そして例によって長くなったので分割です!
いやはや、ホント文章書くって難しい…
それでもなんだかんだと読んで下さる皆様には、頭が上がりません。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それではどうぞ。
よーし久々にニュートンのむぞぉ
1.
まだ日が昇り切らないうち、
薄暗い倉庫の中で、鋼の巨人の目に翠の光が灯る。
その場でゆっくりと腕を回す。
最初は右、次に左。
肘、手首、五指、そして手を合わせる。
その次は両脚。
そうして、身体を隅々まで確認するように動かす。
「No.126、チェック開始……クリア。司令部、確認を」
〈こちら司令部、モニター……問題なし。これで今回の定期動作試験は完了です。お疲れさまでした、スカルハート〉
トビアは早朝からX1の動作チェックを執り行っていた。このチェックは定期的に行われ、X1の挙動に問題がないかDA司令部監修のもとモニタする。
最も、
「それで、どう?どういう操作の上で、どう動かしたか分ったかい?」
〈…分かってて聞いてますよね?ミスター〉
トビアの操縦をモニタすることで、なんとかほかの人間でもX1を操縦するよう、探ることが本命だ。
〈大体、何ですかあの複雑な操縦系統……。10年近く見てきてるのに、さっぱりわからない〉
オペレーターから愚痴がこぼれる。片方のパネルの数だけでもめまいがするのに、それが左右に加え、両手側の操縦桿にペダル。それらを器用に使い、微妙な操作の違いで様々な動作を可能としている。
はっきり言って、これらを完璧に扱うトビアが異常だ。
そもそも、ざっと150年以上先の技術の塊なのだ。そう簡単にわかるものでもない。
「ま、おれとしては都合がいいけどね?早々に切られることもないだろうし」
〈今のDAでそれをやったら、いったいどれだけの離反者が出ることやら……〉
疲れたようにオペレーターがこぼす。
〈また、暇を見つけて本部にいらしてください。寂しがってる子も多いんですよ?〉
「えー、この前にライセンスの更新終わってるからなぁ。千束の付き添いぐらいしか、用事なさそうなんだけど…」
“なんでぼくそんなに懐かれてるの…?”と首をかしげるトビアだった。
◆
司令室で深くため息をつくオペレーター。
はっきり言って、彼の人気は想像以上だ。
同年代の異性と触れ合ったことがないリコリスにとって、話しやすい・相談に乗ってくれる・カッコいいの三拍子そろった、THE優良物件。
いい兄貴分と慕うものは多く、何人か思いを寄せているのも聞く。
かくいう、スカルハートのオペレーターも人気職だ。通常のオペレーター業よりも特殊な事例が多すぎるせいで、中々交代できないが、同僚からの羨ましそうな顔は毎回向けられている。
実際、彼との会話はとても好ましく、任務の最中も映画のようなやり取りができて楽しい。
「スカルハート、上がっていいぞ」
〈楠木さん?いえ、了解しました。スカルハート任務完了。通常任務に復帰します〉
そこまで考えて、司令が彼に声をかけるところではっとする。やってしまった。
「まったく、たるんでるな。以後気をつけろ」
「は、はい!申し訳ありませんっ!」
恥ずかしさのあまり、声が上ずるオペレーター。呆れる楠木に苦笑いの同僚たち。
〈……今度、差し入れ持ってくから、元気出して?〉
「スカルハート⁉あ、ありがとうございます!」
こういう所だぞ。
司令室が一致団結した瞬間だった。
◆
倉庫を後にするトビア。
日は完全に昇っており、朝日が目に染みる。
「さてと、今日はこのまま依頼かぁ」
あくびを噛み殺し、軽く伸びをしながら本日の依頼内容を確認する。
国内どころか世界最強と謳われるハッカー、ウォールナットからの国外逃亡するまでの護衛と逃走経路の確保依頼。
確認できるだけで、10人近くの武装集団に追われているらしく、かなり切羽詰まった状況のようだ。現にその報酬は前払い金の時点で相場の3倍を優に超え、ミズキの顔が大分やばいことになっていた。
トビアの役割としては、千束とたきなの3人体制で護衛、その後別に用意した移動手段で空港まで送ることになっている。
「しっかし、普通に考えたら“一度死んだことにしてから”逃げる方が、いろいろと楽なんだけどなぁ。微妙に詰めが甘いけど、大丈夫かな?」
トビアが自分の経験談から、そんなことをつぶやいた。
2.
