結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM 作:朔月新
新世紀301年3月某日。防人の1人、弥勒弓海子は英霊之碑に参拝に来ていた。とある事情もあり尊敬するご先祖である弥勒蓮華の墓はないが、盟友であったとされる赤嶺友奈と桐生静の2名の墓はある。彼女達の墓を通じて敬愛する弥勒蓮華に祈りを捧げるのが、以前からもやっていた習慣ではあった。そして、今日は別の墓にも参拝する予定であった。
(焼きそばの現物がないのに、仄かに焼きそばの香りが。参拝の度に焼きそばを持ってきているのでしょうか?)
1か所は2年前に幼くして亡くなった若き勇者に。
(乃木若葉、土居球子、伊代島杏、高嶋友奈。以前来た時には気になりませんでしたが……)
もう1か所は西暦時代の初代勇者達に。その中に名前が刻まれていない石碑をみつけ、これが彼女のだろうと思って弥勒は心の中でそっと呟いた。
(わたくしは覚え続けておりますから。安心して眠ってください)
最後に1か所。当時の赤嶺家の進言により設立されたらしい古波蔵棗の墓地に弥勒は向かって行った。すると彼女の墓地の先客が参拝していた。彼女の参拝が終わるのを待っていると、彼女もこちらに気づいたようで会釈して話しかけてきた。
「初めまして。私の名前は赤嶺美姫といいます。噂は聞いておりました。弥勒弓海子さん」
「ええ、ご先祖の御活躍は存しております。我が弥勒の者と力を合わせてお役目に順じておりましたとも」
「私なんて、勇者にも防人にもなれなかった半端者です。防人として勇者と一緒に戦えた弥勒さんが私は羨ましいとお思います」
「そんな事ありませんわ。それに、あの戦いでは勇者と防人は直接に共闘する事は叶いませんでしたもの」
弥勒はそういって否定したが、赤嶺はその言葉を聞くと彼女の雰囲気が突然変わった。
「あの戦いでは、か。つまり、別の場所では勇者と共闘していた経験がございますのでしょうか?」
「はっ。そ、そんな事実はございませんことよ」
弥勒弓海子は自分の失言に気づいたが、それも彼女の言葉でかき消された。
「やはり、赤嶺友奈様から聞いてた通りのお人ですね」
「赤嶺友奈さんと話ができるって事は、あなたは巫女ですの?」
それに対して、赤嶺は顔をうつ向かせながら言った。
「広義の意味では巫女ですが、今は巫女というものは神樹様の声が聞こえる人達の事を指します。だから、私は巫女ですらない」
その声色はとても辛そうだった。勇者にも防人にも、巫女にもなれない1人の少女。それが赤嶺の扱いだったのだろう。
「話を戻しますね。それで私は赤嶺さんの命を受けここであなた方を待っておりました」
「一番であう可能性が高いのは乃木園子様と東郷美森さんの2人だと思っていましたが、あの世界の記憶を持っている以上、あなたの方が適任かもしれませんね」
「なにがですの?」
「あなたの今までの人生の中で、一番の心残りは何かしら?」
彼女が東郷美森と乃木園子との遭遇を前提にこの質問を用意していたという事は、彼女が欲しい答えは多分、あのことだろう。なので弥勒はあえてそれに乗ることにした。
「強いてあげますなら、安芸先生という人物をあの世界で三ノ輪銀さんと合わせてあげれなかったことでしょうかしら」
「安芸先生。ね。彼女は3人でズッ友と言っていましたが、彼女達の発言を顧みるに安芸先生も加わって本当の意味で元通りになるんじゃないかなって思っておりました。それなのに、安芸先生だけは結局は三ノ輪さんに再開する事もなく元の世界に戻る事になりました」
「でも、それがなんであなたの心残りになるのかな?」
「もちろん他にも心残りはたくさんあります。ですが大半は、わたくし達が人として生きて解決しなければいけない事です。ですがこれは神樹様の怠慢とも言うべき事です。ならば神樹様にしか解決できそうにない心残りをあげるのが適切ではございませんか?」
その言葉を聞いて、赤嶺は少し嬉しそうにも羨ましそうにも見える顔をしたように見えた。
「それで、これはどういう意図があっての質問ですか?」
「今から勇者部の6人とあの世界に行った防人組5人と、後は私を含めた数名を平行世界の乃木若葉様の時代に転移させるみたいなのです」
「待ってくださいまして。転移ってどういうことですか?」
「これは歴代勇者の願いを叶えるために行う行為とだけ、赤嶺友奈様は言っておられました」
「あなたは、それに巻き込まれて平気ですの?」
「弥勒さんっていい人なんですね。でも、大丈夫です」
彼女のその表情は、嬉しくもあり哀しくもあるといった複雑な表情に見えた。
「私も一緒に転移されますから詳しい話は転移後で。それではまたお会いしましょう。弥勒弓海子さん」
その直後、彼女達は。いや、この世界の勇者達はこの四国の地からしばらく姿を消す事となった。
神聖は赤嶺友奈の勇者モチーフである稲の花言葉