海賊少年を百合の間に挟んでみる実験   作:愛犬家

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早速感想をいただき、うっきうきなので初投稿です!

今回は、短編集のようにしてみました。

トビア君がその後どうなったか、独自設定もりもりで書きました。

……はい、例によってバカ長くなったので分割です。

それではどうぞ。少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。




秋味おいちい。



#3海賊と10年①

1.

ふと目を覚ます。

時計を見ると、早朝4:30。

ランニングに向かうには、少しばかり時間が早い。

 

…それよりも、身体が重い。布団もふっくらと盛り上がっている。

まるで、人が一人入っているかのようだと、トビアは眠気眼をこすりながら思った。

 

布団を少しめくると、案の定女の子が一人、自分の上に乗っかっている。

「いや…、もうさすがに止めなって、千束。…もう17でしょ?」

「んー、あと1時間30分……。あと寒いから布団の中戻ってー……」

「かんべんしてくれよ…」

 

トビアがこの街に降り立ってから、既に10年近くが経っていた。

まだ小さな女の子だった千束も、背はすっかり伸びて、見た目だけなら立派なレディだ。

もっとも、行動がまるで成長を感じられないせいで、いつまで経ってもでっかい子ども扱いだが。

 

完璧に目が覚めてしまい、トビアは仕方なくベッドから出る。

「あ~、トビアの裏切り者ぉ~」とのたまう闖入者を尻目に、いつものランニングジャージを用意して洗面所へと向かう。さすがのトビアも、美少女が寝ている前で着替えるつもりはなかった。

 

「……結構攻めたつもりなんだけどなぁ」

 

一人残された布団で、小さく何事かがつぶやかれた。

 

電波塔事件、10年前のあの事件はそう呼称されていた。テロリストが旧電波塔を占拠し、爆弾を仕掛け、そのまま爆破した日本史上最大のテロ事件。首謀者・実行犯含め全員が死亡または行方不明とされ、旧電波塔自体も倒壊の恐れがあったものの、爆弾の仕掛ける位置が悪かったのか、はたまた倒壊を阻止したなにかによって、免れていた。現在は解体されており、代わりのシンボルとして「延空木」と名付けられた新電波塔の施工が進められていた。

この事件を最後に、日本では重大事件は起こらず、世界の治安度No.1を8年も維持し続けていた。

 

事態終息後、X1を地上に降ろしたあと、トビアを待っていたのはDAを名乗る武装組織に、自身が助けた千束と色が異なる制服を身にまとった武装少女たちであった。千束が前に出て必死にかばってくれてはいたが、一人で何かできる訳もなく、トビアはあえなくDA本部へと連行されることになった。

そして

 

——————トビアはなぜかDA所属のフリーエージェント兼喫茶店「リコリコ」の店員となっていた。

 

何が起こったか、少しまとめてみよう。

 

 

 

その1.尋問と対話

「薬でもやってんのか?」

「言うに事欠いて、それは無いでしょ⁉」

 

連行された先で、トビアは徹底的な取り調べを受けていた。

身ぐるみをはがされ、持ち物を没収され、身体測定、身体検査、薬物検査、etc…

そして今、尋問官からの質問に応じているのだが…

「そうは言っても、にわかには信じられないわよ、これ…。あんた、未来人なの?」

「まあ、おれも同じ立場にいたら、そう思うけどさ~…」

 

なお、X1は跪いている状態なのが幸いし、ビニールシートをかぶせて隠している。

重量が大きさの割にとても軽いこともあり、「不発弾が残っている可能性のある電波塔の残骸」としてDA本部へ運ぶ手はずのようだ。

 

トビアとしては隠すことでもないので、自分のこと、宇宙世紀のこと、乗ってきたのは何なのか、当たり障りのない部分を中心に話していた。

ある程度のことはX1のなかで千束と情報を共有しており、自分の異常性は十分に理解しているつもりだ。ちなみに、千束は「タイムマシーンだ!バック・トゥ・ザ・フューチャーだ!」と大はしゃぎだった。

 

「こんな話、どうやって報告書にしろっていうのよ…。次の尋問の時にはもっとマシな話にしときなさいよっ!」

「とうとう話作れって言ってきた⁉大丈夫、コレ⁉」

眼鏡をかけた、知的そうに見えた尋問官は投げやり気味に言いながら、席を立つ。

余談だが、彼女とは思わぬ場所で再会し、気心の知れた同僚になっていく。ヒントは喫茶店。

 

