ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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一行だけの友情出演ありです。
勝手に死なせてすいません。


レイヴンの墓場で

深夜2時。

 

ソラは積もりに積もった雪を踏み分け、1人でレイヴンの共同墓地へと入った。

レイヤード最強の武力を持つ傭兵達の墓石の上には純白の雪が積もり、どれが誰の墓なのかまるで分からない。

当然である。

元々、雪が降ることを想定して作られた場所ではないのだ。

 

「……B-4ランカー"デスカルソ"、AC"アベストルース"」

 

雪を手で払い、墓石に刻まれた名前を読んだ。

知らないレイヴンだ。だが、墓が古びている。

BBと同じ世代辺りの、数十年前の人物だろうか。

ソラはその名前をしばし見つめた後、墓場の奥に進んだ。

ファナティックの墓があった場所は、まだ覚えていた。

周囲は一面雪で白く染まっているが、それでも彼女の墓の位置くらいは分かる。

 

「"トルーパー"。"ストリートエネミー"。"フライングフィックス"。……"グランドチーフ"」

 

ソラは1つずつ周囲の墓を改め、名前を読んでいった。

そして、ついに目当てに辿り着いた。

 

「……"エース"。……"ロイヤルミスト"」

 

レイヤードの騒乱の中でも、グローバルコーテックスは律儀に全てのレイヴンの墓を作るらしい。

ついこの前死んだAランカー達の墓が、並んであった。

とはいえ、造りは他の者達と変わらない。

特別な装飾も、メッセージも何もない。

ただレイヴンとしての名前と、愛機の名前が刻まれているだけだ。

 

「……墓参りが遅くなったな。俺、A-2ランカーになったんだ。ロイヤルミスト、あんたの最高ランクと同じだぜ」

 

ソラは1人、降りしきる雪の中で白い息を吐く。

 

「ワルキューレには、墓場にはもう来るなって言われてたんだけどな。レイヴンは前だけ向いて飛ぶものだって。まったく、小うるさい委員長かっての。なぁ?」

 

エースの墓場の前で、座り込む。

頭が痛い。

喉はからからだ。

腹も空いた。

それは、自分が生きているからこそだ。

だが、虚しい気分だった。

もうその感覚に、先はないのだ。

明日の昼過ぎ。

そこでレイヤードの酸素供給は止まり、全てが終わるのだから。

 

「あんた言ってたよな、エース。答えはいつだって、飛び続けた先にあるって。でも、もう無理なんだ。もう終わるんだってよ。明日でもう、終わりなんだってよ。俺達全員、死ぬんだって。レイヴンなのに戦場でもない場所で、何もできずに死ぬんだ」

 

膝を抱えて、頭を伏せた。

肌に降る雪の柔らかさと冷たさが、伝わってくる。

凍えそうなほどに寒いが、厚着はしてきていない。

これで、最後だと思っていたからだ。

最後ならいっそ、同じレイヴン達のいる場所で過ごしたかった。

我ながら女々しいと感じていた。

それでも、専用住居のリビングでそのまま死ぬ気分にはなれなかった。

最後の最後に、少しだけ格好をつけたかったのである。

 

「こんな情けないAランカーなんて、今までいなかったろうな。俺、あんたらの誰にも勝ってないんだぜ。Bランカートップだったグランドチーフにだって勝ってねえ。ちょっと前までC-1にいたのに急にA-2になって、その後やったことといえば、しょっぱい施設の襲撃だけ。2体目以降の巨大兵器とも、結局戦わずじまいだ。……情けねえよな」

 

言葉にすればするだけ自分がみじめになって、ソラはAランカー達の前から立ち上がった。

そしてまた、墓石の雪を払う作業を黙々と続け、行き当たった。

ソラの恩師"スパルタン"の墓だ。

 

「旦那……旦那は……いいや別に。言わなくても分かるだろ、あれだよあれ」

 

スパルタンの墓の前に立ち、ソラは無言で向き合い続けた。

そうしている内にも、雪は墓石を覆い隠そうとする。

何度か払った後、めんどくさくなってやめた。

あの呑んだくれの墓だ。少しくらい冷たい方が、酔いも醒めることだろう。

 

「……なあ。スパルタンの旦那は、レイヴンになって良かったと思うか?幸せだったか?……リップハンターは言ってたな。自分はレイヴンになってもMT乗りの頃と同じ人生をやり直してるだけだって。冷めた女だよな。もっとこう感慨っていうか情緒とかさ。レイヴンって結構憧れの職業なのにな。ははは……」

