ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
特定の相手とのみになります。
「わはは、こりゃなかなかの収支じゃな。特別減算が5000Cだと?ずいぶんやらかしたな。ミラージュはカンカンだったろうに」
「ああ、皮肉たっぷりの礼状がメールで届いたよ。これからもミラージュのためにせいぜい精進して働けだってさ」
「わはは、わっはっはっは!!」
ソラは大笑いするメカニックチーフのアンドレイからミッションレポートを奪い返し、改めて並んだ数字を見つめた。
施設損壊の特別減算だけでなく武器の弾薬費も、機体の修理費もそれなりにかかっている。
レインに頼んで僚機雇用分の報酬を上乗せしてもらっていなければ、赤字だったかもしれない。
だがそれでも、ため息を抑えきれない結果ではあるが、作戦は成功扱いだったし、収支上は黒字である。
「……初めから何もかも上手くいくなんて思ってねえよ。武装勢力より企業相手の依頼の方がずっと手強い。そういう再確認は出来た」
「殊勝なのはいいことじゃ。まあ、何事も切り替えが大事だわな。それでどうだった?新調した"RF/220"の撃ち心地は」
「文句ない性能だったよ。新しいパーツが欲しくなった」
「おう。どんどん欲出してけ。ACはパーツを替えれば替えるほど強くなるからの。その内初期配備品で驚いてた頃が懐かしくなるわい」
「そうなるといいな」
そんな他愛もない談笑をしつつ、機体の修理状況を整備班と確認していた時のことだった。
ソラの携帯端末が電子音を響かせ、メールの着信を告げた。
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FROM:管理者
TITLE:アリーナ参加要請
E-10ランカー"ソラ"に、アリーナにおけるオーダーマッチへの参加を要請します。
対戦相手は、E-5ランカー"スネークウッド"となります。
勝利報酬:12,500C(別途褒賞あり)
参加手続きを専属補佐官に確認し、指定の日時にアリーナ用調整ガレージA-1へ出頭してください。
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初めてのアリーナへの参加要請である。
ソラはガレージからブリーフィングルームへ移動し、レインに連絡した。
「報酬額がすごいな……企業の依頼報酬並にくれるのか。それに弾薬費も修理費もコーテックス持ちで、別途褒賞あり……」
《褒賞はおそらく、慣例的にACパーツかと思われます》
「なるほど、ありがたい……それにしても、E-10ランクの俺の相手がどうしていきなりE-5なんだ?同じE-10のアップルボーイはE-9と戦ってたろ」
《前にもお話しましたが、オーダーマッチの組み合わせは管理者が指定します。その判断基準はミッション遂行率やACの動作テストの成績、これまでのキャリア等様々ですから》
「……まあ、見込まれてるとでも思っとくよ。レイン、この対戦相手……スネークウッドの情報は?」
《開示情報に限定されますが、整理済みです。E-5ランカー"スネークウッド"。レイヴンとしての活動歴は2年ほど。一時期Dランクまで上がっていましたが、連敗し、現在はEランクに落ちてきています。元々アリーナではなく依頼遂行に重点を置いていたレイヴンのようですが、依頼の遂行率、遂行頻度共に最近は低下してきていますね》
レインがスネークウッドのデータを送信してきた。
ACのアセンブリから依頼の遂行率まで、かなり細かなデータである。
レイヴンの各情報が常時開示されるというのは、これまで実感が持てていなかったが本当らしい。
「落ち目のレイヴンってことか。機体名は"ゲートウェイ"、構成は……あー……知らないパーツばっかりだ。レイン、分かるか?」
《型番で調べましたが、高出力のイクシードオービット内臓コア、ハンドミサイルユニット、エクステンションの迎撃レーザーを装備した逆関節ACですね。遠距離戦を重視した構成かと》
「遠距離戦……こっちもロングレンジライフル装備だ。付き合えなくはないが、FCSが遠距離仕様じゃないからな……」
《あの……勝てそうでしょうか?》
通信端末の向こうで、レインが低く声をひそめた。
いつもの怜悧な声音に、少しながら心配するような色が混ざっている。
「勝つさ。報酬も美味いしな。採掘所で減算くらった分を取り返してやるよ」
《……了解しました。健闘を祈ります。参加手続きの一切は任せてください。レイヴンは指定の日時に、調整ガレージへどうぞ》
「ああ。当日は見物しててくれ」
レインとの通信を終え、ソラはブリーフィングルームを後にしようとして、端末の着信に気付いた。
