俺にだけ厳しいテイワット旅行譚   作:やるおーん

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風神ポイント

風元素の後をたどり、ようやく見つけたドラゴン。羽毛を取って一攫千金。意気揚々と作戦を練る俺とパイモンの前にあの恐るべき緑の信者が現れた。距離を取ろうと判断したときにはもう遅い。そいつはどこからともなく、足音を立てることなく、突如として道を塞ぐ。

 

一体何を思って頬に指ぷになどしたのか。驚く俺たちの様子を眺めて、カラカラと楽しげに笑うこいつの心中が計り知れない。ここからどうするべきか。逃げて距離を取るべきだろうか。しかしこいつが突然俺たちのいる場所に現れたタネが明らかになっていない以上、また同じことの繰り返しになる恐れがある。

 

ここはいったん様子見をして、次のチャンスを狙うのが得策か。パイモンと目くばせをして方針をすり合わせる。どうやらパイモンも同じことを考えていたらしい。まずは情報を引き出す。後退りをやめて正面を見据える。空気が緊張しているのに気づいたのだろうか、緑帽子はふっと表情を緩めてお気楽な様子で話しかけてきた。

 

「やあやあ。そんなに警戒しないでくれよ⋯⋯七天神像の一件は水に流そうじゃないか。安心してくれ。あれはひどいものだったけど、それをいつまでもひきり続けるほど僕は狭量じゃないからさ。出会いは千載一遇。再び道が交わることはそうそうないことだ。また会えて嬉しいよ」

 

「しっこは水に流せても、トラウマはそう簡単には流せないんだよ。それで、緑帽子はここで何をしてるんだ?」

 

「それは僕のセリフだよ。君たちこそこんな辺鄙な森の奥まで一体何をしに来たんだい?僕は彼、トワリンに着いてきたんだけど、君たちもそうなのかな?ああ、それと僕は緑帽子じゃなくてウェンティ。吟遊詩人のウェンティだよ。よろしくね」

 

「旅人の空だ。こっちはパイモン、非常食。よろしくな」

 

「おいっ!オイラは食べ物じゃないぞ!テイワット1のガイド、パイモンだ。よろしくなウェンティ!」

 

緑帽子の名前はウェンティと言うらしい。すっとその手が前に差し出され、握手を求めてくる。少し逡巡するが、思っていたよりもだいぶ友好的だ。握手に応じるとにっこりとウェンティは笑う。なんかいいやつっぽい⋯⋯いやでも待て。まだ警戒を解いてはいけない。ウェンティも自分たちと同じように探りを入れているのかもしれない。ここは慎重に──

 

「おいなんだよ。警戒して損したぜ。話せばわかるやつじゃないか。トワリンはあのドラゴンのことだよな?するとウェンティもトワリンの羽毛が欲しくて──」

 

「はい、お黙りパイモン!ウェンティ、ちょっと失礼」

 

瞬く間に絆され、秘密をバラそうとするパイモンの口を掴んで閉める。むごむごと不満げな表情で睨むパイモンを脇に抱え、ウェンティと少し距離を取る。ウェンティは不思議そうな顔を浮かべているが、止めようとしてくる様子はない。パイモンの耳元に顔を近づけ、ウェンティに聞こえないようこしょこしょとした小さな声で話しかける。

 

「(気持ちは分かるが、あいつは俺たちがボロを出すのを誘っているのかもしれないだろ。まだ話しちゃダメだ。そもそもウェンティが本当にいいやつだったとしても、トワリンの羽毛を抜くことにあいつが反対するのは変わりがないんだよ)」

 

「(た、確かに!まずったぞ⋯⋯こっからどう巻き返せばいいんだ?)」

 

「(俺が何とかする。パイモンは適当に話を合わせてくれればいい)」

 

「(任せたぞ空!)」

 

