ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
例によって、武装の種類だけ分かっていれば問題なく読めます。
右腕部武装:CWG-MG-500(500発マシンガン)
左腕部武装:MLB-MOONLIGHT(高出力ブレード)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
左肩部武装:MWR-M/45(45発中型ロケット)
頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:CLM-03-SRVT
ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-X/WS-3
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-S/STAB(被弾時反動軽減)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)
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FROM:クレスト代表
TITLE:最後の清算
グローバルコーテックス及びユニオンから、全てを聞いた。
今日この日に、レイヤードが終わるということを。
君達がそれを、阻止しようとしていることを。
だが、クレストの意思は、それでも変わらない。
ミラージュも同じだ。
この地下世界に人類が潜って、数百年が経った。
そうなった原因すら、もはや今の人類には伝わっていない。
クレストもミラージュも、及び知るところではない。
だがおそらく、我々人類はそれまでの歴史の中で、何度も過ちを繰り返してきたのだろう。
そして、積み重ねてきた過ちの大きさに、罪の大きさに自ら向き合えなくなったその時、人類は自分達を管理する存在を求めたのだろう。
我々には、管理する者が必要だった。
我々は、我々だけで生きていくべきではなかった。
それが長い歴史の中で人類が得た結論であり、だからこそ"地下世界"と"管理者"は生まれたのだろう。
そして今、その管理者でさえもが人類に見切りをつけ、この地下世界を無に帰すというのならば、人類はそれに従うべきだ。
それこそが、人類が積み重ねてきた罪の、最後の清算なのだから。
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FROM:-
TITLE:それでも
レイヴン"ソラ"。
それでも君が、君達が管理者と戦うというのならば、それを止めはしない。
クレスト本社が陥落したあの日、君が私を守ってくれたことを、私は決して忘れてはいない。
あの日、君は私にこう言った。
まだまだ高く飛ぶ、と。
飛ぶがいい、ソラ。
高く飛んだその先に何があるのか、その目で見てくるがいい。
それが、地下世界の無機質な天井でないことを、私は祈っている。
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「めんどくさい婆さんだな……ったく」
立て続けに送られてきた2通のメールを読み終え、ソラは揺れるコクピットの中で独り呟いた。
片方は見慣れたクレスト系列のアドレスから、もう片方は見覚えのない一個人のアドレスから送られてきたものだった。
地下の大聖堂で助けた、クレスト代表の眼差しがソラの脳裏に過る。
疲れきって色褪せた、しかし確かな輝きをまだ残した白髪の老女の眼差しが。
だが、ソラは特に返信することもなく、作戦に集中するために携帯端末の電源を切った。
絶望の誘いにも、勝利の祈りにも、結果で応えればいいだけだからだ。
《レイヴン、目標地点まで残り1500です!》
ソラはオペレーターのレインの声に顔を上げ、輸送機のカメラからACのモニターに送られてくる映像を見つめた。
輸送機が離陸して、まだ10分と立っていない。
降りしきる"雪"の向こうに、セクション301の天井板がうっすらと見える。
人工気象システムによって"雪"同様に純白に染まったその天井を一見して、真実に気づくものはいないだろう。
まさかこの天井板のうちの一枚が、管理者本体のあるレイヤード中枢への入り口だとは。
レイヤード中枢。
地下世界の神である"管理者"が存在するとされるその場所は長らく、クレストとミラージュのみが知る、最重要機密だった。
