下品な描写がたくさんあります。ご注意ください。
『僕……ベル・クラネルって言います。貴方の名前は?』
『シル・フローヴァです。ベルさん』
店の入り口の方からラヴの波動を感じる。それを生産しているのが純粋過ぎる義理の子と猫かぶりを極めた女であることを尖った耳が拾う声で察しながら、レティシアは料理の仕込みをするミアに話しかけた。
「ミア、見てくれ。新しいメニューを考えてみた。もしこれが当たって売り上げが伸びれば私の給金を増やせ」
「……いいだろう。大した期待はしていないが見せてみな」
作業の手は止めずに首だけを向けるミア。――余談だが、ミアは雇ったレティシアに自分のことを母と呼ぶように伝えたが、「自分より年上の女に母呼びを強制させるとは……いい趣味をしてるな」と言われたことで名前を呼ばせている。当然殴った。
レティシアが取り出したのは丸みを帯びた肌色の物体。ゴム質の被膜に水滴が滲んでいることから冷えていたことがわかる。そして一ヶ所だけ薄桃色の突起物が生えており、形も相まってまるでオッパ――。
「フレイヤの乳房を参考に作った
「うちの店でこんなもん出せるわけないだろうが、このアホンダラァ!!」
「なんでだー!」
ミアの手に渡ったアイスが凄まじい勢いでレティシアに叩き付けられる。哀れなことに人肌で温められていたアイスは溶けきっており、べとついたミルクがレティシアの顔を中心に降り注ぐ。青少年にとって目に毒なくらい卑猥なハイエルフが爆誕した。
「うぇぇ……気色悪い。リュー、綺麗にしてくれ……できればお前の舌で丁寧に舐めて」
「リューに変なことさせたら怒りますよ? どちらにせよ変な物を作ったのでもう怒っていますが」
流れるようにセクハラしようとしたハイエルフの頭部に、目が笑っていない黒い笑みを浮かべた街娘のお盆が振り下ろされた。
シャワーで流されていくミルクは少し赤かった。
♦♦♦
「し、死ぬ……死んでしまう」
あの後、店を色んな意味で危険にさらそうとしたレティシアには通常の三倍もの仕事が追加された。『恩恵』を持っていないシルを除き、『豊饒の女主人』の従業員の中で彼女の【ステイタス】は一番低い。故にへばるのも早かった。
「大丈夫なの? レティシアお義母さん」
「これが無事に見えるなら眼球をくりぬくぞ」
カウンターで(見てくれは)美少女に酌をされながら呑気に酒と料理を楽しんでいた
くそっ、前に突っ込むしか能のない都市最強派閥の根幹を築いた筋肉ドワーフめ……心の中で愚痴を溢していると、突如として十数人規模の団体客が入ってきた。深い理知を感じさせる
レティシアも例外ではない。彼女の思考は「仕事が増えるだろうが殲滅するぞボケナスがぁ!」や「そういえば奇跡的にリヴェリアとは顔を合わせてないな」といったものでいっぱいだった。つまり殺意でいっぱいだった。真っ赤になってカウンターに突っ伏しているベルには目もやらない。
「今日は宴や! 皆好きに飲めぇ!!」
彼等彼女等の主神であるロキの音頭で宴が始まった。同時にウェイトレス達の地獄も始まった。馬鹿みたいに武器を壊しまくって鍛冶師の間で恐れられているアマゾネスは、馬鹿みたいな食欲でも飲食店に恐れられていた。今も「ここからここのメニューを全部五人前持ってきて!」などとふざけた注文をしている。
あのアマゾネスが食べた物が全て肛門から垂れ流されているのはお馬鹿な言動と可哀想な胸を見れば明白だ。栄養を摂取できているならば、明らかに栄養が不足している胸部と脳に行くだろう。つまり彼女に食事を与えるのは底の抜けた瓶で水を掬うようなものである。食材への冒涜と言ってもいい。もう殺した方がよくね? 凄まじい言いがかりで理論武装したレティシアの頭部に拳骨が落とされた。どうやら殺意が漏れかけていたらしい。
「飲み比べで勝負やー! ちなみに勝ったらリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利があるでぇ!」
何っ!? とレティシアは顔を上げる。彼女は酒が好きだ。昨晩もフレイヤへの報復として彼女の神室に
