転がるふたりぼっち   作:240128 虚無って書けません!

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「後藤さん、この間はごめんなさい!!」

 

「え、は、んえ?な、なんですか……?」

 

「後藤さん文化祭出たくなかったのよね?なのに私……」

 

「?えと、よくわからないです、けど、その。えーっと。はい」

 

「……後藤さんはほんとうはすごい人なんだって、学校のみんなにも、わかって欲しかったの」

 

「え?」

 

いまなんて?すごいって褒めてくれたの、私のこと??いや、聞き間違いかも?きっとそうに決まってる。でもほんとに言ってたんならもう一回言ってもらいたいな……。

様々な感情が湧き上がりそのすべてが

 

「え、いまなんて言いました?」

 

と言葉に発しろと後藤に命じていた。

 

「ん?だから、後藤さんはほんとうはすごい人だってことわかってもらいたくて」

 

「……」

 

黙り込み俯いてしまった後藤ひとりを郁代は心配そうに見つめていた。

 

「……??ねえ、後藤さん?昨日頭ケガしてたのまだ直ってなかったりする?」

 

「き!!!」

 

「?!!!」

 

いきなり奇声を上げるものだから、郁代はのけぞってしまった。

 

「喜多さんは、えっと、どうでしょう?私のこととか、関係なく出たいって、思いますか?」

 

「そうね、楽しそうだなって思うもの。でもね、後藤さんが」

 

「喜多さん、えっと、出ましょう!私のことなんて、心配しなくて、いいですから!!」

 

「え、そうもいかないでしょう?みんなが出たいって思うから出ることに意味があるのよ?」

 

「も、もうだいじょうぶなんで。それよりも申込用紙出しに行きましょう」

 

「え、なに?どうしちゃったの後藤さん」

 

「それじゃあ!!」

 

と言って、後藤は「え、えへへへへへへへへ」と底から響くような音を発しながら廊下の奥へ消えていった。

 

呆気にとられたままの郁代はその場に立ち止まったままだった。いつも通りの後藤にいつも通りに驚いていると言い換えることもできる。

 

一方で、既に生徒会室前に設置された申込ボックスに、結束バンドと書いて入れてしまった後藤は、教室に戻る道すがらにようやく冷静さを取り戻し始めていて、

 

「え?なに?いま、私、なんか変なことしなかった?」

 

と記憶を辿ろうとするのを拒絶する無意識に対して反旗を翻しながら、意識的に3分前の自分を想起していた。

 

「だめだ。どうがんばっても何をしてたのか思い出せない……!」

 

そう言って教室の扉の前で突っ立っていると、背後から「後藤さん!」と声をかけてくる者があった。

 

「もう申込用紙出しちゃった?」

 

郁代だった。

 

「え、あ、ああ……。ああああああああああああ!!!」

 

鍵をかけていた記憶が、無理やりこじ開けられる。その扉から溢れ出る奔流による衝撃で奇声を発し壊れてしまった後藤が、ようやく意識を取り戻したとき、目の前には天井があった、

 

「え、ここどこ?……保健室?」

 

「いきなり大声出しちゃうんだから。びっくりしたのよ。昨日に引き続き保健室ね」

 

「き、昨日?あっ……なるほど」

 

「?えーっとね、後藤さん申込用紙出しちゃったのよね?だいじょうぶなの?」

 

「……」

 

「一時の気の迷いかもしれないし、もうちょっとよく考えてみて、それでやめようって思ったなら一緒に断りに行きましょ」

 

「う、はい」

 

どうみてもだいじょうぶじゃなさそうって郁代がわかるくらい青褪めてしまったひとり。おずおずとベッドから這い出て、

 

「えと、じゃあ、用紙回収しに、行ってきますね……」

 

「はやすぎるっ!」

 

判断に要した時間わずか数秒。じゃあなぜ申し込んだというのか。後藤さんって不思議なひとだなあと他人事みたいに郁代は考えていた。

なんとなく心配になった郁代は、じゃあ私も着いていくわねと、後藤の後ろについた。しかし陰キャラたるもの、人と歩くとき一歩下がってしまうという習性を持つ。

いつの間にか郁代が先陣を切る形になり、生徒会室に着くや否や、「失礼します!文化祭のステージ申込を取りやめたくて来ました!」肩越しに様子を窺う後藤も、郁代に深く同意を示すように、うんうんうんと赤べこ人形のように頷いた。

 

「ステージの申込の取りやめですか?」

 

「はい」

 

「申し訳ありません、そう言ったものは受け付けておりません」

 

「なんでですか?!」

 

「規則ですので」

 

「そ、そんな……」

 

郁代の背後で縮んでいる後藤はそれを聞き、ついに人の形を保てなくなってしまった。このままではまずいと、背中に伝わるスライムのようなゲルの感触に急かされながら、

 

「ひ、人の命がかかってるんです」

 

泣きながら呟く郁代に、

 

「え?!ほんとうに文化祭の話をしてますよね?!」

 

「そうに決まってるじゃないですか!!」

 

 

結局。結束バンド出演キャンセルを受諾させられないまま交渉は終わってしまった。なんとかひとりを元の形に成形し直すことができた郁代は、道中、接着が甘くて崩れかける身体のパーツを適宜修正しながら、放課後練習の一旦の集合先であるスターリーへと足を運んだのだった。

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