うぉっち・ざ・ぼっち!   作:鯖ジャム

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毎回サブタイ悩んでる。
アニメを見習ってバンド曲のオマージュとかにすればよかったかな……



#12 ぼっち犬は多芸。

 

「おーいお前ら集合ー」

 

 月末の休日、自主練のためにスターリーへと集まった結束バンドの四人と俺は、練習の前に店長から集合をかけられた。

 

 いったい何の用なのか――なんてとぼける必要はないだろう。最初の最初から今日という日を待ち侘びていたし、もう三日前くらいからそわそわしていましたとも。

 

「──お待ちかね、今月の給料だぞ」

 

 そう、給料である。初めてのおちんぎんである。大事なことだから二回言っておいた。

 

 店長が手に持つは茶封筒。順番に名前を呼ばれて手渡しスタイルだ。

 友人たちの話を聞くと給料は銀行口座に振り込まれることが多い、というか飲食チェーンとかコンビニだとそれが当たり前だそうだが、俺は絶対に手渡しの方が良いと思う。だってよぉ……やっぱ現ナマってテンション上がるじゃんなぁ……?

 

「――と、まぁそれはともかく……虹夏先輩? 例のアレですが」

「うん、この前相談した通りで平気だよ」

「了解です」

 

 虹夏先輩に一度確認をしつつ、俺は、封筒の中の一万円札を半分覗かせて目を輝かせている後藤にそっと近づく。

 

「おう後藤、よかったな。正直お前が給料日まで続くかどうかかなり怪しいと思ってたが」

「あっ、こっ、此崎くん……うん、私の汗と涙の結晶……私、大切に使う……!」

「そうかそうか」

 

 うんうん、と俺は頷く。

 そして、俺は自分の給料袋から千円札を一枚取り出し、後藤にスッと差し出した。

 

「……えっ、な、なにこれ? く、くれるの?」

「ああ、やる」

「えっえっ、あっ、いやでもこの前貸した分はすぐに返してもらったし……利子って言ってジュース奢ってくれたし……な、なんで?」

「お釣り」

「……え? なんの?」

「ライブ代徴収。九千円」

「…………」

 

 後藤が固まった。こいつ、完全に忘れてたな。

 

 そもそも後藤が断腸の思いでバイトを始めたのは、結束バンドのノルマを稼ぐためである。それ以外の理由は皆無。大切に使うも何も、最初から用途は決まり切っているのだ。

 

「ま、それでも半分以上は残る……あぁいや、お前風邪で休んでたからそんなにねぇか。でも、ある程度は残るだろ」

「……はい……」

 

 俺は容赦なく後藤の手から一万円を奪い取り、逆に千円札を握らせた。まるで金で黙らせたかのようなワンシーンだがどう考えても俺は悪くない。

 

「はい此崎くん、これライブ代ね。私たちも九千円でいいのよね?」

「ああ。ほいこれお釣り。リョウ先輩もはよ下さい」

「私はあとで……」

「ダメです。あんた明日にはノルマ分すらなくなっててもおかしくないでしょうが」

「……ちっ」

 

 山田今舌打ちしたか? お?

 

 俺はリョウ先輩の手からも一万円をもぎ取り、千円札を押し付けてやった。この人は本当にもっと大切に金を使った方が良い。

 

「……九千円ってまた中途半端な額だな。四人で……いや、五人で四万五千円、ってことか?」

 

 俺たちのやり取りを眺めていた店長がぼそりと呟くと、近くにいた虹夏先輩が「ううん」と首を横に振った。

 

「全部で四万円だよ。此崎くんに一人あたり千円ずつ、四千円だけ負担してもらうことにしたんだよね~」

「そういうことっす」

 

 そもそもの話、みんなそこまで多いわけではないバイト代から出し合っているわけだし、無理に多く集めることはないだろうということで俺と虹夏先輩の意見は一致していた。

 ライブ以外にもバンド全体としてお金を使いたい部分はあるだろうが、それ以前に個人としてもバンドのために金を使う必要は出てくる。ギターの弦とか、そのへんの消耗品の購入が一番わかりやすいだろう。

 

