックスの把握しているそれを遥かに超えていました。主に、三大企業の機密施設や第二層環境制御区、第四層エネルギー生成区といった、レイヤードの都市機能維持においてクリティカルな部分についてです」

 

手渡された資料に、ソラは軽く目を通す。

相変わらず几帳面に、精密にまとめられた資料には、レイヤード各所の被害状況が詳しく記載されていた。

 

「特に先の中央動力施設の損壊によるエネルギー供給低下の影響がすさまじいのです。企業が市民のライフラインの維持を最低限にして休眠状態に入ったこともあり、これ以上の被害が出続ければ……」

「人類滅亡、か」

「……現実味を帯びてきている状況にある、とユニオンは言います。まだ比較的無事なのは人工気象システム及び酸素供給システムですが、これらについても既に機能を停止したセクションは少数ながら確認されています」

「実働部隊は中央動力施設にまで攻撃をしかけたんだ。次は片っ端から酸素供給を狙うなんてのも、ありえないとは言えないよな」

「このセクション301においても、ついに深刻な影響が出始めました。エネルギー不足により、優先的に維持する施設機能を早急に選別すべき段階に入っています」

 

ソラは考える。

三大企業が各代表を逃がして雌伏に入ったのは、管理者の暴挙が一旦落ち着くのを待つためだろう。

今じっと耐え忍んでいる市民にしても、新体制を起こしたグローバルコーテックスにしても、そういったある種の楽観的な希望はあったはずだ。

しかし、その暴挙が終わらないとすれば?

このまま人類が滅びるその日まで、管理者が攻撃を続行し続けるとすれば?

レイヴンのトップランカーたるエースすら、管理者との戦いの中で死んだ。

残るレイヴンは、あと僅かだ。

もうじき人類は、管理者に抗う力すら失うかもしれない。

本当の"最悪の事態"が、すぐそこまで迫っているのをソラは感じていた。

 

「上層部はどうする気だ?」

「当面はユニオンと連携する方針です。管理者直属の傭兵斡旋組織が一勢力の肩を持つなど本来あってはならないことですが、この現状においては仕方ないという判断でしょう」

「連携って、具体的には?」

「ユニオン副官を務める、"AI研究所"職員フレデリカ・クリーデンス。彼女にコーテックスの組織運営へ参画してもらうそうです」

「フレデリカに……」

「先の中央エネルギー炉防衛において、迅速な襲撃察知やセキュリティシステムの奪還が出来たのは彼女のバックアップによるものです。これまでのユニオンの各種活動においてもかなりの辣腕を振るってきたようですが、今回の抜擢はやはり、彼女が実際に実力を示したことに加え、管理者の補佐役という経歴が大きかったように思います」

 

フレデリカ・クリーデンスのあらかたの素性について、ソラはレインを通じてグローバルコーテックスに既に報告していた。

"AI研究所"なる特務組織の存在、ユニオンの暗躍の原動力と各企業へのコネクション、そして"管理者の雛"と呼ばれるレイヤード管理プログラムのアーキタイプの存在についても。

これまではフレデリカの力に半信半疑だった上層部も、今回のレイヤードの存亡を揺るがした攻撃によって尻に火がつき、確かな実績を示した彼女へ協力を仰ぐことにしたのだろう。

 

「……レイヴン。その……」

「ん?」

 

ファイルから視線を上げたソラと対照的に、レインは視線をハンガーに落とした。

 

「ユニオンは、今後どうするつもりだと思いますか?グローバルコーテックスとの連携を持ちかけてきたのは、あちらです。フレデリカ・クリーデンスの力を我々に見せつけ、三大企業も去ったこの窮地に満を持したかのようにコーテックスへ接近してきました。何か、意図があるのではないでしょうか?」

「…………」

「例えば…………管理者への攻撃、とか」

 

あってはならない、恐ろしい企みをするかのように、レインは声をひそめる。

管理者への攻撃。

ミラージュすらなしえなかった、レイヤード最大の禁忌。

ソラは既にその話について、ユニオンのブレーンであるフレデリカ本人と言葉を交わしていた。

失敗と成功、そのどちらの影響も全く予測できない行為だと、言われていた。

 

