これも獣殿の恩恵か!!
11月21日一部編集
「報告します。昨日、帝都警備隊隊長のオーガ、油屋ガマルの二人がナイトレイドと思わしき者達に殺害されました」
「ああ、あの二人か。またナイトレイドに先を越されたか」
部下の報告を聞きながらムソウは書類仕事に追われていた。
保安と諜報、その二つの長をやっていると必然的に仕事の量が多くなるものだ。
「しかしこうも立て続けに先を越されるとこちらの面子に関わるな。いっそのことナイトレイドの標的に成りえる奴らを統べて強制収容所送りにするか?」
などムソウは物騒なことを考えていたことを口にした。
それを聞いてしまった、不幸な報告するだけの部下は震え上がった。
帝都郊外にある強制収容所。
そこに入れらたが最後、出て来ることは不可能だと言う恐ろしい場所だ。
中で何が起きているかさえ不明であり、働いている職員でさえ内容を口外したら殺されそれを聞いた者も殺す徹底ぶりだ。
「今のは、聞かなかったことにしておけ」
「りょ、了解しました」
報告に来た部下はそれだけを言うとすぐさまムソウが零した言葉を忘れる、ムソウの執務室から出て行った。
それを確認するとムソウは、書類仕事に集中しだした。
内容は、諜報部にさせているナイトレイドについて、市井の中に溶け込ませ官僚や重役、軍人の不正を見つけ出し、更に反乱の意思を知ることに有る。
保安部は、諜報部から得た情報をもとに、罪を犯した者達を強制収容所に収容した報告書が殆どなので、目を通しファイリングするだけでいいので比較的楽な仕事だ。
問題があるとしたら諜報部の報告書で、マークしている者達のことが事細かに記されている。
中には、反乱軍の中に潜入させている者からのもあるため、その手の書類には細心の注意を払わなければならない。
その中でも一番繊細に扱わないといけないのが、現大臣の情報だ。
あいつはやり過ぎている。
自身がこの帝国を牛耳るためならば、無実の者さえも自身に反旗を翻す可能性がある、それだけで無実の罪を作り上げ処刑し、死体は見せしめのために吊し上げる。
ならばなぜ大臣が今なお生きていられるか、それは今の皇帝が関わってくる。
今の皇帝は幼く、そのため政治の殆どを大臣が司り、尚且つ皇帝が大臣を信頼しきっているので、例え皇帝に諫言した所で大臣がある事ないことを吹き込み諫言した者達を皇帝の命令で処刑させている、そのため不用意な発言や行動をしない様に官僚たちはしているため、未だ生きていられるのだ。
「長官、皇帝との謁見の時間です」
副官が執務室の扉を叩いて入って来た。
「もうそんな時間か」
そう言うとムソウは立ち上がり、椅子に掛けていた外套を纏い自身の執務室を後にした。
謁見の間につくと、近衛兵が扉の前に立っていた。
近衛兵はムソウに気が付くと、無言で扉を開け、ムソウはそれを当たり前のように潜り謁見の間へと入って行った。
そこには左右に文官と武官とで並んでいた。
武官の中には宮殿の警備と『武官は政治に口を出すべからず』と言う教えで、あまりこういった場に出てこないブドー大将軍や北の異民討伐に出ているエスデスの姿はなかった。
その中をムソウは進み、皇帝の席に最も近い文官の列に並んだ。
皇帝が来たのはその数分後だった。
皇帝の席の後ろに在る、皇帝専用の扉から幼い現皇帝が現れ、皇帝の席に座った。
「内政官ショウイ前へ」
幼さが残りながらもどこかカリスマ性を感じさせる声で、内政官の一人の名を呼んだ。
いきなり呼ばれた側は、何の心構えもなかったなかったのか驚いた表情、ではなくどこか既に覚悟を決めた表情であった。
あの男は、現皇帝を裏で操っている大臣排斥派であり、良識派と呼ばれる者の一人だ。
ショウイは皇帝の前に立つと片膝を突き、頭を垂れた。
「内政官ショウイ。余の政策に口を出し、政務を遅らせた咎により貴様を牛裂きの刑に処す」
いきなり皇帝が死刑宣告をしたため、参列していた者達は一同にざわめき出した。
「これで良いのだろう大臣?」
「ヌフフ、お見事です。まこと陛下は名君にございますなあ」
幼い皇帝がそう言うと、皇帝だけが使うことを許され、皇帝のみが上ることを許されているはずの不可侵にして神聖な場所である帝国で最も高い位置にある玉座、その玉座の後ろから大臣は肉壺を抱え、新鮮な生肉を食い散らかしながら現れた。
「また肉か?良く食べるなあ」
「フフフ、活きが良いうちにいただきませんとね。ヴォーノ、ヴォーノ」
皇帝と大臣が和気藹々と言った雰囲気でそんな会話をしている間、ムソウを除いた参列者は誰もが下を向き自分に飛び火しないことを願っていた。
死刑宣告されたショウイは、そんな中意を決し諫言を言おうとした瞬間だった。
「陛下、進言したい異議がございます」
「ムソウか、申せ」
