転がるふたりぼっち 作:240128 虚無って書けません!
準備はいいか?
そう心に問いかける。少しだけ眉間に皺を寄せてから、緊張でカラカラになった喉に気づくこともなく、ただギターストラップごしに肩にのしかかるギターの重みを、いつもより身体の深くで感じた。
ステージは煌々と輝いていた。思っていた以上の集客数に若干めまいを感じつつ、今演奏しているグループが終わってしまえばいよいよ結束バンドの番だという事実もさらに気を遠くさせる。
後藤ひとりはきょろきょろと辺りを見回した。
「ぼっちちゃん、どうしたの?」
「あ、いえ……。……完熟マンゴー」
ぼそっと呟いた後藤の言葉に、言わんとすることを察したのか少しだけ呆れたような顔をする虹夏だった。いつもよりも悲哀を帯びたその背中は、逆説的にいつもと変わり映えない平常運転の後藤だとも言えた。
ステージでは光を浴びながら、とても楽しそうにギターを弾く少年たちがあった。言うまでもなく、スターリーでの対バン相手よりも技量は未熟だ。郁代の方が数段は上だ。やはり弾きながら歌うというのは難しいことのようで、ボーカルはボーカルオンリーで、それとギターとドラムの3ピースで構成されている。
スターリーよりも大きく、音響も考えられていない箱の中で、冷静に耳を傾ければ音もスカスカなのに、それでも体育館が盛り上がっている理由は彼らの笑顔を見れば十分に理解できる。
一寸先の光の当たる場所は、スターリーとはまるで環境が違う。そう自覚すると、後藤ひとりは緊張の糸を少しずつ張り詰めていく。
「ん?このバンド、やけにドラムの音がうるさいな」
後藤の心臓は飛び跳ねるようだった。
13:30からを予定していた結束バンドの枠は、2つ前の12:30からの枠を任されていたアルミ缶ミカンというグループの開始に少し時間がかかったこともあって、押していた。現在は13:30。本来ならばこのタイミングで既に舞台に出ている。現在舞台に出ているchaos edenは既に2曲を消化しており、3曲目もラスサビに突入していた。準備を少し巻くとして、この分だと結束バンドの開始は13:45ごろになるだろうか。
「もうすぐですね!」
と少し緊張滲む声色で郁代が言うのを、あっ喜多ちゃんみたいな陽キャもこういう舞台で緊張するんだ!と新発見をした気分になった。
スターリーでの初ライブのときの郁代の姿を覚えていないのだろうか。
とは言え、キャパシティでは勝る体育館だとしても、ライブハウスのような通たちの押し寄せる場所ではないというのは、楽観の要因にもなっていた。虹夏、リョウ、郁代について言うならば、多少の緊張は見られるものの、どこか楽に構えている気配がするのは、舞台上から今まさに降りようとしているchaos edenのメンバーたちのおかげだとも言える。
ついに空っぽになった舞台を袖から見つめる4人。幕が降りて準備の時間に入る。
アンプ、マイク、エフェクター、音のバランス、立ち位置調整、エトセトラを終えて、ついに結束バンドの登場となった。
幕がもったいぶるようにゆっくりと上がる。
光が溢れた。