虹夏ちゃんED is GOD
作詞作曲見て納得したよね。
虹夏ちゃんは自分で「歌下手」って言ってたけど実際喜多ちゃんやリョウさんEDに比べてこなれてない感じが出てた気がする。サビの高音域への繋ぎとか……俺の気のせいかもしれないけど。たださ、むしろそのぎこちなさが〝イイ〟んだよな……。
『あのバンド』も最高にかっこよかったよなぁ……
あ、原作五巻ももちろん買ったよ読んだよ。まさか読んでねぇやつ……いねぇよな?
いっけな〜い! 遅刻遅刻〜! このままじゃ約束の時間に遅れちゃ〜う!
──私、此崎衣久! どこにでもいる高校一年生の男の子!
今日は私がマネージャーやってる女子高生バンド『結束バンド』の自主練の日!
15時から下北沢のライブハウス『スターリー』でみんなの練習のお手伝いするって約束してたのに昨日の夜遅くというか今日の早朝まで動画サイトのオススメ動画無限に見てて起きたらびっくり正午過ぎだったの!
下北沢まで2時間近くかかるからもうほとんど遅刻ギリギリ!
夏休みだからって私の生活リズム、ゴミすぎ……?
と、まぁこんなクソな私だけど、それでも一応一分一秒でも早く着く努力をした雰囲気を出そうと思ってとりあえず家にあった菓子パン咥えながら駅に走ってる真っ最中! 寝起きすぎて頭ガンガンするし心拍がおかしくて死にそう!
「……おえっ」
──なーんちゃって、死にそうなんてウソウソ!
でもこれ以上パン食ったらマジで吐く。
そんなこんなで私ってば、胸の奥からこみ上げる甘くないけど酸っぱいものを抑え込みながら、駅前の居酒屋に通りかかったの!
「──ごべっ!?」
「ぎゃんっ!?」
そしたら大変!
若いお姉さんが突然居酒屋の入り口から出てきて、思いっきりぶつかっちゃった!
「いってて……あ、す、すいませんっ! 大丈夫っすか!?」
「うぁ〜せかいがまわる〜」
私もお姉さんもアスファルトの上に倒れ込んじゃって、でも私、大変なことになっちゃった!? と思って慌ててお姉さんに這い寄ったの!
「お姉さん、ホントすいません! 怪我とかないですか? どこか痛いところは……」
「あ、頭が~……」
「頭!? まさか、打ちましたか!?」
「あと肝臓……」
「肝臓!? な、内臓破裂……!?」
「──うぷっ」
「え?」
──で、直後、お姉さんは四つん這いになったまま盛大にゲロを吐き始めて。
「……ウッ」
そして、もともと若干吐き気と格闘していた俺は、その光景と沸き立つ芳醇な香りで──バッチリ貰ってしまった。
平日の昼下がり、駅前の往来での惨劇であった。
♪ ♪ ♪
「――う〜ん、せっかく飲んだ分吐いちゃったし、お詫びって言うなら一杯奢ってもらっちゃおっかな〜?」
「……正気か?」
文字通りゲロ同然のボーイミーツガールしてから三十分後、俺と酔っ払いお姉さんはとりあえず近くの公園のベンチに腰を落ち着けていた。
あれからというもの、騒ぎを聞きつけて居酒屋から出てきた店員さんにコップ一杯ずつ水を恵んでもらったり、店前にぶちまけられた二人分のアレをバケツいっぱいの水で洗い流してもらったりと散々世話になってしまい、二人して……いや主には俺が平謝りすることになった。
で、そのままはいさようならというわけにもいかないと思って、俺は酔っ払いお姉さんと共に場所を移動したのであった。
俺もお姉さんから貰うもの貰っちゃったしもう絶対自主練間に合わないしで散々な目に遭った気分だったが、それでも寝坊してお姉さんと事故ったのは10:0で俺が悪い。
ということで、何かお詫びをさせて欲しいと言ったんだけど……ねぇ?
「いやお姉さん、これ以上飲むのはやめた方が良いっすよマジで……さっき吐いたばっかりなんですから」
「いいのいいの~飲みたいの~! ねぇ~おごってくれるんれしょ~?」
「…………」
迂闊だった。
俺は甘えていたのだ。
お詫びをするなんて言いつつも、制服を着ていないとはいえ見るからに学生な俺に対して遠慮してくれるだろう、なんて都合のいい成り行きを思い描いていたのである。
しかし、どうやらこの人には全般的に遠慮という概念がないらしい。もともとそういう性格なのか、酒の力でそうなっているのかはわからんが、今もぴったり俺の横にくっついて慣れ慣れしく肩を組んできている。
すげぇ酒くせぇけど……クソっ、ちょっと満更でもない自分が情けねぇ……!
