結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM 作:朔月新
「はぁ。何でこんなことになってんだろう」
10月の北海道の某所にある洞窟。この洞窟自体は、北海道の勇者。秋原雪花が少しずつ掘り進めて出来上がった代物だ。
「雪花。今日もお疲れ様!」
洞窟に入ると、何処からか拾ってきた木の棒2本を両手に持って振り回していた少女、三好夏凜が挨拶して出迎えた。
「雪花さん聞いてくださいよ。夏凜さん酷いんですよぉ」
「雀に関しては楠の分まで面倒を見てあげてるだけよ」
「それが酷いって言ってるでチュン」
こっちのチュンチュンうるさい子は加賀城雀。2人ともおよそ1ヶ月前に、この洞窟の中に転移してから、奇妙な同居人状態が続いていた。
1ヶ月前のその日。秋原雪花はお偉いさん方の会議に半ば強制的に参加させられていた。
「私は何処を担当すればいいのでしょうか?」
「どこも担当しなくてもいい。勇者だからといっても所詮はただの小娘だ」
「及川さん。それはあんまりというのではありませんか? それに単純な軍事では対抗しきれないのは過去の歴史的に火を見るよりも明らかかと」
「獣神伝説でも、かの獣神達を駆っていたのは12の少年少女です。年齢で評価するのは間違いだと思います」
「そんな少女に力を借りる現状で、大人として恥ずかしくないのかね?」
その日の会議の主題は勇者である秋原雪花の扱いだが、それに対して軍事部門担当の及川が徹底的な否定意見を言っている。
(一見すると、まともな発言に見えるんだけど実は……)
「それに勇者とか獣神とか何でそんなオカルト的な力に頼らないといけないのだ。イチナナ式でバーテックスに対抗できる現状で、勇者など必要ない!」
その発言を聞いて雪花は心の中でため息をついた。要は及川は極度の神秘否定派であり、勇者という存在自体が気に食わないので邪険にされているのである。
「勇者である彼女に協力してもらっても現状では護りきれているとは言い切れないのに、そんな訳がないでしょうに」
とはいえ、他の人達も一人の人間ではなく勇者というフィルターしか私を見ていないのは聞いているだけで嫌というほどわかる。わかってしまう。
(寒いなぁ)
秋原雪花が勇者になってから、こうした会議は何度もあったが、結局は結論は出ずに流れる事のが多かった。
「そろそろ時間ですのでパトロールに戻らさせていただきます」
この雰囲気にいつまでもいたくないので、雪花は適当な理由をつけてお暇することにした。
「こら、勝手な行動をするんじゃない」
「ですが、彼女の言っている事は正しくもありますし」
ちょっと離れたところでまだ言い争いをしているようだが気にしたこっちゃない。雪花はそそくさとその場を立ち去った。
「私だって、好きで勇者になったわけじゃないんだよ」
しばらくして、自分の作った洞穴の近くまで雪花は来ていた。
「このまま今日も掘り進む作業を……」
そう思った矢先、何処からか何者か同士がぶつかり合う音が聞こえる。必死に抵抗しているのかどうかわからないが、バーッテックス相手だとしたら無茶なことをしている。
「ああもぅ。何で気づいちゃうかなぁ」
そう愚痴を言いながら、音のする方に雪花は向かうのであった。
「何でまだバーテックスがいるのよ」
三好夏凜はそう言いながら右手で星屑を思いっきり殴り飛ばす。一度散華し、後に返還された右手と右足でなら変身できなくてもバーテックスへの攻撃は有効だと判断しての行動だったが、どうやら正解のようだ。星屑は見事に霧散していった。
「夏凜さん。やっぱり危ないよぉ」
そう言いながら盾を構えて、神性のない左をかばっている少女は加賀城雀だ。
「加賀城さんだっけ? 楠の仲間なんでしょ。今は頼りにさせてもらうよ。それにあなたが防人の力を起動できている以上、私達の時代ではなさそうだし」
「そこはよくわからないけど……」
防人は量産型勇者であるため、大気に十二分に精霊の力が存在していれば神樹の力を用いなくても変身は可能である。しかし、神世紀の時代ではその力が神樹に集約されていたため、神樹が散華した現状では勇者達と同じく変身不可能であったことに変わりはなかったのだが、神樹たちの勢力以外にも人間に味方する神・精霊が現存する西暦の時代ではそのメリットを披露する場と化していた。
「でも私は攻撃性能ないんだから、いずれ押されちゃうかも……」
(この防御性能見るに、万が一私が倒れてもそれはあり得ないと思うんだけど、言わない方がいいわよね)
