幼馴染系男オリ主投入したくらいでぼっちちゃんがまともになるわけないです(厚い信頼)
俺には幼稚園以前からの幼馴染がいる。女の子だ。羨ましかろう。
幼馴染の名前は後藤ひとり。
ざっくり一言で言い表すならば、やべー女である。
後藤ひとりは筋金入りのコミュ障だ。……いや、コミュ障なんてちょっと可愛らしい略し方をするのが不適切なくらいに他者とのコミュニケーションに難がある。
後藤ひとりは他人の目を見て話せない。というか、目を見なくてもまともに話せない。したがってもちろん友達はいない。いるわけがない。
後藤ひとりは立っていても座ってても姿勢が悪いし、基本的に挙動不審で稀に良く奇行に走る。特に奇行に関しては、中学の後半くらいからその頻度が右肩上がりになっていて末恐ろしい。
後藤ひとりのやべーところはまだまだある。挙げれば本当にキリがない。後藤ひとりのやべーところ山手線ゲームで一晩明かせると思う。まぁあいつのことそんなに詳しく知ってるの俺と後藤一家くらいだけど。
でも。
でも、そんな後藤ひとりにも、すごいところがある。
後藤ひとりは、めちゃくちゃギターが上手いんだ。
♪ ♪ ♪
「うわやば」
「えっ」
「あ、すまん。おはよう」
「あっ、おは、
朝、いつものように駅前で後藤と落ち合ったのだが、挨拶するよりも先に心の声が漏れ出てしまった。
「後藤、なんでギター背負ってんの?」
「えっ、あっ、こっ、こここれはその……」
「……あー、いや、まぁいいわ。うん、ちょっとびっくりしただけだから。ギター持ってると軽音部の女子感あるな」
「あっ、そっ、そう? えへ、えへへ……」
まぁギター以外に装備してる大量のラバーバンドと缶バッヂ盛り盛りのトートバッグ、あとわざわざジャージの前を全開にしてバンドTシャツを見せびらかしてるのがだいぶ痛々しくて引くけど。(TPOをわきまえないオールウェイズ趣味全開な痛々しい)軽音部の女子って感じだ。嘘は言ってないな、ヨシ!
さて。
後藤ひとりの生態をよく知る俺は、だいたい察していた。
おそらく後藤は、教室でクラスメイトに話しかけてもらうためにわざわざギターを担ぎ出してきたのだろうということを。
だって後藤は軽音部じゃない(というか部活に所属しているわけがない)し、後藤が家以外でギターを弾く予定なんて、絶対に、天地がひっくり返っても発生し得ない。花京院の魂を賭けられる。
したがって、後藤の魂胆として考え得るのは、これ見よがしにギターを持っていくことで「えーっ!? もしかして後藤さんギター弾けるの!? すごいすごーい!」「後藤さんギター弾けるなんて意外! かっこいい!」「後藤さんどんな音楽聞くの? 今度一緒にフェス行かない?」とかなんとか教室で誰かに話しかけてもらい、あわよくば友達になってもらおうというくらいであろう。
なるほど完璧な作戦――じゃない。全然。まったく。
まぁ、後藤がいきなりギターを背負っていったらそれなりに目立つだろう。教室に入った瞬間に一瞬静寂が訪れるくらいには注目されると思う。それに、話しかけてくるクラスメイトも実際にいるかもしれない。具体的にどのくらいの可能性があるかはわからないが、決して分の悪い賭けではないだろう。
しかし、だ。
後藤はおそらく知らないだろうが、人と人とのコミュニケーションは一方通行では成立しない。少なくとも、話しかけられたら返事をしなければいけないのだ。
後藤にそれが可能だろうか否、できるわけがない。検討の余地もない。すなわち後藤の作戦は前提からして破綻しているのである。
……もっとも、俺はそれを指摘したりはしない。そんな野暮な真似はしない。
後藤がせっかく、無い知恵絞って考えた作戦なのだ。いやたぶん実際には瞬間的な思い付きでしかないだろうしめちゃくちゃ他力本願でどう足掻いても実現可能性が限りなくゼロに近いけど、それでも今の時点でとやかく言うのは無粋でしかない。
