少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。
……生ジョッキ缶、おいちい。
5.
電波塔の爆発が確認されてから、DA指令室は騒然としていた。
オペレーターの矢継ぎ早の状況確認報告に、バックアップ部隊への対応、現在投入されているファースト・リコリス錦木千束の安否状況の確認。
特に、少し前から千束からの通信は途絶しており、状況は不明。最後の通信では展望台に取り残されたと語り、自力での脱出は絶望的であった。
「千束っ!応答しろっ!千束っ…!」
ミカは藁にも縋る思いで通信を試みる。インカムが外れただけの可能性もあるが、万が一爆発に巻き込まれたのだとしたら…。
その時、あまりにも非現実的な光景がモニターに映し出された。
「一体、あれは何なのだ…?」
電波塔から遠く離れた上空から突如、巨大な人型が姿を現したのだ。
目視でおよそ15m前後、戦闘機の全長にも匹敵するその巨体は、あまりにも外連味にあふれていて、とても現実のものとは思えなかった。
額には二本の鋭い角、まるで外套を纏っているかのような黒い装甲、全身4か所に施されたドクロの装飾、そして、特徴的な背中の4本の大きな骨状のパーツ。
そのすべてがあまりに異質で、皆、職務を忘れ見入っていた。
いち早く正気を取り戻したリコリス司令官の楠木が指示を飛ばす。
「各員、これよりあの人型をアンノウンと呼称する!アンノウン周辺にドローン4機を飛ばせ!情報収集を優先させろ!」
「りょ、了解!これよりアンノウンに対する情報収集行動を開始します!」
慌ててオペレーターの一人が現場に指示を伝える。とにかくあれが何なのか、新たな脅威なのか、知らなくては。
すぐにアンノウンに動きがあった。
高度を下げたかと思うと、一直線に電波塔へと向かったのだ。とてもあの巨体が出せるとは思えない、驚異的なスピードで向かうのは、展望台。
「!奴の狙いは千束か!」
司令部に緊張が走る。アンノウンは右手を前に突き出し、まるで何かをつかみ取るかのように向かっている。
「千束!そこから離れろっ!…逃げてくれ!」
「ドローンを奴にぶつけろ!ありったけだ!わずかでも逸らすんだっ!」
「だめです!こちらのドローンでは追いつけませんっ!」
「ドローン4機、振りきられました!3機通信途絶!」
「くっ…!」
そうこうしているうちに、アンノウンがその右腕を展望台に差し込み、そのまま激突。
オペレーターが悲鳴を上げる。
「千束っ…、頼む返事をしてくれっ、千束っ!」
通信を続けるミカの背中が、あまりにもいたたまれなかった。
その時、何とかドローンの一機がアンノウンに追いついた。
「映像、でます!」
——そこには、千束に手を差し伸べる、黒い宇宙服のようなものを着た男が窓越しに映し出されていた。
「千束を救出した…?ならば、目的は拉致か…?」
少なくとも、ここで千束の無事が確認され、司令部の空気がほんの少し和らぐ。もちろん、アンノウンの脅威は健在であり、パイロットらしき人間に保護されているという、依然として予断を許さない状況ではあるが。
「アンノウン、上昇!」
「あの骨のようなパーツが推進器か…。4つあるということは、それぞれ位置を変えて推進力を変化させるということか?」
落ち着きを取り戻したミカによる、アンノウンの考察が進む。
「それはそれとして、あの男…。」
ミカの背中に炎が上がる。やはり、落ち着くにはまだかかりそうだ。
ドローンが追いついたことにより、より詳細な姿が明らかになる。
