また予定より文字数増えちゃったから分割、したがって短め。まぁだからって次回投稿が早くなるわけでもない。ゆーても次回分2500文字くらいの進捗なんで……
駅前の居酒屋から徒歩五分の道のりをたっぷり十五分くらいかけて歩いた俺ときくりちゃんは、無事に目的地へと到着した。
「おーっす後藤! 元気してたかぁ!?」
「お~きみがひとりちゃんかぁ! ピンクのジャージかわいいねぇ!」
「あっ、あ、あぁ……あっあっ、あぁあ、ああああああ……!」
瀬戸神社という神社の前のコンビニの横、また別の琵琶島神社という神社がある人工の小島へと続く道に後藤はいた。
後藤は肩を組んで現れた俺たちを見るなりわなわなと震え出し、片手で口元を抑えながら指を差してくる。なんだそのリアクション。相変わらずおもしれー女だぜ……。
「んーと、じゃあ先に後藤の紹介しますね。このピンク芋ジャージが俺の幼馴染、下北沢スターリーで活動してる『結束バンド』のギター担当、後藤ひとりです。俺以外からは『ぼっちちゃん』って呼ばれてますんで是非ともそう呼んであげてくださいねぇ。行きますよ~さん、はい!」
「――ぼっちちゃ~ん!」
「ヨシ!」
ぼっちちゃんヨシ! きくりちゃんいいゾ~!
「……さて後藤。今度はお前に紹介しよう。こちらのくたくたワンピースにジャージ羽織った下駄履きの酔っぱらいお姉さんこそは、新宿で大人気のインディーズバンド『SICK HACK』のベース兼ボーカル、廣井きくりちゃんだ。二十代後半だ。命より大事だというベースをあっさりと居酒屋に置き忘れるその有様からいかに自分の命を軽んじているかが見て取れるな! 俺からは『きくりちゃん』って呼ばれてるから後藤もそう呼んで差し上げなさい。さぁ行くぞ! せーのっ!」
「えっあっ」
「――不合格だッ!!!」
「しゅ、しゅみませんっ!?」
「え~ん、ぼっちちゃんが『きくりちゃん』って呼んでくれないよ~」
「ほらー、きくりちゃん泣いちゃったぁ。後藤のせいです。あ~あ」
「こ、此崎くん、このお姉さんと一緒にお酒でも飲んだの? こんなの、こんなの私の知ってる此崎くんじゃない……っ!」
まったく、そんなんだからチケットノルマ残り二枚もさばけないのだよ後藤くん……。
「きくりちゃん、うちの幼馴染がごめんなぁ。でもさ、それでもきくりちゃんが嫌じゃなかったら、きくりちゃんの『いい考え』を聞かせておくれよ……」
「いっくん……」
「……えっ!? 〝いっくん〟!?」
「後藤うるさい。どうですか、きくりちゃん……いや、きくりちゃん様!」
俺は地面に片膝を突き、しなだれるように横座りしていたきくりちゃんに手を差し伸べる。
すると、きくりちゃんは目尻に浮かぶ涙の粒を指先で払った後、そっと手を重ね合わせてきた。
「わかった、わかったよいっくん。私は見返りが欲しくってぼっちちゃんを救いに来たんじゃない……バンドマンの先達として、迷える後輩を導くためにここに来たのさ……!」
「えらい! えらいぞきくりちゃん!! 頼む、後藤を救ってくれえええええええ!!」
「帰りたい……」
後藤ぉ! 今なんつったぁ!? 声小さくて聞こえねぇぞぉ!!
