ともだち妖怪100人できるかな   作:彩辻シュガ

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作戦会議with大王

 

 

 エンマ大王。

 

 いつだったか、うんがい鏡さんの話で聞いた名前。人間の世界にまで伝わる、妖魔界のビッグネーム。王にして裁定者。霊魂漂う炎熱の世界を統治する超常者────

 

 そんなすごい妖怪が、僕の目の前にいる。

 

「え、ええええええ⁉︎」

「モミジ、畏怖するほどの相手ではありません。たかだか(よわい)60程度の若造です。まだ年金暮らしにすら突入してませんよ」

「そりゃあ、秘宝妖怪のお前から見れば、俺の先代エンマ(じいちゃん)すら胎児だろうよ」

「ま! 妖怪(ひと)の年齢をネタにするなんて無神経なお方ですこと!」

「先に言ったのはユーダニ…………」

 

 エンマ大王はゆっくりと、フサフサバリアーの囲いの中、僕たちの近くに着地した。

 

「イナホ。みんな無事か?」

「モチのロン! ワタシのクレバーな機転と、ふさふさんの力のおかげでね!」

「調子の良いやつダニ…………」

 

 イナホ先輩は、エンマ大王と親しい間柄なのか、敬意も警戒も表さず、同年代に接するように喋っている。流石だ。

 

 それにしても、近くで見ると、エンマ大王は実に凛々しいひとだ。少年漫画の主人公だと言われても不思議ではない。

 

 そのとき、更なる来訪者が飛び込んでくる。

 

「イナホさーん! モミジくーん!」

 

 声のした方を見ると。

 

()()()()()()()()()ケータ先輩、ウィスパーさん、ジバニャンさんが、こちらにやって来ていた。

 

 絨毯は、風もないのに自在に飛び、ヨミどろの発する妖気を器用に避けつつ、僕たちの元に滑り込んだ。

 

「あー‼︎羨まし…………じゃなかったケータ先輩‼︎なんでここに⁉︎」

「エンマ大王とツクヨミを探してたんだけど、イナホさんから連絡入ってから『俺ひとりで全員は運べねえ』って。それでこういう形に…………」

「うう、絨毯、乗ってみた…………じゃなくて、助けに来てくださりありがとうございます…………」

 

 ケータ先輩は絨毯からひょいと降りると、つま先で地面をトントン叩いて靴を履き直した。ウィスパーさんは酔ったのか、額を押さえてフラフラとその辺を飛び回っており、ジバニャンさんはぐったりと寝転がる。

 

「ふわぁあ、オレっち疲れたニャン。おやすみニャーン…………」

「目的地までの移動だけで疲労と達成感得るやつ⁉︎ジバニャン、まだ寝ないで! ウィスパー、バリアの外から出ないで!」

「ぎゃー‼︎的確に頬をぶつー‼︎」

「言わんこっちゃない‼︎」

 

 魔法の絨毯は、ひとりでにくるっと丸められ、まるで時間切れのようにクタッと地面に倒れた。

 

 絨毯。魔法の絨毯。スリル満点、ファンタジックアトラクション。世界三大乗りたいものの一つ*1…………

 

「雨村モミジィ! オレっちのマントに貼られたプリを剥がすのを手伝えニャン!」

「モミジ、この長毛種ヴァンパイアに新たなプリを貼るの手伝ってください」

「ユーは何しに来たんダニ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間がねえ。手短に説明するぞ」

 

 僕たちの周囲には、赤みがかった妖力の膜が巡らされていた。

 

 ふさふさんの例より、防御のみなら有効だと判明した。そのため、念には念を入れ、フサフサナチュラルバリアーの外側に、エンマ大王が結界を張ったのだ。

 

「あれはヨミどろ(仮)。ツクヨミとどんどろの一時的合成により生まれた妖怪だ」

「一時的? どういうことですか?」

「妖怪とは、妖怪である私たち自身ですらシステムを完全に解明できない、摩訶不思議な存在。何かの拍子で融合してしまうのも、よくあることなのです」

 

