転がるふたりぼっち   作:240128 虚無って書けません!

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スターリー。アルバイト後。

きれいに磨いたばかりの丸テーブルに顔を乗せて

 

「あー、疲れた〜」

 

虹夏はひとつ大きな息を吐いた。今日はリョウも休みで、アルバイトは郁代との2人っきり。郁代とも問題なく話すし。仲も悪くない。むしろ良い方だと思う。

しかし、重苦しい雰囲気に包まれていた。ここ1ヶ月続くこの倦怠感のようなものは一体なんだろう、なんて。答えは分かりきっているのに。

最初の1週間は、「大丈夫かな」「すぐに後藤さん、だいじょうぶになりますよ!」と軽く話し合っていたものだけど、今となっては触れてはいけないもののような気さえしていた。

 

「お疲れ様です」

 

郁代が丸テーブルの対面に腰掛けた。普段ならキターンと効果音でも聞こえそうなキラキラを携え笑う郁代にもどこか陰がさしているような気がするのは、きっと気のせいではないと思う。

 

虹夏にとって出会ったのもバンドに加入したのも郁代の方が早かったけれど、ひとりが連れてきたメンバーという印象が強かった。それは郁代にとってもそうであって、内心で後藤さんのおかげで今のこのバンドにおける立ち位置があると思っている。

「後藤ひとり」という根暗で自信がなくて、すぐに調子に乗ってしまう、なのにバンドがピンチのときにものすごい爆発力で牽引してくれる、頼れるような頼れないようなよくわからない存在の仲立ちによって生じた絆だからこそ、お互いがお互いの関係の中に濁ったものを見出してしまう。

 

((何とかしなきゃ))

 

2人ともがそう思って、どうすればいいか頭を抱えていた。

 

「お疲れさん。で、喜多。最近ぼっちちゃんはどうなの?」

 

びくっと丸テーブルの2人の身体が動いた。

 

「いや、なんで虹夏もそんな反応してんだよ。で、どうなの?だいじょうぶそう?」

 

リンゴジュースにさしたストローを口もとから離して、星歌は紙パックをカウンター台に置いた。

 

「んー。その。……すごく人気です」

「あー、もうひとりくんってやつか」

「はい。もちろん時折話すんですけど、常に人が張り付いてるような状態で二重人格がどうこうっていう話をするのもちょっと難しいっていうのか……。一応ロインで状況は定期的には教えてもらってるんですけど、快方には向かってないらしいです」

 

星歌はカウンターで頬杖つきながら、唇を噛んだ。

 

「それで?」

「現状基本人格が入れ替わった状態みたいで。診察とかも受けてはいるみたいなんですけど……後藤さん出てこないみたいなので、もうひとりさんの方が対応する形でカウンセリングとか受けてるみたいです」

「変わらず……か」

「あ、一応お姉ちゃんにもロインの内容伝えてるんだよね」

「そういえば最初の頃に許可とってましたね」

「うん」

 

少し星歌が険しい表情を浮かべ、重々しく口を開いた。

 

「あのさ」

 

空気が変わった。それを虹夏も郁代もなんとなく理解して押し黙った。

 

「なんていうのかな。考えて行動してるか、お前ら」

「どういうこと?」

 

少しだけムッとした表情で星歌に聞き返した。

 

「ぼっちちゃんはぼっちちゃんで頑張ってる。それはわかってるし、戻ってくれるのを待つ。それもいいと思う。でもなあ、いつまで停滞してるつもりなんだよ。もう1ヶ月だぞ。お前らまともなバンド活動やってるか?スタジオで練習するのはやってるけど、漫然とやってるようにしか見えないんだよな」

「わかってるよ!」

「例えば1年くらいした後に、ぼっちちゃんのことを1年待ちました!っつってその1年って時間の重さを称号にしたいくらいなら、さっさとバンドやめた方がいいぞ」

「じゃあ、どうすればいいんですか!」

 

声を荒げたのは郁代だった。黙ったままの虹夏をよそに、郁代はヒートアップしていく。

 