 

リップハンターの言葉が、ソラの頭の中に蘇る。

 

『血まみれの天井に、怯えるといいわ』

 

「リップハンター、あんたはレイヤードの終わりが見えてたんだな。結局はこうなることが分かってたんだろ。そうなんだろ?」

 

ソラはリップハンターの墓も探そうとして、やっぱりやめた。

スパルタンの墓の前にうずくまり、背を丸めた。

もうそれ以上、歩きたくなくなっていた。

 

「……レイヤードの偽物の空の向こうにあるのは分厚い天井板だけ。どれだけ高く飛んでも、どれだけ飛び続けても結局は天井に行きあたる。あんたの言うことが正しかったよ、リップハンター。俺は今さら気づいた。馬鹿だったんだ。ガキだったんだ。だから、ずっと気づけなかった。いや、気づきたくなかったのかもしれない。だって、気づいたら本物の空が……」

 

本物の空。

ソラは自分の口から出た言葉を、噛みしめた。

 

「何だよ、本物の空って。偽物の空しかねえじゃんか、レイヤードなんて。地下世界だぞ。人工気象システムが作った偽物しか、存在しない世界なのに。何だよ、本物の空ってよ。誰も見たことねえよ。誰も知らねえよ。そんなものがずっと夢だったなんて、馬鹿か?俺は」

 

雪は降る。

降り続ける。

青年の全てを、真っ白に溶かすように。

 

 

「何で俺、本物の空が見たかったんだろう……」

 

 

ソラは目を閉じた。

降る雪の感触が、鮮明に伝わってくる。

埋もれていく。

管理者が降らせる、雪の中に。

消えていく。

闘志も、焦りも、恐怖も。

 

あとはもう、待つだけだった。

世界の終わりを。

自分の終わりを。

 

閉じたまぶたの上に、雪が一欠片落ちてきた。

 

 

………

……

 

 

………

……

 

 

………

……

 

 

………

……

 

 

 

 

………

……

 

 

空が好きだった。

 

孤児院にいたあの頃、遊び疲れてふと見上げる空が。

空はいつも曇り空で、太陽が雲の向こうでうっすらと光っていて。

だけど本当にたまに晴れていて、そうしたら太陽は真っ直ぐに見つめられないくらいにまぶしくて。

 

先生が夕食だから部屋に入れと呼びに来て、泥まみれのボールを抱えて戻る時。

いつも西の空を見ていた。

西に沈む太陽はじんわりと赤くなっていて、それで雲も淡い赤に染まって。

その色が、すごく好きだった。

 

大人になったら飛行機に乗って、空を飛ぶ仕事をしたいと、先生に話していた記憶がある。

まだ学校にも通ってなかった頃の、何も知らない子供の頃の話だ。

 

それなのに。

あの日。初めて学校に通ったあの日。

 

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

 

何か大切な物が、奪われた気がした。

それはきっと、日常とか、将来の夢とか、空への憧れとか、そういうものとは少し違っていて。

 

もっと大切な、大切な、何か言葉にできないくらい、大切なものだった。

 

 

………

……

 

 

「やはり、ここにいたか。フレデリカの言う通りだったな」

「…………ぁ?」

 

かけられた声に、ソラは顔を上げて視線を横にやった。

見知らぬ長身の男性が立っていた。

 

「……誰だ、あんた」

「ユニオンの指導者、そう言えば分かるか」

「ユニオンの……」

「そうだ。隣に失礼する」

 

そっと静かに、ユニオンの指導者は雪の上に座り込んだ。

 

「知り合いの墓か」

「……そうだよ。恩師の墓だ」

「そうか」

「この人だけじゃねえ。この場所には俺の知ってる奴らの墓が、わんさかある」

「そうか」

「最後は、ここが良いと思った。家でただぼーっと死ぬのはごめんだった」

「やはり君はもう、知っているんだな。酸素供給停止のことを」

「……ユニオンとコーテックスは?」

「ごく一部の限られた者しか知らされていない。フレデリカは余計な混乱を避けるために広めるなと言っていた」

「余計な混乱、か。じゃあみんな何も知らないまま逝くんだな。その時になって、初めて分かるんだな」

「……ああ、このままだとな」

 

ユニオンの指導者は自身の懐を探り、煙草を取り出して火をつけた。

 