 私とジバニャンも、たまにうっかりくっついて『ブチニャン』になってしまうんでうぃすよね〜、なんてウィスパーさんは語る。

 

 何それ、とても気になる。きっと、赤と白の可愛いブチ猫なんだろうな。

 

「でも、一時的ってことは、分離もできるんですか?」

「恐らくな。…………ただ、外部のオレたちが分離させるのは難しいだろう。今のヨミどろは、ツクヨミの浄化の力、どんどろの呪詛の力が合わさり、一切の隙がない」

「なるほど〜。聖属性(ひかり)闇属性(やみ)、相反する力が偶然溶け合い、オタクのロマンくすぐる無敵存在になってしまった…………ということですな!」

 

 イナホ先輩の要約に、エンマ大王は首肯する。

 

「ヨミどろの融合は、両者あるいは片方の故意によるものではない、と俺は思っている。今のヨミどろは、突然の合体により我を失い、混乱して力を暴走させている。…………周辺の土地に取り憑いて、人々の認識や時間の流れを狂わせていたのは、被害の拡大を防ぐためだ。誰もここに辿り着かせないようにして、しばらく安静にするつもりだったんだろう」

 

 ────だが、タイミングの悪いことに、その眠りを妨げる者がいた。

 

「じゃあ、僕は何もしない方が良かったのでは…………」

「いや。お前たちがここを見つけなくても、その内他の妖怪たちが居場所を突き止めていた。遅かれ早かれ、こうなっていたさ────それに、あのまま耐久戦を強いるのは、ツクヨミ、どんどろ、双方にとって毒だ。それに、ヨミどろと同格以上の妖怪の力押しで対処したところで、無傷の勝利にはならない」

 

 そもそもが、性質を反する能力。その上、両者共に、妖魔界でもトップの強さを誇る妖怪と来れば、融合時の負荷は計り知れないものとなる。

 

 壁の向こうでひたすら吠え、妖気を吐き出すヨミどろさんは、恐ろしいモンスターのようでもあり、苦痛に喘ぐ幼子のようでもあった。

 

「…………どんどろは、オレのともだちなんだ」

 

 不意に、ケータ先輩が零す。

 

「人間のともだちとして、どんどろが苦しんでいるのを何とかしたい。そのツクヨミって神様も、どんどろも、どっちも傷つけずに治す方法はないのかな」

「先輩…………」

「ケータくん…………」

 

 どんどろは、かつて世界を恐怖のどん底に叩き落とした災いなのだと、妖怪ウキウキペディアには記されていた。そんな恐ろしい妖怪が、今の今まで退治されずにいたのは、ケータ先輩のように、どんどろの身を案ずる誰かがいたからだろう。それはきっと、ツクヨミさんも同じはずだ。

 

 崇高なる月の神様と、名もなき霊の集合体。どちらかを排除すればいいという話ではない。ふたりとも助けなければ、この任務は解決したことにはならないのだ。

 

 考え込む僕たちを見据えて、エンマ大王は静かに提案した。

 

「…………方法は、幾つかある。一番早いのは、ヨミどろの内部に侵入し、内側から分離を促すことだ」

「そんなことできるダニ⁉︎」

「ああ。だが、それには条件がある。まず、妖怪(おまえ)らは無理だ」

「ウィス⁉︎」

 

 キッパリ告げたエンマ大王。寝ぼけ眼のジバニャンさんはピクッと耳を立て、ウィスパーさんとUSAピョンさんは互いに顔を見合わせ、ボケルさんとガブニャンさんはツイスターで争っていた。

 

 つまり、僕の付き添いはふたりとも、話を聞いていないようだった。

 

「言っただろう、普通の妖怪ならまず祓われて終わりだと。ツクヨミの力は、蹴り一つで空亡を清められるほどだからな。オレならギリギリ近付けるが、それに比例してヨミどろの力も膨張する恐れがある」

 

 それから、エンマ大王は2番目の条件を説明した。

 

