結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM   作:朔月新

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赤嶺美姫の章「壮麗」

 

 赤嶺美姫は、今では名家と呼ばれる赤嶺の家の1つに数えられる存在の長子であり長女である。

 

「お父様」

「非公式の場ではパパでいいって言っているだろう」

「もうパパって歳じゃないよ」

 

 時は神世紀298年。当時中学1年だった彼女は、勇者に選ばれたのが1つ下の神武館の小学生達3人である事を少し残念に思っていた。

 

「赤嶺は事の起こり鏑矢だ。私達の相手はバーテックスではなく堕ちた人だ」

「そんな事を言っても、神樹様の為にならなければ意味はないでしょう」

「お母様……」

 

 そう言いながら母が入って来た。母は大赦の神官であり、敬虔な信者でもあった。それ故、自宅でも仮面をつけて過ごしていた。

 

「あなたもあの弥勒家の支援をいい加減やめるべきでは?」

「それだけは出来ない。これは先祖から言い渡された永遠の贖罪だからだ」

 

 父曰く赤嶺家。いや、赤嶺友奈は仲間である弥勒蓮華に対して自分がしたことを死ぬまで許せなかったそうだ。故に、赤嶺家ではその後悔をあの世にも残して欲しくないという願いと、また赤嶺家と弥勒家の両翼で並び立つことが赤嶺友奈の願いだと信じ、弥勒家に陰ながら、最低限の支援をしているのだった。

 

「とはいえ、いつ何が起こるかもわからん。赤嶺の長子として」

 

 父にそう言われて美姫は鏑矢としての技術を叩きこまれた。父娘としての交流としてはいびつな気もするが、彼女はこの時間が大好きであった。

 

 

 

 

 だが、その時間は長くは続かなかった。

 

「嘘ですよね。まだ彼女は11歳のはずです。なのにこんな……」

 

 7月10日。勇者の1人である三ノ輪銀の死亡が赤嶺家に届けられた。これは名家だからだけではなく鏑矢として、新たな勇者候補としての期待という意味もある。

 

「勇者としての使命を全うして誉れ高いとのこと」

「何を……いっているの?」

 

 それに対しては母はまるで感情のない生物に見えた。神樹様という存在を信仰しすぎてそれは、方向性が違うだけで鏑矢が処理すべき人材に美姫には見えてしまった。

 

「ごめんなさい。ちょっと気分悪いので失礼します」

 

 この場所に、この雰囲気を1秒も味わいたくないと感じ、美姫は母の目の前から逃げ出してしまった。

 

「私はダメな人間だ……」

 

 母の前から逃げ出し、1人になって落ち着いた所で母に嫌悪感を抱いた自分をそう責め立てた。そこに、

 

「そうでもないさ」

「お父様?」

 

 そこに、父がやって来た。

 

「誰かが死んだら悲しい。それが人間として当たり前なんだ。ただ、大赦に勤めるとそれが当たり前というのを忘れてしまう」

 

 それは鏑矢の仕事であったり、死んだら神樹と1つになれるという神樹信仰だったり、要因は様々ではあるが。

 

「私は鏑矢にむいてないのでしょうか?」

「性格的にはな。だが、まだ美姫は12だ。きっと、美姫に相応しい未来に出会えるさ」

「お父様は、何でお母様と結婚したの?」

 

 今の母を見て、父がどうして結婚できたのかが美姫には不明だった。

 

「神樹信仰にのめり込む前はいい女だったんだぜ。本当に、どうしてああなってしまったのやら」

 

 その時、かつて愛した女だからこそ切り捨てられない雰囲気を漂わせていた哀愁みたいなのを父は流していたのかもしれない。ただ、その機微を当時の幹に理解するのはまだ早かった。

 

 

 

 さらに時がたち10月の。瀬戸大橋が乃木園子とバーテックスの大群との戦いの影響で崩落したあの日、その戦いの余波による損害で美姫の父は命を落とす事となった。

 

「お父様……」

 

 優しさの中にある父の信念と言うべき何かをその時からとらえていたのであろうか。私は、父が好きだった。そして、それを喪った私はぽっかり穴が開いたようだった。

 

「美姫。これを受けなさい」

 

 父の死すら悲しむ姿が見えない母を美姫は堕ちるまで堕ちてしまったように感じていた。そんな母が渡したのは勇者適正値を調査するものだった。

 

「美姫。あなたは勇者になりなさい。今代の勇者がみな、お役目をまっとうし使命を終えた今、次なる勇者の時代なのです。鏑矢なんていう歴史の影から抜ける時なのです」

 

 その言葉は乃木園子達3人の勇者だけじゃなく、赤嶺家自体を貶めている事に母は気づいているのであろうか? 勇者が戦えなくなったら新しい勇者に変えればいい。それは、本当に正しい戦いなのだろうか。勇者とは、そんなにも軽い称号なのだろうか?

