海賊少年を百合の間に挟んでみる実験   作:愛犬家

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ようやくPS5普通に変えたので、初投稿です。
よっしゃ、早速ホグワーツに入学や!

大変長らくお待たせしました。

まさかの1ヵ月ぶり。

ふつうにスランプなのと、仕事がバカ忙しくて、つい…。

さて、今回は鬼門の6話。
とりあえず、真島さんにはひどい目に遭ってもらわないと…(鋼鉄の意思)

ほんの少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

それではどうぞ。



サッポロ黒ラベル、いいよね…



#21海賊と天秤①

1.

 

まだ朝日が昇ったばかりの時間。

日課のランニングを終えたトビアは帰宅後シャワーを浴び、コーヒーでも入れようかと準備を進める中、その凶報は舞い込んできた。

 

「…被害は?」

〈今日までに4名、いずれも殺害されています。〉

 

DAからかかってきたその電話は、リコリスが夜間単独行動中に狙われたというもの。

手口は正確には分かっていないものの、本部と通信中に襲われた者がおり、音声解析の結果車両による追突の後、複数人による一斉射撃を受けたようだったと言う。

検分の結果、他の被害者にも同じような目に遭った痕跡が確認できたとも。

 

「特定方法は?被害者の共通点は?」

〈依然として不明です。現場も二子玉川、お台場、立川、品川…バラバラで、彼女たちも単独行動中のサードとしか共通項が見いだせず…〉

「…こっちでも警戒しておきます。差しあたっては、単独行動の禁止位ですかね?」

〈お願いします。あと、あなたも狙われているかもしれません。気を付けて、スカルハート〉

「了解。このことはミカさんには?」

〈すでに連絡がいっています。今日中に共有を済ませるとも。それでは〉

 

通話終了。

この10年間で今までにない異常事態だ。

そもそも、リコリスを知るものが極端に少ない。

基本的にリコリスが投入されるのは暗殺・殲滅・そして捕縛。

目撃したものは監視され、敵対者はここを除き捕縛されようと最終的には消される。

それなのに、ピンポイントで狙ってきた。おまけに、いずれも同じ手段で。

「…何らかの宣戦布告、と言ったところか…?」

まるで“お前たちのことは分かってるぞ”と言わんばかりの手口だ。

「以前に、DAからの攻撃をしのいで、生き残った…?」

考えられるのは、そういった生き残りによる復讐。

「…だめだ、情報がなさすぎる。決めつけるのは危ない、か…」

言いようのない不安が頭をよぎる。

否応なく巻き込まれる、なぜだかそんな気がした。

 

 

ピンポーン

インターホンが鳴り、現実に引き戻される。

モニターを確認すると、意外な人物が写っていた。

「…たきな?」

彼女がここに尋ねてくるのは初めてだ。

そもそもここの住所を教えていただろうか。

とにかく、表に出て応対する。

「おはようございます、トビア」

「たきな、どうしたの?…え、なんだその大荷物」

玄関を開けると、大きなバックを担いだたきな。

まるで、どこかに旅行するかのような…。

 

「これから一緒に千束の家に行きますよ。早く準備を」

「………えっ」

早速巻き込まれたトビアであった。

 

 

 

2.

 

「……で、ウチに来た、と」

「はい、3人いればある程度のことは対処できますし、何よりトビアの勘は役に立ちます」

「信頼は嬉しいんだケド、事前に説明が欲しかった…」

 

自身のセーフハウスで千束がたきなから連絡を受けたのが数分前、内容はリコリスが連続して襲われているという物騒なもの。

外にいるのか音声が少し乱れており、後ろの方からは蝉の鳴き声が聞こえる。

そして“早速一緒に行動しましょう”と電話口で言われたと同時にインターホンが鳴る。

モニターを確認し、玄関を出ていくとバッグを担ぐたきなに疲れた顔のトビア。

 

「ん?ということは、2人ともウチにお泊りってこと…!」

相棒同士3人、一つ屋根の下。

何やら楽しそうな状況に心躍らせる千束。

だが、脳裏に今の部屋の状況がよぎる。

 