「……わ、わかりました、わかりましたよ……奢ります」
「ほんと~!? ぃやったぁ~!! よ~しじゃあじゃあ居酒屋にれっつごー!!」
居酒屋行くのか……コンビニで済ませるんじゃダメ? まぁつい数日前に給料日だったし昨日も生活費下ろしたばっかりだけどさぁ……。
――てなわけで、俺は飲んだくれお姉さんにがっちり腕を掴まれて再び駅の方面に連行される。いや、正確には、ふらふらと華麗な千鳥足を披露するお姉さんを俺が支えながら歩いてる感じだったけど。
お姉さんはどうやら当てがあるわけではない……というかなんならこの辺の人じゃないのだとか。じゃあどの辺の人なの? とは恐ろしくて聞けなかった。
しばらく適当にぶらぶら歩き回ったが、結局俺たちが入ったのはよくあるチェーンの居酒屋だった。昼時には普通の食事も提供しているような店で、俺も何度か昼時に入ったことがあった。
「――じゃあすみませんとりあえず生ふたつ~」
「じゃあ俺ウーロン茶で」
「……んぇ? きみ、飲まないの?」
「いや俺未成年……」
「あ~……まぁ、そう言わずにさ~?」
「言うとか言わないとかの問題じゃねーんですわ。すいません店員さん、俺は絶対飲まないんで」
別に遵法意識がどうこうとかではなく、ここで曖昧な返事したら追い出されると思ったからしっかりと断言しておいた。
地元をさ、酔っぱらいの年上女性と腕組んで歩くのさ、結構スリルがやべーのよ……知り合いに見られたらどう言い訳したらいいんだよマジで。ゲロ吐き合った仲でーす☆、とでも紹介しろと?
「あとなんかつまみ……えっと、だし巻きと鳥の唐揚げください。一皿ずつで」
さっき吐いたばっかりで揚げ物はどうかと思ったが、胃袋くんに聞いてみたら「自分行けます! 余裕です!」と言っている。ここの唐揚げ旨かった覚えがあるんだよな。以前来たときは唐揚げ定食を頼んだ覚えがある。
「お姉さんは? 何か食べたいものあります?」
「ん~きみが頼んだやつ勝手につまむからいいよ~」
「そっすか」
じゃあ以上で、と店員さんに告げると注文が繰り返される。生が二つのままだったが、まぁこの人ならひとりでいけるでしょ。知らんけど。
店員さんが厨房の方に戻っていくと、対面に座ったお姉さんがテーブルに肘を突いて話しかけてくる。
「で、で? きみ、未成年っていくつなの? 十九? 十八?」
「俺、大学生にでも見えます?」
「みえる~! あ、じゃあじゃあ逆に私はいくつにみえる!?」
定番のだるい質問きたな……こういうのはガチで当てに行っちゃあいけない、あからさまにお世辞と取られてもいけない、絶妙に冗談っぽいポイントを突かなくちゃあいけないんだ。進研ゼミでやったところだ。
……しかしまぁ、別にこの人に配慮する必要性はあんまり感じないかな。
「二十代後半ですかね」
「えー、フツーに当ててくるじゃん……」
「お仕事何されてるんですか? どうして平日の昼間からそんなに泥酔してられるんですかね」
「――むふっ、それ聞いちゃう? 実はね~私はバンドマンなのです! インディーズだけど結構人気あるんだよ~?」
「ほう」
バンドマン。バンドマンかよ。
……あぁ、なんか急に親近感湧いてきたな、
「楽器は何やってるんですか?」
「お? もしかして興味ある感じ? 私はねぇ、ベース弾いてるんだ~。わかる? ベース」
「ベースですか。弦が四本だったりそうじゃなかったりするやつですよね」
