結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM 作:朔月新
西暦組と神世紀組が仲良くなってしばらくの月日がたった。
「嬉しい状況ではあるんですけどね」
上里ひなたは個室で1人呟いていた。西暦組で唯一、神世紀組から未来の情報も伝えられている以上、現状に戸惑いが出来ていた。
「1000体以上のバーテックスによる第一陣の攻撃。これを無事に切り抜けられた事はプラスです。しかし……」
彼女達の話では、乃木若葉及び西暦勇者が真に1つになったのはその戦いでの不手際があってからの復活で、絆が深まったからだろうが、そのイベントを先にやったため、本来起こりうるはずだった高嶋友奈の重傷も回避して切り抜けた。「園子さんのあの特訓で本当に七人御先の精度が上がっているとは……」と、後に郡千景が語っていたので、彼女が何かやってた事がプラスに働いたのでしょう。問題なのは、この総攻撃は神世紀側では1月過ぎに起きていたのが、この世界では12月に起きました。今までの情報と襲撃時期がずれた事により、これより先の情報の正確性が崩れた点はマイナスです。
「それに、こちらの世界ですと長野や北海道に遠征に行く意味もないですし……」
神世紀組の話では、生存者が残っている可能性をかけて北海道まで遠征に行く予定で、諏訪でこの世界では園子が渡した手紙を発見したところで神託により遠征は中止になって四国に戻ったそうです。ですが、歌野さん以外の諏訪組の無事は東郷さんと園子さんによって確認できていますし、北海道にも秋原さんや三好さんが護っているという話が最近あったので、無理して遠征する利点がないのです。そもそも、神世紀組の世界と違って、こっちの世界は無事なのも理由も遠征に対する無意味さが更にプラスされます。
「こういった時は、悩んだら相談でしたっけ? そうしますか」
行き詰ったひなたは、そのまま眠りに落ちる事にした。
「先日のバーテックスの物量は、こちら側としても想定外だったそうです。ですので、大社としても特別な褒賞を与えた方がいいとなりまして、何がいいですか?」
とりあえず、西暦勇者に聞く事にした。何故か部屋の中にいた園子さんには今回はご退場をお願いしてもらった。
「タマはどっか遠くへ行きたい。みんなでキャンプとかできると最高だな」
「遠くに行くって何処よ。海とか山とかあるでしょ?」
「私は、タマっち先輩と一緒ならどこでもいいかな?」
「私もぐんちゃんやみんなと一緒なら、何処でもいいな」
土居球子の意見によりどこか遠くに行くことに決まりそうだ。明らかに当時より5人の仲間としての絆は深まっているのがひなたは見ていてうれしくなった。
「それは、多少の無茶でも通せるのか?」
それに対して、若葉が聞いて来た。
「ええ。余程の無茶でない限りは大丈夫かと」
「そうか……」
そう言われて、乃木若葉は少し考えた後に意見を口にした。
「なら、他のみんながよければでいいのだが、私は出雲大社跡に行きたい」
出雲大社。そこで乃木若葉が生太刀を手にして、勇者として覚醒した場所であり、そして、彼女の友人を失った場所である。
「乃木さん。あなたまだ……」
「そうかもしれない。過去に縛られ過ぎるのもよくないと、今をしっかりとして見るべきだと自分では覚悟したつもりだった。だけど、過去を捨て去るのもいけないと言われた。だから、私の始まりの地で、私の心に決着をつけたいんだ」
千景の問いに若葉は否定をせずに自分の心の内を話す。
「なら決まりだな。タマはそこでいいと思うぞ」
「若葉ちゃん。私もオーケーだよ」
そうして、出雲大社に行くことがこの場の結論としては決定した。
「出雲大社となると私達の一存では決められないですから待ってくださいね」
「私達も一緒でよかったんですか?」
それからしばらくして、無事に許可が下りたので、西暦勇者達は大社の人が運転する車で出雲大社跡に向かうことになった。他にも神世紀組の代表として犬吠埼風、楠芽吹、赤嶺美姫がついて来ている。
「大丈夫だ。できればそちらの仲間も全員連れて行きたかったんだけどな」
「流石に大人数になりすぎても行けませんからねぇ」
とはいえ、今の時点で運転手も含めて10人という大所帯である事には変わりはないのだが。
「園子さんにも色々お世話になっているから連れてきたかったけど」
