ホント申し訳ないです。
その分文章量は、いつもの平均量の2.7倍です。
アカメやクロメ達が帝国に買われ、暗殺者としての教育を受け始めて8年の月日が経った。
そんな中、帝国最上位に位置する皇帝陛下に最も近しい権力を持つ、大臣や大将軍に並ぶ存在であるムソウは、帝国北部にあるラクロウ城の太守ラギリと、ラクロウ城に働く者達を一人残さず殲滅作戦するため、作戦の細部に関して密に詰めていた。
太守でありながら異民族と内通すると言うことは、国家に対する反逆であり、その瞬間から帝国の逆賊である。
ならば情け容赦をかける必要など一片の欠片も存在しない。
そのためにムソウは、自身の手駒の中で最も虐殺や殲滅を手掛けてきており、最も”死”と言うものに触れてきた部隊、アインザッツグルッペンを使うことにした。
アインザッツグルッペンのメンバーには既に準備に取り掛からせており、一刻もしない内に準備が完了する。
ただしこの作戦において、一つだけ予定外のことが組み込んである。
それが、8年前に突然生まれた村だ。
派遣した諜報員が未だに何一つ報告がないと言うことは、消された可能性もある。
そのために当初予定していた日程よりも前倒しに実行することになっている。
「ふむ、こんなものか」
ムソウは、不測の事態をも想定した作戦指示書を作り上げると、外套を肩から羽織り執務室から出て、外へと向かった。
外では、保安部の部下が一人休めの体勢で待っていた。
その部下は、ムソウの姿を確認すると背筋を伸ばし敬礼して出迎えてきた。
「長官お待ちしておりました!!」
「首尾はどうだ」
「万事滞りなく済んでおります」
「では、何時でも出撃できるな」
「はっ!!長官の命令があればいつでも」
一歩下がった位置で着いて来る部下を引き連れながら、ムソウは帝都のメインストリートを通り、帝都大正門へと向かう。
人でにぎわう帝都メインストリートだが、ムソウが一歩歩みを進めれば、目の前の人々が進行の邪魔にならない様に左右に割れる。
人々に恐れられるゲシュタポやちょっと当たっただけで因縁を付けて来る帝都警備隊であってもあり得ない光景だ。
ムソウはその光景に違和感を覚えるどころか、今さらと言った感じで歩みを進める。
「強行軍になるが、士気はどうだ?」
「長官自らが指揮を執るとのことで、部隊の士気はこれ以上ない程と言えるまでに高まっております」
「そうか」
表情こそいつも通りだが、ムソウは内心では非常に満足していた。
「弾薬の量はどうなっている」
「指示との通り揃えております」
「今回は使用する弾薬の量、長期間の任務なため食料も多い。警備は通常時の任務よりも数を増やして置け」
「了解しました。直ぐに手配しておきます」
懸念すべきは、やはり食料だ。
食料はそのまま部隊の士気に影響するため、その守りを硬くする必要がある。
ムソウが直接部隊を指揮する以上、部隊内での略奪はあり得なくとも治安がいいとは言えない地方へ行くのだ。
守りを固くするに越したことはない。
「諜報部からの連絡はどうなっている」
「ロウセイ村に関しての報告は未だ無いようで、諜報部はロウセイ村に向った諜報員に関して、正式に死亡したと判断したいとのことで、後日長官の元へ書類か届けられると思います。ラクロウ城と城下町に関しては、既に潜入している者達から連絡があり、太守ラギリが異民族の護衛を付けたとのことです」
「ラクロウ城から内部告発はなかったか?異民族の護衛を雇ったと言うことは、ラクロウ城に居る者全てが周知しているはずだ」
「いえ、内部告発はありません」
「太守である以上、権力で黙らせた可能性もあるが……」
「どうなさいますか長官。当初の予定通りラクロウ城の者全てを」
「ああ、計画を変更はしない」
「了解しました」
計画の最終確認をとりおわると同じタイミングで、ムソウは帝都大正門へと着いた。
大正門を通り抜けると、そこにはムソウが大量に人を殺す場合に用いる部隊、アインザッツグルッペンが整列していた。
今回は規模が大きいと言うこともあり、6つのアインザッツグルッペン、16のアインザッツコマンドー、総員3000名が招集してある。
「これより、帝国北部国境付近に位置する、ラクロウへと向かう。標的はラクロウ城の太守であり、一帯を陛下より任されているラギリと、ラクロウ城に働く者全てだ。邪魔する者、障害と成りえる者の排除は任意で行え」
ムソウは声高らかに告げると、アインザッツグルッペンの面々が野太い声で返事を返した。
「山賊や盗賊に関しては、攻めてきた場合のみ撃滅する。また、道中反乱軍や異民族と内通していると確認が取れた村や街に関しても殲滅をする。異を唱える者はいるか」
整列している部隊員を端から端まで見渡したムソウは、沈黙は容認であると認識した。
「ではこれより出発する。先遣隊としてアインザッツグルッペンⅠより出発、以下番号順に出発せよ」
改めてムソウが、声高らかに号令するとアインザッツグルッペンⅠの面々は先行し進行の安全確認の任もあるため、一斉に乗馬すると蹄が地を踏みこむ音だけが鳴り響きながら出発した。
