転がるふたりぼっち   作:240128 虚無って書けません!

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『あっ、久しぶり〜。ひとり?あ、うーん。まだまだあんまりよくない感じかなって思うんだけど……。うん。あはは、任せてもらってるのにごめんね。一応リハビリとしてはギターヒーローの方で自信つけてからって感じになるのかなって思ってる。ん?……あぁ。まだギターは持ててないっぽいんだよね。ギターヒーロー死んだか?みたいなコメントも増えてるからさ。早く更新できるといいなーとは、我が身の話しながら他人事みたく思ってるんだけどね。うん。うん。ありがとう。ひとりにも伝えておくからね。はーい。はーい。それじゃあ、またね』

 

「あー、どうしたもんかなあ」

 

頬杖つきながら、困ったようにピンクの長い髪の少女がため息ついた。

 

 

 

 

 

 

「先輩!今日も練習お願いします!」

「うむ」

 

ここ数日、郁代はリョウの手ほどきを受けてバイト終わりにギターの練習をしていた。ひとりが遠くから来ている都合、制限のあったひとりを加えた練習に比べて、今は時間管理を多少ルーズにすることができるようになった。納得できるまでやることもできるようになって、練習後の満足感も上がっている。

 

様々な教本を読み込み独学でギターの修練を積んだ後藤ひとりのギター指導は、彼女のコミュニケーション能力の乏しさを加味しても、様々な引き出しがあった。これまでも的確に郁代のパワーレベリングを手助けしてきた。

それを引き継いで、リョウの音楽に対して持つオールマイティな能力を基にした新たな指導はさらに郁代を上達へと導いた。

ただこういった様々な要因も絡み合っているものの、一番は「後藤さんを支えられるようになりたい」という郁代の強い意志だった。

 

「郁代、今のいい感じ。もう一回やってみて」

「はい、先輩」

 

瞳にはどこまでも真摯な熱が灯っていた。

 

「喜多ちゃーん?」

「……」

「あ」

 

リョウが口に人差し指を当てて、虹夏に静かにするように求める。そして郁代は難しいフレーズをなんとか弾き切った。

安堵のこもった重たい空気を肺から押し出しながら、郁代は顔を持ち上げた。

 

「よかったよ」

「喜多ちゃん、上手くなったな〜」

「……ふぅ。ありがとうございます。でも、まだまだ頑張らないとですね」

 

そう言ってまたギターを弾き始めようとする。

 

「喜多ちゃん、喜多ちゃん。もう遅いから、早く家に帰った方がいいって」

 

スマホのロック画面には、21:43と表示されていた。

 

「えっ、あ、もうこんな時間!……ううん、でももう少し」

「明日平日だよ?学校あるんだしお父さんもおかあさんも心配するよ?だから帰ろう?」

「……そう、ですね。はい、帰ります」

 

残念そうに伏し目がちに、郁代は背中にギターケースを背負った。

 

「今日もありがとうございました」

 

そう言って去っていく郁代は、遠くから響く車のクラクションの音、信号機の緑色のライト、街灯の演色性の高い白光。それらをかき混ぜたような暗闇の中を急かされるように走った。幸いにもアスファルトは足をよく押し返してくれる。

 

「後藤さんがいなくても、未確認ライオットの最終選考、とまでは行かなくても、実力を示せるだけの結果はつかみたいな」

 

そんな気持ちで、この前ライオットのフライヤーを先輩2人に見せた。

実力はどうだろうか?新曲を完璧に弾けるように、いまだになっていない。広報のための活動も、MVづくりも、後藤さんがいない分いっぱいいっぱいがんばらないとなのに、全然うまくいってる気がしない!!

郁代には焦りが生まれていた。先輩2人はまだしも、やっぱり自分が足を引っ張ってるのでは?もっと私が上手ければ、ここ最近のごたごたすべてキャンセルできたんじゃないの?

