ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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さようなら

巨大兵器との戦闘から半日後。

 

「どうして依頼を取りやめたんだ?せっかく出撃準備をしてたのに」

 

深夜にコーテックス本社の一室に呼び出されたソラは、入室直後に怒気を滲ませた声で問いただした。

戦場にある者特有の凄みに怯えたのか、応対した眼鏡の女性職員はあわあわと自身の後ろを振り返り、ヘルプを呼ぶ。

ソラの専属補佐官のレインが、いつも以上に堅い表情でやってきた。

 

「依頼の件は大変申し訳ありません、レイヴン。ですが今回の作戦中止は、我々コーテックスとユニオン双方の協議の上でのことなのです」

「だからどうしてだよ。止められるカタストロフは止める、そうじゃなかったのか?」

「それは……」

 

レインは目を泳がせる。

ソラが視線を追いかけるとその先では老レイヴンが椅子に腰かけ、杖に体重を預けてこちらを見つめていた。

亡きエースの跡を継いでトップに返り咲いたA-1ランカー"BB"だ。

 

「そう猛るな、ストレイクロウ。作戦中止は、仕方のないことだ」

「何で!」

「第三層産業区に現れた2体目の巨大兵器による市街地の蹂躙の阻止。確かに重要な作戦だ。誰かがやらねば、巨大兵器はその弾薬が尽きるまで都市を破壊し、市民を虐殺し続けるだろう。そして当然、企業は動かない」

「分かってるよ!だから1体目相手の戦闘を生き残った俺達に、また声がかかったんだろう!?」

「そうだ。そして、それは軽率な判断だった。コーテックスもユニオンもそう考えたのだ」

「……!?」

 

よく呑み込めず、ソラはBBを睨みつけた。

BBは息を吐いて杖を脇に置き、しわくちゃの両手のひらを広げて、ソラに見せた。

左右とも、親指は折り畳んである。

 

「何本ある」

「……?8本だろ」

「そうだ。これが、今のレイヴンの総数だ。つい先日の戦闘で、カイザー含む5人が死んだからな。そしてこの8人のうち、巨大兵器との戦闘を経験したものは、儂とお前とエスペランザしかおらん」

「!」

「残りは、C-2ブラッディーホルン、D-1エキドナ、D-3タワーオブウィンド。それと、E-1シグナルにE-2ゲートウェイ。このうちエキドナは入院中につき参加不可。そして、残りの連中がどういう奴らかは、先の非常招集でお前も分かったろう?カイザーに言わせれば全員、"肝心な時に撃てない鉄砲玉"だ」

 

BBが何を言おうとしているのか、ここまで丁寧に説明されれば、ソラにも分かった。

 

「そう、まともに戦えるのは生き残ったレイヴン8人のうち最大でも3人だと思わねばならんのだ。儂ら3人で、あの巨大兵器をもう一度破れるか?」

「……そんなの」

「やってみなければ分からん、か?やってみせる、か?お前は本当に、心の底からそう思っているか?」

 

ソラは歯を食いしばった。

昼間の戦闘の疲労は、まだ身体に重く残っている。

精神的にも、到底万全とは言い難い。

それはBBもアップルボーイも同じことだろう。

BBの言うことは、正論だった。

8人がかりで5人がやられたあの圧倒的な殺戮兵器を相手に、たった3人で勝てるかどうか。

それは、あまりにも勝算の低い戦いだった。

 

「……俺達がもし2体目の巨大兵器に負けて死んだら、コーテックスっていう組織にも後が無いってことか?」

「そうだ」

「じゃあ、あのデカブツは放置するのかよ」

「その通りだ」

「大勢の人が死ぬぞ。セクションだって、いくつ再起不能になるか分からない」

「承知の上だ。コーテックスも、ユニオンもな。幸い、敵が出現したのは第三層だ。産業区も第一都市区も、かなりの量の市街地を抱えている。奴がいくら火器を満載していても、簡単に全て焦土にはならん」

