獣が統べる!<作成中>   作:國靜 繋

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11月23日

20150105 誤字修正


獣と狩人

「そう言えば、今日だったか」

 

ムソウはいつも通り、常人では一日費やしても捌ききれない量の書類を捌きながら、今日エスデスの作り上げる新部隊の隊員たちが到着する日だと思い出した。

ムソウとしては、大臣の私設部隊と変わらないと言っていい部隊が出来るのは好むところではないが、大臣の命は、陛下の命と変わらない今の帝国では覆しようのない絶対の命令となっている。

薬は時として毒となり、毒もまた使い方によっては薬となる。

大臣も時として薬となれば良いが、あれは毒でも薬でもない、膿だ。

諜報部に内偵させているだけでも、黒と言う結果しか出ず、むしろ探らせれば探っただけ出て来る。

大よそ人の犯せる罪と言う罪を犯しているのが大臣だが、最悪なことに現皇帝の信が厚過ぎるのもあるが、その罪を巧妙に隠し他の政敵に擦り付け、政敵を裁いているため、その罪で大臣を陥れることが出来ない。

最低でも、反乱軍の決起、安寧道の武装蜂起と同調する形で、何らかの手段を講じ陥れるのが現状最も好ましいが、人の準備した物を使って他人を陥れるのは、誰かの掌の上で踊っているようでムソウとしてはあまり好むところではない。

むしろ、他人を自身の掌で踊らせ、陥れることの方を好ましく思っている。

そうなると必然的に大臣を陥れる機会が限られてくるのもまた事実だ。

どうしたものかとあらゆる可能性を思考している時だった。

 

「長官、お時間です」

 

執務室の扉越しに部下が時間を知らせに来た。

元々予定はなかったのだが、今回急遽招集がかかったのだ。

理由は、おおよそ見当がついており、エスデスが率いる部隊の顔見世のためであろうと当たりを付けていた。

各軍、部署、または市民、商人とあらゆる者に成りすまし、忍び込んでいる諜報部からの報告によると急遽集められたのは、一部の文官と帝都警備を携わっている部隊の将軍たちだけという状況証拠から導き出すことができ、その答えが必然的にエスデスの新設する部隊員の顔見せと考えるのが自然であった。

 

「分かった」

 

それだけを言うと掛けてある外套を手に取り、一気に羽織ると執務室を後にした。

 

 

 

 

――謁見の間

 

「私が最後か」

 

謁見の間に着くと呼び出されていた文官武官たちは既に整列していた。

その中には、非常に珍しいことにブドー大将軍の姿もあり、仁王立ちの姿からぶれることなく立っていた。

後は、皇帝とエスデス率いる新部隊が来るのを待つだけのなのだが、ムソウが来るのを待っていたかのようにムソウが定位置に立つと皇帝は直ぐ入って来た。

エスデス達もあまり間を置くことなく謁見の間に入って来るのを見ると、本当にムソウが来るのを待っていたのではと邪推してしまうものがある。

 

「エスデス将軍、此度の新部隊設立、大義である」

 

エスデスは皇帝の前で跪き、いつも被っている帽子を胸に当て頭を垂らしている。

新部隊のメンバーは、エスデスよりも一歩引いた位置で跪き頭を垂らしているが、いきなり皇帝の前に連れてこられたためか緊張しているの者も何人か見受けられる。

 

「それで、新部隊の名前は何というのだ?」

 

「はい、我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織……ゆえに特殊警察『イェーガーズ』と名付けました」

 

「『イェーガーズ』……良い名だな。うむ、ならば『イェーガーズ』に専用の建物を用意させよう」

 

幼い皇帝は満足そうにうなずいて言った。

大臣は大臣で、皇帝の横に立って自身の使える手駒が増えたことに喜んでいるようで、悪い笑みを皇帝に見えない位置で浮かべていた。

いくら皇帝の信厚い大臣とはいえ、軍の人事内情に深く関わってくるとなると、必ず帝国軍最上位に立つブドー大将軍が立ちはだかるのは必然だ。

帝国内のあらゆる情報は、その情報網故必ず一度はムソウの目に入るが、大臣は違う。

大抵の情報は一度ムソウの元に集まり、選別されてしまうため、大臣でさえ自身の情報網を使ったとしても、帝国内や国外の全ての情報を知るのは事実上不可能だ。

大臣が出来るのは、精々使える手駒を増やし自身の権力を高め、欲望を満たす事位だ。

むろんそのことを大臣が知ることはないのだが。

 

