結城友奈は勇者である 花結いのINFINITISM   作:朔月新

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白鳥歌野の章ー4「汚れなき人」

 

それは、このまま来ないかもしれないと思っていた。いや願っていた。この世界は私達の知る世界と似ているようで違う世界だから。でも、そうではなかった。私達が知る未来は、ついに来るべき時が来たのだった。

 

「嘘……」

 

 その日、藤原水都に神託が降りた。その内容は2つ。ちかく、諏訪に向けての総攻撃が起きるというもの。そしてもう1つは『よく三年間も耐え抜いた。そのお陰で四国が戦う準備が出来た』という労いと共に事実上、諏訪を見捨てる旨の神託だった。

 

「こんなことって……」

 

 しかし、その神託を聞いた白鳥歌野はそんな事を気にしないかのようにふるまった。

 

「よかった。私達が頑張ってきた三年間は、無駄じゃなかったのね」

「うたのん……」

「みーちゃんちょっと待ってて。乃木さんとの定時連絡があるから……」

 

 藤原水都が落ち着くのを見守った白鳥歌野は、元の世界では最期の定時連絡をしにむかうのだった。

 

「わっしー。ミトりんのそばにいてあげて」

「そのっち……。わかったわ」

 

 何か覚悟を決めた様子の園子の雰囲気に東郷は何も言わずに送り出した。

 

 

 

 

 

「諏訪の神様。突然の来訪を御許しください」

 

 乃木園子が向かった先は諏訪大社の本宮だった。

 

「私は。白鳥歌野は。諏訪の神様は。全力で生きようとしてそれでも届かなかったのだと思いました。でも、あの神託は。生きる事を諦めてたのですか? 神様の方が先に生きるのを諦めてしまったのでしょうか?」

 

 当然ながら神様からの返答はない。純粋な巫女である水都はおろか、東郷より巫女適正が低いので園子に直接聞こえる事はないだろうと園子自身もわかっていた。それでも言わないと気が済まなかった。

 

「そんなわっしーやゆーゆの時みたいな、誰かが命を捨てる事で得られる平和なんて私は嫌だよ。なんでよ。この世界は諏訪と四国以外も無事なのに。なんでもう神様であるあなたが諦めているの!」

 

 こんな事を言っても神様にだってわからないと思う。だって300年後の未来の話だから。それでも乃木園子は何も言わないでいるのは不可能だった。

 

「私、何やっているんだろう」

 

 いまだに白鳥歌野を助ける事を迷っている理由は、300年後の未来があるからだ。銀が、勇者部が、300年という勇者達の歴史が、天の神に一矢報いて新しい未来が今始まろうとしている所なのだ。もしこれがまだ炎の海に閉ざされたままだったなら、ここで未来を変えてそもそも炎の海にさせない未来にかける方向に乃木園子は迷わず行けただろう。そして、それからどれだけの時間がたったのだろうか。

 

「園子さん。どうしてここに?」

 

 しばらく呆然としていたのだろうか。その声に反応して振り向くと、そこには白鳥歌野がいた。

 

「うたのんこそ、どうして?」

「私の勇者服は普段は服に込められた神の力をフルチャージにする為に諏訪大社の中にインされているからね。それを取りに来たの」

 

 そうだった。白鳥歌野はスマホによる変身ではなく原始的な着替えだった。そんな事を忘れるくらいに精神的に参っていたのだろう。

 

「うたのん。いいえ、白鳥歌野さん。一緒に逃げよう」

 

 一応、勇者に変身できるようにしたとはいえ、それは自分自身の身を削る行為であり、今から来る総攻撃をしのぎ切れるかどうかはわからない。幸い、こちらの世界は諏訪と四国以外も顕在なので、諏訪を見捨てて逃げれば歌野を生存させることはできる。諏訪大社が陥落すれば、白鳥歌野は勇者の力を振るうことはできなくなるだろうけど、それでも死ぬよりはましなはずだ。

 

「それはできないわ」

「それは勇者だから? でも総攻撃されたら、抑えきれないこと自体気づいてるよね」

 