トビアが別室に収容され、暇を持て余しているところに思わぬ来客が訪れる。

「トビアっ!大丈夫っ⁉」

「うわっ!」

いきなりドアが開くと、千束がこちらに向かって飛び込んでくる。

今にも泣きそうな顔だ。

「ごめん…、ごめんトビア…。トビアは私を助けてくれただけなのに…」

「大丈夫、ひどいことはされてないから。…なんか面白い人だったし」

「…?」

 

ふと、千束の後ろを見やると、身体の大きな黒人男性が複雑な表情をしながら、こちらを見つめている。左手に杖を突いていることから、足が悪いのだろう。

 

「千束、彼と少し話をさせてくれないか?」

しばらく、千束が抱き着いていると、男性から声がかかる。

どうやら、彼女の保護者のようだ。

「先生、トビアにひどいことしちゃだめだよ」

「そんなことはしない。本当に話すだけだ。君もかまわないか」

そう言って、トビアを見据える。先ほどの顔は鳴りを潜め、敵意というよりは、より純粋な興味を感じる目をしていた。

「はい、…大丈夫です。」

「ありがとう。…千束、外で待っててくれるか?」

「……信じてるから」

“なにかあったらすぐ呼んで!”とトビアに強く念押ししたのち、千束は部屋の外へと出ていった。

「ふつう、逆じゃないかなぁ…?」

「ふふ、君もすっかり懐かれたようだな」

こちらを気遣ったのだろう、男性が柔らかく笑う。

 

「DA本部所属、戦技教官のミカだ」

「トビア・アロナクスです。」

まずは互いに自己紹介。なんでも、千束を見出してからは付きっ切りで、もはや家族のような関係なのだそう。

「…まずは、千束の命を救ってくれてありがとう。君のおかげで、損失は免れた。」

「感謝は受け取ります。でも、…その言い方は気に入りません」

組織として出た言葉なのだろう。

DAとリコリス、少女を暗殺者に仕立て上げ、国の治安維持を担わせる機密組織。とてもじゃないが、受け入れられる話ではない。千束から聞いた時も顔をしかめたし、先ほどの尋問官から聞いたときは、思いっきり噛みついた。ただ、その時の眼鏡の彼女の反応が「そう、だよね…。わかってる…」と妙にしおらしく、引っかかっていた。

 

ミカはトビアの言葉に「そうだな」と一言つぶやくと、

「いまのはDA戦技教官として。…これは、ただのミカとしてだ。トビア君、千束の心を助けてくれて、本当にありがとう。」

そして、深々と頭を下げた。

「どういうことですか?」

確かに命は助けた。何度も励ましたし、安心させるべく頭も撫でた。だけど、心とは。

「千束は、心臓を患っていた。」

「!」

「あの子は、戦いに対して天性のものを持っている。だが、激しい運動ができるような身体ではなかった。」

「え?でも、電波塔のテロリストたちを倒したのは…」

「人工心臓を移植したんだ。提供元は“アラン機関”。天才に無償の支援を約束する連中さ。聞いたことは?」

「いえ…」

「手術が終わったあと、千束は“アラン”から銃をプレゼントされてな、その時に言ったんだ。“これは人を救う銃だ”って。」

ここで、千束の謎が一つ解けた。

塔の倒壊を防ごうした時に見せた、あの戦士の顔は、彼女の信念の現れだったのだ。

「不殺…」

「さすがに気づくか…。あの子の信念だ。だから、君には“人を助けさせてくれた”と泣きながら喜んでいたよ。」

「…また、泣いたんですね?」

「ああ、千束は泣き虫なんだ」

和やかな空気が流れる。ここまで話してもらえれば、もうわかった。

千束自身もどこか、自分の才能は戦いの中でしか発揮できないと感じていたのだろう。才能を認めた「アラン機関」が銃を送ってきたことからも、想像がつく。だが、トビアはその才能を、その目の良さを、たくさんの人を助けるために使わせてくれた。そういうことなのだろう。

「君は、あの子にとって二人目の…恩人なんだ。だから、ありがとう。あの子を、救世主にしてくれて。」

そう伝えるミカの顔は、とても優しげなものだった。

「ところで、君の扱いについて相談なんだが…」

「あ、はい。」

「私たちと一緒に喫茶店を開かないか?」

「うん?」

「ここにいたのでは、千束は殺しを強要される。だったら、少しでも距離を取って遠ざけなくてはならない。」

「それは…」

「それに、トビア君。君も保護を名目にここに監禁、最悪の場合はあの人型だけ取り上げられて、処分されるかもしれない。」

「……」

「楠木…リコリスの司令にはよく言っておく。どうだ?」

「…教官って、司令に口出しできるものなんですか?」

「元、さ。直にそうなる。」

「答えになってない⁉」

 

 