頭部と胸部には銃口らしきものがあり、腰部にあるハードポイントにはボウガンと大剣のような武装が確認できる。腕には人のように五指が備えられ、肘あてと思しきパーツの根元には可動フレームが伸びている。マントに隠れているが、脚部も備えており、つま先が動いているのもわかる。
人体を模倣してなおかつ、空まで飛んで見せる。まったくのオーバーテクノロジーであった。
「いったい、どこの組織があそこまでのものを作り上げたんだ…」
「それに加え、何が目的でこちらの作戦に介入してきたのか。鹵獲が必要になるかもしれません」
「あるいは、情報提供と協力を呼び掛ける、か」
ミカと楠木がアンノウンへの対応を話し合う中、状況は急変した。
「電波塔が…!」
中間部より爆発が繰り返されていた電波塔が、ついに限界を迎える。
先ほどまで千束が取り残されていた展望台は、もう人が立つことは困難な角度にまで傾いていた。
「バックアップ班へ緊急指令!離脱しろ、巻き込まれる!」
「バックアップ!緊急離脱!総員撤収!撤収!」
にわかに司令部が慌ただしくなる。作戦自体は終了しており、肝心の千束の回収も、アンノウンによって保護されたことで完了している。電波塔の倒壊を未然に防げなかった以上、この場でDAができることは皆無だ。
ここでまた、アンノウンが動く。
「アンノウン、再び下降…!倒壊部分の先端付近に移動します!」
「今度は何をするつもりだ!まさか…!」
「…倒壊を、止める気なのか」
6.
「え…?」
膝の上の女の子から、戸惑いの声が漏れる。
さすがにかっこつけ過ぎたかと、トビアはすぐに言い直す。
「ゴメン、分かりづらかったね?あの塔が下に落ちないようにする方法を、思いついたんだ」
「ほんと!?」
食い気味に聞かれる。真っ赤な瞳が期待に輝く。
彼女も、何とかしたいと思っていたのだろう、先ほど何か言いかけたのがいい証拠だ。
「でも、それをするためにはかなりの無茶をしなくちゃいけない。一緒に乗っている君にも、怖い思いをさせてしまう」
今、トビアの頭にはバイオ脳を乗せたMS…アマクサとの戦闘が思い浮かんでいた。
あの時のような動きを、今度は遥かにサイズが巨大な相手に対してやらなければならない。
どれだけ機体を振り回すことになるのだろう。乗っているこの子にかかる負担を考えると、とてもではないが軽々しく実行に移せない。
「私のことは大丈夫!思いっきりやって!」
即答だった。あまりのことに面食らってしまい、彼女の顔を見つめてしまう。
左側を赤いリボンで縛った金色に近いきれいな白髪、まるで人形のような端正な顔立ち、そして、覚悟を決めた力強い瞳。まだ詳細を話していないにもかかわらず、すでに彼女は戦士の表情をしていた。
いったい、何があれば、どんな経験をすればこんな表情をするのだろう。こんなにも小さな女の子が…。
そこまで考えて、彼女のことを何にも知らないことにトビアは気づいた。
——それこそ名前すら聞いていない。
「名前…、聞いても?」
「千束!錦木千束!海賊さん、あなたは?」
「トビア・アロナクス。ありがとう、ぼくも覚悟決めたよ…!」
そこまで言って、塔の先端へとX1を向かわせる。
「今からチェーンとワイヤーを使って、塔を引き上げる!折れた塔を上に乗っけるんだ!」
トビアはX1にスクリュー・ウィップを装備させながら、千束に対して矢継ぎ早に説明する。
「こいつのパワーなら、引き上げるのも難しくないはずだ!ただ、下手な所を引っ張り上げると塔が折れてしまう…!一回でできることでもないっ…!そのためにも構造的に強い箇所を探し当てて、なんども繰り返し引っ張り上げないとっ…!」
まるで、ジュピトリス9を撃破した時とは真逆のシチュエーションだ。トビアは何となくそう思った。だが難易度は何倍も違う。なにせ攻撃を加えるだけでよかった時と違い、塔を引き上げ、下に落ちないように立てる必要がある。横向きに乗っけたのでは、太い後半部からずり落ちてしまう。