彼女が振り絞った勇気に俺が水を差してしまえば、彼女に残るものが何も無い。人は大なり小なり失敗から学ぶ生き物なのだ。命に関わらないことであれば、いくらでも失敗すれば良いのだ。それはきっといつか、その人にとっての財産となるのだから──。
──と、ここまでが建前。
本当のところを言うと、放っておいた方がおもしろそうだから何も言わないだけだ。
趣味が悪いと罵っていただいて結構。
この、後藤ひとりという名前の残念な生き物がありのままに生きる姿を観察するのは、俺の生きがいなのだ。
それに、俺が後藤の行動に一々口出しをしたとして、この生き物はそれでどうにかなるような次元にはいないのである。
えへえへえへへとだらしなく笑う後藤を見る俺の顔は、さぞや満足げなものだったに違いない。
……そして放課後、下駄箱で出会った後藤は案の定死んだ魚の目をしていた。
大量のラバーバンドは一つ残らず外されていて、トートバッグは缶バッヂを付けていた側を身体の方に向けて隠すように肩から提げており、ジャージの前チャックは首元まで完全に閉められていて変なデザインのバンドTシャツはすっかり覆い隠されていた。
「……まぁ、なんだ。ドンマイ」
「…………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
まぁ、残念でもないし当然、ってやつである。詳しい話を聞くまでもなく、後藤は負け戦に負けたのだろう。
こうやって魂が抜けたときの後藤は三歩後ろから見守ってやるのがちょうどいい。どうせ普通に話しかけても認識してもらえないし、無理やり現実に引き戻したりしたら精神が崩壊して「大きな星が点いたり消えたり……彗星かな?」とか言い出しかねない。もしくは物理的に溶けて消える。
後藤は覚束ない足取りで学校を出た。俺はそれに付いていく。
後藤はどうも駅に向かっていないようだった。
ふらふらふらふらと風に流されるように学校の周辺を歩き回り、やがて住宅地の中にある小さな公園にたどり着く。
そして、心ここにあらずといった様子のまま、後藤は空いたブランコに腰を掛けた。俺もその隣のブランコに座った。
それからというもの、一分に一回くらい後藤がため息を吐くだけの時間がしばらく流れる。
途中、くたびれた雰囲気のサラリーマンが公園にやってきて後藤が仲間意識を感じていそうな視線を送ったりしたものの、その後サラリーマンの元にはすぐに奥さんと娘さんが現れて家族仲良く手を繋いで去っていき、後藤がまた死にそうな顔になるという一幕もあった。これはなかなかおもしろかった。62点かな(配点:100点)
――とは言え、
「あーっ!! ギタァーっ!!!」
金髪で、長いサイドテールの推定女子高生が、後藤のことを指差しながら大声で叫んだ。
そして、一目散に走ってきたかと思うと、後藤の目をまっすぐ見つめて「ねぇ、それってギターだよね。弾けるの!?」と詰め寄った。
一方、後藤は完全に固まっていた。いや、耳を澄ますと喉から掠れ声が出ている。まぁ後藤は他人にいきなり話しかけられてすぐさま返事ができるような生物ではない。もうしばらく応答に時間がかかるだろう。
「……? おーい」
「もうちょっと待ってあげてください。今ロード中です」
「ロード中って何!? てかきみはこの子の何!?」
「幼馴染ですね」
「そ、そうなんだ……って、あ! いきなりごめんね? あたし、下北沢高校二年の
「あっはい後藤ひとりです」
「うわ急に喋った!」
「定型文だからロードが早かったっすね。あ、俺は
「この先行く? あはは、面白い名前だね!」
「小さい頃はめちゃくちゃからかわれて嫌でしたけどね。まぁ、今は名前名乗るだけでウケ狙えるんで気に入ってますよ。ちなみに秀華高校の一年で、こっちの後藤も同じです」
「その制服、そうだよね! てか一年生ってことは高校生なったばっかじゃん!」