作戦会議を終え、ウェンティの方に戻る。流石に怪しまれるかと思ったが、特に気にしていないようだ。呑気に欠伸をし、背筋を伸ばすウェンティ。気を張るのが馬鹿馬鹿しく感じられるほどにリラックスしているが、その態度は余裕綽々な内心の現れとも解釈できるかもしれない。

 

どれだけ気抜けしているように見えても、ぷっつんさせたらヒルチャールをけしかけてくるような相手であることに変わりはない。こちらの目的に確証を持たせないように一線を引いて接する必要がある。元いた場所に着くと、ウェンティは口を尖らせ、からかうようにして話を続け出した。

 

「内緒話は終わった?僕も混ぜて欲しかったな。君たちは仲良しそうで羨ましいよ。それはともかく⋯⋯トワリンの羽毛がどうかしたのかな?」

 

「ああその話。トワリンのあの羽毛をもふもふしたいんだよ。ドラゴンの毛並み、ウェンティも気にならないか?」

 

「空ァ⋯⋯もっとマシな言い訳をオイラ期待していたぞォ⋯⋯」

 

パイモンがジト目で俺を眺める。苦しい言い回しであることは分かっている。しかしこれさえ通れば、羽毛を触ることを大義名分に、ウェンティの同意の上でトワリンに接近することができるのだ。しかも剣を手に取り羽毛を切ろうとするその瞬間まではこちらの狙いを隠し続けることができる。

 

パイモンはウェンティがトワリンに話しかけているように見えたと言っていた。つまり、少なくともウェンティはトワリンの側に近づくことができるわけで、その協力が得られれば、トワリンに飛び去られないよう危ない綱渡りをする必要がなくなる。ピンチをチャンスに変える冴えた起死回生の策、パイモンが察せないのも無理はあるまい。

 

「あははは!トワリンのことをそういう目で見る人は君が初めてなんじゃないかな?面白いね。パイモンは空に無理矢理連れてこられた感じかな?確かにトワリンは厳つい見た目をしていてちょっと怖いかもしれないけど、その羽毛はふわふわしてて触り心地がいいんだよ」

 

「是非とも触りたいな。パイモンも俺についてきてよかっただろ?」

 

「あ!ああ⋯⋯今でも危険だとオイラは思うけど、あの羽毛は本当に気持ちよさそうだぞ!」

 

不審に思われてる様子はない。どこらか、好印象を与えたまでありそうな楽しげな反応だ。ウェンティは手を叩いて心底おかしそうに目を細める。パイモンの発言ももふもふしたいという俺の動機にがっかりしたからという風に捉えてくれたらしい。うまく誤魔化せたようだ。羽毛を取るという本当の狙いには気づいていまい。

 

ウェンティに協力してもらい、トワリンに近づく作戦も機能しそうなことも確かめられた。ウェンティは当たり前のことのようにさらっとトワリンの羽毛に触れた経験があることを告白している。こいつが触るついでに俺たちも触らせてもらう流れでいこう。あの毛並みをもふりたい気持ちはあながち嘘でもない。

 

しかし、風神の眷属と気軽に付き合える吟遊詩人とはいったい何者なのか。少なくとも一介の信者にできる範囲を超えている。ウェンティはただ単に信心深いだけではなく、風元素の扱いにも長けている。もしかしたらトワリンだけでなく、ウェンティ自身も何か風神と繋がる情報を持っているのかもしれない。

 

「ウェンティはトワリンと何だか仲が良さげだけど、どこで接点を持ったのか聞いてもいいか?もしかして、風神とも知り合いだったり?」

 

「ふむふむ⋯⋯トワリンと会ったのは偶然だよ。初めて彼と会ったとき、僕は吟遊詩人だから一曲披露してね。トワリンはそれを気に入ってくれたんだ。風神については⋯⋯直接知り合ったことはないかな。でも意外だね。君が風神に興味を持つなんて。七天神像の一件を反省して尊敬の念が湧き上がってきたのかい?」

 