 よって、ライブをやるために最低限必要な費用とその他経費として使うための貯金として、ひと月あたり四万円という額がはじき出されたわけだ。

 これなら一人あたり八千円というのが一番わかりやすかっただろうし、俺はそれでも全然かまわなかったのだが、虹夏先輩が難色を示したのである

 実際に出演するわけじゃないのに同じだけ出してもらうのは悪いと言って譲らず、俺も別段積極的に貢ぎたいわけでもなかったので、こういう形に落ち着いたのだった。

 ……まぁ一応、緊急でお金が足りなくなった時のために、最低限差額分は個人的に貯金しておこうと思ってるのだが。結束バンド貯金である。……健気だなぁ、俺。

 

「……ま、本音言っちゃうとホントはもっと資金欲しいんだけどね。アルバム制作とかMV撮影とか、あとはグッズも作りたいし」

「やっぱり結構かかるんですか?」

「うん……ごにょごにょ円くらいは……」

「そんなにですか!?」

 

 まぁアルバムもMVもグッズも相変わらず気が早すぎるとは思うが、要するにそういうことである。

 バンド活動と一言で言ってもライブだけやってりゃいいわけではない……いや、そういう方針を取ることもできるのだろうが、少なくとも虹夏先輩や喜多さんはあれこれやってみたいようで、そのあれこれには相応の金がかかるのだ。

 

「……ま、要望はいくらでも聞くがな。言うのはタダだし。でも、俺は一歩引いて現実的に予算とか考えるから、最初のうちは本当に聞くだけになることが多いと思うぞ」

「それはそうよね……となると、夏休みとかはみんなでバイト増やさなきゃね! みんなで海の家とかでバイトするのどうですか?」

「お、喜多ちゃんそれいいね~!」

 

 ……と、段々二人が盛り上がっていく一方、ふと後藤を見てみれば、ゴミ箱から這い出た状態で目を血走らせながら一心不乱にスマホを操作していた。いつもとは違う方向性で顔がヤバい。さすがの俺でも引くレベルの顔してるんだが。

 

 これも俺が処理しなきゃいけないのかと尻込みしていたら、横からヌッとリョウ先輩が現れて一切の躊躇なく後藤に話しかけた。

 

「ぼっち」

「ハイすいませんでもお願いします待ってくださいこのギターを担保にすればきっと借りられますからっ! 借りられますからどうか海の家だけは……ッ!! 海の家だけはッッッ!!!」

「いや曲できたから聞いてほしい」

「あっはい」

 

 そして、見事なスルーである。

 後藤の相手が面倒くさいときはこの手に限るな。正解だぜ、リョウ先輩。

 

 というか、曲って曲か。後藤の歌詞に曲が付いたってことか。

 

「早いっすね。まだ一週間経ってないですけど」

「ん、良いインスピレーションが湧いてきたから。まとめるのにちょっとかかったけど」

「えっ! リョウ先輩曲完成したんですか! 聞きたいです!」

「ナーイスリョウ! じゃあさっそくみんなで聞こう!」

 

 ――というわけで、リョウ先輩が作ってきた曲の鑑賞会(?)が始まった。

 横倒しになった空のゴミ箱の上にリョウ先輩のスマホを置き、その周りで全員膝を抱えてしゃがみ込みながら耳を傾けた。

 

「――いや良い。……あ、すんません」

「なんで謝った?」

「や、なんかもうちょい余韻に浸る空気っぽかったのにフライングして悪いなって」

「いいでしょ別に。嬉しいよ」

 

 マネージャーが一番最初に口出しちゃねぇ、なんて思ったのもあったが、リョウ先輩は微笑を浮かべながらそう言ってくれる。

 

 そして、肝心の結束バンド他三名もすぐに興奮をあらわにしていった。

 

「―──リョウ先輩すごいです! 素敵です!! すっごくかっこいいですこの曲!!!」

「わ、私もそう思います。す、すごくかっこいい……」

「うん、ホントにいいよ! これにあの歌詞が……うん、うん! ぜったい良い!!」

「……ぼっちが良い歌詞書いてくれたおかげ。褒めて遣わす。よしよし」

「えっ!? あっ、えへ、えへへ……」

 

 リョウ先輩がなんだか誤魔化すように後藤を褒めそやし、撫で回す。

 

 ……もしかしてリョウ先輩、実は結構照れてる感じか? なんて思って虹夏先輩をちらりと見てみれば、あきらかに意地悪そうな笑顔を浮かべていた。こりゃやっぱりマジで照れてるのを誤魔化してるっぽい……あざといなさすが山田あざとい。

 

「……よし! まずは一曲完成したことだし、今度ライブでやらせてもらえるようにお姉ちゃんに頼んでくるね!」

「え、そんなに急にお願いして大丈夫なんですか?」

「へーきへーき! この前のライブもこんな感じだったし! ――ね、お姉ちゃーん?」

「あ? いや出す気ないけど」

「えっ」

 

 えっ。

 

 ……話違くなーい?

