海賊少年を百合の間に挟んでみる実験   作:愛犬家

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急にいろんな仕事が入って死にそうなので初投稿です。

連休前はいつもこう…。
余裕ないのは分かるケド、それは私たちだってそうなのよ…?

さて、今回は前回の分割分、後半になります。

ほんの少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。

それではどうぞ。


最近ガンプラ買うだけで並ぶの、どうにかならないかなぁ。
ビッグオーとか簡単に買えたのに…。


#25海賊と少女の恩人②

3.

尾行作戦当日。

 

午後になり客足が落ち着いたリコリコの店内。

休憩がてらカウンターに座り、なんとなしにテレビを見ていたミズキが声を上げる。

「…ねえ、この警察署って阿部さんの所じゃない?」

「?」

 

ミズキの声に反応したトビアがのぞき込む。

見ると、ニュースのようだ。

『…現場は暴力団によって荒らされており、この事件により…』

「うっわ、すんごい紋紋…」

それは、北押上署が暴力団によって襲撃を受けたというものだった。

制圧された後なのだろう、立派な刺青を入れた半裸にさらしを巻いた男が警察官に取り押さえられている様子が画面に映し出されている。

「うん…?なんかあからさまじゃないか?この映像…。今時こんな…」

 

カランコロン

 

トビアが映像に違和感を覚え、もっとよく見ようと画面に近づこうとしたとき、不意に店の扉が開く。

お客さんかと思い姿勢を正すと、そこにいたのは2人のリコリス。

フキとサクラのコンビだった。

「この前ぶりです、トビアさん。千束はいますか?」

「お、お久しぶりです!」

「いらっしゃいフキさん、サクラさん。今呼ぶよ。千束―?」

厨房にいるであろう千束を呼び出す。

何か緊急の案件があったのだろうか。

「お、いらっしゃーい、フキ!」

「いや騒がしいな…。とりあえず説明の前に、お前に見てもらいたいものがある。トビアさんも」

「あ、その前にテレビ消しますね」

サクラがリモコンを手に取り、スイッチオフ。

2人がカウンターに座る。

「…ん?見ない顔が増えてるな」

 

びくっ

 

ミズキと同じく、休憩中だったクルミに気づき、フキが声をかける。

見覚えがないこともあって、じっと見つめられ震えるクルミ。

なにせ、以前DAにハッキングを仕掛けた張本人、ウォールナットその人だ。

気まずいどころの騒ぎではない。

何だったら、死亡したと確証が得られていないので目下捜索中だったりする。

なので、

「デっ、ディっDAの、者、デス…」

クルミは冷や汗と震え声で、何とか嘘をつこうとするのであった。

「……そうなんですか?」

フキは訝しがりながらも、確認のためトビアに聞く。

「あー、…そうだね。DAからの紹介でね、ウチの電子担当なんだ」

流石にかわいそうなので、乗ってあげることにするトビア。

実際、もうリコリコに欠かせない大切な仲間だ。

売るような真似はする訳にはいかない。

「それなら、少し借ります」

トビアがあまりにも自然に流したため、フキは特に気にせずクルミのタブレットPCを借りる。

手には、1本のUSBメモリ。

それを差し込み、動画を再生させる。

 

「…それは?」

「先ほどのニュースで流れていた襲撃事件、その元データです」

そこには、先ほどのニュースと違い、暴力団ではなく非常に見覚えのあるサングラスとツナギ姿の集団が警察署を襲っている姿が映し出されていた。

「ニュースまんまじゃねーじゃん!何、あいつらがやったの?」

「報道はカバーしてるに決まってるじゃないっスか」

ミズキが指摘すると、サクラがそう答える。

先ほどの違和感はコレか、と納得するトビア。

だが同時に一つ疑問が生じる。

「…ラジアータが察知できなかった?」

「……はい」

サクラが意気消沈したように答える。

こういった事件が起こる前に制圧するのがリコリス。

そしてそれを可能とするスーパーAIラジアータ。

だが、今回の事件を防げなかったということは、ラジアータが正常に機能していなかったという事。

1度ならず2度もやられた。

事態は想像以上に深刻だ。

 

