ともだち妖怪100人できるかな   作:彩辻シュガ

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エピローグ されど、ハニワは今日もボケる

 

 

 

「モミジ。オレっちは?」

「かわいいです」

「ウィスパーと比較すると?」

「全く同じくらいかわいいです」

「なんでニャン!!」

 

 教室に着いてからも、ジバニャンさんは蒸気機関車みたいにポコポコ怒っていた。どうしてもウィスパーさんのかわいさを認めたくないらしい。

 

「そこは!! 嘘でも『ジバニャンさんは世界一かわいい猫ですよ』って言うところニャ!!」

「だからそう言ってるじゃないですか」

「『ウィスパーよりかわいい』って言われなきゃ、オレっち気が済まないニャン!!」

「それはギロチンにかけられても無理です!!」

「はぁぁぁぁ!?」

 

 僕は、コミュ障なりに、なるべく伝わりやすいようにゆっくり丁寧に説明した。

 

「『かわいい』は世界の基準。ジャスティス。不安定な現代社会において唯一揺るがない真実。そこに嘘をつくことは、許されざる蛮行です」

「お前なに言ってるニャン……」

「『かわいい』に優劣はありません。かわいいものは全て等しく『かわいい』、それでいいじゃないですか」

「お前なに言ってるニャン……」

 

 どうやら、ジバニャンさんにはまだ理解してもらえないらしい。妖怪と人間じゃ、やはり価値観が異なるのだろうか。

 

「ふっふふふーん♪ オレは〜♪ オレは〜♪ せ・ん・ぱ・い〜♪」

「フッ、嫉妬は醜いですよジバニャン……この超絶プリチー敏腕妖怪執事の私を見習って……」

「おまえらは!! いつまで!! 調子こいてるニャァァァン!!」

 

 ハリセン二連撃。

 

 ふたりの頭頂部をスパーンっ! と爽快に叩いた後、ジバニャンさんは「つまらぬものをシバいてしまった……」と言いながら、ハリセンを腹巻の中に仕舞った。

 

 次にジバニャンさんは、ヤマトボケルさんを睨め上げる。

 

「ふらふらな〜、フラダンス〜。ふらふらな〜、フラメンコ〜」

 

 教室の窓のそばで、インド風の装束を纏ったハニワがフラダンスとフラメンコを交互に踊っていた。

 

 ジバニャンさんはヤマトボケルさんを無視した。

 

 と、そこへ。

 

「おはようケータくん! あ、雨村くんも!」

「ケータ、雨村と何話してんだよ?」

「2人とも、もうそんなに仲良くなってたの? なんか随分楽しそうだったけど……」

 

 木霊さん、熊島くん、今田くんがやって来た。途端に僕の声帯が絞め上げられる。

 

「えっ、えっええ、ええっと、た、大した、はな、話ではわわわ」

「モミジくんテンパりすぎ……」

 

 ごめんなさい。この3人とはまだ上手く会話できないみたいです。変な奴だと思われた。もう帰りたい。

 

「実は昨日知ったんだけどさ、モミジくんの家がオレの家の隣だったんだ」

「えーっ、そうなの?」

「そう。それで朝は一緒に学校来たんだよ。ね、モミジくん」

「あ、はい……」

 

 ケータ先輩がフォローしてくれた。大変ありがとうございます。御恩は一生忘れません。

 

 ジバニャンさんとウィスパーさんが取っ組み合いの喧嘩をしているけれど、木霊さんたちには当然見えてないので、みんなは構わず普通に喋り始めた。

 

「ところで、ケータくんと雨村くんは知ってる? かげむら医院のウワサ」

「……かげむら医院、ですか?」

 

 ケータ先輩が、おつかい横丁の奥の方にある、使われていない廃病院のことだと説明してくれた。

 

 そこは何十年か前に院長が亡くなってから、解体も買収もされず廃墟と化していて、以前から不気味な現象が多発しているのだとか。

 

「なんかね、吸血鬼が出るらしいの! 怖いよね……」

「病院に吸血鬼……?」

「それでさ……今度みんなで、ここに肝試しに行こうって話になったんだけど」

「はい?」

 

 ケータくんと雨村くんもどう? と、木霊さんはコテンと首を傾げて尋ねる。

 

 どっどどどどう、どうと言われましても。廃墟って小学生が無断で立ち入っていいんですか? ……でも、肝試しかぁ。

 

「吸血鬼なんて非科学的だし、いないとは思うけどね? でも、確認もせずにいないって決めつけるのもどうかと思うし」

「吸血鬼でもそうじゃなくてもよ、調べて悪さするヤツがいたら、俺達でこらしめようぜ!」

「そのときはまずは警察に通報しようよ、クマくん」

 

 今田くんが冷静に語り、熊島くんが威勢よく宣言する。木霊さんは怖がっている素振りが強いけど、肝試しに対して及び腰ではなさそうだ。

 

 警察を呼ぶ事態を想定できるなら、行くの自体やめませんか? 小学生だけで行くのは危ないよ。だって廃墟だよ。廃病院だよ。天井や床が抜けて怪我でもしたら……

 

 ……………………でも、『肝試し』かぁ。

 

『肝試し』という言葉が、僕の後頭部に張り付いて、お菓子の香りとイルミネーションのキラキラを同時に放っている。

 

 小学校に入ってから何年も、何年も、夏の前後と真っ最中に、休み時間の教室で、窓の外を眺めながら聞き流してきた言葉だ。

 

 みんなで集合時間と場所を決めるんだろう。何を持っていくか話し合うんだろう。夜にどうやって家を抜け出すか画策するんだろう。肝試しそのものじゃなくて、そんなことを計画する時間が、大層甘美できらめいているのだろう。

 

「オレも行こうかな、吸血鬼が気になるし」

「ほんと!? 雨村くんは?」

「えっ……?」

「ぼくたちも雨村くんともっと話したいし、仲良くなりたいんだよね」

 

 と、今田くんが補足する。

 

 もっと話したい。もっと話したいのか、僕なんかと。めちゃくちゃ良い人たちじゃないですか、肝試しで廃墟に不法侵入なんて計画してるのに。

 

 いっ、いやいや!! ダメダメ!! 親に怒られる!! 