「……俺は」

「正義感や使命感を持つことを否定しはしない。レイヤードで最強の武力を持つ個人にとっては、多かれ少なかれあって然るべきものだ。だが、こらえろ」

「正義感とか、そんなんじゃねえ……ただ、ロイヤルミストは言ってた。管理者に怯えて、虫みたいに隠れて生きるのは、クソだってな」

「まったくもって同感だ。こんなものが我々レイヴンの辿り着いた現実とはな」

「現実……」

 

現実という言葉に、ソラは眩暈がした。

強敵との再戦を前に無理やりに昂ぶらせていた気は、挫けてしまった。

目の前の老人もまた、いつもの猛禽のような鋭い眼差しが消え失せているのが分かる。

立ちすくむしかないソラに、レインが何かを持って近づいてきた。

 

「レイヴン、こんな時に申し訳ありませんが……コーテックスからあなたに、お渡しする物があります」

「渡す物?」

「……これを」

 

レインから手渡された、小さな黒い箱。

ソラがそれを開けると、羽を広げる渡り鴉を象った金色のバッジが入っていた。

わけが分からず視線を左右させれば、レインもBBもどこか悲しそうに目を伏せた。

 

「これはレイヴンの頂点――Aランカーに到達した者に特別に授与される品です」

「えっ……?俺はまだC-1……」

「その……上層部の判断があったのです。生き残ったレイヴン達のランクを、整理すると。あなたはBBに次ぐレイヴンの2番手として、A-2ランカーになります」

「俺が、A-2……」

「あなたは、これまで十分な実績を上げ続けました。クレストやキサラギの休眠に立ち会い、管理者の実働部隊を幾度も打ち破り、水没都市やエネルギー生成区の巨大兵器撃破においても多大な貢献をしています」

「…………」

「もうアリーナやランク制度が機能しなくなって久しいですが、それでもあなたこそAランクに相応しい、と。上層部はそう……判断したようです」

 

ソラはバッジを箱から取り出し、室内の照明にかざした。

名誉の証は純金製らしく、確かな重みと光沢を備えている。

A-2。先の戦闘で死んだロイヤルミストと同じだ。

Aランクに所属できるのは、レイヴンとして限りなく名声と実績を積み重ねた者だけだ。

ソラは、そのAランクを名乗ることをついに許された。

だが、それを素直には喜べなかった。

自分はついさっきまで、C-1ランカーだった男だ。

既存のAランカーの誰にも、戦って勝利したわけではない。

目標とすべきエースもロイヤルミストも、既にこの世にいない。

BBは、半ば隠居の身だ。

これではまるで――

 

「上が空いたから消去法、ってことか……」

「っ!いえ、そのようなことは決して……!」

「自分を卑下するな若造。お前の実力は既にAランカーに相応しいものとなっている。アルカディアにもカイザーにも劣りはしない。長年玉座に座った儂が言うのだ。信用しろ」

「ありがとう、BB。だけど、アリーナはもうない。レイヴンだって、10人を切った。今こんなランクに何の意味があるんだ?お飾りじゃないか。俺を慰めるか奮い立たせるかするために寄越されたようなもんだろ」

 

BBはしばし思案するように俯き、そして杖で床をこつ、と突いた。

 

「まだ、全てが終わったわけではない。コーテックスは、いよいよ腹をくくったところだ」

「……それって」

「そうだ。もう既に、皆動き始めている。時を待て、ストレイクロウ。来たるべき時がくれば、そのバッジも決して無駄にはなるまい」

 

互いに明言せぬように交わされた言葉。

だが、そのやりとりだけで、ソラにはBBの言わんとする全てが分かった。

ソラは隣のレインを見た。

レインは、神妙な顔で頷くばかりだった。

その目は、どこか所在なさげに揺れている。

 

「……信じていいんだな、BB」

「お前が信じるのは、残念ながら儂ではない。ユニオンだ。いや、実際にはフレデリカ・クリーデンスというべきだろうな。管理者の補佐を務めたという彼女の能力に、全てがかかっている」

「……分かった」

「今は待つしかあるまい。その間に積み重なる屍の山には、申し訳も立たんがな」

 

 

………

……

 

 