「レイヴン、もしもユニオンが依頼をしてきたら……あなたは受けますか?」

「……レインなら、どうする?」

「私なら?」

「もしレインがユニオンに依頼される立場だとして、管理者を攻撃してくれって依頼を受けるか?」

「……それは」

 

真面目な専属補佐官はぐっと目をつぶり、数十秒に渡って思案していた。

 

「……分かりません」

「…………」

「管理者が今、私達を苦しめているのは事実だと思います。このまま異常が回復されなければ、人類は滅んでしまうかもしれません。ですが………」

 

分厚いファイルを抱きしめるレイン。

ソラを見上げる眼差しには、悲壮の色があった。

 

 

「それでも管理者は、管理者です。レイヤードが創設されてからの数百年、無数の人間が管理者に管理されて、見守られて生きてきました。不幸せになった人もいるかもしれません。でも、管理者のおかげで幸せになった人だってとても多いと思います。この世界には、管理者が必要だったはずです。私は……それだけは何があっても否定できません」

 

 

そうだな、とだけソラは答えた。

それは互いに、煙に巻いただけの会話だった。

だが、今はそれでよかった。

近い内にそれでは許されなくなるのだとしても、選択を迫られるのかもしれないとしても、今はまだ、結論を出さずにいたかった。

ソラは揺れていた。

戦場で管理者の力の数々を目の当たりにし、多くの悲惨な死に触れてきた。

管理者が許せない、という気持ちはある。

このままただ真綿で首を絞められるようにして死んでいくのは嫌だ、という気持ちもある。

一方で、レインの言うように管理者がこの地下世界に必要とされてきたというのも分かる。

それに、もしもユニオンが自分に依頼してきて、言われるがままに管理者を攻撃しても、その結果起きることに責任など到底持てはしない。

そもそも、本当に管理者を止められるかどうかも定かではないのだ。

誰だってそうだろう。

誰しもが管理者を攻撃した後のレイヤードがどうなるか分からず、そこに生ずるであろうあまりにも大きな責任から目を背けている。

だから、迷っているのだ。

きっとユニオンの指導者も、そうなのではないか?

不安で仕方ないから、自分達だけで抱え込むのが難しいから、グローバルコーテックスに近寄って来たのではないか?

 

「皆、何とかならないかって考えてると思う。自分以外の誰かが、何とかしてくれないかって思ってる。でも、今までこの世界を何とかしてきたのは、人間よりも管理者なんだよな。だから俺達は、こんな状況でも自分達で答えが出せないんだろうな」

「……ええ。私も、そう思います」

 

どんよりとした暗いものが、心の底に沈殿していた。

トップランカーのエースを、先の戦闘で死なせてしまったからか。

レイヤードのエネルギー供給を担う動力施設を、半壊させてしまったからか。

それもある。

だがこの暗さは、これまで徐々に時間をかけて積み重ねてきたものだった。

深い、染みわたるような無力感が、いつの間にかソラの奥底にはあった。

 

その後、ソラとレインは長い間無言で、ハンガーに佇むアーマードコアを見つめて過ごした。

 

 

………

……

 

 

翌朝。

グローバルコーテックス所属のレイヴン達は、本社ビル30階の中央講堂に呼び集められていた。

例によって、緊急事態発生による非常招集である。

 

「おう、今回は何だ。巨大エビの次はカニか?タコか?」

「スパルタンさん何ですかそれ?」

「何でぇ、知らねえのか林檎少年。両方とも酒に合ってうんめえんだぞ、特にカニな」

「へぇ……あ、でも僕まだお酒ダメで」

「あんま真に受けんなよアップルボーイ。旦那の馬鹿が移るぞ」

「何だとボウズこのばっきゃろー!よし、ボウズも林檎少年も、会議終わったら娯楽施設に行くぞ!俺がカニの美味さを教えてやる!」

「今は閉まってるってば。エネルギーも物資も不足してるっつってんだろ」

 