「おや?珍しいお客さんだな」

映像を見せられていると、店の奥からミカが出てきた。

「あっ……、ご、ご無沙汰してます…」

その様子に顔を赤くするフキ。

マジか、とトビアに顔を向けてくるサクラとクルミ。

「…2人とも、何か注文は?せっかくだから何か食べていきなよ」

とりあえず空気を換えようと、トビアがフキとサクラに話しかける。

「そうだな、せっかくだから何か頼んでいくといい」

ミカが後を引き継ぎそう声をかける。

「あ、それならこの抹茶団子セットというのを…」

「千束ぉ!どれだぁ!どいつだぁ!!」

「うおぉわぁっ!そんな大声出さなくても分かるって……あああっ!」

 

照れ隠しの為か、大きな声を上げ千束に確認を促すフキ。

すると、千束が画面を一時停止。

そこから少し逆再生し、また一時停止。

 

そこには、カメラをはっきり認識したのだろう、画面を向いた緑髪のアロハシャツの男が映し出されていた。

「あー!コイツだコイツ!ねえ、トビア、たきな!」

「…ですね、私たちが見た相手です!」

「うん、間違いない。…左腕、吊ってないな。あの時の怪我は、もう治った…?」

真島の姿を見つけた千束がトビアとたきなを呼び寄せ、確認を促す。

「そう、か…こいつが……!」

何人もの仲間を屠ってきた仇だ、フキが画面を睨みつける。

 

「これ髪型は絶対私のだろー?」

「色だけじゃないですか!絶対私の方が正確です!」

「うん、空気読んで?2人とも」

この前の似顔絵の事で言い合う千束とたきなに、思わずツッコむトビアであった。

 

「…確認はとれた。お邪魔しました、トビアさん。行くぞ、サクラ」

フキはそう言うと、席を立ちサクラの制服の襟をつかむ。

「…え⁉まだ頼んだの来てないんですケド⁉」

そのまま引っ張り店の出口へと歩いていく。

「いいから行くぞ!」「なんで⁉先輩⁉」

抵抗むなしく引きずられるサクラの姿に何も言えなくなるトビア。

カウンター傍ではまだ2人がどっちが似てるだの言い争ってる。

なんだこれ。

 

「…トビア、見ろよ」

タブレットPCで先ほどの映像を見ていたクルミから声がかかる。

どうやら何か見つけたようだ。

「……うわあ」

思わず声が漏れる。

そこは署長室と思しき部屋、荒れ果てたその壁に真っ赤な塗料で一文。

 

“勝負だ!リコリスども!”

 

真島からの宣戦布告、そのものだった。

 

 

 

4.

「…腹減ったわねー」

「…おうどんでも湯がきます?」

「いいわねぇ、他に食べる人は?」

「食べまーす!」

「お、じゃあぼくも」

「はーいよ、じゃ準備するわ」

 

その日の夜、営業も終わりこれからどうしようという時分。

作戦決行までの時間が迫ってきた。

差し当たっては、ミカに怪しまれないよう気をつけなければならないが…。

「…ああ、悪いが私は少し出てくる」

店のドアの前に立ち、ミカが声をかけてくる。

「ミカさん?どちらへ?」

さりげなく行先を確認するトビア。

「……なに、野暮用だ。戸締りは頼むよ」

そう言い、扉を閉めるミカ。

 

「…よしっ」

そう言い、準備を始めるトビア達。

何せ、会員制の秘密バーだ。

衣装を合わせるだけでも準備が大変だ。

「すまん、言い忘れたがガスの元栓……どうした?」

 