「では、私も向かうとしよう」
ムソウは、武器弾薬、食料を運ぶアインザッツグルッペンⅢの部隊長と並列しながらラクロウ城へと向かった。
僅かに遠回りになるが、ロウセイ村を通る進路で――
その様子を帝都をぐるりと囲っている城壁の上から片眼鏡をし、骨の上に皮を張り付けた様な男が見下ろしていた。
「思ったよりも早く動いたな。早急にゴズキに知らせねばな」
男はそう呟くと、出発していくムソウ達に背を向けながら諜報機関の方へと戻って行った。
本来男の立場で知りえるはずの無い情報、ムソウが、ロウセイ村に向っている事を知らせるために―――――
いつもの様に帝国にとって都合のいい暗殺者を作り上げるために子供たちに訓練を付けている時、一匹の鳥が手紙を携えてやって来た。
鳥の足に結び付けられている筒を開け、手紙を取り出し内容を呼んだゴズキは途端に苦々しい表情をした。
「どうした父よ。そんな苦々しい顔をして」
「ん、ああナハシュか。帝都から厄介な相手がこちらへ向かって来ていると連絡があっただけだ」
「厄介な相手。それは反乱軍か?」
「反乱軍程度ならいくら来ようと物の数じゃないんだがな」
ゴズキは、額に手を添えた。
厄介な相手が、反乱軍や伝説とまで言われる暗殺結社オールベルグならまだ戦い用はいくらでもあった。
しかし相手が、黄金の獣と言われるムソウでは話が変わってくる。
あれとさしで戦うには、分が悪いなんて話ではない。
個人で帝国を革命する方がまだ可能性があると言うものだ。
「ではどうするのんだ父よ。厄介な敵がこちらに向かって来ているのであろう」
「ああ、だから今夜この村から出る。俺達を知っている者達を生かしておくわけにはいかないからな、村に住む者達を皆殺しにしてからだが」
「分かった。他の奴らには俺から伝えておく」
「おう、頼んだぞ」
ナハシュが皆の元へと戻る背中を見ながら、ゴズキは一つ大きなため息を吐いた。
ムソウだけでも相対したくないと言うのに、今回はさらにアインザッツグルッペンを全て投入して来ると言う。
それだけの何かがあるのだろうが、そのことについて詳しく知るすべをゴズキは生憎持ち合わせていないために、ゴズキは勘違いをしていた。
狙いがロウセイ村であろうと思い込み勘違いしてしまったのだ。
「やはり、いきなり村が一つ出来るとなると怪しむか……」
ムソウのことを快く思っていない、貴族や高級官僚たちが裏でいくら手を回したとしても限界がある。
今回の育成計画では、臣具を持ち出しているため遅かれ早かれ気づかれるのは時間の問題でもあった。
特に相手が個人で派閥に勝る発言力、個人の采配で貴族や高級官僚であろうと断罪する権限を有しているのだ。
むしろあの獣相手に8年の時間が稼げたのは運が良かったと思う方が自然だ。
なまじ断罪するだけの確固たる証拠があるため、余程の理由か、将来帝国に益をもたらすと思われていても庇うことを躊躇わせる。
下手に庇おうものならば、運が良ければ共犯とみなされ一緒に裁かれてしまうだけだが、最悪の場合、家族も加担していると裏付ける物が出たら、一族郎党強制収容所送りか処刑されるのだから。
「まあ、相手が大物過ぎるから動きを簡単に把握できるのはありがたいな」
「父よ全員に伝えて来た」
「おお、そうか」
「しかし父が確実に全員を殺させると言うことは余程の相手なのか?」
「お前達には教えていなかったな。何れはお前たちが狙う標的でもあるんだが、如何せん隙を一切見せないからな」
「毒殺は無理なのか?」
「そんなもので殺せるなら俺達は苦労しないな」
他の6人のリーダーとして確りと役割を全うしているナハシュだが、その発想は誰にでも思いつくものだ。
経験が乏しいと言うのもあるが、このままでは老獪な相手が敵になった場合、全滅する可能性もあり得るとゴズキは今後の育成計画を少し修正する必要があるな、と思った。
「今はまだ気にする必要はない。それよりもお前も訓練に戻れ」
ゴズキがナハシュに対して、手で払う様な動作をして自身の訓練に戻した。
「さて、どうしたもんかな」
ゴズキの思いとは裏腹に、空は雲一つない晴れやかなものであった。
その日の夜、ロウセイ村は一人残さず惨殺され、村に火を付けられた。
ただ殺すだけでは成長が見込めないと思ったゴズキはアカメ達に一つの課題を出していた。
その課題とは、『最も自身に馴染み深い者から殺せ』である。
今後、暗殺任務が帝都より依頼される。
その時、長期に亘って潜入する任務も有ることは既に予想できることであり、長期間潜入することで暗殺対象に情が芽生えて、殺せないなんてことは許されないからだ。
「俺達は終わったぜ、親父」
「パパ、私達も終わったわ」
「俺も終わった」
「流石俺の子供たちだ!よくやった!!」
予定よりも早く帰って来た、ガイとグリーンのチームにコルネリアとポニィのチーム、そしてナハシュをゴズキは大いに褒めた。
「後はアカメちゃんたちだけだね」
「でもパパいきなり村の人達を全員殺せって、どうしたの急に?」
「悲しいことに村の奴らは、俺たちのことを反乱軍に教えようとしたんだ」