そこまで説明して、千束から声が上がる。
「そこを探すの、私にやらせて!私、目いいから!」
「なんだって⁉」
「倒れそうなところで、壊れてるのが一番少ないところ!そこを狙えばいけるんじゃ⁉」
少し考えて、自分の直感を信じることにする。
「…わかった!任せたよ、千束!」
「がってん!任せんしゃい、トビア!」
◆
すごい速度で電波塔の先端が近づく。
本当にジェットコースターみたい。千束はトビアに抱き着きながらそう思った。
作戦自体は非常にシンプルだった。トビアが操縦するこのロボットを使って、折れた電波塔を引っ張り上げる。いくら巨大ロボットといえど、大きさが違いすぎる。塔が近づくにつれ、不安になってきた千束は体を震わせる。
「大丈夫!信じて!」
頭の上から声がかかる。顔を上げると、冷や汗をかきながらも必ず成し遂げるといわんばかりに鋭く前を見据えるトビアがいた。覚悟を決めた、戦士の表情だ。
「うん…!」
震えは止まらない。それでも、彼の助けになるんだと決めた。改めて前を見据える。ワイヤーをひっかける場所を見つけないと…!
「トビア!そこ!」
どこに隠していたのだろう、挟み込むような形のフックがチェーンを伸ばしながら勢いよく飛び出した。指示したポイントにフックが挟まり、その横にワイヤーが絡まる。そして、機体が勢いよく上昇し、塔を倒れていた方向とは逆に引っ張り上げる。ワイヤーやチェーンは千切れそうになく、逆に絡まった塔のポイントから大きな音が響く。
と、ここで予想だにしなかったことが起こる。
「うそっ!ねじ切れた⁉」
急な方向転換が祟ったのだろう、根元からほど近い塔の一部が壊れる。
あまりのことに、頭が真っ白になる。自分が指示した場所は間違っていたのだろうか?
「大丈夫…!どちらにせよ、一度残っている部分を切り離さなくちゃいけない…!」
間髪入れず、トビアからのフォローが入る。作戦の一部だから、心配はいらないと。
「それよりも!…次の指示を頼むっ!頼りにしてるぜ、相棒!」
「!う、うん!」
気持ちを切り替えなければ。トビアは自分を信頼して、目を任せてくれている。その信頼に応えたい、トビアのことを助けてあげたい…!
「次はそこっ!」
「了解!」
命がけの引き上げ作業はまだ続く。
7.
「今度はそのまま左に向かって!」
「よしっ…!」
千束の指示は完ぺきだった。X1のカメラ越しで距離もあるのに、次々と引き上げるポイントを言い当てた。いったいどんな洞察力をしているのだろう。トビアはますます千束に対しての謎が増えていった。
「これで、ラスト…!」
最後のポイントを引き上げる。急制動を繰り返す機体と、少しずつ倒れていく塔をなんとか立たせるためにつなげていたアンカーとウェップは、酷使のあまりどこから見てもぼろぼろとなっていた。チェーンはひび割れ、ワイヤーも根元から何本か千切れてしまっている。
X1も、強制排熱のため、頭部マスクが開いていた。さっきからこちらを監視ドローンで見ている連中には、さぞ恐ろしい顔に見えているだろう。
「ふう、ふう、ふう、ふう…」
トビアの息が荒くなる。全身から汗が流れ、あまりの不快感にヘルメットを外す。全てがギリギリの勝負だった。宇宙空間ならまだしも、地球上でしかも常に浮いていなければならない上空での機動。フル装備で重量がもとの4倍を優に超え、推進剤がいくらあっても足りない有様だった。
「終わっ、たの…?もう…?下に…落ち、ない…?」
千束も、さすがに限界だった。激しい機動を繰り返すX1に目を回しそうになるも、次々と引き上げるポイントを指示しなければならない。はっきりいって重労働もいいところだ。