たちまち、5日が経った。

ソラはその間、専用住居のガレージでACの調整に明け暮れた。

"雪"はいっこうにやまなかった。

降りしきり、降り積もり、ガレージの前を塞ごうとするので、整備士達と一緒に雪かきせざるをえなかった。

携帯端末には、レインからひっきりなしに第三層の様子を伝えるメールが届いた。

何人もの人が死んだ。

いくつものセクションが、瓦礫と灰の山に代わった。

 

 

………

……

 

 

「くそっ、ここも外れかよ!おいフレデリカ!」

 

ストレイクロウのコクピットシートから身を乗り出し、すぐ真横の通信機に向かってソラは吠えた。

レーダーにはもうエネルギー反応はない。

ミラージュの情報施設はその最深部に至るまで、既にストレイクロウによって完全に制圧されていた。

 

《そのようです。クレスト側に回った部隊からも連絡がありました。今回も空振り、とのことです》

「とのことです、じゃねえよ!俺達はもう、あんただけが頼りなんだぞ!?」

 

ソラが感情をむき出しに怒声を張り上げる。

 

《ミラージュ、クレスト共に予想よりも巧みに情報を隠蔽しています。さすがに大企業というべきですね》

「あんたな……!」

《クールダウンしなよ、レイヴン。見つからないものは、見つからない。今回はここまでだよ。ここで怒鳴っても、疲れるだけさ》

「……!」

 

僚機の特殊工作傭兵"デュミナス"の仲裁に、ソラはようやく矛を収めた。

レイヤード中枢へのルートデータ奪取作戦の失敗は、これで3度目である。

焦るなという方が無理な相談だ。

2体目の巨大兵器の蹂躙を引き継いだ3体目の巨大兵器が、着々と第三層の基幹セクションに迫りつつあるというのに。

ミラージュとクレストは、中央データバンクに秘匿されていた機密データの行方を、どこかへとくらましてしまっていた。

 

《実働部隊の襲撃を退けて生き残っていた両企業のめぼしい施設はこれでほぼ全て、か……実際、厳しいところだね。これ以上の捜索をとなると、小規模施設までしらみつぶしにするほかない》

「そんな時間ねえよ……何とかならねえのか、デュミナス」

《レイヤードの危機だ。私もコネクションを使って色々と嗅ぎまわってはいるんだけどね……ミラージュもクレストも何だかんだで、水面下では上手く生き延びているよ。中々情報を漏らしてくれない》

「……くそが」

 

ソラとデュミナスはとりあえず、制圧した施設から撤退することにした。

輸送機に揺られ、グローバルコーテックス本拠地セクション301への帰路につく。

コクピットに転送されてくる輸送機のカメラ映像は、一面真っ白だ。

雪が全てを覆い隠している。

未だに慣れない光景だった。

まるで、この世の物とは思えない。

 

「奴らどこに隠し持ってやがるんだ……レイヤード中枢のデータを」

 

苛立ちが募り、舌打ちが抑えられない。

フレデリカの情報網をもってしてもミラージュもクレストも尻尾を出さないとは、ソラですら予想していなかった。

この期に及んでまで、レイヤード中枢へのルートを秘匿し続ける意味とは、何なのだろうか。

第三層の基幹セクションは、第四層エネルギー生成区にも、第二層環境制御区にも通じている。

巨大兵器がどちらに侵略しても、レイヤードには致命的な被害が出る。

そしてもう、それを止められる体力はどの陣営にもない。

ここまでくればもう、時間との勝負なのだ。

足の引っ張り合いをしている猶予などないのだ。

なぜそれが分からないのだろうか。

 

「……企業は本当に、生き残る算段をつけてるのか?レイヤードが致命傷を負っても、何とかなると思ってるのか?」

《思っているでしょうね。レイヤード各地の機密ブロックには、企業の物資及び戦力が一定秘匿されているはずですので》

「それはどの程度の量なんだ?管理者がこのまま暴走し続けても、なんとかやっていけるレベルなのか?」

《いや……難しいと思うよ。機密ブロックで企業の操作権限があるのは、ごく限られた部分だけさ。ほとんどの機密ブロックは管理者の手中で、私達人類にはその中身を知る術すらない……そうなっているはず。もっとも、この騒乱でそのおっかない中身はある程度分かってしまったけどね》