「陛下、これで陛下憂いを取り除くことが出来ますな」

 

「うむ、それもこれも大臣の尽力あってこそだな」

 

大臣はにこやかに皇帝に声を掛け、皇帝もにこやかに返事を返した。

そんな中、我関せずと言った表情でブドーは目を瞑り、なり行きを静かに見守っていた。

ブドーの担当が近衛を率いての宮殿警備であるため、帝都内の賊とはほぼ関わりがなく、関係してくるとすればそれは宮殿に賊が攻めて来た時くらいなものだ。

ムソウはムソウで、この様な無駄な形式だけのものの為に呼び出されたのが気に食わないためか、こちらもブドーと同じで我関せずの態度を取っていた。

元々形式だけの謁見と新部隊員を皇帝に紹介するだけだったため直ぐに謁見は終わった。

謁見が終了するとブドーは、今回の謁見で一言もしゃべる事無く直ぐに謁見の間から立ち去った。

大臣と明確に敵対している数少ない人物でありながら、帝国に無くてはならない存在であるからこそ許される振る舞いだ。

それを言うならムソウもそうだが、態々この様なことをする方が器が知れると言うものだ。

むしろ強者だからこそ余裕を持った振舞いが求められるものだ。

 

「陛下この気に一つお願いしたことが」

 

「ムソウが余に願いとは珍しいな。言ってみよ」

 

「ここ最近、ナイトレイドや反乱軍の活動が活発化しており、諜報部と保安部を別々の組織のまま命令指揮しておりますと、末端まで命令が伝達されるのに遅れが目立ってきております。ゆえに、この気に諜報部と保安部を統合し保安本部としたいのですが、いかがでしょうか?」

 

暗に諜報部と保安部を一つの組織にしろと言っているムソウだが、そこは幼く経験も少ない皇帝だ。

そこまで深く考え着くわけもないが、大臣は違う。

あの手この手で、他の帝位継承者を蹴散らし、今の皇帝を帝位就任させただけにその裏もしっかり理解できているため、苦い顔つきをしている。

 

「余としてもムソウには今後も大いに働いてもらい、千年帝国繁栄のための忠臣だと思い叶えてやっても良いと思うが、大臣はどうだ?」

 

あくまでも皇帝にとって大臣の意見が一番か、口にすることはなかったがムソウは内心そう吐露した。

こういった判断で、自身の裁量を計られていることに気付かぬとは、良識派は未だ何故この皇帝が真実に気づくと、僅かな可能性を信じているのか理解に苦しむと、ムソウは呆れ気味に思いつつも表情には出さなかった。

一方大臣はと言うと、してやられたと思っていた。

エスデス将軍の為に態々帝具使いを6人も集めておいて、ムソウの意見を一方的に却下する訳にはいかない。

さらに二つの組織の長であるはムソウであり、その二つの組織を一つにした場合の利便性が上げるのであれば、本来なら歓迎すべきことであり、そもそも拒否する理由にはならない。

だが、二つの中規模組織を一人で指揮するのと一つの大規模な組織を指揮するのではその権力、権威の上がり具合は推して計るべきだ。

 

「そうですな。ムソウ殿には日頃苦労をかけておりますから、陛下が良いと思われるなら私が否定する理由は有りませんよ。そうですね、一緒に専用の建物を渡してはどうでしょう?」

 

その発言に大臣派の者達は大臣の言葉に自身の耳を疑った。

水面下とはいえ敵対している者の力が増すことを許可したのだ。

そんな大臣はと言うと、皇帝には甘い顔で許可しながらも、実際は腸が煮えくり返る思いだった。

 

「うむ、ではムソウ。余の名において諜報部と保安部を統合し保安本部と名乗ることを許可し、新たに宮殿近くの建物を見繕い渡そう」

 

「ありがとうございます。陛下」

 

