転がるふたりぼっち   作:240128 虚無って書けません!

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文化祭が行われる。それに伴ってステージ演目の募集が行われた。

もちろん硬派な後藤ひとりは出る気がなかったのだけれど、生徒会室前に一枚に紙を持って、提出ボックスの前に立ち尽くしている自分に気づいたときはさすがに驚いてしまった。

いったい誰がこんなものを書いて……って、後藤ひとりが書いてる?!

提出者名に驚いた後藤ひとりが朧げな記憶を辿ると、

 

「クラスの誰かがライブしたら私惚れちゃうな〜(はーと)」

 

というクラスの子の会話を聞いて以降のものがあまりにもやがかっている。

 

「まさか、そんな……!」

 

ちやほやされたいなんて考えるな後藤ひとり、お前は誰にも負けない硬派なロッカーだったじゃないか!集中すべきはバンド活動!!煩悩には旅に出てもらわないと!

 

自身のおそろしい事実に気づきかけてしまった後藤ひとりは耐えきれず頭を床にぶつけ出し、そのあまりの必死さに、意識を失って、呆気なくもうひとりの人格に体を明け渡したのだった。

 

「痛ててて、って、なんでこんなに頭が痛いの?フラフラする……。ん、なにこの紙?」

 

手の中に収められていたしわしわの紙を広げたもうひとりは、

 

「あー、そういうことか……」

 

と、一つ大きなため息を吐き、いまだずきずきする頭を押さえながら立ち上がった。

ちょうどそのときガラガラとドアの開く音がして生徒会室の扉が開いた。

 

「あの、物音が聞こえましたけど、だいじょうぶで、……って、血??!」

 

頭からだらだらと血を流していたことに言われて気づいた後藤ひとりは、確かに押さえた手のひらが赤く湿っていることを確認し、それからよろめくように生徒会の子の方に倒れ込んだ。

 

「わえあっ、っと!!」

 

なんとか後藤ひとりをキャッチした生徒会の女の子はしばらく慌てふためいた。「ごめんね、保健室まで運んでくれないかな?」と肩を回して、耳元で囁いて、その抗いきれないような声の色に生徒会長は「あ、はい……!!」とまるで頭が蕩けてしまって機能しなくなったような、それでいて心地よい感覚に全身を支配されて、歩き出した。

 

なぜ頭から出血していたのかとか、あの物音はなんだったのかとか、きっと気になることはたくさんあったはずなのに、まるで自分の外から入り込んできた異物に一時的に身体の支配権を明け渡してしまったように保健室まで体を前進させている生徒会長は、どこからやってきたのかわからない多幸感でいっぱいいっぱいだった。

 

「じゃあここまでありがとうね。もうだいじょうぶだから。忙しかったよね、生徒会長さん?」

 

「い、いえ。こちらこそありがとうございました」

 

「ふふ、変な人。助けてもらったのはこっちなのに。それじゃあね?」

 

「は、はい!」

 

ガラガラと閉まった引き戸、廊下に出た生徒会長の姿はすでにない。相変わらずズキズキ痛む頭は、引き寄せられるようにベッドの枕に落ちた。

 

「ふぅ……。いったい。なにやってんだか、あの子は」

 

それから、端が少しだけ赤黒く染まった用紙を睥睨するように。

 

「まったく、しょうがないな」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「後藤さん、怪我したって聞いたわよ!!」

 

再び開け放たれた引き戸から弾けるほどの明るい色を湛えた髪を振り乱した郁代が現れた。ベッドには包帯を頭に巻いたひとりがかすかに寝息を立てながら目を閉じていた。スリープ状態のパソコンみたいな無機質さで、もともとひとりの肌が白いこともあって、人間ではないような印象を受けた。寝息が聞こえなかったらきっと死んでいると感じただろう。不安になってひとりの顔をのぞき込んでも、解消されるわけでもない。近くにあったねずみ色の回転椅子を引っ張ってきて、ベッドの側で座った。