その2.強要と脅迫

「お前の希望は分かった。千束と一緒にミカについて行くことは許そう。ただし、その人型…クロスボーンは置いていけ。」

「お断りします」

 

DA本部、リコリス司令室デスク。薄暗い部屋でトビアは目の前の人間とにらみ合っていた。

リコリス司令官 楠木。少女を戦わせ、死地に送り込む組織の直属の親玉。ただでさえ好感度はマイナスぶっちぎりだが、さらに彼女はX1を要求してきたのだ。

「ほう?お前は自分が今どのような立場にいるのか、自覚が足りないようだ」

「十分理解していますよ。X1が戦争の火種になることもね…」

あれだけのテクノロジーの塊だ、装甲の一つでも調べることができれば、日本の工業は頭2つ3つは抜きんでて、世界のトップに躍り出ることも可能だろう。そのようなものを、果たして他国が放っておくだろうか。必ずX1をめぐって争いが起きる。いざとなったら、自分が乗り込んで処分するためにも、阻止したいところだった。

「そもそも、あなた方、あれ動かせないでしょ?」

「お前が動かせばいい」

「そんな態度で協力すると?」

「お前の身柄を預かっているのは我々だが?」

双方の主張は、平行線をたどった。

楠木としては、ミカたちに戦力が集中しすぎるのは避けたい事態だし、なによりクロスボーン・ガンダムにはそれだけの魅力がある。

「…どうしても、ガンダムを諦めてはくれませんか?」

「そうだな、どうしてもだな。それで返答は?」

「………」

トビアは覚悟を決める。千束や仲良くなった眼鏡の尋問官から聞いた、この国にとって最大のトラウマを盾にすることに。

(やりたくねぇ~…。でも、こうでもしないと)

 

「…もう一度、言ってみろ」

楠木の声が震える。その可能性を考えなかったわけではない。あれだけの図体で、空中に飛んで浮かんで見せたのだ。いったい何を動力にしているのか。

「…核ですよ。クロスボーン・ガンダムは、核を動力にしています。」

核。原子力。日本は世界中でただ一国、原子力爆弾の被害にあった国だ。そのうえ、前年には東日本大震災に端を発した、原子力発電所の爆発事故が起きている。その脅威は嫌というほど身に染みている。

「あれは、核兵器の一種、ということなのか」

「ええ、操縦で動いて、戦闘もこなし、そして」

————ぼくの意思一つで自爆可能な兵器、です。

 

指令室の空気が凍った。

 

「よろしかったのでしょうか…?」

隣に控える秘書官から声がかかる。

結局、トビアの要求は通り、彼の所属するDA支部「喫茶リコリコ」は日本で最強の武装喫茶店として登録されることになった。

「よくはない、よくはないが…、上に正しくクロスボーンの報告を上げることのほうが、もっと良くない。」

やっとの思いで鹵獲した宝の山が、少年一つの意思で爆発する核爆弾となれば、政府の対応も変わってくる。

「幸いにも、殺し以外の任務なら受け付けるといっているんだ。せいぜい使いつぶさせてもらうさ、クロスボーンもろとも、な。」

戦力としてみるなら、極上の機甲戦力だ。隠ぺいは難しくなるだろうが、それでも戦闘ヘリや戦車と真っ向からやりあえるのは大きい。そして、今までは対応が困難だった災害復旧にも使える。DAの戦力は確実に大きくなる。

 

それに、

(千束と東京の恩人なんだ、少しくらいはひいきしても罰は当たるまい。)

 

彼女は、印象よりもはるかに、立派な人間だった。

「うっそ、ガンダムって原子力で動いてるの⁉」

「そうだね、パワーもすごかったでしょ?」

「やっぱデロリアンじゃん!タイムマシーンじゃん!」

「88マイルどころじゃない速度、出してたんだけどなぁ…」

 

 

その3.ガンダムと喫茶店

「え…?なんで、どういうことだ?」

〈トビア?〉

 

楠木との脅迫合戦に見事勝利したトビアは、まずはX1を格納するための隠れ家を探すことにした。なにせ、小型化の進んだ第2期MSとはいえ、15mを超える巨体だ。膝立ちにして格納するにしても、生半可なスペースでは隠すことができない。

幸いにもミカに伝手があり、喫茶店を開業する予定の錦糸町からほど近い、墨田川沿いにある工場跡を使わせてもらえるようになった。

 

その隠れ家に移動させるため、久々にX1を起動したトビアは、機体のチェックに入る。

エネルギー伝達、各部の稼働率、関節部の損耗率、武装の有無、推進剤の残量……

そこで、トビアは異常を見つける。

「推進剤の量が?戻ってる…?起動させてから、補給する予定だったのに?」

初めてこの街に降りた時を思い出す。あの時も、消耗していたものが元に戻っていた。

「まさか⁉」

シザーアンカーとウェップを確認する。チェーンは千切れかけ、ワイヤーもほとんどがダメになっていたはず。

「直ってる…⁉」

どこにも損傷が認められない。まるで、最初からそんなことはなかったかのように。

 