講堂の最前列で酒の匂いをプンプンさせる大男スパルタンを、左右に座るソラとアップルボーイが嗜める。

それを壇上から眺めていたA-2ランカー"ロイヤルミスト"が猛禽のような鋭い目を鬱陶しそうに細め、一言感想を述べた。

 

「つまらねえコントありがとよ、クソ酔っ払い」

「ああん!?」

 

立ち上がったスパルタンを無視して、ロイヤルミストは講堂に参集したレイヴン達をぐるりと見渡した。

杖を席に置いた老齢のA-1ランカー"BB"がそれに応じ、同じく壇上へ静かに上がっていく。

 

「けっ……ちょっと見ねえ間にレイヴンも随分と数が減ったな、BB」

「ああ、おかげさまでまたトップランカーだ。アルカディアには勝ち逃げされたな」

「……ふん」

「さて、よく集まってくれたな生き残ったレイヴン達。もう前置きはいらんだろう。ある映像を見てもらう」

 

BBが片手をあげ、講堂の照明が落ちると、前方の巨大スクリーンに光が灯った。

ソラにとってはつい先日、見覚えのある場所だった。

第四層エネルギー生成区に所狭しと並ぶ、動力施設群だ。

それに気付いた矢先、人工気象システムによって作られた偽物の空が一部ブラックアウトし、中から巨大な物体が現れた。

レイヤード全体に通じる大規模な動力炉の数々と比べても、かなり大きい。

以前水没都市で倒した赤い機動兵器よりも、さらに巨体だ。

全体的に形容しがたい仰々しい外見の中でも、特に象徴的なのは六枚の翼のようなユニットだ。

天使の似姿のつもりなのだろうか。

 

「おいおい、こりゃあ何だ……」

 

スパルタンの呟きに合わせるかのように、スクリーンの中の大型兵器は無数の飛翔体を撃ち上げ始める。

舞い上がった飛翔体は爆散し、黒い槍の雨が施設群に降り注いで、連鎖的な爆発が巻き起こった。

 

「ほんの1時間前の映像だ。人工気象システムを裂いて現れたこの兵器は、エネルギー生成区に対して突如大規模な破壊活動を開始した。攻撃対象は無差別だが、進軍経路からして、先にアルカディア達が迎撃した実働部隊と同様に中央動力施設が最終目標だと思われる。このまま放置すればどうなるか、まあ儂が改めて言わずとも分かるだろう」

 

BBがゆっくりと、各レイヴンと視線を合わせるように話す。

 

「これはグローバルコーテックス及びユニオン共同による、全レイヴンに対しての依頼だ。この大型兵器がエネルギー生成区を更地にする前に、速やかに撃破すること。なお、友軍としてユニオン……及び少数の義勇軍が同行する。以上だ」

 

講堂はしんと静まり返った。

その間も大型兵器の破壊活動の続きが、スクリーンには依然として映し出されていた。

降り注ぐのはかつてレイヴン達を苦しめた黒い槍の雨だけではない。

無数の機銃や強力なハイレーザー砲がひたすら連射され、その暴力的なまでの攻撃性能を誇示する。

 

「あー……ごめんだけど、質問いいかな」

 

講堂の後ろの方から、どこかひょうきんな声が響いた。

ソラが振り返ると、最後列から太った男が線のような細目を壇上のAランカー達に向けている。

 

「……ちっ。なんだ、C-2バッドブレイン」

「純粋に疑問なんだけどさ、この依頼遂行に対する報酬はどのくらいだろう?」

「ああ、それを言っていなかったなブラッディーホルン。前回の大型兵器戦と同様だ。グローバルコーテックスとユニオンの財政が許す範囲の金額に加え、ACパーツの全面的な融通が約束されている」

「ありがとう、BBさん。なるほどなるほど、ほぼこちらの言い値とACパーツ大量かぁ……ふーん、へー。それはすごいなぁ」

「阿呆の真似してないで、言いたいことがあるならはっきり言えデブ野郎。何が言いてぇ?」

 