「おお、トビア君。お邪魔してるよ」
「あれ?ヨシさん、今日はずいぶん早いお越しで。何かありました?」
「いいや、偶には早く来てみようかと思ってね。看板娘にも会えたし、よかったよ」
トビアがリコリコに着くと、すでに来客がいた。
吉松シンジ、たきなが仲間に加わった日の初めてのお客さんだ。
パリッとした身なりのいいスーツに、整髪料でかっちり決めた頭髪。
そして、左のフラワーホールにつけたフクロウのバッジ。
店としては、あまり来ないタイプのお客さんだ。
「あれ、ミカさんは?てっきり表に出てくると思ったのに」
「ああ、厨房に引っ込んでいったよ。注文したからね」
「あ、それなら代わってきますね。ミカさーん、遅れましたー」
さらに、ミカとも旧知の仲だという。なんだか、変わった雰囲気が流れるので恐らくそういう仲だったのだろう。
トビアは交代しようと厨房に足を運ぶ。
中ではミカがコーヒーと軽い食事の用意をしている。
「後、引き継ぎますよ。遠慮せず話してきてください。時間もまだ少し余裕があるでしょ?」
「トビア。…気を遣わせたな、すまない」
そう言ってカウンターへ向かうミカ。
そうして、注文のものを用意し終え、吉松の下へ出したのち裏へ引っ込む。
「あ、おはようございます。トビアさん」
「おはよう、たきなさん。ごめん、遅れた」
準備を終え、時間まで待機しようと奥の座敷へと向かうと、ちょうど装備の点検を終えたたきなと鉢合わせる。あの左頬の絆創膏も取れており、傷も残らなかったようだ。
「いえ、店長から別の任務があると伺っていましたので、問題ありません」
「そっか…。…ん、あれ?そういえば千束は?」
言って、気づく。あのかしまし娘が見当たらない。
「それがまだ来ていないようでして…」
「まーた徹夜で映画マラソンやったな、あいつ…」
呆れるようにため息をつくトビア。
「…トビアさんは、千束さんと長いんですか?」
「え?」
「いえ、なんだかやけに具体的だなと、思いまして」
「ああ、うん。10年近く一緒にいるからね?もう家族みたいなものだよ」
「家族…」
そう言って、少し考えこむたきな。
「ま、相棒のことだからね。たきなさんもその内分かるようになるよ」
「そうでしょうか……」
たきながリコリコの所属になってはや1か月。
彼女は、未だ千束との距離をつかめずにいるようだ。
「大丈夫、千束は単純だからね?」
トビアはそう微笑む。
なんだかんだと付き合いもいいし、相性自体は悪くない二人だ。
心配せずとも、もっと仲良くなれるだろう。
「お、遅れ、ましたぁ…!千束、ただいま到着ですぅ……!あれ、ヨシさんじゃん!」
と、ここでにぎやかな声が聞こえてきた。
時計を確認すると、依頼の時間までちょうどいい頃だ。
「よし、おれたちの相棒も来たことだし、出発と行こうか」
「!はい!」
たきなの元気な声を聴き、いつものコートを羽織り席を立つ。
まずは、寝坊助と合流だ。
◆
「————逃走手順は以上です。最後に、羽田のゲートを潜ったところでミズキさんと合、流……」
特急列車の車内、向かい合わせの席に座ったトビア達は、たきなから簡易的なブリーフィングを受けていた。
事前にある程度状況を聞いていたトビアはともかく、千束は今回遅刻してきたため、情報のすり合わせを兼ねての事だったが、
「…千束さん、何を食べてるんですか……?」
「駅弁」
肝心の千束が駅弁をかっ込みながら聞いていた。
「んー……、依頼主って、凄腕ハッカーなんでしょ?どんな人なんだろ」
「うん、一度その手を止めようか?せっかく説明してくれてるのに、マジでたきなさんかわいそうだから」
さすがにトビアからツッコミが入り、“ゴメンゴメン”と言いながら一度箸をおく千束。
「やっぱり、メガネで痩せぎすな小柄な男かな?カタカタカタ、ッタァーン!」
「映画の見過ぎです」
おどける千束に呆れたように言うたきな。
しかし、何か食べておかないとこれからの任務に支障が出ると切り替え、乗車前に買っておいたものを出す。
「…お二人さん?何それ?」