しかし、ここでミカが戻ってくる。

全員、準備の途中で変な動きになっておりミカは首を傾げる。

咄嗟に納戸をのぞき込んだトビアはまだましな方で、ミズキは謎体操、クルミはジャンプを繰り返し、千束とたきなは鞄の開け閉め繰り返し。

何だこの状況。

「…何をしているんだ、お前たち…」

「いやあ、うどんを、探してまして…。ここに入れたと、思ったんだけどぉ…」

なんとか取り繕うトビア。

「…こ、こっちは、なかったヨー?」

「…わ、私の鞄にもありません、デシター」

たどたどしく返す千束とたきな。

まだこっちはいいとして、ミズキたちはどうフォローすればいいのか…。

「…うどんならトビア、その納戸にあるはずだ」

「……あ、あった」

「…?まあ、とにかく頼んだぞ」

そう言い残し、今度こそミカが店から出ていく。

「………寿命縮んだわー」

「それ冗談にならないんでやめてください…」

千束の余りにもあんまりな言葉にツッコミを入れるたきな。

 

何はともあれ、作戦決行だ。

 

「で、ぼくはこの格好?まあSPっぽさはあるか…」

「おお、意外と様になってるねぇ。サングラスとスーツ!」

「……顔の傷が違和感消してますね」

 

ミカに付けた発信器の信号をもとに、いつもの乗用車で追跡する5人。

運転とナビゲーションの2人を余所に、千束たち3人は後部座席で会話を交わす。

 

千束は真っ赤なドレスに身を包み、たきなは黒いスーツを着こなし男装の装いだ。

対するトビアは、たきなのものに比べると飾りっ気のないスーツに、黒いサングラスをかけている。

顔の傷も相まって、歴戦のSPのようだ。

「…まあ、説得力が増した、のかな?ただでさえ成人には見えないから、変なとこで助かったけれど」

苦笑いを浮かべ、頬を掻きながらトビアが独り言ちる。

 

「さて、データの偽造はしっかり済んでる。ちゃんと名前もそのカードの通り答えろよー?」

「……通るんですか?この名前」

ナビとして助手席に座るクルミから渡されるカードに目を通し、たきながぽつり。

やはりトビアのように希望を出しておくべきだったか…。

「だいじょーぶ、データ自体いじってるからバレないよ。安心して名乗ってくるといい…!」

駄菓子をかじりながらクルミが笑う。

このハッカー、確実に楽しんでいる。

 

トビアを挟んで座る千束がフクロウのペンダントを首にかける。

「今朝もニュースで金メダルとったって言ってましたね、アランチルドレン」

「あーら、そう。私にもあっちゃったり~?そういう才能」

なんとなしにそう声をかけるたきな。

と、いうか

「…弾丸避けるのは、誰にでもできることではないと思いますけど…」

「あれは勘だよー、トビアだってできるし。ま、弾丸より早く動ければメダル獲れるんだけど」

おどけながら千束にそう返される。

「まあ、確かに同じようなことできる人がそばにいますけど…」

「トビアは基準にしちゃダメよー?そいつ、ただでさえ色々できるんだから」

「……それもそうですね」

運転席のミズキからそう言われると、納得するたきな。

確かに、トビアも十分おかしい側だ。

 

「…え、ぼく何気に異常扱いされた?」

「アランさんの手違いだな」

「なんちゅうことを言うんだ、貴様」

「ねえ、無視?スルー?ええ?」

トビアの抗議をスルーし、千束をいじりだすミズキ。

「ま、メダルなんて取れなくたって、人の役には立ててるでしょ?…DAになんて戻ってられないよ」

 

「やりたいこと優先、ですもんね?」

たきながそう返すと、千束は満足げに笑うのであった。

 

「…凝ってるなぁ」

「壁に隠されたパスコード入力機…すごいセキュリティ意識ですね…」

 