「ええ!?そうなのお父さん!!」
むろん嘘だ。
そもそも村自体がアカメ達を洗脳教育するための箱庭であり、村人たちは国と何らかの取引をして命を売った人間たちであり、そのことを教えることは厳禁とされている。
そして洗脳教育が終わった今、この村が存続する必要はない。
むしろこのまま村が存続している方が、情報漏えいの危険を考えると都合が悪い。
本来ならば二度三度と、洗脳教育に使うことで支出を取り返す予定もあったが、ムソウが動いたと知らされた今、村が存続している方が損失が大きい。
後ろ盾として支出をした者達にとっても、そこから自分達にたどり着かないはずだが、相手がムソウとなると保身に長けた者達だからこそ”もしも”というIFを恐れてしまう。
金の損失も惜しいが、それ以上に黄金の獣の黄金の眼に睨まれる方が恐ろしいからだ。
「すまない、遅れた」
「遅い、雑魚は雑魚らしく仕事くらい時間を守れ」
「でもチーフ、まだ時間が……」
ツクシが何かを言いかけたが、ナハシュは遮ってゴズキに報告した。
「父よ、これで全員そろった」
夜空を染め上げる様な赤。
暗い筈の夜は、村一つが燃え上がっているため明るく、見下ろす位置に居る全員に熱気を伝える程であった。
「これだけ騒がしいならば、そろそろ危険種共も騒ぎながらやって来るだろうからな。全員移動するぜ!!」
ゴズキの号令のもとアカメ達精鋭暗殺部隊は今後帝都より送られてくる任務を実行するために移動し始めた。
家屋が燃え落ちる音が響き渡り、火と轟音の所為で興奮状態に陥った危険種の鳴き声や遠吠えのみが木霊している森の中をアカメ達一行は駆けぬけて行った。
それから一刻とおかずに爆音が鳴り響き、その音はアカメ達の元まで聞こえた。
「これで完全に家が無くなっちゃったね」
「そうだな。だが私達は初めから後戻りできない立場だ」
「よく言ったアカメ!!それでこそだぜ。ツクシも見習えよ」
「はい、お父さん」
そんな会話をしながら、一行は森の闇中に溶け込むように消えて行った。
アカメ達一行が村人を殺戮し、焼き払った数日後にムソウ達はロウセイ村に着いた。
村の入り口から目にした光景は、炭化しきった人であったであろう物や野ざらしにされている人の死体。
焼け落ちた家々には、生活していたであろう痕跡が残らない程であった。
しかし誰もがこの光景に対して、『酷い』と言った思いを抱かなかった。
自身が背負い、これからも背負い続ける業を理解しているからだ。
「一足遅かった様だな」
「長官どうなさいますか?」
「5個小隊で村を捜索、10個小隊と1個中隊で村周辺の索敵。残りは此処より離れた丘の上に野営の準備だ」
「分かりました。5個小隊で村を捜索、10個小隊と1個中隊で村周辺の索敵。残りは此処より離れた丘の上に野営の準備ですね。直ぐにとりかからせます」
「村の捜索は、疫病などの恐れを鑑み、防毒装備をさせておけ」
「了解しました!!」
意見を窺いに来た部下にムソウは、そのまま命令を下した。
死体や村の焼け残った家々の様子から見て、事が起きたのがそう古くないことが分かる。
一月も立っていない、せいぜい数日前に起きたであろうとムソウは状況や痕から推測した。
見ただけで分かるムソウの眼力は本物であり、それを裏付けるほどの経験もまた持ち合わせている。
そして今さら捜索や索敵した所で、望むほどの成果を出すことができないこともムソウは分かっている。
だからと言って、何もしないのは愚かな所業だ。
一欠けらでも情報を有しているのと、何も情報を持っていないのとでは、切れる手札の数、情報を持っていると臭わせるだけで相手に行動を躊躇わせることで得られる時間が大幅に変わってくる。
ムソウは、そのことを誰よりも理解している。
だからこそ、帝国で後ろ暗い背景を有している者達は、ムソウに情報が渡らない様に再三に亘って注意し、隠蔽しようとするのだ。
「捜索、索敵部隊の編制終わりました」
「捜索、索敵を行うのは日が沈むまでだ。これ以上は、本来の任務に差し支える」
「分かりました。日が沈むまでですね」
「では、順次行動を開始させておけ」
「はっ!!」
「それと、村の捜索には私も向かう」
「長官もですか!?」
ムソウが直接出向くと言うことで、伝令を伝えた旨をムソウに伝えに来た男は驚いた表情を浮かべた。
「そうだ。何か問題でもあるか?」
「い、いえ。問題ありません!!」
「で、あれば直ぐに伝えに行け」
長官の心証を悪くしてしまったか!?と伝令を伝えて来た男は、内心焦っていた。
しかしムソウは、この程度のことで心証を悪くするほど狭量ではない。
これが、腐敗しきりムソウの粛清対象になっている者達や、今はまだ”ムソウにとって”利用価値があるとムソウが判断し、生かしている者達ならば、難癖付け処刑や浮浪者を使って殺害にかかる恐れもあったであろう。
「わ、分かりました!!」
敬礼をすると、ムソウの命令を伝えるべく、伝令係の男は駆けて行った。
駆けて行く背を見送ったムソウは防毒装備で身を固めると、一人一足先に村の中へと入って行った。