そこにひとりはすでにいないのではないか。生きてるのは確かなんだ、私はいったい何を考えてるんだろうか?というように吐き出したため息は、ここに来るのに急いだせいで荒くなった呼吸と混ぜ合わされていた。

 

「だいじょうぶなのかしら」

 

なにも乗せられていない真っ白な机に頬杖をついて、寝ているひとりをまじまじと見つめた。この前、もうひとりと会ったときにもわかっていたけれど、後藤ひとりは猫背だったり顔をちゃんと上げていれば文句ないくらいには美少女だ。

眠っているひとりからはいつものエキセントリックな挙動が削ぎ落とされて、あまりにも透明だった。触れてしまえばすぐに崩れてしまうような。存在感が稀薄というよりは、あまりに透き通っていて別の世界にいるような。

引き寄せられるように、郁代は立ち上がり、枕の上にのせられているひとりの顔に手を伸ばした。

 

喜多の熱を帯びた指先がひとりの頬に触れようとしたとき、

 

「ん、あ……。えっと、ここどこ?」

 

ひとりは目を覚ました。ぼうっと今は天井を見つめているひとりが郁代に気づくのは時間の問題だった。急いで手を引っ込めて、なんでもなかったように取り繕った郁代は、郁代に気づいたひとりに

 

「よかった!」

 

と言って、ベッドに飛びついた。

 

「き、喜多さん?」

 

「後藤さん、倒れたって聞いて保健室に来たんだけど、どうかしら?頭はもう痛くない?」

 

「えっと……。あ、はい、もうだいじょうぶです……」

 

「よかった!今日後藤さんバイトだったかしら?」

 

「ちょっと待ってください。確認します……」

 

ポケットの中に入っているスマホで予定を確認した。

 

「ありますね……」

 

「そう。後藤さん無理そうだったら代わりに出ましょうか?」

 

「え?でも喜多さんは用事とかあったんじゃ?」

 

「遊ぶ約束してた友達がね、えーっと、赤点取っちゃったみたいでね、それでなくなっちゃったの」

 

「そ、そうなんですか……」

 

そういえば後藤ひとりもなにかの科目で赤点を取っていた。今見たスケジュール表には今日補習なんて書いてなかったけど、入力し忘れてる可能性もある。少し怖くなってきた後藤ひとりだったが、なにも気づかなかったふりを自分にかけた。

 

「で、でもだいじょうぶですよ、もう!喜多さんはもともと休みだったんですし、代わってもらうまでもないです」

 

「そう?気をつけてね。……あ!そう言えば!」

 

「え、どうしたんですか?」

 

「掲示板に文化祭のステージ募集してたじゃない?結束バンドで出てみましょ!」

 

「え?」

 

「きっと楽しいわよ!後藤さん!」

 

「わ、わたし……」

 

「わくわくしてきたわ!ロインのグループでも聞いておくわね!練習頑張らなきゃ。じゃあ、後藤さん!またね!」

 

「私、出たくないです!」

 

ガラガラドシャン!と勢いよく扉が閉められて、廊下を鳴らす靴音がリズムよく響いていた。

 

引き留めようと伸ばした手は宙に浮かんだまま、しばらく下ろされることはなかった。




1巻の時間軸を2018年と思い込んでましたら、2017年でした。結構わかりやすく書いてある部分なのでよく読んでいれば普通に気づくはずなんですけどね。なぜそんな勘違いをしてしまったのか……。
2018年準拠で設定をくみ上げていたので、この勘違い結構痛くて、このまま未完で終わらせるべきか悩みに悩みましたが、一応今後も2018年として投稿を続けていこうと思います。本作内で今年が何年かっていう明確な描写は一切するつもりはないので気にはならないと思います。
しかし、実は読んでて矛盾を感じる箇所がこの二次創作の1話の時点で存在します。それに関しては読んでくださる人の中でうまく補完していただきたいです。
申し訳ありません。
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