ともだち妖怪100人できるかな   作:彩辻シュガ

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2人目の『先輩』

 

 

 

 肝試しの翌日。僕は珍しく……大変珍しいことに、朝からノーミスで上機嫌だった。

 

「次の時間、移動教室だって!」

「モミジ、音楽室の場所わかる?」

「そ、それは平気です……一応確認したので」

「あーあ、俺、リコーダー苦手なんだよなー」

 

 ケータ先輩だけでなく、木霊さんや今田くん、熊島くんが声をかけてくれるようになった。さっきの休み時間なんて、なんと『昨日見たテレビの話』をしたのだ。転校前では考えられなかったような大偉業である。

 

 裏表紙にピアノが書かれた教科書とノート、それからリコーダー袋を持ち、先輩たちの後をついていく。

 

 リノリウムの廊下を踏むたび、上靴がキュッキュッと鳴る。同じように音楽室に向かう同級生が、新学期からやるであろう新しい曲を予想するのが聞こえた。

 

 ケータ先輩たちは、近々開催される運動会のことを話題に上げている。

 

「来月末には運動会だけど、練習いつからかな」

「もう今日の体育からやるらしいよ」

「え? 今日体育なんてあったか?」

「クマくん、体操服忘れたの……?」

 

 運動会も、あまり好きな行事ではなかった。でも今は、休むほどではないかなと思えるようになっている。

 

 昨日の肝試しが刺激的だったからこそ、この何でもない普通の学校生活の楽しさも増すというもの。

 

 ────学校が楽しい、なんて感じたのは、入学式以来かもしれない。

 

「すみません、雨村モミジくんですよね!?」

 

 背後から呼び声。聞き慣れない声だった。

 

 いきなり名前を呼ばれたんで驚いて見ると、そこには眼鏡を掛けた、短髪の────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()子が立っていた。

 

「え、だ、誰……」

「ちわっちー!! はじめましてワタシは5年1組の未空イナホです2組の雨村モミジさんですよね少々お時間よろしいでしょうか!?」

「ええ……?」

 

 突然詰め寄られ、捲し立てられ、僕はどうすべきか分からなくなった。初対面の未空さんが、僕に何の用があるというのか。

 

 しかし、彼女が妖怪ウォッチを着けているということは………………

 

「あれ? イナホさん?」

「あ、ケータさんも一緒だったんですね!」

 

 やはり知り合いだったか。

 

 ケータ先輩は、軽く二言、三言くらい未空さんと言葉を交わしたのち、木霊さんたちの方に言う。

 

「ごめん! オレとモミジくんは、未空さんとちょっと話があるから、先に行ってて」

「う、うん……わかった。また後でね」

 

 突然の未空さんに多少動揺していた木霊さんたちだが、ケータ先輩に促され、ちらちら振り返りつつも3人だけで音楽室へと足を進める。

 

 木霊さんたちが角を曲がったところで、未空さんは「コホン」と明瞭な咳払いをしてから告げる。

 

「モミジさん、アナタには大事な話があって来ました。……でも、ここだとアレなので、場所を変えましょうか」

 

 眼鏡の奥の瞳で賑やかに行き交う同級生らを見ながら、未空さんはそう提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人気のない校舎裏に連れてこられた僕は、未空さんと相対していた。

 

 僕の隣に立つケータ先輩は、どうもこれから話される内容を知っているらしく、特に焦りも不安も浮かべず腕組みしている。

 

「そ、それでお話というのは………………」

「まーまー、そう堅くならずに。ケータさんから、大体のことは聞きましたから」

「大体? え、ぼっ、僕の“体質”とか、ウォッチのこととかですか」

 

 はい、と未空さんは頷く。昨夜起きたガブニャン事件についても、未空さんは全部知っているようだった。

 

 未空さんが左腕に巻いている妖怪ウォッチは、僕のとは違って黄色一色で、無駄が排除されたスマートなデザインだ。妖怪ウォッチUと呼ばれるらしい。

 

「早速なんですがモミジさん、この辺……ワタシの横あたりを、ウォッチで照らしてみてください!」

「へ? あ、はい」

 

 未空さんがそう言うってことはつまり、彼女も先輩のように妖怪を連れているのか。僕はウィスパーさんとジバニャンさんを順に見ながら思う。

 

 言われた通り、妖怪ウォッチのライトで未空さん周辺を照らす────と。

 

 二足歩行のウサギのような影が、明確な色と形を取って出現した。

 

「いっ、いました! ………………かわいい!!」

 

 妖怪にはウサギもいるのか、と少し感動してしまった。

 

 ウサギ妖怪はピンと立った長い耳があり、黄色の宇宙服のようなものを装着して、オレンジ色の光線銃のようなものを携えている。毛並みは空色に近かった。

 

 丸っこい目とマズルも可愛い……が、このパーツの配置、どこかで見たような……? 