人を小馬鹿にしたような口調で話すバッドブレインに、ロイヤルミストが苛立ち混じりに応じる。

 

「いやね、ロイヤルミスト。今のレイヤードの状況で、それらがレイヴンに対する正当な対価として成立するのかなってね。もう企業は休眠状態で、この数週間は皆ほぼほぼ新しい依頼も受けてないわけでしょう?企業によって価値が保証される通貨や戦闘で使うパーツ貰って、それで大型兵器に命を賭けろってねぇ」

「すいません、僕はアップルボーイです!でも、今この状況で僕達が依頼を受けなければ、エネルギー生成区が全部破壊されて、どの道人類は終わりですよね……?」

「甘いなぁ、アップルボーイくん。僕ら人間の底力を舐めちゃいけない。企業がどうして本社を壊されたくらいで皆して黙り始めたか分かる?生き残る算段をつけてるからさ。レイヤードにはこういう緊急事態に備えて企業が作った無数の非常用設備がだね……」

「対価の話だったな、ブラッディーホルン。では傭兵として、何が望みだ?」

 

バッドブレインの得意げな話を断ち切り、BBが事務的に問いただした。

 

「……んー、そうだね。僕としては、この依頼の難易度に値する報酬はありえないと思うね。というか、もうここまで来たら事後のことを考えた方がいいでしょう?コーテックスがユニオンとつるみ始めたのは、ほんとはそのためじゃないの?」

「驚きだな。ガチで来てる管理者から尻尾巻いて逃げられる気でいるのか?このデブは」

「ふふふ!ロイヤルミストは相変わらずだなぁ。ていうかさ、僕らって、独立傭兵でしょ?今は亡きエースさんに言わせれば、1人1人が高みを目指して飛ぶ渡り鴉、なんじゃなかったっけ?困るんだよなぁ、こういう群れてばかりの……」

「さっきからうるせえよ。やる気がないなら出ていけ」

 

ふざけた喋り方とエースをダシにされたことにソラは黙っていられなくなり、思わず声を震わせて毒を吐いた。

太っちょの細目と、がっちり視線がぶつかり合う。

 

「前にも同じこと言ってた奴がいたが、そもそもこれは依頼だってBBが最初に断っただろ。命令じゃないんだ。気に食わないなら茶々入れずに、黙って抜ければいいだけじゃないのか」

「……ごめん。よく前に座ってるの見るけど、君って誰?」

「C-1のソラだ」

「ああ、君がソラかぁ……知ってる知ってる」

「は?」

「アリーナが停止したのって、実は君のせいなんでしょう?当時オペ子の間で噂だったらしいよ、うふふ」

 

突然の言い草に、ソラは思わず黙りこくる。

その横でスパルタンとアップルボーイが、並んで席を立った。

講堂の空気は俄かに殺気立ち、一触即発の気配が漂う。

 

「あのう、すいません。私共グリーンウィッチからも一点追加のお話がありまして……」

「ちょっ、ビルバオ。後にし……」

「あ、前に上がりますね。よいしょっと……ソラさんも一緒に行きますか?」

「い、いや……遠慮しとく」

「あら。では、私が1人で寂しく上がります、ね?」

 

荒んだ空気を蹴散らして立ち上がったビルバオが、すすすと壇上に向かう。

ロイヤルミストに呆れた顔で手渡された操作端末をこちょこちょ弄り、何やら巨大なキャノン砲の映像を映した。

 

「レイヤードの存亡がかかっている今回の依頼遂行にあたって、グリーンウィッチからもささやかながら支援をさせていただきます。こちらの映像は、私共が違法改造いたしました大口径超高エネルギー砲"CWX-LICX-3"です。現在普及しているACの最大火力兵装"CWX-LIC-10"をより高威力、より長射程となるように大幅な改良を加えた品です。本来は環境保護に役立てるためのものですが、緊急時ですので、こちらを5門提供させていただきます」