「まぁそう言えなくもないですね」
それでももう一か月は経ってるわけだが、二年生にしてみればそういう感想も浮かんでくるだろう。
……と、あっという間に後藤を置いてけぼりにしてしまった。ちらりと後藤の顔を見ると死んで一週間常温で放置した魚の目をしていた。つまりは腐り落ちていた。
人間同士でおこなわれるべき通常のコミュニケーションは、後藤には刺激が強すぎるコンテンツだったようだ。
「あー、すんません。なんか後藤に用があるんですよね? ギターがどうとか」
「あ、そうそうそうだよ! ギターなんだよギター!」
さすがにこの流れで後藤を放置するほど俺は鬼ではない。伊地知先輩にパスを促す形で話を本題に戻す。
「あたし、バンド組んでドラムやってるんだけどね? ひとりちゃんって、どのくらいギター弾けるのかな?」
「えっあっ、そっ……そこそこ、かと……」
ちらっと伊地知先輩が俺を見てくる。が、俺は口を挟まず、曖昧に頷くだけにしておいた。
俺は、中学の頃から後藤のギターをずっと聞いていて一切のお世辞抜きに上手いと思っているし、後藤は「guitarhero」という名義でいわゆる弾いてみた動画を動画投稿サイトにアップしているのだが、そこでの評価もかなり高いことだって知っている。
が、それでも俺は自分で楽器をやらない門外漢。今の後藤の回答は十中八九謙遜だと思うが、どこまでいっても確信が持てないのである。
まぁそれに、ここで俺が出しゃばって「いや後藤はめちゃくちゃギター上手いっす」とか言うのは違うだろう。
もしそんなこと言ったら……言ったら……あれ、なんかすっごくおもしろくなりそうだな……?
「伊地知先輩」
「ん?」
「後藤、めっちゃギター上手いっすよ」
「ちょっぉ゛!?」
「えっ、ホント!?」
ほらもうおもしろい。快い鳴き声だぞ後藤、その調子だ。
「そっかそっか、ひとりちゃんギター上手いんだぁ……!」
「あっ、ち、違、あっでも、あっ、あっ」
「実はね、ちょーっとだけ困っててね、もしひとりちゃんがよければなんだけど、ダメだったら大丈夫なんだけど、大丈夫なんだけどちょっと困っててね……?」
「あっあっあっ」
はーおもしろ。後藤、久々に俺に褒められて満更でもない気持ちとせっかく謙遜したのに秒でハードル上げられた困惑と伊地知先輩の全然大丈夫じゃなそうな大丈夫の三連撃でフリーズ寸前だわ。
非常に満たされた気持ちで後藤の様子を眺めていると、何やらもじもじと悩んでいた伊地知先輩が「……よし、思い切って言っちゃおう!」と元気に手を叩いた。
合掌である。後藤への死刑宣告かな、と思ったけど流石に違うか。
「お願い! 今日だけあたしのバンドでサポートギターやってくれないかな! これからライブなのにいきなりギターの子がやめちゃったの!」
あ、いや死刑宣告だったわ。
「えっあっ」
「ありがとう! じゃあさっそくライブハウスへGO!」
しかも即日強制執行だった。
南無三、後藤ひとり。来世でまた会おう。
♪ ♪ ♪
後藤の死刑が執行される地は、下北沢駅周辺のようだった。件のライブハウスがここにあるらしい。
俺はもちろん後藤の最期を見届けるために付いてきた。建前としては後藤の関係者、もとい保護者といったところだ。
伊地知先輩にも「せっかくだからライブ観に来てよ! 関係者ってことでタダでいいから!」と言われたので遠慮なくお邪魔するつもりである。
「ひとりちゃんと此崎くんって、下北にはよく来たり?」
「いや、完全に初めてっすね。地理も全然わかんないです」
「そっかぁ。家はこの辺じゃないの?」
「横浜の方ですね。片道二時間くらい」
「えっ遠っ!? なんでわざわざこっちに来てるの!?」
「後藤が地元を離れたかったらしくて」
「え、じゃあ此崎くんは?」
「そりゃあ後藤が受験するって言ったからですよ」
「えーっ! なになに、さっきは幼馴染とか言ってたけど、もしかして二人って〜?」