脱ぎ散らかした衣服。

未だ片付けていないBDの山。

開けっ放しのお菓子の袋etc…。

 

あかん、人が泊まれる部屋じゃない。

 

「えっ、とォ、その、片づけが…。も、もう少しだけ、待ってくれない…?」

冷や汗が止まらない。

そういえば今日は夏日だったな、そんなどうでもいい感想が浮かんでくるあたり、もうだめかもしれない。

「なら、一緒に手伝います。それならすぐに終わりますし。トビアも…」

「ちょっ!トビアはダメ!たきなだけでお願い!」

大きい声が出る。

いくら10年も一緒にいるとはいえ、自分の脱ぎ散らかした服を見られるわけにはいかない。

 

「トビアはもうちょっと待ってて!たきな、早くやろ!ハリーハリー!」

これ以上話がこじれない様にするためにも、まくしたてるように一方的に宣言。

勢いよく扉を閉め、たきなの背中を押す。

とにかく急がなくては。

 

「…………、これ帰ってもいいかな……?ダメかなぁ…」

玄関の外にはトビアがポツンと一人。

蝉の鳴き声が鳴り響くなか、外の暑さにじんわり汗がにじむ。

どこまでも不憫な彼であった。

 

◆

何もない部屋に“プロだ…”と感動し、それでは先ほどの片付いてないといった慌てようは何だったのかと首を傾げ、直後姿を現した壁の回転扉と下の部屋へ続く梯子に驚き、言っていた通りの散らかりようにたきなが呆れたのが数十分前。

 

片付け終えたたきなは千束の部屋にて荷物を広げ、泊まるための準備を進めていた。

「なんなんですか、この部屋…」

そうつぶやくたきな。

仕掛け扉に実際の生活スペースである階下の部屋。

どういう意図をもって、こんな七面倒くさいことになっているのか。

「セーフハウス第1号!他にもあと3件あるかなぁ」

「そんなに…」

“こんな仕事やってると、いろいろあるのさー”千束はそううそぶきながら、軽く伸びをする。

外で待っていたトビアを気遣って早く終わらせようと張り切ったのだろう、少し疲れているようだ。

 

「ところでさ、なーんで特定されてんのかねぇ」

千束がアイスコーヒーを3人分用意しながら聞いてくる。

「それが、分からないないんですよ。例のラジアータへの攻撃と関連があるとは思いますが…」

「被害者の状況から、手口は一緒みたいだよ」

そこに、トビアが自分の荷物をもって降りてくる。

「トビアはトビアで、なんでそんなこと知ってんの?」

「司令部から直に連絡あったからなぁ」

「本当に何者なんですか、トビアは…」

こちらはリコリス担当医の山岸から聞いたというのに。

もうそろそろ数ヶ月の付き合いになるが、彼のことは謎が深まるばかりだ。

 

「…さて、しばらく私たちが共同生活するにあたって、家事分担を表にまとめてきました」

そういいながら、画用紙をテーブルの上に広げるたきな。

なるべく公平さを心掛けた自信作だ。

「…ごめんたきな。ぼくは洗濯から外してくれない…?その代わり料理は全部ぼくでいいから」

トビアが引きつった笑いを浮かべながらそんなことを提案してくる。

その隣の千束も“激しく同意”と言わんばかりに頷いている。

「……?あ、下着なら見られても大丈夫なように、あの時買ってきたものにしましたが…」

「私が嫌だって言ってんの⁉さすがにそこまでズボラじゃないよ⁉」

顔を真っ赤に染めながら千束が主張する。

そこまで言われて、はたと気づく。

「そうですね、人に見せていいもの以外の下着もありますものね。分かりました」

ここは彼女の家なのだ、そういったものもあると理解するたきな。

「違えよ!…いや、もうそれでいいや…」

がっくりうなだれる千束に疑問を覚えるも、仕切り直す。

 