「君のことはフレデリカだけでなく、キサラギ代表からも聞いている」

「キサラギ代表……ああ、あの人か。そういや、今どこにいるんだ」

「グラン採掘所だ」

「逃げたんじゃなかったのか?」

「逃げたと見せかけてどこにも行っていない。さらに深く潜っただけだ。まあ、行方をくらます時の常套手段のようなものだな」

「そうかよ。でも」

「そう、このままではその雌伏も無意味なものとなる」

 

煙草が1本、ソラへと差し出された。

煙草など、吸ったことはない。

だがソラは大人しく受け取り、火をつけてもらった。

初めての味に、むせる。

こんなものを好き好む連中の気持ちが分からなかった。

もっとも、もう分かってやる必要もなくなるのだが。

 

「レイヴン、君に依頼を持ってきた」

「依頼?」

「ミラージュのとある小規模な軍事工場の襲撃任務だ」

「……何で今さら」

「その工場に最近、ACパーツが運び込まれた形跡があるのを我々の諜報班が見つけてきた。フレデリカ・クリーデンスすら見落としていた、ごく小規模の輸送だ。この期に及んで、ミラージュ陣営でACパーツを必要とするのはただ1人。消息不明のBランカーレイヴン、ノクターンだけだ。つまりその工場には、ノクターンが守る何かがある」

「…………」

「まだ時間はある。軍事工場を襲撃し、何としてでもレイヤード中枢へのデータの確保を……」

「無理だ」

「……何故だ?」

「もう無理だよ。無駄なあがきだ。フレデリカが気づかなかった場所だって?ありえねえだろ、あの機械みたいな女が。何もないのを分かっててスルーしただけだ。どうせ空振りだよ。やめようぜ。大人しく、明日の昼過ぎを待とう」

「君はこの数日間、ひたすらに出撃を繰り返した。それは、あきらめきれなかったからではないのか?」

「そうだよ。でももう、あきらめがついたんだ。この場所で、何も言い返してくれない墓と向き合って、ようやく実感したよ。これが終わるってことなんだって。もう、それでいいんだって。……仕方がないことなんだ。管理者が終わるって決めた以上、この世界は終わるべきだ」

「私はそうは思わない」

「無理だ」

「私はまだあがいてみせる。私だけではない、今もコーテックス本社に詰めている者達は皆そうだ。終わらせないために、自分の戦いを戦っている」

「そのほとんどが、明日で本当に終わりだって知らないのにか?知ったら皆、素直に諦めるよ。諦めないのは、あんたみたいな一部の馬鹿だけだ。……ははは、そうだ。なんだったら俺に依頼出してくれよ。巨大兵器相手に、死んでこいって。いいところまでは削ってやるぜ。最後の景気づけによ」

「巨大兵器は、何体倒しても同じだ。2体目は弾薬を使い果たして沈黙し、今暴れているのは3体目。君が奇跡的に刺し違えても、新手を補充されれば無意味になる。根本的な解決にならない。やるなら、管理者を直接狙うべきだ」

「……うるせえな。さっきから」

「レイヴン、私は……」

「だからさ!もう無理なんだって!!やめてくれよ!!」

 

ソラは声を裏返して叫んだ。

咥えていた煙草が、ぽとりと雪の上に落ちる。

 

「やるなら自分達だけでやってくれ。俺はこれで終わりでいい。もう十分納得するまで、手は尽くした。もう満足だ。もう、これでいいんだ……」

「本当に満足なのか?君は本当に、手を尽くしたと思えているのか?」

 

墓場を、束の間の沈黙が覆う。

降る雪の寒さはいつしか、気にならなくなっていた。

 

「……本物の空」

「…………」

「キサラギ代表から聞いた。君は、誰も見たことがない本物の空を探し求めているそうだな。偽物の空の下では終われない。その夢が、君の力の源なのだと」

「…………」

「私にも、夢があった。いつからか抱き始めた夢だ。人に話すのも恥ずかしいような、壮大な夢がな」

「……どんな?」

「レイヤードに、恩返しがしたい」

「何だよ、そりゃ」

「私は、何不自由なく生きてきた。両親にも友人にも環境にも恵まれ、誰もが一度は想像するような富裕層の充実した生活そのものを、享受して生きてきた。レイヤードには日銭を稼ぐのにも苦労し、戦争に巻き込まれて簡単に死んでいく者達が大勢いるというのに、私はそんな貧困や不幸と無縁だった。だからこそだ。この個人の幸福を何かしらで全体に還元せねばと思ったのだろうな。多くのボランティアに参加し、多種多様な団体に莫大な援助をしてきた」