防人自体は300年分の積み重ねもあって、純粋な性能なら通常時の西暦の勇者と同等にはある。だが、彼女の盾捌きに関して言うならば、本来の性能の数倍を引き出しているだろうと夏凜は目測した。
「お、次の相手が来たみたいね」
草むらが揺れる音が聞こえた夏凜はそちらの方に向き直り、こぶしを握り締めて警戒する。
「そこにいる方~。大丈夫ですか? こちら勇者です。助けに来ました」
そうして現れた相手は、確かに勇者服っぽい恰好をしているが、見た事もない少女だった。
「勇者って、あなた誰よ」
おそらくこの時代の勇者だというのは理解していたが、それはそれとして情報を引き出さないのでワザと警戒心を高めたふりをして夏凜は尋ねた。
「誰って、北海道の勇者をやらせてもらっている秋原雪花さんですよぉ。そういうあなた達こそ何者なのかしら?」
対する雪花も、見覚えのない少女達に警戒心を高めるのだが、
「北海道!? 私達、四国にいたはずなのに何でそんな北の果てにいるのぉ」
もう1人。この中で一番重装備をしている雀が泣き叫ぶことで夏凜と雪花の毒気が抜かれる事になった。
「立ち話も何だし、どっか休める場所はない?」
「この近くに個人的に掘り進めてる洞穴があるから、そこまでついてきてくれる?」
「わかったわ」
そうして、2人を洞穴に連れてきて、今に至るという訳である。
「何か気疲れしているのなら、にぼしでも食べる?」
三好夏凜という子は事あるごとに煮干しを勧めてくる煮干し人間で、初遭遇の時とは違い凄くフランクになっていた。
「そんだけにぼし食べていたら、さしずめあだ名は、にぼっしーかにゃ」
「雪花。あんたまで、にぼっしー呼ばわりするの?」
適当な返しをしているとガチでそう呼ばれていたようで、思わず視線を雀の方にうつした。
「呼んでない呼んでない。夏凜さんをそう呼ぶなんてこの小雀には畏れ多くて」
「そう呼んでいたのは主に東郷や園子。ウチの勇者部の仲間よ」
「この雀ちゃんは違うの?」
「この子は楠芽吹って私のライバルの仲間? 友人? とにかく友人の友人くらいの距離だから」
「四国でも2回ほどちゃんと会ったのにひどいよぉ」
「1回目はともかく2回目は楠とのアレがあったし、ほとんど会っただけじゃない」
完全に見ず知らずという訳でないが、そこまで言い寄られる筋合いはないと夏凜は雀を突き放した。
「そろそろ、訓練に出かけるわね」
雪花が帰ってきて少し会話をしてから夏凜は訓練のために出かけるのが習慣となっていた。
「バーテックスに気を付けなさいな」
「大丈夫よ。完成型勇者である三好夏凜にはバーテックスなんか敵ではないわ」
本物の勇者を目の前にして完成型勇者とか冗談でも言える夏凛の事が雪花は少し羨ましかった。理由は秘密らしいが、彼女は星屑程度なら殴り倒せる特別な力を持っているらしい。
「夏凜のハツラツっぷりが羨ましいよ」
「私こと小雀は小心者なので雪花さんに頼らせてもらいます」
落ち込んでいるように見えたのか、雀は雪花をヨイショする発言をした。
(でも、こんな生活も悪くないかな)
彼女達が来るまでは、秋原雪花は孤独だった。勇者として戦い漬けの生活と、中学生ながら勇者であるが故に政治的な話し合いに関与したりで、だんだんと自分の心が冷たく、寒くなっていっているような感覚があった。それが、夏凜と雀の2人が来てからは、その寒さが和らいだのを感じている。夏凜は言わずもがな、雀もこうして私に頼るような言動をしつつも早朝にいつも朝練をしている事を知っている。本人に聞いてみたら「サボっていたらメブに再会した時の特訓が地獄になる」って言っていたがどこまでが本音なのだろうか?
「そういえばさ。イチナナ式ってのがいるのに協力はしないの?」
「どこからバーテックスがやってくるかわかんない以上、協力するより広範囲で補えるようにした方がいいって言われたよ」
最たる理由は権力者の1人である及川が秋原雪花を、ひいては勇者という非科学的な存在を信頼していないのが最たる理由ではあるのだが。イチナナ式という軍事力で対抗できている事も要因の1つである。結果、秋原雪花は北海道の何処を守る役割も与えられてないという腫れ物に近い状態だ。
(それでもまだ、寒いねぇ)
それは北海道の寒さ故なのか、それとも自分に対する風当たりなのか。それは雪花自身にもわからないのであった。
サブタイトルは雪花の誕生花であるプリムラの花言葉
今回から雪花の章です
防人の作中設定に関してはオリジナル設定なのであしからず