「付き合ってないです」
「えぇ〜? ホント〜? ねぇねぇひとりちゃん、此崎くんはこう言ってるけど」
「あっはい。あっいや全然付き合ってないです……」
「すっごい真顔で言うじゃん……」
俺も後藤もマジトーンすぎて伊地知先輩もさすがにマジだと理解してくれたようである。
「ま、今時男と女だから恋人、なーんて考え古いよね。うん、ごめんね?」
「いえ、俺と後藤の関係が変な感じなのが悪いんで。とりあえず、幼馴染ってことで納得しといてください」
「魔法の言葉だね、幼馴染。あっ、そう言えばもう一人のバンドメンバー、ベースやってる子なんだけど、あたしの幼馴染なんだよね。だからちょっとわかるよ。普通の友達とかとは少しだけ違って、特別な感じ」
伊地知先輩の言葉を聞いてなんとなく後藤を見ると、やたらと長くて鬱陶しそうな前髪の奥から覗くスカイブルーの瞳と目が合った。
「……ふへっ」
「…………」
──うわぁ、と声を出すのはギリギリ堪えた。我が幼馴染ながらシンプルにキモいにやけ面だった。
あと、さっきから後ろで伊地知先輩の匂い嗅いでるのも見てたからな。大方いっつも押入れに籠っているせいで防虫剤の匂いが染み付いた自分と比較していたんだろうが、先輩が俺と話してて気が付いてないからってコイツ……。
「ところでさ、此崎くんの方は楽器やってないの?」
「んにゃ、やってないっすね。飽き性なんですよ俺。後藤に教わろうとしたこともないわけじゃないんですけど」
「そうなんだ。まー楽しく弾けるようになるにはそれなりに時間かかるからね~。ねぇ、ひとりちゃんはいつからギターやってるの?」
「あひっ。あっ中一の頃から……」
「中一! じゃあもう丸三年はやってるのかな? ひとりちゃんバンドとかは組んでないの?」
「うっ、あっあっ、いやあの……く、組みたいとは思ってたんですけど、なかなかメンバーが集まらなくて……」
「うんうんわかるわかる。あたしもライブ当日にメンバーに逃げられてるくらいだからね~……」
後藤に共感してしきりに頷く伊地知先輩であるが、後藤はもちろん死にそうな顔になっていた。
なぜって後藤はバンドを組みたいと思っているだけで、バンドを組むために行動を起こしたことなど皆無だからである。強いて言うなら今日学校にバンドグッズとギターを持ち込んだのが後藤の全力だ。クソ雑魚としか言いようがない。
「……まぁでも、そのおかげでひとりちゃんのこと見つけられたわけだしね! うん、結果オーライ! なんてったってひとりちゃん、ギターめちゃ上手なんだもんね!」
「ヴッ」
後藤が心臓の辺りを鷲掴みにして前屈みになった。心不全かな? なんか俺のこと睨んでるけど、はて。
「──着いた! ここだよ〜!」
駅前の商店街を途中で曲がって高架をくぐった後、さらに曲がって入った細めの路地。
そこをもうじきを抜けようかという頃に見えてきたそこそこ大きなマンションの、地下へと続く階段の先に「STARRY」という名のライブハウスはあった。
地下に入口があるライブハウス。まさしくアングラ。別にそういうのが特別好きなわけじゃないが、ちょっとワクワクしている俺がいた。
ちなみに後藤は俺の隣でしっかり青褪めていた。青空が拝めるのはこれで最後なのだと噛み締めているのかもしれない。おもしろいね。
「それ逝け後藤」
「は、はひ!」
ちょいちょいと肘で突くと後藤は泣きながら伊地知先輩の後を追っていった。俺もその後に続く。
「おっはよーございまーす!」
ライブハウスの中に入って伊地知先輩が元気よく挨拶をすると、まばらに返事が返ってくる。
スタッフと演者がそれぞれいる感じなのかなとは思いつつ、誰も彼もバンドマンっぽい格好をしているのでいまいち区別がつかなかった。
「……私の家!」
「いやあたしの家だよ!?」