村の入り口でさえ凄惨な光景に見えた現状が、村の中に入ってからは一層ひどく目に映った。
物が燃えた焦げ臭さや人の放つ死臭が鼻につく。
目に映るのは、炭化しきった人であった物か、炎にまかれずに済んだ死体は蛆虫が湧きはじめていた、家屋は総て焼け落ちたており、原形を留めている物は少なく家具なども原形が分かるのは金属製の物に限られる。
観賞ようであったのであろう植物は、総て炭と化しており、どれほどひどい火災であったかは直ぐに分かった。
「この中で生存者がいたらどれほど奇跡だろうか」
軽く呟いたムソウは、そのまま村の中を隅から隅まで見て回った。
細かい位置は、後から入って来た部隊が捜索している。
日も落ちかけて来たため、そろそろ部隊を退かせるようにムソウが指示を出そうとした時であった。
「生存者がいたぞ――!!」
どの部隊の誰かと言うことまでは分からないが、その声で生存者がいたと言う事実だけが分かった。
ムソウが村の中に入って呟いた奇跡が実際に起きていたのだ。
他の部隊の者達もその声につられて集まっていたようだが、ムソウがの存在を感じ取ると、左右に割れた。
「生存者はどこだ」
「こちらです。現在応急処置を施しています。生存者とはいえ、重症でして息をしているのが精一杯と言った所です」
そう言って部下の一人に先導された先には、全身に包帯が巻かれているため、性別がどちらか分からない状況になっている者が一人だけ横たわっていた。
それに付き添う様に衛生兵たちが忙しそうに手を施しているが、今出来るのはどんなに手を施しても応急処置がやっとだ。
回復させようと思うのならば、相応の機材施設でなければ、無理であることは誰の目から見ても明らかである。
「今は鎮痛剤を打っているため比較的呼吸は安定していますが、このままでは2日と持たずに死にます」
「貴重な情報源だ殺すわけにはいくまい。ここから南に南下した所に武装親衛隊が管理している街がある。そこならば誰も手出しできんからな」
ここでムソウに選択が迫る。
本来の任務は、ラクロウ城の太守でラギリとラクロウ城に務める者達の殲滅だ。
しかし貴重な情報源を失うのも惜しい。
その情報を持っている者が最後の一人と言うのならば、なおのことだ。
数瞬にも満たない僅かな時間で悩み抜いた末、決断したムソウの答えは――。
「3個小隊からなる1個中隊でこの被害者を街まで送り届けろ。編成は任せる」
1個中隊が護衛に付くとなると、野盗たちでも簡単には手出しできない。
口封じのために帝国軍を動かしてくる可能性もある、と推測を立てる事も出来るが、それは真っ先に無いと言い切れる。
アインザッツグルッペンの持つ悪名は、帝国内において比類する物が存在しえない。
そのトップがムソウとなればなおのこと、帝国に仕えている者達が手出しするとは思えないからだ。
「何をしている直ぐにとりかかれ」
ムソウの叱咤号令のもと、唯一の生存者の周りに集まって居た者達はすぐさま自身に出来る役割を探しては行いだした。
その日の夜のこと。
「よろしかったのですか長官。3個小隊編成による1個中隊も護衛に使用して」
「構わん。もし口封じがあると考えられるならば、それは道中だ。街に入ってしまえば武装親衛隊が固めている。不正に入ることも出ることも困難だからな」
「ですが……」
「言いたいことは分かっている。だが、奴が持っているであろう情報には価値がある」
どれ程の情報を持っているかは定かではないが、間違いなくムソウに敵対している者達に関する明確な証拠を得られる足がかりにはなる。
何故言い切れるのか、という疑問を持つ者もいるだろう。
だが、その疑問を持つのは諜報部の力を知らない者達だけだ。
どこで何をしているのかが分からない諜報員たちだ。
信頼していた部下が諜報員である可能性だってあり得るのが今の帝国だ。
むろん、情報を何も持っているに越した事はないが、ムソウとしては情報を持たなくても問題ない。
村人を一人残らず殺したと相手側は思っているのだ。
生きている者がおり、それをムソウが武装親衛隊が詰めている街で保護している。
それだけで相手側の動きを鈍らせれ、殺しに来たところをこちら側が逆に抹殺すれば済む話だ。
「分かりました。武装親衛隊から連絡があり次第報告に参ります」
「分かった。下がっていい」
「失礼します」
部下を下がらせたムソウは、少し間を置いて外へ出た。
奇しくも村が燃えた時と同じ、月明かりが全てを見ているかのような雲一つない天気であった。
ムソウとアインザッツグルッペンがロウセイ村に入った日のことだ。
アカメ達は、いきなり反乱軍の一味であり同志を集めるために帝国内を旅芸人に扮して回っていた、サバティーニ一座を皆殺しにしていた。
いきなりの仕事ではあるが、それを成功させることで自身たちの有用性を帝国内にいる者達に示していた。
そのため次任務が直ぐに舞い込んでくるのも、また必然であった。
「次の標的は北の異民族と内通しているラクロウ城の太守、ラギリだ。これはなかなか大物だぜ。今まで教えて来た知識を活かしてお前達だけで仕留めて見な!」