バーのあるホテルにたどり着き、受付を済ませ入り口まで進み、傍の壁を軽く押すトビア。

一見何の変哲もない壁だが、押した箇所が開き入力機が現れる。

事前にクルミから聞いていたパスコードを入力すると、扉が開く。

「流石はウォールナット…」

扉の先を軽くのぞき込む。

そこから垣間見えるのは長く続く廊下。

「…まだ受け付けは先か」

「…私、この名前受付に言うの嫌なんですが…」

隣でたきながげんなりしながらそんなことを言う。

まあ、確かにあの名前はない。

「文句言わないの、希望出さなかった私たちが悪いんだから」

千束がそうたしなめるが、思う所はあったようでその表情は少し優れない。

 

「…じゃ、気を取り直して…ミッションスタート」

千束の号令に合わせて、受付へと進んでいく3人。

トビアとしては2人の護衛というポジションのため、少し後ろを歩く。

「ようこそいらっしゃいました。恐れ入りますが、お名前をお聞かせ頂けますか?」

受付スタッフから声をかけられる。

ここがある意味正念場だ。

「…蒲焼太郎」

「わさびのり子」

…2人はなんとか顔に出さずに言えたようだ。

インカムの向こうでクルミの笑いをこらえる声が漏れる。

リクエストしておいてよかった、トビアは心の底から思った。

「…そちらのお付きの方も、お名前をお願いします」

トビアに順番が回ってきた。

 

正直、今でもこの名前を使ってしまっていいものかという迷いがある。

エウロペから託された、自分によく似ていると言っていた人の名前。

…あの子の隣に立つために、被らなくてはいけないその名前。

 

「…護衛の、カーティス・ロスコ」

 

“本当のカーティス・ロスコは、一体どんな人だったんだろう”

少しでも恥じぬようにと、胸を張ってトビアは名乗りを上げた。

 

 

 

5.

「ト…カーティス、いつまで立ってるの?隣に座ればいいのに」

「いえ、奥様。私はあくまで護衛ですので。旦那様と2人でお楽しみください」

 

席へと通された千束一行、目の前にはシャンパンの注がれたグラスが3つ。

座るたきな達2人を余所に、トビアは1人後ろに立ち周りを見渡す。

どうやら、まだミカは来ていないようだ。

 

「…クルミ、監視カメラの掌握は終わった?」

インカムに耳を当て確認をとるトビア。

〈ああ、ばっちりだ。こっちでも見ておくから、お前も席に座って大丈夫だぞ、トビア〉

「いやあ、護衛って言っちゃってるから、なんか座りづらくって…」

頬を軽く掻き、ばつの悪そうな表情をしている。

「…カーティス、護衛は大丈夫です。あなたも一緒に楽しみましょう」

ここでたきなかがフォローを入れる。

こういう一言があれば、座っても違和感はないだろう。

「……はい、それでは、ご一緒させていただきます」

許しを得たという体で座るトビア。

なんだかんだ慣れない環境で少し疲れたのか、ため息をついている。

 

「なーんで私ので座ってくれないのー?」

千束が少しむくれながら文句を言う。

たきなの許しで座ったのが気に食わないようだ。

「こういう場合は、やっぱり男の方が上に見られるからね。許可を出すには違和感が少ないと思うよ」

「男女差別―…」

「?私女ですよ?」

「そういう事じゃねぇー…」

こうやって過ごすこと少し、遂にお目当ての人物がやってくる。

 

「…ミカさん来たね」

「え、なにあれ、先生バッチリ決めすぎじゃない?」

「これ、本当に逢引じゃないんですか…?」

たきな達の目に映るのは、黒いシャツに真っ白なジャケットを羽織ったミカ。

首元に光るネックレスがいやに映える。

〈…なあ、ボクの言った通りじゃないか。楠木が来る前に撤退した方がいいぞ〉

クルミがそうぼやく。

確かに気まずくなるくらいなら、さっさと出た方がいい。

〈いや、でも楠木って……〉

「「女性、だからなぁ」」

「………え?」

インカムの先でミズキがそう言うと、同時に呟く千束とトビア。

どういう意味だろうか。

いや、女性だから考えられない、という意味なら……?。

「あ、誰か来た…!」

「え、あれ、うっそ…」

カウンターに座るミカの隣に、軽く手を上げながら近づく影が一人。

 