《はい。そして、現状企業に操作権限がある機密ブロックすらも、管理者はその気になれば制御可能なはずです》

「じゃあ、何の意味もない粘りじゃねえか。ふざけるなよあいつら、最後の最後まで足引っ張りやがって」

《積み上げてきたものは、誰だって惜しいものさ。今から街が焼き払われるのに、それでも財布と通帳を持って逃げるようなものだよ。もしかしたら、と最後まで思わずにはいられないんだ》

「……フレデリカ。あと俺達が取れる方法は?」

《ユニオン及びコーテックスの情報網は、最大限に駆使しています。デュミナスの伝手も借りています。レイヴン"ソラ"、あなたは待つしかありません》

「急いでくれよ……何とか、何とか」

 

ソラはコクピットの中で頭を抱えそうになり、誤魔化すように髪をぐしゃぐしゃとかき回した。

フレデリカの言う通り、自分が戦場の外で出来ることは、信じて待つことだけだった。

 

 

………

……

 

 

さらに、5日が経った。

レジーナは無事に、退院したらしかった。

"雪"は降り続けた。

整備士は1人、また1人とガレージに来なくなった。

残る皆も言葉少なになり、暇があればガレージの隅でうずくまるようになった。

レインからは、ユニオンとコーテックスの悪戦苦闘の報告が事あるごとに届いた。

ソラもまた、毎日のように出撃を繰り返した。

もう大した敵もいない。

その分、何度も出撃した。

1日に5回出撃する日もあった。

企業の疑わしい施設に、片っ端から襲撃をしかけた。

しかし、成果はいっこうに上がらなかった。

そして。

 

 

………

……

 

 

深夜。

フレデリカ・クリーデンスから、ソラに対して連絡があった。

 

《レイヴン"ソラ"、現在巨大兵器はセクション505を攻撃中です》

「……ああ」

《可能な限り、手は尽くしました。ユニオンとコーテックスのあらゆる力を結集し、企業の関連施設を当たれるだけ当たりました》

「…………」

《これまでに採取したデータからして、巨大兵器は明日の昼前には第三層基幹セクション501へ到達します。そうなれば後は、第四層に下りるか、第二層に上がるだけです》

「……まだ時間はある」

《時間はあっても、手がかりがありません。これ以上の捜索は困難です》

「時間はあるって言ってんだろ!!それに俺はまだ戦える!出撃できる!」

《いいえ、ストレイクロウの連続出撃回数は既に15回を超えています。あなたは心身ともに、もう限界のはずです》

「うるせえ!俺はまだ!」

《ここまでです》

「……嫌だ」

《どうしてですか》

「ここで逃げたら、死んでいった連中がバカみたいじゃねえか……!エース、ロイヤルミスト、ワルキューレ、ファナティック、トルーパー……ゲルニカ、ビルバオ、スパルタン!みんなの死が、無駄になっちまうじゃねえか!」

《人は、差し迫る事態に力が及ばなければ死ぬものです。レイヴンであるあなたなら、よく知っているはずではないですか?》

「他人事みたいに言うなよてめえ!いい加減にその機械みたいな喋り方やめろよ!ふざけてんのか!?」

《ふざけてはいません》

「じゃあ何とかしろよ!あんたは管理者の補佐役なんだろ!?この世界で一番特別な人間じゃねえのかよ!あんたが何とかできなかったら、誰ができるってんだよ!!」

《申し訳ありません》

「…………何とか、してくれよ。頼むから……フレデリカ……」

《レイヴン"ソラ"、あなたはよく戦いました。あなただけではありません。ユニオン、グローバルコーテックス、三大企業、そしてレイヤード全市民。すべての人類が、最後の最後まで苦しみながらも戦い抜いたのです。ですが、もう》

「…………」

《先ほど管理者から私の元に、一通のメールが送信されてきました》

「…………」

《明日の昼過ぎに、レイヤード全セクションへの酸素供給を止めるそうです》

「…………」

《それで、全て終わりです。人類は、じきに死に絶えます》

「…………」

《……"ソラ"。私はあなたと出会えたことを、誇りに思います》

 

 

《さようなら》

 

 

 




次回は明日更新予定です。
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