 

 

 

「美姫。あなたがこんなにも才能がないとは思いませんでした」

 

 そんな事を考えていたからだろうか。後に返って来た勇者適性値は名家の中では一番下。三ノ輪銀の端末を受け継ぐという選抜試験の候補にも当然選ばれなかった。

 

「弥勒家の方はしっかりと選抜試験の候補に入れたというのに、あなたは神樹様の御役になれないのですね」

 

 生前の父の影響もあるのだろう。特に母は弥勒家の者を目の敵にしていた。当然、支援も断ちきっていた。そこからはお互い、意識して顔すらも併せないような家庭内別居に近い生活に明け暮れていた。そんなある日、

 

『あなたが赤嶺美姫ね。レンちの血筋は入っていないのにレンちにそっくりだなぁ』

「あなたは、誰?」

『私は赤嶺友奈。勇者部のみんなが奉火祭をめちゃめちゃにしたおかげでね。こちらの世界に出てきちゃった」

「はい?」

 

 まるで悪戯っ子が良くない悪戯を報告するかのような顔で言ってきた。奉火祭なんてそもそも西暦時代の話のはずだ。

 

「東郷美森が贖罪もかねて自らを贄にしようとしてた所を勇者部のみんなが止めたんだよ。あの世界の記憶なんてなくても、勇者部のみんなは変わってないなぁって改めて思ったよ』

「赤嶺友奈さん。聞きたいことがあります」

 

 何で赤嶺友奈の声が聞こえるかなんて理由はどうでもいい。もしかしたら夢かもしれない。でも、聞いてみたい事があった。

 

『うん。いいよ』

「赤嶺友奈は弥勒蓮華に対して自分がしたことを死ぬまで許せなかったと伝えられてますが、本当ですか?」

『ううん。違うよ』

 

 急に真面目なトーンになったかと思うと、赤嶺友奈はこう言い切った。

 

『死んでも後悔していたが正解だよ』

「今は後悔していないと?」

『あの世界で酷いやらかしをした事と、そのやらかしさえも許してくれる素敵な存在がいたからね。最も、私は死んで神樹の一部になってから思い出したから、その点は悔しかったりするけど』

 

 その顔は本当に悔しがっているようだった。自分の先祖が話しやすい存在で久々に心が救われた気がした。

 

「今は神樹様なのですか?」

『神樹と繋がっていると言えばそうだけど、基本的には神樹様の保護下の魂だけで、魂の意志で次世代に転生したり自由に徘徊とかはできるよ。こうして声をかけれる存在は珍しいけど』

「つまり、私には巫女の適性があると?」

『残念だけど、神樹の声が直接聞こえるかというのならば、あなたにその適正はないわ』

「ど、どうして?」

『あなたは、とある適性値が高いの。その影響で神樹の勇者や神樹の巫女の適正が低いの……』

 

 彼女は言わなかったが防人は量産型勇者的な勇者を目指して作られたシステムだ。結局は勇者システムの派生の為、そっちも無理だろうと美姫は思った。

 

『ごめんねぇ。先祖なのにこうして声をかける事しかできなくて』

「大丈夫です。久々に、御父様と話しているような安心感を感じました」

『子孫とはいえ男の人と比較されるとどう反応すればいいのか困っちゃうなぁ』

 

 そう言いながら、お互い笑いあった。それが、赤嶺美姫と赤嶺友奈の初の会話であった。

 

 

 

「で、赤嶺友奈からの神託があったと。神樹様ではなく?」

「はい。私自身には巫女としての適性はないとご先祖様は言っておられました。ですが、ご先祖様の声が聞こえるというのは何かの役に立てるかと」

 

 一応、赤嶺友奈には母に伝える事に関する許可はとってある。今の母にとどくのかは正直、不安しかないが。

 

「神樹様の声が直接聞こえぬのに他の者の声が聞こえるなどという世迷い事を。あなたにはほとほと愛想が尽きました」

「お母様」

「彼女を表舞台に出ない様に軟禁しなさい」

 

 母がそういうと何処からか来た大赦のメンバーが赤嶺美姫を拘束した。こうなると思っていたが、いざやられて、抵抗する意欲も彼女にはなかった。

 

 

 

 それから、どれくらいの時間がたったのだろうか。軟禁場所でも赤嶺友奈と会話は出来ていたので孤独感はなかったが生きながら死んでいるような感覚があった。

 

「赤嶺美姫さん。生きておられますか?」

 

 そうして私の目の前に現れたのは右目に眼帯をした神官だった。あの後、神婚という儀式を止めるために天の神がやって来て、私の母を含む何割かの神官は己が体を穀物と化し神樹と一体になったそうだ。父と母の両方を失った赤嶺家の表向きの当主は私という事になり、軟禁状態を解除する運びになったそうだ。なお、私がまだ成人していないので、実際に組織運営するのは父方の叔父になるらしい。

 

「あれ……どうして……」

 

 その話を聞いては美姫の瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちた。母としては神樹様と1つになれたのだからむしろ悔いなど一切ないだろう。残された彼女の事を考えているとは到底思えない。そんな母なのに、もうこの世にはいないと知った時に彼女は、赤嶺美姫は。それでも悲しみの涙が自然と沸いていたのだった。

 

 

 

 

「これから、私は何をしたらいいのかな……」

『それに関して提案があるんだけどいいかな?』

 

 軟禁から解除されてしばらくしたある日、彼女のちょっとしたつぶやきに対して赤嶺友奈が提案した事は……。

 




サブタイトルは花結いのサービス開始日である6月8日の誕生花タイサンボクの花言葉
ゆゆゆいロスから書き始めた小説なのでサービス開始日に特別に外伝および
現状ほぼ唯一のオリキャラの設定補完を兼ねた話です
ちなみに赤嶺美姫の誕生日は11月3日の文化の日で
体育の日付近の赤嶺友奈の対にしている脳内設定もここで初披露しときます
作中でも言わせてますが赤嶺美姫の見た目は弥勒蓮華似です
ですが弥勒家の血は全く入ってないですし蓮華の転生体でもありません
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