専用に建物を渡すと言うことは予想外ではあったが、許容範囲内であったため、ムソウは上手くいったと頭を垂れながらほくそ笑んだ。

 

「他にこの場で余に言っておきたいことのある物はおるか?」

 

ついでにと言わんばかりの陛下の物言いだが、他に何かを言える者はいなかった。

むしろ、この様な場で言えるのは限られた者位で、ムソウを除くとなると後はエスデスとブドー位のものだ。

皇帝は一通り見通し他に言う者がいないのを確認すると、玉座から立ち上がり、大臣を連れて謁見の間を出て行った。

 

「上手くいったな」

 

召集された面々も皇帝が出て行ったのを確認して出て行き始める中、ムソウは一人呟いた。

勝算があったからこそ、このタイミングで願い出たのだ。

でなければ、あのようなタイミングで言い出すわけがない。

下手をしたらムソウが政治的基盤を築きたいために言い出したと、大臣派が言い出しかねないからだ。

だが、エスデスに帝具使い6人を付けた手前簡単に否定しようものならば、発言者の立場が危うくなるため言い出せなかったと言うのもあり、上手く行くことができた。

ムソウの権力、権威、武力が上がるにつれ、大臣は外の革命軍、内の保安本部とブドー率いる近衛の三つに注意を向けなければならなくなったと言うことになる。

今後どのようなことをしてくるか楽しみだ。

そう思いながら、ムソウもまた他の者と一緒に謁見の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

執務室に戻ってからの仕事はいつも以上に熾烈を極めた。

二つの組織を一つにまとめ上げると言うことは、それだけで指揮系統や命令系統の調整、二つの組織の人事とその長であるムソウだけが出来る判断が多くあるためだ。

ある程度の目途が付けば、保安本部に二つの人事をまとめ作り上げた第Ⅰ局(人事局)に人事のことは任せることができる。

その間に、調整した命令系統や指揮系統を伝達すればいい。

少し問題があるとすれば、国外の諜報を行わせている者達に、この事が伝わるまでにタイムラグが有り過ぎることくらいだが、その位ならどうにかなるだろう。

そんなことを思っている内に構想が形を成していき、納得のいく形になった。

 

「ああ、そうだ。折角の機会でもある、エスデス達の新部隊を祝いに行ってやるか」

 

保安部と諜報部が現在緊急でやらなければならないことは既にやってしまい、忙しいのは人事を中心とした場所ばかりで他は、専用の建物に移動するための準備をしている位だ。

ならばと思い立ったムソウは、ムソウがやらなければならないことを終えると、訪問者を持成すために常備されているワイン(一本で帝都市民が中央部で一年は遊んで暮らせるお値段)を二、三本見繕うとエスデス達の居る元へと向かった。

 

 

 

イェーガーズが現在使用しようする為に割り当てられたのは特別警察会議室だ。

皇帝が用意させると言った建物が見つかるまでの間ではあるが。

ノックをすると中から、『はーいっ』と言った声が聞こえ、こちらへとパタパタと駆け足で向かってくるのが聴こえる。

 

「どちら様ですかー……って、ムソウ保安部長官!!」

 

出迎えて来たのは、セリュー・ユビキタスであった。

セリューはセリューで、いきなり帝国内でも一、二位を争う程の大物が訪ねて来て驚き、どう対応して良いのか分からず固まってしまった。

 

「ムソウではないか!!態々どうした?」

 

セリューが大声を上げて驚いたため、エスデスも直ぐに気づき此方へと歩み寄って来た。

 

「何、お前が新部隊立ち上げの祝いを持ってきたのだよ」

 

正確には、それを利用させて貰ったからそのお礼であるのだが、それを言うほどムソウも野暮ではない。

 

「そうか、態々すまないな!!」

 

部下の前だからか毅然と振舞っているようだが、付き合いが比較的長いムソウは、一目で照れていることを察することが出来た。

 

「これは、祝いの品だ」

 

「良いのか?これはかなりいい品のはずだが」

 

「構わんさ。まだたくさん物はあるからな」

 