「解像度ひくぅ!」
だはははは! と机をバンバン叩いて笑うお姉さん。
酔っぱらい相手は笑い取るのが簡単でいいな……。
そうこう話しているうちに先ほどの店員さんが生ふたつとウーロン茶のジョッキを運んできてくれた。
飲んだくれベーシストお姉さんが目の前に置かれた生ジョッキ二つを見て「あれ?」みたいな顔をしたが、すぐに「まぁいっか!」って感じでニヘっと笑いながら両手でジョッキを持った。ニヘ顔ダブル生ジョッキ……。
「よ~し! じゃあ、きみと私の運命の出会いを祝して乾杯しよ~!」
「運命……?」
その運命、ちょっとゲロ臭くないっすかね。だいぶ嫌なんですけどそんな運命。
「は~いかんぱ~い!」
「かんぱーい」
……と、なんやかんや思いつつも乾杯には応じる。二人で三つのジョッキをぶつけるの、すっげぇ変。
お姉さんが二つのジョッキそれぞれに口を付けて鼻の下に白髭を作っている一方、俺はストローでちゅーちゅーとウーロン茶を吸って飲む……ウーロン茶、久々に飲んだけどあんま好きじゃねぇな。
なぜか居酒屋で飲むソフトドリンクって言ったらウーロン茶っていう固定観念があるんだけど、これってなんなんだろう。みんなウーロン茶好きってだけか? 緑茶とかジュースにしとけばよかった。
「……あ、そんで結局きみいくつなの? てか名前は?」
「高校一年生で、十五歳ですよ。名前は此崎衣久。あなたは?」
「ちょっといくくん……呼びづらいから『いっくん』ね。いっくんさぁ……」
うわ一瞬で往年のあだ名特定された……いやまぁ、実際『衣久くん』だと呼びづらいからそうなるのは自然なことなんだけどさ。
「あのねぇ、女性に年齢聞くのは失礼だよ? 学校で習わなかったぁ?」
「習ってませんねぇ。いや、というか年齢じゃなくて名前ですよ。名前。今んとこ仮称が飲んだくれベーシストお姉さんですよ、俺ん中で」
「あ~名前~……」
「……え、なんで止まった?」
「んー、現役男子高校生にお姉さんと呼ばれる〝良さ〟が惜しくて……」
「は、はぁ……」
大人ってわかんねぇな……。
「……まぁいっか! 私はね~、廣井きくりっていうんだ~。気軽に『きくりちゃん』って呼んでねぇ~!」
「きくりちゃんね。了解」
飲んだくれベーシストお姉さんあらため、飲んだくれベーシストきくりちゃん(推定二十代後半)ということだな。よし覚えた。
「ちなみになんですけど、きくりちゃんのバンドってこの辺で活動してるんですか?」
「んーん、新宿FOLTっていうライブハウスが拠点だよ。まぁ昨日は別のとこでライブがあったんだけどね? ライブは大成功だし打ち上げも大盛り上がりで~……気が付いたらここにいたんだよねぇ~」
「へー……」
……ツッコミ入れるのはやめとこうかな。どこでライブやってどこで打ち上げやったのか知らんけど、高確率で県またいでますよね。酔っぱらいってこえーなぁ……。
「いっくんの方こそ何やってたの? 今日平日なんでしょお? 学校サボり? いっくん不良? 不良なの?」
「夏休みですよ。今日八月四日」
「……夏休みィィィーーッッ!!」
「うわうるさ」
きくりちゃんが急に叫び出し、テーブルに突っ伏せた。
どっかの誰かさんのおかげ(?)で急な奇声には耐性がある俺だったが、ちょうど唐揚げとだし巻き持ってきた店員さんはめっちゃ引いた顔してた。酔っぱらいなんてみんなこんなもんじゃねぇのかな。もしかして新人?