中枢については、多くの噂があった。
曰く、第一層自然区の鬱蒼とした森林のどこかに存在する。
曰く、第四層の中央動力施設の真下に存在する。
曰く、クレストかミラージュが本社の中に秘匿している。
しかし、ソラがノクターンを破り、ミラージュから奪取したデータが示した場所は、そのいずれでもなかった。
レイヤード中枢の所在――それは、第一層第二都市区セクション301の遥か直上。
つまり、ソラ達の本拠地グローバルコーテックスのあるこのセクションの、特定の天井板がそのまま、中枢への侵入ルートの入り口だったのだ。
「拍子抜けにもほどがある。管理者め……儂らを馬鹿にしおって」
入手したルートデータの解析が済んだ時、BBが呻いたのをソラは思い出す。
確かにそうだ。
血眼になって探し求めたものがまさか自分たちの頭の上にあるとは、ソラも思いもよらなかった。
だが、考えてみれば当然のことかもしれない。
このセクション301は、多層構造の地下世界レイヤードにおいてもっとも上部に位置する第一層の、それも基幹セクションである。
各層の基幹セクションはいずれも、レイヤードの黎明期に作られたものとされていた。
最初に作られたのは第四層のエネルギー制御区。
人類の居住地としては、第三層第一都市区セクション501が最古の場所だと言われている。
「確かにレイヤードが誕生して長らくの間、このセクション301は管理者直轄の、用途不明の立ち入り禁止区画だった。この場所に管理者がグローバルコーテックスを設立し、人類を自ら選別して集め始めたのは、企業の誕生より遥かに後――"アーマードコア"の誕生と同時期のはずだ」
グローバルコーテックスの黎明よりレイヴンとして戦い続けてきたBBが、そう振り返る。
レイヤードの各セクションを節操無く奪い合い、市民を巻き込む戦争を長年繰り返してきたクレストとミラージュが、このセクション301とグローバルコーテックスの有り様には一貫して不干渉を貫いてきた。
それはきっと、管理者の逆鱗に触れないようにという、密かな配慮があったのだろう。
管理者が自分達のすぐ上に陣取っていたなど、まさにソラ達にとっては寝耳に水だが、この切羽詰まった状況においては、むしろ幸運と言えた。
おかげで、ギリギリまで出撃時間を遅らせて、万全の備えができたからだ。
《目標地点まで、残り500!"エキドナ"と"クラッシング"が出撃します!》
レインの通信を受けて、ソラはぐっと身を乗り出した。
先陣を切る2機の輸送機からそれぞれ、中量二脚ACとフロートACがホバリング用の補助ブースタを吹かし、輸送機から出撃する。
レジーナのAC"エキドナ"と、デュミナスのAC"クラッシング"だ。
2機はそのまま迷うことなく無数の天井板のうちの1枚に取りつき、やがて2人のレイヴンが命綱をつけ、コクピットから姿を現した。
《ずおおおっ……!ちょっ、"雪"やばっ!前が見えないんですけどっ!?》
《中枢への侵入は人力でのコード入力と、レイヤード市民のバイオメトリクス必須……やれやれ、管理者も優しくないね》
《ね、ねぇデュミナスさん!バイオメトリクスはあたしので本当にいいの!?先輩とかBBの爺さんとかの方が適任じゃないの!?》
《ミラージュから奪ったデータによれば、正式な管理番号を持つレイヤード市民なら誰でもいいはずさ。管理者にとって、向かってくる挑戦者は皆等しい……ということだろう。まあ、光栄な役回りだと思って耐えてくれ》
《そ、そういうもんなのっ!?》
《そういうもんだね。こちらデュミナス、コード入力を開始する。……何度見ても、無茶苦茶な桁数のコードだ。もう少し洒落た文字列にすればいいものを》
《あばば、あばばばっ!》
全ACを繋ぐ共通チャンネルから、2人の女レイヴンの気の抜けたやり取りが聞こえてくる。
それからほどなくして、中枢への入口周辺の人工気象システムがにわかに停止した。
"雪"がやみ、純白の空を映していた天井板が、本来の黒々とした姿を露わにする。
《……出てきた。これだ。レジーナ、この端末に手をかざして》
《よぉし、管理者!あたし達が来てやったわよ!勝負よ、勝負!!》
レジーナが威勢よく吠えると同時に、天井板が変形を開始する。
他と変わりない分厚い金属板に見えたそれは、その形状を複雑に組みかえていき、ついには、巨大なゲートへと姿を変えた。
ACが数機、余裕でまとめて侵入できる大きさだ。
