結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM 作:朔月新
「今日のトレーニングはこのくらいでいいかしら。しっかし自分の事ながら、ここでの生活も慣れたわねぇ」
北海道に転移しておよそ1ヶ月。三好夏凜は雪花の洞窟がある山の近くをいつも通りにジョギングしていた。この1ヶ月の間、夏凜と雀は様々な事をした。炊き出しの手伝いから始まり、迷子や迷い猫の捜索。最近は保育園の手伝いもするようになった。夏凜にとっては勇者部でやっていた事をこの地でもやっているだけだが、雀はまだ苦戦しているようだった。
「とりあえず、この町の人間との関係はよくしたいわよね。……あれ?」
そんな事を考えながら辺りを見回していると、見慣れない生物を見かけた。
「青い、ペガサス?」
大きさ的には義輝くらいだろうか。仔馬でもあり得ない大きさなので精霊なのだろうが、どういうわけで夏凛の目の前に出てきたのかを、はかりかねていた。
「ブルゥ」
夏凛の方を振り返りながら、その馬はとある方向に走っていく。
「ついて来いって事?」
馬に導かれるままに走っていくと、そこにはイチナナ式とは違うこの世界でも見たことないロボットが存在した。
「何これ?」
「バトルスーツ・フラッカーという昔の軍で使われたことある機体だよ」
後ろから声が聞こえた気がして振り向くと3、40代くらいの年齢と思われる男性がそこにはいた。
「ちびっ子。どうやってここに入って来たんだ?」
「チビじゃないわよ。これでも中学生よ」
「大人になったら、中学生は充分ちびっ子だよ」
「言うじゃないの。おじさん」
でも大赦の人間と違って、こうした掛け合いをしている方が気楽に話せるのは、相手に裏がなさそうなあるからだろうか。
「まぁでも、あなたの管理物みたいだから、勝手に見たのは謝るわ」
「素直でよろしい。だけど、ここは道に迷っても、そうそう来れる場所じゃないはずだ」
「何ていうか青い馬の精霊についていったら、ここについたのよ。……そういえばいつの間にか見失っていたわね」
夏凜は口にした後で自分の発言の異常さに気づいてすぐに訂正した。
「って、いきなり精霊と言っても頭おかしいわよね」
「そんな事はない。今は秋原雪花とかいう勇者がいて紫の狸の精霊と協力しているらしいからな」
(狸じゃなくて狐よ)
精霊を見れない人間からしたら狸も狐も大きくは変わらないので、どこかで誤った情報が混ざったのだろう。
「それにあんたこそこんな山奥にいるのよ」
「大人には軽々しく言えない事情があるのさ」
そう言い放つ男の雰囲気に、夏凛はどこかで既視感を覚えたのでカマかけも兼ねて尋ねてみた。
「それは、バーテックスが天の神の使いだと言う事に関係はあるのかしら?」
「……それは大社でも上層部しか開示されてないはずだ」
「元勇者。って返答では不満かしら?」
「北海道にいた勇者は秋原雪花だけだったはずだが、元って事は今は力を失っているって事か」
その返答に対して夏凜は無言で頷いた。それに対して、男性は右手を顎を置いて、少し考えた後、意味深げに話し始めた。
「今から30年程前。この世界で善神アーガマと邪神ドラゴの戦いがあった。その戦いでアーガマの血族は地球人を守る為に戦って勝利した」
「アーガマの血族?」
「善神アーガマの子孫。神の血を引いた人間って事だ。まぁ、今は彼らは戦う力を失っているようだけどな」
「あなたが、その一族ってわけ?」
「あくまでそういう一族とそう言った戦いが過去にあったってだけだ。ただ、彼らも今回の戦いには参加するなと言われて人里から離れたという噂はある。おそらく、戦う力が残っていればそんな言葉を無視してバーテックスから人々を守る為に戦いに行っただろうけどな」
男は表情を変えず、それでも拳を強く握りしめて苦悶しているのを夏凜は見た。
(この男は私達と同じだ。そして、未来の勇者の至るかもしれない可能性)
神世紀で勇者としての力を失った時には寂しさもあったが、それでも樹新部長の発言もあり、勇者部として活動し続ける限り、私達は心は勇者だと思っていた。だけど、そうじゃない未来も当然ある。力を失い、戦うことも禁じられ、故にこんな場所に隠れるように暮らしているのだろう。そんなこっちの心の機微を読んだのか、男は軽口を言ってくる。
「難しく考えすぎんなよ。ちびっ子のままになっちまうぞ」
「大丈夫よ! 私は煮干しとサプリで栄養素は完璧に整えているんだから」
どう聞いてもダメ人間の発言にしか聞こえない返しをする夏凜に男は苦笑いする。
「何だよそれ。全然説得力ねぇぞ!」
「うるさいわねぇ。完成型勇者である私が間違っているわけないじゃない」
そんな訳がない。雪花が体と心を痛めながら勇者として頑張っているのが見ているだけでもわかるのに、自分達は軽口で気を間際らしてやる事しか今は出来ないのだ。これが自分への虚勢だというのは嫌というほどわかっていた。
「ありがとう。久しぶりに元気が出た気がしたよ」
「奇遇ね。私もよ。また来てもいいかしら?」
「ああいいぜ。……ベガルーダ。お前が連れて来たんなら、帰りも送ってやんな」
男がそういうと、馬の精霊が何処からともなくあらわれた。この精霊の名前はベガルーダというらしい。
「一応呼んだけど、大丈夫か?」
「ええ、ちゃんと私には見えているわ。また来てもいいかしら?」
「ああ。君なら問題ないぜ」
彼との対話は絶対に自分にとってプラスになる。そう判断した夏凜は約束を交わした後、元の道へ戻っていったのだった。
サブタイトルは三好夏凜の誕生花であるライラックの花言葉
男性の方の名前は出していませんが、大方の予想通りです
30年前にアーガマの戦い→約10年前にドクターヘルとの戦い→現在
というのが今のところ明かされているこの世界の大きな戦いの流れになります