「どうしたんすかきくりちゃん。ほら、唐揚げきましたよ」
「胃が揚げ物を受け付けないぃ……くぅ、夏休み、夏休みかぁ……いいなぁ学生、若いよね……若さ……若さが……」
若さを妬む妖怪かな? と哀れみの目を向けながら俺は唐揚げに箸を伸ばす。うむ、やはり美味い。
「いいかいいっくん……そうやって空きっ腹にいきなり揚げ物ぶち込んで満足そうにできることが若さなんだよ……きちんと噛み締めて食べなさいね……」
「これ俺の金ですよね。きくりちゃんこそそのビール味わって飲んで欲しいんですけど」
「味わってるもん! ──くぁーっ! 現役男子高校生に奢らせて飲むお酒おいしーっ!!!」
きくりちゃんは右手に持ったビールを一気飲みして、空になったジョッキをテーブルに叩きつけた。まぁ……正直でよろしい、ということにしておこう。
……って、そう言えば。
「やべぇ、今日もう絶対いけねぇし連絡しとかねぇと……」
「れんらくぅ~? もしかしてかのじょぉ~?」
「違いますよ……おいこっちくんなっ!」
ジョッキ片手に席を移ってきて、ニヤニヤ笑いながらスマホを覗き込もうとしてくるきくりちゃんの顔面を容赦なく押し退ける。
つーか、仮に彼女なんて待たせてたら見知らぬ酔っぱらい女と暢気に飲み食いなんてしてるもんかよ。
「なになに~? 『結束バンド』ぉ? あのまとめるやつ?」
「いや、ちが……あーもう……俺、バンドのマネージャー的なことやってるんですよ。この結束バンドってのがバンド名で、まだ一回もライブやったことない超駆け出しなんですけど……」
「ほえ~いいじゃんいいじゃん! なるほどね、だからさっき私がバンドマンだって聞いて反応したんだ」
「そういうことです」
俺はきくりちゃんと会話しつつ、結束バンドのロイングループに『今日は急遽自主練に参加できなくなった、ごめんなさい』といった連絡をした。
そもそもの話、俺は今日、自主練に行く理由が半分なかったのだ。
というのも、今日は後藤が自主練に参加しないからである。
後藤はまぁ、ちょっと……諸事情あって練習どころじゃない。いや絶対練習を優先したほうが良いと思うのだが、ちょうど今が一番微妙なタイミングで……って、細かい話は置いておこう。
とにかく、後藤がいない限りは俺がいなくても他三人が困ることはないはずなのである。
特に言い訳もなく送信したメッセージにすぐに既読が付く。そして、虹夏先輩から猫がプンプン怒ってるスタンプが送られてきた。まぁ困ることはなくてもほぼドタキャンだもんな。
「いっくんは罪な男だねぇ。その子たち、名前とアイコン的にみんな女の子でしょ? 約束破って今日初めて会ったお姉さんとお酒飲んでるんだからな~!」
「……反論できねぇのが悔しい……」
人の弱みにつけ込んできくりちゃんに付き合わせてると言えなくもないが、やっぱ大元は俺が寝坊したのが悪いからなぁ……。
文面で事情を説明するのが難しいし、変な誤解を生む恐れが高いと見て俺はごめんなさい的なスタンプを三連投しておく。あとはもう未読無視だ。詳しくはまた明日、バイトの時に弁明しよう。
明日の俺、頑張れ!
♪ ♪ ♪
ともかくそんな具合で心配事がなくなった俺は、その後二時間に渡って気兼ねなくきくりちゃんと居酒屋に滞在した。
酔っぱらいとの会話に中身なんて求めちゃいなかったが、意外と実のある話もできた。
俺の方から結束バンドについてあれこれ話してみたり、逆にきくりちゃんから駆け出しの頃の苦労話や現在の活動のことなんかをいろいろ聞かせてもらったり。
あとはまぁ、途中できくりちゃんが前の居酒屋に命よりも大切であるらしいベースを置いてきたことに気が付いて、俺の財布を担保として預けて二人で一旦取りに行ったり、なんて一幕もあった。
まぁこんな昼間からビールに日本酒、焼酎やらなんやらをちゃんぽんで飲みまくってる人間がどれほど命を大切にしているかを考えれば「命より大切なのに?」なんてツッコミをわざわざ入れるほどのことでもなかろうて。
「――いやぁ~いっくん素面なのによく私に付き合ってくれるよねぇ~。ていうか、酔っぱらいの相手手慣れてな~い?」
「そっすかねぇ。まぁ突然奇行に走る幼馴染がいるとね、きくりちゃんくらいかわいいもんすよぉ」
「えぇ? 私かわいい? んも~、いっくんてば悪い男ぉ! ガールズバンドのマネージャーのくせにそんなんじゃダメだぞっ!」
「そんな意味じゃねーですって。いやでも、きくりちゃんみたいな酔っぱらい相手するのはガチ初めてっすよぉ。案外おもしろいもんですねぇ」
「やだ、私ったらいっくんの初めて奪っちゃった……ってコト!?」
「はっはっは、きくりちゃんも罪な女っすねぇ」
あっはっは! と二人で笑う。あーたのしー。
「……っと、お? ロイン……後藤からか」
「後藤って幼馴染の子だよねぇ? なになに、いったいどうしたの?」
「んあー……『たすけてください』ですって。なんすかねぇ」
意味がわからん。何を助けろというんじゃ。
「よくわかんないなら電話してみれば~?」
「……そっすね!」
名案である。きくりちゃんは天才だな!