それにして、プロフィールなどは見てはいるが、改めてイェーガーズの面子を見るとかなり濃い者達ばかりだな。

ドSにオカマ、親が殺された者に親に売られた者、守っている者諸共殺し続けて来た側に、守らなければならなかった者を殺されてしまった側、この中でウェイブが一番真面(普通)であった。

むしろウェイブこそが本来正常で、他の者達の経歴が異常なまでに汚れているだけとも言える。

しかし癖が強くとも、その実力は一つの部隊に集めるには過剰すぎる戦力と考えて問題ないだろう。

むろん、その実力を発揮させきるかはエスデスの手腕だが、エスデス自身の実力も考えると問題なく機能するだろう。

だが、問題なのは保安本部との縄張り争いだ。

執行権の優先順位ではこちらが上だが、イェーガーズの後ろ盾は大臣だ。

エスデス本人は、ムソウのことを愛しているが、仕事では完全に割り切れる人間である。

そのため今回保安部と諜報部を一つの組織にしたため、大臣がどのようなことをしてくるかわからない以上対策を練らねばならなくなっている。

 

「しかし中々いい帝具使いを集めることが出来たな」

 

「大臣には貸しがあるからな」

 

エスデスは、胸元の開いている軍服で胸を張ったためかなり谷間が見える形となっているが、公務中であるムソウを靡かせるのは、如何にエスデスであっても不可能であった。

 

「お話し中すみません、ムソウ長官にお聞きしたことがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 

エスデスと話していると、ランが礼儀正しく断りを入れながら割り込んできた。

 

「かまわんよ」

 

「ありがとうございます。『チャンプ』、この名に心当たりがあるのでしたら、この者が今どこにいるか教えてもらえないでしょうか?」

 

「……ああ、知っているとも。あのようなシリアルキラー常に監視をさせているにきまっている」

 

「できれば、教えていただけないでしょうか?」

 

「それは出来んな」

 

ムソウが断った瞬間、一瞬ランは顔を顰めたが、すぐさまいつものニコやかな表情に戻った。

 

「私としては教えても構わぬのだがな。今奴は大臣の息子である、シュラの庇護下に在る。その意味が分からんほど馬鹿ではあるまい」

 

「……そうですか、分かりました。すみません、無理を言って」

 

ランは頭を下げて、ウェイブたちがチョウリした料理をテーブルへと運ぶのを手伝いに行った。

エスデスは、なにがどういうことかさっぱり分からんと言いたげな表情をしていた。

 

「ランの出身地はしっているだろう?」

 

「ああ、だがそれがどうした?」

 

「隠したのだよ、大量殺人の事実をな。むろん隠蔽に加担した者達は、全て罪を犯したことになるからな既に逮捕済みだ。まあ、詳しく知りたいのなら本人の口から聴くのが一番だな、私は書類でしか知らぬから何とも言えないが」

 

「そう言うことか。いや、こう言ったことは本人から言わなければ意味がないからな。そうだ、ムソウも一緒にパーティに参加しないか?1人分くらいならばどうにかなると思うが。大丈夫だろウェイブ?」

 

「食材はいっぱいありますから大丈夫です隊長!!」

 

暗にもう1人分用意しろと言われたウェイブは、急遽もう1人分用意しようとしたがそれは杞憂に終わった。

 

「いや、遠慮しておこう。今回は親睦を深める意味でもお前たちだけで祝うべきだ」

 

それだけを言うと、ムソウはイェーガーズの居る特別警察会議室を後にした。

さて、イェーガーズ使えるならば良し、直ぐ壊滅するまでならばそれだけの存在だったと言うことだ。

私を楽しませるだけの力があるか、今から大いに楽しみだ。

ムソウは僅かに口元を釣り上げ気味に思った。

その表情は、奇しくも獣が好敵手を見つけた時と同じであった。




水銀とかいないとか最初の頃言ってましたけど、水銀出したり徐々に史実のラインハルトの意思が消えはじめ、最終的にはDiesのラインハルト殿にとか考えてたりしますけど、どうしたら良いでしょうかね~
水銀出し始めたらもう、いろいろ止まらなくなり黒円卓のメンバーも出し始めるけど問題ないですかね?といった感じのアンケートを活動報告の方に出しますのでそちらの方にコメントください。
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