「バーテックスが来た時に園子さんが対処できるから私達全員で他県に行けるのです。そこは仕方ないところです」
千景のつぶやきにひなたも残念そうに口にする。
「どうやらついたみたいだな」
そうしてついた場所は、かつての面影を残しながらも見るも無残となった出雲大社がそこにあった。
「これが、あの出雲大社」
他の人が唖然としている中、若葉とひなたは当時の事を思い返しながら、その地に再びと降り立つのであった。
「こちらとなります」
運転手であった大社の人に連れられて行くと、そこには慰霊碑とだけ書かれた高さ2mほどある石碑の前に連れてこられた。
「当時の惨状とその後の復興を優先により、とりあえず慰霊碑だけを立ててで終わらせた模様です。出雲大社自体も、まず最初に狙われたこともあってかバーテックス問題が終わるまで再建も難しいとの事で」
「別にそんな事はいい。みんな。ここから私がやる事は全部独り言だ。無視して聞いてほしい」
そう言いながら、若葉は生太刀を慰霊碑の近くに突き立てながら、謝罪するように話し始めた。
「私は君達を守れず、自分だけ生き残ってしまった。友達になったその日に失った以上、友達と呼んでいいのかと今でも考える時がある」
それは、これまで胸に溜め込んでいた心の内だ。
「故に、バーテックスだけでなく私も報いを受ける日がいつかくるだろう。だけど、それまで奴らにも報いを受けさせる。だから……」
『もう、充分に若葉ちゃんは報いを受けているよ』
そう話していると、赤嶺美姫が不思議な発光をしながら、いつもと違う声色で若葉に話しかけてきた。その声に若葉とひなたは聞き覚えがあった
『やっと声が届いたね』
「どうして……」
『この赤嶺美姫さんって人。イタコ体質っていうのかな? 幽霊が憑依しやすいみたいなの。若葉ちゃんと話したいからと言ったら、快く身体を貸してくれたの』
赤嶺美姫の体質に関しては初めて聞いたが、それでもこうして会話できるのは奇跡であった。
『とはいえ、今までも若葉ちゃんと話したくても神樹様の結界は私達も通れなくて声が届かなかったから。若葉ちゃんがこっちに来てくれて、やっと届いた』
「私は、せっかくの友達を、を……」
『確かに私達が友達として過ごした時間は数時間もなかったね。でも、』
そういって、友人は若葉の涙をぬぐう。
『3年間も私達の事を考えてくれた若葉ちゃんを友達じゃないって思うようなのは私も含めた3人の中に誰一人もいないよ』
それは、やさしくそれでも芯のある言葉だった。
『私達はそもそも若葉ちゃんに報いとか求めてないよ。若葉ちゃんが必要だというのなら3年間の苦しみが、それが報いでいいんだよ。若葉ちゃんの罪は流されてるよ』
若葉はその言葉によって胸のつかえがとれた気がした。今までずっと締め付けられてたものが若葉の中に亡くなったのだ。
「私は、今ここに誓おう。乃木若葉は君達の友人であった事に誇りに思う事を。そして私は、この地に生きる人々を守り続けると」
「私はじゃなくて私達は。でしょ」
その最後の誓いに関して、千景が割って入る
「そうだな。若葉はすぐにタマ達の事を忘れるのが悪い癖だよな」
『うん。新しい友達もいい人でよかった。だから、報いなんかじゃなくて、若葉ちゃんのために頑張ってね』
そう言いながら、光がだんだん収まっていく。
『流石にもう時間だね。最後に1つだけ。私達の家族を守ってくれてありがとう』
そう言い残しながら、赤嶺美姫から光は消え去り、同時に彼女は気絶するかのごとく倒れた。
「いい子達でしたね」
若葉の友人に対して杏はそういう。
「うん、自分がいざ同じ立場になった時に同じようなことできる自身が私にはないわ」
「幽霊になってでも互いを思いやれるのは本当にいい友人だったのだろうな」
「そ、そういえばマジモンの幽霊だった。わ」
「風さん!?」
あとから指摘された事で気づいてしまった風はそのショックで気絶してしまった。それの介抱でしばらく時間を使ったのであった。
サブタイトルは乃木若葉の勇者花の花言葉
今回は亡くなった親友との会話回ですね。
出雲大社跡に遠征しているのは当然オリジナル要素です
原作だとこの時期の出雲に人はいないでしょうから今回の慰霊碑もないはずです
乃木若葉の精神性としてはこの友人との邂逅で完成した感じが原作でもありますね