「……オカルトじゃないか、こんなの…」

〈トビア?大丈夫⁉ガンダムに何かされてた⁉〉

あまりのことに、少し呆けていたトビアだったが、コックピットの外で待機する千束の声に我に返る。

「あ、う、うん、大丈夫。むしろ何もなかったことに、ビックリしただけだから」

〈何かされてること前提⁉〉

元気なツッコミに笑みがこぼれる。

 

(…とりあえず、今は深く考えないでおこう。うん、得したんだし)

トビアは考えることを放棄した。

 

「ミカさん、とりあえず着てみましたけど、合ってます?」

「なんだ、様になってるじゃないか」

「おお~、トビアかっこい~!顔の傷がより一層ワイルドだぜぇ!」

「それ褒めてる?」

「大・絶・贊!」と満面の笑みでサムズアップを決める千束に、黒い和服に身を包むトビアは苦笑いひとつ。

 

この度開店する「和風喫茶リコリコ」。コーヒーと和菓子という一見ミスマッチな組み合わせがコンセプトだ。店員たちは和装に身を包み、席はカウンターもあるが基本的に座敷。都心にほど近い、錦糸町の住宅街に構えるなかなか小洒落たお店だ。

 

今はオープン前の、衣装合わせの最中。トビア自身は、こういった衣装を着るのは初めてで、勝手がわからず見てもらっているところだ。

「そういえば、トビアの時代の服ってどんなのだったの?」

着付けを手伝いながら、千束が聞いてくる。

「今と別に変わりはなかったかな。それこそ、映画みたいな変な服ってあんまり流行らなかったし」

「えー、つまんなーい」

「むしろ、あるにはあったんだな…」

ミカが宇宙世紀の服飾事情に少し引いていた。

「じゃあさ、トビアはどんなの着てたの?」

「えーっと、…ふつうのワイシャツに、ジーンズかな…?それ以外だと、基本的にツナギだったし…」

「ツナギ?海賊の制服だったの?」

「違う違う。何もないときは、運送会社やってたんだ。その時の制服」

「運送会社⁉ほほう、世を忍ぶ仮の姿ですかぁ~。ますます私たちと一緒じゃん!」

「よっし、かんぺっき!」千束がそう言って離れる。なるほど、結構ゆったり着れていいかもしれない。

 

それにしても

「…運送会社、かぁ」

「もっと似合うもの持ってくる!」といって、奥に引っ込んだ千束を見送った後、トビアはぽつりとつぶやく。やはり、あの後の海賊軍の仲間たちの安否が気になる。

虎の子のMSたる”フリント”は全機破壊され、補給パーツを使い切った“最後のクロスボーン・ガンダム”は時を超えここにある。もう海賊はできないだろうし、まじめに仕事でもしてるのだろうか?仲間たちは、…“彼女”は、元気にやってるだろうか。

「寂しそうだな?やはり元の時代が恋しいか?」

そこに、コーヒーを人数分用意したミカが話しかけてくる。

「あっ…ありがとうございます。そうですね、やっぱり仲間たちとはそれっきりでしたから…」

「そうか。…あまり、私たちにできることはないと思うが、どうか遠慮なく言ってくれ。君はもう、このリコリコの仲間だからな」

「…まだオープン前ですけどね?」

言って、笑いあう。そうだ、今の居場所はここなのだ。自分のことを受けて入れてくれる人たちがいる。一緒に、笑いあえる人たちがいる。ホームシックを患っている暇なんて、ない。

これから始まる新しい日々に思いをはせ、コーヒーを一口…

 

「…………」

「…………」

 

とりあえず、オープンまでに猛練習することが決まった瞬間であった。

 

「ところで、ミカさん。ぼくのこの格好なんですけど…」

「言わんとしていることは分かる…」

「これ、傷のせいでジャパニーズマフィアの」

「トビア、無理して言わなくていい…」

「お待たせ~!このサングラスとココアシガレットで、パーフェクトトビアの完成だぜっ!」

「「⁉」」

 

 

 




その1:才能って、別にそのこと一つにしか使えないってことはないよね、というお話。

その2:宇宙世紀のMSって、実は全部やばくない?というお話。

その3:このぐらいいっときゃ、メチャクチャやってもええやろ&和服、顔に傷…ひらめいた、というお話。


分割分は後日投稿です。

まとめる才能が欲しい…!

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