ともだち妖怪100人できるかな   作:彩辻シュガ

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4月21日時点で、お気に入り100件達成しました。皆様ありがとうございます。

ゴールデンウィーク中は毎日更新させていただきます。新人研修編、後半戦スタートです。


ひまわり畑で捕まえて

 

 

 一面に、植物由来の太陽が落ちていた。

 

 “あちら側”にあった昼間のお日様は、ここにはない。眩しい陽光が剥落して、遥か遠くから続く闇が曝け出されて、星月を隠している。

 

「イナホ! モミジ! あれを見るダニ!」

 

 USAピョンさんが指した先を見て、僕は驚愕した。

 

 そこにあったのは、巨大な釜だ。お米を炊くための、あの釜。さくら第一小の校舎より大きなそれが、向日葵畑の奥に鎮座している。

 

 大きい釜というだけなら、ただのびっくりドッキリひみつ道具で終了する。だが、この釜は明らかに異様な雰囲気を放っていた。

 

 使用者も見当たらない、火にかけている様子もない、なのに────蓋が、小刻みに踊る。

 

 グツグツと、『何か』が煮込まれている。

 

「モミジくん、下がってて。…………ボス戦にそんな装備で大丈夫? USAピョン?」

「ノープロブレムダニ!」

 

 先輩の腕の後ろへ退がる。USAピョンさんが、釜に銃口を向ける。

 

 蓋の隙間から漏れ出るは、闇と光。全てを呑み込む闇と、全てをかき消す光が、溶け合い、打ち消し合い、人間の視覚を撹乱する。

 

 日影さんの夢と同じだ────そう思った直後。

 

 蓋が、ひとりでに吹っ飛んだ。

 

 赤子が泣いても、カラスが鳴いても、釜の中身は妖気と共に出現する。

 

 月が昇る。泥が沸騰する。

 

『ど…………どろ…………どんつくどろ〜ん‼︎』

 

 膨れ上がった中身は、金と黒のマーブル模様も相まってアイスクリームに見えなくもない。

 

 ギョロリ、と開いた二つの(まなこ)は、赤から青、青から赤へと目まぐるしく変化したのち、毒々しい金色に確定される。

 

 闇の中でいっとう輝くのは、獲物を屠るための歯が綺麗に揃った、大きな口であった。

 

「な、何アレ⁉︎フュージョンしてらっしゃるんですが〜⁉︎もしもしサイヤ人さん⁉︎とんでもないウルトラ怪獣生まれてますよ〜‼︎」

「どんどろがツクヨミを取り込んじゃってるダニ⁉︎」

「あ、え、えー‼︎⁉︎」

 

 イナホ先輩は、律儀にもスマートフォンを耳に当てるようにして叫ぶ。

 

 なるほど、よく見ると、釜には月の意匠が施されており、妖怪ウキウキペディアに載っていた画像とは差異がある。発する妖気は、群青と黄色の美しいグラデーションで、そのサラリとした色合いは、ツクヨミさんの髪に似ていた。

 

 だが、ゆっくり見物している場合ではない。

 

『よみどろ〜ん‼︎』

 

 月を吸収したどんどろが、吠える。

 

「ツクヨミとどんどろの融合体…………よし、仮称として『ヨミどろ』と呼ぼう!」

「名前つけてる場合ダニか⁉︎」

 

 まずい。普通に攻撃しても効かないことを事前に聞いていたのに、ここに来るまで対策をちっとも考えていなかった。

 

 どうしよう、先輩やボケルさんたちの前でまた情けないことを…………と頭を抱えそうになったとき。

 

「全く、しょうがないなぁ」

 

 イナホ先輩が、スマホをポッケに仕舞い、澱みなく前に出る。

 

「ここは、先輩(おねえちゃん)に任せなさい!」

 

 夏の星色の妖怪ウォッチUを、見せつけるように腕を組む。

 

 取り出したるは────妖怪メダル。

 

「ワタシのともだち、出でよ! 『ふさふさん』!」

 

 指で高く弾かれた妖怪メダルは、虚無の宵闇において、さながら一番星。

 