と、俺がきょろきょろしている間になぜか後藤と伊地知先輩がライブハウスの取り合いをしていた。とりあえず後藤の家じゃないことは確かだが、暗くて狭い感じが生息に適していると感じたのかもしれない。これに十分な湿気が加われば確かに後藤の飼育は可能だろう。
「え~っと、ざっくり紹介しとくね。奥にいるのが照明さんで、手前のそこにいるのがPAさん! 音響担当さんね!」
機材の陰からメイクバリバリでピアスゴリゴリの黒髪ロングでイケイケな女性が顔を覗かせた。その上ものすごくダウナーな感じで挨拶をされたから、俺はちょっとビビってしまった。後藤に至ってはぷるぷる震えながら「イキってしゅみましぇん……」と泣き出した。
「――虹夏。やっと帰ってきた」
「あっ、リョウ~!」
情緒不安定すぎる後藤を見る目が若干怪しくなっていた伊地知先輩だったが、ハウスの奥の方から現れた人物に名前を呼ばれると一転して表情を明るくした。
伊地知先輩に〝リョウ〟と呼ばれたその人物は、なんだか独特な雰囲気を漂わせていた。
まず、性別からして定かでない。というのも、声が低めでかなり落ち着いた感じだし、何よりも容姿が中性的な感じなのだ。女性としてみれば美人だし、男性としてみればイケメン、一粒で二度おいしいといった具合である。
髪型も男女どちらのものとも見て取れない感じで、青みがかった黒髪を肩より少し高い位置で切り揃えていて、まぁどちらかと言えば女性っぽいのかなぁというくらいの印象だった。
「ひとりちゃん此崎くん、紹介するね! この子がさっき言ってたバンドメンバー兼あたしの幼馴染! 山田リョウっていうんだ」
「どうも、山田です」
「あっどうも後藤です」
「此崎です。どうも」
山田先輩がピースをちょきちょきしながら挨拶をしてきたので、俺もなんとなくピースちょきちょきしながら名乗り返した。
すると、山田先輩はハッとした表情で俺のことを凝視してくる。
「……彼が、私たちのバンドのニューフェイス……!」
「いや違う違う。ギター持ってるのこっちでしょ、こっち」
間に挟まった高速ロード後藤はナチュラルに山田先輩から無視されていた。いや、無駄に早口になっていた上にいつも通りの小声で、しかも俺の後ろに半分隠れながら喋ってたらそうなるわ。山田先輩も俺も全然悪くない。
「俺はコレの付き添いです。すいませんね」
「そっか。なんか波長が合いそうな気がしたのに残念」
「……へへっ、すいませんコレがニューフェイスで……」
後藤が俺の足元に寄り添って体育座りし始めた。なんかじめじめするのでやめてほしかった。
「ひとりちゃんひとりちゃん、別にリョウはひとりちゃんのことが嫌なわけじゃないからね? あ、そうそう、リョウは変人だって言ってあげると喜ぶよ! ほらほら言ってあげて! リョウさんへんじーん! って!」
「……てれっ」
ホントに嬉しそうにしてるこの人……。
「それにねリョウ! ひとりちゃんはすっごいギター上手なんだからね!」
「ヴァ˝ッ⁉」
差し伸べられた救いの手でそのままビンタされた後藤がころんと体育座りのまま横に転がった。あーあ、また後藤が死んじゃった。伊地知先輩のせいです。
「へぇ、そうなんだ。じゃ、期待しとくよ。ライブまでまだ時間あるからスタジオ練習しとこう……あと虹夏、勝手に抜け出したの店長が怒ってたよ」
「ひぃっ、そ、そういうことは先に言ってよばかばか〜!」
伊地知先輩と山田先輩がじゃれあっているのを横目に見ながら、俺は足元で無様に転がる後藤をあらためて見下ろした。
「後藤」
俺はその場で屈んで、後藤の肩をちょんちょんと指でつつく。
すると、後藤がギギギと顔を動かして、俺のことを見上げた。
「なぁ、頑張りどころだと思うぞ、ここ」
「……此崎くんの、ばか」
無理だと言わないだけ、上出来だ。
今回のKDA
後藤ひとり 1/5/0
伊地知虹夏 2/0/2 ←Ace!
山田リョウ 1/0/1
PAさん 1/0/0
此崎衣久 0/0/4