 

 ……でも、ケータ先輩は行くんだよ? もしかしたら、妖怪のしわざかもしれないよ? 妖怪のこと、知らない世界のこと、もっと知りたくないの? 

 

 後頭部に張り付いた魔物が……妖怪などではない、拗らせたぼっちの願望が、囁いてくる。

 

 いやダメだ! それはそれ、これはこれ! 毅然とした態度で断れ、雨村モミジ! 

 

「………………つ、つつ、謹んで、お受けします」

 

 無理でした。

 

 お母さん、お父さん、先に謝っておきます。ごめんなさい。僕は近々、警察もしくは吸血鬼のお世話になるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 肝試しの決行日は、明日の夜11時過ぎ、ということになった。

 

 11時なんて、親が遅くまで帰ってこない日にドラマをリアタイしたり、ゲームをしたりするような時間じゃないか。それだけでもかなり悪いことしてるのに、あまつさえ家を抜け出すなんて。

 

「どーしよう……ていうかどうしましょう、ヤマトボケルさん……」

「何ですか?」

「肝試しです。今から断ったら、ノリの悪いやつだと思われるし……あー、雨降ってくれないかなぁ」

「肝試しは屋内でやるんだから、雨天決行でしょう」

「うわぁ……じゃあ……台風……無理か」

 

 ヤマトボケルさんは、サングラスにヘッドフォンを着け、左右で違う靴下を履いていた。僕の靴下ではない。ヤマトボケルさんの小さな足にピッタリサイズの靴下で、左が緑と黄のボーダー、右が水色とピンクのドットだった。

 

 ジバニャンさんやウィスパーさん、ヤマトボケルさんは姿形が全然違う。妖怪の世界では、色んなサイズや形の服が売ってるんだろうな。見てみたい。

 

「かげむら医院の吸血鬼って……妖怪なんですかね? ヤマトボケルさん、どう思いますか?」

「風が泣いている……」

 

 ヤマトボケルさんは窓を開けた。風はなく、熱い光線と空気が塊で突撃してくる。

 

 今日は朝こそ涼しかったものの、お昼頃から急に暑くなりだし、僕は汗をダラダラ流しながら家に帰ってきたのだ。ちなみにケータ先輩たちと下校した。今日は今のところ、100点満点中62点と言っても良い。

 

「暑いですね……」

「機嫌が悪いようですね」

「へ?」

「太陽の、です」

 

 太陽の機嫌が悪い。まるで小説か詩みたいな表現だ。ヤマトボケルさん、意外とそういうこと言うんですね。

 

 ハニワでも温度を感じられるのか、彼は日光を直で浴びて鬱陶しそうに暑がりながら(自分で開けたのに)すぐに窓を閉めて、クローゼットに入っていく。

 

 クローゼットの上段には僕の服やら何やらが収納されていて、下段も同様だったが、ヤマトボケルさんがクローゼットに住むというのである程度端に寄せたり上段に移動させたのだ。

 

 空いた空間は、段ボール箱が2つ入る程度の広さ……の、はずだったが。

 

「奥行きがある……」

「レンタルしたと言ったでしょう。地下室もありますよ。見ます?」

「ちっ、地下!? ……宿題やってからでもいいでしょうか」

「構いませんが」

 

 地下室。僕の憧れのもののひとつだ。誰しも、一度は地下室か屋根裏に秘密の部屋を持ちたいと考えるだろう。それがまさか、突然住み着いた妖怪によって叶えられるなんて。

 

 僕は急いで学習机に向かい、漢字ワークを開き、家用のコーギー型ペンケースを開き、鉛筆を削った。ワクワクして手が震えて、なかなか削れなかった。

 

「……まだ怒ってるんですかね、あのアホ先祖」

「ヤマトボケルさん? 何か言いました?」

「いえ、何も。ここにダンジョン建ててもいいですか?」

「え? あ、はい良いですよ」

「ボケっ!?」

 

 なんて言ったんだろう。浮かれすぎて聴覚も変になってて、よく聞き取れない。

 

 太陽が眩しすぎるので、一旦カーテンを閉めた。それでもまだ、陽光は部屋を注視していた。左腕につけた妖怪ウォッチのガラスカバーが、反射して光る。

 

 ────ともだちと妖怪がいる僕の毎日は、こうして幕を開けたのだった。

 

 

 

「そうです。せっかく妖怪ウォッチを手に入れたのだから、まずは『ともだち妖怪100匹』を目指してみては?」

「………………」

 

 

 

 タイトル回収がやや強引。そんなヤマトボケルさんが、僕の記念すべき最初のともだち妖怪となった。

 

 

【現在のともだち妖怪 1/100】

 

 






◇ともだち妖怪
妖怪が人間に、信頼の証として妖怪メダルを渡すことで『ともだち契約』が成立する。交渉やバトルの結果としてメダルを貰うパターンが定番だが、なんとオークションに出されたメダルを競り落とす事例もある。それでいいのか。

余談だが、作者はアニメにおける召喚バンクが大好きなので、全ウォッチによる全妖怪のバンクを見たいと願っています。
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