 先輩は友の名前を()び、手の中に戻ってきたメダルを、ウォッチに挿入した。

 

「妖怪メダル、セットオン!」

『Ladies and gentle men, “BU-KI-MI-ZO-KU”‼︎』

 

 迸る妖気は、不気味な紫。

 

 召喚時恒例の、風変わりな歌に合わせて飛び出してきたのは────

 

「『ふさふさん』! ふっさふさやで〜‼︎」

 

 毛むくじゃらの、まっくろくろすけだった。

 

「妖怪『ふさふさん』。古典妖怪『けうけげん』が、より(つよ)き力と“毛”を蓄え、進化した姿です」

「そうなんですか? 教育テレビのマスコットみたいで可愛い…………!」

「ハニワ‼︎妖怪の解説しながらオレっちのマントを友禅染めするなニャン‼︎」

 

 しかし、先輩は『ふさふさん』さんを召喚して、どうやってヨミどろ(仮)に対抗するつもりなのだろうか。

 

 考えていると、周囲のヒマワリに異変が生じる。

 

 ヒマワリたちが、煙に覆われたのだ。普通の妖怪が術を使ったときに出る紫がかったものより、さらにどす黒く、粘性のある煙に。

 

 そして、それが晴れたとき。

 

 中央の、タネがぎっしり詰まった茶色い部分が、どんどろの顔になっていた。

 

【【【【どろ〜!】】】】

 

 養分ならぬ“妖”分を吸い上げ、二股に分かれた根っこで徘徊する妖花。その数、実に24本。なかなかにキモ可愛い光景だ。

 

「ぎゃあああああ‼︎何とかしろ、とっとこハニ太郎‼︎」

「無理ですあなたが食われなさい、とっとこガブ太郎‼︎」

「ふたりとも、冷静になるダニ! ここは一旦、ふさふさんに任せて…………」

「「うるせえ、とっとこUSA太郎‼︎」」

「おぉん⁉︎」

 

 USAピョンさんたちが揉めているのが聞こえたが、僕は怯えでビクリともできなかった。

 

 先に動いたのは、先輩とふさふさん。

 

「頼んだよ、ふさふさん!」

「ワシに任せとき! そおれ、ふっさふさにしたるでえ〜!」

 

 ふさふさんさんがモサモサの毛束のうち、両手に当たるらしきものを掲げた瞬間。

 

 ヨミどろヒマワリが、種子高速連射(タネマシンガン)を撃ち。

 

 放たれた弾丸を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………えっ?」

 

 気がつくと、目の前には、淡い緑色の防壁が竣工していた。

 

 ヒマワリの陰に隠れてひっそり息づいていた、名も知らぬ草花たち。それらが、ふさふさんさんの『とりつき』で、()()()()と健康に、豊かに生い茂っていたのだ。

 

「っしゃー! 防御(バリア)だけなら、マイナスパワー(あたり)判定かわせるっぽい!」

「せ、先輩、まさかこうなることを予測して、ふさふさんさんを召喚したんですか⁉︎」

「フフーン、ま…………そんなところ、かな?」

「先輩…………! やっぱりすごい…………!」

 

 妖怪の心に寄り添い、適切で最善な選択を探すケータ先輩。強大な相手にも狼狽えず、常に冷静な分析を図るイナホ先輩。僕のウォッチ使いの先輩は、2人とも本当に偉大だ。とても同じ小学生とは思えない。

 

「キーッ! 雨村モミジが宿敵(オレっち)じゃなくて、ジャリガールばかり見ているニャン! 許せニャい‼︎」

「ユーが思案すべきは、マントを蛇の目模様に染められていることじゃないダニ…………?」

「めんどくさい‼︎もう、私、友禅染めなんてやらない‼︎」

「途中で投げ出したー⁉︎」

 

 四方八方から降り注ぐヒマワリの種の隕石群を、オーガニックなクッションが難なく受け止めていく。一応あの種はただの種じゃなく、多少はヨミどろ(仮)さんの影響を食らっているはずだが、壁が崩れる様子は見えない。

 