 

郁代の長所が「明るいところ」だとするならば、それは徐々に翳りをみせていた。家に着いた郁代はいつものルーティンを終えてベッドの縁に腰を下ろして、オーチューブでギターの練習の参考になる動画を探していた。後藤や山田に手取り足取り教えてもらう方が効率もわかりやすさも段違いなのだが、一分一秒が惜しかった。たとえ今の自分には役に立たなさそうな内容だとしてもどこかで役に立つかもしれない。

 

色々調べる中でおすすめ動画に「ギターヒーロー」というアカウントのライブ配信動画が挙げられた。現在放送中。視聴者数3000人となかなか盛況なようだった。どうにも弾き語り配信のようだった。気になって開いてみると、画面には殺風景な部屋だけが映し出されていて音声もなにもない。

 

「ん?どういう配信なの?」

 

まさかこんな無の配信に3000人も集うということがあるんだろうか?動画のタイトルも【リハビリ配信】とモノトーンなものになっていて、不気味さを感じる。

 

「sick hackのライブみたいな、コアなファンが集まってるのかしら?」

 

廣井に呼んでもらったあのライブで、人目も憚らず宇宙ネコのような表情を晒してしまったことをよく覚えている。次に行ったときは、サイケデリック・ロックっていうやつの良さもわかるようになってるんだろうか?

あのときはリョウ先輩はすごい早さで解説してくれて、伊地知先輩も後藤さんもライブ終了後どこか熱に浮かされたような表情をしていたのを覚えている。

 

「またみんなで、行きたいな」

 

少しだけ目頭が熱く、鼻の奥がつんとした。そんな日が本当に来てくれるんだろうか?最近はそれさえも不安で、けれどとても口にはできないことだった。心の中で思いたくもないことで、だからこそギターの練習を精一杯やるし、未確認ライオットという明確な目標を定めた。

それでも、どれだけ頑張れども、左を向けば少し猫背でギターをかき鳴らしていた少女の姿はない。空席。まさに今見ている配信のようで……なんて考えているところで、ちょうど配信主と思われる少女が画面右横から入ってきた。

 

『休憩おわりっ、ちょっと水飲ませてね』

 

ペットボトルのふたを片手で器用に開けながらごくごくと水を飲んだ。鎖骨あたりから下が画面には映し出されている。

 

『……ふぅ。じゃあ、引き続き。弾き語りで、なにかリクエストでもあれば』

 

そういいながら下に落ちていたヘッドホンを首からさげて、立てかけてあったギターを手に取った。

 

『あっ、みんなありがと~。アイドリス、キックダウン、サブティルト、うーん……。どれにしよう。ん、ワタシダケユウレイ?sick hackいいよね。っと、それはさておき』

 

郁代は(ん?)と思って、10秒巻き戻した。

 

『sick hackいいよね。』

 

「ん?」

 

今度は言葉に出して言った。なにか引っかかるなあと思って、ギターを見ると、これも見覚えがある。レスホールカスタム。到底こんな少女がお金を出して買うことができない程度には値の張るギター、らしい。以前先輩たちがそう言ってたのを聞いた気がする。後藤さんはお父さんから受け継いだと言っていたけど。

そう、画面に映っている少女くらいの子がレスホールを所有しているなんて、相当なお金持ちか、誰かから受け継いだとしか考えられない。そしてお金持ちという割には部屋が殺風景すぎる。というか、この部屋……。

 

「後藤さんの、部屋よね?」

 

ギターヒーロー。今この瞬間にもぐんぐん登録者数が伸びて、まさに10万人に登録せんという勢いのアカウント。チャンネル概要欄には「弾いてみた動画を上げています」と書かれている。

よく見覚えのある髪色が配信者が少し身体を傾けるのと同期して画面の中で微かに揺れる。思い出すのは、学校で初めて演奏をしている姿を見たときの、あの惹きつける音色。

 

なんで普段みんなで練習をするときは、そんなにでもないんだろう?あのときはすっごく上手だったのに。

後藤と同じバンドに所属する中で郁代はそんなことを考えてきたけれど、今になってその疑問も一瞬で氷解してしまった。

 

「そっか、後藤さんってやっぱり、すごい人だったんだ……」

 

多分、いま配信主として出ているのは正確な意味で"ギターヒーロー"ではないんだろうけど。

 

枕の横にスマホを横たえて、郁代自身も仰向けにベッドに寝転んだ。感嘆とも、喪失感に喘いでいるとも言える表情に少しだけ顔を顰めながら、郁代は

 

「すごい、すごいなあ」

 

と呟いて、始まっていた耳元から流れるもうひとりの「アイドリス」の弾き語りと、自分の心臓の鼓動が身体の中でのたうち回るのに目を閉じながら耐えていた。




まとめ
もう一方の人格のほうも「あんまりチャンネル登録者数減らすのもよくなかろう」という判断で、基本人格の方よりはギターの腕前に自信はないので、弾き語りの形式で配信を始めました
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