 その問いには答えず白鳥歌野は静かに、語り掛ける様に話しかけた。

 

「……諏訪にはね。10年程前にいたのよ。守護神と呼ばれる巨大ロボットとそのパイロットが」

 

そのロボットの目的も正体も白鳥歌野は知らない。本当は守護神なんかじゃないかもしれない

 

「そのパイロットは宇宙からきた侵略者と戦って、そしてこの地球の平和を守り抜いたの」

 

 でも、そんな事は関係なかった。幼い頃にたまたま見かけたそのロボットの勇姿を、白鳥歌野は今でも思い出せる。

 

「素敵と思わない? 自分の生まれ育った土地にそういう話があるのって」

「だったら、そのパイロットに今からでも応援を頼むって」

「そのパイロットは今この地球にいないわ。地球が平和になったのを見て宇宙に旅立っていったみたい」

 

 宇宙から侵略者が来るのならば、やられる前にやる理論で倒しに行ったのか。それとも、そのロボットのパイロットがそもそも地球人ではなかったのか。

 

「私がそのロボットから受け継いだ平和を。その人が、大地と海と青空と友と誓ったこの平和という名のバトンを引き継いで守り抜こうって私は勇者になった時に思ったの」

 

 その言葉を聞いて乃木園子は自分の中の決定的な間違いに気づいた。『自分の世界の』白鳥歌野のイメージで見ていて、『この世界の』白鳥歌野として接していたなかった事に。

 

「もちろん。みーちゃんをはじめとして他にも理由はあるよ。でも、『この世界の私の』勇者としての最初の決意はこれだよ。『乃木』園子さん」

「え、何で?」

「別の世界の人間だと思ったのはこの世界の人間で光子力エネルギーを知らない人間がおかしい事と別世界から来た存在の前例があったってシローさんから聞いてたからね」

 

 異世界からの来訪者に前例がある世界というのは、園子達としても想定外と言うべき話であったが納得した。

 

「貴方の苗字が乃木と気付いたのは私の親友を誰だと思っているの?」

 

 それは答える事さえも不問と言うべきであろう。

 

「でも、一度も顔を見たことないはずだよ?」

「たしかにそうね。普段の雰囲気は若葉さんと全然違っていたわ」

 

 そういいながら、白鳥歌野は乃木園子に近づいてくる。

 

「でもね。いまの園子さんの雰囲気は若葉さんにそっくり」

「どんなところが?」

「変な所で頑固な所とか、自分だけでやらなくちゃってって抱え込んでいそうな所とか。そして」

 

 白鳥歌野は彼女を優しく抱きしめ、耳元で呟いた。

 

「東郷さんも園子さんも、若葉さんに負けないくらいに私にとって大事な友達だから」

「うたのん……」

「私だって、死ぬつもりはないわ。だから、約束しましょ。無事に戻ってきたら、三ノ輪さんのついて教えてね」

「うん。わっしーと一緒にいくらでも語るから。語れるから」

「じゃあ、またね」

 

 白鳥歌野はそういいながら、乃木園子から離れて大社の中に入っていった。

 

「私も動かなくちゃ」

 

 このまま立ち止まっていたら歌野にもう一度会えるだろう。でもそれは見送るための行動だ。それでは意味がない。ミノさんの時と同じだ。2年前の何もできないままの私だ。あの時はミノさんのさよならの言葉さえもちゃんと聞いてあげる事が出来なかった。わっしーはあの時どんな気持ちだのだろうか。どちらにしても、乃木園子がこの世界に来てからずっとあった迷いは、彼女の言葉によって、もう、なくなっていた。

 

 

 

 

 

「うたのんを迎えに行かなくちゃ」

 

 しばらくして落ち着きを取り戻した藤原水都はそういって立ち上がった。

 

「藤森さん。あなたが言えば、白鳥さんは諏訪から撤退して確実に生き残れると思うわ」

「そうかもしれない。でも、私もこの諏訪の大地が大好きだから」

 

 東郷美森はどういう返答が来るのか分かっていながらその言葉を口にした。そして、思った通りの言葉を

 