「おえらいことだな。けど、そんなセレブが今や非合法組織のトップか」

「ああ、まったく数奇なことだ。あの日、実働部隊の攻撃に妻子が巻き込まれた日から、私の中で何かが変わってしまった。この光の庭に対する漠然とした感謝の気持ちは、もっと切迫したものにすり替わった」

「…………」

「今は、レイヤードの未来のために戦っている」

「……未来」

「そうだ。未来を創ること。それが今の私の夢であり、使命だ。最初はただの恩返しのはずが、気づけばもっと馬鹿げた壮大な夢になってしまった」

 

ユニオンの指導者は、ソラの方に向き直った。

そして、頭を下げた。

 

「君の夢はもう、君の中で砕けたかもしれない。だが私は、まだ夢をあきらめきれない。ユニオン結成からここまで必死に、十数年の時を積み重ねてきた。それはまさに、今この時のためだったと思っている。あと半日で終わる夢だとしても、最後の最後まであがきたい。私の夢に、力を貸してくれ」

「……身内のフレデリカに頼めよ。あいつは今まであんたの戦いを支えてきたんだろ」

「彼女はもういない」

「え……」

「私に酸素供給の停止と君の居場所を伝えた後、フレデリカは決別を告げてきた。それから何度連絡しても、彼女に繋がらなくなった。元々、我々は通信のみでやりとりしていた間柄だ。事態の解決を図れないユニオンに愛想を尽かしたのか、それとも彼女自身やることを全てやり終えてあきらめたのか……いずれにせよ、もういないものに頼ることはできない。私にとっては、君だけが頼りだ」

 

ソラは俯いた。

フレデリカ・クリーデンスに決別を告げられたのは、自分も同じだ。

彼女はどこにいったのだろうか。

感情や気分で行動するような女でないことは、とっくに分かっている。

いなくなったのには、理由があるはずだ。

だがそれも、もはや知る術はない。

 

「……ノクターンの相手なら、BBだって出来る。俺じゃないといけない理由なんて」

「ある」

「どんな理由が……」

「私は、君にこそ依頼をしたい。これまでユニオンのために手を貸し続けてくれた君に。管理者相手に、絶体絶命の窮地を何度もくぐり抜けてきた君に。君になら、任せられる。どんな結果になっても、受け入れられる」

「…………」

「重ねて言う。レイヴン、私の夢に力を貸してくれ」

「……何をやっても、泣いても笑っても、明日の昼過ぎで最後かもしれない。だから、最後にあんたの悪あがきに手を貸せってことか?」

「ああ、そういうことだ」

「こんな瀬戸際に、あんたはユニオンって組織の理念じゃなくて、個人の夢なんてもんを語って俺に話を持ちかけてきた。何でだ?」

「組織の理念や全体の理想というのは、結局のところ個々人の願望の集合体にすぎない。最後に物を言うのは、最小単位の"意思"だ。だから、私は私の夢をもって、君に話をしている。未来を創るという夢こそが、私がまだレイヤードをあきらめきれない理由だからだ」

 

夢、夢、夢。

繰り返される言葉に、ソラは恥ずかしくなってきた。

頬が熱くなり、頭がかゆくなる。

もう明日には全て終わるのだ。

その極限の状態にあって、自分達は何と抽象的で、青臭い話をしているのだろうか。

未来を創る。

あまりにも漠然とした、ばかばかしい夢だ。

とはいえ、ばかばかしさなら自分の夢だって負けてはいない。

 

「夢、か」

 

ソラは、思い返していた。

孤児院の先輩から譲り受けたボロボロのランドセルを背負い、登校した初日のことを。

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

どうして、あの日。

あの言葉が、あんなにも深く自分の心に突き刺さったのだろう。

どうしてまだ、鮮明な記憶として残っているのだろう。

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

何気ない言葉だった。

子供の誰もが学校に行き始めた時に耳にする、何てことのない言葉だった。

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

あの日の記憶を、より鮮明に思い出す。

教師の言葉に、拳を硬く握りしめたあの日を。

窓の外を睨みつけたあの日を。

大切な物が奪われた気がした、あの日を。

 

「…………」

 

しかし。

しかし大人になった今。

必死に戦い抜いてきた今、そして、大勢の人達と向き合ってきた今だからこそ、分かることがあった。

死がじわじわと間近に迫ってきて、戦場では気づけないことに初めて気づいた。

 