 

「こちら、ワタシの相棒のUSAピョン!」

Nice to meet you(ナイストゥーミーチュー)ダニ、モミジ!」

「よ、よろしく、お、お願いします……」

 

 USAピョンと呼ばれたその妖怪は、英語で挨拶してくれた上に、銃を持ってない方の手で握手までしてくれた。

 

 意外と温かい手で、何をされるのか言われるのかとドギマギしていた心がほぐれる。

 

「ワタシとUSAピョンは、イナウサ不思議探偵社ってのをやってまして、妖怪専門のお悩み相談を請け負ってるんですよ〜」

「それはすごいです……」

 

 子どもだけで探偵なんて、本の中だけのことかと思っていた。未空さんはきっと、僕の数億倍は行動力があるし頭も良いのだろう。それに比べて僕の何もしてなさと言ったら。

 

「で、ここからが本題なんですけど……」

 

 未空さんはどこか申し訳なさそうに語り始めた。

 

「実はですね、最近、ワタシたちはモミジさんのことを調べてたんです」

「えっ!?」

「ある事件の重要参考人として名前が上がったんダニ。……メラメライオンって知ってるダニか?」

 

 僕は首を横に振った。初めて聞く名前だ。その方も妖怪なのだろうか。

 

 未空さんは軽く握った手を顎の下に当てて、本当の探偵か刑事がするみたいに頷く。

 

「ふむふむ……やっぱりそうだよね。メラメライオンが取り憑こうとした日、モミジさんはまだ妖怪ウォッチを持ってなかったんだから」

「え? 取り憑かれかけたんですか僕? いつ?」

 

 僕は妖怪に取り憑かれない。周囲のノリに馴染めなかったのはそのせいだと判明したばかり。それだけじゃなくて、取り憑こうとした妖怪に反撃まで喰らわせてしまうから厄介だ。僕は無闇に妖怪を傷つけたくないのに。

 

 もし、そのメラメライオンさんも僕に取り憑こうとしていたとしたら………………まさか、ヤマトボケルさんやガブニャンさんのように。

 

「多分、モミジさんの考えてる通りです。3日前、メラメライオンはモミジさんに取り憑こうとした瞬間に気絶して道端に倒れていた……第一発見者となったワタシたちは、その犯人をずっと探してたんです」

「そ、そんな………………」

「ケータさんから聞いて驚きましたよ! 妖怪に取り憑かれない人間なんてすごいじゃないですか! ミステリアスクールな転校生に秘められし力、新たな出会いと大事件……いやー、面白くなってまいりました!」

 

 未空さんが何やら興奮しているけど、僕はそれどころじゃなかった。

 

 まさかそんなことが、知らない間に起きていたなんて。もしかして、今までも同じことがあったんじゃないのか。

 

 さくらニュータウンに来てから、いやその前から、生まれた頃からずっと、僕は………………どうしてその可能性に思い至らなかったんだろう。

 

「ぼ、僕……妖怪と友達になる資格なんてないです……それどころか人間失格……」

「き、気にすることはないですよ! メラメライオンも大した怪我じゃなかったし、それにモミジさんは故意にやったわけじゃ……」

「そうダニ! 寝たり飲み食いしたらすぐ全治する程度で、メラメライオンもモミジのことは恨んでないダニ!」

「メラメライオンさんが気にしなくても僕は気にするんです………………」

 

 僕は生きてるだけで妖怪を傷つけているのか。やっぱり死んだ方がいい人間じゃないか。生きててすみません、死ぬのが怖くて死ねなくてすみません。

 

 最近、ともだちが出来たから調子に乗っていたけど、結局のところ、僕は周りに迷惑しかかけない産業廃棄物だ。

 

「はぁ………………」

「あの、モミジさん。今までのことはもう仕方ないとしても、これからはどうにかできると思います」

「え?」

 

 地面にへたり込んでしまった僕の目線に合わせて、未空さんがしゃがんでくれる。彼女の表情は真剣だった。

 

