ともだち妖怪100人できるかな   作:彩辻シュガ

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第4章 新人研修!イナウサ不思議探偵社
プロローグ 神妙な心にいつ気づくか


 

 

「おかえり!」

 

 学校から家に帰ると、ガブニャンさんがいた。

 

「土に還れ!」

「こぺーっ‼︎」

 

 ボケルさんはガブニャンさんをしばいた。それは、素人の僕でも感嘆するような、見事なハリセンさばきであった。

 

 しかしながら、否、当然と言うべきか、ガブニャンさんは丸い猫目に涙を滲ませて怒鳴る。

 

「いきなり何するニャン‼︎」

「何するもパワフルもあるか‼︎来るならせめて可愛いアルマジロの一匹でも連れてきなさい‼︎ここは私のビジネスホテルです‼︎」

「そこは“家”って言えや‼︎」

「い、“イエ”だけにですか…………?」

 

 ───痛々しい沈黙が降ってきた。

 

 やっべ。コミュニケーションまずった。死にたい。やっぱ死にたくない。来週は体育祭だし。ケータ先輩と二人三脚だし。

 

 気まずい空気に耐えられず、僕は手を洗うためという建前で、洗面所へと逃亡する。

 

「ガブニャン、あなた…………ダジャレとか好きなんですかあ、へーえ…………」

「なんでオレっちがスベッたことになってるニャン‼︎最初(ハナ)からボケてないニャン‼︎」

「いや、いいと思いますよ。…………ふふっ」

「笑うなコラこのハニワァ‼︎」

 

 背後からシャウトが聞こえた、そのとき。

 

 固定電話の着信音が鳴る。

 

 すぐさまUターンして、電話番号も見ずに受話器に飛びついた。両親関係だとマズイ。後で夕食のときにチクチク言われる。

 

「はっ、はい、もしもし⁉︎…………はい。雨村モミジです。

 

 

 

 …………イナホ先輩?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幅広く、そして天高い宮殿であった。

 

 妖怪の生態は個体それぞれだが、大まかな傾向として、妖力を多く溜め込んでいる者ほど、体が肥大化するというものがある。先代のエンマ大王などが良い一例と言えよう。

 

 ゆえに、妖魔界の政治(まつりごと)の中核を担うエンマ宮殿が豪奢かつ巨大であるのは、権威の主張以前に必要なことである。

 

 そんな王宮の、ほんの一部に過ぎないが大蛇(おろち)の如く長大な通路の真ん中に、声が響く。

 

「────ツクヨミは見つかったか」

 

 年若く、少々粗暴な声だ。しかし、そこには煌めく炎の畏怖らしさがあった。

 

 妖怪評議会議長ぬらりひょんは、眉間を指で押さえ、問いかけに対して首を横に振る。

 

アマテラス様(姉君)スサノオ様(弟君)の協力も得ましたが、未だ発見には至っておりません」

「そうか。…………ただの家出なら良いんだがな」

「かの貴き神妖怪であろうとも、ただの家出で、賢神(たいよう)の目を逃れることは不可能でしょう────いかがなさいますか、大王様」

 

 ぬらりひょんは、己の上司であり、妖魔界全体の最高権力者であるエンマ大王の指示を仰いだ。

 

 エンマ大王は、ふと宮殿の外を見やった。人間の芸術作品のような、非現実的で鮮やかな空がどこまでも続く、複雑怪奇な妖怪ワールド。閻魔が裁き治める、浮世の上にも下にもある世界。

 

 エンマ大王は、妖魔界の君主だ。

 

 だが、その目に映るのは、果たしてそれだけなのか? そうでないことを、ぬらりひょんはよく知っている。

 

「以前から仕事を割り振っていた回復役(ヒーラー)系統の妖怪は、既に異変に勘付きはじめている。こうなった以上、プライベートの問題で突き通せるわけもねえ」

「では…………」

 

 側近は王令を待つ。

 

 大王は告げた。

 

「事態は一刻を争う。妖魔界の総力を上げてツクヨミを探すぞ。ケータとイナホ…………それから、雨村モミジにも使いを送っておけ」

「かしこまりました。各所に協力を要請します」

 

 雨村モミジ。妖怪の取り憑きを受けない体質という、それなりに珍しい人間。その存在は、妖怪たちの間で周知されつつある。前者二人と比較すると、妖怪との関わりはまだ少ないが、何らかの手がかりを得るかもしれない。

 

 跪いていたぬらりひょんだが、踵を返すエンマ大王を見て(おもて)を上げる。

 

「エンマ大王様、どちらへ?」

「決まってんだろ。ツクヨミを探す」

「お気持ちはわかりますが、大王が動くには時期尚早かと。情報も少なく、現在のツクヨミが()()()()()()()予測できておりません」

「…………」

 

 不吉なことを言うな、とは返せない。ぬらりひょんの考えも最もだからだ。

 

「これはオレの責任(せい)で招いた事態だ。それに、仮にツクヨミが本気でヤバいことになったとして、単独で、かつ被害を最小限に対処できる妖怪は、オレくらいしかいねえ。そうだろ?」

 

 同意を求めているのではない。事実確認だ。

 

 古い妖怪でなくとも強い者は多くいる。しかし、正真正銘の“神”相手に立っていられる妖怪がどれだけいるだろうか。

 

 多勢をぶつけて消耗戦をするよりも、王がひとりで行ってさっさと済ませる方が、民を犠牲にしない最良の手段。理屈は簡単だが、現実には難しい話だ。

 

 しかしながら、それを押し通せてしまうのが、エンマ大王という妖怪であることを、ぬらりひょんは身をもって体験している。

 

「安心しろ、何もかもオレひとりで背負うわけじゃねえ。見つけたら報告する。それまで執務は任せたぞ、ぬらり」

「はっ」

 

 エンマ大王が窓から飛び発つのを見送ると、ぬらりひょんは深く嘆息した。

 

「全く、あの御方は…………」

 

 何事もなければいい。日々の仕事に疲れた妖怪の無断欠勤なら、それでいい。

 

 だが、きっとそうはならない。ここは、人と妖怪が、Y字路で交差する世界なのだから。

 

 





登場人物&妖怪紹介

・雨村モミジ・・・モミジさんはコミュ障です。苦手というより疲れやすい。敬語は、自分の心を守るための防衛手段。

・ヤマトボケル・・・ハジケリスト妖怪。作者の趣味により濃い目の独自設定を付与されている。カラスは好きだが、ハクチョウは嫌い。

・ガブニャン・・・吸血猫すぐ負ける。生前は野良猫だったが、エミナ・ハーカーという少女に可愛がられていた。

・天野ケータ・・・自室に3匹、玄関に1匹の妖怪が住んでいて、更にうんがい鏡も駐在している。もう妖怪シェアハウスじゃね?

・ウィスパー・・・密かに『声だけは良い妖怪ランキング(ヨップル調べ)』の3位にランクインしている。

・ジバニャン・・・一見面倒くさがりのインドア派だが、友達付き合いやバスターズの仕事などで、よく外出する。

・未空イナホ・・・ゴア描写とか全然平気なタイプのオタク。しかし、年齢的にスプラッタ映画を堂々と視聴できないのが悩み。

・USAピョン・・・注射が怖い。マジで怖い。なんで妖怪がいるような世界観で注射なんてものが現存しているダニ⁉︎おかしいダニ‼︎

・この小説の作者・・・全人類、かぐや様新OPのマジシャン石上くんを見てくれ。惚れるぞ。
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