転がるふたりぼっち   作:240128 虚無って書けません!

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崩壊
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「お前らはぼっちちゃん追いかけろ」

「こっちは適当にやっておくから!」

 

星歌と、いつになく真剣な表情のきくりの言葉を背中に受け、それからファン1号・2号らの

 

「ひとりちゃんのこと、よろしくね!!」

 

という言葉に、尻に火をつけられ。

 

後藤家の車の後部座席に、山田、虹夏、郁代の順番で、ぎゅうぎゅうに押し潰されそうなくらいつめて座った。

 

「後藤さんは、なにも悪くないのに……」

 

と郁代が呟き、この車の中にいるすべての人たちが頷いて、それを合図に学校駐車場を車が出発した。誰も喋らなかった。

 

普段からひとりの情緒不安定さは知るところで、それに伴った人外じみた挙動も周知の事実だった。だから今回も、いつも通りの奇行だろうと納得してしまってもいいはずだけれど、この場所にいる人間の誰もが冗談では済まないかもしれないという確信を抱いていた。

 

30分くらいしてようやく、父・直樹が

 

「ちょっと窓開けるね」

 

と了解をとった。第三京浜の風が車内を通り抜けた。リョウは、もう10月か……と内心独りごちた。

 

(5月の初めに確か虹夏がぼっちをスターリーに連れてきたんだったっけ。5ヶ月か……)

 

開け放たれた窓から見える景色のほとんどがコンクリートのグレーに染められていて大して変わり映えのしないものだった。

中学からやってたバンドが高1で解散になったときにもこんな感慨を抱いたなと、山田は頬杖つきながらため息をついた。

 

 

 

中学に軽音学部なんてなかった。音楽系であったのは吹奏楽とか合唱くらい。

 

じゃあ、部活つくるか。

 

と思って中1の5月に職員室に行ったのが始まりだった。

 

「「お願いします!!軽音学部つくりたいんです!」」

 

と、重なる2人の声がした。ん?なんだ?と思って職員室のドアを無遠慮に開けた。

 

「って言ってもね〜。まず最低人数は3人なんだよね。それから顧問はどうするの?この前紙は渡したんだからさ、ちゃんと必要事項全部書いてから出直してきてよ」

 

と教員に一蹴されているところだった。

 

(へー。そっか、先に人集めないとダメなんだ)

 

なんて他人事のように考えた山田だった。というのもつくれば勝手に何人かは集まるだろうと皮算用していたからだ。

軽音学部をつくろうってときに、先に軽音学部をつくりたいと教師と掛け合っている姿に出くわしてしまって運命を感じないわけではないが、そんな単純な理由でメンバーを決めるのはどうだろうと山田は考える。

 

それはさておき、関係のある話をしているからということで、耳を立てておく。

 

「いや、一応昇降口で入ってくれる人よびかけたりしたんですけど……」

 

「それは知ってるよ。でも集まらなかったんでしょ?」

 

「学外から募るっていうのはダメですか??」

 

「うちの校則としては、部活は学内でって決まってるんだよ。校則変えたかったら来季の生徒会に立候補してくれれば、学校側との交渉がしやすくなると思うけど。それと学外からって言ってもねぇ。その子の学校側の校則だってあるでしょ?」

 

「う、うぅ」

 

話を聞く限り、こういう問題でよくある先生側の頭が硬いからというような理由ではなさそうだ。至極正論を突きつけていると思った。

 

(ここで私が名乗りを上げてもいいんだけど……)

 

そんな簡単にバンドメンバーを決める気もない。それこそ部活じゃなくても学外バンドを組めばいい。そう踵を返そうとしたとき

 

「みんなの前で演奏させてください!それで誰か入ってくれるはずです!!」

 

と聴こえた。つい口をついて出てしまったというような発言だった。

 

「おい、2人でか?」

 

という先生の呆れた声を最後に、山田は職員室を去った。ツーピースのバンドが存在しないわけではないけれど、中学生2人である程度の水準を保たせて演奏なんてできるだろうか?それにそういうバンドも大抵サポートギター入れてるし。

 

(虚勢だろうけど……変な人たち。おもしろそう)

 

結局、その数日後の全校集会の校長挨拶の枠をぶん取った彼女たち下手くそ演奏を聴いて、山田はこのバンドに加入したわけだけれどそれは別のお話。

 

何にせよそれからおよそ3年間、いい時間を過ごしたなと思う。

末期の目も当てられない惨状を山田は思い返しつつ、でも人生で一番輝いていた瞬間を挙げるならきっと、そうだろうなと思う。

 

なぜあんなふうになってしまったのか。

 

そして中3の秋頃からどことなく険悪な空気が流れていたころに、以前から実家がライブハウスだっていう繋がりで仲良くなっていた虹夏との関係が清涼剤みたいに働いて、虹夏につられて現実逃避気味に下高を選んだ。それでメンバーとは別々の高校に。

進路なんて誰かに頼まれて決めるものではないけれど、バンドの進退という意味でそれは良くない選択だったんだろう。

 

「ただ楽しんでバンドをやりたい!」だったものに、変な恋愛模様が影を落としたり、変に修羅場ったり、表面上の和解をしたり、売れたいっていう気持ちが変な方向に行って個性が失われたり。それを解消するべく行うべきだったコミュニケーションが不全となってしまったり。

 

山田には、あのときの最善はわからないまま。

 

 

 

 

ーー今回の最善も、やっぱりわからないけれど。

 

 

「ぼっち!」「ぼっちちゃん!」「後藤さん!」

 

後藤を除く結束バンド3人が、横浜の後藤家まで駆けつけた。

 

 

(突き動かされるみたいに横浜まで来たことで、少なくとも後悔なんてしない)

 

そう思う。

 

(ぼっちは悪くないと言ってやろう。運は悪かったかもしれないけど。次のライブもよろしくって言えば元通りだ)

 

 

 

 

 

「あ、ひとりちゃん、電車で乗り換えとかで2時間くらいかけて来てるから、そういえば車よりも着くの遅いの……」

 

「「「あ……」」」




新章です

山田と虹夏っていつからの関係なんだっけ?!
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