転がるふたりぼっち 作:240128 虚無って書けません!
「あーあ……」
保健室に響く声。下唇を親指で何度もなぞりながら、据わった目で扉の先を見つめている。ゴミ箱に一瞬目をやったかと思うとまた一つ大きくため息をついた。
「ちっ、しょうがないか……」
立ち上がって、保健室を出ていく影。ピンク色の髪が揺れる。
「あ、そういえば後藤さん!さっき言い忘れてたことがあって、って、あれ?」
少しして、郁代が保健室に戻ってきた。ベッドの下やゴミ箱の中なども確認したけれど、人の気配はどこにもなかった。
「もうだいじょうぶになったのかしら、後藤さん?」
頭を捻りながら、また郁代は出ていった。廊下を歩きながら、
「そういえば、あれってなんだったのかしら」
と思った。
秀華高校では1週間に一回ゴミ出しをする習慣があった。もちろんゴミ箱の袋いっぱいになればその都度出しに行くのだけど、保健室のゴミ箱についてはそうそうはいっぱいにならないから、滅多なことがない限りは1週間に一回になっている。それを以前、保健室の掃除の係を割り当てられたことのあった郁代は知っていた。
今日がゴミ出しの日だ。そして掃除は少し前に終わったばかり。ゴミ出しを終えた痕跡はあるというのに、既にゴミが少し捨てられていることに少しだけ違和感を覚えた。
ビリビリに、人の手によって破かれたようなあの紙はなんだったのだろう?それも少し赤黒いものがあったし。そんなちょっとした疑問を郁代は、まあ、そんなこともあるわよねと1人合点して、クラスへと戻っていった。
校庭では木の葉がつむじ風に絡め取られている。季節は秋。風の柱に呑み込まれた哀れな葉は、踊り続けることを強制されていた。
「おはようございます」
「ん?ぼっちちゃんおはよう。……?頭の包帯どうしたの?」
「ちょっと怪我をしちゃいまして。でももうだいじょうぶです!」
「そ、そう?ほんとにだいじょうぶなの?」
「ええ!もう元気です」
両腕を曲げて、全然ない力こぶを起こした。
「う、うん」
ぼっちちゃんこんな感じだったっけ?と腕を組みながら、頭をぶった後遺症なんだろうなと納得してしまった店長。
「無理するなよ?途中で帰ってもいいから」
「ありがとうございます。もしつらくなったときには言います」
「ああ。……そうして」
すごい淀みなくしゃべる、郁代並みのキラキラ笑顔を放出する後藤ひとりに、星歌は、後遺症だっていう納得をしてなお違和感を感じていた。なんなら、こういうタイプって苦手なんだよな……と思っているくらいだった。心の中で早く元通りになりますようにと祈った。
ただ、星歌のもとから去り、バンドメンバーの方へ顔を向けようという瞬間に見せた、少しクールというか据わったような目は悪くないなと思った。基本かわいいもの好きの星歌だが、ギャップ、というものは如何ともしがたい引力が備わっているのである。大きくうなずく店長に、呆れたような眼差しをPAさんが向けていた。
「ぼっちちゃん、おはよう!」
「ぼっち。郁代から聞いた。文化祭どうする?」
「あー」
「「???」」
「今日はひとりじゃなくて、二重人格の方なんだよね……」
「あ、そうなんだ。久しぶりだね」
「……」
少しだけ恥ずかしそうにしている虹夏と、相変わらず冷めた感じのリョウだった。
「うん、大切な話しなきゃってときにぼくが出てきちゃってごめんね。スターリー入る前まではよかったんだけど、緊張しちゃったんだろうね、気づいたらスターリーの前にぼくが立ってたよ」
「えー!だいぶ慣れてきたと思ったのにな~」
「ひとり、文化祭に出たくないみたいで。学校でみんなより先に文化祭に出たいってこと聞いてたんだろうね。多分ここに来たら文化祭の話になることくらい予想つくだろうし」
「あー。別に出たくないなら出たくないって言ってくれればいいのに!喜多ちゃんだって、ぼっちちゃんが出たくないってちゃんと言えば出ようとしないと思うな」
「あはは。まぁそれでも自分の意見のせいで誰かのやりたいことを妨げるようなことは極力したくない子だから。きっと自分の心に蓋をして悩んだ末に、出ましょう!って言っちゃうんだろうね」
「ま、"ぼっち"と要相談ってことで」
「リョウ。ぼっちちゃんが出たくないって正直に言えないかもって話でしょ!」
「別に、出たくないなら出たくないって言えるよ。ぼっちなら」
「そうかなー?」
「ま、そんなわけで今日のバイトはぼくが来たってことで。粗相もあるかもしれないけど、ごめんね」
「いいよいいよ、気にしないで。もうひとりのぼっちちゃんもぼっちちゃんだもんね!」
「……うん。ありがとう!」
笑顔を交わす虹夏と、後藤ひとりに、山田は頬杖ついてつまらなさそうにしていた。
「ぼっちちゃんよりもめちゃくちゃ接客がうまいし、即戦力じゃん!!」
バイト中、虹夏のそんな(今は眠れるぼっちに対して)血も涙もない発言が宙を舞った。