「第二に、ヨミどろの究極の闇(とりつき)が効かないことだ。どんどろの持つ負の妖力は、蛇や鱗の属性を有する妖怪すら受け流せない。ましてや、対抗力を持たない人間なんて尚更だ」

「光と闇、どちらの力にも対応できる存在じゃないと駄目ってことか…………」

 

 ケータ先輩が呟く。

 

 妖怪では、浄化されてしまう。だが、魔のものでなければ闇に憑かれる。ならば、最も適する存在がいるとすれば────

 

「な、なら、僕が…………」

「お前には危険すぎる。もっと他の方法を…………」

「でもっ‼︎」

 

 僕は、これから我儘を通そうとしている。コミュ障のくせに、他人の話に水を差している。それがどんなに罪深いことか。

 

 しかしながら、僕は僕の自尊心を守るために、我儘を言わなければならなかった。

 

「あ、ぼ、僕はツクヨミさんとも、どんどろさんとも、全然関係ないです! でっ、で、でも、僕なんかがふたりを助けられるなら、助けたいです!」

「モミジくん…………」

 

 ここで僕がやらなくて、それで状況が悪化したら、僕は死ぬほど苦しむ。これまでのように、自虐で心を保つような、無意味で空虚な日々を過ごすのは嫌だ。

 

 それに、僕は、先輩たちのような人間になりたい。こんな僕にも優しくしてくれて、友達思いで、いつだって前向きに行動し続けられる、先輩たちみたいに。

 

 役立たずでも産業廃棄物でもいい。結果的に大迷惑をかけたとしたら、それはそれで後悔すると思う。けれど、僕は、周囲のツッコミなんて聞かず、自分のしたいことを迷わずできる人間になりたいんだ。

 

「お、お願いします…………‼︎ヘマしたら、ちゃんと責任取って死ぬので…………‼︎」

 

 大王に向かって、深々と頭を下げる。

 

「…………駄目だ」

 

 降ってきた言葉は、それだった。

 

「地獄の沙汰を決めるのはエンマ大王(オレ)の仕事だ。お前じゃない」

 

 でも、それだけじゃなかった。

 

「って、こと、は…………?」

 

 エンマ大王は暫し頭を掻くと、ぶっきらぼうに言い放つ。

 

「一人で行くんじゃねえぞ。ヤマトボケルも連れて行け。向こう見ずな子供の単独行動は、死亡フラグだからな」

「大王様…………‼︎」

 

 安堵したら、どっと疲れに襲われた。そういえば、お夕飯作ってない。お母さんやお父さんに怒られるかもな。そんな、関係のない思考が流れてくる。

 

「なんでお前なのニャン⁉︎こんなアホのボケのハニワが‼︎雨村モミジに付き纏うのはオレっちの役目ニャン‼︎」

「そんな役からはとっとと降りてください。うるさいお口にはプリ貼っちゃいますよ」

「何枚撮ってんのニャお前はー‼︎」

 

 さて、これからどうしようかと思案している僕のところに、エンマ大王が歩み寄ってくる。スッと手渡されたのは、紫水玉(アメジスト)の輝きを放つ妖怪メダル。

 

 記された名は────『エンマ大王』。

 

「え、えあっ、え」

「中で何かあれば呼べ。そのウォッチなら、オレを召喚するだけのパワーは足りてる」

「あ、ああ、はい」

 

 エンマ大王のメダルを預かってしまった。

 

「やるからには、最後まで投げんな。…………ま、何事も気の持ちようだ。そこまでの勇気があるんなら、必ずやり遂げられる」

 

 世界一の貴重品だ。NASAとFBIとCSIを呼んでくれ。僕では守れない。もし今ここに機関車が突っ込んできてメダルを攫われたら、もし今ここに大量のホイップクリームが落ちてきてメダルが汚れたら、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ。

 

「スイス銀行いってきます‼︎」

「ヨミどろはどうした⁉︎」

 

 

*1
他二つはネコバス、筋斗雲。

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