「いーや。俺とパイモンはさっきトワリンの起こす暴風に吹き飛ばされたんだ。眷属が危険なことするのは風神の責任だろ?ちゃんと仕事して欲しいね。まあそれはともかくとして、もともと風神には興味があったんだ。妹と離れ離れになってしまっていて、七神なら何かを知ってるんじゃないかって」

 

「トワリンが君たちに迷惑をかけてしまったのか⋯⋯それはすまなかった。彼の友達として代わりに謝らせてくれ⋯⋯それと君は別れてしまった妹を探していると⋯⋯ふーむ」

 

そう言うとウェンティは俯いて黙り込んでしまった。顎を手でさすり、何か考え込んでいるようだが、今の発言に不備でもあっただろうか。振り返ってみるも特に思い当たる節はない。下手に茶化す気にもなれず、無言の時間がしばらく過ぎる。すると考えがまとまったのか、ウェンティは顔を上げて口を開いた。

 

「うーん⋯⋯もしかしたら力になれるかもしれないと思って、色々とここ最近の出来事を振り返ってみたのだけれど、それっぽい話は聞いたことがないな⋯⋯容姿はきっと君と似ているんだよね?」

 

「ああ。金髪で身長もおんなじくらいだ。名前は蛍。わざわざ考えてくれたのか?」

 

「まあ、結局役に立てそうもないんだけどね⋯⋯うん、やっぱり心当たりはないな。アドバイスだけど、風神も世情の全てを知っているわけではないし、会っても徒労に終わるかもしれない。行き詰まったら、他の七神を探すのも一つの手だよ」

 

「それはそうだけど⋯⋯今はモンドにいるわけだし、しばらくは風神に集中するよ。ありがとう」

 

何といってもモンドで冒険を始めてからまだ数日しか経っていない。この短い期間で見切りをつけるのはあまりにせっかちが尽きるというもの。そもそも俺が目を覚ましたときにいたのがここモンドだったのだから、蛍もモンドに落ちたと考えるのが自然であり、やはりモンドから探し始めるべきだろう。

 

しかし頼んでもないのにわざわざ蛍の居場所探しに協力しようとしてくれるとは。俺はウェンティのことを誤解していたのかもしれない。腹に一物を抱えているんじゃないかという疑りは俺の考えすぎだったか?七天神像の前で見せた嗜虐的な言動が消えるわけではないが、この友好的な態度がウェンティの通常運転なのだろう。まあ、だからといって羽を取ることを諦める気は毛頭ないけど。

 

考えている最中にいつの間にか、じーっとウェンティの顔を見つめてしまっていたことに気づく。ウェンティは眉尻を下げて少し困ったような顔をしていた。まあ脈絡なく急に見つめられたら反応には困るよな。何か変な誤解をされたら俺も困ってしまうので慌てて訂正する。

 

「いや、すまん。ちょっと考え事をしていた。気にしないでくれ」

 

「ん?ああ⋯⋯そういうことか。大丈夫だよ⋯⋯それで風神の話だけど、彼はほとんど人前に姿を表すことがない。自由を重んじる彼は他の七神のように民の上に立つことがないからね。だから彼を見つけるのは七神の中でも比較的難しいほうだと思う」

 

「それでも会いたい場合はどうすればいい?」

 

「そうだね⋯⋯全てを知っているわけではないけど、風神はモンドの人たちのことをよく見ている。君が七天神像の前でしたこともきっとね。だからとりあえずそれを超えるくらいの徳を積んでみるというのはどうかな?よく頑張っている人に求められたのなら、きっと彼も姿を現すと僕は思うな」

 

⋯⋯徳⋯⋯徳かぁ⋯⋯正直、今からやろうとしていることはそれとは正反対の私欲にまみれたトレジャーハントだ。風神に見られてたら十中八九怒られるだろう。何とか自力で風神を見つけることができても、口を聞いてもらえなくなるかもしれない。しかし、だとするなら七天神像の一件でもう十分にアウトな気がする⋯⋯ひょっとして詰んでるのかこれ?