あの時自分は、ただ奪われただけではない。

きっと、与えられもしたのだ。

 

戦う理由を。

 

生きる意味を。

 

本物の空が見たい。

どれだけ子供じみた願いであっても、それが自分の―――

 

このまま、管理者に負けて終わりでいいのか。

いや、よくない。

だってまだ自分は、本物の空に辿りついていないのだから。

 

「あきらめきれないのは、俺だって同じだ。俺だって本当は……まだ」

 

ソラは立ち上がった。

見上げた先には、偽物の空が広がっていた。

雪は、やむ気配なく降っている。

レイヤードの全てを覆い隠して、押し潰してしまおうとするように。

負けるものか。

負けるものか。

 

 

「……負けるもんかよ」

 

 

鼻をすすり、まぶたを擦った。

ソラの目に、二度とは消えぬ火が灯った。

 

 

………

……

 

 

目標の軍事工場への襲撃作戦は、いつも以上の速攻をもって行われた。

外付けエネルギーパックを使って超長距離をオーバードブーストで飛び、敵に体制を整える暇すら与えずに、そのまま施設の内部へと突入する。

 

《デュミナス出撃しました。到着まで3分。レイヴン、管制室より施設各所へのハッキングを行います。攻撃を始めてください》

 

専属補佐官のレインの手際も、もはや慣れたものだ。

この手の襲撃作戦は、ここ数日ひっきりなしだったのだから。

出迎えのガードメカやMTがそこら中から沸き出してくる。

このサイズの軍事工場にしては、かなりの数だ。

しかし、エピオルニスもスクータムもカバルリーもギボンも、もはや相手にはならない。

向かってくる敵を事務的に打ち倒し、ソラは施設の通路を奥へ奥へと進んだ。

 

《マップデータ及びコードキーを入手。……レイヴン、施設の奥にこちらからのハッキングを受け付けない小部屋があるようです。そこを目指してください》

「了解。……デュミナス!」

《こちらデュミナス。現地入りした。レイヴンの通ったルートを侵攻していくよ。小部屋の対処は私がする、露払いはよろしく》

「ああ、任せろ」

 

機密ゲートの前でコードキーを使い、マップデータの通りに奥へと向かう。

目標の部屋まであと1ブロックというところで、ソラは立ち止まった。

 

前方に、ACが現れたからだ。

 

《待っていたぞ、ストレイクロウ》

「ノクターン……ミラージュの犬が」

《そういうお前はすっかりユニオンの犬だな》

「確かに、そうかもな」

 

ソラは応じて、指をパキパキと鳴らした。

モニター越しにも伝わってくる。

元Bランカーの"ノクターン"。

刃のように研ぎ澄まされた殺気だ。

相手にとって、不足はなかった。

 

《お互いレイヴンだ。戦場での長話はやめよう。……前に言った通り、真っ二つにしてやる》

「こっちの台詞だ」

 

ノクターンの中量二脚AC"ザイン"が動いた。

ブースタを唸らせ、狭い室内を真っ直ぐに突っ込んでくる。

肩のトリプルロケットがぴくりと動いたのを見て、ソラは操縦桿を捻った。

放射状に放たれた砲弾をストレイクロウはわずかな身じろぎで躱し、ザインの突進を真っ向から待ち構える。

振り下ろされようとするブレードは、"MOONLIGHT"。

奇しくも、ソラと同じ得物だった。

 

《っ!》

 

マシンガンを持った右腕でブレードの斬撃をいなし、返す刀で反撃を狙う。

だが至近でザインは、ショットガンを発砲した。

ストッピングパワーに優れた散弾がこちらの斬撃を食い止め、敵ACの後退を手助けした。

 

《くくく、ははは》

 

短い応酬を終え、ノクターンは笑い始めた。

ソラも思わず、口元に笑みを浮かべる。

巨大兵器戦以来久しい、強敵の感触だった。

 

《行くぞ!》

 

気迫と共にオーバードブーストが起動され、先ほど以上の速度でザインが迫る。

横っ跳びで突進を躱したストレイクロウのコアを、ブレードの切っ先が掠めた。

猛烈な勢いで通り過ぎたザインを追いかけ、マシンガンを放つ。

ザインはこちらに背を向けたまま、巧みなランダム機動で連射を躱した。

そのまま跳ねまわるようにすれ違い、再び彼我の距離を稼ごうとする。

だが、それを許すソラではない。

空中で脇腹から一気に迫り、ブレードで側面を斬りつける――が、ザインはそれすらも蹴りを放って切り抜けた。

吹っ飛ばされたストレイクロウが地上で尻餅をつく前にブースタを吹かした瞬間、狙い澄ましたショットガンの連射が浴びせかけられる。

 