 

 

     ♪ ♪ ♪

 

 

 店長曰く、「お前らには金があっても実力がない、普通はデモCDとかでの審査するところをこの前のライブは思い出作りのために出してやった、この前みたいなクオリティでしかできないなら一生仲間内でお遊びやってろ」とのこと。

 

 ……いやうん、シンプルに言い方がひでぇのよ。

 

 俺が半目でじっと見ると、店長も自覚があったのか若干目を泳がせた。

 

「……な、なんだよ」

「いや……虹夏先輩の捨て台詞、ぬいぐるみ抱いてないと寝れないってホントなのかなぁと」

「此崎、これ参考写真」

「おぉ……」

「あらかわい」

「リョウお前なんでそんなもん持ってやがる! 消せ! 今すぐ消せ!」

 

 やべぇ……ちょっとこう……ギャップで心がやられそうなんだが。というかやられてるんだが。あ、どうしようこのトキメキ……。

 

「此崎もじろじろ見んなっ!」

「はい」

 

 まぁもう目に焼き付けたんですけどね、店長さん。

 

「……ま、店長のギャップ萌えは置いとくとして」

「おいっ」

「もうちょっと言い方ありませんでした? あれはないでしょ、あれは」

「ぐっ……」

 

 虹夏先輩、めちゃくちゃ怒ってスターリーから飛び出して行っちゃったし。

 

「喜多さん、虹夏先輩の方頼んでいいか?」

「あっうん、もちろんよ! さぁリョウ先輩! 行きますよ!」

「えー」

「えーじゃありません!」

 

 露骨に面倒くさそうにしているリョウ先輩を喜多さんが無理やり押しながら、二人でスターリーを出ていく。リョウ先輩なら幼馴染パワーで虹夏先輩の逃げた先もわかりそうな気がするし、あとは喜多さんがいれば虹夏先輩のフォローも大丈夫だろう。

 

 ちなみに後藤はと言えば喜多さんたちに付いていくか俺と一緒にここに残るかを決めきれずに右往左往していた。この決断力のなさよ。

 

「後藤、待て」

「わ、わんっ!」

 

 よし。

 どうせ俺も後で虹夏先輩のところ行くつもりだし、その時一緒に連れてけばいいじゃろうて。

 

「……で、店長? 結束バンドはマジでライブやらせてもらえないんですか」

「そんなこと言ってないだろ」

「いやいや、ほぼ言ってたでしょ」

「言ってない」

 

 いや絶対言ってたって。というかそうとしか受け取れないって。

 ……まぁ肝心なのはそこじゃないからいいけど。

 

「……でもじゃあ、絶対にやらせてくれないってわけではないと?」

「まずはオーディション。一週間後の土曜にやるから、そこでの出来で判断する」

「最初からそう言ってあげなさいよツンデレお姉ちゃんさぁ……」

「あ?」

「なんでもないです」

 

 黙らせ方がヤンキーのそれなのよ。

 これでぬいぐるみ抱っこしないと寝れないとかあざとさの化身なの? アザトース様なの? アザトースってなんだったか忘れたけどたぶんあざとさを司る神様かなんかじゃなかったっけ。

 

「……てか、ぼっちちゃんはさっきから何してんの?」

「ん? あぁ……服従のポーズぅ……ですかね」

「わんっ! わんっ!」

「ほらこの通り、そうだと言ってます」

「お前らの関係ちょっと怖いよ……」

 

 店長がドン引きしつつもカウンターに置いてあるスマホを手に取り、フラッシュを焚いてパシャリと後藤の痴態を撮影した。後藤は店長に向かって腹を見せている体勢なので、さぞやいい写真になったことだろう。

 

「店長その写真下さい」

「いいから虹夏追っかけてこいよ……あとで送っといてやるから」

「わんっ!?」

 

 この会話の流れで此崎くんにも送るの!? みたいに後藤が鳴いた。

 写真を撮られること自体に驚いていないのは、俺が日頃から同じようなことをしているからだろう。慣れって怖いなぁ(他人事)。

 

「んじゃ、虹夏先輩にはオーディションのこと伝えていいんですね」

「ああ。厳しくするから覚悟しろって言っとけ」

「へいへい」

 