「それで、トビアの割り振りは決まりましたが、他に何かありますか?」

「……それならさ、あらかじめ決まってるのもつまんないし、じゃんけんで決めない?」

千束が悪い顔をしながら、そう提案してくる。

なぜだろう、嫌な予感がする。

「千束…さすがにそれは…」

「トビアは黙ってて。…さんざん辱められたんだ、ここで憂さを晴らさせてもらおう…」

ふっふっふっふっ

そんなふうに笑いながらこちらを見る千束。

怖い。

「さあ、いっくよー…?最初はグー!」

こちらの返答も聞かずにいきなり始める千束。

どこか鬼気迫る表情が入り混じった笑顔に身がすくみあがる。

それでも負けじと咄嗟に反応するたきな。

「じゃん!けん!」

 

その予感の通り、碌な結果にはならなかった。

全敗。

見事分担表はたきなの名前で埋まり、料理以外の家事を全て受け持つこととなってしまったのだった。

 

 

 

3.

 

「おはよう!労働者諸君!」

「おはようございます」

「はよー、聞いたわよー、大変なことになってるって。…労働者はお前もだろうが、何の映画に影響されたのよ」

「“わたくし、生まれは柴又葛飾で姓は…”」

「あ、もういいわ。トビアの趣味ね、それ」

「なんでバレた…?」

 

3人で仲良くリコリコに出勤。

ミズキが大量のスイカをさばきながら挨拶してくる。

ミカに聞かされていたのだろう、話題に上がるのは先のリコリス襲撃事件だ。

 

「まあ、私らDAじゃないし。関係ないかなー」

「千束、可能性は0じゃないんですから…」

「ぼくも同意見。警戒くらいはしておこう」

どこまでも楽天的な千束を諫めるたきなとトビア。

 

更衣室に向かおうとすると、通話中のミカが目に入る。

「…被害を抑えるためにも、必要だと思うが…。はあ、分かった。」

電話を切るミカ。

「先生、今のって楠木さん?」

「司令は情報くれそうでしたか?」

「極秘、だそうだ。…トビア、お前の方はどうだった?」

「そっちとそんなに変わらないと思いますよ。…一応、手口と狙われた状況だけは聞きましたが」

「ああ、それは私も聞いた。…やれやれ、こうも秘密主義が過ぎると、な」

トビアの返答を聞いて、呆れたように頭を振るミカ。

DAとしてはこれ以上の情報共有をするつもりはないらしい。

 

「まあ、あとはこっちで勝手に見ればいいさー」

通りがかったクルミが口元をもぐもぐさせながらそんなことを言う。

手元にはスイカ、どうやらつまみ食いしてきたらしい。

何とも頼もしい発言だ。が、

「…それ、堂々とDAハッキングするって言ってません…?」

そのまま押し入れへと入っていくクルミを見て、微妙な顔をするたきな。

「ま、今気にしてもしょうがないってね?」

「…それもそうか」

こんな非常事態でも平常運転なリコリコに、変な安心感を覚える3人だった。

 

◆

「ごちそうさま!トビア、和食の腕上げたね~」

「ごちそうさまでした。…まさか、肉じゃがが出てくるとは思いませんでしたが」

「お粗末様。ぼくも日本暮らしは結構長いからね」

 

ある日の夜、一同は食事を一手に引き受けることになったトビアの料理に舌鼓を打っていた。メニューは肉じゃが定食、安定の芋料理だ。

多めに作られたそれは、残りをタッパーにしまい冷凍庫へ。次の日のまかないへと回されるようだ。

 

「あ、トビア。洗い物は私がやりますよ?」

食器を運びながら、たきながそうトビアに話しかける。

「なら二人でやろうか。ぼくが洗って、たきなが拭く。どう?」

「なるほど、合理的ですね」

そう言い、二人並んでシンクで洗い物をする。

この数ヶ月で育まれた、確かな絆が垣間見える後ろ姿だ。

 

そんな二人を面白くなさそうに見つめる千束。

 