と言うゴズキの言葉の元ナハシュが全体の命令を出し、コルネリアが城に潜入する女性陣に更に侵入時の命令を出す形をとって作戦が始まった。
「あー……おいナハシュ暇すぎるぞ。もう夜になったら城に突撃してヤればいいじゃん」
「黙ってろ雑魚。コトはそう単純ではない」
「城の中は罠満載でしょ。太守が内通何て危ない橋渡ってるならなおさらさ」
「へっ。グリーンその格好似合ってるじゃん」
ガイが似合っていると言った、グリーンの格好はカフェのウェイター服であった。
見た目もガイほど筋肉質でないことも相嵌り、ガイが言うとおりとても似合っていた。
「ボクのこだわりのコーヒーを名物メニューにすべく奮戦中さ」
「おい、本来の目的を忘れるなよ雑魚」
「分かってる。まずは各所に潜入して情報収集でしょ?」
「俺も何か働きてーな!!」
シャドーボクシングをしながら、ガイは言うが、実際は誰がどこに潜入するかという話し合いの段階で、ガイは潜入に向かないと言うことが全員一致で決まったため、ガイが潜入するような任務はまずありえない。
もしガイが潜入するとなると、鉱山の採掘のような汗臭い重労働に限られる。
「お前は騒ぎを起こしそうだから大人しくしてろ。その分任務の時働け」
「けっ、ナハシュは何もしねぇのかよ」
ガイが悪態吐くように言うが、ガイ自身はナハシュのことを認めている。
力もそうだが、頭が切れるところもやり辛く敵に回したくない相手であると。
「司令塔はそう言うものだ。その代り全責任はもってやる」
「けっ、なら俺のツケも代わりに責任とってもらいたいもんだよ」
「それ完全に個人の責任だろ」
ガイの場合、任務で長期的に街に潜伏したりすると必ずと言って良い程問題を起こす。
それも遊郭で。
そのため、各所の街でガイは借金取りに追われているため、一度は言った街にガイは必ずと言って良い程顔が知れ渡ってる。
仕事がそのせいでやり辛くなったのも一度や二度の話ではない。
「ちっ、そうかよ」
「そう悪態吐くなよガイ」
「未だに童貞なグリーンには分からないだろうな。遊郭で遊んでこそ一人前の男ってもんだぜ」
「あー、はいはい。何でガイはそんなに年増が好きなのか理解できないからね」
二人のやり取りを聞き流していたナハシュだが、一瞬その目が鋭くなった。
「おい雑魚共」
「ああ、分かってるぜナハシュ」
「今の人、間違いなく僕ら側の人だよね」
それも今まで殺してきたどの相手よりも強い。
標的ではないが、間違いなく違う勢力がこの街に入り込んでいることを三人は察した。
その三人の視線の先に居るのは、一見何気ない風貌を装った人だ。
しかし、隠そうにも隠しきれない程滲みだしている死の気配を3人は敏感に感じ取っていた。
「今夜のうちにでも、コルネリアたちに警戒するように伝えておかねばな」
ナハシュがそう呟くと、手に持っていた本に視線を落した。
ナハシュ達3人が、気が付いた死の気配が滲み出ている男はと言うと。
3人それも子供か、と視線を向けて来た相手を確り把握していた。
この男の正体は、ムソウの受け持つ諜報部の諜報員だ。
今夜仕掛けると、ムソウから伝達を受けた男と、男とは別に潜入している諜報員たちは他に潜伏しているであろう敵を判別するために、”わざと隠そうとして隠しきれずに死の気配を滲みださせている男”と言う危険極まりない役を演じていたのだ。
そして、その成果が今の三人だ。
その成果をムソウに伝えるべくムソウ達が現在陣取っている場所へ戻るため、一旦路地裏に入った時であった。
「あいつらもまだまだだな。なあ、あんたもそう思うだろ?」
「!?」
いきなり背後をとられたため、男はとっさに前に跳びながら背後の敵を確認すべく振り返った。
まさか自身が背後を取られるとは、と思いながらも事実は事実であるため、そのことを男は受け止めながら背後をとった男を見ると、その男は男たちにとってとても見知った相手であった。
「貴様は、元羅刹四鬼のゴズキ!!何故貴様のような男がここに」
「俺のことを知ってると言うことは、やはり一般人じゃねぇな。なら少しお話を聞かせてもらわねェとな」
相手が羅刹四鬼クラスとなると、分が悪いことを男は分かっている。
ゴズキも潜入任務出来ているのであれば、街中であることを踏まえて、人目に付くような極端な大技や身体操作を使わないと思われる。
だが、それを差し引いてもゴズキは、帝具村雨を持っているため油断できない。
「生憎だが、こっちは話す用事何て無いのでね。直ぐにでも去りたいところなんだが?」
「それは出来ないそうだんだなぁ」
ゴズキが一歩歩みを進めれば、男は一歩下がる。
情報が目的である以上、殺しはしないだろうが、だからと言って油断できる状況ではない。
出来る限り早く戻り、情報を伝えたい男としては逃げるのがベストなのだろうが、背中を見せるのは好きに繋がる。
「逃げるなんて考えるなよ。どの道顔を見られたんだ、生かしては帰さねぇがな」
「選択肢をそちらだけが握るってのはフェアじゃないと思うんだが?」
