結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM 作:朔月新
「やっほーうたのん。手伝いに来たよー」
園子達がこの世界に来ておよそ1週間。歌野達が取り成してくれたこともあってか、2人とも諏訪の生活に慣れていった。
「サンキューね、園子さん」
「いえいえ~。このくらいの事しかできないからね~」
そしてまた、白鳥歌野の畑に来客が1人やって来た。
「白鳥さん。今日の分、持ってきましたよ」
「牧葉さん。いつもありがとうございます」
彼女は牧葉ひかる。シラカバ牧場の経営者の娘さんだ。時々、こうして手伝ってきてくれている。
「バーテックスとの戦いで大変じゃない。私達も力になりたいのよ」
「そんな。シラカバ牧場にはこちらもベリーお世話になっておりますし」
そうして、牧葉ひかると白鳥歌野が他愛もない話を始める。
「うたのんは相変わらず人気だなぁ」
巫女としての日課を終えて藤森水都が合流して、いつも通りの白鳥歌野を見て、羨ましそうに呟いた。
「大丈夫ですよ。歌野さんにとって水都さんが一番なのですから」
「でも私はただ偶然巫女に選ばれただけで。うたのんと違って何の力もないのに……」
実際のところ、東郷から見て藤森水都は巫女して高い力を持っているのだが本人にその自覚がないので、その方向性で話を進めても否定されるだろうし、なぜ適性があるのかを見抜けるのかを話す必要も出てくる
「……特別な力があるということが良い結果を生み出すとは限らないわ」
なので、逆方向から話をする事にした。
「私も昔は特別な力を持っていたわ。でも私はそれを間違った方に使ってしまった。それで大切な人達を傷つけて、それに贖罪しようとやった事で逆に余計に大切な人達を傷つけて。でも、彼女達はそんな私を許してくれた」
「東郷さんは今も後悔はしているんですか?」
「してないと言ったら嘘になるわね。でも、それで悩むことはやめにしたの。私達の約束の1つに悩んだら相談ってあるからね」
そう言いながら東郷は軽く笑うと水都もつられて笑顔になったので少し安心した。
「だから大丈夫。特別な力がある事だけが巫女の役目じゃない。あなたという帰る場所があって、それが白鳥歌野の力になっているというのならば、それはあなたが特別と思ってなくても、あなたにしかできない特別な力なのよ」
「東郷さん……」
「何か辛気臭い話をしちゃったわね。ぼたもちあるけど食べる?」
そういって東郷はどこからともなくぼたもちを取る出した。
「東郷さん。ぼたもち貰いますね」
水都は東郷から貰ったぼたもちを食べると、優しい味が口に広がった。
「あー。みーちゃんズルい」
「わっしーのぼたもちを独り占めはさせないんだぜ」
そうして食べていると、歌野と園子がこっちにやってくる。
「慌てなくてもぼたもちは逃げないわよ」
そういって東郷は笑ったのだった。
……その日の夜……。
「わっしー。どう、いけそう?」
「スマホ自体の修理はできたわ。だけど」
スマホの画面には勇者変身用のアプリが起動されていたが、そこには変身不能の文字が出ていた。
「おそらく神樹様の御力が足りないわ。変身機能自体は存在しても変身できないのはそれが理由でしょうね」
「精霊の有無は関係ないんだよね」
「精霊がいないと精霊障壁と満開が使えないけど、変身自体には影響はないわ。2年前の時には両方なかったじゃない」
「そう言えばそうだったね。でも、足りないのが神樹様の力だというのなら、無理矢理だけど変身できるかも」
そういって、園子はスマホに触れて、何らかの力を込めると変身不能の文字が消えた。
「やっぱり思った通りなんよ」
「何をしたの? そのっち」
「私達の体の散華した部分は神樹様によって再構築されたものなのは覚えているよね」
「え、ええ……」
東郷美森が忘れるはずもなかった。それで自分は大切な記憶を一時とはいえ失っていたのだから。
「なら、その再構築された部分に残った神樹様の力を使えばって思ったら成功したんよ」
「でもそれって!」
「そうだね。できるかなと思って試しただけで、私も実際に変身しようとは思わない。使い過ぎれば、自らをもう一度散華させるかもしれない」
「そうよ。特にそのっちは」
そう。乃木園子は散華によって心臓が停止した事がある。その時には精霊の加護によって死ぬことはなかったが、精霊の加護がない今、心臓が止まったら『死』あるのみだ。
「……この世界はシローさん達もいる。それに諏訪と四国だけではなく北海道と沖縄にも勇者がいるわ」
「ならなんで、この世界に私達は転移させられたんだろうね」
「それは、それは私にもわからないわ。でも……」
園子の疑問に東郷はすこし言葉が詰まるが、自分なりの考えを
「でも、これが神樹様がした事ならば、何の意味もない事とは思えないわ」
「そうだね。私達の理解を超えた先にいたけど、それでも人間の事を神樹様は考えていてくれていたもんね」
神婚も大赦側から提案した事だったから受け入れた事であり、それに反発する私達を含めた歴代の勇者達の呼びかけに対して自らを散華してまで応えてくれた。
「ねぇわっしー。私達はうたのん達を救うべきなのかな」
その疑問に東郷は答えられない。個人的な感情だけで言えば2人とも9月末に起こるであろう出来事に。諏訪の壊滅を防ぎたいのは事実だ。しかし、自分達の知る事実とは違う状況だという事。そして、今を救ったとして300年後にどのような影響が出るかわからない事。そもそもこの世界では起きないかもしれない事。それが2人が尻込みする理由になっていたのだ。
「シローさんがいるなら、おそらく私達が無理をしなくても白鳥さん達は無事に生き延びられる。今はそう信じましょう」
なので東郷はそう言葉にする事しかできなかった。
サブタイトルは藤原水都の誕生花であるクチナシの花言葉
とりあえず、この世界でも勇者部のみんなは変身できます
ただ、この世界の神樹様達の庇護下にないので自分達の中にある
神樹様の力の残滓を消費する必要があるというオリ設定ですね