《どうしたAランカー!連続出撃でもう限界か!?》

 

またもオーバードブースト。

超高出力ブレードをぎらつかせ、ザインが迫る。

しかしソラも合わせたようにオーバードブーストを起動していた。

2機のACが大激突し、防御スクリーンが迸って軍事工場の床を焼く。

離れ際、互いは互いを激しく撃ち合った。

ロケットが、ミサイルが、絶え間なく行き交い、戦場に爆炎の花を咲かせる。

だが、この戦いの主役は、あくまでレーザーブレードだった。

左腕の刃が発振され、再び2機は最接近する。

ブレードを振り、かわし、また振り、またかわし、そんなやり取りが数度続いた後。

一閃が、相手のコアを真一文字に切り裂いた。

 

《……っ!》

 

当てたのは、ストレイクロウだった。

ソラは大きく息を吐いた。

 

「ありがとよ。良い眠気覚ましになるぜ、ノクターン」

 

ノクターンは激昂した。

狂ったように雄叫び、ショットガンを乱射しながら、ブレードでの復讐を狙う。

何がプライドに触れたのか、先ほどまでの余裕は消え去り、剣豪は悪鬼と化した。

ソラはマシンガンで冷静にダメージを稼ぎつつ、滅茶苦茶に振り回されるブレードの剣筋を見切り、躱し続けた。

だがそれも、少しずつ通用しなくなる。

ザインのブレードがストレイクロウの回避を先読みし始めたのだ。

コアを、腕部を、脚部を、何度もレーザー刃がかすめ、APが薄皮を切られるように削れていく。

冷静さを欠いたように吼えながらも、ノクターンの操作技術は洗練されつつあった。

怒りを純粋に戦闘力へ置換する――こうした敵の相手をするのは、ソラも初めてだった。

これもまた、死線を生きる戦士に相応しいありようである。

 

「おもしれえ……!」

 

ソラはノクターンの近接戦にとことん付き合うことにした。

クロスレンジで銃弾をやり取りし、レーザーブレードで互いを炙り、蹴りで無理やりに距離を稼いでは、オーバードブーストで突進を繰り返した。

動きの質が上がっていくのは、何もザインの側だけではない。

ストレイクロウもまた、目まぐるしい立ち合いの中で鋭さを増していった。

やがて、迷い烏の刃が、剣豪の各部を斬り刻み始めた。

一閃、二閃、三閃。

月光が煌めくたびに、ザインにダメージが入る。

 

《……馬鹿な、俺がこの間合いで……!?っ、うぉぉぉぉおぉっ!》

 

何度目かも分からない咆哮、そしてオーバードブーストでの突撃。

互いはすれ違い、レーザー刃の残滓が宙に舞った。

斬り裂かれたのは、またもザインだった。

防御スクリーンが限界を超えたのか、右腕が飛び、ガシャンと音を立てて転がった。

 

《……なるほどな。伊達にAランクではなかったか》

 

ザインは逃げなかった。

ブレード以外の武装をパージして、身一つで向かってきた。

最後のやりとりは、長く続いた。

躱し合い、掠め合い、そして。

コアを両断されて、ノクターンは戦場に散った。

 

《……ふぅ。お疲れ様、レイヴン。さすがは音に聞こえた"剣豪"ノクターン。Aランカーを相手に一歩も引かないとはね》

「デュミナス、来てたのか」

《まあね。ちょっと前から見てたけど、援護する隙もなかったよ。……さて》

 

目的の小部屋の前に、デュミナスは迫った。

 

 

《あとは、こちらの仕事だ。レイヤード最強のレイヴンの僚機に相応しい仕事を、私もさせてもらうよ》

 

 

軍事工場から撤退する輸送機の上で、ソラはレインから朗報を聞かされた。

ユニオンとコーテックス、そしてソラの努力は、実を結んだ、と。

最後の最後で、我々はついに目当ての物を手に入れた、と。

 

管理者の存在する、レイヤード中枢へのルートデータ。

 

夜明けは、もうすぐそこだった。

 

 

 




ついに最終決戦です。最後までよろしくお願いします。
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