 

いやまあ、そう悲観的に考えても話は始まらない。ウェンティの言っていた通り、やらかしたことを多めに見てもらえるだけの徳を積めばいいのだ。神像の前で脱いでも、眷属の体毛を抜いてもギリ許せちゃうくらいのすごいいいことを⋯⋯まあ全く思いつかないけれども。

 

「はあ、風神ポイントの稼ぎ方は後で考えるとしよ⋯⋯」

 

「はいそれ不敬!神の心を数値化しちゃダメだよ!風神ポイントマイナス5点!」

 

「ノリの良さに風神ポイント10点!ポイントは山分けして俺のマイナス5点は帳消し!⋯⋯ちなみに今俺の風神ポイントはどんくらいだと思う?」

 

「七天神像の一件でマイナス100点。だいたいプラス1000点くらい集めれば会ってくれると思うよ」

 

「くぅ⋯⋯道は遠いぜ」

 

ってこんなことやってる場合じゃなかった。こうして騒いでる間にトワリンが逃げてしまったらどうするんだ。いやでもトワリンの羽毛を取ったら風神ポイントマイナス⋯⋯違う違うそれは横に置いといて──とにかく、風神ポイントがマイナス何点だろうがトワリンの羽毛は何としてでも取る。

 

「こほん⋯⋯ウェンティ、本題なんだけどパイモンと俺、トワリンの羽毛に触らしてもらうことはできないかな?ウェンティはトワリンと話せるみたいだし、間を取り持ってもらえたら嬉しいんだけど」

 

「オイラからもお願いするぞ!」

 

「もちろんいいよ⋯⋯と言いたたいところなんだけど、今は無理なんだ。ごめんね。トワリンは長い間厄介な毒に侵されていて、気が立っている。僕も近づくのがやっとだし、今の彼は僕を敵視している節すらある。不用意に近づかないことをおすすめするよ」

 

「そ、そうだったのか⋯⋯毒か⋯⋯空、どうする?」

 

毒に侵されている?あの屈強そうなトワリンがか?ただ地面に落ちているものを拾い食いして腹を壊しただとか、そういうちょっとした話じゃないのだろう。いったいどれほどの猛毒なのか。とにかく、モンド人たちの信仰を一手に集める風神、その眷属が病を患っているなど重大な事件ではないか。

 

流石にこの状況で羽を取るのは難しいな。さてどうするか⋯⋯ふむ、ちょっと待てよ。これはひょっとすると風神ポイントをぼろ儲けできる絶好のチャンスなのでは?毒に苦しむ眷属の治療に貢献したとなれば風神も無視はできないはず。善行を重ねてちまちまポイントを貯めるよりも、こちらの方が手っ取り早くてわかりやすい。

 

羽を取るのも、治したあとに直接トワリンに頼めばいい。自分のことを治してくれた恩人に対して毛の数十本、欲を言えば数百本プレゼントするのは容易いことだろう。なんだなんだ。事態がみるみる好転していくじゃないか。トワリンは病気が治る。俺は風神に会えて、羽毛ももらえる。

 

「ならまず毒を治すのを手伝おう。ウェンティがこの森に今日いるのはトワリンを治療しようとしていたからだろ?協力させてくれ。毒っていうのは具体的にどんなものなんだ?」

 

「本当かい?ならこれを見てほしい。元はトワリンの涙だったんだけど、呪いのせいでこうなってしまったんだ」

 

ウェンティの懐から禍々しく光る赤黒い結晶が取り出される。確かにこれは体に悪そうだ。毒の正体は呪い、つまり他の何者かにかけられたものであるらしい。だからトワリンを治すためにはその呪いを解除する必要があり、その一部であるこの結晶を浄化することができれば本体も浄化できるかもしれないと。

 

「うわあ⋯⋯ドス黒い色だぞぉ⋯⋯まるで空の心みたいだな!」

 

「ばっかパイモン正反対だよ。俺の心は清く正しいに決まってるだろ。ウェンティ、ちょっと触ってみてもいいか?」

 