俺はさっそくロインで後藤とのトーク画面を開き、通話をかける。
すると、2コールほどで応答があった。
「おう後藤!」
『わ、こ、此崎くん? な、なんでそんなにテンション高いの……?』
「そんなに高くねぇよ! で、どうしたんだよ、助けてって何の話だ!」
『あっうん、えっと、その……ち、チケット……』
「あぁん? もしかして、やっぱり売れませんってか?」
『はい……すみません……』
「しゃーねぇなぁ……」
後藤が今日の自主練を休む理由。
それは、あと十日に迫ったライブのノルマチケットをまだ売り切れていないことが原因だった。
オーディションの日からすでに一か月近く経過しているのだが、後藤だけがいまだにチケットさばき切れていない。後藤パパと後藤ママの二人分だけで、ふたりちゃんとジミヘンにチケットを売りつけるのはさすがの後藤パパと後藤ママからも待ったがかかったので、残り二枚を今日までずっと大事に抱え込んでいたわけである。
逃げ道はいくらでもあったのだ。
後藤ママはママ友に声をかけようかと提案したらしいし、俺と喜多さんは自分たちのクラスで二人揃って宣伝したところ思いの外みんな食いついてきてしまって、ちょっとした抽選会を行ったくらいだった。後藤のノルマ二枚分くらい、本当になんとでもなりそうだったのである。
しかし、後藤はなぜかここで謎のプライドを発揮し、今日という今日まで試行錯誤……いや実際に行動に移しているところを見ていないので、おそらく思考錯誤していたのだった。
「ねぇねぇいっくん、もしかしてそれってさっき言ってたチケットの話~?」
「あぁ、そっすよ。後藤がチケット売れてないって話っす」
『……え? 此崎くん、誰かと一緒にいるの? スターリー……あれ? さっき急用で行けなくなったって……』
「ふむふむ、後藤ひとりちゃん、だっけ? ひとりちゃんってギターなんだよね? ……ならさ、私に良い考えあるよ?」
「本当ですかきくりちゃん!」
『え、きくりちゃん? きくりちゃんって誰? こっ、此崎くん今どこで誰と何してるの……?』
「おい後藤、お前今どこにいる?」
『えっあっ、あの、神社前のコンビニの……』
「ああ、瀬戸神社のな。んじゃあそこで待っとれ! 俺ときくりちゃんで今から向かうから!」
「ひとりちゃん待っててね~!」
『いや誰っ!? 女の人!? ちょ、ちょっと此崎く――』
ぶちっと通話を切った。声がでかいんじゃ……。
「さて、行きましょうかきくりちゃん!」
「おうよ! 行くぜいっくん! 迷える少女を導くのだぁ~!」
「よっしゃあ! すいません店員さん! 会計おなしゃ~っす!」
「は、はいただいま~……あの、そちらの男性の方、飲まれてないですよね……?」
「飲んでねぇです!」
飲んでねぇ! 断じて飲んでねぇけどなんか楽しいんだわ! きくりちゃんパワーですかねぇ!?
俺は軽い足取りでレジまで行って、ささっと会計を済ます。
俺はちまちまと料理を頼んでなんだかんだと結構食ったしきくりちゃんも次々と酒を注文しては飲み干していたが、意外と五桁には届かず諭吉でお釣りがくるくらいだった。
「二人飲みにしては結構な値段になっちゃったねぇ~」
「んあ、そうなんすか? 相場がわかんねぇ……まぁでも俺、ついこないだ給料日だったんで! こんなもん痛くも痒くもないっすよ!」
「きゃーっ! いっくん太っ腹~!」
「あ、ありがとうございましたー……」
俺ときくりちゃんは肩を組みながら居酒屋を出る。
そして一路、俺たちの救いを求める後藤の元へと向かうのだった。
後藤ぉー! 待ってろよぉー!!
Tips:此崎は死ぬほどアルコールに弱いので、アルコールの匂いが充満してる空間に長時間いるだけでちょっと酔うぞ! つまり、酒くせぇ女の吐息を至近距離で浴び続けたら……?