「「ウィダー〇ンゼリー」」
「ちょいちょーい?今の状況分かってるの、二人とも~?」
「?依頼人に会う前に腹ごしらえするつもりだけど?」
どうやらトビアとお揃いだったようだ。
2人してゼリーを飲み干し、“何言ってるんだろ”とそろって首をかしげる。
「それがお昼⁉せっかくの特急だよ!駅弁食べようよ~!ほら、ちょっと食べなって!」
「いや、結構です……あの、卵ぐいぐいするの、やめっ…食べますからっ!」
千束の圧が強く、結局負けるたきな。
悔しいことに、なかなかおいしい。
「はい!次はトビア!それともお肉の方がいい?」
「え、いやぼくも…いや肉押し付けないでわかったわかったすっごいタレでべたべた⁉」
見るとトビアも被害を受けていた。
これから任務だというのに、何をやっているんだろうかこの人たちは。
はたから見ると、どうにもいちゃついてるようにしか見えない。
「これが夫婦漫才ですか……」
「え!た、たきな、そう見える…?」
「なんでうれしそうなんですか」
なお、この後すぐに降車駅に着いたため、千束は地獄を見ることになった。
3.
「さてと、ここで車を拾って依頼人と合流、だけど…」
あれから少しして、トビア達はミカから聞いていた駐車場に向かっていた。なんでも、そこに車両を用意しているという話だったが
「おお!スーパーカーじゃん!すっげぇ!ねえ、私運転していい?いい?いい⁉」
「…目立ちすぎでは?」
「そもそも千束の反応にドン引きだよ、ぼく」
駐車場を見ると、存在を主張する真っ赤なスポーツカーが鎮座していた。
速い車ではある。だがいかんせん、目立ちすぎる。
興奮した千束は金網を掴み、がっしゃんがっしゃんさせながら騒いでいる。
何とかなだめようとしていると、不意に反対の車道から乗用車が生垣を飛び越えこちら側の車道に飛び込んできた。
あまりのことに一同が驚いていると、その車が前までやってくる。
ドライバーを見ると、なぜか着ぐるみだ。何だこの状況。
『ウォール!』
すると、ボイスチェンジャー越しの声が響いた。依頼人と決めた合言葉だ。
「ナット!」
すかさずたきなが返す。
『早く乗れ、追手がすぐそこまで来てる』
「……えっ。今のが合言葉?ダサっ!」
「言ってないで早く乗りましょう。トビアさんも!」
「あ、う、うん」
慌てて三人が後ろの座席に乗り込む。全員そこまで背が高いわけではないので、スペースにも余裕がある。
「あれっ、待って!あのスーパーカーは⁉」
「諦めてください。そもそもあんな目立つもの使えませんよ」
「えええー……」
千束の未練がましそうな声が車内に響く。
ふと、ウォールナットを見やるトビア。
(知ってる人の雰囲気がする…?)
何だか小骨がのどに引っかかったかのような違和感を残し、車が発進する。
ここに、依頼人が運転し護衛が後部座席に座り込む、奇妙なカーチェイスが始まった。
◆
『予定と違ってすまない、ウォールナットだ』
「はーい千束でーす。隣からトビア、たきなでーす……。スーパーカー…」
「引きずりすぎじゃないですか?」
車内で簡潔に自己紹介を済ます千束。見るからにテンション駄々下がりである。
たきなにたしなめられ、一先ず気を取り直す。
そこで、先ほどから気になったことを尋ねる。
「なんというか、イメージしていたハッカーさんと大分違いますね~」
『底意地の悪い眼鏡小僧とでも?それは映画の見過ぎだね』
いや、着ぐるみも違うだろ。思わずそう突っ込む千束。
『なに、顔を隠した方が長生きできるってだけさ。JKの殺し屋の方がよっぽど異常さ。
コートの君も、学生ぐらいに見えるが、リコリスなのかい?』
話がトビアに向けられる。
「いえ、ぼくは、まあ協力者ってやつでして。この子たちがなかなか危なっかしいもんだから、保護者みたいなものかな?」
「ほほう、トビアさんや。君がそれを言うかい?」
「何さそのしゃべり方…。えっ、何その顔。なんで呆れてるの⁉」
『…仲がいいんだな。ますます異常に見えてきたよ、リコリス』
車内の雰囲気が少し緩まる。たきなは“またやってるよ”と言わんばかりだったが。