 見た目こそ子供向け番組の着ぐるみキャラだが、古典妖怪なだけあって、この『ふさふさん』さんという妖怪は強いのだろう。

 

 ふさふさんさんはフサフサした舞いを披露しながら、僕の方を振り返る。

 

「何や、あんさんはワシのこと『ふさふさん“さん”』呼んどるけど、“さん”が重複しとるがな。フツーにええねんで、『ふさふさん』で」

「は、はい。ふ、ふさ、ふさふ、さん」

「シャー‼︎呼び捨てだとぉぉぉぉ⁉︎許さニャい‼︎オレっちは宿敵なのに敬称付けなんだぞ‼︎」

「染めきれてないとこに私のプリ貼っちゃお」

「ガブニャン! 後ろを見るダニ‼︎後ろ後ろ‼︎」

 

 弾丸(タネ)が防がれ続ける毎に、攻勢の波は強まるが、ふさふさんは雑談を交わすほどに余裕がありそうだ。

 

「こにゃくそぉぉぉぉ‼︎こうなったら、雨村モミジの前に、ヨミどろを片付けてやるニャン‼︎」

「最初からそうしろダニ」

「完全に、モミジより先にツクヨミ見つけて序奏(プレリュード)云々を忘却してましたよね」

 

 ふさふさんの作った壁がよりモサモサと厚みを増してきた直後。蛇の目模様に染まり、ワンポイントにボケルさんのプリを加えたマントを靡かせ、ガブニャンさんが突っ込んできた。

 

「おりゃああ『とことん吸血』‼︎」

「あ! ガブニャンさん危ない‼︎」

 

 ガブニャンさんは、猫らしい大胆で軽やかな動きで、草花の壁を飛び越え、ヨミどろに攻撃を仕掛ける。

 

 ────が、しかし。

 

「こら坊ちゃん、若気の至りで突っ込むのは下水道だけにしとき」

「げえっ⁉︎」

 

 ヨミどろの闇色の手が届く前に、ふさふさんの毛が伸長し、空中でガブニャンさんに巻きついた。

 

 そのまま、ぽいっ、と簡単に元の位置に投げ出されてしまう。だが、それだけでは終わらない。

 

 突如として、ガブニャンさんの青毛が爆発した…………正確に言えば、爆ぜるような速度とサイズで伸びたのだ。

 

「ガブニャンさんが長毛種に…………⁉︎」

「ニャアァァァァ⁉︎毛がモジャモジャで重くて動きづらいニャン‼︎」

「おお〜、ふさふさんのとりつきですな! なるほど、ニャン系妖怪に取り憑くとこうなるのか…………ということは、USAピョンにとりついてもらえば、高級感溢れるナメ吉ロングヘアーverに…………?」

「イナホ! 邪悪な企みをやめるダニ‼︎」

 

 今のガブニャンさんは、自慢の黒マントも腹巻きも、手足さえも、長毛の奥に埋没している状態だ。表情と首輪に付いたガラス玉だけが、かろうじて視認できる。

 

 普段の素朴な短毛のガブニャンさんも可愛いが、これはなかなか────無断で触れるのは失礼だからやらないが、毛の感触を味わいたくなるというか、抱き上げたくなるというか。

 

 そんな僕の煩悩を察したのだろうか、ボケルさんが独りツイスターを敢行しながら忠告する。

 

「モミジ。あなたが触ると、取り憑き解除されそうなのでやめてください。右手、あ、赤に、コイツはしばらくこのままに…………ぐえゔぁあああ‼︎左足攣ったぁぁぁぁ‼︎」

「…………はぁい」

「くっ、ボボボーボ・ボーケルめ…………‼︎お前もフサフサになればよかったのに…………‼︎」

 

 ツイスター用マットの上で悶絶するボケルさんを冷たく見やったガブニャンさんは、ギリギリと歯軋りして地に伏せる。

 

 フサフサもモフモフも何も、ハニワに毛はない気もする。…………いや、埴輪になくともボケルさんにはあった。なんか弥生時代だか飛鳥時代だかっぽい変な髪型部分があった。あそこが伸びたらどうなるのかは、少し気にならなくもない。