男はそう言いながら、最悪の場合所持している情報を守ることと自身を追いつめる存在がいることを他の仲間に知らせるためにも自爆する準備を出来る限り気づかれないように進める。
「そうか、なら一応選択肢を与えようか。このまま殺されるか、情報を吐いて殺されるか」
「面白いことを言うな。それを選択肢と言うのをはじめて知ったよ」
「そうか?俺はいつも使ってる選択肢だがな、っと!!逃げようと思うなよ。それと右手もだ。ゆっくりと手に持ってるものを下ろしてもらおうか」
男はこれをチャンスと捉えた。
精々人一人をばらばらにする程度の威力しか持っていない爆弾を、ゆっくり下ろす振りをしながら安全ピンを抜き、ゴズキの方へと手が滑ったように見せて転がした。
丁度ゴズキとの中間地点辺りに転がったあたりで、爆弾が起爆し爆風が二人に襲い掛かる。
あくまでも自爆用であるため、金属片などが飛び散って周囲を破壊し尽くすと言うことはない。
男は、そのことを知っているため爆風で僅かな隙を見せたゴズキの隙を突き、そのまま逃走を図った。
「簡単に逃げられるようじゃあ、羅刹四鬼は務まらんのですよ」
「かはっ!!」
背中から声が聞こえたと同時に、男の腹から刃が突き出してきた。
「一斬必殺村雨。まあ俺の名前を知っている時点でこの帝具のことも気づいてたみたいだがな」
「せ、めて。おま、えも」
かすれた声で途切れ途切れに男が言うと、懐にしまってあるもう一つの爆弾のピンを抜いた。
死角になる位置と言うこともあり、ゴズキは気づいていない。
死ぬにしても道連れだ。
男は内心ほくそ笑んでいた。
だが、それは悪い意味で裏切られた。
「まあ、そう上手く引っかかるわけにはいかんわけよ」
ゴズキの声と同時に手榴弾が起爆し、轟音と爆風、さらに金属片が周囲を蹂躙する。
せめてもの救いが、広場ではなく路地裏であったため無用に一般人を傷つけずに済んだことだ。
「こほっ、全く埃っぽいまねを。だが、こんなものを2つも持っているってことは間違いなく”あの獣”の配下だな」
ゴズキは起爆と同時に羅刹四鬼ならではの身体操作を活かし、髪を全身に巻きつけ硬質化させた。
さながら繭の様に身を守ったゴズキは、周囲に舞っている粉塵の所為で軽く咳き込みながらも、手榴弾を2つも持っていた男の正体がムソウは以下の諜報員であると当たりを付けた。
「獣の諜報員がいるってことは、狙いは多分俺達と同じだろうな。ったく、帝都に居る奴らもいい加減な仕事しやがって、なにが『狙いはロウセイ村だ、村に一切の証拠を残さず殲滅しろ』だ」
ゴズキは砂埃を払いながら、二度の爆発の所為でざわめき声と共に人が集まって来ていることに気づき、三角跳びの要領で壁を蹴りながら建物の屋根に飛び乗った。
「さて、どうした物かな」
ゴズキはラクロウ城を見つめながら呟いた。
その日の夜のことであった。
「長官、本日合流する予定であった諜報員が一名殉職したとのことです」
「誰にやられたか分かるか?」
「はっ、目撃証言などを踏まえて、我々で検討した結果一番有力な候補者として、元羅刹四鬼であり帝具村雨の所有者ででもあるゴズキであると思われます」
「ゴズキだと。あれはたしか任務で南方に居るはずだが」
ムソウは手を顎にそえて、幾つかの可能性を思案した。
そして最も可能性が高いとムソウが思ったのは、ゴズキに与えられた任務とムソウが知り得た情報が一致していないだ。
一人二人が情報を捏造した所で直ぐにボロが出る。
だが、今の今までムソウが知りえなかったとなると、余程情報操作が上手いのか、余程の大人数が裏で手を組んでいるかのどちらかになる。
前者はあり得ないと言い切れる。
今の帝国にそこまで、内政などを含めて文官でキレる人物はいない。
一番あり得ると言い切れるのが、後者でありムソウ自身でも自身の役職を含めて嫌われる要因が多いことを自覚している。
だが、今までここまで大がかりなことを実行しするにしても中心人物となれるような人物はいなかったはずだ。
見落としている可能性も含め、ムソウは今一度文官を洗い直すべきであると結論付けた。
「まあいい、任務には支障はない。準備出来次第決行する」
「了解しました」
「長官、急様なため失礼します」
ムソウに報告しに来ていた者を下がらせようとした時であった。
いきなり別の者が入って来たのだ。
「何だ騒々しい」
「申し訳ありません。が、ラギリが護衛を引き連れ森に狩りに行ったと報告がありました」
「このタイミングで、か。ならば、ラギリは私がアインザッツグルッペンⅠを率いて討つ。残りは城に居るものを一人残らず殲滅しろ」
「はっ!!直ちにに手配します」
報告しに来た者を下げたムソウは、黒い外套を肩から羽織ると幕舎から出た。
外では、直ぐにでも出れる様に慌ただしく準備が進んでいた。
日も落ちかけて来た夕暮れ時に、護衛を引き連れた白髪をオールバックで固めた男を中心に狩りに来ていた。
「ええい、獲物がおらんではないか!!ラクロウバンビの群れが出たのではなかったのか!?」
白髪をオールバックで固めている男、ラクロウ城の太守であるラギリは獲物が一匹もいないことに憤慨していた。