「あの、ビルバオさん?僕らの話がまだとちゅ……」

「大丈夫ですよ、バッドブレインさん。確かに逸脱行為に該当する改造品ではありますが、元ミラージュの技術者の方々にご協力いただいていますので、性能は保証いたします。テスト場での試射を行った際には、私の愛用するフロートACが一撃で破壊されてしまいました、うふふ。……ただ難点がありまして、外付けエネルギーパックの装備が必須な上、ACのジェネレータをオーバードライブさせて使用する武装なため、一度の砲撃でチャージング状態になってしまうんです。それも、弾数はたったの3発。使用にあたっては、前衛後衛の連携は必須となります」

「いや、あのさぁ!やるわけないっつってるんだよ!もうレイヤードは縮小していく時期なの!管理者の暴走が収まるまでさぁ!」

「収まらなかったらどうするんだよ?次はいよいよ、酸素供給システムかもしれないだろ」

「……!そんなのさソラくん、今エネルギー炉守ろうが守るまいが一緒じゃん!僕らが命賭けてわざわざやりに行く意味有る!?だいたい、前の大型兵器相手にだってレイヴン部隊は半壊したんでしょ?報告読んだよ!今生き残ってる奴らでそれより大きいの相手に出来るわけないでしょうが!エースさんも死んだのに!」

「私はやれると思いますよ?今ここに残ってるのは、レイヤードを愛する同志の皆さんでしょう?やりましょう!グリーンウィッチも義勇軍として共に頑張ります!えいえい、おーです!」

「うるさいよ環境テロリストの電波女!ああ、もう!僕はやらないからね!じゃあね!」

「あら、まぁ……」

 

苛立ちまぎれに吐き捨て、どたどたと騒がしくバッドブレインは講堂から退出していった。

ロイヤルミストが机を蹴り、BBがため息をつき、だが会議はほどなく再開した。

 

「ブラッディーホルンの言っていることは一理ある。レイヤードは先細りだ。企業保証通貨のC(コーム)もACパーツも、今となっては価値はないかもしれん。ここを止めたととて、管理者の次の手があるかもしれん。三大企業は独自に、生き残る道を模索しているのかもしれん。だがどの道、コーテックスとユニオンが今レイヤードのために出来ることは、これしかない。管理者の打つ手に対して、後手後手なのが現状だ。だとしても、止められるカタストロフは止めねばならない。そうだな?グローバルコーテックス」

 

BBの言葉に応じ、それまで講堂の左右に控えていた専属補佐官や担当官達が一斉に、その場で深々と頭を下げた。

その中には、レインもいた。

レイヴンを戦場に繋ぎとめるものの何とか細いことか、とソラは感じざるを得なかった。

だが、ある意味それは人類の現状を物語っていた。

ここに至ってはもはや、力ある者達の良心と使命感に訴えることによってしか、管理者に抵抗できないのだ。

あとは力ある者達、レイヤード最強の武力を持つレイヴン達の、気持ちの問題でしかない。

 

「前回と同じだ。無理に出ろとは言わん。応じられない者は、この場から退出してくれ」

 

数人が部屋から出ていき、残ったのは8人だった。

 

A-1、BB。

A-2、ロイヤルミスト。

B-1、グランドチーフ。

C-1、ソラ。

D-2、アップルボーイ。

E-3、ビルバオ。

E-4、スパルタン。

E-5、サンドヴァル。

 

「エースの野郎なら、格好のつく檄でも飛ばすんだろうがな。俺もBBも、あいにくそういうのはガラじゃねえ。まあレイヴンってのは、どこまでいっても鉄砲玉だ。鉄砲玉は肝心な時に撃てなきゃ何の価値もねえ。だから出ていった連中に比べれば、残ったお前らは上等な部類だ」

「へっ、何だその物言いはよぉ、A-2ランカーサマ!一言ありがとうございますとだけ頭を下げてくれりゃあいいんだぜ!」

「酔っ払いは黙ってろ」

「んだとぉ!」

 

相変わらずの調子で喧嘩するロイヤルミストとスパルタンを放置して、BBがスクリーン上に今回の戦闘領域を表示する。

 