「ありがとうございます。陛下は政務が遅れているからショウイ殿を牛裂きの刑に処すと申されましたが、後任を決めぬままショウイ殿を処刑されては、遅れている政務が更に遅れることになります。ですので、ここは一度ショウイ殿にチャンスを与えると共に後任を選定するのは如何でしょうか?」
「余としてもこれ以上政務は遅らせたくはないが、大臣の意見を聞いても良いか?」
「私としても陛下の政策が滞りなく進められるのならば問題はありませんな」
口調、表情こそ、優しげあったが内心はそうではなかった。
大臣の予定としては、ここで良識派の一人を吊し上げ、自分と皇帝の仲が良好であることを見せつけることで、良識派を牽制するつもりであった。
今回参列しなかった大将軍であるブドーの庇護下に在る文官にもある程度の効果があり、ブドーの配下であるから大臣の手によって、でっち上げで罪をなすりつけることは出来ずとも、皇帝の覚えを悪くする事は出来るのだと言う牽制にもなるはずだったのだ。
それをムソウは打ち砕いた。
いや、ムソウにはそもそも大臣の考えていたシナリオを壊そうとはこれっぽちも思っていなかった。
ただ政務が遅れているならば、遅らせた者に取り返させるだけだ、その考えだけだった。
ここで内政官を一人失えばその者が遅らせた分を他の者が分担処理しなければならなくなり、そうして更に他の政策が遅れると言う負のスパイラルを引き起こさせないためであった。
そのためムソウの発言に一切の情と言うものは含まれていない。
「分かった。ムソウの意見を取り入れ内政官ショウイ、貴様に今一度チャンスを与え遅らせた政策を速やかに実施せよ。成果によっては今回の罪を幾らか減刑しよう」
「ははっ!!」
ショウイは頭を垂れながら、生き残れた安堵と、大臣の考えた市民を苦しめる政策を実施させなければならない悔しさに板挟みされ、己の無力さを恨んだ。
「次だが、一度失踪し近頃帝都内に、”首切りザンク”なる連続通り魔がまた出没している。そやつは先代皇帝である父上が獄長に与えた帝具を持ち出している。速やかに討伐せよ」
「それでしたら、保安部、諜報部総力を挙げて目下捜索中です。一日猶予をいただけたならば討伐隊を編成し直ぐにでも討伐できるかと」
「さすがムソウだな。父上が困った時お前を頼っていたのがよく分かる!!」
幼い皇帝は、その幼さが分かる無垢な笑顔ではなく、カリスマ性を感じさせる顔つきでうなずいた。
「ありがとうございます、陛下」
ムソウは陛下からお褒めの言葉をいただいたため、形式上ではあるが頭を下げた。
本来忠義を誓っている臣下であるならば、泣いて喜ぶべきなのだろうが、生憎とムソウは誰かに心酔したり、忠誠を誓う様な者ではなかった。
むしろ逆で、跪かせ、従わせる王者の気質をムソウは持っている。
しかしそれが分かると反逆だと、大臣が喚き出すのが目に見えているの、そのため表面上とはいえムソウは忠義の姿勢を取っている。
「しかし相手は帝具を持っている。討伐できなかった場合はどうするつもりだ」
皇帝が訊いて来たのはある意味もっともなことだ。
「その時は、私自らが出陣し、断罪いたします」
そのことに、この場にいる誰もが驚いた。
この場にいる誰もがムソウの実力を知っている。
ムソウが出れば、一人ですべて解決するだろうが、その被害もまた計り知れないことになる。
上手いこと、保安部か帝都警備隊だけで解決すればいいが、と誰もが同じ不安を抱いた。
その不安は杞憂に終わるとはこの時誰も知りはしなかった。
――タツミside
俺はナイトレイドの一員となった。
出会いは最悪なものであったが、メンバーの誰もが今の帝国に憂い、帝国の腐敗をなくし苦しめられている帝国の人々を救いたいと思っていた。
そして新しく生まれる国が民に優しい国になると信じ俺はナイトレイドに入った。
そんな俺はと言うと、今帝都の市民を不安に陥れている”首切りザンク”を殺しに来ていた。
日も落ち、暗くなっている住宅地区からは人の気配をあまり感じることはなかった。
「うん。私達の受け持ちはこの地区だ」
アカメは渡された地図を見ながら言った。
「帝都住民は辻斬り怖さで、外出てないな。逆にやりやす――」
アカメにいきなり口を押えられ、建物の影に隠された。
そのすぐ後、複数人が走り去る音が聞こえた。
「帝都警備隊だ。ああいう連中はまだ問題ないが気をつけていこう」
「連中は問題ないって、他に何か危険な連中いるのか?」
「やはり、保安部と諜報部だな。特に保安部には気を付けた方がいい。下手をしたら強制収容所送りになって二度と出られないからな」
二度と出られない、それは監獄も同じだが、強制収容所、そちらの方が名前だけなのに恐怖してしまう何かが感じられた。
そんな二人の会話を遠く高い位置から額に在る人工的な目で見ている者がいた。
「んーっ。辻斬りに加えて殺し屋も現れたときたもんだ。全く物騒な街だねぇ……愉快愉快」
愉快愉快と自分で言うほどとても楽しそうな表情でいる男こそ、今帝都市民を恐怖に陥れている”首切りザンク”だった。