俺の手を借りて立ち上がったきくりちゃんが、ふぅ、と酒臭い息を吐く。
「ぼっちちゃん」
「は、はい……」
「いっくんから話は聞いたよ。ノルマのチケット、売るの苦労してるんだってね?」
「い、いっくん……あっいや、まぁあの、はい……あっあと二枚だけなんですけど……」
あと二枚だけって、まるである程度の枚数はきちんと売ったみたいな言い草するじゃないか後藤よ。実際は親に買ってもらっただけじゃないか後藤よ。
後藤がおずおずとポケットから出した茶封筒、その中から覗くのは若干よれよれになった結束バンド初ライブのチケット二枚。
きくりちゃんはそれを見て、腕を組みながらうんうんと頷いた。
「私もねぇ、バンドやり始めた頃はチケットノルマには苦しめられたよ……というかホント売れなくって自腹切ってたことの方が多かった……」
「きくりちゃん、苦労してたんすねぇ……」
きくりちゃんも友達いなかったのか? いや、いたとしても毎度毎度チケット買ってもらうのは厳しいよな。喜多さんみたいにとっかえひっかえできるくらい友達いれば別だろうけど……とっかえひっかえって言い方悪すぎるな。ごめん喜多さん。
「――ということで、ここはお姉さんが一肌脱いであげよう!」
「……えっ?」
後藤がぽかんとした表情になった次の瞬間、バッ、ときくりちゃんが羽織っていたジャージを勢いよく脱ぎ捨てた。一肌脱ぐ。有言実行だぁ。
「いいかいぼっちちゃん、今から私たち三人で、セッ――」
「セッ!?!??!?!?」
「――ションするよ! あ、路上ライブって言った方がいいかな?」
「アッハイ……」
ほー、セッション。路上ライブね。
「きくりちゃんきくりちゃん、それってつまり、集めたお客さんにチケット売るってことっすか?」
「そーゆーこと! お客さんアリでライブするのも初めてなんでしょ? 度胸試しもかねて駅前とかでやったらよくなーい?」
「きくりちゃん、今日ね、近くで花火大会あるんすよ。もうちょっと待ったらたぶんいっぱい人来ますぜ」
「おお~! 絶好の路上ライブ日和じゃーん! これはもうロックの神様がやれって言ってるね!」
「言ってる言ってる」
間違いない。俺がきくりちゃんとめぐり会ったのも、きっとロックの神様の思し召しだろう。
「あ、あの」
「おうなんだ後藤。まさかやりたくないとでも?」
「うっ、や、やりたくはない、けど……そもそもお姉さん、楽器は……?」
「え?」
「え?」
……わぁ、きくりちゃんベース持ってねぇや。
「また忘れちゃいましたねぇ」
「やっちゃったねぇ」
「えぇ……」
ほな、取りに戻りましょか。
♪ ♪ ♪
またもやぐーたら十分ほどかけて居酒屋に戻り、やっぱり置き忘れてたきくりちゃんのベースを回収した。
先ほどの店員さんが新たに増えたパーティーメンバー(後藤)を見てぎょっとしていたような気がするが……まぁなんでもいいや。
で、それから俺たちはというと、海沿いを通る金沢シーサイドラインという鉄道路線の高架下、その一角までやってきた。
きくりちゃんは駅前ででもと言っていたが、おそらくは花火大会の待ち合わせをしているであろう人がずらりと立っていたので割って入るのは断念。待ち合わせで暇を持て余している人間なんて格好の客だったと思うのだが、残念だ。
ただ、それこそ花火大会のおかげでこの高架下の道も割と人通りが多いし、なんなら俺たちが陣取ったスペースというのはステージのようになっている場所なのだ。
一応、内湾が見渡せる休憩スペース……なのか? ちょっと洒落たデザインの柵に囲まれていて、歩道から階段四段分くらい高くなっていて、石のベンチが設置されている。
とにかく路上ライブをするにはうってつけ、おあつらえ向きの場所である。
「よーし、じゃああとはアンプとかマイクとかだけど……連絡して持ってきてもらおっかな!」
「お仲間ですか?」
「そー! 今から電話する~」
きくりちゃんはジャージ(さっき一回脱ぎ捨てたけどまた着た)のポケットから画面バキバキのスマホを取り出した。ベースと命未満であろうスマホくんがどんな扱いなのかは推して知るべしである。
ぽけーっときくりちゃんが電話する姿を眺めていると、不意に後藤がくいくいとシャツの裾を引っ張ってきた。
「……ね、ねぇ此崎くん? 此崎くんはいいの……?」
「んあ? 何が?」
「だってお姉さん、
「……んー? んなこと言ってたかぁ?」
「言ってたよぉ」
俺……何すんの? 手拍子? 楽器できねぇって言ったような、言わなかったような? マネージャーやってるとは言ったはずだけども……。
きくりちゃんが電話を終えるのを待ってから俺は話しかける。
「きくりちゃん、さっきセッション三人でやるって言った?」
「言ったよ?」
「言ったかぁ」
言ったかぁ。
「俺、楽器なんもできないって言わなかったっけ?」
「言ったよ?」
「言ったかぁ」
言ったかぁ……。
「じゃあ俺、何したらいいんです? 踊る?」
「いっくんはねぇ、ボーカルやってもらおっかなって。いっくんの歌声、良さそうな気がするんだよねぇ。どう? ぼっちちゃんは。幼馴染ならいっくんの歌、聞いたことあるでしょ」
「えっあっ、えと、私は結構……上手、だと思ってます。地声の感じとは、だいぶ違うんですけど……」