家事分担をかけたじゃんけんで見事全勝、たきなとトビアの2人が居る限りは掃除も洗濯も免除され、一人ソファで映画を観ていたものの2人の様子が気になりちらちら。

「…なーんか仲間外れ…。ねぇ、どっちかこっち来ない?一緒に映画みよーよォ」

とりあえずちょっかいをかけてみる。

「今洗い物してるので、あとで」

「終わったらコーヒー淹れて持ってくるから、それまで待ってて」

にべもなく断られる。

さながら、わがままを言って両親になだめられる子供だ。

自分の得意分野で大人げなく勝ってしまった手前、おいそれと手伝いに混ざるのも憚られるため、もやもやが募る。

 

その時、千束のスマホがけたたましく鳴り響く。

「⁉千束、それは…?」

あまりの音量にたきなが警戒をにじませる。

画面を見ると、赤い文字で“Intruder Alert”の表示。

「うわっちゃー、まーたチンピラだよー…」

言って、愛銃と弾丸の準備。

「トビア、手伝ってくれない?」

「大丈夫、準備はできてるよ」

トビアに声をかけると、腕に防弾シートを巻き、戦闘の準備を終えた彼の姿。

「2人とも、何を…」

「たきな、ちょっと待ってて。…GO!」

フラストレーションが溜まってきているときに来たのだ。

せっかくなので、チンピラ達にはとことん付き合ってもらおう。

隣のトビアにはそんなことを考えているなどおくびにも出さず、駆け出す千束。

さあ、戦闘開始だ。

 

「…千束、あまり八つ当たりしないように」

バレテーラ。

 

◆

迎撃のため、上の階へと向かっていった千束とトビアに置いて行かれたたきな。

天井からどったんばったん大騒ぎ。盛大にガラスが割れる音も聞こえる。

その内、外から男たちの“殺さないでくれ”という情けない叫び声が聞こえ、途端に静まり返る。

 

「この為の、セーフハウス…」

「そ。これでも前に比べたら頻度は減ったんだよー」

得心がいったたきなに、千束がそう返しながら戻ってくる。

「前はもっとひどかったんだよ?リリベルが攻めてきたり…」

その後ろからトビアが戻りながらそう答える。もっと襲撃の頻度が多かったのか。

それはそうと、聞きなれない単語が一つ。

「リリベル?」

「あー、なんて説明したらいいかな…。リコリスの男の子バージョン?」

千束からそんなことを言われる。初めて聞いた情報だ。

「それは、何をする人たちなんです?」

「基本は私たちと変わらないはずだけど、…うーん、よく分からないかな」

少し困り顔の千束。どうやらそこまで詳しいわけではなさそうだ。

「なーに?たきなったら男の子に興味深々?」

「別に。…興味があるのは…」

「………?」

千束にからかわれとっさに否定の言葉を口にするも、目線はトビアを追ってしまっていた。

 

「な、何…?」

「…いえ、別に?」

そう、別に他意はない。

なんでリコリスの自分が知らない情報を持ってるんだとか思ってない。

ついでに、この前の隠し事の件についてなんて思ってはいない。

何だったら、年齢の矛盾が無くなったので6年前何してたかとか聞きたいことが増えたわけではない。

無いったら無い。

 

「……トビアさん、年貢の納め時ですよ~?」

「覚悟、決めます…」

「この前も言ってなかった?」

 

 

そんな彼らの一部始終を収めたドローンが一つ。

ついぞ気づかれることはなく、映像は持ち主の下へと送られる。

 

事態がまた一つ、動き出す。

 

 

 

4.

明くる日、喫茶リコリコにて。

押し入れの中、PCの前でクルミが千束に話しかける。

内容は、DAから得られた情報についてだ。

「この前の地下鉄襲撃事件にリコリスの襲撃犯、例の銃が使われているそうだ」

「例の銃…。もしかして、あの取引で?」

千束の言葉に、画像を表示させる。

沙保里の写してしまったあの写真だ。

 

「うーん、もしかして、あの時DAハッキングしたのも同じ奴の仕業?」

「…うっ」

ビクッと反応するクルミ。

「?」

「や、ど、どーかなぁ。…もう少し、調べてみる…」

なんだかぎこちない。

 

「と、ころで、トビアはどうしたんだ?」

「え、あ、うん。DAから単独指名。一人になるなと言っておきながら、まったく…」

クルミの露骨な話題のすり替えに不思議に思うも、トビアの任務について伝える。

「定期動作試験…クルミは先生から説明受けた?あの時のロボットがらみ」

「ああ…!なかなかイかすデザインだったな…!」

先日の海沿いの倉庫のことを思い出し、目を輝かせるクルミ。

聞けば存在だけは知っていたとのこと。

「というか、聞いたら本人肯定してたな…」

「まあ、トビアも別に隠してるわけじゃないからなぁ…。あれ、もしかして…」

ここではたと気づく。

 

トビアのことを知らないのって、もしかしてたきな一人だけ?