作業の手を止めたレティシアはミアに耳打ちする。
「ミア、あの飲み比べに参加してくる。有象無象の前で性感帯を刺激されて快感に喘いで恥じらうリヴェリアを見たいし、リヴェリアの『おっぱいアイス』を販売すれば馬鹿売れ間違いなしだぞ」
返答は無言のアッパーと生ゴミの詰まった
♦♦♦
「ベルさん!?」
戻って来たら息子が食い逃げをしていたらどんな反応をすればいいのだろうか? 店の入り口から飛び出していった後ろ姿に対する感想はそれだけだった。
ベルが悪意を持って食い逃げをしたとは思っていない。店に戻る際に聞こえていた品性のない笑い声や会話から経緯は察している。もし死んでいたらモンペと一緒にオラリオを血の海か火の海にしていたが、息子が笑い種にされた程度ではレティシアは怒らない。自分と関係ないからだ。
問題なのは子供の責任を取るのは親の義務なわけであって……。
「あの坊主が踏み倒した代金分、働きな」
残業が確定した。ベルの未払い金の内、半分はミアが勝手に提供した酒の類のはずだが、この暴君に正論は通じない。下手なぼったくり店より質が悪い。
抜けたシルの代わりに給仕に入りな、という声を浴びながら
――そんな安易な考えで気配を消して出動したのが間違いだった。
第一級冒険者、それも嫌われ者の【
そう――床に押さえつけられているベートの股ぐらに。
ダンッ!! と床を強く踏む音が響く。ぱきゅんっ……と何かを潰しちゃった感触がレティシアの足裏に伝わる。迷宮都市を震わせる断末魔が轟き、男達の股がきゅっとしまった。
更に悲劇は続く。結局バランスを崩したレティシアは咄嗟に受け身を取った。顔をぶつけないように、先に膝と手を地面に着いたのだ――膝はベートの鳩尾に、アッツアツの肉と鉄板を装備した手はベートの顔に。
もう間に合わない。レティシアにできたのは叫ぶことだけだった。
「ご注文の
じゅうううっと鉄板で肉が焼ける音とくぐもった苦悶の声が響いた。
♦♦♦
しばらく静寂が続いた。誰もが突如現れたハイエルフの傾国の美貌と【
沈黙を破ったのはレティシアであった。ゆっくりと周囲を見回し、誰も助けようとしないことに小さく舌を弾く。ひとまず肉が焼ける音の聞こえなくなった鉄板をずらし、そっとベートの顔を覗き込むと――血走って真っ赤になった瞳と目が合った。即座に鉄板を押し付ける。
(チッ、殺しても死なない第一級冒険者はこの程度じゃ気絶しないか!)
レティシアの中に罪悪感は毛ほどもない。このまま復活すれば報復されるのは目に見えている。先ほど周囲を見渡したのは手の届く距離に肉壁がいないかどうかの確認だ。既にキレている女将とこれからキレる
叡智の種族らしく判断は迅速だった。冷やして治療をしたところで逆襲は避けられない。ならばいっそ仕留めてやろう、と精霊達に片っ端から与えさせた『加護』から
じゅうううううっ!! と先刻より激しく肉が焼ける音が響く。同時に横たわっていた男の身体が暴れ出した。周囲から注がれる戦慄の眼差しに取り合わず、『精霊の加護』の力で押さえ付ける。
しかし奮闘虚しく、簀巻きにされていたベートに腹筋の力だけでふるい落とされるレティシア。化物め、と罵る暇も与えないと言うかのように殺意を纏った狼の牙がすぐ傍に迫っていた。
(やられる……!)
ぎゅっと目を閉じて痛みに耐えようとしたレティシア。だが、いつまで経っても痛みが来ない。恐る恐る目を開くと、そこには驚きの光景が広がっていた。
ベートが気絶していた。彼の頭には華奢で美しい足が乗っている。つまりこの足の主がLv.5を気絶させられる化物ということになり、レティシアはそれが誰かよく知っていた。
「リヴェリア……」
都市最強の魔導士、Lv.6のリヴェリア・リヨス・アールヴ。レティシアの実の姉が尻もちを着いた彼女を見下ろしていた。
注意。レティシアにベートに対する報復の意思はないです。
『精霊の加護』を沢山持っていますが、力や耐久に対する補正は薄いです。
そして『おっぱいアイス』をどこに保存していたかは想像にお任せします。誰もが思わず買ってしまうインパクトがあると思っています。