「ふむふむ? じゃあもしかして期待していい感じかな?」
……ほーん、後藤ってばそんなふうに思ってたんか。
後藤のギター練習に付き合ったり、もっと気楽に後藤のギターを聴かせてもらったりする中で、俺は割とよく歌詞を口ずさんできた。
俺は音楽のことはわからん。楽器も何一つしてできる気がしない。
が、シンプルに歌は好きだ。聞くのも、歌うのも。なんなら自分の家でも一人でよく歌ってるし。
あと、中学生の頃に友人とアホみたいにカラオケ行ってた時期があった。みんななかったかな、謎ブーム。俺と友人たちの間にあったそれの一つがカラオケだったのだ。
カラオケに行くと自分の歌声を少し客観的に聴くことになるわけで、俺はそこで自分なりの歌い方を身に付けた。まぁ人様に聴かせるためというより、自分が歌いやすい方法を見つけたって感じだが。
「でも、セッションってなんか即席でやるやつじゃないんすか? 歌でどうしろと?」
「あ、それは私が一方的に合わせるってだけだからへーきへーき。ぼっちちゃんといっくんは今度のライブでやる曲をいつも通りやってくれればいいよ?」
「こ、此崎くん、歌詞覚えてる……?」
「とりあえず『ギターと孤独と蒼い惑星』と『あのバンド』はフルでいけるぞ」
ここ一ヶ月、後藤の家で簡単な合わせの練習として歌っているし、喜多さんのボーカル練習にもそこそこ付き合ったりしてるのだ。歌詞はバッチリ……の、はず。
「……まぁ最悪きくりちゃんがなんとかしてくれるだろ。ねぇきくりちゃん?」
「あっはっは、じゃあ適当に英語でぺらぺら歌っとくかー!」
「えっ、きくりちゃん英語でできんすか?」
「できるよ~!! まざー(自主規制)! さのば(自主規制)!! ほーりー(自主規制)!!! (自主規制)!!! (自主規制)!!! (自主規制)!!!!」
「おぉー」
「…………」
すげぇ、マフィアとか出てきたりスラム街が舞台だったりする洋画でよく聞くフレーズばっかりだ。きくりちゃんネイティブ~。
「……不安だ……」
「なんか言ったか?」
後藤が何かぼそっと呟いた気がしたので尋ねたが、後藤は力なく首を横に振るだけだった。
――それからしばらく後、きくりちゃんのお仲間……バンドメンバー? まぁよくわからないけどとにかく知り合いが車でやってきて、アンプ等々の機材ときくりちゃんへのお小言を残して去っていった。
後藤ときくりちゃんがそれぞれギターとベースの準備をする一方、俺はマイクとスピーカーを繋いでマイクチェックをする。うん……設定わかんねぇわ!
「きくりちゃーん、マイクのセッティング教えてくれ~」
「はいはい、私やったげるからいっくんは発声練習でもしてて~」
発声練習とな。
「あめんぼ赤いなあいうえお……かめんぼ硬いなかきくけこ?」
「かめんぼって何……?」
「知らん……」
甲羅を背負ったあめんぼかなぁ……
「あー、あっあー。んっんー。あいうえお、あいうえお……めんどくせぇな、ぶっつけ本番でもなんとかならんか?」
「こ、此崎くんがいいならいいんじゃない、かな?」
「じゃあいいわ」
「チャレンジャーだねぇいっくん、まぁ堂々と歌えば大丈夫。いっくんは……心配いらなそうだね」
はい、ときくりちゃんからマイクを渡される。
有線のマイクなんて地味に初めて握ったかもしれない。カラオケは基本ワイヤレスだし……だからなんだって話だけど。
「さーてと――みなさーん! 今からここで路上ライブしまーす! タダなんで暇なら見てってくださーい! 金沢八景のみなさーん! 今からライブやりまーす、ぜひ見てってくださーい!」
「くださーい!」
「…………」
きくりちゃんと一緒に呼び込みを始めると、まぁ大半の通行人にはスルーされたが、ぼちぼち立ち止まってくれる人もいた。
浴衣姿でいかにもお祭りに向かう途中の女性たちや子供連れの家族、体操服姿で部活帰りっぽい中学生や仕事帰りらしきサラリーマンまで、幅広い物好きたちが集まり始める。
「……おい後藤」
「…………」
「後藤」
「――あっひゃい!? あっごめ……」
「緊張しとんのか」
「だ、だって……外でギター弾くのなんて、初めてだし……お、お客さんも意外に集まってきちゃったし……」
んー……まぁ、確かに。
こんな状況で緊張するなっていう方が無茶だわなぁ。後藤なら、なおさらだ。
腹括れとか堂々としろとか言うのは簡単だが、まぁそんなこと言って解決するならとっくに後藤は後藤やってないだろう。
ただ、それでいて逃げ出したりはしない辺りは、結果的には褒められたことだと思う。結果的には。後藤のどうしようもない部分とも言える。
「まぁなんだ、いつも言ってるが別に失敗してもいいんじゃねぇか? 今日のところは俺も一緒に笑われてやれるし」
「えっ……あ、う、うん」
「おー、いっくんカッコいいこと言うじゃーん! いいねぇ青春だねぇ!」
「きくりちゃんも笑われてもおーけーっすよね?」
「おーけーおーけー! でも、笑われる心配なんてしなくて大丈夫! 私がぜーんぶまとめてフォローしちゃるから!」
「きくりちゃんもかっけぇこと言うじゃないっすかぁ」
「そう~? 照れる~」
でへへへへ、ときくりちゃんは頭を掻きながらどこからか取り出したパック酒にストローを差してちゅーちゅー吸い始めた……いやホントどっから取り出したんだろうね?