「今でも私は巫女としてはダメダメだと、失格なんじゃないかなと思っているんだ。でも」

 

「でも、だからこそ、うたのんが決めた事を最後まで信じてどこまでもついていって。ただいまと言ってね。きっとすぐに迎えに行く様にするんだ。それが私がうたのんに出来る事だから」

「それで充分よ」

 

「東郷さん。もっと止めてくると思ってた」

「止めたい気持ちはあるけどあなたの気持ちを踏みにじってまで止める理由がないもの。それに、今回はそのっちが先に動いちゃったから、どうするかはそのっちに任せる事にしたの」

「東郷さんも園子さんの事を信頼しているのですね」

「ええ。そのっちと銀と友奈ちゃんと、それに勇者部のみんな。みんな私にとってかけがえのないものだから」

 

「ええ。私にはもったいない。最高の友達」

「大丈夫です。私もうたのんも、園子さんと東郷さんの事を大切な友達だと思っていますから」

 

 それは、藤原水都の本心であろう。

 

「それに。この諏訪の大地は、うたのんが信じている守護神が帰ってくる場所だから」

「守護神?」

「うん。私は覚えていないんだけどね。10年くらい前に諏訪にはいたらしいんだよ。兜甲児博士のマジンガーZとは別に地球を守る守護神が」

 

 藤森水都の姿を見ているだけで、その守護神に憧れている白鳥歌野を東郷美森は幻視した。

 

「東郷さんにいる? 憧れのヒーロー」

 

 そう言われて思い浮かぶのは常にただ一人。彼女の事を思い浮かべた時、彼女の大切な言葉を思い出した。

 

『世界の理なんてさ、どんなに御利口に取りつくっても、そんなもの。簡単にぶっ飛ばせるんだよ』

(そうだったわね。銀)

 

 その言葉を思い出した以上、東郷美森も覚悟が出来た。運命に、世界の理に挑む覚悟が。

 

「ええ、忘れられない。もう二度と忘れてはいけない。私にとってそういう意味での憧れの存在は彼女だけでしょうね」

「うたのんにとってのヒーローがその人なら、私にとってのヒーローはうたのんだから」

「それを言われたら、私には止められないわね。藤森さんは絶対に白鳥さん見失わないようにね」

「東郷さん。いろいろと、ありがとうございました」

 

 そういって、藤森水都は白鳥歌野のところへ向かうために部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

「わっしー」

「そのっち」

 

 藤森水都が出て行ってしばらくして、乃木園子は東郷美森の元に戻ってきていた。

 

「私。覚悟を決めたよ。ここで手を貸したら、あの未来にならないと思うけど。ここで手を貸さなかった私達はミノさんの時みたいに絶対に後悔する」

「そうね。そのっちならそういうと思ったわ。それに銀もこういうでしょうね。『運命何てぶっ飛ばしてやる!』って」

 

 乃木園子はたとえ悩むことがあっても、友達を決して見捨てる事が出来ない。東郷美森もそれで何度も助けられたことを思い返しながら言った。

 

「絶対にいう! ……私に何かあったらふーみん達にはちゃんと言っといて」

「私も、何かあるかもしれないけど、その時はそのっちの分も叱られてあげるわ」

「わっしーありがとね。……いこう。それが私達の命を燃やすことになったとしても」

 

 2人が戦う覚悟を決めたその時だった。

 

「それならば、あなた達に渡したいものがあります」

 

 そう言いながら入って来たのは牧葉ひかるさんだった。それと同時に空に一筋の星が輝いたような気がした。




サブタイトルは白鳥歌野の誕生花。
諏訪組のメインイベントである総攻撃。
諏訪組に飛ばされるメンバーは園子&東郷なのは最初から決まってました。
歌野に「またね」と言わせて、園子達に歴史介入させるまでは一緒でした。
最初は園子と東郷2人で歌野を止めに行くパターンでしたが自ら足を運んで止めに行くっていうのは
その時点で覚悟決めているよなって感じで今回みたいな偶然を装った形式になりました。
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