 

「…うわーお」

このことを知ったたきなの反応を想像し、げんなりする。

絶対面倒なことになる。

間違いない。

もしそうなったときは、全力で逃げよう。

 

「ま、それはそうと、連中なに見てリコリスって識別してるんだろ。別に女子高生が襲われたってニュース観ないから、無差別ってことはないんだろうケド…」

「さあなぁ…、一応ボクの見立てではその制服のせいじゃないかと思う。色はともかく、デザイン共通だろ?」

そう言い、千束の着るその制服に目を向けるクルミ。

「お?…ああ~、確かに一度覚えちゃえば分かるか…。まあ、しょうがないんだけどねぇ…」

納得のいく考察だ。

リコリスのコンセプトの都合上、学生服を想起させる服装であることが求められる。

だが、あまりに特徴が一般的なものと同じだったりバラバラの制服だと、任務の際に味方の区別がつきづらくなったりといらぬ混乱が起きてしまう。

それを避けるために、統一されたデザインであることは仕方がなかった。

だが、

「味方の識別ができるってことは、相手にとっても敵だと識別できる。都会の迷彩服もこういう時は不便だな」

なまじっか、今までリコリスと相対して生き残った者がいなかったゆえの弊害と言えた。

 

「んー、じゃあ制服を隠すものが必要かぁ」

「まだ確実なことは何も言えないがな?」

これが事態に対する備えになればよいのだが。

 

◆

「うーん………」

夕方も過ぎ、そろそろあたりが暗くなってきた頃。

たきなは腕を組み、座敷で一人唸っていた。

 

「?どうしたの、たきな」

それを見つけたミズキが声をかける。

その後ろには、ミカの顔も。

「あっ、いえ、その千束にどうしても勝てなくて…」

「なにで?」

「じゃんけんです」

たきながそう言うと、二人は“ああ~”と納得のいったかのような声を出す。

「…たきな、あんた最初はグーってやつ、やってるでしょ」

「?え、ええ…」

「…それでは千束に勝てる訳はないな」

「うん、無理無理」

「は…?それって、どういう…?」

彼女たちの反応に戸惑う。

どこか同情的なのも気になる。

 

「まず始めに、千束が弾丸避けやってるのは知ってるでしょ?」

「は、はい」

ミズキから説明が入る。

曰く、その絡繰りは偏にその化け物じみた動体視力にあるという。

「あいつ、服どころか筋肉の動きを見て予測して避けるのよ。そんな奴が、じゃんけんなんてやったらどうなると思う?」

「……えっ、まさか…?」

「ああ、最初はグーなんてやったら読まれ放題だ。変えないと分かればパー。変えると分かればチョキを出して、絶対負けない」

とんでもないことを言われる。

確かにアサルトライフルの掃射を避けるというトンチキなことをやっていたが、まさか見て避けていたとは。

 

ということは、

「もしかして、引き分けできる確率が3割で、勝つことは不可能…?」

「そうだ、もし勝負しようと思ったら間髪入れずに先手を取る必要がある」

「え、ええ…?マジ、ですか…?」

「マジ、よ」

なんだそれは。

つまりは、千束は自身の最も得意とする方法で家事を免れていたということだ。

それは何というか、

「大人げ、なさすぎる……」

「千束はそういうやつよ…。トビアから教えてもらわなかった?」

「いえ、一度も…」

どうやらトビアも知っていたみたいだ。

教えてもらいたかった…。

 

