結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM   作:朔月新

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乃木若葉の章ー6「先駆者」

 

「はぁ……」

 

 郡千景は最近憂鬱だ。理由はわかっている。1つは高嶋友奈が奈良に呼び戻された事。奈良の勇者である高嶋友奈は、奈良を優先させなければ行けないのは分かっているのだが、千景とって心の支えがいないのは辛いことには変わりはない。

 

(私が勇者だから価値がある。か……)

 

 もう1つは、高嶋友奈に会えない気分を紛らわすために実家に帰省した時の出来事だった。そこで言われた言葉がそうだった。

 

(無価値な自分には、もう二度と戻りたくない)

 

 帰省直後のバーテックスとの戦いでそう思いながら切り札『七人御先』を使用した。だけど、それでも乃木若葉のが自分より遙かに上と感じ、気分転換に付近を外出中の時の事だった。

 

「郡、さん」

 

 そこにいたのは山伏しずくだった。郡千景としては、一度会ったことがあるくらいで、今は大社住まいしている事くらいしかしらなかった。

 

「あなた、何をしていらっしゃるの?」

「買い出し。郡、さんも一緒に来る?」

 

 今日は特に予定がないので千景はついていくことにした。

 

「誘うのならばせっかくだし。あと、無理に敬称をつける必要はないわよ」

「うん。じゃあ行こう、郡」

 

 そういって、しずくは千景に手を指し伸ばした。

 

 

 

 

 

「いつもこんだけ買っていますの?」

「うん。大社にいる私達は今、6人と1匹分になる。それに、買い物は好きなのもある」

 

 他愛のない会話をしながら棚を見ていると、とある調味料がしずくの目にとまって手に取った。

 

「あ、これ」

「バニラアイス用の醤油? へぇ、こんなモノがあるのね」

 

 それは、あの世界におけるしずくの、覚えている筈のない大切な記憶の1つを象徴するものだった。

 

「予定にないけど買う。決めた」

「使ったことあるの?」

「……初めてのはず。でも、これは買った方がいいって私の勘が言っている」

 

 そう言いながら、しずくはどこか懐かしい顔をしていた。

 

「そう」

 

 千景は1人で歩き出す。

 

「郡? どこ行くの?」

「それを買うなら、バニラアイスも買わなきゃダメでしょ?」

 

 そう言って黙々と先を歩き出した。素直になりきれない千景なりの優しさがそこには見えた。

 

「……ありがとう。郡」

 

 しずくは千景に聞こえるかどうかの小声で、御礼を言うのであった。

 

 

 

 

 

「買い物に付き合ってくれてありがとう郡」

「こちらこそ」

 

 買い物帰り。2人で楽しそうに会話をしている所にだった。

 

「お~い。千景~!」

 

 雰囲気を壊す陽気な声が聞こえてきた。

 

「なんだか元気そうじゃんか。うんうん、よきかなよきかな」

「土居さん。貴方に心配される謂れはないんですけど」

「千景は細かいんだから~」

「細かくないわよ」

 

 郡千景は土居球子が苦手だ。何も考えてなさそうな雰囲気が自分とは真逆の世界を生きてきた人間に思えて、どういう接し方が正解なのかが全く分からないからだ。

 

「そっちの子は防人の子だよな? 千景はよくしてくれたか?」

「うん。郡は優しかった」

「そっか。ありがとな。えっと……」

「しずく。山伏しずく」

「ありがとな! しずく」

 

 そういって、球子がしずくの頭をなでようとした時、

 

「ほぼ初対面で距離感バグってんじゃねーよ!」

 

 見かねたシズクが表に出てきてなでようとする手をさけて、見事なカウンターが決まる。

 

「あ、日が落ちてないのに星が見える……」

 

 球子はそう言いながら吹っ飛ばされて目を回した。

 

「ったく。悪気がねぇってのは雰囲気でわかってんだけどよぉ」

「や、山伏さん?」

 

 千景は急なしずくの豹変ぶりに驚きを隠せなかった。

 

「ああ。俺はシズク。しずくの中にいるもうひとりの人格っていう奴だ。俺はしずくを守る為に生まれた。まぁ、今回みたく過剰防衛みたいな反応しちまうこともあるけどさ」

 

 その言葉を聞いてしずくも苦労した側の人間なんだというのが千景は知る事になった。

 

「……どうしたの?」

 

 千景は何かを見透かしてくるような眼でシズクが自分を見ているような気がした。

 

「ああ。何となくだが、初めて話す感じがしないっていうか。まぁなんだ。1つの事に拘りすぎんなよ」

 

 訂正。見透かしてくるようなではなく、実際に見透かしてきた。 

 

「勇者でないあなたには関係ない事でしょ。貴方は山伏さんと違って失礼な方ね」

「そうかもしれないな」

 

 シズクはそういって悪そうな笑みを浮かべている様に千景には見えた。

 

「それでも、勇者だって人間なんだ」

「何を当たり前のことを?」

「当たり前のようで当たり前じゃないからだ」

 

 勇者に拘って一時は破滅仕掛けた楠芽吹。勇者になれたのに大切な仲間を救えなくて絶望しそうになっていた三好夏凜。少なくとも勇者関連で2人も似たような状況を見ていれば、郡千景の詳しい事情を知らなくても、シズクにはそれ関連で何かあったのだろうというのが目に見えていた。

 

「余計なお世話よ。土居さん起きなさい」

「千景?」

「寮に帰るわよ」

 

 それが千景の逆鱗に触れたのか返答もされずに土居球子を連れて千景は帰っていった。

 

 

 

「はぁ。上手くいかないもんだなぁ」

 

 思い返すは、しずくたちの心に刻み込まれたとある言葉だった。

 

『山伏さん。私、あなたに何か通じるものを感じるの』

 

 その言葉から始まった会話にしずくも、悔しいけどシズクも心が救われた。でも、それを言ったのが誰なのか、いつ言われたのかを思い出せない。それでも救われたという気持ちは残っている以上は、しずくも似たような思いをしているだろうし、自分がされたように誰かを救いたいとも感じていた。だからこそしずくは千景に声をかけたのだろう。

 

(結局、俺が途中で出てきちまって台無しにしちまったな)

 

 しずくを守るための存在なのにしずくの覚悟を無駄にしたような行為をした自分に対して、心の中でため息をつくのであった。

 




サブタイトルは山伏しずくの誕生花の花言葉

原作での帰省イベントとゆゆゆいのぐんしずイベントが混ざった回
原作とは違って友奈が奈良に帰っていないので
その役割がしずくに回ってきた的な世界のバランス調整
それはそれとして、救われた手のひらで他の誰かを救おうとするこれもまた1つのバトン
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