「部隊編成の話をするぞ。超高エネルギー砲を撃つ後衛はタンクのヘルハンマー、テンペスト、バタイユ。及びグリーンウィッチとエスペランザだ。ユニオン部隊と環境団体グリーンウィッチの義勇軍も軒並み後方からの援護とする。だが戦力としてはあまり期待するな。敵の攻撃を引きつける前衛は儂を含む残る3人。いいな?カイザー、ストレイクロウ」

「いいや、あんたは後ろだ、BB」

「……何故だ?カイザー」

「あんたはレイヴンの長老だ。万が一の時は逃げてもらう」

「馬鹿を言うな。儂は前に出る。エース亡き今、そうするのがトップランカーの役目だ」

「そりゃ違うな」

「何?」

 

壇上でカイザーとBBが火花を散らし始める。

その陰でビルバオが端末を操作して、大まかな部隊配置を作っていった。

 

「戦闘映像は見たはずだな、カイザー。並の攻撃密度ではない。水没都市の大型兵器に勝るとも劣らない戦闘力が予想される。前衛がストレイクロウと2人では……」

「それ踏まえて言ってんだ。老いぼれは足手まといなんだよ」

「貴様、いつから儂に立てつけるように……」

「あ、あの!」

 

ぎろっと2人の猛禽の眼差しが、割って入った声の方に振り向いた。

手を挙げたのは赤面顔の少年、アップルボーイだった。

 

「ぼぼ、僕がBBさんの代わりに前衛をやります!」

「何だと小童」

「ガキが。何寝言ほざいてやがる」

「最近依頼がなかったから、テスト場でずっとスパルタンさんに鍛えてもらってました!ロイヤルミストさんにもソラさんにも、ついていく自信はあり、あります!多分……いえ、絶対!」

 

ソラがスパルタンを見ると、腕を組んでにんまりと満足そうに笑っていた。

 

「まあ、まだまだ粗削りだがよ林檎少年は!粗削りの林檎だが、確かな根性とセンスはあるぜ?そこは俺やボウズにも負けちゃいねえと言ってもいい、俺が保証する」

「お願いします!一皮剥けたいんです!り、林檎だけに!」

「真面目に冗談言う場面かよ、アップルボーイ……」

「がはは!がはははは!」

 

ロイヤルミストが最前列にやってきて、アップルボーイの胸倉を掴む。

少年はひっと引きつった声を上げながらも、唇を噛んで鋭い視線にしっかりと向き合った。

 

「お前ごときが、俺達についてこれると思ってんのか?」

「お、思ってましゅ!」

「死ぬ気か?」

「死にません!絶対に生き残ります!そしていつか、いつかあなたもBBさんもソラさんも追い越して、僕がトップランカーになります!」

「ほぉ……言うじゃないか、小童」

 

後ろから見物していたBBが感心したように笑う。

ロイヤルミストは舌打ちして手を離し、ビルバオに指示を送った。

ソラやロイヤルミストと並ぶ布陣図の最前衛にアップルボーイの名前が表示され、代わりにBBが後衛部隊の指揮に回された。

 

「あ、ありがとうございます!」

「うるせえよクソガキ。前に出る以上、最低限の仕事はしてもらうからな」

「はい!!」

 

後ろから見守っていたグランドチーフが、小さく拍手をした。

スパルタンはがははと笑いながら、大きく拍手した。

 

「依頼は受諾された。準備ができ次第、出撃とする。若きレイヴン達よ、その名に恥じない戦いをするとしよう」

 

緊急招集はそれで解散となった。

 

「ご立派でしたよ、アップルボーイさん」

「ありがとうございます、ええと……ビルバオさん」

「うふふ、よろしければあなたもソラさんのようにグリーンウィッチに……」

「やめろビルバオ。というか、俺はグリーンウィッチに入ったつもりねえからな?お前から組織引き継ぐ気もねえからな?」

「まぁ……ソラさんってば、照れてるんですね?」

「照れてねえよ」

「出撃までに一杯やろうぜボウズ!環境の姉ちゃんもどうだ!酌してくれよぃ!」

「旦那、そんな余裕ねえって」

 