「うん、もちろん。どうぞ」

 

ウェンティから結晶を受け取り、手のひらに乗せる。なかなか厄介そうな呪いだが、ラッキーなことに俺はこの手の穢れに対する特攻持ちだ。訝しげな目で見つめるパイモンに俺の心の有り様を見せつけてやろう。意識を結晶にしばらく集中させる。しだいに結晶の赤黒い色が薄れていき、透き通るような緑色へと変わっていた。

 

「はい、一丁上がり!」

 

「な⋯⋯なんだとお!?」

 

「これは⋯⋯すごい。本当に呪いが取り除かれている⋯⋯君には浄化の力が備わっているらしい⋯⋯驚くべきことだね」

 

「じょ、浄化!?こいつが、空が、浄化ぁ!?お前は絶対闇属性の人間だろおぉ!?」

 

パイモンが目をまん丸にして驚愕する。ウェンティも分かりやすい表情には出さないものの、負けず劣らず動揺している様子だ。俺が浄化したことがそんなにおかしいか?というか闇属性って何だよ。こいつらの俺に対するイメージはこの数日でどんだけねじ曲がってるんだ。

 

「あのさぁ。俺はどっからどう見ても光属性だろ?この服と髪を見ろよ。輝く金に白。バカでも一目で聖なる側の存在って分かるよなぁ?」

 

「お前、自分が最近やったことを覚えてないのか?⋯⋯」

 

「?特に悪いこと何もしてないだろ」

 

「うーん君はなかなかに図太いやつだね⋯⋯でもこの力は本物だ。トワリンの呪いもその調子で解除できそうかい?」

 

俺が光属性と分からないとは⋯⋯こいつらの目は濁ってやがる。しかし、トワリンにかかった呪いの本体か⋯⋯流石にあの巨体を犯すほどに強いものを丸ごと取り除くことは厳しそうだ。とはいえ、部分的に解除して苦痛を和らげることならできるかもしれない。

 

「正直分からない。とりあえず試してみてもいい?」

 

「うん。そうしてくれると助かる⋯⋯ただ注意して欲しいんだけど、僕がトワリンをリンクを通して治療しようとしたとき、僕も呪いに侵食されかけたんだ。君もそうなる危険性がある。それでもやってくれるかい?」

 

「ああ、もちろん。風神ポイントがっぽり稼いでやるぜ」

 

「ふふ。期待してるよ、空」

 

会話を終了し、ウェンティに伴われてトワリンの方へ歩いていく。近くに寄って見るとトワリンの体はビクビクと小刻みに震えている。呪いに耐えているのだろうか。身じろぎを繰り返し、今にも暴れ出しそうだ。これ本当に大丈夫なのか?ウェンティの顔に目をやると、あまり芳しくない表情が映る。

 

治療をするなら急いだ方がいいだろう。ぐるりとうずくまるトワリンの巨体を周り、反対側の顔の前に立つ。じろりと鋭い眼に睨まれ、体がこわばる。あのデカい口に飲み込まれたらひとたまりもないだろうな⋯⋯パイモンも同じことを思ったのだろうか。ぶるりと身を震え上がらせた。

 

そういえばパイモンはウェンティにドラゴンの餌にするとか脅されたのだっけ。いざ食われそうな距離で実物を目にすると怖くて仕方ないだろう。しかも、ウェンティと違って友好的な様子が全くない。殺気すら感じられるほどだ。本当に今のトワリンは会話ができる状態なのか?そう思った矢先、地の底から響くような声でトワリンは吠えた。

 

「おお、バルバトス⋯⋯なぜ我を裏切った!!!!」

 

「トワリ──」

 

ぶわりと、トワリンの大翼が幅開き、ウェンティの言葉を遮る。足に力を込めて跳躍姿勢をとるトワリン。このまま飛び去るつもりなのか。翼の巻き起こす風が体を強く吹き付け、よろめき立つ。裏切ったとは一体──いや、そのことは後回しだ。ここでトワリンを逃したら風神ポイントも羽毛も手に入らない。

