転がるふたりぼっち 作:240128 虚無って書けません!
「ぼっちちゃんいつ頃帰ってくるんでしょう?」
「うーん、ひとりちゃんがすぐに電車に乗って乗り換えも澱みなくして帰って来れたんだとすれば……あと30分くらいで着くんだと思うけど」
カチカチと秒針が一定のリズムを打っていた。後藤家に集う結束バンドの3人は沈痛な気持ちでその音を耳にしていた。
「あっ、そうだ位置情報とかってわからないんですか?そういうアプリとかありますよね」
郁代の家庭は過保護なので、喜多母のスマホと位置情報を共有していた。後藤ひとりの長距離通学、また下北沢でのバイトのこともあって帰るのが遅くなるということも考えれば、
(うちでも心配して位置情報を共有しようって話になるくらいなら、後藤さんのお家もその方針をとっていておかしくないわよね?)
と考えるのも無理はない。
「うーん、そうしたかったんだけど、色々あってねえ。」
「色々っていうと?」
「まぁ……うん、色々あったの」
いったい何があったというのかはわからない。心配性のぼっちちゃんだし、家族に見守ってもらえるっていうのを肯定的に考えそうもんだけどなあ、なんて虹夏は思いめぐらせたけれど、色々っていうくらいだから口にできもしないくらいに良くないことなんだろう。
後藤母が迷ったように視線を揺らした。意を決して口を開いた。
「えっと……。正直ね、ひとりちゃんがアルバイト始めるときは反対だったの。通学に2時間もかけてる子が夜アルバイトやって、練習して、帰ってくると23時ごろっていうのって、場所も下北沢じゃない?親としては心配になるの。それから帰って色々学校の課題をやって、次の日朝早くから電車に乗って……っていうと身体も疲れちゃうと思うし」
「はい……」
重苦しい空気が流れた。
「時折話を聞く感じ、結束バンドのみんながいい子たちってことはわかるの。それでも私は反対だった」
「その……。じゃあ、どうして、バイトの許可を出してくれたんですか?」
「ずっとバンドを組みたいなって言ってただけの子が、バンドを始めて、なにか始めようとしてたのを見たら、止められないじゃない?やっぱり、すっごく心配だけどね……?」
「家のときお姉ちゃん、明るく……はなってないかもだけど、ほんのちょっとだけ変わったの!私、今のお姉ちゃんの方が好き!」
最近はずっとお姉ちゃんだし。と付け足すふたりに、親子2人は苦しげに笑った。
「何が言いたいのかっていうとね。ありがとうございます、みなさん」
「きっと結束バンドのみんなが連れ出してくれなかったら、ひとりは……どうなってたかな。一応何とななっちゃえそうな下地はひとり自身の力でつくりだせてたんだけど、本当にひとりが望んでたものじゃないんだと思う」
そんな後藤父の話に、3人の中で虹夏だけが、ギターヒーローのことかと合点していた。
「これからもひとりのことをよろしくお願いします」
後藤父が正座をしながら3人に向かって礼をした。
そんな、これからも娘のことをよろしく、だなんて。
「言われるまでもないことです」
「そうですよ!だって後藤さんは結束バンドの大事なメンバーのひとりなんですから!後藤さんがいなかったらきっと私、今ここにいないんですから!」
「ぼっちちゃんと、私とリョウと喜多ちゃんの4人で結束バンドなんで!!」
あれくらいの失敗でどうにかなっちゃうんだとすれば、初ライブなんて3人でもっともっと恥ずかしいことをしたじゃないか!と虹夏は思う。それにあんな失敗談は全国津々浦々のバンドで起こっている事態で、即興で上手く対処できる人間がいたとすればおかしい人だ。今回のを大失敗だと捉えたとしても、そう言うのを含めて4人で成長していけばいい。
「ようし、みんな。明日から練習がんばろー!!」
「おー!」「おー」
そんな3人の姿に、いい出会いができたのねと目尻に少しだけ雫が浮かんだ。
「そういえば、ぼっちちゃんって今どのあたりにいるんでしょう?」
「ううん。まだ20分はかかると思うけど……。もしよければなんだけど、少ししたら駅に迎えに行ってもらってもいい?」
「はい!」
そうして少しした後に、後藤母、ふたり、ジミヘンを置いて、父・直樹の運転で3人は金沢八景駅へと向かった。
「っていうか今日に限って道混んでるね……。今日何かイベントでもあるんだっけ?」
「あ、海の公園でシーカヤックレースがあるみたいなことが立て看板に書いてあります!」
「うーん、その帰りと時間が被っちゃったのかなあ……。まずいぞ、ひとりの帰りに間に合わない。ちょっと道変えるよ」
迂回路を使って、京急・金沢八景に着いた。想定よりも4分程度遅れて駅に着いた。
来年の3月31日にシーサイドラインが150メートル延伸されて京急線との乗り換えがスムーズになる。そのための工事が行われていた。仮設の部分とこれまで使ってきた部分とが混在しており急速に金沢八景という駅が別の何かへと変貌していくようだった。
車から降りた3人はこれまで使っていた上へ繋がる階段をのぼって、改札前まで辿り着いた。ダイヤを確認すると数分前に一本電車が通っていたようだった。何か嫌な予感がしつつ、信じるように次の電車を待った。
「ぼっちちゃん、来ないね」
「はい……」
「……」
40分ほど改札前で待ってみても、後藤の姿は確認できなかった。
「実はもう帰っちゃったとか?」
「だったらぼっちのお父さんが帰ったみたいって連絡もらってるでしょ」
「じゃあ、まだ帰ってない、ってですか?後藤さん、今どこにいるんでしょうか……」
何かよくないことでも起きたのだろうか?と3人が不安に思った。そんなときに電話がかかってきた。発信元は後藤だった。
「ぼっちちゃん?!」
「あ、今日はごめんね。もうひとりです。心配のロインがいくらか来てたんだけど。なんかごめんね」
「あっ、久しぶり!……で、そのぼっちちゃんって今元気なのかな?」
「んー。難しいかも。ひとりが少し不安定なときにぼくが出てきやすくなる……というか。あ、もちろんこれは傾向なんだけどね」
「そっか……。ぼっちちゃんにね、次のライブに向けてがんばろー!って伝えてもらってもいいかな?私たちもまたロインとかで送るつもりではあるんだけど……」
「あはは、ありがとね?こういうときはしばらくぼくに任せてもらおうかな」
「あ、今どこにいるの?」
「シーパラ」
「そういえば初めて会ったときに言ってたね」
「うん、暇なとき行ってみてね。ぼくが案内……っていうほどのことではないけど、案内するからさ。あ、せっかくだしぼくはもう少しシーパラにいるつもりなんだけど、もうこんな時間だし、心配かけてる立場で申し訳ないんだけどまた今度ってことでいいかな」
「あ、うん、わかった!ありがと……。それじゃあね!」
「はーい」
電話が切れた。
「ってことみたい」
「そうなんですね」
「ぼっち……」
一応後藤の無事を確認できた一同は、後藤家に戻った後に後藤父の運転で再び下北沢へ帰っていった。