「申し訳ありません!!今捜索させていますので、今しばらくお待ちください」
太守の補佐をする立場に似る男は、冷や汗を掻いているためハンカチで拭いながら、ああ、早く見つかってくれないかと胃腸にダメージを現在進行形で受けえていた。
そんな様子を見ている者達がいた。
アカメ達は距離をとった位置でいつでもツクシをサポートできるようにしており、ツクシはマズルフラッシュによって気づかれないようにするため、銃全体を布で覆いいつでも狙撃できるように木の上で待機していた。
本音を言えばサイレンサーを付けたかったところだが、一点ものの臣具であるためそのような便利な物はなかった。
リーダーであるナハシュの合図とともに木の上で待機していたツクシは、臣具プロメテウスの引き金を引いた。
プロメテウスは、連射すると精度が落ちると言う欠点があるが曲射や跳弾などを自在に出来る使用するタイミングさえよければ、敵にとってかなりの脅威となる臣具だ。
そのため、狙撃した方向が左側からであったとしても、Uターンする形で曲射すればあたかも右側から狙撃した様に装うことが可能なのだ。
「ああっ!!ラギリ様!?」
「ラギリ様!!」
「己貴様ら、何の役にも立たないではないか!!」
「今は犯人を捕まえるのが先だ!!」
「銃弾はあちらから飛んできた!!」
そう言い、ラクロウ城の護衛の兵士たちはそのまま銃弾が飛んできた方へと馬を走らせた。
しかしラギリの護衛に付いていた異民族の護衛は違った。
銃弾が飛んできたのは風下だが、硝煙の匂いが風上から来ている。
その僅かな違和感に機敏に反応した異民族たちは、経験に基づき硝煙の匂いがする風上に向かって駆けだした。
「どうだ!これも俺様がスーツ着て土の中からバンビを散らしたおかげだぜ」
「うん、おかげで標的が奥まで来たよ」
仕事を終えたためか、軽い会話をしているが木々を避け、森の中を走り抜く速度は野生の獣に迫る者であった。
「ところでチーフ……」
「いつごろ始末付けんだ?」
「……流石に全員分かっているか。気づいていない雑魚は説教するところだった」
「でも相手何で気づいたんだろう?気配漏れてたかな」
「それかもしくは、硝煙の匂いか」
「全員反転、つけて来ている奴らを迎撃する」
リーダーであるナハシュの号令のもと、全員が急停止し反転した。
僅かな時間を置いて、追手である異民族の護衛たちも追い付いた。
「ガキども、俺達が護衛してたってのによくも赤っ恥をかかせてくれたな」
「アジトに案内する気がないなら力ずくだ。壊しながら黒幕と居場所を吐かせてやるよ」
声こそ抑制を聞かせているようだが、内容から相手が激怒していることを感じ取れる。
「こいつらは標的ではないが……分かっているな?」
「うん、ハッキリ見られた以上生かして帰せないね」
「私達を追跡して来ているし手強いよ、注意して」
「良い気になるなよガキども!!」
異民族の護衛として雇われた者達は、各々の得物を構えアカメ達に襲い掛かって来た。
それに合わせてアカメ達も自身の得物である臣具で迎え撃った。
「下がれ!!」
一番後ろで待機していた異民族の男が大声で告げた。
粉砕王で撲殺され、桐一文字で惨殺されようとした瞬間、周囲の木々の枝や蔓、根や葉が刃となって襲い掛かった。
「チーフ、今のは」
「間違いない。帝具だ」
ナハシュがそう言うと、一番後ろで待機していた異民族の男は拍手をした。
「さすが後ろ暗い事をしていると、いろいろ知っているみたいだな。そうこのイヤリングは森林共鳴・シャングリラ。植物ならば何でも自在に操作できる便利な代物だ」
自慢げに能力まで教えてくれたが、だからと言って弱点らしい弱点がない。
いや、弱点ならばある。
植物を自在に操作できると言うことは、言い返せば植物がなければ無力と言うことだ。
しかし隠密行動が基本のアカメ達にとって、森を燃やすと言うことはそれだけで人の目耳を集める結果となる。
それだけはアカメ達にとって避けたい。
そのためどうやって攻略しようかと、休む暇なく襲い掛かる木々や、行動を妨げる雑草たちを避けていた時だった。
複数の銃声が、森の隅々まで響き渡った。
その轟音で、鳥たちが一斉に飛び立ち森に棲む生物たちが慌ただしく行動し始める音が聞こえる。
誰かが狙撃されたか?そう思ったナハシュは、一瞬のうちに全員を見渡し、全員が無事なことを確認すると、木々による攻撃が止んでいることに気が付いた。
「どこ、から」
それだけを呟くと帝具を持っていた男はあっさりと地に伏した。
「ふむ、まさか異民族まで帝具が渡っているとは。これならば諸国にも行方の分からなくなった帝具が渡っている可能性もあるな」
木々の間から覗くは、総てを見下ろすような黄金の双眸。
森林の闇の中に在って一際異彩を放ち、威圧感を与える。
「まずは、異民族だ。やれ」
黄金の双眸の持ち主が、そう言ったのと同時に銃声がまた鳴り響く。
連続的に轟音が響き渡り、その音と共に異民族共が肉塊に変えられる。
アカメ達は一塊にはならず、されどお互いの死角をカバーするような位置取りをする。