ソラ達がわちゃわちゃと話しているところにそっと、スパルタンやロイヤルミスト以上の長身の男が寄ってきた。

今回の出撃メンバーで唯一前回の大型兵器戦にいなかった、E-5ランカー"サンドヴァル"だ。

 

「キャノン……」

「はい?私共のキャノンが何か?」

「すごいキャノンだな、あれは。後で俺に売ってくれ」

 

サンドヴァルは、大のキャノン好きとのことだった。

 

 

………

……

 

 

「何だよ、話って」

 

緊急招集の帰り、本社1階のロビーでソラはロイヤルミストに呼び止められていた。

 

「けっ……このロビーも変わったもんだ」

「は?」

「分からねえのか?節穴かお前は」

 

数秒眺めて、ソラは気付いた。

かつては無機質に磨き上げられていたロビーに、雑多な物が増えている。

それは運ばれる前の資材だったり、社内を鼓舞する手作りのポスターだったり、誰かが忙しさのあまり置き忘れたファイルだったり。

人のあたたかみを感じられなかった殺風景な場所が、今は少しばかり変わっていた。

 

「管理者はクソったれになっちまった。そのクソったれのせいでアリーナは止まって、レイヴンは片っ端から死んだ。馬鹿げた話だ。誰が俺達にレイヴン試験を受けさせて、ランクを与えて競わせてきたと思ってやがる」

 

新たに設置されたと思しき休憩用のソファにどかっとふんぞり返り、ロイヤルミストがぶっきらぼうに語る。

 

「……この騒乱には何か意味がある、そう感じる瞬間が俺にはあるんだ。管理者がやってることに何か意図みたいなものを感じる瞬間が」

「そんなの誰だってそうだろうが。よほどの馬鹿か能天気じゃなければ気づく」

 

ロイヤルミストはガラス張りの向こうの空を見上げながら、はっきりと言いきった。

 

「ファナティック、レジーナ、ビルバオ……エース。皆、管理者の暴挙を不審がっていた。皆、自分なりの視点で考えようとしていた。あんたは何でだと思ってるんだ?何で管理者はこんなことしてるんだと思う?」

「決まってる。俺達人間の力を試してんだよ。どこまで管理者に立ち向かえるか、な」

「何の為に?」

「知るか。どうでもいいだろ、そんなことは」

 

迷いなく言うA-2ランカーの傍若無人さに、ソラは半ば呆れた。

誰もが疑問に思い、答えを出せないでいるであろうことを、余りにも自信満々に言いきるその態度は、清々しさすらあった。

 

「力が足りない奴は、死ぬべくして死んだ。その辺うろついてたジジィも、あくせく働いてた社畜も、札束の風呂で泳いでた金持ちも。このドタバタで死んだのは全部てめえの責任だ。管理者の力に、負けを認めて屈しちまったのさ」

「初めて会った時から、あんたはそればっかだな。力だ力だっていつも言ってる。じゃあエースやワルキューレが死んだのも、力が足りなかったからだって言うのかよ。あいつらは」

「当たり前だろ。でなきゃ、何で死んだってんだ?管理者がそう決めてたからか?生まれた時から、そうなるって決められてたからか?レイヤードはいずれこうなってたから、何やっても無駄だったってか?暴れる管理者に怯えて虫みたいにひそひそ隠れて生きるのが正解か?そんなのはクソだ。人生に何の意味もねえ」

 

ロイヤルミストはポケットを漁って硬貨を取り出し、ソラに投げて寄越した。

あごをしゃくる先には、自販機があった。

自分で行けよとソラが言っても、大男はソファにどっしりと構えたまま動かなかった。

 

「よくもパシりに行きやがらなかったな。お前、何で行かなかった」

「行くわけねえだろ。馬鹿かあんたは」

「お前は初めて会った時からそうだったな。ユニオンのつまらねえ依頼の話を聞きに行った時も、俺にひるまずにデカい口を叩いた」

「そんなやわな根性はしてねえんだ」

「じゃあ、林檎のクソガキならどうだった?」

 