「モミジさんの体質のことを、他の妖怪たちに広めればいいんですよ! そうすれば、被害を最低限に抑えれるはずです!」

「そ、そんなことできるんですか……? でも、で、そこまでしてもらうなんて……」

「生まれつき取り憑かれない体質なんて、モミジさんにはどうしようもないじゃないですか。モミジさんが自分を責める必要はありません」

 

 ね? と、未空さんは微笑みをくれた。

 

 み、未空さん……なんて良い人なんだ……!! 最初はなんで急にいろいろ話しかけてくるんだこの人怖すぎるとか思ってごめんなさい、こんな僕に良くしてくれる未空さんは確実に良い人です。

 

「あ……ありがとうございます! イナホ『先輩』!」

「せ!? せん、ぱい!?」

 

 気のせいだろうか。どこかで雷が落ちたような音がした。

 

 未空さんは俊敏に回ってこちらに背を向けてしまうと、ぶつぶつぶつと何事かを呟き出す。

 

「せ、せせせ先輩……? このワタシが、弟に微妙に慕われてない感のあるワタシに、こんな健気な後輩が……!? いやいつか誰かに『先輩』呼びされたい願望こそありましたがまさか小学生にしてその夢が叶ってしまうなんてワタシの人生この先どうなっちゃうの〜!? っていうか、これでモミジくんに小悪魔属性もあれば完璧に」

「い、イナホさん……? 『先輩』呼び、嫌でしたならやめま……」

「まっさかぁ! 後輩絶賛大歓迎! 『先輩』のワタシになんでも聞いてねモミジくん!!」

「あ……ありがとうございます」

 

 イナホ先輩は、僕の両手を自分の両手でガッとまとめると、上下にブンブン振った。筋肉が乖離しそうだが、先輩の目には無数の星が宿っている。

 

『先輩』呼びって、そんなに嬉しいものなのか? 僕なら重圧で軽く3回は引き篭もれるのに。

 

 すると、ずっと横で話を聞いてくれていたケータ先輩が割り込んでくる。

 

「モミジくん、オレもモミジくんの先輩だから、困ったときは力になるよ。だって一番先に先輩になったのオレだし」

「………………ケータさぁん。先輩に順序とか関係あります〜?」

「あっ、あるに決まってるじゃん! 大体、イナホさんにとってもオレは先輩だよね!?」

「だったら何なんですかー!? 1番目は1番目、2番目は2番目です! 2番目が3番目の面倒見ちゃ駄目なんて法律あります!? ないですよねー!?」

「じゃあイナホさんも、これからはオレのこと『先輩』って呼んでよ!」

「えー……同い年のこと『先輩』呼びとかドン引き案件じゃないですか……」

「……そ、そうなんですか? ごっ、ごめ、ごめんなさい……もう呼ぶのやめます」

「ちちちちちち違っ!! 違うよこれはワタシが呼ぶの嫌ってだけで呼ばれるのは全然満更でもないしむしろ何百回でも……」

 

 

 

 

 ジバニャンとウィスパー、それからUSAピョンは顔を見合わせた。

 

 時計の針が休息することはなく、刻一刻と次の授業の開始時刻が迫りつつある。

 

「……アイツら、いつまでやってるつもりニャン?」

「全くダニ」

「ケータきゅーん、そこの御二方も、そろそろ教室に戻らないと遅れてしまいますよー」

「ウィスパーは黙ってて!!」

「………………ひどい」

 

 






◇未空イナホ
ケータ/フミちゃんに次ぐ、2人目のウォッチャー。ケータが在籍する5年2組の隣のクラスである5年1組に所属している。

アニメ、漫画、ゲーム、アイドル、SFなど様々な方面を広く深く好む『全方位オタ』を自称する少女。はっちゃけた言動とその場のノリで周囲(主にUSAピョン)を振り回すことが多い。

USAピョンのロケット作りに協力したことがキッカケで、妖怪にまつわる相談を解決する『イナウサ不思議探偵社』を開業する。

モミジについては、「後輩キャラってオタク的には王道萌えで外せないんだよね〜!」とのこと。


◇USAピョン
種族 ウスラカゲ
ランク B
分類 メリケン妖怪
好物 ドーナツ

USAからやってきた妖怪。イナホに比べると常識的で、怒りっぽいが実は寂しがり屋。ちなみにウサギではない。

生前は宇宙センターの実験動物だったが、ロケットのエンジンテスト中に事故で亡くなり妖怪になった。今もなお宇宙へ行く夢を諦めていない。

見た目はプリチー族なのに何故かウスラカゲ族。ベイダーモード要素が陰キャ判定を喰らったのかもしれない。

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