「うん、お疲れ様…。ごめん、無理させちまった…」
トビアは労わるように、ゆっくりと千束の頭をなでる。
「ううん、トビア、こそ、お疲れ、さま…」
千束のからもねぎらいの言葉がこぼれると、トビアに向かって手を伸ばしてきた。
「がんばって、くれて、ありがとう。わたしを、まちを、助けて、くれて、」
息も絶え絶えで、それでも必死に感謝を伝えてくれようとしてくれる彼女に、トビアは涙がこぼれそうになる。伸ばした手をつかみ、顔をぬぐいながらもトビアは伝える。
「千束も、がんばったね。…でも、ぼく一人で助けたわけじゃないよ。下、見てみなよ?」
◆
トビアに促され、モニターに視線を戻す。
細かいガラスの破片や、外壁の残骸が落ちている。
それでも、大きな破片は見当たらず、街も、バックアップとして待機していた仲間たちにも、目立った被害は見受けられない。
「ぼくだけじゃ、ぼくとこいつだけじゃ絶対にできなかった。千束、君のおかげなんだ。君が指示をくれたから、…みんなを助けられたんだ。だから、ありがとう。ぼくを助けてくれて、みんなを助けてくれて。…君は、誰かを助けることができたんだ…!」
「あっ…!」
“誰のことも、助けられていないっ…!”
あのとき、叫んだ言葉が頭によぎる。
「そっかぁ…、私、誰かを助けられたんだぁ…」
そのことを自覚すると、また涙があふれた。
いったい今日1日でどれだけ泣いたのだろう。
最初は、あまりの心細さに。
次は、助かったことへの安堵で。
そして今は、自分のしたいことの一つが叶って。
また、思いっきり抱き着く。
トビアは何も言わずに頭をなでてくれている。
この不思議な海賊少年によって、短い時間でたくさんのことが起こった。
ひとしきり泣いた後、すっきりしたこともあって、聞きたいことがたくさん出てくる。
どこから来たのか、何が目的で出てきたのか、年齢は、出身は?
そして、一番に聞かなくちゃいけないことがある。
「ねえ、トビア。このロボットの名前、聞いてもいい?」
一緒に助けてくれた、この鋼鉄の巨人の名前を。
「…クロスボーン・ガンダム」
「クロスボーン…?」
「そう、クロスボーン。ぼくの大切な、相棒さ」
ゆっくりと地面に降りる。
朝日が巨人を優しく照らす。
ここに、海賊少年の新たな冒険の幕が開ける。
見知らぬ土地に、一人放り出され、
果たして、トビアは彼を待つ大事な人の下に戻ることができるのか。
この冒険の結末は、誰にもわからない。
「あ、ところで、ここってどこ?」
「⁉」
わからない!
※
おまけ
「えーと、ごめん、整理させて…。まずここは?」
「に、日本の東京」
スゥー「今年って、いつ?」
「2012年」
…「…年号って?」
「え、西暦だけど…」
「…どーすりゃいいの…?」
「?」
なんで最初っからこんなに長く書いちゃったの私…
しかし、せっかくクロスボーン出しておいて、やることが災害救助とは…
ただ、あんまりにもクロスボーンの武装が殺傷力高すぎて、活躍を考えると災害救助やMS出して切った張ったのチャンバラくらいしか…。
さて、今後の投稿ですが、実は私、BDを観ながらリコリコ勉強中でして、モチベ云々にかかわらず少しお時間をいただきます。
そもそもこういう百合百合した作品自体初めて観まして…
リコリコの事前情報が「令和のあぶない〇事」という触れ込みで、ずっと”どっちが舘〇ろしで柴〇恭兵なんだろう”と気になっている有様でした。
何はともあれ、最後まで読んでくれてありがとうございます。
たくさんの人に読んでもらえるよう、精進しますので
今後ともどうぞよろしくお願いします。