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FROM:スネークウッド
TITLE:無題
お前が今度の相手だな。
駆け出しがそんな機体で勝てるほど、俺は甘くない。
覚悟しておくことだ。
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「……ゴングの前のジャブって奴か」
対戦相手からの攻撃的なメールに、ソラは目を細めた。
ソラがスネークウッドのデータを確認したように、スネークウッド側もソラのデータを確認するのは、当然のことである。
そんな機体で、とは初期配備品からライフルのみを新調したソラのACのことを揶揄しているのだろう。
「悪かったな、こんな機体で」
ソラはスネークウッドからのメールに返信しなかった。
売り言葉には砲弾で答えてやろうと、思ったからだった。
………
……
…
数日後。
セクション301東端のアリーナに、オーダーマッチを行う2機のACが搬入された。
アリーナ両端のゲート内に待機するのは、E-10ランカー"ソラ"のAC"ストレイクロウ"と、E-5ランカー"スネークウッド"のAC"ゲートウェイ"だ。
やがて、対戦時間がやってくる。
先ほどまで調整ガレージからゲートへの誘導を繰り返していたAI音声が途絶え、代わりに耳障りな警報音がビー、ビーと鳴り始めた。
ソラがコーテックス本社でアリーナを見物した時と同じ、アリーナ開幕を告げる音である。
「これ、ACにも流れるのかよ……」
通信機のボリュームを下げつつ、ソラはコクピット内で独りごちた。
せめてあの気の抜けたファンファーレは流れないように、とだけ祈る。
ACの前方モニターには、アリーナの戦闘場へと続くゲートの壁が映っていた。
ビー、ビー。
ビー、ビー。
ビー、ビー。
やむことなくコクピット内に響き続ける警報音。
その規則正しい音を何度も聞いている内にやがて、ソラの中で何かが昂ぶり始めた。
頭が妙に熱く、操縦桿を握る手に力が入る。
企業の依頼を遂行する時とはまた異質な、言葉にできない高揚だった。
そして。
ビーーーーーーー。
一際甲高く長い警報が、通信機から轟いた。
ゲートが素早く開く。フットペダルを踏み締める。
ブースタを全開に吹かし、ライフルを正面に向けながら、ソラのAC"ストレイクロウ"がアリーナの戦場へと躍り出た。
スネークウッドのAC"ゲートウェイ"もまた、アリーナへと滑り出てくる。
「行くぜ……!」
気合を吐き、ソラはロックサイトを遠方の敵ACへと合わせ――
「!?」
ミサイルが孤を描きながら2発、飛来してきた。
1発がコアの迎撃レーザーに撃ち落とされ、だがもう1発がストレイクロウの右腕部に直撃する。
決して軽くない衝撃が走り、ロックサイトがブレた。
ソラは一瞬混乱した思考を素早く整理し、ブースタを吹かせて地面を滑り、ストレイクロウを右方へと逃がす。
さらに2発、ミサイルが追って来て、ACの肩口をかすめて外れた。
敵ACのゲートウェイは、まだロックできていない。
こちらのFCSの射程範囲外にいるようだった。
逆に、相手のFCSはこちらをしっかりと捉えている。
「遠距離戦特化の機体か……!」
横方向へのブーストに身体を傾けながら、ソラは呻く。
ゲートウェイは、まったく接近してこない。
大きく距離を保ちながら、特に派手な機動もせず、ただハンドミサイルを撃ち込んでくるだけだ。
ソラはACを旋回させつつ渦巻状の機動で、徐々に距離を詰めた。
何発かミサイルに被弾しつつも、ようやく敵ACにロックがかかった。
「くらえ……!」
ストレイクロウがロングレンジライフルを連射する。
鋭い徹甲弾が空を裂き、敵機の胴体に、腕部にと何発も当たった。
引き金を引いたまま、ソラはさらに機体を近づける。
ゲートウェイは機体を左右に揺らしながらブースタを吹かしつつ後退する――が、そのまま真っ直ぐ下がり続ければ後ろは壁だ。
接近までにミサイルで受けたダメージを、ソラは挽回しつつあった。
高機動のACに対して、ハンドミサイルユニットはロック時間がかかり手数に乏しい。
このまま敵をライフルの射程内に収め続ければ、ダメージレースで勝てる。
そう思い、ソラはさらに距離を詰めていって――
「なんっ……コアから砲台!?」
ゲートウェイの重量級コアから見たことのない浮遊砲台が飛び出し、強烈なレーザーキャノンが放たれた。
おそらくレインが言っていたイクシードオービットだ。
まだ開発されて間もない、追従型自律砲台機能らしい。
不意を打った近距離砲撃がストレイクロウのコアに直撃し、APを大きく削る。
同時にソラのコクピット内にアラート。
ジェネレータがレッドゾーンに達し、悲鳴を上げていた。