「まあ、私たちが制服着ているのだって、一種の擬態だしね。ほら、こんなの着ている女の子が、まさか銃を撃ってくるとは思わないでしょ?」
『なるほど、都会の迷彩服だったか。理にはかなっているな』
すると、今度はたきなから質問が上がる。
「ところで、荷物はそのスーツケース一つですか?」
『ああ、なるべく荷物は少ない方がいいだろう。それだけに、このケースにはボクの全てが詰まっている。くれぐれも丁重に扱ってくれ』
そう言って、助手席にシートベルトで固定された黄色いスーツケースに、少し視線を向ける着ぐるみ。
おや、と思う。着ぐるみの顔ごと向けるとは、やけに心配そうな仕草だ。
確かに自分の全てというからには大事だろうが、それにしてはまるで人に向けたかのような…。
「あっ」
隣のトビアから声が漏れた。
「トビア?」
「あー、うん、…そうだね、あとで話すよ。今ここでする話じゃない」
『どうした、何か違和感があるなら言ってほしいんだが』
「いや、…その着ぐるみがリスってことに気づいたことですよ」
咄嗟にごまかすトビア。
『いや、今更かい…?』
しかも正解だったらしい。千束は犬だと思っていた。
「えっ⁉」
そして、一番驚くたきな。いったいなんだと思ったのだろう。
それにしても、うまく後回しにされてしまった。何としても聞きださなければ。
と、ここで車の挙動がおかしくなる。高速に乗るはずが、わき道をそれて直進する。
心なしかスピードも上がり、カーナビにはデフォルメされた四角いロボットの顔が映し出された。
『……こちらの操作を受け付けない。どうやらハッキングされたようだ』
「「「え⁉」」」
トビアから聞き出すのは、まだまだ先になりそうだ。
以下筆者メモ
1.
・X1の定期動作試験→久々の登場。よく考えたらリコリコって、MSみたいなデカブツって活躍し辛いと思ったそこのアナタ、大正解。
・操作パネル→何をどうしたらあんなアクロバティックな動きさせられんだろ、MS全般。
・懐かれるトビア→見た目同年代で、中身はしっかり大人。そら群がる。
・オペレーターさん→中々交代要員が育たない人。でも役得とか思ってそう。
・そういうとこだぞ→なんでもない気づかいも、される方はうれしくなるものです。
・大分やばいミズキの顔→目が¥になり、拳を天に突き上げていた。みんなドン引き。
・死んだ方が…→実はトビア君の場合は、「いつの間にか死んだことになっている”だろう”」という想像でしかなかったりする。この少年、自分の戸籍碌に確認せずに海賊になってるぞ。”
2.
・ヨシさん→正直、上田耀司さんってあんな静かな演技できるんだ、とびっくりした。
・たきなのトビア評④→千束ちゃんと仲良すぎでは?
・映画マラソン→スター〇ーズの時は喧嘩になった。
・駅弁→海鮮系を頼みがち。(ただの好み)
・ハッカー観→私の場合はMGSシリーズのオタコンで固定されてしまってます。
・ゼリー→意外とあれって栄養そこまでなかったりする。
・卵と肉→ほっぺたべったべた。
・夫婦漫才→じゃれあい一つも尊き日々の思い出。
・地獄→駅弁って基本的にご飯ぎっちぎちだから、量多いよね。
3.
・スーパーカー→カッコいいんだけど、運転してるときはその外観が自分で見れるわけじゃないなと、最近気づいた。
・ダサすぎる合言葉→でも、シンプルな方が割と実用的。覚えやすいし。
・知人の雰囲気→NT的なアレ。でも、さすがに着ぐるみはどうかと思う。
・JKの殺し屋→字面で見てもドン引き。
・保護者→年齢期的にはそう。
・心配そうな仕草→着ぐるみの中から少し見ればいいのに、顔ごと向けてれば、ね?
・気づくトビア→なんだったら小柄そうだな、というとこまで気づくトビア君。
・驚くたきな→ぶっちゃけ熊には見えない。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
分割分は近日投稿予定です。
それでは皆さん、またお会いする日まで。
感想、評価、いただけると幸いです。