それはいつものスーツを身にまとった、吉松シンジその人だった。

 

「…本当に逢引だったかぁ」

「だね。…うわ悪いことしたなぁ」

「え?」〈…ええ⁉〉

トビアが断定、それに同意する千束。

余りの衝撃発言だ。

インカムの先でもクルミが似たようなリアクションをとっている。

「さ、帰ろう。二人の邪魔しちゃ悪いよ」

「うん、そうだね。行こ、たきな」

「え、あ、ええ?」

トビアの号令で席を立つ千束。

そして、まだ状況が追いついていないたきな。

〈…待て待てお前ら、ミカはそうなのか⁉それ先に言えよ⁉おい!〉

クルミが何かに気づき、わめきたてる。

「他人の趣味趣向を言いふらすわけ無いでしょ…」

「愛の形は人それぞれなんだよ、たきな」

「は、はぁ…?」

千束に言われ、首を傾げるたきな。

なんだか暴いてはいけない秘密を暴いた気分だ。

 

「こっちこっち」

「いや、リコリコの常連ですし、挨拶くらいは…」

「いや気まずいだけだから。あとで教えてあげるから、今は帰ろう…!」

トビアが先導し、千束の後ろに並びながらそそくさと出口へと向かう。

植木越しに見える2人は、背中を向けていることもあってよく分からないが親しげな雰囲気だ。

時折聞こえる会話も和やかなもの。

 

だが、ここで吉松の声音が固いものとなった。

「手術を終えた後、私はあの子を君に託した。その意味を忘れたのか?ミカ」

 

前を行く千束の動きが止まる。

急な停止に、たきなが千束にぶつかる。

それを余所に、吉松は決定的な言葉を吐く。

 

「何のために千束を助けたと思っているんだ?あの心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ?」

 

「え…ヨシさん、なの?」

千束の顔は2人へと完全に固定されていた。

「千束?帰るのでは…」

「ヨシさんだよッ!」

「!ばっ、出ちゃダメだって…!」

そのまま植木をよじ登ってでも2人の下へ行こうとする千束を、何とか諫めようとするたきなとトビア。

 

だが、千束はこちらのことなどお構いなしに前に出てしまう。

「ヨシさんなの?」

「!…千束…⁉」

声をかけられ、咄嗟に振り向くミカと吉松の2人。

「ミカ…!」

「違う!!」

責めるようにミカの名前を呼ぶ吉松。

「違うの!先生のメールうっかり見ちゃって…ごめんなさいっ!」

慌てながらも必死に頭を下げる千束。

「……千束だけに謝らせられないね」

「…ですね」

そう言って、トビアと一緒に前に出るたきな。

こちらに気づき、顔をしかめるミカたち。

「お前たち…」

「ごめん、ミカさん。止めるべきだった」

「司令に会うのかと…、ごめんなさい」

そして、頭を下げて謝罪。

 

「でも、その、今の話……ちょっとだけ、ちょっとでいいからヨシさんと話をさせてっ!」

がばっと頭を上げ、そう言う千束。

以前聞いた、喫茶リコリコを開く理由の一つだった自分を助けてくれた救世主との再会。それが叶えられたのだ、無理もない。

「……なにかな」

そんな千束の視線に折れたのだろう、カウンターに身体を向き直し話を聞く体制に入る吉松。

 

「……千束、ぼくたちは先に出てる。後はミカさん、頼みます。行こう、たきな」

「…はい、失礼します」

トビアと一緒に軽く会釈し、その場を後にする。

 