 

「モミジ! 邪悪な企みをやめなさあぴゃあああああ‼︎右足も攣った‼︎」

「まずバトル中にツイスターはやめろダニ‼︎」

「チッ…………ツッコんでんじゃねえよ」

「け、蹴りたい背中…………‼︎」

 

 自分の毛に足を取られて行動不能のガブニャンさん。ツイスターで両足を負傷したボケルさん。そろそろベイダーモードに入りそうなUSAピョンはん。今、まともに動ける戦闘要員はふさふさんだけ。

 

 結構な危機だが、ふさふさんは笑っている。毛量が多くて表情が読み取りづらいのではと思われるが、妖怪というのは不思議なもので、目元口元の動きは、何故だかはっきり分かるのだ。

 

「なんや楽しそうやなあ」

「ふ、ふさふ“さん”もありがとうございます、ずっと攻撃防ぎ続けてくれて…………僕なんて、何もできてないのに…………」

「別に大したことないで。ワシは、折角なら、ツクヨミやどんどろもふさふさにしてみたいんやけどなあ」

「何それ面白そう‼︎」

「い、い、イナホ先輩…………」

 

 ふさふさんの言葉に負の感情は乗っていないけれど、何が起こるか分からなくて怖いので、とりつき含めた直接作用する術は控えた方が良いと思う。しかし妖怪ニワカである僕の意見、参考にするには根拠不足でしかないが。

 

 イナホ先輩は、足だけでなく手も攣ったらしいボケルさんにスナック菓子を差し入れつつ、快活に笑う。

 

「あはは、冗談だって! それに、援軍がもう少しで来る頃だし?」

「援軍?」

 

 刹那。

 

 天球が、(あか)く燃えた。

 

「来たっ!」

 

 彼方より、紅き閃光。

 

 地が割れる。宵闇(やみ)が歪む。月光(ひかり)が霞む。

 

「ヨミどろ見つけたときに電話しといたんだよね〜! いやあ、ワタシったらホウレンソウのできる小学生…………!」

「…………ウォッチで召喚した(よんだ)方が早かったんじゃないかダニ?」

「あ、確かに」

 

 呑気な会話を背景に、障壁の真上に、燃ゆる炎の流星(メテオ)が降りてくる。

 

 顕現したのは、若い…………というより、僕たちと同じ年齢にすら見受けられるほど幼い人間だった。どんなに高く見積もっても、高校生止まりだろう。

 

 しかし、そのひとの外見は子供らしくない上に、極めて超俗的だった。逆立った金髪。尖った耳。古い時代の貴族が着ていそうな、厚みのある、豪奢な赤い装束。地ではなく、空に足を着いている。

 

 先の会話で出た情報を総合して推測するなら、このひとは間違いなく妖怪だ。

 

 けれど、ボケルさんやガブニャンさん、これまでに会った妖怪たちとは一線を画している。威厳ある身構え以前に、輪郭そのものが異彩を放っている。

 

「待たせたな、イナホ。────それから、雨村モミジ」

「えっ、え?」

 

 何で、僕の名前を。それより、この妖怪さんは、一体何者なのか。

 

 さっきまで絶え間なく攻撃を浴びせてきていたヨミどろが、一瞬怯んで、来訪者を見上げている。

 

「…………そうか、()()()で会うのは初めてだった。なら、オレから名乗るのが礼儀だろう」

 

 煌炎の妖怪は、当然のように、泰然と微笑む。

 

 何故だろうか。初めて会ったはずなのに。こちらに向けられた、鋭利な金の眼差しに、ひどく記憶が揺さぶられる。

 

「オレの名は『エンマ大王』。────妖魔界の王として、この騒ぎを収めに来た」

 

 





◇ふさふさん
種族 ブキミー
ランク A
分類 古典妖怪
好物 おにぎり

何でもふさふさにしてしまう妖怪。古典妖怪『けうけげん』の進化形だが、何故か関西弁で喋る。このモリゾーみたいな見た目でAランクとか、軽い詐欺ではなかろうか。
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