そこで、ふと疑問が浮かぶ。

「あれ、もしかしてトビアも…?」

流石に拳銃相手ではあるが、同じく銃弾避けをやってのけたトビアのことだ。

ボドゲ大会の戦績のこともある。

「ああ、あいつの場合もっと性質悪いわよ?なんせ心でも読んでるんじゃないかってほどえげつないから」

知りたくなかった…。

 

「組長さんとこに配達行って来る~…、あれ、どしたの?みんな?」

そこに、更衣室からでてきた千束が合流。

おもわず呆れたような、微妙な表情を浮かべてしまう3人。

「いえ、別に…。?どうしたんですか、その恰好?」

見れば、千束は黄色いポンチョを身に着けており、ひらりと一回転。

「へへっ、どーよー?クルミとも話してたんだけど、制服でリコリスの事見分けてるんじゃないかって」

「ああ、それでその恰好…。少し待ってください、私も準備しますので」

「や、だいじょーぶ!別に組長さんとこ遠くないし、歩きで行くから。それにチンピラ程度どうこうされるようなタマじゃないよ」

そう言って準備を進める千束。

「ですが、トビアもまだ帰って来ませんし…」

「心配し過ぎだよ~!大丈夫、やばくなったらすぐ逃げるから!」

“じゃ、行ってきまーす”そんなふうに、軽やかな足取りで外に出ていく千束。

いくら心配しようとどこ吹く風。

実際、千束の戦闘能力に信頼をおいていることもあり、後ろ髪をひかれながらも見送るたきな。

 

何事もなければいい。

 

「あ、あ、あああああああ!」

そんな思いが裏切られるのは、クルミの叫ぶ声が上がってすぐの事だった。

 

◆

「これで、今回のチェックは終了、か。…なんだか珍しい時間帯にやりましたね?いつもは早朝なのに」

〈すみません、スカルハート。例の事案でどこも手が回っていない状況でして、今回は前倒しさせていただきました〉

 

X1の定期動作試験も終わり、コクピットの中でオペレーターと会話を交わすトビア。

あまりない時間帯での試験に理由を尋ねると、返ってきたのは例の事件。

「何か分かったことで、こちらに流せる情報は?」

〈…ご配慮、ありがとうございます。ですが、今のところ有力なものはありません…〉

やはり簡単には流れてこないようだ。

「場所の一貫性もないし、…その子たちが参加した作戦とかが、手がかりか…?」

〈そうですね、…こちらでも似たような線で調べていますが、サードは基本的にどの作戦でも投入されるので絞り込みができていない状況です〉

「…そうか、分かりました。引き続き、単独行動を避け警戒を続けます。情報ありがとうございました」

〈………あっ。図りましたね、スカルハート…!〉

「それでは通常任務に戻ります。通信終了」

言って通信を切る。

 

最初は制服で判別してるのかと思ったが、それにしては随分と人数が少なかった。

都内にどれだけのリコリスがいることか。任務の性質上、単独行動の者も多いはず。

無差別にリコリスが被害に遭ってるのではなく、標的を絞って襲撃をかけている印象だ。

「彼女たちが参加した作戦…、被害が出たのは最近になってからだから、ここ1年以内か…?」

コクピットの中、ひとり呟くトビア。

最近の作戦で、それも標的や関係者が逃れられるような、特殊な事案…。

 

「待てよ…、まさか…!」

そこで、はたと気づく。

一つだけ、思い当たるものがあった。

上記の条件に加え、前代未聞のラジアータへのハッキングという事態が起こった事件。

そして、自分たちも関わった、未解決の事件。

「銃取引…!だとしたら!」

まずい、もしそうだとしたら、自分たちも標的だ。

 

いそいでスマホを取り出す。

リコリコに連絡を入れ、確認をとらなければ。

と、ここでスマホのバイブレーションが鳴る。

発信元はミカだ。

「もしもし、ミカさん?」

〈トビア、お前は無事か⁉〉

電話に出ると切羽詰まったミカの声。

一体何があったのか。

〈クルミから解析の結果が出た、被害者は全員例の取引の作戦に参加していた者だ…!〉

「やっぱり…!それで、ぼくらも標的でしたか…?」

〈ああ、連中どうやらあの時のDAのドローン映像を入手していたらしく、千束も映っていた!〉

「!」

こちらの予想が当たってしまった。

 