「後藤さんのおかげで私はこの場所に戻ってこれたんです。だから、私は後藤さんのこと待ちたいです。次にステージに上がるなら4人がいいんです。ステージは特別なものだから。だから、みんなで一緒に……!」

「喜多」

 

目を瞑ったまま郁代の話を聞いていた星歌が口を開いた。

 

「バンド、なんでやってるんだ?」

「え?」

「虹夏、なんか喋ってみろ。今までの話聞いてどう思った」

「……」

 

意を決したように虹夏は口を開いた。

 

「私は、3人でも活動するべきだと思う」

「え、なんで。どうしてですか、先輩」

「目標のために、バンドをやってる、から。もちろん、ぼっちちゃんと一緒にできたらいいなとは、本気で思ってる。でも、バンドで成功したいって気持ち、ずっと抱いてきたから。だからこそ結束バンドを結成したの。私は」

「後藤さんを、裏切るんですか?」

「……私は!」

 

バンとテーブルを叩いて、勢いよく虹夏は立ち上がった。さっきまで言葉を選びながら喋っていた虹夏の中で、喋りながらようやく思いが定まった。

 

「バンドで成功したい!ううん、したかった!今は違う。結束バンドで成功したい!でも、このままだと腐って終わり。絶対にそうなる。だから、この場所を守らないといけないの」

 

目を見開く郁代。

 

「ぼっちちゃんがこの前みたいなことになっても安心して私たちに任せてもらえるような、そういう大きなバンドになって迎えに行く。うん、私、やるべきことわかったよ。もっとうまくなる。そのためにもっと場数を踏まなきゃダメだ」

「喜多。私もやってたけどさ。メンバーの1人が出てこれなくなっちゃって、戻ってこれたら復活するって息巻いて結局戻ってこれないまま途絶したバンドなんてたくさんみた。まぁ私たちのバンドも畳んじゃったわけだけど。だから、動けよ。ぼっちちゃんがトラぶっても、喜多が支えられるくらいの腕前になれば、ぼっちちゃん安心できるだろ」

 

郁代は俯いてどんな表情をしているのか読み取れない。虹夏は勢いよく立ち上がった拍子にたおれてしまった椅子を立ち上がらせ座り直し、星歌は空になった紙パックを手の中で弄びながら、反応を待った。

 

「……少し、考えさせてください。それじゃあ、今日はお疲れさまでした」

 

頭を下げて、階段を登っていく。

 

完全に郁代に気配が消えてしまった後、

 

「お姉ちゃん」

「ん」

「……ありがと」

「おう」

「喜多ちゃん、大丈夫かな」

「大丈夫だろ」

 

「出てくとき、覚悟決めたような表情してたし」

 

「辞める覚悟だったらどうするの?」

「それは考えてなかったわ」

「私、もう上あがるから、店じまい終わったらご飯ね」

「うい」

 

 

 

 

音響も照明も帰ってしまって1人きりになった空間で、

 

「ぼっちちゃん、大丈夫かな」

 

星歌は独りごちた。

 

 

 

 

次の日。

 

「先輩!これに出ましょう」

 

郁代が見せたのは「未確認ライオット」と書かれたチラシだった。虹夏と山田は顔をしばしの間見合わせて、それから頷いて郁代に向き直った。

 

「「やることが極端すぎる」」

「え、ダメでしたか?」

「いや、喜多ちゃんらしいとは思うんだよ」

「ライブぶっちしたりね」

「そ、それはほんとうにごめんなさい!」

「まあでも、目標設定にはいいと思う。とりあえず新曲つくらないと。歌詞はどうする?ぼっちに書いてもらう?」

「んなアホなこと言ってないで!……喜多ちゃん。歌詞書ける?」

「書きます!やらせてください」

「よし、じゃあ、練習練習バイトライブの毎日だね!喜多ちゃん、引き続き学校でのぼっちちゃんも気にかけててね」

「当たり前です!」

 

「よし、それじゃあ未確認ライオットグランプリ目指して頑張ろう!」

 

 

結束バンドに火が灯った。

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