転がるふたりぼっち   作:240128 虚無って書けません!

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後藤ひとりは走っていた。コンクリート蓋のされた側溝の上をガタガタ音立てながら、脇目も振らず逃げるようにして。その背中にはギターケースも背負うことなかった。身軽な背格好で駆けるその姿は、自由というよりも背負っていたもの全てを取りこぼしてしまった結果のようにも思えた。

顔は涙でしとどになって、外気と触れ合うことで涙が塗り固められているようなった。

走って走って走って、それでも身体はルーティンを繰り返すから、無意識のうちに普段通りに電車の改札を潜り抜けて、ちょうどホームに停車した電車になだれるように乗り込んだ。

 

電車に、人はまばらだった。座席に座り込むと、耐えきれず俯き、嗚咽した。扉は閉め切られ、電車はゆっくりと旅立っていった。

 

車内に流れる空気はひとりを拒絶しているのか、どれだけ呼吸をしても一向に足りることなくて、過呼吸になった。すると地下トンネルを抜けて地上に電車は出た。演色性の高い光が涙に乱反射して目を覆い尽くした。

 

(もう、どうすればいいのか全然わからない……!)

 

少しは成長できたのかなって思っていた。初めて虹夏ちゃんに連れられてスターリーに来たあの日、人と合わせるのが初めてだったせいで全然上手く弾けなかった。それから店長さんとPAさんを前にオーディション、初ライブ。オーディションでは、店長さんにはいろんなことを指摘されちゃったけど合格と言ってもらえたっけ。初ライブでは緊張の余り最初は上手く弾くことができなかったけど、途中からは力を合わせてなんとか持ち直すことができたよ。

振り返ってみると、確かに良かったとは言い難い。けれど、どの経験も、終えた後にほっとして「ああ、よかった……」って思わず口に出してしまうような、そんなよかったがあったと思う。それを成長だと自負していた。でも錯覚だったのかな?

 

夢見がちな後藤ひとりを現実に返そうとでも言うのか、電車は何度もひとりの身体を揺らした。ガタンゴトンと鳴るたびに徐々に心が冷えていくような気がした。それに伴って、少し過呼吸も収まってきたけれど、ひとりの中の重要な何かを別のもので入れ替えたおかげのようにも感じられる。

 

南武線に乗り換えて、東横線に乗り換えて、京急線に乗り換えた。

 

小・中学校では学校に馴染めず、逃げ出すように横浜の高校に進むと言う選択から乗り換えて、東京の高校への進学を選んだ。いま、文化祭ライブで失敗した。もうこんな場所にはいられないと心底思ってしまう。どこかにまた乗り換えてって言っても、もう自分自身にはそうそう乗り換え先が残されていないことに気づいてしまう。

 

ギターヒーローのアカウントがある。こんなに自分のギターの実力を認めてくれる人がいる。それでいいじゃないか。そう納得させようとして、心がズキリと痛んだ。

 

いつの間にか金沢八景に着いていた。

 

「帰ろう……」

 

家へ向けて歩こうとして、でも舞台で家族の想いに応えられなかったなと思うと途端に足が動かなくなる。どこかに座り込もうかと考え始めたところで、普段なら思いつかない発想を抱いて、シーサイドラインに乗り換えた。八景島で降りて、水族館に入った。カップルの溜まり場であるところの水族館に入館しようなんて本来考えつくはずもないことだけれど、それほど余裕がなかった。つまり、緊張の糸が切れていた。

もうひとりの自分がつくっていた年パスを使って水族館に入る。ジンベエザメを眺めながら、呑み込まれてしまいたいと願った。呑み込んでくれと言ったって相手は分厚いアクリル板の先の存在。叶うべくもないけれど、精神的に限界を迎えていた後藤ひとりのその希望は、幸運か不運か叶えられた。

 

「あーあ、こうなっちゃうんだから。だから文化祭には出るべきじゃないと思ったんだけどな……」




今後説明を挟む予定はないのでここで説明しますと、喜多ちゃんじゃなくてぼっちちゃんが自分で文化祭申し込んだので、喜多ちゃんの責任感が高まらず、リョウと自主練しなかったのが原作との差異になります。

※だからといって喜多ちゃんのせいではないです
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