「……BB!」
《これより、レイヤード中枢への侵入を開始する。AC全機、ゲートに突入しろ!》
旋回を始めた輸送機から、黒い"迷い烏"が偽物の空へと飛んだ。
BBのAC"タイラント"と、アップルボーイのAC"エスペランザ"もだ。
エキドナとクラッシングが先んじて、ゲート内へと入っていく。
「……行くぞ。待ってろ管理者」
ストレイクロウもまた彼女達に続いてゲートをくぐり、そのまま縦穴をブースタで上昇していった。
足場はすぐに見つかった。
幸いなことに、ミラージュから奪取したマップデータ通りの構造である。
ACが3機は並んで通過できるほどに広く薄暗い、無骨な鉄板を貼り合わせたような通路が、斜め上方へ向かって延々と伸びていた。
《なんか古臭い造りね……管理者ってお洒落のセンスとかないのかしら。それとも数百年前の通路だから?》
《分かっておらんな、エキドナ。これは機能美というものだ》
BBがレジーナの呟きに適当に返しながら、タイラントでそっと足を踏み入れると、まるでレイヴン達の来訪を待っていたかのように、天井に照明が灯っていく。
だがそれでも、先が見えないほどに長い通路だった。
《……ミラージュのデータが正しければ、第一目標地点までは距離3000です》
レインからの通信に合わせて、ソラはマップデータを改めた。
尋常でなく長い上昇通路の先には、大きく開けた空間がある。
事前の作戦会議で確認した通りだ。
管理者の実働部隊からまとまった迎撃を受けるとすれば、そこだった。
《クラッシング、予定通り先行しろ》
《了解》
BBの指示を受け、デュミナスのフロートAC"クラッシング"が他の機体よりも先んじて通路を駆け上がり始める。
クラッシングは、最高位レーダーとロングレンジライフル、そして中型ロケットとブレードを装備した、索敵と露払い特化のACだ。
危険な先導役は、デュミナス自身の志願によるものである。
残る4機のACも、それに続いて通路を進んだ。
通路に、ブースタの噴射音と床を削る摩擦音だけが何重にも響き渡る。
《……こちらクラッシング。レーザー型自律砲台の起動を確認。この程度……よし、クリア》
《被害は最小限に抑えろよ》
《分かってるよ、BB老。……ん、ルート上に横道があるね。マップデータにはないものだ》
《おそらくはダミーか、緊急時に迎撃部隊を送り込むためのものだろう。しらみつぶしに探索している時間はない。敵の反応がないのならば、無視で構わん》
デュミナスはこれがレイヴンとしての初陣にも関わらず、よどみなく先導役をこなしていく。
通路の道中には彼女の報告通り、マップデータには反映されていない横道がいくつもあった。
しかしレイヴン達はBBの判断の元、真っ直ぐにルートを進行した。
通信機から、アップルボーイが小さく息を吐く声が聞こえてきた。
やがて、レイヴン達は長く続いた通路の終点に辿りついた。
第一目標地点に定められていた、大きく開けた空間である。
そこは古めかしい鉄板の貼り合わせから一転して、ガラスのように透き通った素材で構成された、まるで現実味のない広場だった。
《うわぁ……》
《何これ、すごい……》
アップルボーイとレジーナが思わず感嘆の声を漏らす。
ソラもまたACの頭部カメラを上方に向け、息を呑んだ。
透明な天井の向こう側――漆黒の暗闇の中で、大小さまざまな無数の光が色とりどりに輝いている。
ソラの知る限りでは、それはレイヤードの偽物の空に夜間映し出される、"天体"と呼ばれる照明に近い。
だが、今5機のACを照らしているのは、それよりも遥かに鮮やかで、美しいものだった。
「何なんだ、これは……」
釘付けにされたソラの視界の中で、光の内の1つが滑らかな曲線を描きながら、大きく動いた。
続けてまた1つ、2つ、3つと幾筋もの光が、暗闇の中を駆け抜けていく。
それを見て、BBまでもが弾んだ声を漏らした。
天井に映し出されるこの光景が一体何を意味するのか、その場にいる誰も理解できなかった。
それでも――
《……レイヴン》
「え?」
不意に、通信機から発せられた声。
ソラが天井から視線を離した直後。
《こちらクラッシング!レーダーに大量のエネルギー反応!……来る!》
広場の反対側に存在する3つのゲートの内、2つが開いた。
その奥から青白い超高出力レーザーと大口径砲弾が大量に放たれる。
5機のACは一斉に飛び退いて弾幕を回避し、各々の火器を構えた。