「さて、次は貴様らだ。何故貴様らは臣具を持っている」
臣具、自分達が持って言える武器を一瞬で臣具であると見破った男にナハシュ達はさらに警戒を強めた。
「それが貴様とどう関係がある」
「それこそ貴様らが気にするようなことではない。さて、まず誰が後ろに付いているかそこからだ。口が利ければ十分だ、ヤれ」
黄金の男の言葉と共に周囲の闇から一斉に銃声が鳴り響く。
僅かなタイミングで、アカメ達は一斉に木々の枝に飛び乗ったが、銃弾はアカメ達のいた場所に襲い掛かることはなかった。
「どうした」
「敵襲です!!第一分隊がやられました」
「敵は誰かわかるか」
「依然不明です。しかし羅刹四鬼相当のしんt――」
報告している途中で報告している者の首が、一刀の元撥ね飛ばされた。
首からは、おびただしい血が噴水の様に吹き出すと言うことはなかったが、ドサッと言う音と共に倒れ伏し、血が流れ出す。
続けざまにその凶刃が黄金の男に迫る。
「その程度では、私を殺すことは叶わんぞ」
「やはりあんたか、ムソウ」
黄金の男がムソウと言う名である事を知ったアカメ達だが、それ以上に驚いたのが、声の主が父と慕うゴズキであること。
そして何よりも驚かされたのが、ゴズキの本気の一撃を何もなかったかのように捌いたことだ。
「お前たちは逃げろ。お前たちが玉砕覚悟で攻めたところで傷一つ付けることは叶わん相手だ!!」
「そこまでして逃がす、か。しかし奴らが逃げ切れると思っているのか?」
「逃げ切れるさ。半数以上がラクロウ城を攻めている今なら、な」
「だがお前はどうする気だ?まさか私から逃げ切れるとでも」
「もちろん。何も準備せずに来る程俺も馬鹿じゃないんでね」
帝具村雨が木々の間柄僅かに降り注ぐ光で怪しく光る。
そんな中でもムソウは帝具を出さない。
目的が後ろに誰がいるかを問い質さなければならないと言うのもあるからだ。
早々に戦奴に落としてもいいが、せいぜい最下層の髑髏行きだ。
それでは情報を聞き出すのに時間が掛かかる。
「ならば私はその策を受けてなお、捕獲するとしよう」
ムソウが初めて攻めに転じた。
支給品とは一線を画すサーベルでゴズキに斬りかかる。
刺突は肢体ならばともかく、胴体は内臓を傷つけ致命傷を与えかねない。
それは身体操作と言う反則技を身に着けている羅刹四鬼でも変わらない。
地を裂き、木々を斬る斬撃は鋭い。
ゴズキも帝国内で屈指の実力者ではあるが、相手がムソウでは分が悪い。
「ちっ!!相変わらず手加減を知らないやつだな」
ギリギリのところで、行動不能に成りえる攻撃をかわし続けるゴズキは、アカメ達がムソウと距離を開けたのを確認すると大きくムソウと距離をとるとスイッチを入れた。
次の瞬間、轟音が連続的に鳴り響くと、地鳴りを起し始めた。
事前調査で、この森の下全域に亘り地底湖があったはずだ。
「成程、準備とはこう言うことか」
崩れ去る地面に巻き込まれる形でムソウは落下していくが、ゴズキも巻き込まれて落ちて行くと思われた。
しかしゴズキは、準備と言うだけあって、爆発も計算されていたかのようにゴズキの場所だけ地面の落盤が遅い。
「思った以上に周到の様だな。ならば今回は見逃してやろうが、背後にいる者達は別だ」
ムソウがそれだけを言うと、土砂と一緒に地底湖に落ちて行った。
その様子を見届けたゴズキはと言うと、何もかもがギリギリでどれか一つでも遅れていたり間違っていた場合間違いなく全滅であった。
そのため珍しく疲れた表情を見せていた。
しかしこのままこの場に居ると武装親衛隊も駆けつけてくる可能性もある。
流石にあの数を相手にするほどゴズキとて馬鹿ではないため、早々にアカメ達と合流することにした。
ムソウが地底湖に落ち、ゴズキが離れて直ぐのことであった。
「思ったよりも汚れてしまったな」
言葉だけで聞くと、服など全体的に汚れていると思うだろうが、実際は叩いたら落ちる程度の砂埃で服が僅かに汚れているだけであった。
黄金の髪は、まるで汚れること自体があり得ないと断言できるほど服の汚れとは裏腹に一切汚れていなかった。
ムソウは、服の汚れを叩いて落とすと軽く助走をつけて、一気に地上まで飛び上がった。
「長官申し訳ありません。言い訳と受け取られるでしょうが、ゴズキの妨害が思った以上に激しく一人とて確保することが叶いませんでした」
「よい、私もゴズキにはめられ地底湖に落とされた」
「ラクロウ城の方は万事滞りなく済んだようです」
「分かった。では帝都に戻るぞ。汚名を返上したくば帝都で雪げ。仕事は増えた以上お前たちの出番も必然的に増える」
「分かりました」
「では、各部隊指定のポイントに集合しだい帝都に戻るぞ」
「「「「「はっ!!」」」」」
アインザッツグルッペンの面々の返事と共に、ムソウ達もまた夜の森の闇に消えて行った。
途中何度挫折したか……
とりあえず、一旦過去編は此処で区切って、一度本編に戻ります。
感想で何度も盛り上がった、シュラがある意味主役の10巻の話になります!!
誤字脱字がありましたら報告お願いします。
以上