「ぐっ……!」
ソラはブースタを休め、少しでも被弾を減らそうとジグザグに歩行しながらライフルをバラ撒く。
レインかアンドレイにもっと敵の装備について聞いておくべきだったと後悔し、だがすぐに頭を切り替えた。
スネークウッドが逆関節脚部を大きく動かし、斜め後方に跳び退って一気に距離を稼いできたからだ。
そして、動きが鈍ったストレイクロウに、ハンドミサイルが降り注ぐ。
「くそ、ジェネが……やっぱりジェネかよ!」
上手く言葉にならない言葉を吐き出し、ソラはレッドゾーンに達した初期配備品のジェネレータを酷使した。
ブースタを小刻みに吹かしながら機体を叱咤し、ミサイルをなんとか躱しては、ライフルで反撃する。
ジェネレータのEN残量が尽きてチャージング(強制充電状態)に陥れば、防御スクリーンの出力は低下し、ブースタも吹かせない。
それは事実上の負けを意味する。
ソラはなんとかEN残量に気を遣いつつも、逃げながらハンドミサイルをばら撒くゲートウェイを追い続けた。
再び、敵のイクシードオービットが火を噴く。
青いレーザー光がストレイクロウの脚部をかすめ、アリーナの地面を焦がした。
ストレイクロウのAPは3500、ゲートウェイのAPは4000。
劣勢である。だが、ストレイクロウにはライフルとレーザーブレードしかない。
ジェネレータは悲鳴を上げ続け、ブースタで距離を詰めきることもできない。
しつこくライフルでハンドミサイルと応酬するほかなかった。
そして一番の脅威は、やはりあのイクシードオービットである。
「……!」
ゲートウェイのオービットが、再び輝いた。
高出力レーザーはしかし、ストレイクロウの脇を掠めて外れた。
これで3度目のレーザー砲撃。ソラは閃いた。
3度受けた砲撃で、当てられたのは近づきすぎた初回のみ。
自律砲台は、狙いが甘い。
機体を動かしていれば、当たらないのでは、と。
「落ち着け……近づきすぎるな……当て続けろ」
ジェネレータは先ほどからずっとアラートを鳴り響かせ、レッドゾーンのままだ。
しかし、小刻みにブースタを吹かせば、少ない消費でEN残量をやりくりできることにソラは気づきつつあった。
焦る心を落ち着けて、モニター上で逃げ続ける敵ACを凝視した。
敵のハンドミサイルは、最大で4連発。
だがACの機動性相手にフルにロックすることは困難な上、コアの迎撃レーザーがある程度は対処してくれる。
高火力のイクシードオービットは、動いていれば当たらない。
こちらのライフルの残弾は充分。
勝てそうだ。勝てる。勝つのだ。
「落ち着け……落ち着け……落ち着け……」
ソラは操縦桿のトリガーを引き続けながら、うわごとのように繰り返す。
ライフルの砲撃は命中し続けている。間合いは近いが、近すぎてはいない。既にブースタで一気に離される距離でもなかった。
スネークウッドも焦っているのか、ACの動きが雑になり始めていた。
ハンドミサイルを発射する間隔が短くなり、こちらの距離や位置を気にせずに、単発でひたすら垂れ流してくる。
残りAPはお互いに1000を切っていた。ほぼ差がない。
コクピット内に警報音が鳴り響く。うるさい。
だが被弾頻度を考えれば、このままいけば――
「っ!!」
その時だった。
追いすがるストレイクロウからひたすら距離を置き続けていたゲートウェイが、突如急接近してきた。
距離が一気に縮まる、ソラの目に敵機腕部のエンブレムがはっきり見えた。
ハンドミサイルの牽制。輝くオービット。一か八かの至近射撃だった。
「おおおぉ!!」
ソラは、フットペダルを壊れんばかりに踏み込んだ。
ストレイクロウが、最後の力を振り絞って敵ACにぶつかっていく。
咄嗟の無意識が、左腕のレーザーブレードを起動していた。
ザグンッ。
機体に走る衝撃。
互いの機体がもつれ合い、そして、戦闘終了を告げるサイレンがアリーナの天井に轟いた。
《くそっ、俺も……焼きが回ったな……こんな、しょぼいAC相手に……》
接触回線で、スネークウッドの呻きが聞こえてきた。
「……強かったよ、あんた。レイヴンって、すげえな」
ソラはシートに疲れきった身体を預けながら、茫洋とした目をモニターに向けていた。
ストレイクロウのモニターは蓄積したダメージ故か、あるいは最後の激突が原因か、不具合を起こして乱れに乱れ、しかし、大切な事実だけはしっかりと表示していた。
ソラの勝利、と。
酷使を続けたジェネレータはとうとう息を引き取り、チャージングに入っていた。
ピーッ、ピーッ、ピーッとまるでひきつけを起こしたような音を立て、EN残量がのろのろと回復していく。
ソラはそんなジェネレータの悲鳴を聞きながら、コクピットの低い天井に向けて拳を突き上げるのだった。