《スクータム15、カバルリー10です!》
《緒戦だ。各機、しくじるなよ》
レインの素早い状況報告とBBの手短な激励の直後、管理者直属の超高性能MT部隊が広間へと乗り込んできた。
スクータムが盾とバズーカを構えて突進を始め、その背後でカバルリーが残像を生じるほどの速度で左右に揺れ躍る。
《すー……よぉし、行くわよエキドナ!》
先陣を切ったのは、レジーナだった。
エキドナの携行型グレネードが轟き、巨大な火球が先頭のスクータムを呑む。
スクータム達は呆気なく吹き飛んだ味方に構わず、雨あられとバズーカの集中砲火を返してきた。
標的にされたタイラントが逆関節特有の大跳躍でそれを躱しきり、空中でグレネードランチャーを放つ。
「エスペランザ!」
《はい!》
大爆発が広間を揺らし、発生した煙の中にストレイクロウとエスペランザが果敢に突っ込んだ。
2人のレイヴンは煙の微細な乱れからスクータム達の位置を瞬時に捕捉し、ACのレーザーブレードを振るう。
1機、2機とすれ違いざまに切り捨てて煙を抜ければ、チャージを完了したカバルリーの砲口が青白い輝きを放った。
しかし、あまりにも遅い迎撃である。
既にストレイクロウもエスペランザも、オーバードブーストを点火して高速で横に跳び、射線から逃れていた。
レーザーの束が、虚しく空を切る。
《さすがに魅せてくれるね……先輩方!》
それまで状況を伺っていたクラッシングもまた、動き始める。
レイヴンの経験不足を補うように特別に調整されたフロートACが、広間の端を大きく回り込みながら、両手でロングレンジライフルを保持してカバルリーの薄い装甲を狙い撃った。
その一方でスクータム達の強引な突進が、後衛のエキドナとタイラントに迫る。
《おりゃあぁっ!》
エキドナは体当たりをしかけてきた相手の脇をすり抜けてブレードで貫き、そのまま蹴り飛ばして、回り込もうとした敵機にぶつけた。
《まだまだぁっ!》
レジーナが吠え猛る。
エキドナはさらにスクータム複数機からのバースト射撃を巧みなランダム機動で全て回避し、イクシードオービットと肩部ロケット砲の連射で片っ端から焼き尽くしていく。
大怪我から復帰したてとは思えない、獅子奮迅の戦いぶりだった。
《まったく大したものだ。ヴァイパーの娘なだけはある》
感心したように呟いたBBが、迫る敵を拡散バズーカで手早く処理し、そのまま再びタイラントを空に跳躍させた。
そして、空中から2発目の大口径グレネードが撃ち込まれる。
再び発生した大爆発が、クラッシングの狙撃で隊列を乱していたカバルリー2機をまとめて消し飛ばした。
広がる爆炎から逃れようとした残りのカバルリーを、ストレイクロウのマシンガンとエスペランザのライフルが狩り尽くす。
これでカバルリーは全滅。スクータムも残り3機。
クラッシングが1機仕留め、残り2機。
ストレイクロウが再びオーバードブーストを吹かし、レーザーブレードを閃かせた。
《……増援です!ギボンが10機!》
ゲートの奥から、今度は近接用MTのギボン達が戦場に駆け込んでくる。
しかし、それはあまりにも遅い到着だった。
ギボン部隊は広間に入ろうとした瞬間、AC5機の一斉射撃によって片っ端から処理され、その性能をなんら発揮することなく残骸へと変わっていった。
《さて、ここからが本番だ》
広間に静寂が戻った直後、準備運動は済んだとばかりにBBが宣言した。
デュミナスの索敵の限り、これ以上の増援の気配はない。
ソラはちらりと、モニター上部の僚機達のAP表示を確認する。
超高性能MT部隊との一戦を終えたにも関わらず、各ACの損傷はごく最小限に抑えられていた。
さすがに幾多の修羅場をくぐり抜けてきた、歴戦の傭兵達なだけはある。
とにかくこれで事前の作戦通り、第一目標地点の確保は完了したと言える。
次は、第二目標地点だ。
レイヴン達は、ACの頭部カメラを広場の反対側にある3つのゲートに向けた。
うち2つは先ほどMT部隊が沸いて出てきた小さなゲート、もう1つはACの背丈の3倍はある大きなゲートだ。
《現在、時刻は午前10時40分。遅れることもなく、早まることもなく……と言ったところか》
《じゃあ、ここからはやっぱり分散して行動を?》
《そうだ。エキドナは儂のタイラントと、クラッシングはエスペランザとだ。2つのAC部隊で第二目標地点……小ゲートの最奥にあるコードキーの確保を目指す》
ここまでのレイヤード中枢の構造は、コーテックスが入手したデータ通りのものとなっていた。