 はてさてどうだか……まぁ店長の方がどういうスタンスでも虹夏先輩が委縮してしまうことはないだろうし、それに釣られて結束バンドも気合が入る……かもわからない。少なくとも、だったらお遊びでいい、なんてことにはならないはずだ。

 

「……喜多さんとリョウ先輩が上手くやっててくれればいいけどな。よし、行くぞ後藤」

「わっわん!」

「お前もうそれやめろよ。恥ずかしいぞ」

「!?」

 

 後藤への梯子も外したし、準備はオーケー。

 虹夏先輩探しの旅に出るとしよう。

 

 

 

 ……とかなんとか言ってみたが、結局普通にロインで居場所を聞いた俺。

 小田急線が地下に潜った関係でできたらしい下北線路街の大きな空き地、その一角にあるキッチンカーエリアに彼女たち三人はいるようだった。

 

 しょぼくれた後藤を引き連れてスターリーから歩くこと数分、俺たちはあっさりと虹夏先輩たちに合流することができた。

 

「あ、此崎くん……なんでぼっちちゃん溶けかけてるの?」

「まだ人間に戻り切れてないんじゃないですかね」

「どゆこと?」

「後藤は犬になってたんですよ」

「ごめん、理解できる気がしないから説明してくれなくていいや……」

 

 そっか……。

 

「まぁ後藤のことはどうでもいいんですけど、ちょっと店長と話しましたよ。結論から言うと誤解です」

「誤解? どういうことかしら?」

「店長が言いたかったのは、前回みたいに審査なしで参加はさせないぞってことらしくてな。つまり、次の土曜日にオーディションやるからそれで認めさせてみろってさ」

「……なんだよもぉ〜! だったらあんな言い方しなくていいじゃん!!」

 

 虹夏先輩が地団駄を踏み始めた。まったくもってその通りだと思う。

 

「でも、そのオーディション頑張れば……ってことよね!」

「そういうことになるな。厳しくするから覚悟しろ、なんて言ってたけど」

「なに~! くそー、見てろよお姉ちゃんめ! ぎゃふんと言わせてやるんだから!」

 

 ……うむ、虹夏先輩は大丈夫そうだな。

 虹夏先輩がここでうじうじするようなタイプじゃないのはわかってた。わかってたが、こうして本当に逆境へ立ち向かおうとしている姿を見ると安心する。

 

「後藤さん、頑張りましょうね! 溶けてる場合じゃないわよ!」

「あっはい。あっ精一杯がんばりましゅ……私も、ライブしたいので」

「…………」

「おっと、何やら打って変わって物言いたげな表情を浮かべております伊地知選手。解説の山田さん、伊地知選手のあの顔は?」

「この二人が一番心配なんだけど、という顔ですね。一週間という短い期間、それが不安材料ということでしょう」

「そこ実況解説やめて!」

 

 なるほどな。解説の山田さんと伊地知選手の懸念はもっともだ。

 

 現在の結束バンドの実力は、上から順にリョウ先輩、虹夏先輩、後藤、喜多さんといった具合だろう。

 

 リョウ先輩は最初から「自分は上手い」と豪語していたが、たぶん実際上手なのだと思う。まぁベースという楽器の上手い下手って素人には正直一番わかりづらいんだが、たとえばドラムの虹夏先輩と練習している時、リョウ先輩のミスで止まるということがほとんどないのだ。

 また、CMとか映画とかで聞いたことがあるようなベースが目立つフレーズとかをいろいろ弾いて聞かせてくれるのだが、それらも基本的に淀みがない。ミスの多寡以外にどこがどう上手いとかは全然わからないのだが、間違いなく下手ではないのだと思う。

 

 リョウ先輩の引き合いに出してしまったが、虹夏先輩だって特別ミスが多いわけではない。

 厳密に言えば、より良い演奏をするためにちょっとのミスでもいちいち止めてるだけって感じだろうか。その辺の発展途上感含めて俺の印象は中くらい、そして虹夏先輩自身も「あたしの実力? まぁこれでフツーくらいじゃないかな?」と言っていた。

 

 次に……まぁちょっと順番変わって、喜多さんについて。

 喜多さんは言わずもがな初心者である。今日までほぼ毎日根気よく練習を続けているし、後藤先生曰くそれを踏まえても上達速度はなかなかのものらしいが、しかしそもそも他のメンバーとは年季が違うのだ。マイナス方向の意味で。