何故そこでアップルボーイが引き合いに出されるのか分からず、ソラは首を傾げた。

 

「前にエビ退治をした頃のあいつなら、大人しくパシられたかもな」

「今はそんなことしねえよ。あいつはもう、一人前になった」

「そうだ、そういうことだ。今日のあいつなら、お前と同じように俺に言い返しただろうよ。それは、そうできるだけの力を手に入れたからだ。だから、我を通せるようになったってことだ」

 

ロイヤルミストはのっそりと立ち上がり、自販機まで歩いていく。

そしてだるそうにラインナップを見つめ、硬貨を入れてボタンを2つ押した。

 

 

「レイヴンだけじゃねえ。人間ってのは力が全てだ。だが、力は望めば鍛えることが出来る。そうして手に入れた力は、絶対に自分を裏切らねえ。極限にまで研ぎ澄ませれば、管理者のクソったれにだって負けはしねえ」

 

 

ぶん、と乱暴に投げつけられた缶コーヒーをソラはこともなげにキャッチした。

常人ならば慌てて取りこぼすだろうその渡され方も、レイヴンとして鍛え上げた動体視力をもってすれば容易く応じることができる。

 

「答えろ。トップでお高くとまってればいいものを、クール気取ってるくせに人一倍暑苦しい根性してるエースは、何で死んだ?」

「……俺が、肝心なところで判断ミスを」

「人のお節介ばかり焼いて、偉そうに場を仕切りたがる真面目な委員長みてえなワルキューレは、何で死んだ?」

「…………」

「全部、あいつらの力が足りなかったせいだ。他の誰のせいでもねえ。あいつらの死は、あいつらだけのものだ」

 

ロイヤルミストの率直な物言いに、ソラは黙って頷いた。

彼の言い分をそのまま全て肯定する気にはなれない。

しかし、アリーナの仕切り役として名高い男の不器用さが、そこには確かに感じられた。

 

「はっ。さっきは前で見ててイラっとしたぜ。お前、ボケてんのか?」

「ボケてねえよ」

「じゃあ挑発してきた相手の言葉にくらい、最後までしっかりと言い返しやがれ。ツレに助けてもらわなくてすむようにな」

「……分かってるさ。けど、思っちまったんだ。確かにその通りかもって。俺が妙な扱いされ始めてからアリーナは」

「ぐちぐちうるせえよ。ただのC-1風情が調子に乗るな」

 

ロイヤルミストの蹴りがソラを襲う。

ソラは難なく躱して、後ろ向きな言葉を吐くのをやめた。

 

「戦場でまだ腑抜けてやがったら、後ろから撃つからな。いいな?」

「ああ。俺も前のエビ野郎の時みたくあんたが逃げ出そうとしたら、ACで蹴飛ばしてやるよ」

「あ?」

「何だよ」

「…………クク、ははははは」

 

ロイヤルミストは、大きな声をあげて笑った。

ソラもつられて笑った。

 

「とっとと失せろ」

「そうする。また後でな、カイザー」

 

缶コーヒーを一気に煽るA-2ランカーを残し、ソラはその場を去った。

 

戦いへの熱が、極限まで高まっている。

心の底にあった暗さは、いくらか薄らいでいた。

 

 

 




最終盤なので、ここまで生き残ってきたレイヴン達を載せておきます。
全員の出番があるわけではありません。
ご了承ください。

A-1BB(タイラント)
A-2ロイヤルミスト(カイザー)

B-1グランドチーフ(ヘルハンマー)

C-1ソラ(ストレイクロウ)
C-2バッド・ブレイン(ブラッディーホルン)

D-1レジーナ(エキドナ)
D-2アップルボーイ(エスペランザ)
D-3パイロン(タワーオブウィンド)

E-1カスケード(シグナル)
E-2スネークウッド(ゲートウェイ)
E-3ビルバオ(グリーンウィッチ)
E-4スパルタン(テンペスト)
E-5サンドヴァル(バタイユ)

レジーナは怪我で離脱中です。
ノクターンは消息不明につきランクは抹消されています。
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