 

「パイモン飛び乗るぞ!」

 

「やるんだな!?ここで決めるぞ!」

 

「君たち何を!?」

 

事態を飲み込めていないウェンティを尻目に、トワリンが離陸するスレスレのタイミングでその背に飛び乗る。荒れ狂う強風に押され、落っこちそうになるが何とか踏ん張る。姿勢を低く倒し、トワリンの体の突起に手を引っ掛けながら進んでいく。目指す先は翼の一枚、その根元。羽毛が豊富に生えていて、動きが比較的少ないベストスポットだ。

 

地表があっという間に遠ざかっていく。落ちたらほぼ確実に死ぬ高さ。それも足場は不安定極まりなく、いつ落とされるかもしれない。はねる心臓の音を抑えて走り続け、ついに根元にたどり着く。背中から剣を手に取ろうとした瞬間、トワリンがその体をグルリと横に回転させた。

 

咄嗟にトワリンの体にしがみつく。突起を掴む手の筋肉が悲鳴をあげるも、決して離すわけにはいかない。さもなくばあの地面に向かって真っ逆さまだ。必死に踏ん張り続け、ついにトワリンの体が一周して元の位置に戻った。背中の異物を落とすのを諦めたのだろう。トワリンは前に向かって移動を始める。

 

この隙を逃してはならない。剣を手に取ると、パイモンが翼の影から現れた。飛べない俺と違って、パイモンは今の回転をトワリンの体から少し距離を取ることで回避したのだろう。突起を掴むのに左手を使っている俺に変わって、パイモンが羽毛をつまんでピンと伸ばす。

 

「今だ空!」

 

「せやあっ!」

 

ヒュンッと剣を勢いよく振り下ろす。羽毛は付け根から皮一枚のところで切断され、ふわりと舞い上がった。飛んでいかないよう、パイモンが両手でがっしりと握りしめる。すぐさま剣をしまい荷物入れを開け、パイモンが羽毛をその中へ。開け口から出て行かないよう充分奥深く押し込められたのを確認し、荷物入れを閉じた。

 

「っしゃあ!!羽毛ゲットだぜ!!」

 

「やったぞ!!これで三食うまい飯だな空!!」

 

「おおよ!!」

 

ここまで長かった。空の上、風神の背でパイモンと共に狂喜乱舞する。これでテイワットの旅は安泰だ。少なくとも金に困ることはなくなる。今夜は大晩餐会決定だな⋯⋯あとはトワリンの治療か。羽毛は前払いの代金ということにしよう。しかし触ってみた感じ、この呪い全てを浄化するのは俺にできそうにない。

 

とはいえ何もしないのもどうかと思うので、できる限りのことはしておく。トワリンの背に無理やりつけられたと見える明らかに怪しい紫色の三角コーンに近づく。ウェンティに見せてもらった赤黒い結晶、それと同種のより濃密な気配を放つのが感じられた。手を当てて浄化を試みるも、呪いが消える様子はない。

 

多少は薄めることができたと思うが、これ以上は無理だ。ウェンティの言った通り俺の体にも呪いが伝わってしまう。残念だが呪いを取り除くにはまた別の手段が必要だ。それは後日機会があれば考えるとして、今日はこの辺でモンド城に帰ろう⋯⋯うん?見下ろす地面は遥か彼方。落ちたらベシャリと潰れること間違いなし。あれ、これどうやって帰ればいいんだ?

 

「おいパイモン、トワリンから降りれないんだが?」

 

「何言ってんだ?飛べばいいだろ?⋯⋯あっ、空はオイラと違って飛べないんだった⋯⋯おい空、お前どうするんだよ?」

 

「う、羽毛をせっかく手にれたというのにィ⋯⋯チキショオオオオ!!!!」

 

どうやらまだまだ災難は続くらしい。モンドの大空に絶叫が響き渡った。

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