転がるふたりぼっち 作:240128 虚無って書けません!
「ありがとうございました!1曲目、「忘れてやらない」でした!それじゃあ次の曲の前に結束バンドのリーダー、ドラムの伊地知虹夏先輩です!」
「皆さん初めましてー!盛り上がってますかー!?」
わーーーーーっ!!と沸き上がるフロア。
こんなに盛り上がったことは今まで一回もなかったぞ、と虹夏は少し得意げな気持ちがして、手の甲でむずむずする鼻の先を何回か撫でた。
「うちのベースの山田リョウいわく結束バンドはMCがつまらないそうでして。どの口がー!って思うんですけど面白いトークできるようになるまでライブ告知だけにしときますねー」
虹夏に少しいじられた山田だったが、飄々とした態度を崩さず携えたベースを触りながら観客に向けて会釈するに留めた。これが妙にサマになっているというかなんというか、山田リョウの雰囲気クールな印象をいい意味で助長する結果になった。
会場のどこからか、リョウさ〜〜〜〜ん!と黄色い声が鳴り響いた。
よく何も考えていないと辛辣な意見を虹夏から食らうことも多いリョウだが、幼少期の過保護な家庭環境の反動からカッコつけたがりなところがあった。
歓声を受けて満足げな表情をするリョウ。その表情のわずかな変化に気づけるのは虹夏くらいだろう。
「って……まだ次のライブの予定はないんですけど。もし気になるーって人が居たらボーカルの喜多ちゃん……」
「「「喜多ちゃ〜〜ん!!」」」
リョウに負けず劣らずの歓声が響いた。秀華高校における喜多郁代はもはやブランドの域に達している。そして、
「ギターのぼ……後藤ひとりちゃんに今度声かけてください!」
「ひとりちゃーん!!」
歓声は家族のみ。
くぅ、やっぱりこうなった〜〜!!と静かに涙した後藤だった。
「それじゃ次の曲行こっか」
「はい!それでは聴いてください!2曲目で「星座になれたら」!」
そして始まる2曲名。
自分のときだけ会場の反応が悪いということも後藤にとって尾を引く出来事だったのは間違いないけれど、喫緊の問題として
(やっぱりおかしい。昨日までなんともなかったのに。1・2弦のチューニングが異常に合わない……)
背筋を伝うものがあった。最前列で聴く廣井きくりも、星歌に寄りかかりながら、もはや酔いも覚めたと言わんばかりの真面目な顔つきでひとりを見つめていた。
「いいな 君は みんなから愛されて
いいや ぼくは ずっと1人きりさ」
その瞬間1弦が切れた。
(まずい。せめて2弦のチューニングだけでも……)
座り込んだ後藤が、2弦のペグに触れる。
「きみと 集まって 星座になれたら
星降る夜 一瞬の 願い事
きらめいて ゆらめいて 震えてるシグナル」
(そんな……。ペグが故障してる……?!これじゃもうソロは……)
その絶望に満ち恐慌状態一歩手前の不安定な後藤の姿を目の前で見るきくりは、痛いほど状況の悲惨さを理解できた。何かしてあげられないかと思いつつ、しかし何もできない。歯痒かった。唇を噛み締める。
「つないだ線 ほどかないで
ぼくがどんなに 眩しくても」
舞台の照明が、膝をついたままの後藤を背中から照らし出し、後藤の視界は影でいっぱいになって真っ暗になっていた。ソロがやってきて、しかし何もできないままその姿勢で震えていた。
ベースとドラムだけの8小節が流れた。
無力だった。
(せっかくリョウさんからもらったソロだったのに……)
「はるか彼方 ぼくらは出会ってしまった」
本来のソロパート部分が終わり、座り込む後藤は懸命に立ち上がり合流したもののもはやその演奏は精細さを欠いていた。息が荒くなって、別世界みたいに目が霞んで、手もうまく動かなくなった。
もう今となってはどこを演奏しているのか頭の中がぐちゃぐちゃになってわからなくなっていた、
「つないだ線 ほどかないよ
君がどんなに ………
ようやく頭の中にぱっと入ってきた郁代の歌声に目を見開いた。自分で書いた歌詞のくせに、その歌詞の眩しさが耐え切れなくて、最後のフレーズが残っているにも関わらず、後藤は舞台から逃げ出した。
分相応という言葉が頭を過って、それを振り払うようにどこまでも走った。