そのデータによれば、この広場からルートは3つに分岐する。
2つの小さなゲートの入り口から距離2500ほどの位置には、今レイヴン達がいる広場より若干小さな空間があるはずだ。
そしてそこには、残る最後のゲートを開くためのコードキーが存在している。
「…………」
ソラは固く閉じたままの最後のゲートを、無言で見上げた。
2つの横道で入手するコードキーを必要とする、この大きなゲート。
マップデータには、その先は記されていなかった。
だが、ゲートと相対するソラには、何故かはっきりと感じられた。
この奥で、管理者が待っていると。
管理者の迎撃は、あるいはこの広場以上に苛烈なものになるだろう。
事前の作戦会議では、万全を期すためにAC全機で各ルートを回るべきでは、という意見も出た。
しかし、それではルート間の往復に時間がかかりすぎる。
また、管理者が何らかのトラップを仕掛けていた場合に、まとめて全滅する可能性もあった。
作戦方針の最終決定を下した、BBの判断は厳しいものだった。
BBは言う。
時間には勝てない。しかし難敵にならば対処できる、と。
レイヴンならば、困難を乗り越えてこそだ、と。
《ソラさん、必ずコードキーを送ってみせます!》
《実働部隊の未登録AC……おそらく出てくるだろうね。まあ、私の初陣の戦果には相応しいかな》
《先輩!管理者をぶっ飛ばすのは任せたから!》
《戦意を切らすなよ、ストレイクロウ。お前の出番は、すぐに回ってくる》
4人のレイヴン達が通信で気を吐き、二手に分かれてゲートの中へと消えていく。
ソラが任された仕事は、コードキーを受信して最後のゲートを開くこと。
そして、管理者の本体を破壊すること。
その大役をソラが請け負うことに、レイヴン達もグローバルコーテックスもユニオンも、誰1人異論を挟まなかった。
《レイヴン……》
残骸散らばる広場の中で佇むストレイクロウ。
操縦桿から手を離し、汗を拭ったソラに対して、レインが通信を繋いできた。
「悪いな、レイン。結局、こうなっちまった」
《……いえ》
ソラはかつて、レインに投げかけた問いを思い返していた。
もしもレインがレイヴンだったら、「管理者を攻撃しろ」という依頼を受けるかどうか――
レインは分からないと答えた。
その上で、彼女はこう言った。
狂っても、管理者は管理者である。
多くの人間が、管理者に見守られて生きてきた。
その秩序の中で、不幸せになった人もいる。
しかし、管理者のおかげで、幸せに生きた人だって多いはずだ。
この世界には管理者が必要だった――それだけは決して否定できない、と。
レインのそれはクレストやミラージュの代表達と、本質的に同じ意見だった。
《今さら、あなたにこんなことを聞くのは卑怯なことかもしれません。作戦中に気勢を削ぐ背信行為だと理解しています。……ですが、聞かせてください》
「…………」
《レイヴン、あなたは信じていますか?これから自分の為そうとすることが、本当に正しいことかどうか》
無意味な質問だった。
管理者を破壊してその先に何があるのか、誰にも分からないのだ。
果たしてこの選択が正しいのかどうかは、結果が示すことでしかない。
レイヴン達の共通チャンネルが、にわかに騒がしくなった。
管理者の未登録AC及びMT部隊と遭遇、戦闘を開始する。
二手に分かれたAC部隊のどちらもが、ソラにそう報告してきていた。
それまでほぼ無傷に近かった各ACのAP表示が、じわじわと減り始める。
「レイン。俺はレイヴンになってこの1年半、多くの依頼をこなしてきた」
ソラは通信機に向けて、語る。
「工場で反乱を起こした労働者を始末したり、企業の領土争いに加担したり、環境テロリストの馬鹿げた依頼を受けたり。ユニオンへの協力、キサラギ代表の救援、クレスト本社の防衛……管理者の実働部隊との戦い。ミラージュからの騙し討ちなんてのもあった」
《……はい。ずっと、この管制室から見てきました》
「つらいことだらけだったよ。初めての依頼で、怯える労働者の重機に砲弾をぶち込むのは最悪の気分だった。どの企業も汚いことばっかりして、それにこき使われて。アリーナでは馬鹿野郎が八百長を持ちかけてくるし、ビルバオが送ってくる怪文書の山は削除が追いつかなかったし、スパルタンの旦那の酒癖は結局治らなかったし、ロイヤルミストもBBも目が怖いし……それに、何度も絡んでくるリップハンターが大嫌いだった」