ここからは、当事者3人の話になるのだろう。

それこそ邪魔をするわけにはいかない。

 

ただ、少し気になることが一つ。

自分たちが千束に続いて物陰から出てきた時のこと。

(吉松さん、なんでトビアのことを…)

あんな、敵であるかのような目で見たのだろう。

 

ホテルの出口で千束たちを待つトビアとたきな。

思い返すのは、先ほどの吉松の事。

 

(…やっぱり、ヨシさんはアラン機関の人間…)

そもそも、小さくて気づき辛いがスーツのフラワーホールにフクロウのバッジを付けていた。

アランチルドレンのペンダントと、まったく同じデザインのものだ。

(そして、千束の才能を見出した張本人、支援した救世主その人…)

だが、なぜこのタイミングで現れたのか。

ただの親心で様子を見に来たとは考えにくい、あるいは旧知の仲であるミカに会いに来たのだろうか?

しかし、今回は“千束の事で話がある”ということで呼び出している。

目的が千束であるのは間違いないだろう。

で、あるならば、なぜ今になって…。

 

「…うん?」

「?トビア、どうしましたか?」

ふと、あることが頭をよぎる。

 

そう言えば、千束のリコリスの任期はいつまでだっただろうか?

それは、そんなに先の話ではなかったのでは?

そんなタイミングで現れた。

そこから考えられるのは、

「まさか、千束に替えの…?」

 

そこまで考えていると、不意にエントランス付近に吉松の姿が見えた。

「…トビア、挨拶だけでもしていきましょう。今日の事も…」

「そう、だね。…うん、ちゃんと謝っていこう」

たきなに袖を引かれ、彼の下に向かう。

 

「ヨシさん」

こちらの呼びかけに顔を向ける吉松。

迎えの車にちょうど乗り込むところだった。

「…今日は、お邪魔してしまって本当にごめんなさい。でも、千束は喜んでました」

たきながそう呼びかけるが、彼の表情は冷たいものだった。

とてもリコリコで見かける吉松とは似ても似つかない。

「…また、お店に来てください。千束も、僕たちも一緒に待って——」

「君たちなら分かるはずだ」

吉松がトビアの声を遮る。

「千束の居場所はそこではない。」

冷たい声だ。

「トビア君、誰もが君のようにどこに行っても才能を活かせるわけじゃない。それぞれ決められた場が用意されているんだ」

「ヨシさん…?」

「だから、たきなちゃん。君には期待している。」

「…え?」

不意に名前を呼ばれ、驚くたきな。

「ヨシさん?それはどういう…」

「トビア君、君には伝言が一つ」

そしてそのままトビアに話しかける吉松。

脈絡も何もあったものではない、どこか不気味な雰囲気だ。

そしてその言葉にトビアは目を見開くことになる。

 

「“シンヴァツの借りは返す”…私の友人からだ」

 

「……な、…!!」

 

言いたいことは言ったという事か、こちらを見ることもせずそのまま車で走り去っていく吉松。

 

「トビア、今の“シンヴァツ”って…」

「…おれが、こっちに来るきっかけになった、最後の作戦目標だ……!」

彼の口からこの単語が出たということは、あいつと少なからず関係があるという事。

それと連なるように、嫌な想像がよぎる。

まさか、あのMS達は本当に…。

「何を、企んでるんだ…、ヨシさん、……カリストッ!」

 

拳を握り、彼の去った方向を見つめるトビア。

その表情は、非常に険しいものだった。

 

吉松と話した後、千束はひとりカウンター席にて黄昏ていた。

一緒にいたミカは彼を見送ると言って席を外しており、一人待つ形だ。

 

「……受け取って、くれなかったなぁ」

ずっとお礼を言いたかった。

あなたのおかげで、自分は助かった。

今度は同じように、自分も誰かを助けたいと思って、今日まで頑張ってきた。

そう伝えたいが為に、DAを出てリコリコを始めたといっても過言ではないくらいだ。

なのに、

“それを認めることはできない、そういう決まりなんだ”

“君は、リコリスだろう?”