こんな有様で大丈夫なのか――と、いかにも胡乱な目で見てる後藤はそう思ってることだろう。
しかし、俺はなんとなくこの人を信用していた。理由はわからん。勘だ。
「……あ、そうだぼっちちゃん。人の目が怖いなら、いっそ目ぇ瞑って弾いてみたら?」
「お、きくりちゃんそれいいっすね。よぉし後藤、目ぇ見せな。俺が潰してやるぜ!」
「けけけけけけ結構です!!!!」
後藤は両手で目を隠し、俺から距離を取った。いや、さすがに冗談なんだが?
「ねぇぼっちちゃん」
「は、はい?」
「一応言っておくけどさ、
「……敵? 此崎くんのことですか……?」
「おい」
馬鹿野郎お前俺ほどお前の味方なやついねぇだろお前。まぁたまに後ろから刺したり撃ったりするけど。フレンドリーなファイアってだけだろうが。
「あっはは、きみたちおもしろいねぇ! ……ま、いっくんのことを敵だと思うのは別にいいけどさ、私が言いたいのはそこじゃないからね?」
「は、はぁ……」
後藤が小首を傾げるが、きくりちゃんはそれに答えることなく地べたにどっかりと腰を下ろして胡坐をかき、俺と後藤を見上げてきた。
「――さぁ、やろうか少年少女」
♪ ♪ ♪
右手には三味線を弾くためのバチを持っていて、どうやらそれで弾くらしい……あり得ないとまでは言わないけど、こんなの見たことないよ……。
曰く、人気のあるインディーズバンドでベースボーカルをやっているという彼女。
先ほどからチューニングと手ならしで弦を弾いているが、一音一音に淀みがない。少なくとも、私なんかとは違って自信に満ち溢れているように思えた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
今でも、そんなネガティブな考えがぬぐえない。
誰のせいかと言えば、九割くらいは此崎くんのせいだ。
まるで酔っぱらいみたいな異常なテンションで、本当に酔っぱらっているお姉さんと結託して私をここまで連れてきた。そして、経験どころか練習すら一切していない、予定も覚悟もしていなかったはずなのにあっさりとボーカルとして路上ライブをやることを承諾してしまうのだから、ますます私が断れない状況になってしまったわけで。
敵。
お姉さんが、敵を見誤るな、と言った。
今この状況で私の敵と言ったら、此崎くんしかいないと思う。本当に。
でも……お姉さんの言う通り、此崎くんが敵じゃないなら誰が敵なんだろう。
そもそも敵って……何?
「――えー、そんじゃみなさん、お待たせしましたぁ! 今日やる曲は、こっちのギターのやつがやってるバンド、『結束バンド』のオリジナル曲でーっす!」
「いぇーい! ぱちぱちぱちー!」
私が悩んでいる間にも、此崎くんとお姉さんがいよいよ場を盛り上げ始める……此崎くん、本当にどうしてそんなやる気満々なの?
いよいよだと思うと、なんだかキリキリと胃が痛くなってくる。手汗すごいし膝震えるし、動悸もどんどん激しく……。
……でも、お姉さんが促したことでお客さんの何人かが控えめにだけど拍手をしてくれて、そのおかげで少しだけ気が楽になる。
「じゃあ一曲目いきまーす――『あのバンド』」
此崎くんがそう言って、マイクを握ったまま私の方に振り返る。
此崎くんの目は、そんなに大層な期待をしてくれているわけじゃないけれど、でも、なんとかしろよ、なんとかできるだろ、と言ってきているような気がした。
私は口を引き結んで、目を閉じる。
視界には、慣れ親しんだ暗闇だけが映っていた。
Twitter開設してそこで進捗とかギター練習のこととか呟こうか悩んでる今日この頃。
なんなら真名解放してそのツイッターでやってもいいような気もするが……他の小説サボり散らかしてるのバレちゃうんだよな……
まぁそれはさておき。
毎度お気に入り評価感想誤字報告ここすき等々ありがとう!
今後ともよろしくなんだぜ!