《…………》
「それで、気づけば戦友を失くして、師匠を失くして、目標にすべきだった奴らも死んでいって……今はなし崩しにA-2ランカーだ。本当にこの1年半、しんどかった」
そうだ。
自分がレイヴンになってからの1年半、本当に色々なことが起きた。
「だけどな。俺はその全部に、自分の"意思"で向き合ってきたんだよ。どんな依頼も、自分の"意思"で受けてきた。それは今回だって変わらない。今、自分の専用住居で座り込んでる奴らみたいに、この作戦に参加しない選択肢だって当然あった。だけど、俺は作戦への参加を決めた。管理者を破壊する――それはまぎれもなく、俺自身の"意思"だ」
《…………》
赤い眼帯を着けた黒髪のレイヴンを、ソラは思い出す。
彼女はもう、この世にいない。
だが、彼女に貰った言葉は、確かにソラの中にまだ生きている。
「この選択が正しいかどうかなんて、はっきり言って分からない。だけど、俺は信じている。俺自身の"意思"と……それを支える俺自身の"力"を。もしこの作戦をやり遂げた先に何が待っていても……俺は立ち向かう」
《……レイヴンとして、高く飛ぶために》
「ああ、高く飛ぶために。いつか、偽物の空を越えるために」
レインが納得したかどうかは分からなかった。
ただ鼻をすする小さな音だけが、ソラの耳に入ってきた。
《……レイヴン。必ず……必ず生きて帰ってきてください》
「ああ、任せろ。……レイン、あんたは俺にとって最高の補佐官だよ。他のレイヴンに、くれてやる気はないね」
《えっ……あ、あの……はい!》
珍しく動揺したレインの声。
何やらとんでもないことを口走った気がして、ソラは思わず身悶えした。
冷静になるために頬を何度か叩き、改めてモニター上部の味方のAP表示を睨みつける。
どのACも、既にAPは3000を切っていた。
共通チャンネルからは、レイヴン達の気迫に満ちた怒号が絶えず聞こえてくる。
ソラは眼を閉じ、腕を組んだ。
彼らに今自分がしてやれることは、何もない。
ただ、勝利を信じて待つだけだ。
時間が粘っこく、不自然に伸びたようにすら感じられた。
そして。
《や、やった……!こちらエスペランザ、未登録ACを撃破!コードキーを入手しました!》
《ふしゅー……こ、こちらエキドナ……コードキー、げっとぉ……ぅぐ、病み上がりにはキツかった……》
《やれやれ、死ぬかと思った。じゃあ、あとはよろしく頼むよ、ソラ》
《管制室!最後のゲートを開けろ!作戦は大詰めだ!》
レイヴン達の勝鬨を聞いたソラは目を見開き、操縦桿を握りしめた。
目の前の巨大なゲートが、開き始める。
皆、己の戦いをやり遂げた。
ここからは、ソラの戦いだ。
「こちらストレイクロウ、ケリをつけてくる!」
ストレイクロウがブースタを全開にして、内部に侵入した。
内部にあったのは、円形の広場。行き止まり。
違う、これは巨大なエレベーターだ。
そうソラが認識した直後、エレベーターが作動し、ACを乗せた足場が上昇し始めた。
《……!?レイヴン、通……が……っ……!》
「レイン、どうした?通信ふりょ……」
《シリアルを確認》
レインとの通信が途絶し、代わりに機械的な女性の声が通信機に割り込んでくる。
聞き覚えのある声だった。
特にこの数日、何度も何度も、繰り返し聞いた声だった。
《管理番号……0824-FK3203……確認》
「待て、お前……うぁっ!?」
ソラの戸惑いに構わず、エレベーターがぐんぐんと加速し始める。
強い重力を感じるほどの上昇速度に、ACの体勢が崩れ、ソラの全身が軋んだ。
コクピットモニターに映る壁面が、レイヴンの動体視力をもってしても追いきれないほどの速度で下方へ流れていく。
《セキュリティ解除、ゲート開放》
一体どこまで上昇するのかとソラが思い始めた矢先。
エレベーターが突如停止した。
片膝をついていたストレイクロウが立ち上がったその目の前で、先ほどくぐったゲートよりさらに一回り大きなゲートが、ゆっくりと開いた。
ソラの視界に飛び込んできたのは、ACより太い柱が何本も立ち並ぶ、広く長い坂道だ。
その奥では、途轍もなく巨大なコンピュータユニットが、不気味に光り輝いている。
おそらくは、あれが――
そう直感したソラに、再び声が語りかけてきた。
《待っていました、レイヴン"ソラ"》
「……何で、お前が」
もはや、間違えようもない。
声の主は、ソラがよく知る人物。
フレデリカ・クリーデンスだ。
続きは明日更新です。