 こればっかりはどうしようもない。俺も勧誘の時にゆっくり上手くなっていけばいいみたいなこと言っちゃったし……。

 

 そして最後、後藤についてだが。

 後藤もまぁ、相変わらずバンドとして合わせる時がダメだ。実力は、もしかしたらリョウ先輩と同じかそれ以上のものかもしれないのに、それをまったく発揮できていない。実際に発揮できるものが実力だろ、と言われても今のところは擁護のしようがないくらいだ。

 結果的には喜多さんに毛が生えた程度……いやさすがにもうちょっと弾けてるが、とにかくペースが合わないという意味では喜多さん以上の問題児かもしれない。

 

 喜多さんが上手く弾けないからどんどん遅れて、後藤は他人と合わせられないからどんどん突っ走っていってしまう。虹夏先輩は後藤に釣られてリズムが狂い、リョウ先輩はそれを抑えようとしてなおさら全体としてのまとまりがなくなっていく……的な? 素人の意見で恐縮ですが、そんな所感でございまして。

 

「――よし。じゃあギター二人のパートはオケ流しとくから、今日から一週間は当て振りの練習がんばろう」

「「はい!」」

「こらこらこら! エアバンドじゃないんだから!」

「しっかし、実際一週間は厳しいんじゃないですか? あのオリジナル曲やりたい感じですよね」

「それは、そうかもだけど……でも、お姉ちゃんも完璧を求めてるわけじゃないと思う。全員が全員リョウ並みにできないと、なんてことはないはずだよ。へたっぴでも、頑張れば熱意は伝わるって!」

 

 うーむ……まぁそれはそうだろうが……。

 

 俺が首を捻っていると、不意にちょんちょんと肩をつつかれる。

 

「何? 喜多さ――」

「――ねぇ此崎くん」

「ンッ」

「えっ?」

「あっいやなんでもないです」

 

 き、喜多さん、いきなり顔がちけぇって……あと耳元でいきなり人の名前囁くなよ心臓が動かなくなっちゃうだろ。

 

 喜多さん、何やら内緒話をしたいらしいので、へたっぴと言われて土管に潜り始めた後藤を尻目に虹夏先輩たちから少し距離を取る。

 

「で?」

「うん、後藤さんのこと……本当はギター上手だってこと、先輩たちには秘密にしてるの?」

「あー、いや? 俺、最初に後藤はめちゃくちゃギターが上手いって言って紹介したからな。単純に後藤が今まで一回もまともに演奏できてないからまったく信じられてないだけで」

「そ、そうなの……ちょっと気になったから聞いてみちゃった」

「まぁ別に複雑な事情はないよ」

 

 ……いや、後藤が実は『guitarhero』だってことは複雑と言えば複雑ではある。

 しかし、あのレベルの演奏を後藤が後藤としてバンドで再現できない限り、明かすことには何の意味もないだろう。

 むしろ、後藤にとっては本当の実力を知られた上でそれが発揮できないことはさらなるプレッシャー、ストレスになるだろうし、他三人にも余計な不満を抱えさせることになってしまいかねない。

 

 ちょっとふざけている場合じゃなく、後藤が『guitarhero』であるということは秘密にしておいた方がいい……と、俺は漠然と考えていた。

 

「――とにかく!」

 

 後藤を土管から引き摺り出していた虹夏先輩が大きい声を上げたので、俺と喜多さんはそれとなく元の場所に戻る。

 

「熱量とか、バンドとしての成長とか! お遊びなんかじゃないんだってことが伝われば、きっとお姉ちゃんも納得させられるはず! だから、これから一週間は猛特訓、しよう!」

 

 そうして虹夏先輩が音頭を取り、ひとまずの方針は定まった。

 

 すなわち、練習あるのみ。

 単純だが、きっと間違いない堅実な方針である。

 

 

 

 ……ただ、その日の帰り道。

 後藤は、いまいち釈然としていないような表情を浮かべていた。

 

 

 





お気に入り4000件突破しました。わーい。
ただ伸び具合を見てると需要の限界は感じてる。ハーメルンだし……此崎のことTSさせたら倍くらいにならんかな……いやまぁ別に無限に伸びてほしいわけじゃないけど。

今読んでくれてる人たちのために書く、という意識に切り替えるのが健全なんでしょうね。これまでその意識がなかったわけじゃないけどそれを強くしようと思う。



――ということで次回は明後日になるかもしれません!!! だってお仕事が忙しいんだもん!!! ぬわああああああん!!!
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