「千束は⁉」

声が大きくなる。

彼女のことだ、自信の腕を正確に把握しているからこそ、たきなを連れず単独行動に出ることもためらいがないだろう。

周囲もすっかり暗くなっており、敵が仕掛けてくる可能性も高い。

〈一人で組事務所まで出た…!今たきなが連絡を、……なんだとっ!〉

ミカの声が焦りを含んだものになった。

“代わってください!”電話の先、少し離れた位置からたきなが大声を出している。

〈トビアっ!千束が襲われました!〉

たきなが焦りながらこちらに状況を伝えてくれる。

 

その声を聴いて、トビアは倉庫のシャッターを遠隔操作で空け、X1を起動させる。

 

「たきなたちは急いで千束の救出に!おれもすぐに向かう!」

明確なDAとの契約違反だが、そんなものは千束を助けてから考える。

 

「無事でいてくれ…っ!」

横にあるマントを引っ掴み、発進。

クロスボーン・ガンダムの目に光が灯る。

 

背部のスラスターを吹かせ、鋼の巨人が夜空を舞う。

 




以下、いつもの筆者メモ
1.
・リコリス襲撃事件→正直5話のラストのあれ、あんな人通り少ないことある…?なんて思ってみたり。まあ、深夜2時ぐらい回ると東京あんな感じですが(残☆業)
・宣戦布告→最初のイメージ。まあ、実際はリコリスの端末からDAの位置を割り出すための襲撃だったのですが…。
・巻き込まれる予感→まあ、巻き込んでなんぼなんでね。仕方ないね。

2.
・お片付け→正直、あんだけ散らかってたら、異性は上げられないと思うの。
・千束家→ああいうからくり屋敷は、いつ見ても心躍るものです。私も戸隠でハッスルしたっけなぁ…。(忍者村)
・家事分担表→アニメで見た時、実はたきなちゃんもウキウキだったのでは?と思ったのは内緒。
・見せていい下着→15話から引っ張ってきたネタ。感想で結構おもしろそうなネタもあったし、また擦ってくかも?
・じゃんけん→最初はグー、ド〇フが発祥だと最近知りました。

3.
・労働者諸君→BS〇レ東で、釣り〇カと交代で毎週やってるイメージ。まだ子供のころのDr.コ〇ーがいてびっくり。
・トビアの趣味→時代劇とか、邦画特有の人情モノとか好きそうな勝手なイメージ。少なくとも七〇の侍は履修済みのよう(鋼鉄の7人第1巻より)
・秘密主義→観てた当初は「あれ、リコリコ支部なのでは…?」と思った場面。
・肉じゃが→安定のジャガイモ料理。自分で作ると結構大変。
・洗い物2人→どっからどう見ても新婚さんのそれ。
・チンピラ→ピッキングしてたケド、今時のマンションって鍵二つ付いてない?1個だけってまあまあ怪しい気もする。
・リリベル→もうちょい彼ら活躍させてもいいのでは?スピンオフとか…
・名探偵たきな→うさみちゃん風味≪●≫≪●≫

4.
・リコリス制服→デザインはともかく、色が意外と抑えめ。
・千束じゃんけん→アニメでもよく見ると、ちゃんと微妙に後出しじゃんけんぽくなってる、気がしてくる(錯覚)
・トビアの場合→NT相手に無謀な戦い。
・ポンチョ→あのめくり方はよくないと思うの、私。
・組長さん→喫茶店から歩いていける距離にある組事務所って、何?
・どたばたクルミ→ちょっとかわいい。でも結構シャレになってなかった。
・クロスボーン、発進→というわけでね、真島さんはひどい目に遭っちゃってください(ひろ〇きメーカー)

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
もはや月間投稿と言わんばかりに間が開いてしまった…。

またしてもバカ長くなってしまったので、分割になります。
後編は近日投稿予定です。

…流石に今週中にしますよ?ホントですよ?

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。
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