“アランチルドレンには役割がある。ミカとよく話しなさい”

 

「…ヨシさん、またお店に来てくれるかな…」

自分の最後の言葉はちゃんと伝わっただろうか。

 

そして吉松の去り際の一言が、千束の胸を締め付ける。

 

「…“男は選びなさい”、か…。ヨシさん、なんで…」

 

いつも声をかけてくれる相棒たちはここにはいない。

誰かの声が聞きたい。

「……先生、早く戻ってこないかな」

不安な気持ちを抑えきれず、千束はぽつりとこぼす。

 

 

 

6.

「阿部さん、大丈夫だったの?警察署襲われたって…」

「いやあ、運が良かったよ。ちょうどあの時間は外に出てて…」

 

翌日の喫茶リコリコ。

この日は閉店後のボドゲ大会が予定されており、いつもより常連が多く集まっていた。

近場の警察署が事件にあったというのに、いつもと変わらない様子の店内。

特に、自身の職場をめちゃくちゃにされたというのにケロッとしている阿部には脱帽だ。

 

だが、そんな中で修羅場真っただ中の人間が一人。

「…終わらない、というかまとまらない…!」

漫画家の伊藤だ。

どうやら締め切り間近らしく、唸りながら手元の端末を睨んでいる。

催促でも来ているのだろう、先ほどからテーブルの上のスマホが振動を繰り返している。

「…はい、伊藤さん。少しは休まないと、書けるものも書けないよ?」

「トビアぁ…」

ボドゲの誘いも断るほど追い詰められており、見かねたトビアがブレンドとともに座敷に上がる。

「…トビアだったらさ、ここの悪役、殺しちゃう?」

「うーん、…情けをかけて生かした方がいいかなぁ。で“自分を生かしたことを後悔させてやる”って言わせるんですよ」

「ほほう、…それでこの後にもちょくちょく再登場させて?」

「で、主人公が負けそうになると“おまえを倒すのは自分だ!”と颯爽と登場!…どうかな?」

「…ベタだけど、熱い展開。それに、このキャラ単体で話も作れる…!」

どうやらギアが入ってきたようだ。

「やっぱりトビア達の意見の方が参考になる~…。編集代わってもらいたいくらいよ~」

「その編集さん泣くからやめなさい」

目がマジだから笑えない。

 

「…千束、今日は遅いですね」

「そうだね、昨日は色々あったし…正直おれも考える時間が欲しいかも?」

アイデアを得て作業を再開する伊藤から離れ、カウンター傍でたきなと合流するトビア。

昨晩の吉松の“伝言”により、トビア自身もかなり疲れてはいた。

「ま、ゆっくり寝たらスッキリしたし、おれは別に大丈夫」

「切り替え早いですね…」

呆れたように言うたきな。

 

「…今日くらいは休ませてやろう」

カウンター越しにミカが言う。

…どうやら、千束は吉松とうまく話せなかったようだ。

今のミカの態度でなんとなく察する。

自分たちでさえアレだったのだ、無理もない。

 

「おいっ、ミズキ⁉日の高い内からなんちゅう格好してんだ⁉」

「ミズキちゃん、決まってるねぇ。お出かけかい?」

「まあねぇ?」

「どこ行くつもりだよ…」

「決まってるじゃなぁい、昨日のバーよん」

 

「…いつも通りだなぁ」

「…いつも通り、ですね」

「……だな」

何やらミズキがきわどい恰好で外に出ようとしていた。

手には昨晩自分たちが使っていた会員カード。

「あれ、そう言えばあのIDってもう消したのでは…?」

「……あっ、逃げた」

クルミにそのことを指摘され、駄々をこねながら店外に駆け出すミズキ。

 

いつもの騒ぎ、いつものリコリコの風景。

「この分なら、来るだろうね」

「……ですね」

一つ確信をもって、トビア達は微笑む。

 

カランコロン。

「千束が来ましたあああぁぁ!!」

 

だって、ここが彼女の居場所なのだから。

 

 

 

おまけ

 

「それで、他の商品はどんなのだ?」

〈え?〉

「まさか2種類だけってわけじゃないだろ。もうちょい用意してるんじゃないか?巨大ロボ」

〈あー…まあ、作ってる最中でバリエーション考えてるとは言ってたんだケド…〉

「…?んだよ、やに勿体ぶるじゃねぇか」

〈その、デザイン、というか、扱える場所、というか…〉

「扱える場所?」

〈……海、限定、だそうです…〉

「は?……、デザインは?」

〈……オウムガイ〉

「は?」

〈オウムガイ〉

 

 

 

 

 

 




以下いつもの筆者メモ。

3.
・警察署襲撃→今の令和の時代ではあまり考えられない事件。沖縄?あそこは例外です(目逸らし)
・フキ・サクラコンビ入店→アニメでは、言動がどう見てもみかじめ料もらいに来たそういう方々。
・気まずいクルミ→どころか、命狙われてる。
・トビアに確認をとるフキ→信用の差。
・フキの男の趣味→いい趣味してると思う(熱いミカ推し)
・真島さんの腕→あの人異能生存体かなんかなので。仕方ないね。アストラギウス銀河の出身だな?おめー。
・宣戦布告→あんだけ鮮やかな赤ならペンキかな?…ペンキであってほしいな。

4.
・湯がく→私の地元では使ってなかったので、聞いた時”?”となった言葉。香川とかでも使われてるそうな。
・クルミのジャンプ→いったいどんな言い訳を想定してやってたんだろう。
・寿命縮んだ→ホントに君が言うとシャレにならないんだが?
・トビアの格好→スーツにグラサン。もちろんワンレン。
・駄菓子→蒲焼〇郎おいしいよね。ビッ〇カツとか。
・トビアの扱い→すっかりやべーやつ。でも少年漫画の主人公なんてそんなもん。(ド偏見)
・壁の中に…→やりすぎでは?
・2人の偽名→本編でクルミが言った通り、データだけ信じても碌なことはないですよね。

・トビアの偽名→正直、キンケドゥ・ナウとどっちにしようか迷いました。

5.
・シャンパン→ペリエの可能性も…。
・ミカの勝負服→ちゃんとカッコいいのズルいと思う。
・そしていつものヨシさんの服装→逆説的に、常に決めてきてるということかな?
・店内の観葉植物を乗り越えようとする千束→5歳児かな?
・VSヨシさんその2→いい案が出なかったのもありますが、こっちの方が不気味さが出るかな?
・トビアの才能→書いてて思ったケド、何だろう?決断力?…海賊?
・チラつく木星の影→という訳で、カリストさんにはアラン機関側に付いててもらいます。

・千束とヨシさん→演出のせいもあって、かなりかわいそうだったなぁ。
・男は選びなさい→筆者もそう思う(おい)。

6.
・職場を荒らされた阿部さん→逞しすぎない?
・修羅場の伊藤さん→「締め切りなんてね、言ってる側も大体3日ぐらい余裕もって言ってんのよ」「やめなさい」
・決めたミズキ→その恰好でわさびのり名乗る気…?
・逃げるミズキ→その恰好でいずこへ…?

おまけ→実はノーティラス、XB本編から30年くらい前のUC103にはすでにありました。とんでもなくシンプルな構造だから、作れるかな?って…。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
まーた長くなっちゃったよ…。
文字数も投稿迄の期間も…。(倒置法)

次回もやっぱり未定です。
ゴールデンウィーク、休めっかなぁ……

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけると幸いです。


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